I am the perfect and ultimate XX 作:生物産業
体育祭に向けての戦略を練るため、各個人の能力測定を実施することになった。
まずは握力測定で、須藤が先陣を切って、握力計を握る。
「うらぁ!」
須藤の咆哮の結果、表示されたのは88.8。りんごを握りつぶせる握力を周囲に見せつけた。
「これがクラスを牽引する男の力だっ! 福田っ! 綾小路っ! お前たちもさっさとやれ。それと高円寺! お前の力も見せてみろ!」
四方八方に喧嘩を売る須藤。自分が一番になりたいというのはアスリートなら誰にでもあるプライドだ。
「興味ないね。私のことは気にしないでくれて構わないよ」
「もう少し、須藤の仮初の栄光に浸る時間を増やしてあげたいから、綾小路からどうぞ」
圧倒的強者の二人は、須藤の言葉を完全にスルーする。
「と言われてもな。平均ってどれくらいなんだ? 平均より低いと割と恥ずかしいんだが」
「日本のことはしらないな。あっちでは須藤くらいが上中下で言えば下。りんごを潰せる程度の握力しかないよ。70キロあたりが普通でしょ、日本人なら」
福助にそう言われて、綾小路は渡された握力計に力を込める。
握力の強さは単純に腕の太さに比例するものではない。もちろん無関係ではないが、大切なのは前腕にある腕橈骨筋、橈側手根屈筋といった筋肉の束だ。
当然綾小路はこの部分の筋肉を鍛えている。
「……ダメだこれ以上は動かない」
そう言って綾小路が見せた握力計の数値は、70.2。
これは日本人男性の平均を大きく上回る結果である。
「やっぱお前バカだろ」
わざとらしく演技した綾小路を見て、福助が素直な感想をもらす。
「普通の人間はりんごを手で握りつぶせないし、握力が70もあるわけがない。しかも余力を残して、70って、お前世間の認識大丈夫か?」
「……だましたのか?」
「普通騙されんわ。高校生の平均なんて45くらいだろ。お前、意味の分からない隠し方するのなんなん? 鈴音ちゃんブチ切れ案件ですわ」
「……黙っててください」
「普通にデータとして共有されるから」
「……恨むぞ」
綾小路は、福助の言うことに素直に従ったことを後悔した。
世間的な常識から離れた生活をして来た彼にとって、仕方がないかもしれない。
しかし、それでもそういったコミュニケーションをとっていれば回避できたかもしれないことに、無警戒すぎると言わざるを得ない。
クラス内に綾小路マッチョ説が流れ始める中、福助の番となった。
「これが調整するってこと」
綾小路に見せつけるように、100ピッタリの数字を握力計に刻む。
全く調整していないことに、綾小路は文句を言いたかったが、端数を出さずに切りの良い数字を狙うことを意味したのだと、勝手に納得した。
「須藤、短い天下だったな。これからも頑張ってクラスを牽引してくれ」
「くっそ~~!」
当然のごとく須藤を煽る。
ただ、中には福助の脅威の握力にドン引きする生徒もいた。
「おい、下手に握手されたら、手が砕けちまうぞ」
「アイアンクローが必殺技だってことを俺は初めて知った」
「怒らせないようにするのが得策だな」
「「うん」」
福助の対応をめぐって一部の男子の結束力が増すのだった。
◆
「100m、10秒2。握力100キロ……貴方、本当に高校生なのかしら? 普通に陸上選手として、トップを狙えそうね。これでも全力じゃないのでしょう?」
「向こうだと高校生で10秒0台で走る奴はいるよ。9秒台だって確か出たはずだ。周りにそういう人間がいると、自然と自分もできると思えてしまうから不思議だよね」
「思えてもやれないのが普通なのよ」
「そこは俺が天才だからとしか言いようがない」
「ムカつくわ」
鈴音に本日とったクラスの測定記録を見せながら、福助はなんてことないように笑う。
「福田くんに隠れているけど、貴方も異常よ? 随分と力を隠していたのね」
