I am the perfect and ultimate XX 作:生物産業
入学式を終え、オリエンテーションも済ませた新入生は、放課後になり各自の行動に移ることになった。
当然、福助もその一人だ。
「それじゃ、裏付け作業にでも行ってくる。他クラスの調査と、上級生からポイントをぶんどってくるよ」
そう言って上機嫌で去っていった福助に対して、綾小路と鈴音は顔を引きつらせる。
「笑顔で言うことじゃない。上級生に勝つのが当然という顔がやばい」
「事実、学力勝負なら勝てるでしょう。彼のことだから、わざとらしくバカそうに振る舞って、滅茶苦茶な賭けとかしそうね」
「……するだろうな、おそらく」
たった一日の付き合いのはずなのに、福助の本質の一端をすでに掴んでいる二人だった。
◆
「なるほど、なるほど」
「そうなんです。愛情を他人から得る方法を、自分を偽ることでしか見つけられなかった苦悩。それは現代を生きる我々に当てはまるところがあると思うのです。そういう意味では人間失格という言葉は、我々の心に潜む形容しがたい何かなのかもしれません」
「人間失格なんてタイトル、現在の小説ではそうそうないもんね。自分の心情吐露しつつ、別に何かで表現する。深いね」
「はい」
福助は、学校施設の一つである図書館にやって来ていた。入学式直後に、この場所に通う人間は根っからの本好きで、引っ込み思案の可能性が高いという酷い偏見のもと、この場に来たのだ。
引っ込み思案と会話するのはそもそも無理なのではという、常人の発想とは違い。
――引っ込んでいる部分を出してあげれば、むしろ会話はしやすい。
という考えのもと、標的を品定めしているところに、一人の美少女が居たのだ。
不思議な雰囲気を持つ女子生徒で、太宰治の『人間失格』を入学式後に読む感性は、福助の琴線をびんびんに刺激し、いざ対話をという形になった。
異性にいきなり話しかけるというハードルを、容易く飛び越えた福助は、対面から本の感想を尋ねた。
引っ込み思案論は、正しいという自画自賛をするとともに、1を聞いて10を話す美少女の話に関心を寄せながら会話を弾ませていく。
最後の結論の部分に、おまえら本当に高校生かと、周囲から奇異の視線を受けながら、満足顔をした二人は気付いている様子はなかった。
「ちなみに貴方の……あれそう言えば、自己紹介がまだでしたね。私は椎名ひよりと言います。1年Cクラスです」
「ご丁寧にどうも。福田福助といいます。1Dです」
「ふふ、とても幸せそうなお名前ですね」
「よく言われます。ひよりって響きが良いね。君に合ってる気がする」
「ふふ、ありがとうございます」
美少女の笑顔に、癒される福助。さきほどまでドギツイ目つきをした美少女の相手をしていたので、比較すると癒され度合いが全く違うことを実感する。自分はMではないのだということも。
「それで福田さんは何かおすすめの本とかありますか?」
「小難しい学書ならいくつかあるけど、小説というジャンルなら、コメディ系で一つある。ただ昔読んだから、タイトルを覚えてなくてね。売れない役者が、どこかの国の独裁者の影武者になって、ひっかき回すみたいな話だった気がする」
「……たぶん、『億万ドルの舞台』でしょうか。福田さんの話に当てはまると思います」
「本当? じゃあ、ちょっとここで探してみるわ。ありがとう。普段は論文ばっかり読んでいるから、小説系はあんまり知らないんだよね」
「ふふ、知らない人は人間失格を読みませんよ。読み終わったら、感想を聞かせてくださいね」
「了解。じゃあ、連絡先交換してくれる?」
「はい」
ひよりと連絡先を交換し、彼女から言われた本を探し当て、貸し出してもらってから図書館を後にした。
上級生に対決を申し込むために、校内散策を始めようとしたところで、心の中の綾小路が「お前、何しに図書館に行ったの?」と投げかけてきたので、慌ててひよりにメールを送り、彼女クラスに支給されたポイントを尋ねるのだった。
◆
「この学校バカばっかりだろ」
下級生が入学初日に学力テストを挑んでくる。普通に怪しすぎるはずの行動に何も疑問を持たず、勝負に乗ってくる上級生。
まあ、「エリート学校のエリート力をぜひ知りたいと思いまして」と、ニヤニヤ顔で言われれば、学力に矜持を持っている者からすれば、我慢できなかったのかもしれない。結果は惨敗。すべてのポイントを失うことになった。「下級生に負けるなんて想定してませんよね?」と煽られた結果ALL OR NOTHINGの賭けに負けたのだから、仕方がない。
勝負内容に、1年時の出来事を教えるという条件を付けくわえるとあからさまに拒否されたが、入学初日に攻略本を見るのはつまらないかと納得し、上級生のAクラスばかりを狙って荒稼ぎをし、初日にして1000万プライベートポイントを獲得した福助。
(こんだけ露骨にポイントを強調するってことは、クラス移動とか成績、下手したら卒業の権利すらもポイントで買えるのかも。なるほどね、個人の才覚でも十分に卒業は可能ということか。3年のAクラスの人間から得たポイントを考えても、飛び級卒業で5000以上はありそうだ。クラスを移動するだけなら3000あたりかな)
エリートを育成するという点では有効なのか疑問が残るが、個人プレーが悪というわけではないという情報が得られただけでも十分だった。卒業に必要なポイントも大方予想できたことから、初日にしては満足の得られる結果だった。
(優劣の差をとことん広げるシステムか。平均を重視する日本教育からすれば、ありえない指導方針だろうけど、人材を無駄にし過ぎじゃない?)
