I am the perfect and ultimate XX 作:生物産業
無人島生活が終了してから3日目。生徒たちは夏休みを満喫していた。
豪華客船には多くの施設があり、生徒たちはそれらの施設を目一杯堪能している。
福助もそうだ。
「こんな感じ?」
懸垂器具にぶら下がりながら、空中ウォークのパフォーマンスを練習中の福助。いかに空中を歩いているように見せるか、重力がないかのように表現できるかを追求している。
見学者は女子生徒が一人。一之瀬帆波だ。
「凄いよ。でも上腕二頭筋があり得ないぐらい膨れ上がってるから、違和感が凄い」
「筋肉を偽る必要があるのか。長袖を着るのは負けた気がするし」
「どこを目指しているかわからないよ」
にゃははと、苦笑する帆波。福助が身体を鍛えるためにジムに行く途中に出会って、一緒にトレーニングをしていたところだ。
彼女の方はバイクをこいで汗を流していた。今は休憩中。
「やっぱり男子は身体を鍛えるのが好きなのかな? 結構いるよね?」
周囲を見渡すと、主に部活に所属している面々が、体力維持のために身体を苛めている様子が見える。
Dクラスでは平田や須藤がそうだ。
「マッスルは女性にアピールできることの一つだからね。部活に所属してない筋トレマニアは大抵それが目的だと思う」
「福助君も?」
「当たり前。帆波、惚れてもらっても良いですよ」
福助がそういうと、帆波がゆっくり近づいて福助の腹筋を触る。惚れたとかそういうわけではない。単純な興味からだ。
ブロックでもはいっているのかと思えるそれは、彼女が苦笑いするほどはっきりとした形だった。
「バッキバキだね」
「オラ、興奮してきたぞ!」
「よし、医務室に行こう!」
彼ららしいやり取りが行われる。男女の関係があるようでない、そんな不思議な関係だ。
そしてその不思議さは周囲からは気になって見えるのだろう。
二人に話しかけてくる人物がいた。
「突然声をかけて悪い。不躾な質問だが、二人は付き合っているのか?」
神崎隆二。どうやら彼も筋トレに来ていたようだ。
Bクラスでは学力、身体能力ともにトップクラスの実力があり、リーダーである帆波の右腕とも言える存在だ。
自分たちのリーダーが他のクラスの人間と恋仲になっている。邪推はしたくない彼だったが、いつか何かの問題が起こるとも限らないため、二人の様子を見て確認しにやって来た。
「いや別に」
「そうだね。福助君に恋愛感情を抱いたことはないかな」
二人が全く慌てる様子を見せないことが、答えだった。
「帆波に卑猥な感情を抱いたことはあるかな」
「さすがのクズ助君♪」
恋仲じゃない。神崎はそのやりとりを見てそう思った。どちらかというと兄妹のように見えた。
「一之瀬に浮ついた話はなかったからな。変な勘繰りをしてしまった。俺は神崎隆二。Bクラスでは一之瀬のサポート的なことをしている」
「福田福助。ダンディズムの体現者。帆波は、漫才の相方くらいの感覚だ」
「私の思うダンディズムな人は、女性へのセクハラはしないんだ。認識がおかしいから、イギリスで紳士道を学んできた方が良いよ」
「この前転んだ女子生徒にさっと手を出したら、睨まれた上に変態と罵られ逃げられたんだ。たまたまスカートの中が見えてしまい、幸せな気持ちになっただけなんだけど。本当なら、『Thank you』『 My pleasure』みたいなイギリス映画でありそうな一幕を予定したんだけど、なんでだろう?」
「それが分からないから、クズなんだよ♪」
「……一之瀬が他人を悪くいうのを初めて聞いたな。なるほど、漫才の相方は言い得て妙だ」
「神崎君!?」
誤解を与えること多い福助だが、なぜか神崎にはそこまで悪いように思われていない。
予想外の返答に驚いた帆波だったが、福助相手ならこういうこともあるかと、冷静さを取り戻した。
「二人は友人……で良いのか?」
「どこに疑問を抱く余地が?」
余地がありすぎて困るから、神崎は困ったのだ。
「にゃはは、中学が同じなんだ。皆には私が中学の時にしたことを話したと思うけど、その時ふさぎこんで不登校だった私を立ち直らせてくれたのが福助君なの。だから友人でもあるし、恩人でもある」
「へぇ~ちゃんと伝えられたんだ」
「ちゃんとするって言ったからね」
帆波は中学時代に万引きを行っている。
妹の誕生日プレゼントのためだ。
母子家庭であり、家族の中心の母親が過労で倒れてしまった。
決して裕福ではない家庭でわがまま言わなかった妹が、はじめてプレゼントを欲しがったのだ。
しかし、それを買えるだけのお金がなく、帆波は万引きという卑劣な行為をしてしまう。
