I am the perfect and ultimate XX   作:生物産業

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第16話 54度の高熱だっ!

 午後5時。夕食にはまだ早い時間だが、調理に不慣れな高校生が多くいる状況。

 調理器具も決して多くないため、少しばかり早い準備となった。

 

「……な、なんだと」

 

 過去の経験から、信用ならない人間が作った料理を食べる気がなかった福助は、調理班に名乗りを上げる。

 そして同じ班に配属された女子生徒の手際を見て、衝撃を受けていた。

 

「あによ」

 

 少しビビりながらも、しっかりと睨むのはギャルのそれ。普段の言動から全く料理する姿が想像できない。

 付け爪をうっかり料理に投入するのでは、と疑われるくらいの人間だと思っていたため、ニンジンの皮剥きを包丁で行った時点で驚きは隠せなかった。

 

「ぎ、ギャル子が、り、りょ、料理……だと!?」

「驚きすぎでしょっ! どんだけ動揺してるのよっ! 私に対して失礼すぎっ」

 

 呆れ顔でツッコミをいれるのは、1Dのギャル代表、軽井沢恵だ。福助のツッコミ役としての能力は高い。

 

「ツッコミしか取り柄がないと……」

「それはあんたにだけよっ!」

「くっ! ギャル子のアイデンティティが……」

「あんたは私をどれだけ下に見てるのよ!?」

「……俺は紳士だからね。こいつ猿並みの知能だろとか思っていても言わないよ」

「言ってるからっ!」

 

 繰り出されるは、渾身のおたま。握っていた包丁を使わないのは、彼女の生来の優しさからくるものかもしれない。

 彼女の乾坤一擲は容易く掴まれ、「真の男はおたまを投げつけられた時、2本の指で掴まなければならない」と訳の分からない中二台詞を吐かれてしまう。

 ぐぬぬと唸っても、福助に効果はなかった。

 

「あの~、こっちは終わりました」

 

 福助と恵以外に、調理班に加わった佐倉愛里が、二人が言い争っているうちにじゃが芋を切り終えていた。

 もう一人の長谷部波瑠加も、手伝っていたため早く終わったようだ。

 

「ギャル子、遅いぞ」

「あんただって――で、出来てる!? いつの間にか、エビとイカが捌かれてるっ!?」

 

 イカとエビを取って来たのは、福助と高円寺だ。

 自分の肉体美に酔いしれていた暇人を海に引っ張り出し、素潜りの手伝いを頼んだ。

 初日くらい、美味いものを食いたいという二人の意見が一致し、貝やイカ、エビなどを捕獲してきたのだ。

 

「働け、ギャル子。佐倉と長谷部はイカはリングタイプで問題ない? シーフードカレーといえば、イカリングってイメージなんだけど」

「わ、私は何でも……」

「え、じゃあ、佐倉のカレーだけイカ墨たっぷりにしよう」

「や、やめてください!」

 

 福助に何でもと言ってしまえば、本当に何でもされてしまう。

 自己主張が少ない愛里だが、さすがに真っ黒カレーは食べたくないようだ。

 

「なんか愛里と福田君、仲良いね」

 

 普段愛里があまり人と話さないからだろう。最近友人になった波瑠加が、二人のやり取りを見てそう呟いた。

 

「デートした仲ですから」

 

 ふふんとドヤ顔をする福助。それに対し、愛里の方は、

 

「そうですね。相談にも乗ってもらいましたし、Dクラスでは波瑠加ちゃんの次に話せます」

「あ」

「なるほど」

「……おいやめろ」

 

 愛里の純粋なまでの返答。女子二人が容易に察せるほど、そこに何も(・・)なかった。

 少しからかってやろうと微塵も思わせないほど、素直な返答だ。

 恵はあまりの不憫さに、ぽんっと福助の肩に優しく手を置いた。普段いがみ合っていても、彼女がそうせざるを得ないほど、かわいそうだと思ったからだ。

 

