I am the perfect and ultimate XX   作:生物産業

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第26話 ナントカパイセン

 体育祭に向けて団結力を高めるBクラス。

 クラスの団結力とは反比例するように、自席で各々食事をとる福助、綾小路、鈴音。たまに会話らしい罵倒が飛び出すが、基本的には各自が自分の行動に専念している。

 その時だった。

 

「ねえ、3人とも少し話さない? 体育祭に向けてクラスメイトを知っておくのは重要だと思うし」

 

 声を掛けてきたのは佐藤麻耶。その後ろには彼女と仲の良い、軽井沢恵、松下千秋、篠原さつきがいた。

 少し離れて苦笑している平田がいるのは、福助に何かを言われないためだろう。

 

「俺は構わないよ」

「俺も」

「他の人を意見を聞くというのは必要ね。私も構わないわ。体育祭以降でも、そう言った情報は必要かもしれないし」

 

 鈴音は断るだろうと予想していた福助と綾小路は、顔を見合わせたが、鈴音に睨まれてすぐに元に戻った。

 各々が用意した昼食を持ってきて、近くの机を並べ替えながら、話し合いの場を設ける。

 

「……ギャル子、女子力高いじゃないか。弁当が可愛いとか生意気だぞ」

「あんたはどうしても私を褒めたくないようね。女の子なんだから、当然でしょうが」

「やめて差し上げろ。コンビニサンドイッチの麻耶たんに飛び火しちゃうだろ」

「あ、私も料理くらいできるよ。今日は、朝寝坊しちゃったから、コンビニで買ってきただけ」

「もうお前らギャルやめろ」

 

 福助の偏見に周囲が呆れる。

 

「女の子はいつだって可愛いを求めてるの。福助君は、その辺りから勉強した方がいいよ」

「可愛いは正義。これは永久不変の真理。すでに習得済み」

「たぶん、佐藤の言いたい事と違うと思うぞ」

「お、綾小路君は見所があるね。運動もできるみたいだし、実は隠れた優良物件?」

 

 麻耶の興味の視線が綾小路に移る。その様子をなぜか恵が不満そうな目で見ていた。

 

「綾小路君が不動産になるのはどうでも良いのだけど、体育祭の話をするんじゃなかったかしら?」

「おい、俺に値は付かないぞ」

「綾小路の将来性か……まず当人にやる気がないからな。何がしたいのかさっぱり分からん。俺の会社にはいらないな。起業するなら手伝うけど」

「それは評価されているのか、されてないのか、わからないぞ」

「ご想像にお任せ」

 

 含みのある福助。綾小路もそれ以上何も言わなかったが、食指が動いた麻耶が話を続ける。

 

「綾小路君は足が速いから、体育祭ではスターになるかも」

「やっぱ運動できる男子は注目が集まるよね」

「洋介君も注目の的だね」

 

 麻耶、さつき、恵がキャッキャと盛り上がる。

 

「福田くんは別枠なんだ」

「Ms.Chiaki, you always seem to hurt my delicate heart(千秋さん、貴女はいつも俺の繊細な心を傷つけますね)」

「You are special. Being special is amazing. It means being different from the rest(福田君は特別だよ。特別って凄いことだよ。他の人と違うんだもん)」

「In a good way, special, right?(いい意味でだよね?)」

「who knows?(それはどうかな?)」

 

 千秋の笑顔に、不満そうな顔を浮かべる福助だが、どうしようもなかった。

 

「おお、なんか二人とも賢い会話してるね」

「内容はひどいものよ」

 

 麻耶の言葉に鈴音が呆れて返す。

 

「あ、やっぱり堀北さんは聞き取れていたんだ。僕は最初のところが分からなかった。松下さんが、福田君を特別って言ったので、あってるかな?」

「さすが、平田。良い分だけ切り取ってる」

「そこで聞き取ってるじゃなくて、切り取ってるって言ってしまうのが福田の正直なところだよな」

「あ、綾小路君は全部聞き取れたのかい?」

「いや、あくまで福田の発言から、松下に文句を言ったんだろうなって予想だ」

 

