I am the perfect and ultimate XX 作:生物産業
点呼が終わり、福助は再度疾走する。
心に負った深い傷を癒すために、無心でスポットまで駆け出していた。
夜ということもあってか、昼の合間に占有したスポットの大半は手つかずになっていた。
生活拠点にできそうな場所は、AとBが一つずつ占有していたが、それでも余りは十分にある。
未探索領域にまで足を延ばし、予定より多くのポイントを獲得する。
朝の点呼まで、もう一度スポット更新時間がくるため、そのまま夜の森をかけ続けた。
「昨日を含めてトータル74ポイント。無駄に頑張ってしまった」
朝六時。必要以上にポイントを集めた福助がDクラスのベースキャンプに戻ってきた。
「……お疲れ様と言えば良いのかしら?」
「良いんですよ」
あまり寝付けなかったのかもしれない。
朝早くから起きてきた鈴音とばったりと遭遇した。
鈴音は眠気覚ましに、福助は身体を洗いに川の方に移動する。
「相変わらず、見事な体つきね」
川の水で冷やしたタオルで上半身を拭いていると、鈴音がそんなことを言ってきた。
プールの授業でもそうだったが、異性の筋肉に興味津々と言った感じだ。
「理不尽だ。これで俺が、堀北も良い体してるねって言ったらセクハラで訴えられるわけでしょ?」
「訴えはしないけど、クラスの女子生徒から白い目で見られることになるわね」
「これが差別。男女平等の精神はどこに行った」
そんな馬鹿なやり取りをしながらも、福助は身体を拭いていく。
鈴音もパシャパシャと顔を洗い、眠気を覚ましていった。
「今日でリタイアかしら?」
「先に豪華客船で遊んでる」
「遊ぶ友達もいないのに?」
「お前に言われたくない」
「確かに」
ふふと笑う鈴音。
福助に指摘されてから、クラスメイトと交流を持つようにはなった。
それでも話す人間といえば、入学から一貫して福助と綾小路の二人。彼女のコミュニケーション能力は発展途上だ。
笑って会話ができるだけ、マシになったとも言える。
「体調悪いみたいだな」
「……なんでわかったのかしら?」
「普通に調子が悪そうだ。綾小路にも気づかれるぞ」
「どうかしら? 昨日は彼と行動をともにしたけど、特に何も言ってこなかったわ」
「言わなかっただけだろ。お前が言わないから」
綾小路も福助と同じで、あまり人を気遣うような人間じゃない。
何かしらの目的あれば、利用するという点で気遣う素振りは見せるだろうが、特に目的もなければ気にしないのだ。
福助も、相手が男だったらまず気にしない。
「ま、無理ならリタイアすればいい。心身ともに健康であってこそ、人生は楽しいものだ」
「気楽に言ってくれるわね。私は貴方と違ってクラスポイントで貢献したわけじゃないの。リタイアなんてクラスの足を引っ張るような真似は簡単にはできないわ」
「最初の1か月でさんざん足を引っ張った連中がいるから問題ない。所詮は30ポイント。アホたちの行動に比べれば微々たるものさ」
「でも、貴方は自分でマイナス分を補っているじゃない」
「負けず嫌いここに極まれり。まあ、変にこだわらなければ良いと思うよ」
「私も少しは考えるようになったわ。自分の実力はちゃんと把握できる……と思う」
最後は少し自信なさげだ。
自分より確実に上位だと思っている人間、福助であったり、兄の学にまだ認められていないのだから、不安になるのも当然と言える。
「にこって笑って、私に付いてきなさい豚共とか言えば、特殊性癖の男子はついてくるよ」
「そんな連中を従えて何になるのよ。身の危険しかないじゃない」
「確かに」
女王様になりたわけではない。
「……軽井沢さんから聞いたわ、Cクラスの0ポイント作戦の意図を」
「綾小路から教わらなかったのか?」
「……面白いとは言っていたけど、特にそれ以上は何も言わなかったわ。彼は気付いていたのね。私はCクラスがただのバカの集まりだと見下してしまった。情けないわ」
自分の浅慮を恥じる鈴音。
「CとDに割り振られた時点で、明確な差があるわけだ」
「痛感したわ。バカのように見える行動にも何か裏があるってことよね?」
「うちのクラスにはバカに見えるような行動で、本当にバカがいるんだけど。女子の下着とか盗まれるかもね」
「やめてちょうだい。心当たりがありそうな人間の顔が頭に浮かんだから」
