I am the perfect and ultimate XX   作:生物産業

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第10話 ブチ殺すぞ

「失礼しまーす」

 

 間延びした口調で、職員室に入室する。自分を呼びつけた人物がいないことに、若干の苛立ちを覚える。

 

「……あのアラサー」

「どうかしたかしら?」

 

 横から声を掛けられた。

 茶柱のようなスーツ姿とは違い、ビジネスカジュアルで、ブラウスに、ふわりとしたスカートを履いた女性。

 茶柱が堀北のようなきつめの美人と表現するのであれば、彼女は桔梗のような愛嬌のある美人と言ったところだろう。 

 

「チャバティいます? 呼び出し食らったんですけど?」

「サエちゃん? 確か学年主任の先生と話しているから、もうちょっとで戻ると思うわ。どうせ、また生徒指導室でしょうから先に案内してあげる~。机にメモを残せば分かるでしょ」

 

 教師にあるまじき軽さであるが、それも一つの個性。正しき教師像など求めていない福助は、特に気にすることなく彼女の後を追った。

 

「あ、私はBクラスの担任、星之宮知恵。よろしくね」

「帆波の担任ですか。頭わる――いえ、おおらかで優しそうで良いですね。自分は福田福助です」

「今、頭悪そうって思った!?」

「サエちゃん呼びでしたが、チャバティと仲が良い感じですか?」

「スルー!?」

 

 生徒になめられるというのは、教師として問題だが、基本的にほぼすべての教師をなめている福助であれば誰であっても大差はない。

 

「……サエちゃんとは、高校からの親友よ」

「へぇ~あの人、友達いたんだ」

「君、なかなか厳しいこと言うね♪」

「あんな偉そうな人そうそういませんよ。俺が言えたことではないですけど」

「あはは、さすが海外企業の社長ともなると口がなめらかね」

「あーやっぱり、教師陣は共有している情報で?」

「もちろん。入試の面接で、『エリート学校のエリート教育がどんなもんか、興味があるんで入学してあげます』なんて言ってのける生徒の経歴は普通に調べられるでしょ。それに普通に神童として有名じゃない、貴方」

 

 楽しそうに笑う星之宮。しかし、ただ笑っているだけでなく、福助をじっくり観察している。

 福田福助という存在が、自分のクラスにとって脅威となるのか、それを量っているようだ。

 

「生徒にはあんまり知られてないくらいの知名度ですけど」

「まあ、若い子はあまり気にしないかもしれないわね」

「エリート志向なのに、海外に目を向けないとか、視野せまとか思っちゃう素直な子」

「確かにね。でもそれは日本が世界に誇れる価値があると信じている証拠かもしれないわ」

「さすが教師、良いことをいう。頭軽そうとか思ってすみませんでした」

「さっきと違くない!?」

 

 素直に頭を下げる福助に、若干キレ気味な星之宮。

 そうやって、二人で雑談していると、生徒指導室に茶柱がやってきた。

 

「すまない、遅れてしまった。それと星之宮、うちの生徒の相手をしてくれてありがとう。もう戻って良いぞ」

「今のやり取りで、友達がいないだろうなと思ってしまう正直な俺」

「そうなの、サエちゃん昔から、こんな感じなの」

「うちのクラスにも似たような生徒がいます。なるほど、こうなるわけですね」

「言うね~♪ 私は、君が気に入りました!」

「あ、年上はのーせんきゅーです」

「む~!」

「年齢を考え――いや、チャバティが睨んでいるんで、お引き取りを」

 

 背中を押され、強引に部屋から出される星之宮。

 

「教師をバカにするのは感心せんな」

「教師の仕事を馬鹿にしている人に言われたくないセリフですね」

「耳の痛い話だ」

「お年ですか?」

「ブチ殺すぞ」

「教師とは思えない発言」

 

 お互いにジャブを繰り出す。会話が生徒と教師のものではない。

 

「それで、呼び出しの内容は?」

「……お前はDクラスをどう思う?」

「バカ」

「端的だな」

「俺がいなければ、いや、綾小路が居るか。おそらく、俺らが居なかったら、悲惨な3年間を過ごすことになるでしょうね」

「ふん、だろうな」

 

