あなたはエルグランドの冒険者だ   作:朱鷺野理桜

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本作は1章から2章にかけて文字数の試行錯誤が行われていたため、1章は平均2500~3000字程度にされていましたが
2章は5000~7000文字程度に調整されています
3章から現行の15章までは5000文字を基準に調整されています
毎日更新で無理なく実現可能な文字数が5000字だったためです。ご了承ください

また、文字数の増加に伴い、1日5話更新だったものが2話更新となります
文字数的には1章の5話更新と同等程度になります
今日は2章2話まで投稿され
翌日から21時と22時に1話ずつ投稿されます


ソーラス迷宮
2-001


 巨木が数え切れないほどに立ち並んでいる。

 だが、森の中は鬱蒼とした感じはしない。

 あまりに木が高過ぎて、日が遮れていない。

 

 赤い樹皮を持つ木はまさに巨木。

 あなたが10人ほど輪にならなければ囲うこともできそうにない。

 樹高も、50メートル超の巨木がごまんと並んでいる。

 100メートル近いものすらもあちこちに散在している。

 

 自分が小人になったような、不思議な感覚になる森だ。

 地面には木から剥がれた樹皮(じゅひ)山積(さんせき)し、赤茶けた道ができている。

 時折、緑の繁茂する地点もあるが。

 森と言うには幾分か赤い。

 そんな場所がソーラス大森林だった。

 

「ジャイアントウッドね。この巨木の処理に困るのも森の開拓が困難な理由よ」

 

 それもそうだろう。

 普通の木を10本切り倒す間に、これを1本切れるかも怪しいところだ。

 切り倒したあとに製材するのもすさまじく手間がかかりそうだ。

 木材にするのではなく薪にするにしても、とんでもなく大変そう。

 その分だけ得られるものも多いだろうが……。

 危険な森の中でやるのは無謀と言える。

 

 丸ごと焼いてしまうと言うのも思いつくが。

 このジャイアントウッドは火にも強いと言う。

 極めて分厚い樹皮を持つためなかなか焼き払えない。

 しかも火の熱に反応して種を散らすのだとか。

 

 この森がジャイアントウッドだらけなのもそれに由来する。

 何度かあった山火事と、焼き払おうとして失敗した結果だ。

 こんなたくましい巨木を前にすれば、開拓失敗もしかたないだろう。

 

「見晴らしはいいけど、その分だけお互いに見つけやすい。戦闘になる可能性が高い分、迷宮に辿り着くまでの消耗も激しいわ」

 

 それは難点(なんてん)であると同時、利点でもある。

 たしかに遭遇(そうぐう)率は上がるだろうが、その分だけ準備がしやすい。

 

 人間は眼に頼った生き物だ。

 視界の利かない森で嗅覚(きゅうかく)に優れた獣と戦うのは難しい。

 難点はあるが、不利ではない。そう言う状況である。

 これが優れた野臥(のぶ)せりがいるとか。

 相手も同じく人間であるとかならまた違って来るが。

 

 ある意味でおあつらえ向きと言えばそうである。

 不利な状況で戦うことは、どうしてもあることだ。

 そうした経験は積めないが、分かりやすい戦闘の経験を、比較的に安全に積める。

 

「こういうところですから、やりやすい迷宮ではあるんですよ。私たちは正面戦闘に優れたパーティーでしたし」

 

 思い出すようにフィリアが言う。

 かつて所属していた『銀牙』のことだろう。

 フィリアも武闘派の宗派に属し、正面戦闘が得意なのだという。

 まぁ、物騒なメイスと、ごついクロスボウを背負っているのをみれば、納得と言うべきか。

 

「どれだけうまく戦闘を切り抜けるか。ソーラス大森林はそう言う迷宮ですね」

 

 さっさと終わらせて手傷を負う可能性を減らすのか。

 じっくり戦って、手傷を負ってでも消耗を減らすのか。

 パーティーの編成、それぞれの技能、性格、投入できる資金。

 さまざまな点から勘案し、戦略を決めなくてはいけない。

 

 あなたが考える限りでは、速攻をかけて突き進んだ方がいいだろう。

 このチームは攻撃寄りの編成だからだ。

 あなたが重武装して盾を持つという選択肢もあるにはあるが。

 

 ある程度は傷を負うことを甘んじて受け入れる。

 戦闘回数を最小限にし、時間を浪費せずに進む。

 幸い、このパーティーには回復魔法の使い手がいる。

 それも、一流クラスのフィリアがだ。

 

