I am the perfect and ultimate XX 作:生物産業
「マジで島か……」
福助は大海原にそびえたつ島を見ながら、テンションを著しく下げていた。
「元気ないよ♪ 折角の海なんだから楽しまなきゃ!」
陰気なオーラを放つ福助に声を掛ける女子生徒が一人。
櫛田桔梗、笑顔がまぶしい美少女だ。
ただ、福助の陰のオーラを払うには少々力不足らしい。
というより、桔梗自身も福助と似たオーラを放ち、負の空気を倍増させている。
「テンション高いな。やさぐれるには早いぞ」
「一部の男子が、水着、水着言ってくるんだ♪ ホント困っちゃうよ」
笑顔で愛嬌たっぷりなのに、声だけは異様に低い。
裏表の激しい彼女ならではの特技である。
「バカンス気分でテンション上がってんだろ。女子だって平田とか高円寺の筋肉でキャーキャー言うんだから一緒、一緒」
「鼻の下伸ばして、胸を見ながら言われても?」
「普段もそうだろ。腹筋と上腕二頭筋を鼻を隠しながら観察する女子が居なかったら謝るよ」
逞しい
「はぁ~死ねばいいのに」
「満面の笑みで、酷いことを言うね。疲れない?」
「もう疲れた。癒して」
「無理。それにこれから最悪のvacationが開催されるよ。あれ」
福助が指さす方向に島が見える。
学校が所有する島の一つ。
無人島。桔梗の頭にはそう思い浮かんだ。
外部との連絡を極力取らないようにしている学校だ。あの島に人がいるとは考えづらい。
そうなれば、自ずと選択肢は見えてくる。
そうして見えてきた選択肢を考えて、桔梗の表情から笑顔が消えた。
「……楽しくBBQ」
「すると思う? それならあれだけの大きさだ、全校生徒で来るよ」
「……親睦を深めるための宿泊学習」
「クラス崩壊とクラス対抗イベントが同時に起こりそうな、素敵な宿泊学習だね」
「……ねえ、今のうちに私を褒めて甘やかして」
「ストレスで胃に穴が開いたら、見舞いには行くよ」
「……ストレスをためない画期的な方法を一つ」
「全裸で走り回れば?」
死んでくださいと無表情で告げる桔梗。
そしてちょうどそのタイミングで、船内に放送が流れた。
【各自、ジャージに着替え、所定の鞄に指定のものが入っているか確認して、デッキに集合。指定外の私物は没収するので、部屋に置いてくるように】
当たってほしくない予想通りのサバイバル生活が、幕をあけるのだった。
◆
無人島に上陸し、各クラスが並ぶ。
学年主任の教師が、特別試験の実施を宣言したことで、各クラスから動揺が見て取れた。
その後、基本的なルールが言い渡され、各クラスに分かれ担任から詳細な話を聞くこととなる。
主任教師や茶柱から伝えらたルールは以下である。
【基本ルール】
各クラスは無人島での集団生活を行う。期間は一週間。
テントや衛生用品は最低限配られるが、飲料水や食料、トイレなどは試験専用の300ポイント(クラスごと)で購入する必要がある。
専用ポイントは試験終了後、クラスポイントに変更される。
【追加ルール】
島の随所に「スポット」と呼ばれる地点があり、占有したクラスのみ使用可能になる。
スポットは専有する度に1ポイントのボーナスがある。
スポットの占有は8時間のみ。切れた場合、更新作業が必要となる。
スポットの占有には、リーダーとなった人物が持つ「キーカード」が必要となる。
正当な理由なく、リーダーを変更することは不可能
最終日、他クラスのリーダーを当てる権利が与えられる。当てれば1人につき+50ポイント、外せば-50ポイント。
逆に、リーダーを当てられてしまった場合、-50ポイント。それに加えてスポット占有で獲得したボーナスポイントの没収。
【禁止事項・ペナルティ】
体調不良や大怪我によって続行できない者は-30ポイント+リタイア
