案内された先は、町の一等地に当たる地区だった。
華やかな店が立ち並び、客層も金持ち向けの店が多い。
しかし、セリナはなんとなく『ハンターズ』とはすこし雰囲気が違う。
仲間でこそあるが、流儀が違うのだろう。
モモロウたちはとにかく硬く強く大きくと言った雰囲気の鍛え方だった。
人間を超越した強大で頑強な敵と戦うための肉体だ。
ボルボレスアスの狩人があんな感じだった。
その肉体ひとつで強大なモンスターと戦う超人たち。
魔法が誕生しなかったボルボレスアスには、そんな戦士がいた。
というか、よくよく考えてみるとだが。
モモロウたちはボルボレスアスの狩人なのでは?
考えてみると『ハンターズ』はそんな感じの集団だ。
とすると、ほぼ全員がボルボレスアスにおける一流。
あるいは超一流クラスの腕前に相当するだろうか。
大型モンスターを前に、魔法の力なくして人間はあまりにも非力。
その絶望的な差を埋めるために可能な限り鍛え抜く。
モモロウやトモは細身で少女のように可愛らしい。
だが、ああ見えてもその筋肉は鍛え抜かれている。
筋肉の上にたっぷりと脂肪が乗っているので、筋肉が目立たない。
脂肪を落として絞り込むと筋肉の隆起がよく見える。
肉体美が映えるので強くてカッコよく見えるが、持久力がガタ落ちする。
ボルボレスアスの狩人たちは、数日に渡ってモンスターを追う。
その過酷な狩猟は持久力がなくてはやっていけない。
そのために脂肪をたっぷりとつけるのだとか。
脂肪を乗せていると、怪我をした際に出血を抑える効果も期待できる。
ますますボルボレスアスの狩人のように思えて来た。
翻ってセリナだが、明らかに脂肪を削り落とした肉体だ。
そして、脂肪どころか筋肉すらも削り落としている。
明らかに鍛える余地がまだまだある。
なのに、その何歩か手前程度の肉体に留まっているのだ。
こういった鍛え方をする人間は、専門が対人な場合が多い。
モンスター相手には少しでも強くならなければいけない。
だが、人間が相手ならば、話が違ってくる。
極限まで鍛え抜いても、ほどほどに鍛えても。
人間と言う器の限界か、その差は大きくない。
技術や戦法、または武器防具の差、その日の体調。
そんなので十分に覆せる程度の差しかできないのだ。
人間と言う器に乗せられる筋肉はあまりにも少ない。
特に、セリナの美しくしなやかな肩を見ると、その鍛え方の想定が伺える。
肩の筋肉は明らかに意図的に落としている。
そのため、町娘のようになよやかな肩だ。噛みつきたい。
反面、腕の筋肉はよく鍛えあがっているのがわかる。
特に指や手はかなり鍛え込まれている気配がある。
脚の筋肉、腹筋、背筋と言った部分はしなやかに鍛えられているが、こちらも絞っている気配がある。
これは関節の可動性を重視した鍛え方だ。
筋肉を大きくし過ぎると関節の可動性を損なう。
全身運動と、慣性を利用した軽妙な戦技を持つ者に見られる鍛え方である。
やはり、対人間を専門にした技術を習得していると見るのが自然だろう。
考えてみると、足の捌き方と言う意味では何も履いていない方が都合がいい。
そして、肩の可動性を重視するならば肩は露出をしていた方が都合がいい。
肩が丸出しなこと、異様に短いスカートを履いていること。
そして、その露出を補うように靴下と変な裾をつけていること。
こうしてみると、セリナのすけべな服装にも理由があるらしいことが分かる。
それはそれとして背中が丸出しな理由が分からない。
やはり単純にすけべなだけでは?