 まぁ、森を駆け抜けるのが実際にできるかと言うと、むずかしいだろうが。

 

「あっ! チョウチョです! チョウチョ!」

 

 サシャの指差す先。

 そこにはドでかい蝶が飛んでいた。

 真白い翅を持つ蝶は一見すれば美しい。

 だが、サイズが……。

 

 翅を開いた大きさは1メートルはある。

 どうやって飛んでいるのか謎なくらいに大きい。

 

 複眼と、もさっとした毛のようなものが生えた胴体。

 率直に言って、キモい。

 できれば近付いて欲しくない。

 

 あなたは虫の類は苦手ではない。

 だが、好きではなかった。

 どんなものも、大きいとキモい。

 そう言うことだ。

 

「片付けるわよ。『熱線』!」

 

 レインが杖を掲げ、放つは熱光線。

 それは蝶へと吸い込まれるように直撃する。

 

 ぼっ、と間抜けな音を立てて蝶が燃え上がる。

 ぱっ、ぱっ、と空中に火の粉が弾ける。

 眼に見えないほど小さな毒針が舞っている。

 それ燃えて火の粉が舞っている。

 

 蝶は声を発する機能を持たない。

 そのため、音もなく燃え崩れて行く。

 翅が真っ先に燃え尽き、うごうごと蠢く胴体だけが残る。

 すると、芋虫のそれに類似して見える。

 すごくキモイ。げんなりする。

 あなたはこの蝶に近接戦闘を仕掛けたくないと内心で思った。

 

「意外とあっさりね」

 

「1匹だけですからね。毒撒き蝶は5~6匹で群れることもあるので」

 

「うげぇ……それだと『火球』とかで焼き払う必要があるわね」

 

「それが一番楽なんですけどね……」

 

 でも難しいだろう。

 言葉には出さないが、フィリアの顔にはそう書いてあった。

 まぁ、実際にそれは難しいだろう。

 

 遭遇率がどの程度か知らないが。

 毎回使えるほど消費の軽い魔法でもないだろうし。

 

「1匹くらいなら私が片付けますから、集団で現れた時用に魔力は温存しておいてください」

 

「そうするわ。それ以外は……まぁ、石でも投げるわ」

 

「そうですね。手ごろなやつを山ほど拾っておいてください。大事ですよ、石。だって、タダですし」

 

 感慨深げにフィリアが言う。

 たしかに大事だ。だって、タダだし。

 あなたが石ころで戦う理由はタダだからではないが。

 かつてはそう言う理由もあったと言えばあった。

 

「私も石を拾っておこう……」

 

 サシャが周囲を見渡すが、森の中なので石は見当たらない。

 あなたは懐から取り出した石をサシャへと渡す。

 

「わぁ、ありがとうございます、ご主人さ、まっ!?」

 

 受け取ったサシャがバランスを崩して転びそうになる。

 咄嗟(とっさ)に肩を掴んで支えてやると、辛うじて持ち直した。

 

「す、すみません。この石、見た目より重くて……」

 

 ちょうど手の中に納まるサイズの石だ。

 この石はあなたが普段投げている石だ。

 拾ったものを投げてることもあるが、大体はコレ。

 

 愛用品ではあるが、べつに価値のある品ではない。

 ただ、低品位のアダマンタイト鉱石だというだけである。

 そして、投げてもひとりでに戻って来る魔法がかかっている。

 

「へぇー! 投げても戻ってくるんですか!」

 

「『帰還』の魔法がかかってるんですね。まぁ、強力かもしれませんけど……」

 

 鉱石を売って、もっといい武器を使えば?

 そんな気持ちの顔をされた。

 

 だが石ころにも結構使い道があるのだ。

 紙の中に包んで投げれば手紙を届けられる。

 雪玉に仕込んで雪合戦とかもできる。

 威力抜群、相手の頭は爆散だ。

 

「まぁ、石投げ合戦とかもあるし、分からないことはないけど……」

 

 石投げ合戦。石を投げ合う遊び。

 エルグランドでもよく遊ばれていた。

 

 と言うか、あれは死人が出ることもある危険な遊びだ。

 なので、エルグランドでしか遊ばれていないと思っていた。

 こっちの大陸も意外と命は軽いのではないか?