結局、親にバレ、店側に謝罪したことで大事にはなっていないが、目の前で自分の母親が涙を流して謝罪しているのを見て、自分が本当にとんでもないことをしてしまったこと実感した。
それがショックで、学校にも行けなくなった。
そんな時、福助が家に乗り込んできたのだ。
同じクラスで会話をよくしていた彼女が急に休みだした結果、不審に思い事情を調べた結果、怒りのままに突撃したのだ。
「加害者のくせに被害者ぶるとか生意気。そう言ったんだよね。あの時は、すっごく傷ついた。でも自分にその資格がないことも分かった」
「……福田、人の心とかないのか?」
帆波はBクラスに自分が行った愚行を話している。皆のリーダーとして明確に決まったときに、過去に犯罪を行った自分がその地位にふさわしいのかとクラスに尋ねた。
結果は、彼女がリーダーである現状だ。
事情もあることは分かったし、行為自体を問題視するものもいた。ただ同情したものがほとんどで、彼女を軽蔑する人間はいなかった。
神崎も同情した人間の一人だ。
しかし、福助は違う。
「店からしたら迷惑だし。働くことの大変さを身を以て、叩きこんでやった。正直、授業料の方が高い気がするが、友人価格で相殺。仕事をさせた分の報酬で、改めて、妹ちゃんの誕プレを己で買わせた俺が非難されるところがあるだろうか?」
「……悪い、俺が間違っていた」
帆波に同情していた神崎を正論でぶったたく。帆波も神崎に謝り、同情してくれたことに関しては感謝していると伝えた。
「同情では何も買えないぞ。『やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ』と英雄五十六先生もおっしゃっている。俺は帆波にネット時代と呼ばれるこの世の中で生きるためのスキルを叩き込んで、エンジニアとしてお金を稼ぐ手段を与え、妹ちゃんをいっぱい褒めたんだ。帆波を改造したのは私です、ドヤ」
自分の言いたいことを言いたい順に言う。これで天才と呼ばれるのだから、世も末だ。
「話の起承転結がまるでつながらない」
「そこが福助君の凄いところ。言いたいことは伝わるし、すごく良いことを言ってくれてるんだけど、なぜか帰結の部分でそれまでの話をぶっ飛ばして終わらせるから、意味が分からなくなるんだよね」
困った顔を浮かべる帆波と神崎。ただ、それが福助らしいと二人はなんとなく思ってしまう。
「そう言えば、福田は海外企業の社長だったか? 学年でも噂になってるし、凄いな」
「そうなんです、凄いんです。無駄に胸だけを育てた帆波なんかと違って、超凄いんです。でも、それが普通の人には分からないんですよっ! 俺はモテたいっ!」
「渾身のお気持ち表明。女子にモテたいと言いながら、女子を罵倒するその性格が、モテない理由だと俺は思う」
「ナチュラルにセクハラしてくるからね」
帆波&神崎コンビに正論でぶん殴られ、あえなく撃沈した。
「イケメンの神崎にはわかるまい」
「俺の容姿がどうこうというより、お前の態度が問題じゃないか? 実際、一之瀬を立ち直らせた行動は、小説とかなら恋愛に発展してもおかしくないぞ」
「おかしくないぞ!」
福助の視線が嬉しそうに帆波に向く。
「おかしいんだぞ♪」
「どこが?」
福助の疑問に神崎も同意した。帆波は笑顔のまま続ける。
「人の家の洗濯物を満面の笑みで見たり、妹と結託して人の下着のレビューを始めたり、お母さんを巻き込んで、私の理想の男性の話をしたり。色々と分岐点を間違えているからっ!」
「おかしかったんだな。すまん一之瀬。むしろよくセクハラに耐えた。福田も十分加害者だな」
「直接的なのはなかったんだよ。巧妙に妹と母親を利用してるからね」
「家族公認の友人です」
友人関係って難しいな。あまり人付き合いが得意ではない神崎が、友人とは何かについて深く考えるようになった出来事だった。
ただ福助と連絡先を交換したのは、気の迷いだったのかもしれない。
◆
スマホが震える。そしてそれと同時に船内にアナウンスが流れた。
メールが送られたので確認しろとのことだ。
素直にメールを確認すると、そこには特別試験実施のお知らせが書かれていた。
「時間と集合場所の指定。密室バトルの開催でもする気か?」
物騒なこと考えなら、指定の場所に足をすすめる。
時間としては少し早かったが、すでに見知った顔が部屋の前で待っていた。
「……成長したな、須藤」
「本気で感動するな、気持ちわりぃ。俺だって時間くらい守れる」
授業に遅刻し、勉学に遅刻し、人生に遅刻していた須藤が時間を守る。
立派な成長だ、祝杯だと、福助は少し興奮気味だった。一体どの立場なのか?