「ついたぞ」
考察に明け暮れていると、いつの間にか目的地についていたらしい。
見れば、なんとも異国情緒あふれる店構えの店舗があった。
粘土を素焼きした屋根材が独特の形状をしており、それが特に異国風情を感じさせる。
「あら、北国風の店かしら」
「ああ。この町で最強の海の男が出資している店だ」
「へぇ……最強の……海のおと……海の男? 待って、ここ内陸よね?」
「そうだな」
では最強の海の男とはいったい。
わけのわからない存在にあなたは首を傾げた。
「入るぞ」
セリナに促され、あなたたちは入店した。
入店すると、さっそく出迎えたのは可愛らしい給仕の少女だ。
そう言うサービスをしている気配はないが、見目麗しい給仕は高級店の証である。
給仕とは顔見知りのようで、言葉少なにいつもの部屋とやらへ通された。
セリナがよく通っているとの言葉に偽りはないようだ。
背の低いテーブルに、綿がたっぷりと入った着席用の調度品。
艶めく塗装のされた食器類と、特徴的なものが多い。
エルグランドでは山岳地帯で見られる形式に似ている。
あそこは火山地帯で、温泉が湧いている。
観光地や保養地としても有名な場所だ。
こうした様式における振舞い方はよく分かっている。
あなたも保養地としてよく利用していた。
セリナが着席用の調度品。
たしかザブトンとか言うやつ。そこに正座をする。
脚を折り畳んで座る窮屈な座り方で、脚が痺れる。
あなたはあまり得意じゃない。足もげる。
脚を両側に出し、尻をぺたんとザブトンにつけるほうが楽だ。
なぜかあなたの父はその座り方をするとかわいいねと褒めてくれる。
「こういう様式は度々見てたけど、こういう感じなのね」
「私は1回来たことありますよ。お魚が美味しいんですよ、このお店」
フィリアは以前に来たことがあったらしい。
『銀牙』で活動していた頃のことだろう。
あなたはささっと着席し、レインとサシャはあなたの座り方を真似て座る。
「いっ、たたたた……! この座り方、痛いんだけど……!」
そしてすぐにレインが立ち上がった。
あなたがやっている座り方は骨盤の形状に楽さが左右される。
股関節の可動域が狭いと痛くてしんどいのだ。
女性はできる人が多いが、男性はできる人が少ない。
だが、女性でもできない人はいるし、男性でもできる人はいる。
「まぁ、楽に座れ。堅苦しい作法はない店だから気にするな」
「そうするわ……」
脚を片側に出すような形でレインが座る。
そう言えば野営の時もこうして座っていたなとあなたは思い出す。
サシャの方はあなたと同じように苦もなく座っている。
痛がっているレインを見てきょとんとしていた。
ぺたんと座り、両足の間に手を置いているサシャの姿。
それを見て、あなたは思わずかわいいねと褒めた。
「そう、ですか?」
言われたサシャはよく分からなかったらしく、首を傾げていた。
余計にかわいいではないか。溜らぬ可愛さで誘うものだ。
滾るじゃあないか。あなたは拳を握り締めてサシャの可愛さに打ち震えた。
「適当におすすめを持って来てくれ。酒も適当に頼む」
セリナが給仕の少女にそのように伝える。
給仕は予期していた答えだったのか頷いて立ち去った。
「さて……改めて礼を言わせてもらおう。あのイカれ獣耳女の手足を治してくれたことをな」
それに関しては純粋な取引の結果だ。
そのため、礼は不要とあなたは答えた。
「私はそれを行った理由について礼を述べたわけではない。それを実現してくれたことに対して礼を言っている」
そう言うことであれば、受け取るべき礼なのだろう。
礼に関しては素直に受け取ることとした。
「私がすべき筋ではないだろうが、私にできる範囲のことなら力になろう。これでもこの町ではそれなりに名の知れている身なのでな」
今晩ベッドの中でお礼を……。
と言っても無理そうなので、いま求めていた事柄を述べた。
つまり、サシャの剣の調達である。
腕のいい職人の紹介か、あるいはいい店の紹介。
腕のいい職人はまともな職人であることも追加条件だろうか。
「職人か。その、まともと言うのはどういうことだ?」
剣に媚薬を仕込んでいたり。
強烈な呪いをかけていたり。
地獄のようなエンチャントをつけていたり。
変な売り渋りをするめんどくさいのとか。
俺の剣は魂が籠ってるとか。
ハンパな剣士に使わせたくねぇとか。
そんなことを言って売り渋るやつだ。
ただの値段のつり上げならいいのだが。
なんか変なこだわりで言うやつもいる。
どうにせよ、非常にめんどくさいのでちょっと遠慮したい。
「ふむ。なら、紹介はしてやろう。だが、相手をしてくれるかはおまえ次第だな。腕のいい職人は忙しいものだ」
謝礼を弾めということだろう。
あなたは問題ないと頷いた。
莫大な金貨で支払うなら容易いことだ。
貴重な品々の調達ならささっと済ませればいいだけ。
「この町には以前、カイルと言う冒険者がいてな。腕のいい
治療士とは。
聞く限りだと医者のように聞こえるのだが。
あなたはその辺りの疑問を口にする。
「ああ。薬の扱い方に秀で、またその調合を得意とし、物理的な手段での治療技術を持つ者たちだ。アイテム使いと言ったところか」
「迷宮型の……俗に、リメインズウォーカーとか呼ばれるタイプの冒険者の方なんですね」
「迷宮歩きというやつだな。それだ。迷宮は
あなたはなるほどと頷いた。
こちらの迷宮はある程度環境が固定されている。
出現するモンスターやトラップ、気温や地形なども想定の範囲内となる。
であるから、それらの環境に対する最適解を道具類を駆使して導出する。
エルグランドではまずみられないタイプの冒険者と言えるだろう。
そう言った道具類の細やかな使い方と言うのはあなたにとって興味深いものだ。
「カイルは本業は治療士だが、種々様々なサポートも得意としていた。武器の制作もできる。こいつもカイルが作ったものだ」
そう言ってセリナが傍らに立てかけている剣を指差す。
先ほどからセリナが腰からぶら下げていた剣である。
「作ってもらって以来、たまに整備に出したくらいで問題なく使えている。たぶん、この町で一番腕のいい職人はあいつだ」
ということは、そのカイルを紹介してくれるのだろうか?
