あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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 冒険である。

 あなたの心は冒険を前にすれば沸き立つ。

 どちらかしか選べないなら、葛藤した末に冒険を取る。

 あなたはその程度には冒険を愛していた。

 

 そうでなければ冒険者など続けてはいない。

 単純な話、女と戯れ続けたいというなら、あなたには手段がいくらでもある。

 

 あなたは高級娼婦として名が売れているし。

 客を女だけに限っても売れっ子だ。

 娼館に詰めていれば、それだけで女に困らない。

 

 そして積み上げた莫大な富が尽きることはまずない。

 娼婦を買う側に回っても、何百年と買い続けられる財産がある。

 そして、自宅にはたくさんの美女美少女のペットたち。

 

 女遊びをするのになんの不足もない。

 それでも、あなたはまだ冒険者だ。

 飽くなき探求心があなたを突き動かしている。

 あなたは骨の髄まで冒険者なのだ。

 その魂が擦り切れるまで冒険は終わらない。

 

 今日もあなたは冒険へと向かう。

 

 見知らぬモンスター。

 未踏の大地。

 未だ知るものなき財宝。

 

 古代の叡智か、異界より渡り来る異質な兵器か。

 天上とも地の獄のものとも知れぬ秘宝か。

 世界にはあなたの知らぬものがある。

 あなたの意思の及ばぬ領域がある。

 

 あなたは知りたい。

 世界の謎を。

 

 エルグランドの大地はなぜ混沌の領域なのか。

 神々の永遠の盟約とは。

 覚醒病の真実とは。

 大地を創りし神剣の由縁とは。

 

 だから旅をする。

 そこに未知があり。

 冒険があるから。

 

 この見知らぬ大地での冒険にもまた、たくさんの未知と謎がある。

 心が躍る。これだから冒険者はやめられない。

 

 

 

 ソーラス大森林。

 

 ソーラスの迷宮の表層とも言われる森林だ。

 真実を言えば、この森林自体は迷宮でもなんでもない。

 森の奥深くにあるソーラスの迷宮に辿り着くまでの天然の要害にすぎない。

 

 かつて、この大森林を切り開き、迷宮へのアクセスを容易にする試みはいくつかあったというが。

 6度に渡った大森林開拓(かいたく)事業の失敗を最後に、ソーラス大森林をソーラス大平原にしようという者はいなくなった。

 

「森自体に惑わせるような独特の魔力なんかはないみたいだけど、単純に危険なようね」

 

 あなたはうなずく。

 この森に住む固有種である、毒撒(どくま)(ちょう)なる悪辣(あくらつ)な生物がいるのだという。

 毒持つこの蝶は、この迷宮に挑む冒険者の8割がたを殺していると言う。

 

 最初に毒を喰らった時は、たいしたことがない。

 ひどい痒み程度で済む。だから油断する者が多い。

 2度目、3度目と毒を喰らうほどに症状は重篤となっていく。

 体中が腫れ上がって、息が詰まって死に至る。

 

 アレルギーと言われるものに似た症状だ。

 重篤なアレルギー症状は、喉が腫れ上がって窒息死する。

 これはあなたをして恐ろしいと感じさせられるものだ。

 窒息の対策もどうすればいいのやら。

 

 単純に毒と言うことなら。

 つまり、体を蝕み、激痛を引き起こしたり、感覚を狂わせたりする毒なら、どうにでもなる。

 あなたの強靭な肉体の解毒能力や、耐毒能力は異次元の領域にある。

 生命力を少々削る程度で済むし、その生命力も膨大。

 だが、肉体の強靭さを逆手に取って来る毒は、どうしても対策ができない。

 

 自身の肉体の強靭さの理由のひとつ。

 つまり毒を解毒したりする能力。

 それが自分自身を攻撃してくるのだ。

 

 強くなればなるほどに、アレルギーの症状も強くなる。

 どれほど強くなっても相手も同じだけ強くなってくるのだ。

 アレルギーと言うものは、高位冒険者を殺し得る極めて危険な症状の1つなのである。

 

 ただ、毒と言うことなら対毒装備で対処可能なので、その点は安心だ。

 対毒装備さえあれば恐れることはない、とも聞いているのでほっとしたものである。

 

「『解毒』の魔法もありますから心配いりませんよ」

 

 フィリアが安心させるように笑いかける。

 エルグランドの魔法には解毒の魔法が存在しない。

 厳密に言うとあるが、解毒専用のものはない。

 

 肉体を鍛え上げて解毒能力を高めるストロングな解決方法しかない。

 魔法はできるだけ使わない、と言うことにしているあなたではそれしか対策がない。

 

 しかし、この地の魔法には、解毒のほかに病気を治す魔法まであるという。

 病気予防の魔法や、毒耐性向上の魔法まであるという。

 かゆいところに手が届くとはまさにこのこと。

 

 あなたは思考が攻撃によりがちだ。

 これはエルグランドの魔法が威力ばかり追求しているせいもある。

 治癒魔法の回復力だけならエルグランドの魔法の方が強力だ。

 だからフィリアに魔法を習う発想自体がなかった。

 今度、フィリアにその手の便利な魔法を教わらなくてはいけないだろう。

 

 さておき、あなたは冒険に出発する前に、全員に向かって尋ねた。

 

 もしかしたら死ぬかもしれない。

 娼婦、あるいは男娼と最後に1発ヤっておきたいということはないか? と。

 1時間くらいで済むだろうから、それくらいを待つ時間はあると。

 金がないなら、まぁ、はじめてくらいは奢ってあげるし。

 

「ないわよ!」

 

 レインに烈火の如く怒られた。

 だが、あなたは真面目に聞いている。

 最後の最後に想うのは、大抵の場合はそう言うことなのだ。

 何回も死んだあなたが言うから間違いない。

 

 もちろん死なせるつもりはない。

 死んだとしても蘇生するつもりだ。

 だが、それでも、心残りと言うのは可能な限りなくしておいた方がいい。

 

「私はその……お姉様がいますから……」

 

「私もです」

 

 フィリアとサシャは実に嬉しいことを言ってくれる。

 べつに男娼と1発ヤッても何も言わない。

 むしろ推奨するまであるのだが。

 漏れ聞こえるペットの可愛い喘ぎ声には脳を破壊されるような強烈な威力があるのだ。

 

 そうした行為を体感した後の行為もいい。

 そんじょそこらの男娼如きとは比較にならないテクニックを持つあなたが本気でいく。

 比較対象を知らねば比較することはできない。

 だからこそ男娼と1発ヤッてもらいたい。

 男娼とヤッて、その後にあなたとヤれば。

 あなたの方がすごいとだれもが知る。

 

 しかし、あなた一筋でいる、と言うのも心理的には凄く満たされる。

 そのため、あなたは何も言わずに2人の選択を歓迎した。

 それで、レインはどうだろうか。

 

「わ、私は、身持ちが堅いのよ! 変なこと言ってないで、行くわよ!」

 

 とのことなので、あなたたちはソーラス大森林へと歩を進めた。

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