中学時代にインターハイで怪我をした輝かしい経歴の男と愉快な仲間たちの顔が、彼女の頭を一瞬で埋め尽くした。
「でも、他のクラスというか、Cクラスくらいだろうけど、そういうダーティプレイをしてくるかもしれない。想定では彼らは最低限の勝利は約束されている。だからこそ、将来性を潰すためにも他のクラスを引っ掻き回して、内部崩壊とかを狙う可能性もある」
「……学校教育ってなんなのかしら?」
「俺はこの学校を教育機関だと思うのはやめた。特殊な人間をつくる頭のおかしい施設だと思っている」
「……深く考えないことにするわ」
自分の兄が生徒会長を務める学校が、変人を育成する機関と言われるのはかなり嫌だったようだ。
「リーダーは当てるつもりで行くの?」
「私としてはそのつもりだけど、ポイントが十分に残せればその限りでもないとおもう。Cクラスはプライベートポイントを獲得できるけど、クラスポイントを増やせるわけじゃない。中間テストと期末テストでクラス間のポイントは詰まっているわけだし、この試験で逆転は十分に狙える。無理をするかどうかは平田君や櫛田さんと話し合って決めると思うわ」
「ふーん。後の問題はリーダーを当てられないようにすることか。当てられたら俺の稼いだポイントは漏れなくゼロになる」
この試験のルールとして、リーダーを言いあてられたクラスはボーナスポイントをすべて没収される。
福助が加算したポイントが無意味なものになるのだ。
「……それについては少し思いついたことがあるの。貴方のおかげと言っても良いと思う。ちょっと質問だけど、貴方が各スポットを占有した際、姿は見られてないのよね?」
「顔はタオルを使って隠していたからね。木を伝って移動もしたし、俺並の追跡能力がない限りバレてはいないと思うよ」
「さすがと言ったところね。上手くいくか分からないけど、綾小路くんあたりをこき使って、上手くいかせて見せるわ。私たちがDクラスであることも利用すれば、大丈夫だと思う」
「あいつの扱いが雑過ぎる」
哀れ綾小路。福助は女王様に命令される忠犬の不幸に対して、黙とうをささげるのだった。
そして、朝の点呼と同時に福助はリタイアをして、無人島生活に終わりを告げた。
◆
リタイアした福助は豪華客船内で優雅な生活を送っていた。
福助と同じようにリタイアしていたひよりと少しの時間ではあるが、一緒に船内プールで泳いだりもしている。
「福田君、逞しいんですね」
ひよりの言葉に1人興奮し、ひよりの水着姿に悶々とする変態がいた。
途中Cクラスの人間に絡まれた福助であるが、ひよりが「邪魔です」の一言で退散させていた。
Cクラスのリーダーはひよりで確定。福助はそんな感想を抱いた。
それからは船内に設置されていた図書室などを利用して、学書を読み漁ったり、ひよりと推理小説について話し合ったり楽しい時間を過ごす。
一方で、サバイバル組は福助が抜けた後に、少しだけ問題が起こっていた。
◆
「まさか、本当に彼の言った状況になるとは……」
「下着ドロボーか。普通に犯罪だな。この学校が特殊すぎるだけで普通に警察案件だ」
「男子がやった可能性は?」
「さすがにないだろう。福田がリタイアする前に、他クラスの妨害行為の一つに挙げていたからな。クラスの男女の仲を引き裂くには一番効果的だと」
「彼の意見を踏まえたうえで、実行する可能性のある愚か者は?」
「いないと信じたい」
絶対にいないとは否定しきれない綾小路。
「露骨な工作活動はされてないと思っていたが、寝静まった後に荷物を漁られたら、どうしようもない」
「見張りを立てるべきだったわね。うかつだったわ」
高校生のキャンプ生活で見張りを立てなきゃいけない状況は、普通ならまず起こらないだろう。
「GPS付きの腕時計があるし、学校側に依頼をすれば犯人の特定は出来そうだが」
「無駄でしょう。腕時計が壊れたとか言って外しているはずよ。これだけ卑劣なことをする人間だもの、それくらいの言い訳は考えているはずだわ」
「やっぱCクラスだよな」
「でしょうね。失うポイントがないもの」
鈴音に至っては呆れと同時に、自分の実力不足に嫌気がさしている。
こんな卑劣な手を平気でする人間がいるクラスより、自分は下のクラスに配属されたのだから。過去の自分を全力で殴りたい気分だ。
「キーカードは?」
「ちゃんと鞄にあったわ。盗まれてはいない。漁られた形跡はあったから、確実に覗き見られたでしょう」