「大丈夫よ、きっとあんたのことを――」

「何も言うな。そして憐れむな。長谷部まで可哀そうな顔をするな。おい、涙はやめろ。俺が泣いちゃうだろ」

「私は福田君を良いと思うよ」

「口は悪いけど、あたしも嫌いじゃないわ」

「やめろーっ!」

 

 同情は時に人の心を大きく傷つける。

 昼には千秋に気遣われ、夜には波瑠加と恵にまで同情される。

 全く状況を理解できていない愛里をのぞいて、福助のモテなさに皆が心を痛めた。

 

 それからしばらくしてカレーの準備が終わり、煮込んで出来上がりを待つ段階となった。

 3人ほど傷心したため、場の雰囲気を変えようと恵がこれからのことを福助に尋ねた。

 

「初日はなんとかなったけど、明日からあんたはいないんでしょ? 一応あんたが残す予定のポイント抜きにして200ポイントは残そうってことになったんだけど……」

「食料は福田君が見つけてきてくれたから、結構節約できるみたい」

 

 平田の提案により、最低限の生活用品をそろえるために約70ポイント。川の水を直接飲むのは、どんなにキレイでも危険という池のキャンパーとしてのアドバイスから、浄水器で5ポイント支払っている。非常事態を含めても、200ポイントなら問題なく残せるとの判断だ。

 

「残念なお知らせだが、高円寺はリタイアだ。すでにいないだろ?」

 

 え、っと驚きながら恵たちが周囲を見渡したが、クラスで最高身長の男の姿は見られなかった。

 

「俺と一緒に海で食料を調達した後、『これが私のクラスへの貢献だよ』とか言って全部俺に持たせてそのまま泳いで船まで行った。適当な理由を付けてリタイアする気だろう」

「う、嘘でしょ?」

「高円寺だぞ。俺以上に自己中だ」

「いや、あんたは自分でポイント稼いだし、食料関係で超貢献してるし」

「「うんうん」」

 

 恵の言葉に波瑠加と愛里が頷いた。

 彼女たちの中では、高円寺と比べるほど、福助を自己中だと思っていないようだ。

 

「圧倒的信頼感……これがモテ――いや、やめよう俺の心の抜糸はまだ済んでいない」

「自分で言って傷ついてんじゃないわよ」

 

 恵の呆れに他二人も同意する。

 

「偵察部隊から他のクラスの話は聞いてない?」

「Aはあんまり情報を得られなかったみたい。近づいただけで威嚇されたって綾小路君が言ってた」

「BとCは?」

「Bは堅実って感じ? 一之瀬さんを中心に上手くまとまっているみたい」

「まあ、想像通り」

 

 Dクラスのような言い争いは起こらなかったのだろうと、福助は帆波の統率力に感心する。

 

「Cは……マジって感じ?」

「佐倉、ギャル語の翻訳を」

「で、できません」

「長谷部」

「無理」

 

 恵の言葉の意図を誰も理解できなかった。

 性質が違いすぎるため、仕方がないともいえる。

 

「なんでわかんないのよ! 初日から全部のポイントを使い切って遊んでる、マジでありえないクラスって意味よ」

「すまん偏差値が20も違うと会話がかみ合わないと聞くが、俺とギャル子だと……うん、会話は成り立たないな!」

「むっきー!」

 

 超天才とおバカさん。そこにはあまりに大きすぎる隔たりがある。

 怒った恵はぽこぽこと福助に攻撃を繰り出す。

 あまりに可哀そうなため、叩いてくる恵を無視して許してやるくらいには彼女を憐れんでいた。

 

「それにしても0ポイント作戦を本当に実行か。Cクラスはやっぱりうちより賢い」

「「え?」」

 

 女子の思考が止まる。目の前の男が発した内容が理解できないからだ。

 偏差値が20以上違えば、会話は成り立たない。まさにその通りだ。

 

「頭わる」

「普通に悪口!」

 

 恵が叫ぶ。

 

「福田君は、初日にポイントを使い切ってリタイアした方が賢いっていうの?」

「長谷部、よく考えろ。何もポイントの稼ぎ方はポイントの節約だけじゃないぞ。ヒントは300ポイントを使い切った道具の行き先だ」

「「…………」」

 

