I am the perfect and ultimate XX   作:生物産業

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第25話 必殺回避術

 ホームルームの時間となり、例のごとく茶柱は自主性を尊重し、クラスの作戦会議に時間を充てて立ち去る。

 

「ちょっとあの税金ドロボーを断罪してきて良いですか?」

「やめて差し上げろ。体育祭に向けて色んな準備があるんだろう」

 

 理事長室に乗り込もうとする福助を綾小路が止める。茶柱が罰せられるのは問題ないが、理事長にまで喧嘩を売り、その結果クラスに何かしらのペナルティーが課されるとも限らないからだ。

 そんな中、平田が前にでる。出場のことに関して相談があると、クラスメイトに打ち明ける。

 

「皆、体育祭の種目の出場に関してだけど、僕としては完全に能力を重視して順番を決めるべきだと思っている」

 

 平田の言葉に驚く生徒が多くいた。

 クラスの和を大切にする平田が、不和を生み出すようなことを言ったのだ。

 それに驚かないわけにはいかない。普段平田と関わっている人間なら猶更だ。

 

「平田、一つ良いか?」

「なんだい、幸村君?」

「平田のその発言は、能力の低い人間を高いものに当てる戦略を取るということか?」

 

 幸村が核心をつく。幸村の言ったような内容が実行された場合、割を食う生徒が出てくるのは事実だ。

 勝利のためとはいえ、プライベートポイントや次回の学力試験の得点を獲得できる権利を捨てるのは惜しい。

 そう考える生徒は、平田の次の言葉を静かに待った。

 

「そうだとも言えるし、違うとも言える」

「どういうことだ?」

「言い方は良くないけど捨て石作戦は大きなデメリットがある。それは、折角まとまってきているこのクラスの団結力を著しく乱すことだ」

「確かにそうだが、勝利すればAクラスに上がれる可能性だってあるんだぞ」

 

 幸村が平田の言葉に異を唱える。それは運動能力に高い人間も同様の様で、次に平田が何か気にくわないことを言えば歯向かう気でいる者が何人もいた。

 

「そこだよ。僕たちは今Bクラスという位置にいるけど、これは本当に実力なのかな?」

「……」

「皆の学力が上がっているのは、努力の結果だと思うけど、福田くんを含めた教師役の生徒の力が大きいと思う。それでも1学期の期末テストの平均は一番低かった。運動能力はどうかな? 4月から劇的に向上したと思う人がいれば挙手して欲しい」

「俺は上がったな」

 

 須藤が自慢げに手をあげる。

 だが、それだけだった。

 

「入学した段階で、僕たちは落ちこぼれのレッテルを学校から張られた生徒だ。学力もそうだし、運動能力も、他のクラスより低いと判断されたんだ。では、なぜ僕たちがこの位置にいるのか?」

「福田のおかげだな」

「崇め奉れ」

「黙っとれ」

 

 漫才コンビが漫才をするが、慣れているようでスルーした。

 

「中間テストのときも、サバイバル試験の時も、船上試験のときも、福田君なしに切り抜けていたとは言い難い。もちろん、彼だけではなく、堀北さんや櫛田さん、勉強会で教師役になった皆の力もあると思う」

 

 福助を称えつつ、他のクラスメイトへの配慮を忘れない。これが出来る男である。

 

「今回の体育祭で運よくAクラスに上がれたとして、その後はどうだろうか?」

「しかし、だからと言って負けることを良しとするわけには――」

「そう。別に力不足だから負けを認めようという話じゃない。勝つための最善の一手を追求しようって話だ」

「具体的には何か考えがあるのか?」

「明確にはまだ決まっていないよ。ただ一部の情報を意図的に流しても良いんじゃないかなって思っている。例えば須藤君や福田君が何番目に走るのかとか」

「わざと情報を開示して相手の行動を制限するということか。一つの策として有効かもしれない。心理戦も期待できる」

 

 幸村は平田の言葉に納得し、ゆっくりと腰を下ろす。

 

「他にもCクラスと協力体制を結ぶというのもあると思うんだ。こう言ってしまうとあれだけど、AクラスやDクラスよりは信用できると思う」

「あのさわやかイケメン、八百長を提案しましたよ」

「言い方」

 

 福助の横やりに平田が苦笑するが、実際Cクラスと情報を開示し合えば、白組の勝利を大きく引き寄せることが出来る。

 

「それに相手への対策も必要だ。これは堀北さんから言ってもらった方が良いかな?」

 

 平田がそう促し、鈴音が席を立った。皆の視線が鈴音に集まる。

 

「Dクラスが正当に勝負を挑むと思っている人はいるかしら?」

「Dクラス限定なんだ」

 

 苦笑気味の千秋の声が漏れたが、Aクラスが卑劣な手を使うとは思っていないのが、彼らの答えであろう。

 

「私はあり得ないと思っている。競技内で審判に見えないように、暴力を振るってくることまでは確実に想定しておくべきね」

「人を疑うなんて、なんて心が醜いのかしら?」

「黙りなさい」

 

 福助を一言で黙らせる。周囲もバカ言ってるな程度で済ませるあたり、福助がそういう人間だというのは理解しているようだ。

 

「それに直接的に怪我を狙ってくる可能性があるわ。確定している対象としては、福田くんね。彼は特別試験の船の上で、龍園君を気絶させている。それも一瞬で。プライドの高そうな龍園君が仕返しをしないとは考えづらい」

「え、気絶?」

「殴り合いでもしたのか?」

「龍園くんってあれでしょ? あのヤンキーみたいな」

 