環境を汚染する行為は-20ポイント
毎日午前・午後8時に行う点呼に不在の場合、1人につき-5ポイント
他クラスへの暴力行為、略奪行為、器物破損などを行った場合、そのクラスを即失格+対象者のプライベートポイントを全没収
「チャバティ、暴力行為の確認の有無は? 申告制なら冤罪が出ると思うけど?」
「詳細は言えないが、監視はしている。それは他の不法行為に対しても同じだ。完ぺきとは言えないがな」
「他クラスへの暴力が禁止ってことだけど、自クラス内では?」
福助の言葉に、Dクラスの何人かがびくっと反応した。
むやみやたらに暴力を振るうつもりはないと以前に宣言しているが、少なくとも不良少年である須藤を圧倒できる力を持っているのはクラスメイトも知っている。
それが自分に向けられる可能性に怯えたのだ。
「当たり前のことを聞くな。当然、ペナルティだ。酷い場合は退学だってあり得る」
「7日間のサバイバルだよ? 多感なお年頃の俺たちが問題を起こさないとでも? 精神的にまいる人間が出てもおかしくはない」
「それを含めて試験だ。問題がありそうなら、強制的にリタイアさせる」
「なるほど。ちなみに他クラスへのスパイ活動に関しては?」
「ルールに抵触しない限り問題ないものとする」
「潜入工作はどこまで有効? 例えば俺が綾小路をボコボコにして追い出して、気の良さそうなBクラスに放逐したとする」
「実際にやりそうで怖い」
綾小路の言葉に、鈴音、そして須藤の後ろに隠れて見えないようにしているが桔梗が頷いている。
「Bクラスは善意でボロボロの綾小路を助けた。でも綾小路はクソ野郎だから、そんなBクラスに後ろ足で砂をかける行為して、Bクラスの情報を持ち帰った。例えば、リーダーが誰かとかね?」
「クソ野郎はお前だ」
綾小路から非難の声が飛ぶが、スルーされる。
「この場合、おとがめなし? 人の善意に付け込んだ最低の行為だよね? もし社会でやったら一発アウトの信用を失う行為だ。法律に抵触しないかもしれないけど、これはこの学校では許される範囲?」
「……確認しておこう」
「起こりうるケースの確認はしておくべきだよね? チャバティも疑問を疑問のままにしておくなんて愚かだって言っていたし。クラス対抗なら相手の妨害をするのは想定すべきだ」
俺は実際にはやらないけど、こういうことが起こりますよと福助は周囲に伝えた。
「もし他クラスで避難民が出た場合、問答無用で教師送りの方針で。武闘派を謳ってるクラスもあるみたいだし、初日からデスゲームしそうで怖いからね」
「……お前は何を考えている?」
「0ポイント作戦だよ。300ポイントをわざと使い切る。クラスポイントを気にしなければ、この試験の目的の自由を体現できる。ポイントがマイナスにならないなら、罰則もやり放題ってことさ。クラスでの即失格行為を除いてね」
福助の指摘に、そんなことをやりそうなクラスに心当たりがあるクラスメイトは渋い顔をした。
「何でもありなら、本当になんでもするよ? ルールの穴をつく、大事なことだけど、でもそれは卑劣であってはならない。肝に銘じて欲しい。ルールは守ってこそだからね」
「……教師を脅す奴は普通に退学だがな。承知した、各クラスの教師にも伝達する」
マジでなんでもやる気だろうな、彼を知るクラスメイトは少しばかり恐怖した。バレないうちに、飲料に毒物を仕込むとかは実践できるだろうと顔を引きつらせる。
それから茶柱は福助の言葉を伝えるために、いったんこの場を後にした。
「さて、リーダーの件だが俺にやらせてくれ」
茶柱が去った後、福助がクラスメイトに宣言する。
「ちょっと待ってよ。こういうのは平田君の方が……」
「重井沢、話は最後まで聞け」