真の1番を作り上げる教育機関にも見えるが、それならクラスの枠組みなど不要だろうと思考を巡らす。
(人間形成の場と能力向上の両取りを目指した結果のシステムという感じかな)
日本最高峰の教育機関に、初日から不安を覚える福助だった。
◆
翌日、学生寮から出たところで、見知った顔をみつけた。
「おはよう」
「ああ、おはよう」
福助の顔を見て、若干、微妙な顔をする綾小路。
「人様の顔に不満でも?」
「……美少女に声を掛けられたかったって思ってな」
「堀北以外の美少女に心当たりは?」
「クラスにたくさんいたが、あいにく知り合いではないな」
見も知らない男に、話しかけてくる美少女。それは何とも高貴な存在か。
そんな幻想を抱きながら、二人で登校すると、共通の知り合いである美少女が既に席についていた。
軽く挨拶をすると、返事が戻ってくる。ちょっとしたやりとりに嬉しさを隠せない野郎二人。
「気持ち悪いわ」
「オブラートに包む優しさが欲しい」
「綾小路君、気持ち悪いわ」
「誰も対象を限定してくれとは言っていない」
綾小路だけがダメージを受けることになったが、こうして高校生生活は二日目を迎えた。
「昨日の結果発表~!」
「唐突だな」
「でも知りたいでしょ?」
「ああ」
鈴音は返事をしなかったが、聞く気はあるようで予習していたノートから視線を移した。
「Cクラスの人に確認を取ったけど、俺たちと同じポイントが振り込まれていた。初期値は同様っぽいね」
「なるほど。つまり初期ポイントをいかに増やすか、もしくは減らさないかが卒業の条件になってくるってことか」
「上級生に喧嘩を売ってみたけど、クラスのポイント変動イベントはありそうだよ。1年時の出来事を聞こうとしたら、即行で断られたし」
「口止めをされていると考えるのが自然ね。そして口止めをしている以上、隠したい何かがあると言っているようなもの」
鈴音の言葉で、二人は頷く。
「昨日の放課後、コンビニで堀北と確認したんだが、無料の日用品とかあったぞ。月10万でやりくり出来ないはずはない。福田の理論を裏付ける材料の一つになったな」
「さらっと美少女と行動をともにしたとか、マウント取ってくるあたり嫌なやつ。マイナス5点」
「勘違いしないで頂戴。たまたま行き先が同じだっただけよ。日用品は必要だもの」
不満そうな鈴音を見て、溜飲をさげる福助。
「これから1か月でイベントが起こるかは分からないけど、ポイントの支給日までには何かしらの評価はされるはず」
「普通に考えたら、授業態度とか生活態度だな。クラスに監視カメラが設置されている理由が分かる」
「このクラスだとかなり厳しそうだけどね」
初日に動物園と感想をもらした福助からすれば、その線での評価基準で加点は絶対にないと確信している。
「ポイント残るかな? 来月の支給ポイント0とかありそうで笑える」
「良い笑顔ね。なにか他に分かったことがあるのかしら?」
クラスの評価が、個人にも影響される仕組みに気付いているはずなのに、それを気にしている様子がない福助に鈴音が尋ねる。
「個人プレーで卒業する方法はあると思う。おすすめはしないけど」
「……どんな方法?」
「ここはあえて、黙っておこう」
「対価は払うわ」
「いや、そんな大層な話じゃない。君ならすぐに気づくさ。綾小路なんて気づいてるくせに知らんぷりだよ」
ぎゅるんっと擬音語が鳴るかのごとく首を振り、綾小路を睨みつける鈴音。
「福田の冗談だ。俺は何も分かってはいない」
「まったく最近はやりの無能系主人公か~」
脇腹を激しく攻める福助から、身を守りながら鈴音からの追及の視線をかわす。大忙しだ。
「ちなみに、このことをクラスの連中に話すのか?」
「俺からは特にないよ。好きにすれば」
(3年にDクラスが存在している時点で、クラスに振り分けられるポイントがマイナスになることはない。個人のポイントがシステムで徴収されないのであれば、クラスの賞罰を気にする必要は全くない)
「個人で何とかできる奴の発言はすごいな」
「私もと、言いたいところだけど、この学校のシステムを十全に理解していない状況では、大きなことは言えないわね」