「いや、カイルは今はいなくてな。そのカイルの師匠がこの町にいるんで、そいつを紹介する」
ということはさらに腕がいいだろうという想定が立つ。
あなたはその人をぜひ紹介して欲しいと答えた。
「うん、では紹介しよう。ちなみにそいつはこの店にも少し携わっていてな。いくつかのメニューはそいつがレシピを提供したものだし、そいつが制作した道具類がなければ作れん料理もある」
随分とマルチな働きをしている職人らしい。
冷えた酒を飲ませてくれるオドイの店と言い、この町には変わった店が多い。
それらはそのカイルが属しているという流派の恩恵なのだろうか。
「カイルさんと言う方は以前に聞いたことがありますね。たしか、特級冒険者と呼ばれている……」
「よく知ってるな。ソーラスの迷宮は四層に到達したものを上級冒険者と呼ぶが、そのうち、単独でも到達可能な連中をそう呼ぶ」
「よ、四層に単独で!? 私たちは5人でも二層に行くので精一杯だったのに……」
「うん? おまえはソーラスに以前に挑んだことがあったのか? モモの手紙には初挑戦みたいなことが書いてあったが……」
「あ、はい。私は以前は『銀牙』という冒険者チームに所属していて、そちらのチームで挑戦したことがありまして……」
「知らん名だな。まぁ、迷宮歩きどもしかよく知らんだけだが……」
「あはは……まぁ、今は解散してますので……」
「そうか」
解散したというか、まぁ、なんと言うか……。
あなたがフィリアを除いて瞬殺してしまったので……。
自然消滅したというか、滅ぼされたというか。
まぁ、そんなこと口に出すつもりもない。
あなたは水差しからコップに水を注いで水を飲んだ。
よく冷えていて、しかも澄んだうまい水だ。
なにやら果実が絞ってあるらしい。
爽やかな香りがして実にうまい。もう1杯いこう。
「カイルさんは史上最年少でこの町の上級冒険者になったとお聞きしてます。そのお師匠様なら凄い方ですよね、きっと」
「ああ。カイルにできることなら自分にもできると豪語してたからな。いや、1つだけ出来んと言っていたか」
「と言いますと?」
「女装だけはできんそうだ。まぁ、女に女装はできんからな」
「あははは、なるほど」
なんとカイルと言う人物の師匠は女らしい。
仕事を依頼するついでにぜひとも仲良くなりたいところだ。
ところで、その師匠はなんという名前なのだろうか?
「ああ、そいつはカイラと言う。黒髪に黒目の女で、年のころは16とか17くらいに見えるが……まぁ、見た目だけだろうな」
あなたは水を吐いた。
あなたは濡れた。
「どうした?」
なんでもないと咳き込みつつもあなたは答えた。
なんでここで繋がってしまうのか。
あなたは頭を抱えたくなった。
「お、来たか」
なにが? と言う疑問は、部屋に給仕が入って来たことで理解した。
注文の品が来たらしい。なかなか期待させてくれるが……。
この店の調理をしている者は女性だろうか?
「妙なことを聞くな……女だが、それがどうした? 腕は確かだぞ」
であれば、食さねばなるまい。
やはり、料理人をナンパするには食べることが大事だ。
料理人にとって、料理とは口説き文句のウィークポイント。
料理のこだわりポイントを見抜けたら、ナンパは勝ったようなものだ。
そこに気付いているとさりげなく伝えれば大体堕とせる。
あなたは心を引き締めて料理に取り掛かることにした。
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