I am the perfect and ultimate XX   作:生物産業

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第20話 Nice muscles

 特別試験の開始。指定された部屋に福助たちが向かう。

 そして二人が出会った。

 目が合った瞬間に、お互いに何かを感じ取ったのだろう。

 歩みを進めて、握手を交わす。

 

「Hey, bruh, Nice muscles there(やあ、ブラザー、良い筋肉だね)」

「You too(貴方こそ)」

 

 それ以上の言葉はいらない。

 二人は空いていたテーブルに向かい、肘をついて腕を組む。

 

「松下、合図を」

「え?」

「Please(お願いします)」

 

 急に審判に任命された千秋は、困惑したが、二人の熱い視線に、小さく頷く。

 

「れでぃ~……ごー!」

 

 二人の訳の分からないやり取りに困惑する観客が息をのむ中、腕相撲が始まった。

 最初は、どちらも一歩も譲らない。筋肉が張り詰め、二人の腕は静かながらも激しい力のやり取りで微動だにしない。彼らの表情は真剣そのもので、勝利への渇望が見て取れた。

 しかし、拮抗したのは一瞬。少しずつバランスが崩れ始める。

 福助が優位に立ち、相手の腕をゆっくりとテーブルに近づけていく。だが相手も引かない。ここで負けては崇拝する人物に顔向けができない。

 最後の力を振り絞り反撃を試みる。観客にさせられた生徒たちからは応援と驚嘆の声が上がる。

 

「…………」

「ha, ha, ha」

 

 二人の呼吸は対照的だった。片や息を乱さず、もう一方は息を荒げている。

 まるで見せつけるように、ゆっくりと福助が相手の腕をテーブルに叩きつけた。

 勝利の瞬間だ。観客からは歓声と拍手が湧き起こり、勝者の顔には少しの疲労とともに満足の笑みが浮かぶ。

 敗者もまた、激しい戦いを終えた安堵の表情を見せ、二人は互いに敬意を表して握手を交わした。

 

「It was a good match. But, relying too much on talent. Just because your muscles are bigger, doesn't mean you're stronger(いい勝負だった。しかし、才能に頼り過ぎだ。筋肉を大きくすれば、力が大きくなるわけじゃない)」

「I'll admit my own lack of strength. I'll go back and train again, so could I ask for a rematch, please?(自分の力不足は認めます。鍛えなおしてくるので、再戦をお願いできますか?)」

「A true man accepts the challenges bravely and turns them around(真の男は挑まれた勝負を堂々と受け、返り討ちにするものさ)」

「This is the spirit of the Japanese samurai(これが日本の侍魂)」

「Ah, sorry. Though I have Japanese nationality, I've lived abroad a bit longer. That's why I don't understand even if you call it the samurai spirit(あ、ごめん。俺、日本国籍だけど、海外の暮らしの方がちょっとだけ長いんだ。だから侍魂と言われてもわからん)」

「Are you kidding me?(冗談ですよね?)」

「No, I'm not(ホント、ホント、俺は嘘をつかないから)」

「「Hahaha!」」

 

 周囲の人間は思った。私たちは何を見せられているのだろう、と。

 

「ま、まさかアルベルトが力で負けるなんて……」

 

 山田アルベルト。新入生で一番体格のいい男だ。

 彼と同じクラスに属する石崎は、あまりのことにアルベルトの敗北が飲み込めていないようだった。

 

「福田君、お疲れ様です」

「椎名。どうよ?」

「凄かったです。山田君より細いのに、圧倒してしまうとは」

「筋肉は質と使い方。俺、普段使ってないような筋肉を意図的に動かせるんだよね」

 

 手首のあたりが急に膨らんだ。ひよりも、さすがに驚いたのか目を見開いている。

 普通の人間には絶対出来ないような筋肉の膨れ上がりだ。

 

「硬いですね」

 

 ひよりが福助の手首を触る。硬いという言葉にいつものように反応しそうになったが、全く知らないクラスの人間もいるために自重した。

 すぐ近くで、千秋が半目で睨んでいるのも大きかったかもしれない。

 

「福田ってやっぱすげぇんだな」

「須藤、お前だって筋肉を上手く使えれば、ブラザーにだって勝てるぞ」

「マジかよ!?」

 