 担任教師とは思えないセリフに、さすがの福助も顔を引きつらせる。

 

「前に綾小路も呼び出していたことを考えると、どうにかしろって話ですか?」

「私からはそう言うことはない。ただ堀北のようにAクラスを目指す人間がいるから、クラスメイトとして助けてやれというアドバイスだ」

「他力本願極まれり」

「生徒の自主性を尊重するのが私の教育方針だ」

「働けクソ教師」

 

 こんな大人ばっかりだから、ダメなんだと福助が嘆く。

 

「福田、お前はどうするつもりだ?」

「別にどうとも。頼まれれば、協力はしますよ」

「……お前の目的は?」

「え、何か疑われるようなことありました?」

「いや、これは単に私の興味本位だ。本来、お前はこの学校に入学する必要のない人間だ」

 

 実績という確かなものを既に持っている。新たにこの学校で得られるものなど、特にはないだろうと茶柱は続けた。

 

「面接のときに言いましたが、この学校、というより日本の教育の現状を見てみたいというだけですよ」

「まさか本当にそんな理由で入学してくるとはな」

「技術でもアメリカや中国に後塵を拝するようになった。誇れるのは安心安全という日本らしさのみ」

「物足りないということか?」

「当然です。日本の優秀さは現状程度であるはずがない。世界一と称されていた時代は終わりましたが、日本の技術はまだまだこれからなんですよ。そのためには、日本のくだらない利権や法律なんか変えてしまえるような人材が出てきて欲しい」

「お前がやろうとは思わないのか?」

「俺は技術屋で、それを生きがいにしてますからね。くだらないしがらみで、何度企画がお蔵入りになったことか……」

 

 あんなことやこんなことが、規制されていなければ出来ていたのにと、悔しがる福助に茶柱が、冷静に事実を告げた。

 

「お前の会社はアメリカにあるだろ。規制したのはアメリカの法だ」

 

 どの国でも規制されるようなものを作ろうした福助が悪いのだ。

 

「それでも、突き抜けたアホみたいな奴を生み出しやすくなると思う。平均値より最大値を上げて欲しい」

「お前のような人間がぽんぽん生まれるような世界は怖いがな」

「なんて酷いことをいう教師」

 

 教員資格返上しろと、小さく愚痴る。

 

「あ、そうだチャバティ。話は変わるんだけど」

「なんだ?」

「この学校って売買って禁止されてる?」

「買い物なら、敷地内で手に入るだろう? わざわざ他人を経由する必要はないはずだが?」

 

 福助の意図が分からず、眉をひそめる茶柱。

 

「そうじゃなくて、自作のもの。例えば、服とか小物とか」

「個人間でのポイントの移動は可能だ。余程のことがない限り、学校側が介入することはない」

「了解」

「課金アプリか?」

「さすがは教師、生徒のことを理解している♪」

「……限度はあるぞ?」

 

 予想される未来を考え、釘をさす。個人で稼ぎようのないポイントを獲得することを危惧しているようだ。

 

「2年の先輩に勝負を吹っ掛けた時に、小話程度に聞いたんだけど、学年を掌握している人がいるらしいじゃん。それが許されるなら、俺の技術で作った俺の努力の証が認めれるのは問題ないよね?」

「……確認しておく」

「え~なんか暴力OKみたいな風潮もあるみたいだし、この学校は何でも有りだと思っていたんだけど」

「ここは教育機関だ。暴力が認められるわけがないだろ。監視カメラもある。バレれば停学、最悪、退学だってあり得る」

「なるほど、バレなきゃ問題なしということね。随分、緩い監視だこと」

「問題発言だ」

「へいへい。じゃあ、ポイント決済方法のAPI開示もついでに確認しといて。無理やり入手する方法もあるんだけど、それをすると……ねぇ?」

 

 この学校のシステムに干渉するぞと脅しをかける。

 退学案件だが、証拠がないため冤罪にしかならない。それに退学された方が何かと困るのは学校側だ。

 

「……確認しておく」

 