握力70キロ、100m走、11秒8。同じ轍を踏むものかと男子の平均を須藤に尋ねた結果、「11秒後半くらいじゃねの?」と言われそれに合わせて走ったのだ。
10秒98の俊足に、一般の男子高校生の平均を尋ねるのは間違いだったと、深く反省した綾小路だった。高校1年であれば13秒前半で走ればそこそこ早い部類に入る。
「誤解だ。福田にも、須藤にも勝てないくらいの実力だ」
「平田君には勝ってるじゃない」
平田の100m走のタイムは12秒1。陸上部ではない部活の俊足と呼ばれる部類だ。ちなみに福助は陸上の大会で全国優勝できるレベル。
「とりあえず、綾小路が鈴音神の天罰を受けたくないなら、それ相応の結果が求められるわけだ。良かったね」
「他人事のように」
「他人事だから」
そんな二人のやり取りを見ながら、鈴音は戦略を考えていく。誰をどこで走らせるのか、それを見誤ればクラスポイントも、クラスの士気も下がってしまう。
「あ、俺は今回の体育祭は流して走るよ」
「え?」
「おい」
鈴音は困惑を、綾小路は非難の言葉が漏れる。
「いやいや、これは作戦だから。下から10位だと次のテストで点数を引かれるわけでしょ? 10点減点される以上、赤点に全く関係ない人間が、その枠を埋めることは良い手段だと思うんだ。おそらく高円寺もサボるだろうから、坂柳が不参加であることを併せると3枠は埋まるね」
「それでも7枠残っていることが怖いんだが」
その7枠に入りそうな人間に心当たりのある綾小路。Bクラスとなってはいるが、全体の学力Bクラス相当になったわけではない。福助や鈴音、平田と言った優秀組が開く勉強会で、成績の向上は見られているが、まだ若干名、危険な香りを漂わせている者はいる。
「明らかにリスクとリターンが見合ってないのだけど?」
「そこは綾小路君に期待しましょう」
「俺は普通の高校生だ」
「お前の普通メーターは世間的に見て壊れてるから、気にせず薙ぎ払ってこい」
福助にはめられ、須藤に騙された結果、言い訳のできない状況を作らされた綾小路。
「綾小路くんに関しては、きっちりやらせるとして」
「おい」
「何かしら?」
「……頑張ります」
一瞬でペンを構える鈴音。必殺仕事人に近づいているようだ。
「福田くんが手を抜く必要はないと思うわ」
「まあね。でも、鈴音や平田がやる気を出しているんだ。ケチが付くのも嫌だろ?」
「……そうね。貴方に頼り過ぎるのも良くないし、頼るとしてもそれは私たちがちゃんと貴方を説得すべきってことね。高円寺君もだけど」
「それでOK。男女混合2人3脚だけは頑張るよ」
「……はぁ~」
欲望にまっすぐすぎるのは考え物だ。
「あとはラフプレーの対応は頑張って。絶対にやらないだろうとか、そういう考えは捨てた方が良い。このクラスで誰を潰せば楽になるのか、誰なら簡単に潰せるのか、潰すための手段は何なのか? 皆で考えてみると良いと思うよ。このクラスにはゲスも多いし、予想外な意見がでるかもね」
「俺のすぐ近くにゲスがいるんだが」
「自己申告か。殊勝な心掛けだ、綾小路」
それから二人はお互いにどっちがゲスなのかを言い合い、鈴音を呆れさせるのだった。
◆
体育の時間。体育祭に向けての練習にすべて使われることになっている。
リーダー役に選ばれたのは須藤。
すべての種目で福助に次ぐ記録を出しており、他者へのアドバイスも口の悪さを除けば的確で、周囲から認められてこの地位に就いた。
「ねえ、福助君がリーダーをやらなくて良いの?」
千秋が尤もな疑問を福助本人に投げかける。
すべての記録が須藤を超える。能力だけをみれば、適任だが、問題は彼の訓練法にあった。
「傭兵式ブートキャンプの開講を宣言したら、鈴音と桔梗が全力で止めてきた。平田も須藤を支持するし、俺に人望がなかったんだ」
「人望というか、命の危険を感じ取っただけだと思うよ」
「日本で銃は犯罪だぞ?」