 明らかに体格負けしている須藤は、驚いた。しかし相手はライバル。施しは受けたくはない。

 だが、向上心が勝ったのか、福助に筋肉についての講座をお願いする。

 すぐ横にアルベルトがいるのは、ご愛敬だろう。

 

「あの筋肉おバカさんたちは、放っておいて、自己紹介から始めましょうか」

 

 千秋の言葉に、他の面々が頷き、ようやく特別試験が正常に開始されるのだった。

 

 ◆

 

 筋肉レクチャーを終えると、福助が話し合いに合流した。

 須藤とアルベルトは、レクチャーの確認のため、腕相撲をしながらお互いの意見を言い合っている。

 福助が勝手に留学生だと思い込んで、英語で会話してたが、アルベルトはハーフであり、日本語は十分に理解している。だから、須藤との会話も成立するのだ。

 

「で、どういう方針?」

「自己紹介が終わって、Aクラスは対話拒否。Bクラスは……」

「うちのリーダーが福田という男は危険だから、会話をしないようにと言っている。先ほどのやり取りをみて、納得したから、お前とは会話をしない」

 

 Bクラスの男子生徒、渡辺がそう宣言した。

 福助はその言葉に、笑顔のままスマホを取り出す。少しばかり操作して、

 

【帆波の変顔が学校中に公開されることになったよ♪ やったね。俺のありとあらゆる技術を駆使して、最高の画像を作り上げるから】

【ごめんなさい、ちょっと冗談を言いました。許してください】

【分かればいいよ】

 

 スピーカーをオンに設定したまま、電話をはじめ、Bクラスに分かるように会話内容を提示した。

 

「リーダーだって冗談くらい言うさ。俺は危険な人間じゃないよ。対話を楽しもう」

「…………」

 

 Bクラスの人間が、恐怖を感じる。

 試験中に普通に他のグループの人間に電話をし、しかも謝罪させる。

 自分たちのリーダーをくだしたばかりか、公開謝罪まで平然とやってのける精神性に、自然と震えが襲ってきたのだ。

 

「えげつねぇ」

「えっと……」

「Cの石崎だ」

「俺は福田。人のことを危険人物とか吹聴する馬鹿野郎をたしなめることに、何の問題が?」

「ねぇけど……」

 

 石崎はそれ以上何も言わない。

 

「福田君、あまり一之瀬さんを苛めるのは良くないですよ」

「椎名、苛められたのは俺だから。報復しただけ」

「そうでしょうけど、女の子は繊細ですから」

「なるほど、乙女心の理解。ありがとう椎名、ひとつジェントルマンに近づいたよ」

「いえいえ♪」

 

 福助とひより以外、全員が思った。お前がジェントルマンになることはない、と。

 そしてそのまま、話し合いの場は特に何も進展することなく終わりを告げ、それからしばらくして、試験終了のメールが各クラスの生徒に通達されるのだった。

 

 ◆

 

「ねえ、福田君、ちょっと聞いていいかな?」

 

 試験部屋から戻る途中、松下千秋から声を掛けられる。

 あまり人に聞かれたくなかったのか、人のいないほうに誘われた。

 

「で、何?」

「優待者の法則性のことだけど、あれって本当に櫛田さんが見つけたの?」

「櫛田が言うならそうなんだろ」

「福田くんに手伝ってもらったって言っていたけど?」

「櫛田に頼まれて断れる男が一体どれだけいるだろうか?」

 

 分かってはいたが、今回の件は福助が桔梗に情報を流したと結論づけた。

 

「なんで自分が見つけたって言わなかったの?」

「櫛田の方が適任だから。男子の士気も上がるしね」

「平田君や堀北さんは?」

「イケメンを立てる気はない。堀北はプライドが邪魔をする、以上」

「……とても福田君らしくて、納得したわ」

 

 どこまでイケメンが嫌いなのと、千秋は少し呆れていた。

 

「でも、あれって本当に合っているの? 確かにあの予想に照らし合わせて、私たちのクラスの優待者は正解だったけど……」

「あってるよ。Bの小橋を観察してたけど、視線とか挙動とか、明らかに他と違ったから。あの子はバレないように平静を装うタイプ。自然になろうとしすぎて、不自然になる」

「……全然、分からなかった」

「うちの会社に心理学にやたら強い奴が居てね。みっちり鍛えられた。嘘つきをだます真の嘘つきを名乗れるくらいには、知識も経験もあるよ。メンタリストの方がカッコいいかな?」