「まあ、わざと鞄にしまうようにしたからな。俺たちがDクラスと言うことを利用して、バカっぽくカバンに隠していても、相手は気付かないだろう。バカなクラスと、鼻で笑っているかもしれないな。盗まれていないなら、撮影でもしたんだろう。ポイント交換にデジカメがあったからな。で、鞄を荒らしたことを隠すために、下着を盗んで男子の鞄に忍ばせたってところか?」
「見つかってないから、忍ばせたかどうかはわからないけど……まさか、貴方が持っているんじゃないでしょうね?」
ギロリと鈴音が睨む。
犯人とは違うとは言っても、クラスメイトの女子の下着を手にしたままというのは、同じ女性として許せるはずがない。
「冤罪だ。すぐに処分した」
「触ってはいるのね」
「……俺にどうしろと?」
さすがに罵られるようなことはなかったが、鈴音の視線が普段よりきつかったため、無言で手を上げる羽目になる。
「軽井沢さん、大丈夫かしら? かなり参っているようだけど」
「大丈夫じゃないだろ。しばらくはフォローをした方が良さそうだ」
自分の下着が盗まれたのだ。生理的嫌悪は計り知れない。
恵もあまりのことに泣き出してしまっている。福助からの事前説明がなければ、苛めか男子の嫌がらせという可能性を疑って怒り狂っていたかもしれない。
「Cクラスに反撃は必要だよな? 関係ないかもしれんが、Aクラスも同じだ」
「平気でこんなことを行えるクラスと手を結ぶクラスなんて同罪よ」
「幸い、堀北がリーダーと思われているから、占有スポットで稼げるだけ稼ごう。体調が悪い中申し訳ないが」
「気にしないで良いわ。私としてもクラスに貢献してからリタイアしたいもの。ついで無粋な連中を欺けるなら本望よ」
「なんか福田みたいだ」
「やめてちょうだい」
二人は珍しく他人のことでやる気になった。
ルールの中で正当にポイントを獲得した福助を見ていたからこそかもしれない。
卑怯者には裁きの鉄槌を。ルールを遵守した福助の思想が少しばかり伝播しているようだ。
当の本人はひよりとイチャイチャしているが。
◆
「おつー。なんかすごい活躍したらしいじゃん。350ポイント獲得だって? 笑える」
サバイバル試験が終わり、Dクラスの面々が戻ってきた。
なれない生活に疲労困憊のものもいるようで、汚れを落としたらそのまま眠りについてしまったものもいる。
「お前の戦術をそのまま使っただけだ」
「あ、堀北の体調不良リタイア? それによるリーダー変更ね」
「わざと堀北がリーダーだと分からせるように、いくつか下準備をしていたんだがな。思いのほか最低の行動した奴がいたみたいで、無意味になった」
「堀北から聞いた。この学校は逮捕者を出したいのかと本気で思った。卑怯なことをしても勝つのがすべて、みたいな中二全開の思想とかしているとさすがにアホらしくなるけど」
「Cクラスにそんなことを考えてそうな人間がいたな。龍園とか言っていた気がする。クラスの王を自称していた」
「……この学校の人を見る目を一生信用しないことに決めた。なんだその困ったちゃんは? 高校を出た後とか全く考えてなさそうだぞ」
「実際考えてないのかもな。少ししか話していないが、この学校を遊園地感覚で楽しんでいる感じだった」
「この学校のスローガンを取り消せ」
将来の日本を背負って立つ若者世代を育成することを理念に設立された学校だが、将来のことを考えている若者をスカウトする気はなかったようだ。
「堀北の方は大丈夫そうか?」
「熱は下がったみたい。暇だったから、量子力学について、少し教えていた」
「何をやっているんだ、お前ら」
「電脳空間、転移装置は皆の夢」
SFの世界を実現する気らしい二人に、綾小路は少し寂しさを感じた。自分も仲間に入れて欲しかったと。
「堀北に大体のことは聞いたが、リーダーをAとCともに当てたのはやるね」
「Aは偶然現場を見ただけだ。Cに関しては分かりやすかったからな。クラスの王を自称した人間以外、リタイアしてた。その王様もリタイアしていたと思われていたが、ガチサバイバルで生き残っていたみたいだ」
「へぇーバカみたい」
辛辣な言葉をなんてことなく言う。
「一応クラスのために頑張ったCクラスの英雄様だぞ」
「船の監視役をつけて観察していたんだろ? そんな単純な方法で攻略される英雄が居てたまるか」