 恵と波瑠加が頭をひねるが、答えは出てこない。

 

「もしかして、他のクラスに渡す……とかですか?」

「お、佐倉正解! 友だちが出来て他人と物を交換するという発想を得たか」

「全然嬉しくない褒め方です」

 

 苦笑いを浮かべる愛里。友達と言う部分で波瑠加に視線をやったが、にっこりと返されたため、そこは素直にうれしかったようだ。

 

「あ、そうか! 自分のクラスのポイントで買ったものを他のクラスに渡せば、他のクラスはポイントを消費しなくて済むじゃん。そんで契約書か何かで、消費した分のクラスポイントを毎月たかれば、Cクラスにとってマイナスにはならないわけね!」

 

 恵が「私天才!」と自画自賛する。しかし、福助や波瑠加、それに愛里も彼女の意見に完全には賛成しなかった。

 

「たかるって言葉のチョイスがギャル子だな」

「軽井沢さん、300ポイント分をそのままもらえるわけはないと思うよ。リーダーを当てられたりしたら、その分減るわけだし」

「仮に契約した相手とお互いにリーダーを当てない契約を追加しても、残った二クラスから当てられたら困ります。その場合を考えて、200ポイント分が限界じゃないでしょうか」

 

 波瑠加と愛里の追撃に、恵はうぐっと押し黙る。

 恵にしては賢いと福助は拍手を送ったが、からかわれているようで顔を赤くしながら睨むしかできなかった。

 

「でも、そう考えるとさすがうちらよりは賢いCクラスってことね。最低でも毎月2万ポイントは保証されるし。何人か残って、リーダー当てに参加すればプラスボーナスが得られる可能性もある」

「渡す予定なのはAだろう。Bはすでにポイントを消費しているみたいだしな。既に他クラスと明確に差があるAとしても、わざわざ危ない橋を渡る必要もない」

「なんか、凄く賢い会話してる。頭よくなったみたい!」

「勘違いだから、ギャル子はギャル子のままでいてくれ」

 

 再び殴り掛かろうとした恵を、今度は頭を掴んで抑える福助。子供のぐるぐるパンチがお父さんに届かないように、彼女の拳が福助に届くことはなかった。

 

「でもそれだとクラスポイントの差は埋まらないですよね?」

「佐倉、賢くなって先生は嬉しい」

 

 勉強会で先生の立場にいる福助であるため、特に愛里の方から否定の言葉はなかった。

 

「Aクラスと差を広げてもしょうがないし、差をつめるならリーダーを当てるしかない。Cクラスが明日以降、どのくらい残るか分からないけど、何人かはこそこそ嗅ぎまわる奴らがいるかもってことね。妨害の可能性もあるかも」

「……大変だ! すぐに船にギャル子を運ばないと! 54度の高熱だっ!」

「福田君、それ普通に死んでるから」

「ギャル子が鋭いこと言っているんだっ!」

「あんた、どれだけ驚いているのよっ! 私だってものくらい考えるわっ!」

「……」

「不服!? 私はバカじゃないとだめなの!?」

 

 以前にも似たようなやりとりをした気がする。福助は桔梗とのやり取りをなぜか思い出していた。

 

「福田君、そうやって女子を苛めるからモテないんじゃない?」

「ごふっ!」

 

 勇者波瑠加の聖剣が魔王福助の心臓に突き刺さる。

 

「福田君、もう少しがんばりましょう?」

「ぬぁ!」

 

 聖女愛里の微笑みが、福助の脳内を破壊した。

 

「な、なんかごめん」

「ど、同情はやめろ。せめて罵ってくれ」

 

 恵がなぜか謝ったが、福助から出た変態発言にドン引きする。他女子二人も同様だ。

 

「カレーが出来たみたいね」

 

 波瑠加の言葉で、話はいったんお開きになった。

 配膳されたカレーは、シーフードということもあってか、かなり好評だった。

 ただ福助のカレーだけ塩味が強かった。

 彼の豆腐メンタルに刃を突きたて側の愛里と波瑠加が、優しく背中を叩くくらいには福助の心は悲しみであふれていたようだ。

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