「誰が重いよッ! 軽井沢よッ! あんた、絶対にわざとやってるでしょ」
「黙りなさい。逆さづりにして、その辺の樹に吊るすぞ」
「……なんて理不尽」
ほぼクラスメイト全員が恵の言葉に同意した。
卑劣がどうのと言った人間の言葉とはとても思えない。
「別に最後までリーダーをやるつもりはない。2日、ないし3日もあれば十分だ」
「福田君、どういうことかな?」
福助の言葉が理解できない平田が、クラスを代表して尋ねる。
「俺はサバイバルが大嫌いだ」
「ここでお気持ち表明。バカなの?」
「ギャル子、あの樹は高くていいな」
怖くなった恵は、平田の後ろに隠れた。
「サバイバルが嫌いなので、リタイアしたい。しかし俺は気遣いができる人間だ」
「またまたまた~」
「海に沈められる方が良いのか? うん?」
「黙ってます」
恵に脅しをかける。脅されるのが分かっているのに、ケンカを売るのは彼女の特技かもしれない。
「クラスに迷惑をかけないように、リタイア時に発生する-30ポイント。そのマイナス分をゲットしてから退場するよ。後で確認するけど、リタイア後は点呼のマイナスはないと思う。あるなら、Aクラスは既に不参加一人だから、7日で70ポイント近く失うことになる。それは大きすぎるハンデだ」
「もしかして、スポットの占有ポイントで30ポイント稼ぐ気なのかな?」
「俺は優しい人間だからね。20ポイントを加算してあげよう」
一人で50ポイント稼ぐと豪語する。
「4クラスあって、占有する場所が10ヵ所程度ってことはないだろう。となれば、それなりの数があると思う。占有ごとに1ポイントだから、まあ3日あれば余裕でしょ。スポットの数次第では初日でリタイアするわ」
船から外観を見ただけだが、この島の広さは大きい。
普通にしていれば、各クラスが鉢合わないくらいには広いのだ。
それだというのに、一人でスポットを探し、50ポイント分を稼ぐと堂々と言ってのける福助に、クラスメイト全員が軽く引いていた。
「で、ポイントを集め終わったら、こうやって」
ゴキっと嫌な音が鳴る。
何人かの女子は悲鳴を上げた。
福助が肩を外したのだ。
その後、何事もなかったかのようにはめなおす。あまりのことに、言葉を失うものもいた。
「脱臼はリーダーがリタイアするには十分な理由だ。もしそれでも続けろと言ったら、言ってきたチャバティの両肩を外して、同じ痛みを共有させてやる」
「普通に退学案件だな」
「正当な権利の行使だ」
こいつはやべぇ奴だ。綾小路以外も、そう思った。
「なので、俺がリタイアした後のリーダーは勝手に決めてくれ。以上」
茶柱が戻ってくるまで、福助は身体を動かしながらスポット占有に向けて準備を始める。
近場にあった樹をほぼ垂直に駆け上がったときは、クラス中から驚きの声が上がった。
降りる時は樹を滑るようにしたため、ここでも更なる驚きがあった。本当に人間かと。
「大体の地形は把握できた。食料も探してくるよ」
顔がバレないように持ち込みとして許されたタオルを顔に巻く。
女性と誤認させるために、胸に詰め物をするほど用心深い。
「ああ、頼んだ」
「誰かサポートは必要かしら?」
「いらん。戻って来た時、水着で出迎えてくれれば、それでいい」
「最低なことをさも格好よく言っているが、最低なことに変わりはない」
「貴方、もう少し頑張れないのかしら? 好感度がただ下がりよ」
福助の言葉を聞いていた女子生徒は、若干嫌そうな顔をする。
普段から変態発言している男子生徒もいるため、ポイントを稼いでくる分まだマシと言った感じだが、さきほどまでの圧倒的強者な雰囲気を出していた福助とのギャップに、女子の評価は微妙に分かれた。
茶柱が戻って来て、リーダー用のキーカードを受け取った福助。
無言で立ち去るその背中は、哀愁が漂っていた。