「うん、どういう訓練をして来たのか怖くなったから、聞くのやめる。とりあえず、あれなんとかしない?」
千秋の示した先では、鈴音と小野寺かやのが言い争っていた。
聞こえてくる会話としては、二人三脚の練習で二人の足取りが合わないということ。かやのは鈴音が、鈴音はかやのが悪いとお互いに言い張っている状態だ。
「お互いの主張をぶつけ合う。青春ですな~」
「そんな暢気なことを言っている場合じゃ……」
二人の言い争いが波及し、クラスに険悪なムードが高まる。
互いに勝ちたい意思は同じなのに、主張が食い違うため反発し合う。社会でも起こりうる事象だ。
「仕方がない。スマートな解決方法を見せてやろう」
「ちょっと嫌な予感」
千秋が警戒するが、そんな彼女をよそに喧嘩中の鈴音とかやのへ歩み寄る。
「何かしら? 貴方も彼女のように、譲歩しろとでも言いたいの?」
「二人三脚なんだから、お互いの息を合わせないとダメでしょ?」
「真の天才の解決策を見せるから、よーく見とけ。千秋、よろ」
紐を見せながら、千秋にお願いする。
「変なところを触らないでね」
「うっかりの確率はどのくらいまで許される?」
「うっかりの確率を調整している時点で、それはわざとって言うんだよ」
「さすがは千秋様。確率の計算がお得意で」
ふざけながらも、足を縛り少し歩いたりして動きを確認する。
「福助くん、大きいね。肩が組めない」
「腰あたりを掴んでくれ。俺は肩で行けるから」
歩幅を確かめながら、ゆっくりと駆け出す。
スピードがあがるまでにそうは時間がかからなかった。
100メートルを練習していた愛里を抜き去るほどのスピードが出た。
鈍足と言って差し支えない愛里の足だが、二人三脚で考えれば早い方である。
鈴音たちの下に戻りながら、今のが小野寺が求めた呼吸を合わせた走り方だと説明する。
「やはり早い方に合わせた方が勝率が高いじゃない」
「だから、そっちが合わせなければ私に合わせる以上に遅いんだってば!」
結果を見てさらに言い合いを強める二人に、福助は待ったをかけた。
「もう少しスピード出すけど、大丈夫?」
「うーん、それなら、腰あたりを掴んでもらった方が良い気がする。あ、上にあげたら怒るから♪」
「偶然って怖いよね」
「怖いのは福助君の欲望」
福助としても、松下の千秋ちゃんを鷲摑みする気はサラサラない。女子と密着しているだけで幸せなのだ。
その時間を自ら手放すなど、紳士のすることではない。
そうして二人は走り出した。スピードをぐんぐんあげて、今度は先を走っていた桔梗を追い抜くのだった。
鈴音、小野寺に次ぐ脚力の持ち主である桔梗を、容易く抜きさる。
千秋がもつれそうになるタイミングで、福助が力づくで持ち上げ、否応なしにスピードが上がっていく状況だった。
「はぁ、はぁ、はぁ……人生で一番速く走れたよ。途中持ち上げてなかった?」
「真の男とは、倒れるレディを支えるのではなく、担ぎ上げるものをいう」
「さすがに荷物のようには扱われたくないな」
再度、鈴音たちの下に戻り二つの走り方の違いを説明する。
最初は千秋のリズムに合わせて走り、次に千秋を考慮にいれず、力づくで引っ張りながら走ったと説明した。
「鈴音、自分の方が優れていると主張するなら、相手に文句を言う前に自分の力でどうにかしろ。出来ないなら頼れ、以上」
ぐぬぬ、と鈴音は無言で睨みつける。
「小野寺。ただ合わせろと主張しても無意味だ。人に頼むなら、何をどうして欲しいのか、具体的に言え。分かってくれるはずってのは、ただの甘え。社会に出て、新入社員が最初に感じる社会の厳しさだ。別に鈴音の主張が間違っているわけじゃないしな」
ぐぬぬ、とかやのも無言でうなずく。
「エンジニアの世界ではままあるが、凡人を100人雇うより、一人の天才を雇ったほうが効率的という話がある。1+1は必ずしも2になるわけじゃない」
「……」