「お前がリタイアしたとき、どういう風にリタイアするかは分かったからな、リタイアする人間を回収するために船を岸まで寄せるとなれば、嫌でも目に付くさ」
福助たちが乗っている船は、試験時には島から少し離れた場所に停留していた。
「まあ、リタイアを前提にした試験じゃないからね。学校側もそこら辺を考慮してないんだろ。むしろ船を島につけて忍び込まれる方を警戒していたとかかな?」
学校側も完全に生徒を信頼していなかったかもしれない。
「で、初日以降にリタイアした人間はお前と堀北を除けばCクラスだけだ」
「なるほど、櫛田が監視役の一人になったわけか。あいつなら他のクラスの人間を知っているだろう」
「船が接岸するときだけな。ずっと監視させてたら、俺は海に沈められていたかもしれない」
ブラック桔梗のストレスが、すべて綾小路にぶつけられればそうなった未来もあったかもしれない。
「絶対に荒れてるだろ。顔を合わせないようにしよ」
「……ちなみに監視役の任命は福田の名を使っている。あいつを動かすにはお前の名前が必要だ」
「よし、お前をこれから海に沈める儀式を行う」
綾小路を羽交い締めにする福助。 綾小路としてもさすがに海に捨てられるのは嫌なので、かなり本気で抵抗するが、全く逃げられない。
上手く関節を固められ、その上力が入らないように重心の位置も動かされてしまう。
「男同士で何をいちゃついているの? きもいけど♪」
大天使桔梗様が低い声と笑顔で降臨なされた。
「もうこいつ本性を隠す気ないだろ」
「笑顔なのにいつもの櫛田からは想像できない低い声が凄い」
桔梗の登場で、綾小路の海への奉納の儀式はいったん終了した。
「あんたたちの前なら素で良いでしょ。ちょうど人もいないし」
「まあ、俺的にも素の方が話しやすい」
「クズ同士だから気があ――ぐっ」
綾小路の腹筋に強烈な一撃が叩き込まれる。叩き込んだのは桔梗で、綾小路を押さえつけたのは福助だった。
綾小路の発言から、視線だけで会話。二人の息の合ったコンビプレーに綾小路の腹筋は崩壊寸前だった。
「痛っ! 腹筋固すぎ!」
「殴られた側が、非難される理不尽。日本のモラルに猛抗議したいぞ」
お腹を押さえながら、不満を垂れる綾小路だったが、実行犯の二人はまったく話を聞いていない。
「インパクト時に、こう少し捻ると痛みを軽減できる」
「こんな感じ?」
なぜかボクシングの練習をする福助と桔梗。サンドバッグにされかねないと悟った綾小路は話を変えることにした。
「それで、櫛田はなぜここに?」
「福田君でストレスを発散しようと思って」
「今、ナチュラルに『で』って言いましたよ。『と』じゃないことに俺はビックリ」
「福田がいるなら、俺に当たるのはやめて欲しかった」
「二人がBLしてるから、なんかムカついた」
「「やめろ」」
福助×清隆など一体、誰に需要があるというのか。
「私が山内たちにセクハラの視線を受け続けたのに、福田君は豪華な船で良い御身分。クラスに二人の噂でも流そうかな」
「それをしたら最後、お前の卑猥な写真と動画が校内に拡散されるな。信頼してくれ、俺の技術で作ったものを目視で見破れる奴はいない。良かったな、男子の人気を一人で独占できるぞ」
「お前ら発想が同じすぎる。怖いぞ」
ガンを飛ばし合う福助と桔梗。一瞬で険悪にも仲良しにもなれる特殊な関係だ。
「そう言えば、平田君が綾小路君を探していた気がするけど」
「おいおい、まさかまさかか?」
「俺は普通に女子が好きだ。無理やりそっち系に話を進めるのはやめろ」
「俺はイケメンの評価を下げるためなら、なんでもする所存」
「嫌なお気持ち表明はやめろ。とりあえず、平田の元に行くか」
「もし告白だったら相談に乗るぞ」
「お金ありなら経験者だったか?」
「え?」
桔梗が若干、福助から距離を取る。
どうやら彼女は腐女子のカテゴリーに属さないらしい。
「同性愛に関して色々叫ばれる世の中だが、俺は断固反対派だ。勝手に乳繰り合うのは勝手だが、俺を巻き込まない範囲で頼む。だから、桔梗ちゃん、地味に距離を取るのやめようか? 普通に傷つくから」
「……お金で買ったっていうから」
「言ってないよっ!? 俺のお金ねらいで、告白してきた野郎がいたって話だっ!」
「なんだ、頭が良すぎると性癖も歪むのかと思った」
「やめろ。ちゃんとお前のことは美少女に見えている。綾小路はもげろと思っている」