 綾小路の返答に、何か思うところがあった平田だったがそれ以上は何も言わなかった。

 

「でも二人して英語で話してカッコいいね」

「私は福田君に教わってるんだ。ミーちゃんにも中国語を少しずつ習ってる」

「おお~バイリンガル。松下さん、国際派だね」

「いいなー。私はあんまり英語できないし」

「篠原さんも福田君に英語を習えば良いんじゃない? 佐藤さんや軽井沢さんも」

 

 良いことを思いついたと千秋が提案する。

 

「あ、それなら僕も良いかな? スピーキングを学ぶ機会ってなかなか得られるものじゃないし」

「ダメだ」

「イケメンだからだろ」

「無論だ」

 

 議論をする気はない。福助の強い信念に、女性陣は呆れた笑顔を浮かべる。

 

「別に洋介君が英語をしゃべれるようになっても、あんたの価値は変わらないわよ」

「なら良いだろう」

 

 恵にツッコまれて、信念を簡単に捨て去った。

 

「堀北はどうなんだ?」

「私は既にレクチャーを受けているわ。たまにセクハラ発言を混ぜ込んでくるのが、嫌になるけど」

「あ、それはわかる。ニヤニヤするから、良くない表現なんだって分かるんだけど、自分からは教えてくれないんだよね」

「自分で調べるのも勉強です。君たちが将来恥をかかないように、俺は泥をかぶっているんだ」

「絶対嘘でしょ」

「よし、ギャル子だけエスペラント語で会話しよう」

「エス……?」

「何かの本で読んだ気がするわ。たしか世界共通語を、人工的に作り出したとか」

 

 鈴音が当時の記憶を思い出す。

 

「一部の人が知ってる特殊言語の位置づけだね。文化的な側面があるから協会があって、ユネスコあたりと協力してた気がする」

「……それってしゃべれるようになって意味があるの?」

「それはギャル語が意味あるのって言っているようなものだね」

「エスペラントに対する冒涜じゃないかしら?」

 

 アジアのとある国の特殊文化から生まれた言語と同じにするには、失礼ではないか、鈴音は素直にそう思った。

 

「英語のことは横に置きましょう。それで、体育祭に関して話を戻したいのだけど」

「あ、そうだね」

 

 鈴音の言葉に、麻耶が同意する。

 

「ちなみに俺は戦力外だから」

 

 福助はそう言って、自分の体育祭での役割を説明する。

 恵と麻耶、さつきは、あまり学力に自信がないのか、もったいないと思いつつも少しほっとしていた。

 

「でも、そうなると戦力的に厳しい戦いになりそうだね」

「頑張れ。綾小路を擦り切れるまで使って欲しい」

「やめてくれ」

「でも、100mのタイム的に、須藤君、綾小路君、平田君は確実に勝ちを拾ってもらわないといけないわ」

「洋介君、サッカー部に洋介君より速い人っているの?」

 

 恵が平田に尋ねた。

 

「同じ学年で確実に速いと言えるのはCの柴田君だね。綾小路くんと同じくらいだと思う」

「となると、彼には須藤君をあてるしかないわね」

「福田くんでも良いんじゃない? 柴田君に勝たなきゃいけないわけじゃないわけだし。負ける気でいるなら問題ないと思う」

 

 千秋の提案に麻耶たちも納得した。

 

「そっか、不要なミスマッチを防げればいいんだよね。うーん、そうなると他のクラスの情報が欲しいかも」

「麻耶、君をCクラスに送り出そう。ギャル子、お前はAだ。篠原はD。それぞれちょろそうな男子を落としてきてくれ」

「平田君がいる軽井沢さんに、それを頼むのは酷くない?」

「千秋、Aは君の手中だ」

「まず、スパイ行為を平然と提案しないで頂戴」

 

 鈴音が呆れるように言うが、一つの作戦であることは間違いない。

 

「やはり、平田と綾小路を送り出すしかないか。ちょっとトラウマなことをされるかもだが、Bクラスのために散ってくれ」

「平田、俺たちの尊厳が簡単に失われようとしているぞ」

「そうだね。いくらなんでも容認できないかな」

「そんなに言うなら、アンタが行きなさいよ」

「俺が女子を口説き落せると思うか?」

「……ごめん」

 