 はあーとため息を吐きたくなる衝動を必死に抑え、茶柱は理事長室に向かうのだった。

 

 ◆

 

「あ~帆波、膝枕して~」

「やーだよ」

「椎名~」

「お望みとあらばと、言いたいところですが、殿方にそう言ったことを軽々しくするのはよくありません。いずれ然るときがくれば、ご期待に応えましょう」

「それ、絶対にこないやつ」

「ふふ、どうでしょうね♪」

 

 はあ~と大きくため息をつく福助。

 現在、彼がいるのは敷地内にある図書館だ。

 茶柱との面談の後、帆波から勉強を教えて欲しいという連絡が入り、ひよりからおすすめの本が見つかりましたという連絡が間を置かずに来たので、図書館で会おうと二人に返信して、今に至る。

 

 女性の誘いをダブルブッキングさせるという愚行をおかす福助であるが、両者特別な関係でもなんでもないため、特にキャットファイトのような争いは起こらず、

 

「1Bの一之瀬帆波です」

「1Cの椎名ひよりです」

 

 と笑顔で自己紹介を終え、席についた。

 帆波は頭が良い。別段、福助に教わらなくても、大抵の問題は解ける。

 だが、中学時代に福助に教わった知識の活用法。日常生活で具体的にどう使われているのかといった小話を福助に尋ねていた。

 何でも、クラスで勉強会をする際に、勉強する意味を聞かれた際に答えられるようにしておきたいとのことだ。福助が独自の理論で建てた恋愛方程式なるものを伝授されている。効果のほどは定かではないが。

 帆波は責任感が強い。

 Bクラスでは独自につくられた学級委員長という職につき、皆から頼られる存在であるため、情けないところは見せたくないようだ。

 

 ひよりは勉強の方は、本人が苦にしていないこともあってか、問題ないようで普段通り、読書にいそしんでいる。

 時折、この表現はどうだろうかとか、あの内容はどうでしょうと言った感じで福助と共通に知っている本の内容で盛り上がっていた。

 美少女二人の間に男がいる。嫉妬に狂ったDクラスのモテない組がいれば、暴動の一つでも起こっただろうが、彼らは堀北神監修の牢獄で勉強に従事している最中であるため、そんなことは起こらなかった。

 

「もうこうなったらオリジナル小説でも書くか、せめて二次元の中でモテたい」

「福田君の小説ですか? 凄く興味があります!」

「福助君のラブストーリー? 想像できないなー」

 

 ひよりと帆波でまるで感想が異なっていた。福助に対するイメージの差であろう。

 

「いや、ミステリー。ABCのパロディ」

 

 ABC殺人事件。この物語は、イギリス各地でアルファベットの順番に沿って殺人が行われるという独特なパターンを持つ連続殺人事件に主人公が挑むといった内容である。

 ミステリーが好きなひよりは興味津々と言った様子だが、帆波は怪訝そうな顔を浮かべている。付き合いの差がここでも出ていた。

 

「A、B、Cとカップの小さい順に下着を盗むという斬新な」

「死ねばいいのに♪」

「なるほど、ですが推理になるのでしょうか? カップ数が大きくなるにつれ、対象も絞られてしまうはず」

「椎名さん!? 真面目に考えなくて大丈夫だから!」

「そうですか? 福田君ならユニークさをふまえながら、読者を驚かせるような展開に持ち込んでくれると思うのですが」

「し、信頼が大きい。帆波にGを見るような目で見られた時より、心が痛い。すみません、適当なことを言いました、何も考えてません」

 

 ひよりの純真さに、邪悪な心が大ダメージを受ける。

 

「ふふ、冗談です♪ 女性の前でそういったデリケートな話はマナー違反ですよ?」

「び、びっくりした。椎名さんが見た目によらず――ああ、いや何でもないよ」

「性表現は文学の一種ですが、官能小説に興味があるわけではありませんよ」

「お、おふ。どうしよう帆波、椎名の『官能小説』発言に興奮している自分がいるんだけど」

「もう病気だよ。病院に行って、色々と治してもらってきた方が良いよ」

「ふふ、お二人は仲良しさんですね。私も混ぜて欲しいです♪」

 