「お前もやめろ」
「……ま、まあ、私は可愛いから」
否定できない。彼女の可愛さを否定できる人間は、おそらく学校内でも一握りの人間だけだろう。
モテない二人は、全く反論する気がなかった。
普通に美少女と言われて、本気で照れているのは桔梗だけの秘密である。
それから綾小路が平田の元に行き、二人は船内をプラプラ回ることになった。
「次の試験ってどんなのだと思う?」
「タイタニック」
「……笑えないんだけど」
「さすがにそれはないか。まあサバイバル試験がクラスの団結力をみる試験ぽかったから」
「はい先生! ここに二日目にはリタイアしていた薄情者がいます!」
「テストでは測り切れない人間ということだ」
「むかつきます!」
普段の明るい声に戻っても、どこか闇を感じさせる桔梗。
「演技力の試験とかどうだろう? 櫛田の優勝待ったなし」
「私は自分をよく見せる能力があるだけで、自分の思い通りに人をだましたり、操ったりすることはできないよ?」
「おふ。可愛い顔がなきゃ、即行で逃げる発言だわ」
このあざとさが幾人もの男子を骨抜きにして来たのだろう。
福助もその修羅の扉を開きかけたが、本能で厳重に封鎖した。
「お前、絶対に内通者向きだよな。自社の情報を他社に流してそう。絶対に雇いたくない」
「え~卒業後は福田君の会社にお世話になろうと思っていたのに~♪」
「お望みなら櫛田の才能を存分に発揮できる仕事を紹介しよう。マルチリンガルになる必要があるから、色んな言語を習得させるけど」
「……ちょっと興味ある」
「下手な大学行くより、お前の将来を保証できる。ただ命の危険が伴うけど、それは日本を出れば、付随してくるものだからしょうがない」
「……一応、勉強しようかな。英語は教えてくれるんでしょ?」
「松下にも言われたな。これがモテ期か。イチャイチャカップルのような甘いやり取りをしよう」
「利用されてるだけだから。というか女の子と二人でいるのに別の女の子の名前を出すのは、モテない男の子の典型」
「お金ちょうだいとかならともかく、美人とおしゃべりする機会は逃したくない。英語の勉強という体裁があってもだ」
「そっか、確か会話できるようなAIを作れるんだもんね。便利さを求めたAIなのに、自ら捨てる矛盾が凄いよ」
女子との接点のために努力は惜しまない。少しだけ、桔梗の評価が上がった。
「日本の英語教育において必須ツールにするつもりだ。日本の英語のしゃべれなさは異常。難関大の英語とか見たけど、ああいった文法をクリアする前にしゃべれる教育をしろと言いたい」
「海外にでる必要がないと思っている人も多いし、そもそも学校の先生が英語を話せないと思う。中学の先生は英語に詳しいだけで、しゃべれないって自嘲してた」
「だから日本は評価されないんだよっ! しゃべれるだけで全然違うし、海外に向けたサービスだってもっと充実できるはず。日本経済の復活は英語教育にかかっていると思う」
「高校1年生のする話じゃないね。スケールが大きすぎる」
「誰かが基準をあげてやらないと、ずっとそのままなんだ。失われた30年とか言われているけど、それは日本の教育が30年間変わってないってことだから」
「やっぱ凄いね。今の福田君は格好いいとおもう」
「普段から格好いいだろ」
「それを私の口から言うなんて、お金があるからいいよねなんて会話が一部の女子から出たりとか、そんな悲しいことを、あ!」
「言ってるから、俺の格好良さの秘密を盛大に暴露してるから」
桔梗がわざとらしく女子の中で流れる噂を伝えた。福助にダメージを与えたことで、嬉しそうにしているあたり、彼女の本質は善ではない。
「よしよし」
桔梗よりずっと背の高い福助。背伸びしながらも、頭を撫でるそのしぐさは、まさにDクラスの天使たる櫛田桔梗だ。
しかし、彼女の本質を知る福助は、甘い反応はしない。
「これがマッチポンプ。綾小路にささげたお胸様をもぎ取るぞ」
「へ、変な言い方はやめてよっ!」
顔を真っ赤にする桔梗。かつての行動を思い出し、恥ずかしさでいっぱいになった。
「ビッチ」
「変態っ!」
クズ同士のくだらない言い争いはしばらく続いたという。
サバイバル編終了です。
龍園さんの出番がありませんでした。すみません。
正直、この作品で龍園さんが輝くことはありません。ファンの方はご注意を