『ミラクルウィッシュ』の無駄遣いをしつつ、朝の穏やかな時間は過ぎた。
昼からはさっそく明日からの冒険に向けての準備を進める。
「さも「何事もありませんでした」みたいな顔をしてるんじゃないわよ……」
などとレインが苦言を呈して来た。
あなたは首を傾げた。
何事もない穏やかな朝の一幕だったではないか。
ごく普通の、ちょっとしたバカ話をしたりする感じの。
他愛のない安からなひと時だったはずだ。
「ちょっとなにいってるかわからない」
真顔でレインにそう言われてしまった。
なにがおかしいというのだろうか。
なにもおかしいところなどなかったと思うが。
まぁ、ちょっとフィリアとえっちなことはしたが。
それだってせいぜいがBまでであって、Cまではいっていない。
あんなものただのじゃれ合いである。
「……そうなの?」
レインが
そう言えば、レインとはまだBまでしかしていない。
つまり、レインからしてみると最後までやったように見えたのか。
「まぁ、そうですね」
フィリアはなんということもなく頷く。
フィリアとはこの中では一番過激なこともしている。
なにとは言わないが、棒状の道具を使ったりとかだ。
もっと過激な行為も存在するが……。
あなたはアブノーマルな行為はいくつかの例外を除いてさほど好んでいなかった。
「あれより、すごいこと……!?」
レインは慄いた。
レインにはいずれ目くるめく官能の世界を知ってもらうとして。
今のところは冒険の下準備である。
探索者ギルドで冒険者ギルドにもらった
以前に行った冒険者登録と同じく、ほとんど無意味と言っていいようなものだ。
推薦状を出したことと、フィリアがリーダーであると宣言したことが違いだろうか。
これに何の意味があったのか、そこのところがあなたにはよく分からなかった。
「出向いて、探索者ギルドの規定に従うと宣言したことが重要なのよ。そして、それなりのネームバリューと言うやつがね」
たしかにそう言った行為に意味がないとは言わない。
だが、それがどれほどに重要なのかはあなたには分からない。
エルグランドでは、こうしたギルドの所属には厳密な規定と審査がある。
そのギルドの求める構成員に相応しい能力と実績、そしてギルドへの奉仕。
それら全てを兼ね備えてようやくギルドに所属できる。
ギルドに大きな利益を与えることで上級構成員として認められる。
この地では所属したいと言えばそれだけで済んでしまう。
代わりに恩恵は限りなく少ない。
「そう言う会員制ギルドもあるわよ。俗にフリーギルドって言うものなのよ、私たちが利用してるのは」
フリーギルドとは?
「最低限の統制を行うためのギルド、ね。冒険者ギルドなんてその最たるもので、冒険者ギルドには罰則はないわ。領主の敷く法が規則だとでも思えばいいわね」
エルグランドの冒険者ギルドもそのようなものだった。
ただ、冒険者は冒険者ギルドを利用できるが。
冒険者ギルドに属しているわけではない。
冒険者ギルドの運営層が冒険者ギルドの構成員なのだ。
つまり、冒険者ギルドの所属者とは冒険者を食い物にする連中である。
冒険者にメリットがなければ、冒険者に潰されているであろう組織だ。
そうしてみると、フリーギルドとやらはそのようなギルドなのだろう。
実態としては冒険者ギルドの運営層がギルド構成員に相当する。
所属員とされる冒険者やら探索者は、その連中に食い物にされている部外者。
しかし、メリットがあるので黙る。そう言う関係なのだろう。
「そうそう、そう言う感じね。冒険者ギルドの与えてくれる見返りは、仲間と仕事の斡旋。代わりに依頼報酬が中抜きされる。そう言う仕組みよ」
たしかに本当に最低限である。
加えて仕事の難易度もピンキリ。
すると、そもそもギルドと言う名を持つこと自体が何かの間違いのような気がする。
「それは確かに言えてるかもしれないわ。組合とか言うべきかしらね」
まぁ、エルグランドとさほど変わらない。
そう言う意味では分かりやすくて結構である。
「推薦状とフィリアをリーダーにしたのは、規約を破れば貴族の顔を潰すし、『銀牙』の名を落とすことに繋がるって言う脅しね。迷宮探索の利潤は大きいから」
冒険者ギルドよりはいくらか縛りが強いということだろうか。
会員制ギルドよりは緩いが、冒険者ギルドほどゆるくはない。
「そうね。冒険者として名が売れていれば実力の保証ができるから、迷宮探索を許可する。迷宮は危険だから、最低限のセーフティネットでもあるわね」
冒険者の命を守るための行いと言うわけだ。
本当にこちらは冒険者を大事にしているのだなとあなたは異文化に感慨深いものを感じた。
その後、あなたは迷宮の情報を集めた。
探索者ギルドで売られていた情報は全て買い。
名の売れている冒険者を相手に
「硬軟……?」
親でも見分けがつかないほどに顔の腫れ上がった男を投げ捨てながら、あなたは譲れる限りのところは譲っているとレインに答えた。
「最終的にあなたが殴って解決してる気がするんだけど」
「あら、だったらレインさん、こいつらに体を売ります? それなら穏やかに情報が手に入りますよ。あ、妊娠したら祝福は任せてくださいね!」
「そう言うことじゃなくて……いえ、まぁ、そうね……私が甘いのよね、この場合」
フィリアは欠片も動じず、あなたのやることを容認していた。
「最低です! 許せません!」
サシャは率先して相手を殴っていた。
暴力を振るう時のサシャはイキイキとしている。
獣人特有の感性があるのだろうか。
いちおう、殴る時は手加減するようには命じている。
すくなくとも相手は死んでいないので、問題ないだろう。
後遺症が残らないかどうかは知らないが。
駆け出し冒険者の少女に負ける方が悪い。
ほとんどの男性冒険者は情報の提供に見返りを求めて来た。
金が欲しいならべつに払ってもいいし、物品もものによるがよい。
だが、大抵はあなたの同行者の体を要求してきた。
もちろん頷くわけがない。
それ以外の条件を求めても、多くの場合は断って来た。
まぁ、断られるだけならいいのだ。
それはしょうがない。
あなただって人に言いたくない情報などはある。
だが、実力行使に訴えるのはダメだ。
襲われたなら返り討ちにするのは当然。
返り討ちにして生殺与奪の権を握ったら、ぜんぶ吐かせるのは当然。
あなたは慈悲に溢れた冒険者だ。
命だけは許してやる慈悲がある。
命以外は許さないとも言う。
「まぁ、粗方は回ったって感じかしらね」
レインが手にしている手帳に書き込む。
あちこちで情報収集をして。
それなりに名の売れた冒険者の名や所在を書き留めてあるのだ。
粗方の冒険者とは交渉を終えた。
手に入る情報はここらが限界だろう。
それに、いまは深い情報を得ようというわけでもない。
1か月程度を探索期間と見積もっているので。
そこまで深い階層には辿り着けないだろうし。
「もう日も暮れるし、今日はこの辺りにしておく?」
今日はなんかいろんな意味で疲れたので早く寝たい。
あなたはレインの提案に賛同し、宿に戻ろうと促した。
「あなたはべつの宿を取るんじゃないの?」
もちろんそのつもりである。
あなたはサシャを抱き寄せ、朝の続きがみたいなと促した。
「はい……」
サシャは顔を赤くしつつも、はにかんであなたの求めに応じた。
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