 恵は心の底から謝罪した。

 

「福助君ってモテると思うんだけど、彼女が隣にいる姿が想像できない」

「あ、ちょっと分かる」

「麻耶と篠原は、午後の練習で血を吐きたいらしい」

「冗談よっ!」

「そうそう!」

 

 うら若き乙女が血をまき散らしながら練習する体育が、とある学校にはあるようだ。

 

「でも逆に他のクラスから色仕掛けされた場合、うちのクラスって結構引っかかりそう」

 

 千秋の言葉で、全員の視線が福助に向く。

 

「なんて信用の無さだ」

「Cなら一之瀬、Dなら椎名あたりから誘われたらついていくだろ?」

「帆波は問題ないが、ひよりは難しい。ほいほいしゃべってしまうかもしれない」

「裏切者を見つけたぞ」

「お手柄よ、綾小路君。彼と椎名さんの接触は阻止しなければならないわ」

「あとは3バカかな? 福助君は騙されていると分かっていても誘いに乗っちゃうけど、山内君や池君は分からずに誘いに乗りそう」

 

 麻耶の言葉に、女子の面々が大きくうなずいた。

 

「クラス内にスパイがいるなんてあまり考えたくないけど」

 

 平田が少し言いづらそうに、自分の思いを告げる。

 鈴音や千秋は、それは甘い考えだと言い、他の女子は平田の優しさを褒めていた。

 

「人間は感情で動くものだ。これは未だAIでは再現できない。5分後、平田が怒り狂って綾小路をボコボコにする可能性があるように」

「あってはならない」

「そ、そんなことしないよ」

「分からないだろ。例えば、綾小路がギャル子を寝取っていたら? 平田の知らないところで、イチャイチャしてたら? 発狂しちゃうだろ?」

「なぁ!? し、失礼なこと言わないでよっ!」

「そうだぞ。俺と軽井沢では釣り合わない」

「そ、そんな――いや、違うから!」

「あくまで仮定の話だ。そういう仮定があった場合、修羅場が起こっても不思議じゃない。何が感情のきっかけになるかはわからん。そしてそう言った感情の変化を上手く利用しようとする人間は意外と多い」

 

 各々が自分たちに当てはめて考える。そして、もしかしたらの可能性は誰にでもあった。

 

「これだけは俺も防げない。心を縛ることは出来ても、一瞬で裏返る可能性がある。ギャル子が明日には綾小路を刺すような状況も起こるかもしれない。弄んだ罰として」

「お前はどれだけ俺と軽井沢を陥れたいんだ」

「これは実際に俺があっちの大学にいた時に起こった事件だ。一人の女性が苛められているのを爽快に助けた男がいた。だが、それは男が裏で仕組んでいたことで、そのことを知った彼女は、翌日、その男の象徴を銃でぶち抜いた」

 

 全員が昼食を食べ終えてなかったら、相当な非難が飛んでいただろう。

 食べ終えている状態で、怖い話をするなと非難の視線が飛んでいるのだから。

 

「……スパイには気を付けましょう」

「「うん」」

 

 福助の所為で、最悪の昼食となるのであった。

 

 ◆

 

 情報収集は大事。

 そうなれば休日の部活動で各クラスのエース選手を調査するには持って来いだ。

 人海戦術という言葉があるように、福助が声を掛けた面子が寮の前に集まる。

 

「綾小路、鈴音、桔梗、佐倉……以上」

「男女の比率がおかしいぞ。どうせなら、イーブンにするべきだ」

「平田、須藤は部活だ。外村は相変わらず別次元に飛び立っている」

「他の男子はいないのか?」

 

 福助は決して人望があるわけではない。

 あいつがいれば何とかなる、そのように信用はされているが、だからといって平田のように信頼されているわけではない。

 

「仕方がない。俺が呼びだしてみる」

「ボッチが何をいう」

 

