I am the perfect and ultimate XX   作:生物産業

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第21話 傷物にされた、つらし

「席、良いかしら?」

「よいよい」

 

 特別試験が一日で終わってしまったため、豪華客船のクルージングを予定日まで満喫している朝であった。

 朝食にコーヒーとサンドイッチを食べながら、『実現したいドラ〇もんの秘密道具』なる学書を読んでいるときに、同じように朝食を摂りに来た鈴音に声を掛けられた。

 

「今回のクラス昇格だけど、貴方はどう思っているかしら?」

「特に何も」

「貴方らしい答えね。私は少しばかり不安ね」

 

 鈴音の答えに興味がわいたのか、読んでいた本から鈴音の方に視線をずらした。

 

「実力が伴っていない」

「まあ、俺からすればほぼすべての生徒がこの学校の掲げる理念に全く届いていないけどね」

「厳しい意見ね」

「だってそうだろ? 最も優秀とされてるAでさえ、この体たらく。奴らはこの4か月でどれだけ成長した?」

「ポイントの増減だけで成長性は測れないわ。ポイント維持に徹し、次の準備を進めていたかもしれない」

「そうあることを望むよ。ただ俺が言いたいのは、将来を担う人材が消極的な保守姿勢など、甘えにしかみえないということ。日本の政府と同じ。日本は比較的政治に無関心だが、民度は高い。もし日本の政治家がアメリカの政治家になったら、街中で歩いているだけで、襲われてもおかしくないくらい。それくらい国民に甘えている」

「……過激すぎだわ」

「事実だ。Aクラスはまさに日本の象徴ともいえる。成長の場面でわざわざその機会を捨てるから、現状を維持するだけになっている。そしてそれを許してしまうAクラスの平均的な能力の高さ。でも問題はそこじゃない。そのAクラスにさえ他のクラスが勝てていないことが一番の問題だ」

「そうね。今回の試験でもあと少しというところで届かなかった。でも次の試験では勝って見せるわ」

「こうやって下から突き上げていけば、自然と最大値が高まる」

「貴方の狙いはそれかしら?」

「切磋琢磨、なんて俺を称えるのに良い言葉」

「自分で言ってて気持ち悪くならないのかしら?」

「あ、堀北に傷つけられた。マナブ君にチャットしよ。『妹に傷物にされた、つらし』送信っと」

「ちょっとっ!?」

 

 鈴音は相当慌てた。まさか目の前の男が、自分の兄と交流を持っているとは思わないからだ。

 

「お、夏休みだからか、さすが返信が早い。『お前が義弟になるのは勘弁だ。すまない』マナブ君の返しが、ユーモアありすぎて困る」

「ちょっと待ってちょうだいっ!」

 

 鈴音がぱっと福助からスマホを取り上げる。やり取りしている相手の名前に堀北学と登録されており、軽く絶望した。

 

「人のものをとるなよ」

「に、兄さんとはいつから?」

 

 決してスマホを返そうとしない鈴音。

 

「堀北家面談をしてしばらくかな。朝にランニングしているときに、たまたま会って、二人でランニングしながら会話しているうちになんとなくって感じ? 生徒会の勧誘がしつこいから、どうしようかと最近悩んでる。あと綾小路も連絡先知ってるはずだ。銭湯仲間みたいなことを言っていた気がする」

「待って、本当に待って。少し混乱して、頭の整理が追いつかないわ。まさか、兄さんと貴方たちが交流があるなんて……」

 

 自分はないのに、福助にはそう聞こえた。

 お兄ちゃん大好き妹めと、ニヤニヤしながら鈴音の次の言葉を待っている。

 

「わ、私のことは何か言っていたかしら?」

 

 少し唇を震わせながら、鈴音が福助に尋ねた。

 

「堀北のことは話してないよ。俺が話すと観察日記みたいになってストーカーみたいじゃん。それに実の兄に、妹の学校生活を暴露するほど人でなしじゃないよ」

「……」

 

 ありがとうと言えばいいのか、変態と罵ればいいのか、鈴音は悩みに悩んで無言を貫いた。

 

「言いたいことがあれば、直接どうぞ? そのまま電話すればつながると思うよ。今夏休み中だし」

「……今はダメよ」

「なら返して」

「……変なことを兄さんに言ってないのよね?」

「たまたま偶然、階段の下から見えた堀北のスカートの中を伝えるなんて、実の兄でも変態でセクハラの最低野郎じゃないか」

 