「かと言って、この3人で福田以外にクラスに状況を説明できるほどのコミュニケーションがある奴なんて――」
目は口程に物を言う。綾小路が視線を向けた先には般若が待っていた。
「後悔しながら生活するのと、絶望しながら生活するの、どちらがお好みかしら」
「平穏を享受しながら生活したいので、本当に申し訳ありません」
「やっぱ仲いいね」
「「どこがっ!」」
叫んだ二人の感情が全く別のベクトルを向いているのは、たぶん仕方がないことだろう。
「俺としては黙ってポイントが減らされるのを見ているのは癪だな」
「同感ね」
「となれば、誰かにこの状況の説明を頼むことになるが――ちら」
「ちらって声に出すとバカっぽいよね。あ、俺はしないよ」
笑顔で我関せずを貫く福助。
「高校生活二日目にして、クラスメイトから信頼を得られるようなそんな神のような存在は……」
「いるじゃん。あそこに」
「…………」
福助が指さした方向に1人の女子生徒。福助たちは参加していないが、昨日行われたクラス内の自己紹介で、クラス全員と仲良くなるのが目標だと掲げた少女だ。
櫛田桔梗。愛くるしく、人当たりの良い美少女だ。
「綾小路、美少女に話しかけるチャンス」
朝に変なことを言わなければよかったなと、綾小路は思うのだった。
◆
「うまくいくのかしら?」
綾小路が席を離れてすぐ、二人の会話が再開される。
鈴音は眉をひそめながら心配している様子だが、福助は全く気にしていないようで、手持ちの本に視線をやっている。
「まあ、何とかなるんじゃない?」
「随分といい加減ね」
「俺はどっちでも良いからね」
「はぁ~、そうね、貴方はそういう人よね」
「櫛田に綾小路を押し付けたし、面白くなりそうだ」
「……何を企んでいるのかしら?」
怪訝そうに尋ねる鈴音。
「企んでいるわけじゃないよ。ただ櫛田と綾小路がどんな人間か知りたいだけさ」
「……何か二人にあるのかしら?」
「それが気になるんじゃん。なぜ二人ともDクラス何だろうね」
「……」
「綾小路はまあ、うん、置いておこう」
「すべてを語っている気がするけど」
「どうだろう、俺とか君が良い例だけどさ、このクラスって何かに特化しすぎている人間が多いんじゃないかなって。若干名を除いて」
「肯定するわ」
「特化していても、プラスをゼロにするくらいの能力を持つ生徒を集めたのがCクラスだと思う」
「全体的に優秀な生徒が多いのがAとBなのね」
「Dって一芸に秀でてるけど、ある一点はかなりやばいとかの集まりかなって思う。プラスをマイナスにするくらいの何かを持っているってこと」
「……私ってそんなに対人能力が低いのかしら」
昨日までの鈴音なら、こんなことは考えなかっただろう。福助の言葉に予想外に落ち込んでいる。
「少なくとも軋轢は生みやすい性格だよね。チームリーダーとしてプロジェクトをすすめるとなると、大炎上か大成功かの二択だと思う。二つのパーセンテージは言わないのが優しさだよね」
「……」
「まあ、堀北のことも置いとくして。櫛田は何が原因だろうね。究極のおバカさんとかかな? 対人能力なら堀北を完封できるだろうし、堀北の逆パターン?」
「……そんなことはないと思うけど」
「じゃあ、私生活がやばいとかかな。あれだけ簡単に男を手玉にとる手腕を考えると……いや、やめよう。憶測で人をビッチと決めつけるのはジェントルマンのすることじゃない」
「本音が駄々洩れじゃない。それにしても意外ね、綾小路君の様子を見ても、ああいう子に男子は意識が行くのではなくて?」
「これでも海外に資産4桁億円ある富豪なのよ、俺。そんな俺にハニートラップがなかったとでも?」
「別の所に驚きがあって、女性うんぬんはどうでもよくなったのだけど……」
「ぼんきゅぼんの金髪ねーちゃんたちに迫られるとか……最高でした」
「最低ね」
「男は獣。覚えておくといいよ」
「そうね、そうするわ」
それから、二人の会話がなくなった。
その後、Dクラスには授業を真面目に受けましょうという、当たり前の宣言がされるのだった。
その効果が分かるのは一月後の話である。
1000万ポイント獲得に貢献してくれた先輩は後々出るかもしれません。