 綾小路の発言に、鼻で笑う福助。

 綾小路が電話するために少し離れる。

 

「誰を呼ぶのかしら?」

「池と山内をこの面子で呼ぶ危険を考慮すると……女子がいても騒がなくて、部活をやっていない。休日にまで体育祭のことで協力してくれる上昇志向の高い奴。幸村と見た」

「綾小路君の人望を一切考慮に入れていないのがさすがだわ」

 

 鈴音が呆れてから数分後。エレベーターから幸村がやって来た。

 

「どうだ」

「もう少しドヤ顔を学んで来い」

「綾小路君が分かりやすいのか、福田君が凄いのか、ちょっと分からなくなったわ」

 

 福助の予想通りに幸村が登場し、鈴音は少しばかり苦笑した。

 それから6人で校内を見回ることになるが、福助が渡すものがあると言ってカバンから眼鏡と双眼鏡を取り出した。

 

「度が入っていないから佐倉と幸村は無理だな。桔梗と鈴音はこれをかけてくれ」

 

 そう言って渡したのはフレームに何やらボタンがついている眼鏡。変装用の伊達メガネというわけではないらしい。

 

「何かな?」

「言ってしまえば動画撮影用メガネだ。露骨にビデオカメラを回して、セクハラと言われたくないからな。学校支給のスマホと連動できるようにしてあるから、行きがけにこのQRコードを読み取ってアプリをインストールしてくれ。見た映像から解析作業を行ってくれる優れものだ。わざわざタイムを計る必要もない」

「高性能をアピールしているが、女子テニスと、水泳部を観察しに行くことは確定しているわけだな」

 

 綾小路の鋭い指摘に、女子陣が冷たい目を送る。

 部活動でカメラを回して、セクハラ発言をされる場所はかなり限られる。

 

「ちょっと待ってくれ! お前たちはこれがどれだけ凄いことなのか分かっていないのか!?」

「福助君だから」

「彼が何をしても驚かないわ」

「あ、あのーちょっと興味あるので、あとで使わせてもらっても良いですか?」

 

 女性陣は特に気にしていないようだ。

 驚愕の幸村に、綾小路が諦めろと優しく肩を叩く。

 

「双眼鏡も同じだな。ぶっちゃけ眼鏡だけで良かったんだ。ただ眼鏡の集団が部活動を観察しているのは異様だろ? カモフラージュだ」

 

 双眼鏡用のQRコードも皆に渡していく。

 

「本当のカモフラージュは、眼鏡女子を見たかったとかか?」

「勘のいい綾小路は嫌いだよ」

 

 そんなくだらないやり取りをしながら、グランドに向かった。

 

 ◆

 

「サッカー部ってなんであんなに爽やかなんだろか? ラグビー部や相撲部を横に並べたら、暑苦しくてこの上ないのに」

「真面目に偵察しろ」

 

 双眼鏡を覗きながら、福助と綾小路はサッカー部を観察する。

 同じクラスである平田とやりとりをしている1年生を中心にデータをスマホ端末に保存していった。

 

「佐倉、今日は長谷部はいなくて大丈夫なのか?」

「波瑠加ちゃんは用事があるみたいで。いろんな忠告をされましたけど」

「あいつはお前のお母ちゃんか。まあ、忠告の内容は予想がつくから言わなくていい。どうせ、俺の事だろう」

「はい」

 

 愛里が申し訳なさそうにする。

 愛里としても初めてできた友人であり大切だと思っているが、少し過保護なところがあるかなと思っている。

 

「波瑠加ちゃんも悪気はないんですけど」

「だろうな。佐倉が妹みたいで可愛いんだろ」

 

 福助が特に気にした様子を見せないのでほっとする愛里だった。自分が変わるきっかけを作ってくれた人だ。

 できれば、友人には信用してもらいたいと思っている。

 

「それにしても意外だ。佐倉が長谷部以外としゃべっている姿がかなり珍しい」

「綾小路、自分がボッチだからって人をボッチ・ザ・ワールドに巻き込むな。佐倉はその世界とは決別したんだ」

「福田くんは話しやすいので。それに波瑠加ちゃんと福田くん以外とはほとんどしゃべっていません。だから綾小路君の言っていることは間違ってないですよ」

「配慮が足りてなかったみたいだ、すまん」

「いえいえ!」

 