 豪速球が投げつけられる。スマホが壊れるのもおかまいなしだ。

 だがそれも、無駄に発揮された反射神経により、何事もなくキャッチされた。

 

「変態」

「だからたまたまだって。下から上を見上げる。これは物理の世界で変えようのない真理だ」

「変態」

「ごめんて。見えちゃったものはしょうがないでしょ。ポイントをためて、学校の階段をすべてなくせばいいじゃん」

「どうして極端な方にいくのかしら? 普通は制服のデザインを変えるところでしょう?」

「スカートが短いことは、それだけで俺が幸せなる。正直、その制服じゃなかったら、退学してるまである」

「……制服を一新できるように頑張るわ」

「まさかの退学狙い。友情関係はいずこに?」

「貴方と友……私と貴方って友達と言えるのかしら?」

「素直に聞かれると逆に傷つくんだけど」

「……友人であることは認めても良いけど、その女性に対する配慮のなさは直しなさい」

「善処するよ」

「貴方の嫌いな甘えた政治家のような発言ね」

 

 ギリギリ友人枠に収まった福助と鈴音は、たわいもない会話を再開する。

 福助のコーヒーが完全になくなり、おかわりをもらいに行くところで鈴音の眉が大きく顰められた。

 どうやら会いたくない人間だったようだ。

 

「なんだ、鈴音? 金魚のふんの綾小路は捨てて、新しい男か?」

 

 長髪の男が、不敵な笑みを浮かべていた。シャツの胸元を大きく開け、まるでホストのようないで立ち。

 しかし、目つきは獰猛で、福助をして「目つきで絶対に将来損をするなー」などと可哀そうなことを考えてしまうほど特徴的だった。

 そして彼に付き従うように、アルベルトとひよりが後ろにいた。ひよりは福助に小さく手を振り、福助はにっこりと笑顔で返していた。

 

「いちいち関わらないで。それと、下の名前で気安く呼ばないでくれないかしら、龍園君」

「ぶっ!」

 

 福助が噴き出す。幸い、コーヒーは飲み干した後だったので、誰にも被害は出てないが、福助の奇行に視線が集まる。

 

「だ、大丈夫ですか、福田君?」

「福田? そうか、お前が福田か」

 

 ひよりが駆け寄り、福助を心配する。

 龍園は噂で聞いていたのか、福助に興味を示した。

 

「だ、大丈夫ちょっとむせただけだから」

 

 まさかCクラスの英雄様が俺様ホストだとは思わない。平田のような男を想像していたせいでギャップで噴きましたとは言えなかった。

 

「なんだ、ひよりの知り合いだったのか」

「読書友達です」

「読書家だと? アルベルトに腕力で勝った奴がか?」

 

 龍園が振り向き、アルベルトに確認をとる。アルベルトは黙ってうなずき、その男が福助であると肯定した。

 

「殴り合いでもしたのかしら?」

「堀北さん、野蛮ですことよ。アームレスリングは紳士のスポーツ。私たちにうってつけじゃない」

「気持ち悪いから、その口調をやめてもらえるかしら」

「椎名、これがうちのクラスの福田弾圧家、堀北鈴音。毒舌と睨みつけに定評がある」

「紹介いただきありがとうございます。私は椎名ひより、龍園君や山田君と同じクラスです」

 

 ぺこりと頭を下げるひより。それに対して、鈴音も少しだけ頭を下げた。

 お互い、それ以上話すことはなく、ひよりは福助の隣へ。龍園は鈴音の隣に腰を掛ける。アルベルトは龍園の後ろに立っている。ボディガードのようだった。

 

「随分とひよりと仲が良いみたいだな」

「え、やっぱりそう見える? 椎名、俺たち仲良しさん」

「ええ、仲良しさんです♪」

 

 ひよりの笑顔に、一人で幸福を味わう。向かいの鈴音が、龍園が隣に座ったことで気分を害しているにもかかわらず、良い御身分だ。

 

「食えない奴だ。お前がDクラスの支配者か」

「ぶっ!」

 

 再度噴き出した福助。まさか支配者などという日常で聞かない言葉が、聞けるとは思ってもいなかったようだ。

 綾小路から、自称王様と聞いていたことが彼の笑いのツボに大ダメージを与える要因になっている。

 

「……てめぇ、俺のことを舐めているみたいだな」

「いやいや、発言自体は俺様ホストみたいで見た目にもあってるし違和感はないよ。ただ、高校生にもなってクラスの支配者とか言っちゃう中二心をくすぐるセンスは俺にはないかな」

「ぶっ殺す!」

 