「その二つは同列なのかしら? あ、佐倉さんにそのことは?」

「伝えた。櫛田にもチャットしておいた。今頃クラスに共有されているよ」

 

 仕事が早い男はモテる。しかし、それはこの男には適用されない。

 

「別の話だけど、一之瀬さんへの電話の件は? あれはどういう意図?」

「というと?」

「福田君が女子の連絡先を知ってるってことは、それなりに親しいんでしょ?」

「なんて嫌な推測」

「それなのに、わざわざBクラスの前で謝罪させるようなことをするなんて……」

「向こうがそれを望んでいたからね」

 

 それはBクラスに協力したということか? 千秋は福助の行動に疑問が残った。

 

「あの嫌がらせで、俺の反応を見たかったんだと思う。帆波が気付くことに俺が気付かないわけがないとは思っているだろうけど、念のための確認が一つ。もう一つは、俺がやばい奴だと周囲に伝えること。あんなことをすれば俺が帆波に嫌がらせをするのは確定的。それでも実行した方が良いと判断したんでしょ。それに会話を拒否してもそれなりの理由づくりになる。優待者がバレるかどうかより、俺という人間を他のクラスに伝えることが目的だったって感じかな」

「福田君の噂も学年に広まってるから、ちょうどいいってことか」

「百聞は一見に如かず」

「いや、まあ、ヤバさに関しては山田君と腕相撲をした時点で伝わっていたけどね。普通に勝つし、そのまま講義を始めるし」

「あれはお互いの筋肉が会話した結果だよ」

 

 試験中に、しかも初対面で腕相撲を始めて友好関係を作るとはだれも思うまい。

 

「帆波としても確信が欲しかったのかもしれない。俺がクラスに優待者の法則を伝えているのかが分かれば行動に移せるからね。たぶん法則に気付いているけど、確証がないから俺を利用しようとした感じかな」

「それは試験終了後に佐倉さんが優待者報告をしたから大丈夫だと思うけど」

「代わりにDの優待者をBに全部持っていかれると思うけどね」

 

 さきほどからスマホが鳴っているが、二人は見ていない。

 結果が分かっているからだ。

 

「プライベートポイントは3人で山分けで良いって言ってたけど、本当に大丈夫?」

 

 優待者を当てた者には50万ポイントが支給される。

 法則性を見つけたのが桔梗になっている以上、優待者を当てた手柄は桔梗のものだが、ポイントは各グループで山分けする方が問題がなくていいと桔梗が自ら言っている。

 福助は、自分はいらないと千秋たちに言っており、所持ポイントの少ない須藤は自分の取り分が増える分、福助に感謝していた。

 

「問題ないよ。これから先、ポイントが必要になってくることもあるだろし、ためておいた方が良い」

「ポイントが必要?」

「たぶんだけど、今回と似たような試験はあると思う。今回はポイントの増減で済んだけど、普通に退学がかかるようなこともあると思う」

「え?」

 

 そんなまさかという思いが、千秋の頭の中を駆け巡った。

 

「今回みたいに、学校側が選ぶってことはないと思う。選んだ時点でそいつは退学だろうしね。ただ、自分たちで退学者を選ぶような試験もあってもおかしくない。頭のおかしい学校が考える頭のおかしい試験は普通にあると思うよ」

「生徒同士で退学者を選ぶなんて……」

「理由は何とでも言えるよ。実際、社会で人をクビにする場面に遭遇することはある」

「そんな……」

「でも、試験だからね。一応回避する方法はあるさ」

「……ポイントで退学をなかったことにする」

「正解」

 

 正解と言われた千秋だが、それがどんなに無謀なことか分かっていた。

 他クラスに移動するのに必要なポイントは2000万。なら退学を回避するには一体いくら必要になるのか。少なくともクラス移動に必要なポイントと同程度ではないかという推測が立つ。

 

「2000万をどうしようとかって思った?」

「……うん」

「松下は、そこそこの成績だから対象にはならないよ。クラスでの話し合いなら、成績下位の人間か、クラスの和を乱す俺や高円寺みたいな存在がやり玉にあがるさ」

「高円寺君はわかるけど、福田君はないと思う。勉強会でお世話になっている人はたくさんいるし。性格は悪いけど」

「最後のは必要?」

 