 慌てる愛里。

 そんな愛里を見ながら、可愛いかよと一人呟く似非紳士。

 そんな彼らのやり取りを見ながら、働けクソどもと心の中で暴言を吐く、表だけは大天使の美少女。

 我関せずを貫く学力優秀組。なんとも奇妙な集団ができあがる。

 

「今日も活気があって良いな」

 

 一人のイケメンが髪をなびかせながら現れた。

 南雲雅、二年生にして生徒会副会長を務める男だ。

 

「あ、ナントカパイセン、お久ー」

 

 このメンバーで唯一、南雲と面識がある桔梗が挨拶をするところだった。

 しかし、桔梗より前に彼と面識を持っていた男が、先輩にも関わらず軽いノリで挨拶をかわす。

 そう、福助だ。

 

「なしか合ってねぇよ。南雲だ……4月以来だな」

「そだね。パイセンのおかげでポイントがたくさんたまったから、学校生活をエンジョイ出来てるよ。感謝感謝」

 

 福助は相変わらずの対応だが、南雲はそうではない。どこか苛立ちを見せている。

 

「人からすべてのポイントを奪ったやつがよく言う」

 

 その言葉に反応したのは、福助と南雲以外の全員。

 

「正当な勝負に負けた後でごちゃごちゃ言うのは、イケメンの名折れだぞ」

「分かっているさ。だが、憶えておけ。俺は必ずお前と再戦して勝利する。首を洗って待っておけ」

「ポイントをためてまたどうぞ♪」

 

 忌々しい奴、そう言葉にしなかったが、南雲はそうした視線を隠そうともせずに、その場を後にした。

 生徒会に属しているが、元々サッカー部だったらしく、辞めた後でも、一番うまいので顧問から呼ばれて練習に参加しているようだ。

 

「福助君、説明して欲しいな」

 

 南雲が去ったのち、疑問を持った皆を代表して桔梗が尋ねる。

 

「綾小路と鈴音は知っているだろ。この学校の仕組みを調べるために、上級生に勝負を挑んだ話」

「ああ、入学してすぐの日だったな」

「貴方からこの学校のシステムの予測を聞かされた後だったと思うわ」

 

 二人が当時の記憶を思い出す。

 

「その時、適当に勝負を挑んでポイントを巻き上げた中に、パイセンがいたんだ。最初に2年の人に喧嘩を売って、ポイントを全部奪って、たくさんポイント持っている人知らないって聞いたら、彼の名前が出てきてね」

「それで喧嘩を売りに行ったのか」

「ひぇ~」

 

 綾小路は少し呆れ、愛里は変な悲鳴をあげている。

 

「だって2年生を掌握してるなんて聞いたら、どれだけエリートなのか気になるじゃん。見つけてすぐに勝負を挑んだんだけど、軽くあしらわれてね。煽りに煽ったらやったことのないサッカーでの勝負になったわけ。まあ、アメフト経験のあるワタクシですからちょちょいですよ。初めてやったサッカーで勝ってやりましたとも」

「……福田っていつもこんな感じなのか?」

 

 あまり福助と親しくない幸村が、他の面々に尋ねる。返答は無言の頷きだった。

 

「いやでも、初めてのスポーツで勝負だよ? せこくない? ルールは知ってるからPKくらいかなと思っていたけど、普通にドリブルシュート対決。これは全部ポイントを奪うしかないよね? 俺は退学を賭けたし」

「福田くんの運動センスの原点はどこにあるのかしら? バスケも得意だったわよね?」

 

 福助が退学を賭けたことは気にならないらしい。

 

「見たら大体できる。見て理解して身体を動かして再現する。すべての基本だよ」

「頭が良いって、単純に凄いこというのが伝わってくる。俺なんか勉強しかできないのに」

 