 あなたは訝った。

 

「ねぇ、私にもちょうどいい石とかない?」

 

 さすがにいくつも持ち歩いていない。

 サシャに貸したっきりである。

 

 あなたの遠距離戦は魔法か弓だ。

 その2つを使うまでもない相手や、咄嗟の時には石を積悪。

 そのため、弓なら貸してもいいが……。

 ロングボウしか持っていない。

 レインにはちょっと無理だろう。

 

「そうね……ロングボウだとかなり強いのが多いし……あなたのことだから、相当な強弓なんでしょ?」

 

 その通りだ。

 残念ながらサシャでも引き絞るのは難しいだろう。

 引き絞れても、弓は素人では真っすぐ飛ばすことすら難しい。

 ショートボウとロングボウでは勝手が違う。

 ロングボウにはロングボウの修練が必要なのだ。

 

「だから、クロスボウです」

 

 フィリアが突然力強く断言した。

 いきなりどうした。

 

「クロスボウはザイン様がお与えくださいました。人が作ったものじゃありません。ザイン様の恩恵なのです」

 

 フィリアはどうしたのだろう。

 突然変なことを言い出した。

 思わずレインに視線を向ける。

 すると、ああー……と言う感じのなんとも言えない顔をしていた。

 

「お姉様、クロスボウはお好きですか?」

 

 好きか嫌いかで言えば、まぁ、好きだ。

 と言うより、嫌いな武器自体がないのだが……。

 武器は武器であって、嫌いとか好きとかそう言うものではないだろう。

 

「クロスボウがお好きですか? とてもいいことですね! では、さらに好きになってもらえますよ! さ、どうぞ!」

 

 クロスボウを渡された。

 一体なんだというのだろうか。

 

「最新鋭のクロスボウですよ! 軽くて快適でしょう?」

 

 たしかに軽い。

 木材と鉄で出来ているようだが。

 見かけの印象よりも軽く感じる。

 

 職人が手をかけたことが分かる仕上がりのよさも伺える。

 まちがいなく高品質の逸品だろう。

 

「ああ、いえ、いえ、仰らないでください。お姉様なら、もっといいクロスボウに触れたこともあるのは分かっています」

 

 まぁ、それはたしかに。

 これより優れたクロスボウを手にしたことはある。

 クソほど重いが性能も優れているアダマンタイト製のクロスボウとか。

 それと比べれば、このクロスボウは高品質なだけで普通のクロスボウだ。

 

「でも、木材と鉄で作られたクロスボウが一番シンプルで、だからこそよく手に入って馴染(なじ)みます。特別な素材のクロスボウに慣れると、普通のクロスボウが扱えなくなってしまってろくなことはありません」

 

 まぁ、そう言う考え方もないではないが。

 特別なものを安定して手に入れられるように努力すべきでは?

 そう簡単にはいかないのも分かるが。

 性能を追い求めるならそうすべきではないだろうか。

 

「サイズもほどよくて、どんな身長の方でも大丈夫」

 

 たしかにほどほどのサイズである。

 威力と取り回しのよさを両立したタイプの品だ。

 大きければ威力は上がるが巨躯の持ち主でなければ扱いづらい。

 小さくすると扱い易いが、当然威力も落ちる。

 あなたの体格でも、フィリアの体格でも問題なく扱える、ほどよいサイズと言える。

 

「どうぞ、回してみてください」

 

 促されて、あなたはクレインクラインと呼ばれる部位を回した。

 これはラック・アンド・オピニオンなる機構だ。

 回転を直線に変換することができる。

 

 つまり、ハンドルを回転させて弦を引き絞れる。

 手軽にクロスボウを装填するための機構だ。

 割と高度な品なので、単なるクロスボウより高価になる。

 ともあれ、ぎこぎこと回して、ガチンと引き絞りを終える。

 歯車の具合がよく、なかなか楽に回せた。

 

「余裕の音ですね、精度が違いますよ」

 

 鼻高々と言った感じである。

 フィリアは一体どうしてしまったのだろう。

 

「え、えーと……ああ、その……フィリアは、蒼炎の誓い(ブルーフレイム・オース)の教派なのね」

 

 蒼炎の誓い(ブルーフレイム・オース)とは?