 なんて酷いことをと嘆く福助だが、千秋は説明の続きを求めた。

 

「得票制のような試験なら、わざわざ2000万で退学を逃れる必要はない。クラスの何人かを買収すればいい。松下に頼まれたら、俺は喜んで平田や綾小路イケメン組を生け贄にささげる」

「あ、そうか。そういう手もあるのか」

 

 クラスメイトにポイントを渡して、退学を阻止する。退学者になってからどうしようということばかりに頭が行っていて、簡単なことに気付かなかった。

 福助の作戦なら、2000万もかかることない。

 

「それにどうしても、クラスに退学者を出したくなければ、クラスでカンパを出し合うという方法もある。40人いるから、一人50万前後のポイントを回収できれば、まあ大丈夫だろう」

「今回のプライベートポイントで、現実的なラインに乗ったってことね」

「そういうこと」

「だったら、福田君もポイントは持っておいた方が良いんじゃない?」

「問題ないよ。すでに単独で回避できるだけポイントは用意できるしね」

「え?」

 

 個人で2000万を獲得できると豪語する福助に、千秋が本当に何度目かわからないほどの驚きを抱いた。

 

「最近ちょっとした協力者を得てね。3年生を対象に稼がせてもらっているんだ。一人あたりはそこまで負担じゃないけど、塵と積もればってやつだね。それを全学年に波及させれば、問題ないよ。学習意欲の高い生徒は本当に助かる」

「……ちょっと待って。ポイントを稼ぐ方法も気になるけど、つまり福田君はAクラスにいつでも行けるってこと?」

「まあ、今回の試験でAクラスとは僅差、下手をすればAになるから、あまり意味はないけどね」

「あ、確かに。5月の段階で700ポイント以上、離れていたから絶望的だと思っていたけど、今回の試験で僅差に迫ってるんだ」

「逆を言えば、その程度のポイント差は簡単にひっくり返るってこと。実際、無人島試験で俺が占有ポイントを稼ぎまくれば、今頃Aは確実だったよ」

「そ、そうだね。でも、その場合私たちは本当にAクラスって言えるのかな? 今でもポイントに見合っているとは言い難いよね」

「そこは学校の方針だからなんとも。将来は確実に困ることになるけどね。仮にAクラスで卒業しちゃった日には、つらい人生になる奴が多いと思うよ」

 

 望んだ進路に進める。確かにそれは嬉しい。

 だが、あくまで入学切符を手にするだけだ。大学進学にしろ、就職にしろ、入っただけでは意味がない。入った後に何をするかが重要なのだ。

 

「実力もない状態で、大企業とか入ったりしたら、大変だろうね。言ってしまえばコネ入社。最初は良いかもだけど、メッキが剥がれたら、肩身が狭いどころじゃない」

「うわぁ~。試用期間で解雇されそう。そっかあくまで望んだ進路に進めるだけで、将来が約束されたわけじゃないもんね。自分に実力がなきゃ、いずれさよならされちゃうんだ」

「そういうこと。それに望んだ進路とか言ってるけど、あくまで日本限定の話。海外の大学くらいなら、金を積めばなんとかなるかもだけど、少なくともうちの会社では断るよ。で、うちと技術提携している会社のほとんども断ると思う」

「この学校の実績について物申したい」

 

 日本の政府が主体とはいえ、他所の国にまで影響を及ぼせるかというのは別の話だ。

 

「だから実力を付けましょうって話」

「うん分かった。ねえ、この前の話だけど、船にいる間でも相手してくれない?」

「おk。恋人みたいなトークをしよう」

「それはまだ遠慮しておくね♪」

「ちぇー」

 

 二人がそんな話をしている最中にスマホには試験終了の通知が来ていた。

 Dクラスは自分のクラス以外の優待者をすべて当て、クラスポイントを450ポイント獲得。しかし、自分たちのクラスの優待者もすべてBクラスに当てられてしまったため、-150ポイントとなり、合計で300ポイントの獲得になった。

 

 最終的なクラスポイント

 

 A 1090

 B 980

 C 480

 D 1020

 

 DクラスのBクラスへの昇格が確定した。

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