 鈴音の言葉にクラスがざわつく。現場にいた鈴音とDクラス以外の人間しか知らないことであるため、語られた内容に驚いているようだった。

 

「殴り掛かってきたから、首をくいっとしてやりました。正当防衛です」

「彼が人を苛立たせることに関しても天才であることは皆も知っているでしょう? それはこのクラスだけが対象ってことじゃないわ」

「名誉棄損裁判を起こそうと思います」

「判決、原告の主張を棄却する」

 

 無慈悲な裁判長、綾小路により福助の敗訴が確定した。

 

「福田君以外で言えば、須藤君なんかもそうね。以前、Dクラスの人ともめたという話を聞いたから、狙っていたのかも」

「おうよ! 綾小路直伝の必殺回避術で乗り切ってやったぜ!」

 

 須藤がドヤ顔をするが、綾小路は嫌な予感がした。

 待て言うな、そう告げる前に須藤は自信満々にクラスに伝える。

 

「挑発されたら、『はいはい』だっ! いかに福田のように厭味ったらしく言うかがポイントだぜ。ぶっちゃけすべての文句にこれで対応したらブチ切れて襲い掛かってきた」

 

 うわぁ~と周囲から感想がもれる。

 そして視線が須藤ではなく、綾小路に向かっている。お前も大概やなと。

 

「福田との約束だから手を出さずに、逃げたわけだ。でもただで逃げたわけじゃね! 当然必殺回避術その2を忘れないぜ」

「一体どんな鬼畜なことを……」

「聞くのが怖ぇよ」

 

 池と山内が真反対の席に座る綾小路に視線を送る。

 ぷいっと綾小路は顔を逸らしたが、逸らした先の人間が彼を見ていたため無駄だった。

 

「『俺は男に興味ないんだ!』だぜ。綾小路曰く、これなら逃げてもプライドが傷つかないと聞いて、なるほどって思っちまったぜ。さらに言えば、ジェンダー問題に対しても効果を発揮するらしいぜ? こちらはあくまで自分の心情を暴露したにすぎない。相手の性癖を公開したわけじゃないから、問題にはならない。あくまで、こちらの言葉を聞いた他人がどう思うかだって綾小路は言っていたな。それと出来るだけ人の多いところを目指せって言ってたから、色々噂が立っちまったみたいだ。さすがは綾小路、福田と同じクソ野郎だぜっ!」

 

 須藤本人は褒めているつもりでも、周囲がそう感じるとは限らない。皆の冷たい視線が綾小路に注がれる。

 

「そう言えば、Dクラスの石崎君ってそういう噂が……」

「たしか、小宮君もそんな話があったような」

 

 噂好きの女性陣が当時のことを思い出す。

 

「あいつら、半泣きになってそれっきり絡んで来なくなったから、その3を使うことはなかったぜ」

「須藤君もう言わなくていいよ。綾小路君の名誉のために、これ以上は言わないほうが良い」

「なんだよ、平田。ま、体育祭でその3が火を噴くぜ」

 

 満足げに座る須藤。彼の中では挑発対策は大丈夫のようだ。

 

「……話が大きくそれてしまったけど、福田くんや須藤君、女子なら櫛田さんや私、小野寺さんあたりもターゲットにされるかもしれない。櫛田さんはクラスの中心にいる人物だし、私は偽装とはいえ、サバイバル試験で皆に指示を出したということになっている。水泳部で実力者として数えられている小野寺さんを警戒するのも不思議じゃないと思うわ」

 

 鈴音が絶妙な空気になってしまったこの場を、無理やり戻した。

 

「直接、怪我させる以外だと何があるかしら? 必殺の回避術を私にも教えて欲しいのだけど、綾小路君」

 

 これが鈴音の成長と言えるかもしれない。場の空気を戻しつつ、からかうことで少しだけ嫌な空気を穏やかにする。

 今までの彼女にはできなかったことだ。

 

「……俺に言われても困る。こういうのは福田の分野だ」

「人の心がない綾小路に言われても困る。鬼畜師匠の出番だ」

「冤罪だ。俺は須藤のためにアドバイスをしただけだ。決して鬼畜などではない」

「それよっ!」

 

 恵が立ち上がる。

 

「綾小路が鬼畜であることに対する猛烈なプッシュ。お前、ギャル子に何をした?」

「ちっがうわよっ! 冤罪の方よ、冤罪。当たり屋みたいなことをして、クラスポイントを要求とかしてきそうじゃない?」

「全く、クズな奴は困るな。人を陥れることばかり考えているから、そういう人道に反する行為が思い浮かぶんだ。反省しろ」

「あんただけにはクズ呼ばわりされたくないわよっ!」

 

 恵と仲の良い友人が大きく頷き、同意の気持ちを示した。

 

「でも、軽井沢さんの意見は貴重ね。確かに、相手からポイントを奪うという点で考えれば、その可能性は十分考えられる。わざと大事にして学校全体を巻き込むかも」

「さすがにそこまでするか?」

 

 池が当然の疑問を口にする。ここが普通の学校であれば、考慮にいれることもない。

 しかし、ここは特別な学校だ。上手くすれば望んだ進路に進めるのだ。手段を選ばない人間が居てもおかしくはないだろう。

 

「そう言った考えは捨てるべきよ。するかどうかは本質的な問題じゃない。そう言った卑劣な行為に対して無策で挑むのが危険という話よ」

「備えあれば憂いなし」

 

 福助の言葉に、皆が納得し頷いた。

 

「よし、やることはたくさんある! 皆、気合を入れて体育祭に挑もう!」

「「おう!」」

 

 そうしてBクラスは団結力を高めたのだった。

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