「あら、もしかして遅れちゃった?」
須藤がいたからだろう、やって来た松下千秋と佐倉愛里がスマホの時間を確認する。
彼女たちにとっても須藤はそういう人間だったようだ。
「どんまい」
「別に気にしてねぇから」
ぽんと優しく肩を叩いた福助に、須藤はそっぽを向く。
そんな様子にクスクスと笑う千秋と愛里。
サバイバル試験でCクラスをクラスポイントで上回ったことで、彼女たちも試験前だというのに落ち着いた様子だった。
福助という絶対の信頼が出来る相手がいるということも大きいのかもしれない。
ただ無情の言葉が、その信頼から放たれる。
「4人でデスゲームか」
「え?」
ちょっと待て。千秋と愛里はそう言いたかった。
「定番でしょ。団結力を高めた後に、やっぱり個人戦。オラ、ワクワクしてきたぞ」
「もしそうなら棄権するから。勝てる気がしない」
「私もです」
「俺は戦う。今度は勝つ!」
なぜかバトル前提で話が進まる。空気が穏やかではない方向に進んでいく。
しかし、そんな空気を教師が登場したことで霧散させた。
「はいはい、試験の話をするから部屋に入って。それと福田君、デスゲームする学校はありません」
「え、ここは変人育成機関でしょ? いつから教育機関になったの?」
ストレートに学校を批判する生徒に、教師、星之宮知恵は頭を抱えた。
「ここはれっきとした学び舎よ。バカなことを言ってないで、部屋に入りなさい」
変人の育成もある意味では教育かと、変な納得をして部屋に入る福助だった。
そして試験の内容とルールを聞かされる。
【干支試験ルール】
1学年の全クラスの生徒は干支の名前の12グループに分けられる
グループの中に優待者が一人だけ存在している
試験期間は3日間
1日2回・1時間の話し合いを各グループで行う
試験終了後の30分間に優待者が誰かを各自で学校にメールで回答
【試験のクリア方法】
①試験終了後、グループ全員が優待者を正解する
優待者:100万プライベートポイントを獲得
優待者以外のメンバー:50万プライベートポイントを獲得
②試験終了後、未回答者や不正解者がいる
優待者:50万プライベートポイントを獲得
優待者以外のメンバー:ポイント無し
③試験終了前に、優待者以外の誰かが正解を回答する
正解者:50万ポイントを獲得
正解者のクラス:50クラスポイントを獲得
優待者の所属クラス:マイナス50クラスポイント
④試験終了前に、優待者以外の誰かが不正解を回答する
不正解者:ポイント増減無し
不正解者のクラス:マイナス50クラスポイント
優待者:50万プライベートポイントを獲得
優待者の所属クラス:50クラスポイントを獲得
星之宮の試験説明を受けた率直な感想は、
(くだらな。もし俺の頭に最初に浮かんだ答えだったら、この学校をバカにし続けよう)
さすがに星之宮に向かって直接言うようなことはしなかったが、これが一体何の試験になるのか?
試験の内容を聞いて、グループに分けられた名簿を見て、福助は答えの予測が既にできていた。
【牛グループ】
Aクラス:沢田恭美 清水直樹 西春香 吉田健太
Bクラス:小橋夢 二宮唯 渡辺紀仁
Cクラス:石崎大地 椎名ひより 山田アルベルト
Dクラス:佐倉愛里 須藤健 福田福助 松下千秋
「よくわかんねぇ。とりあえず、俺は指示に従うぜ!」
「潔い。だが、考えろ馬鹿野郎」
「で、でもよ~、こういうのは福田の分野だろ?」
須藤の考えは正しい。事実、福助は優待者を見抜いている。
「俺はお前の態度如何によっては④で終わらせるぞ。協力は求めても依存はするな。バスケでも同じだろ? すべての試合、すべてのパスが自分に来るような状況で、チームが成長すると思っているのか?」
「……すまん、俺が浅はかだった」
「お前はいつでも浅はかだ」
「なんだとっ!」
がっと立ち上がろうとする須藤だが、福助に一瞬で重心押さえられ立ち上がれなくされる。
ぐぬぬと力を込めても、全く立ち上がれないことにさらに苛立ちを募らせる。
「はいはい、喧嘩はしないの。ペナルティを加えるわよ」
「しつけです」
「同級生にしつけって……」
「よそはよそ、うちはうちなんで。チャバティの教育方針だと思ってください。ホシミーのクラスは仲良しこよしでどうぞ」
「……先生をあだ名で呼ぶのはダメよ?」
「威厳を身に付けてから言ってください」
「ぐさっ! ひ、人が気にしてることをそんなまっすぐに。福田君、君絶対にモテないでしょ!」
びしっと指をさす星之宮。うるせぇアラサーと福助が叫ぶ前に、
「モテる要素はたくさん持ってますね。まあ、それでモテるかと言われると首が勝手に傾きます」
「わ、私は、福田君は凄い人だと思います」
「俺的には倒すべき壁。男の俺からすればモテるかはわからねぇ。性格はクソだと思ってる」
「お前が言うな」
福助の反論に、女子陣は須藤に気付かれない程度に頷く。
「結局はモテそうだけどモテない。ギャルゲーの主人公の親友的なポジションね。いい人どまりで終わっちゃう系か」
嬉しそうにからかう星之宮。だが、忘れてはいけない。
目の前の男は、例え教師であっても牙をむくのだと。
「未婚のアラサーに何を言われても響きませんね。どうせ今の男は遊びとか調子に乗って、独身で生涯を終えますよ」
「ぐほっ!」
星之宮知恵、高校生に沈められる。
一人の女教師に悲しみを与えて、試験説明の場は終了した。