 ニヤニヤする福助にテーブル越しに襲い掛かる龍園。

 そんな龍園をあざ笑うかのように、殴り掛かってきた腕をとってバランスを崩す。その後、一瞬で首を掴むとヘッドロックをかける。ひよりに被害がいかないような素早い対応だった。

 

「Master, please stop.(師匠、おやめください)」

「I'll just knock them out. After that, do as you like.(気絶させるだけだ、その後は好きにしてくれ)」

 

 アルベルトが止めるのを無視して、首の頸動脈を締め上げる。時間にして数秒。龍園は意識を失った。

 だらんと力なく倒れる龍園を、アルベルトが抱え、福助に一礼して去っていった。

 

「何しに来たの?」

「福田くんを見たかったみたいです。ちょうどいいので私も付いてきちゃいました♪」

「堀北、これだよ、これ。これが女子力。男をその気にさせちゃう魅惑の笑顔。次のテストで出るから習得を頼む」

「出るわけないでしょう。椎名さん、その男は危険だから、あまり近づかない方が良いわ」

「大丈夫ですよ。福田君とは友達ですから。紳士な福田君が私に襲い掛かるようなことはしません」

「なんだろう、信頼されているのに遠くに行っちゃった感じ」

「ふふ、遠くに行ってませんよ。むしろ私から近づいたんですから」

 

 隣で微笑むひよりの天使オーラに、福助の悪の心が浄化されつつあった。

 

「そう言えば、ドラゴン君に名前で呼ばれていたけど、二人とも俺様系なら名前呼びを許してくれる感じ?」

「あれは彼が勝手に呼んでるだけよ」

「そうですね。私から呼んで欲しいとお願いしたことはありません」

「なんだ、彼を見習ってホスト風にしようと思ったのに」

「やめなさい」

 

 堀北ママのおしかりを受ける。

 

「ふふ、呼びたいのでしたら、呼んでもらって構いませんよ。私も一之瀬さんと福田君を見て羨ましいと思ってました」

「マジで? 俺日本に戻って来てから、普通に名前で呼んだら、男子は『舐めてんじゃねぞ』、女子は『なれなれしくてキモ』とか言われて悲しくなった。彼らが、ヤンキー崩れで皆に喧嘩を売っている集団と知ったのは後の事なんだけど、言われてみれば名前で呼ばれることに不快感を覚える人もいるなって思って、苗字で呼ぶことにしたんだ」

「……貴方、これまで色んな人間に散々無礼を働いて、そんなことを気にしていたの?」

 

 まさか、ありえないでしょと、鈴音の呆れのこもった視線が福助に突き刺さる。

 

「女子にキモいって言われるのは、心に来るんだよ」

「……」

 

 鈴音が可哀そうな子を見る目で福助を見る。ひよりも苦笑気味だ。

 

「あ、それで一之瀬さんは下の名前で呼んでいるんですね。彼女ならそんな酷いことを言わないでしょうから。もちろん、友人関係というのが一番なんでしょうけど」

「帆波は勉強を教えたりして家にも行ったから家族の人も知ってるんだよね。妹もいるから名前で呼ばないと全員が反応するという面白状態になるから、それの防止のために名前で呼ぶようになった」

 

 普通過ぎる理由だった。

 

「じゃあ、これからは鈴音とひよりで」

「呼ぶのは勝手だけど、返事をするかは分からないわ」

「私は福助君で」

 

 あ、俺今幸せだ。美少女二人とそんなやりとりをして福助はそう思ったのだった。

 

 

 

 どこからか、鈴音を下の名前で呼んでいることを知った桔梗が自分も呼べと、押しかけて来たのはそれから少し後のことである。

 

 ◆

 

「怪しい。俺の恋愛センサーが猛烈に反応している」

「そのセンサーは故障しているから、取り替えてもらってこい」

「誰だ? 男なら喜んで送り出すぞ」

「酷い誤解だ。それと別にクラスの女子と親しくなってなどいない」

「本来なら別クラスの女子と仲良くなると判断するところだがお前の交友レベルでそれはない。わざと含みを持たせた言い回し、つまりうちのクラスの女子と接近したわけか」

「……深読みだ」

 

 綾小路は部屋で福助に詰められていた。

 無駄に鋭い福助の故障センサーがここ最近の綾小路の行動に反応している。

 試験終了してから、豪華客船を満喫するだけになっているが、女の気が感じられない綾小路がちょくちょくメールしたり、ふらっとどこかに消えたりと怪しい行動を取るようになった。