 幸村ががっくりと肩を落とす。そんな彼でも、学力という点で言えば学年でも上位に入るのだ。

 しかし、運動能力は皆無。基礎的な体力がないこともそうだが、見たことを再現できるセンスがまるでない。

 その点で言えば、見て理解して、再現する。当たり前のようでいて難しいこの行動を軽々とやってのける福助を、頭が良いと表現するのは幸村なりの敬意の表れなのだろう。

 

「生徒会ってうちのクラスの完全上位互換の面子がいるんだよね。マナブ君は鈴音の、南雲君は桔梗の、橘パイセンはギャル子。ギャル子はああ見えて尽くすタイプ」

「一人知らない人が出たな」

「橘茜先輩。生徒会の書記で、生徒会長のサポート役で有名だよ」

 

 綾小路が知らない情報を桔梗が補足する。

 

「そう言えば、生徒会長って堀北って名前だったな」

 

 幸村の言葉に鈴音が反応した。

 少し言いづらそうにしている。

 あまり打ち明けたくないことであるが、知っている人間が数名いるためそのまま真実を伝えた。

 

「兄よ」

 

 特に驚きは起こらなかった。福助が指摘した時点で予測が出来ていたからだろう。

 

「生徒会長と堀北が同タイプなのは納得だが、さっきの南雲先輩と櫛田の似ている部分ってなんだ?」

「綾小路、あのイケメンが2学年を掌握した方法を知っているか?」

「単純な実力じゃないのか?」

「頭が良くて運動ができるだけで学年を掌握できるなら、俺を1学年女子が褒めたたえている。なぜだ?」

 

 褒めたたえられていない理由に、福助は自問自答した。周囲はお前が変態だからだと、口に出さずに目で訴えている。

 

「となると対人能力か。平田タイプか、暗躍タイプかで判断が分かれるな」

 

 平田を例に出しながらも、桔梗の名前は出さない。綾小路の本能的回避能力の高さがうかがえる。

 

「女子陣は気を付けろよ」

 

 その言葉で察しがついたのは桔梗だけだった。

 そして自分が南雲に似ていると言われたことに、その意図を福助に尋ねた。

 

「福田くん、言いたいことは何かな?」

 

 笑顔で迫る桔梗。おめぇ余計なこと言ったらぶっ殺すぞという脅しの念を込めるのを忘れない。

 

「南雲君は女子を、櫛田は男をたぶらかす悪魔だってこと。顔が良くて人当たりの良い性格に見える(・・・)奴は本当にずるい。俺はモテたいっ!」

「櫛田さんに言いがかりをつけながら、自分の思いのたけを叫ぶ。これが常人には計り知れない天才の思考か」

「幸村、戻ってこい。それは福田が最低なだけだ」

 

 福助の所為で、天才の定義が崩れかける幸村。綾小路がいなければ、自分の歩むべき道を踏み外していたかもしれない。

 

「まあ、南雲君も元々はBクラスで、実力でAクラスにしたみたいだし、うちのクラスの目標になるかもね。頑張れ桔梗。すべての男を手玉に取るんだ」

「や、やめてよっ!」

 

 ぽこぽこととダメージがないように叩く桔梗。周囲が見ていなければ全力だっただろう。

 ここでも可愛く見せるしぐさが、彼女の素晴らしき能力である。普段桔梗と接しない幸村は「か、可愛い」と頬を赤らめている。

 

「福田くん、あまり女性を苛めるのは感心しないわね」

「お兄たまと同じと言われて舞い上がった鈴音たんに言われても」

「なっ!?」

 

 顔を真っ赤にした鈴音までも福助叩きに参戦する。

 

「福田がモテない理由をこれでもかと見せてくれるな」

「はい」

 

 そんなやりとりを見て抱いた感想が同じだったことで、綾小路と愛里が少しだけ仲良くなるのだった。

 その後、綾小路、幸村、愛里は他の3人を放置して、データ集めに精を出し、体育祭に向けての準備を進めるのだった。

 

「眼鏡が似合ってて可愛いです」

「「うるさい!」」

 

 福助が二人に怒られる様子を、休憩中の平田が目撃したのは偶然ではない。

 

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