 からかわれているのか判断がつかない福助と帆波。ババ抜きとかで勝負したら、絶対に勝てないだろうなと二人は同じことを考えていた。

 

「福田君、冗談ではなく、小説を書くようなことがあればぜひ、見せてくださいね」

「おk」

「福助君、えっちなのはダメだからね」

「どこからがえっちなのか、まずそこから話し合おう」

「変態め」

「福田君、め、ですよ?」

 

 お、お母さんや。この瞬間、福助と帆波は椎名ひよりという女性の底知れない母性を感じ取る。

 

「帆波、Bクラスには椎名みたいな感じの子いる?」

「いないかな。逆にDクラスには?」

「いないと思う。すべての女子を把握しているわけじゃないから、何とも言えないけど」

「ふふ、Cクラスにもお二人のような人はいませんよ」

「Cってどんな感じの人がいるの? 椎名みたいな人ばかりだと非常に嬉しい」

 

 美少女いっぱいという欲にまみれた願いだが、そんな現実は起こらなかった。

 

「そうですねー、うちのクラスは比較的武闘派が多いです。なので、他クラスともめ事を起こすことがしばしば」

「ねぇー、俺、本当にこの学校の人物選定に疑問を呈せざるを得ないんだけど! なに、武闘派って!」

「にゃはは、椎名さんには悪いけど、うちのクラスもよく絡まれてる」

 

 ひよりが直接関与していないのは明白だが、そうでも当事者として苦言を述べる帆波。

 

「申し訳ありません」

「あ、ごめんね。椎名さんが悪いわけじゃないのは分かってるから」

 

 二人とも苦笑する。何を言っても仕方がないというのは分かっているのだろう。

 

「Aクラスが、エリート風集団で、Bは帆波教信仰の仲良し集団。Cが武闘派」

「そんな宗教ないんだけど!」

「仲が良いのはそうでしょ? 相変わらずだね」

 

 福助の言葉に、違和感がある。

 それは決して帆波の在り方を褒めているようなものではなかった。

 

「大丈夫」

「……」

「私は私だから、根っこの部分は変わらないけど、それでも自分で自分を苦しめるような真似はしない。そのための対策だってちゃんとするし、それでダメなら私の能力不足。そのことに嘆くほど、福助君にやわな教育はされてないから」

「ほほーん」

 

 ぽわんとした彼女らしからぬ強い言葉に、福助は満足した。だからこそ、それ以上何も言わない。

 

「ふふ、やっぱり仲良しさんですね」

「中学からの付き合いだからね」

「一生を誓い合った仲です」

「死ねばいいのに♪」

「ねえ、笑顔で可愛く言えば、暴言が許されると思ってなーい?」

「思っているような、思っていないような」

「く、可愛いかよ」

 

 人差し指を顎に当てて、考えるようなそぶり。あざとさを前面に押し出すしぐさに、福助は敗北した。

 

「話を戻しますが、福田君、Dクラスはどんなクラスですか?」

「烏合の衆」

「辛辣ですね」

「絶対的なリーダーみたいのはいないからね」

「逆に言えば、まとまったら凄いとも言えますね」

「俺みたいな自己中がいっぱいいるのに、まとまるわけがない」

「なんて説得力!」

「帆波、顔がむかつきます」

「思わず納得させる福助君が悪い」

 

 福助の自己中っぷりは彼女の中では否定できようもない事実らしい。

 

「福田君はAクラスを目指さないのですか?」

「どうでもいい。ただ、『お前口だけで実際、Aクラス入れないだろ』とかバカにされるのは、発狂するから」

「どんだけ自尊心が強いの?」

「個人でならどうとでもなるとだけ言っておくよ。その時二人のクラスだったらよろしくね」

「ふふ、福田君と同じクラスは私としても嬉しいですね」

「楽しそうではあるけど、大変そうかな」

 

 その後、会話は続き、3人の仲は深まるのだった。

 一部、そのやりとりを見ていた非モテ男子の殺意の視線が福助に注がれているが、それは別の話である。

 

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