「ただ、現実的にそんな天才がぽんぽんいるわけでもない。だから人は協力するんだ。これだって一つの正解だ」
「……」
鈴音もかやのも福助の言葉を真剣に聞いていた。
「譲歩なんてクソくらえ。お互いの意見を最大限ぶつけ合って、最大値を目指して欲しい。なにせ君たちは
「いや、解決策を見せるところまではカッコいいのに、なんで煽っちゃうかな~」
千秋が苦笑するが、鈴音たちは何かを思ったようで、再度練習を再開する。言い争いはまだ続きそうだ。
キノコタケノコ論争にポッキーで解決したような雰囲気を出している中、様子を見ていた桔梗が合流する。
「凄いよ二人とも! 普通に走ってる私よりずっと速かった!」
「ほとんど、福助君のおかげだよ。引っ張り上げてくれた感じ」
跳ねるようにして二人を称える桔梗に、千秋は遠慮がちに返す。
自分のポジションが他の誰であっても同様の結果を得ると分かったからだろう。
「でも良いな~。あれだけ速く走れるって」
「あ、じゃあ櫛田さん、交換してみる? セクハラを受ける可能性はあるけど」
「……それを聞くと尻込みしちゃうね」
「失礼な。俺は犯罪を犯すつもりはない」
「言葉でも捕まるときは捕まると思うよ」
「……」
無言を貫くしかできなかった。
「ちょっと心配だけど、福助君お願いできるかな?」
「この絶妙に信頼されているようで、されてない感じが不満です」
「日頃の行いだよ」
千秋の正論は、いつだって福助を傷つける。
「あ、二人が準備できたら並走してみるね。自分一人とどれだけ違うか、確認してみたかったし」
「ありがとう、松下さん。お願いね」
桔梗が千秋とやり取りしている間に、福助が二人の足を結ぶ。
千秋に言われたように、桔梗の腰に手を添える。
ここで、柔らかさが二人で違うなと似非紳士なら言ってしまうが、紳士のプライドにかけてぐっとこらえる福助だった。
「胸触ったら、潰すから♪」
歩幅の確認作業で千秋から離れているときに、暗黒大将軍から危険な言葉が発せられた。どこを、とは決して尋ねてはいけない。
「怖ぇよ」
自分の股の福助君を警戒しながら、千秋の下まで戻ってきた。
「じゃあ、勝負だね」
「うん♪」
3人の勝負が始まった。
スタートは千秋と桔梗がお互いに声を出しながらであった。
よーいどんの掛け声とともに3人が一斉に走り出す。
先を行ったのは千秋だった。
クラウチングスタートで、序盤の勝負を制した形だ。
「行くぞ」
「う、うん」
桔梗は自分の腰がぐっと掴まれたことに、少し動揺した。
抱き寄せられたと言っても良いからだ。
「はやい、はやい、はやい」
だが、彼女の状態などおかまいなしに福助はスピードを上げていく。
桔梗が叫びだした時には、千秋を抜き去っており、自分の身体が持ち上げられているような感覚があった。
「ふぅ~」
「はぁ、はあ、はぁ……ちょっと怖かった」
「めんご、強引すぎたね。本来は二人の呼吸を合わせるものだけど」
「福助君に、無理やり合わせられたって感じ」
「あ、わかるー」
遅れてゴールした千秋が、息を整えながらやってきた。
「たぶん、他のペアの参考にならないよね」
「うん。あ、松下さん、ちょっと良いかな」
桔梗が福助から離れるようにして、千秋を呼んだ。
「……ドキドキしなかった?」
「……うん」
「筋肉とか凄くて、抱き寄せられた時とかキュンっとしちゃった」
「男の子って感じが凄いした。普段のあれがなければかなり危なかったかも」
「うぅ~体重とかバレたよね、絶対」
「そうかも。櫛田さんは痩せてるから良いだろうけど」
「松下さんの方が細いよっ!」
二人のスタイルは二子山を除けばほぼ同じと言える。
女子トークに二人が花を咲かせている間、
「セクハラの相談か? ちゃんと気を付けたぞ」
気が気じゃない福助は、二人のやり取りを見守るしかなかった。
ハラハラしている福助と対照的に、彼の評価は二人の美少女の中で爆上がりするのだった。