 当然、福助は反応するわけだ。

 

「俺のことを問い詰めているが、お前はどうなんだ? 堀北や櫛田を名前で呼ぶようになったし、椎名もそうじゃないか」

「俺はどっちかというと名前呼びの方が慣れているんだよ。日本に戻る際に、直しただけだ。あいつらは名前で呼んでもキモいって言わないって言ってくれたから。ぶっちゃけ、これと言って進展はない。クソっ!」

「すまない。俺がうかつだった」

 

 呼び方が変わった程度で関係性は進展しない。悲しい事実を目の当たりにして、綾小路は素直に謝罪した。

 

「もうこうなったら、綾小路の清隆君が一生機能しないような呪いを……」

「科学の申し子のお前が、オカルトに走るな」

「じゃあ物理的に潰そうか。五寸釘と金槌で」

「やめてください」

 

 科学の申し子は物理の申し子でもあったようだ。

 綾小路家の断絶を防ぐために、深々と頭を下げる。

 

「あれ、二人だけかい?」

 

 Dクラスの貴公子、平田洋介の登場である。

 ジムで汗を流し、シャワーを浴びたのだろう。少しばかり髪が湿っていた。

 

「ちょうど良かった。二人に話があるんだ」

「恋愛マスターの俺がイケメンに恋愛のなんたるか語るチャンス」

「さっき進展がないって言ってなかったか?」

「あはは、その時が来たらお願いするかもだけど、今回は違う話なんだ」

 

 平田のさわやかな笑顔に、福助の顔が大きくゆがむ。イケメン死すべし、と呪っているようだ。

 

「僕たちは今回の試験でクラスが昇格することが出来た。でも、そのほとんどが福田君の手によるものだと思っている」

「ドヤればいい?」

「続きを聞いてればいいだろ」

 

 平田は苦笑しながら、話を続ける。

 

「これから先、福田君に頼ってばかりはダメだと思うんだ。クラスとして成熟しなければ、Aクラスに上がることも、Aクラスで居続けることも難しいと思う」

 

 そんなことはない。ぶっちゃければ、福助が手段を選ばなければ、Aクラスで卒業することなど容易い。

 しかし、それは福助の意図するものではない。平田の考えに黙ってうなずいた。

 

「まずはクラスの団結力を高めることが大事だと思う。現状、福田君以外に、クラスの舵取りをできる人間がいない」

「平田がいるだろ」

 

 綾小路がそう呟いた。事実、平田はクラスのリーダー的な立ち位置にいる。

 

「ありがとう綾小路君、でも僕じゃクラスをまとめきれない。堀北さんや高円寺君を説得するような力はないし、池君や山内君たちのように僕を嫌っている人間から支持を得ることもできない」

「鈴音=高円寺ってチャットしたら、ブチ切れるかな?」

「命が惜しければやめておけ。ついでに平田の命も危ない」

 

 唯我独尊男と同列に並べられるくらいには、鈴音は個人主義だと思われているらしい。福助たち以外とも、積極的ではないにしろ会話する姿勢があるのだが、いかんせん、棘のある物言いが、一部の女子に悪印象を持たせる。福助という圧倒的な実力者がいる以上、鈴音の言葉はあまり響かないのだ。

 

「でも、代わりはいないぞ。福田がやるのか?」

「やるわけがない。偉そうにふんぞり返る筆頭株主が至高。社長はしょせんお飾り」

「そういうことだ。女子側はともかく男子で適任者はお前だけだと思うぞ、平田」

「綾小路君、君は?」

 

 平田のまっすぐな視線が綾小路に注がれる。

 

「俺には無理だ。俺はどこにでもいる平凡な生徒だからな」

「嘘つけ。俺はお前が何で実力を隠しているのかよく分からんが、平凡を装うつもりならもっとちゃんとやれ。陰の実力者風なのが見え見えで、完全に痛い子だから」

「水泳の授業のときに僕も思ったんだ。何もスポーツはしてないって言っていたのに、明らかに異常だった。テストだって50点で揃えてるし、何か事情があるのかと思って深く聞かなかったけど」

 

 綾小路の目が大きく見開かれた。

 どうやら、気付かれているとは思わなかったらしい。

 

「そもそも福田君が容姿以外で罵倒していない時点で、かなりの実力だと思っているよ」

「お前が原因か」

「いや、お前だろ。なんだ? 全力を出したら誰も俺に敵わんとか思って、力を抜いて高みの見物した上に、最終的には主人公にあっさりやられるラスボス一歩前のネタキャラか?」