 

「ゾエラって言う聖人の故事にちなんで、武器を用いた戦いを積極的に肯定する教派よ。特徴は……まぁ、うん」

 

 クロスボウフェチの集団と言うことか。

 まぁ、宗教には色んな宗派や教派がある。

 人それぞれの主張があるのもたしかだ。

 クロスボウフェチはちょっと新しいなと思うが。

 

「どうです、お姉様。気に入っていただけましたか?」

 

 まぁ、気に入ったと言えば気に入った

 あなたはフィリアに頷いた。

 ただ、一番気に入ったのは……。

 

「なんですか?」

 

 あなたはクロスボウを横へと向け、バチンと音を立てて発射した。

 放たれたボルトは空気を引き裂いて飛翔する。

 ボルトはあなたたちの死角から迫っていた熊の眼球を貫いた。

 ぐらり、と熊の巨体が傾《かし》ぎ、地面に崩れ落ちた。

 

 一番気に入ったのは、威力である。

 

 こうした機構を用いる武器は威力が一定だが、なかなかの威力と言えよう。

 一撃で仕留められたのはあなたの技量ある。

 だが、根本の威力が不足していれば技量がいくらあってもどうしようもない。

 そう言う意味では、このクロスボウは威力も精度も十分だ。

 なかなかよい品と言えるだろう。

 

「ソーラスの大熊! こんな音も無く忍び寄ってたなんて……」

 

 レインが慄きながらもあなたが仕留めた(けもの)を言う。

 ソーラスの大熊。ひねりもなにもない直球の名だが、まぁ、そんなものだ。

 

 体重400キログラム超、身長2メートル超。

 きわめて屈強な獣であり、直接戦闘はソーラス大森林で最強。

 この森の死者の9割以上を生み出している。

 

 冒険者と言うのは大抵が強者であるが。

 駆け出し冒険者はそこらの一般人よりはマシ程度。

 そうした者らにとり、この熊は死神同然の脅威である。

 

「大きいですね……ちょっと苦戦するかも……」

 

 サシャが難しそうな顔で言う。

 あなたの魔法で召喚される熊よりも大型の種だ

 

 とは言え、そこまで劇的な差と言うわけでもない。

 サシャが戦えば問題なく勝てるだろう。

 

 ただ、それでも油断すれば大怪我を負う。

 サシャは熊に慣れていて、熊を殺傷できる攻撃力を持つにすぎない。

 迂闊(うかつ)に挑めば負けることだってありえる。

 

 加えて言えば、この熊の脅威は単純な強さではない。

 この熊は知能が高く、悪質な戦いを仕掛けてくるのだとか。

 

 弱いものから仕留めるとか。

 足だけを狙って戦うとか。

 足に重傷を負わせたら放置して他の人間を襲うとか。

 そう言った、効率的に人間を殺傷する方法に長けるのだという。

 

 今回はあなたが察知して仕留めたからよかった。

 そうでなければ1人殺されていただろう。

 

 熊の見ていた感じからすると、サシャを狙っていたようだったし。

 最も小さいので与しやすいと見たのだろう。

 実際は素手で熊を殴り倒せる強者なのだが。

 野生の獣にそこまでの看破は無理だったのだろう。

 

「危なかった……あなた、よく気付けたわね」

 

 視界の範囲内ならばモンスターの気配は分かる。

 ただ、常時把握しているわけではない。

 あなたの察知も完璧ではない。

 フィリアが長広舌(ちょうこうぜつ)を披露している間に不安だったので周囲を探知していたのだ。

 

「な、なるほど……ご迷惑をおかけしました……」

 

 フィリアが頭を下げるが、あなたはこれを笑って許した。

 あなただってウカノ様の教義について語らせれば長い。

 それと同じものだと思えば、つい熱くなるのも分かるのだ。

 

「お喋りはなしで、油断しないで進まないとね」

 

 あなたは頷く。

 しかし、この熊はどうしようか。

 

「あー、そうね……」

 

 肉は食べれないこともなさそうだが……。

 

「うーん。肉は知らないけど、一応毛皮には価値があるらしいわよ……そこまで高値はつかないようだけど」

 

「あとは、臓物のいくつかに薬品としての価値があるくらいですね。解体しますか?」

 

 あなたは少し考えてから、解体しようと提案した。

 ぶっちゃけ戦利品はいらない。

 だが、こういうことは他のモンスター相手でもある。

 

 周囲を警戒しながら、戦利品を剥ぎ取る。

 こうした行為は練習が必要だ。

 物品としての価値こそ低いが経験の価値は高い。

 そのため、レインとサシャが主体となって解体してもらうこととする。

 

「そうですね……私とお姉様がやったらすぐ終わっちゃいますし」

 

「……やるけど、やり方は教えてちょうだいよ?」

 

 レインにそう言われ、もちろんであるとあなたは頷いた。

 

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