「……絶妙にわかりにくい」

 

 あっさりやれるかどうかはともかく、全力を出せば自分に敵う者はいない、そう綾小路は思っている。ただ一人の例外を除いて。

 

「仕方ない、俺とお前どっちが上かはっきりさせよう。カバディで」

「カバディはしない」

「ゲートボール」

「しない」

「セパタクロー」

「しない」

「じゃあ、メジャーどころで、ルービックキューブで行こう。ちなみに俺のベストタイムは2.86秒。非公式ながら世界記録だ」

「やるわけがない」

 

 さすがにやったこともない競技で世界王者に挑む気はないらしい。

 

「ま、まさかイケメン対決か? さすが顔面偏差値64。すごい自信だ。だがこちらには平田がいるさすがのお前も70には勝てまい」

「俺とお前の勝負じゃないのか?」

「代理戦争だ」

「なら俺の負けだ。平田、お前がNo.1だ」

「No.1だ」

 

 結局、平田にボールが戻ってくる。

 

「二人のやる気のなさが十分伝わったよ。僕じゃ力不足だけど、精一杯頑張ってみる」

「冗談を言ったが、やりたくないならやらなくてもいい。平田がまとめなかったことで、クラスがダメになるなら、それはクラスの所為だ。でも、自分の責任でやるというなら、相応の覚悟が必要だぞ? 綾小路はクソだからあれだが、俺は苦しむお前の姿は……イケメンだから別に良いと思っている」

「本当のクソ野郎はお前だ」

「ははは……大丈夫だよ。僕なりに頑張ってみるからさ」

「ふぁいと。これから先脱落者が出るだろう。そんなときもめけずにがんばれ、応援してる」

 

 福助からすれば軽い励ましだ。特別何かを意図したものではない。

 しかし、平田はそこに引っかかった。

 

「だ、脱落者……つまり退学する生徒が出るってことだよね?」

「当たり前だ。2年は酷いぞ、なんとかって言う生徒に歯向かって退学に追い込まれた人もいるらしい。あと普通に成績でアウトな人も」

「重要な部分が抜けてるぞ。なんとか先輩の情報がない」

「男に興味はない」

「とりあえず、男のなんとか先輩に気を付けるさ」

 

 二人の余裕のやりとり。これだけでも、実力がうかがえてしまう。

 

「そ、そんな横暴が許されるのかい?」

「いや、この学校は横暴だらけよ。この前、チャバティに働けクソアラサーって言ったら、3万もプライベートポイント没収されたぞ。代わりにあいつの給料を没収してやろうかと思った」

「お前が悪いと言いたいが、茶柱先生だからな。本当に仕事をしない可能性がある」

 

 できる女教師風に見せて、実は意外とできないと福助に思われている担任教師。

 個人的な事情もあって、茶柱が嫌いな綾小路は、心の中でよく言ったと福助を賞賛するが、さすがに言葉にまでは出さなかった。

 

「おまえ明日退学な。みたいなセリフがいつ飛んできてもおかしくない学校だという認識がないのか? 甘すぎるぞ平田」

「そんな認識をしている生徒が君以外にいるのか、僕は疑問に思うよ」

「福田の言っていることは極端だが、退学者がでる試験はあるかもな。不人気投票とかだったら、俺もやばい」

「心配するな、俺が必ず票をいれる。モテない男たちを結集して、お前に票を集めてやるから。華々しく散ってくれ」

「お前と友人関係なのか、本当に疑わしくなったきたぞ」

「We are best friends.」

「俺の知ってる親友の定義と大きくかけ離れているな」

 

 どうやら親友ではなかったようだ。

 

「……実際に、そういう試験が起こる可能性がある」

「そう。だから対策は怠らないことだ。クラス内でバトル開始とか普通にあるかも」

「学級崩壊待ったなしだな」

「……二人なら、退学者を出さずに済ませられるのかい?」

「できるけど、やるとは限らない」

「俺は福田ほど、人望はないからな。おそらく無理だ。櫛田が協力してくれれば、光が見える程度」

「僕はどうしたら……」

 

 仲間から退学者が出る可能性があるというのに、随分落ち着いている。まるでそれがどうでも良いことのように見えるのは、平田が二人を恐れているからかもしれない。

 

「Ask, and it will be given you. Seek, and you will find. Knock, and it will be opened to you.(求めよ、さらば与えられん。尋ねよ、さらば見出さん。門を叩け、さらば開かれん)」

 

 笑ってそう告げる福助が、平田には悪魔に見えたのだった。

 

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