I am the perfect and ultimate XX   作:生物産業

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第29話 俺への信頼が怖い

 交流関係が広い平田、桔梗の両名が情報を集めた結果、ペーパーシャッフル試験のペアを決定する仕組みが解明された。

 簡単に言ってしまえば、小テストの結果で点数の最大点と最小点の差が広い生徒から順にペアを組む方式。成績の良いものと悪いものが組むことで、ペアの平均化をはかっている。

 鈴音クラスはそこから策を考える。相手をするクラスはまだ決めていないが、ペアをより理想的なものに近づけるための対応だ。

 そのため、成績上位10人には100点を目指してもらい、下位10人には0点を取ってもらうことになった。小テストの成績が個々の成績に影響しないから出来る作戦だ。

 同様に残りの20人にも、80点と1点というペアを作ってもらっている。

 福助はトップ10の生徒に入っていない。

 

「貴方とペアを組んだ人が、やる気にならないじゃない。貴方が満点を取るのは決定事項だもの」

 

 ペアを組んだ相手の成長がなくなることを危惧した鈴音の提案であった。

 福助はそれを了承。特に異論は挟まなかった。

 

 そして小テストが終了する。

 点数が同率の場合は、ランダムに選定される。下位10人をすべて0点にしているため、ここからのペアは任意では決められない。

 鈴音と須藤、平田と山内、桔梗と池、幸村と井の頭といった具合に、予定通りのペアが発表された。

 

「お前、フラグぶち抜いてますやん」

「ちょっとビックリしてる」

 

 綾小路のペアは、佐藤麻耶。綾小路曰く、告白してくれそうな女子である。

 

「良いと思うよ。麻耶は明るい奴だ。お前の陰のオーラを打ち消してくれる」

「いや、確定ではない。これで何もなければ俺はただの痛い奴だから、あまり広めないでくれ」

 

 もし麻耶が告白しなかった場合、綾小路君の黒歴史が福助によって刻まるのは避けられないことだろう。

 相談した相手を完全に間違えた綾小路だった。

 

「お前の方は大丈夫そうか?」

「ギャル子と一緒に退学とか末代までの恥」

 

 福助は恵とペアになった。3バカほどではないとはいえ、成績下位の恵が、80点ピッタリの福助とペアとなるのは不思議ではない。

 

「泣かせるなよ」

「お前は俺を何だと思ってる」

「やばい奴」

「サイボーグみたいなお前にだけは言われたくない。しかし、女子の胸を鷲摑みしたあの――」

 

 あの時のお前は嬉しそうだったな、そう言おうとした時だった。福助の足に激痛が走る。

 そして、間近に満面の笑みの女の子が一人。櫛田桔梗だ。

 

「なんの話をしているのかな?」

「急に現れた上に人の足を踏むとか、どういう神経してるの?」

「あれ~? 何のことか分からないよ~」

 

 ぐりぐりと福助の足を攻撃し続ける桔梗。どうやら池とペアになったことで、ストレスがたまってしまったようだ。

 

「櫛田、いくら周りに人がいないとはいえ、怪しまれるぞ」

 

 綾小路がヘルプを入れるが、桔梗は聞く耳を持たない。

 

「大丈夫、人がいないことを確認してきたから」

「クソだな」

 

 素がバレている二人の前なら、何をしても良いだろうと困ったちゃんの暴れっぷりにさすがの福助もツッコミをいれる。

 現在、教室に残っているのは数名で、福助と綾小路は陰のオーラを放っているので、基本的には誰も近づいてこない。

 それが分かっているからこそ、桔梗も素を出しているのだ。過去の恥ずかしいやり取りを暴露されそうになって慌てたわけではない。

 

「勉強会はどうするかな」

「部活をやっている組とそうでない組で分かれるんだよね? 堀北さんと平田君で分担することになってる」

「ギャル子をそこに放り込むと集中力がもたない。どっかに隔離するか」

「発言が危ないぞ。隔離って普通の生活で出てくる言葉じゃない」

「女の子と意図的に二人っきりになろうって魂胆が透けて見えるよ」

「やめろ。彼氏持ちに興味はない」

 

 あーだこうだと3人で話していると、件の恵が麻耶を引き連れてやってきた。

 

「ねぇ」

「きよぽんと麻耶たんと一緒に勉強会はしないぞ。お前の集中力のなさで友達が近くにいる状態じゃ、上がる学力もあがらん」

「うっ」

「誰がきよぽんだ」

 

 自分の言いたいことが分かってしまい、恵は苦い表情を浮かべる。

 

「綾小路はバカではない。麻耶に教えながらやれば、自分の点数も上がるだろう。だから、お前らは二人でやれ」

 

 綾小路の能力を知る福助だが、二人の恋愛事情も知っているため、綾小路の能力を隠しつつ、二人っきりになる場を提供した。

 

「綾小路くんはそれで良いかな?」

「ああ。だが分からないところは本当に分からない。それで良ければだがな」

 

 綾小路の言葉に麻耶は嬉しそうに笑顔で返す。

 

「まあ、綾小路には他にも長谷部、三宅ペアへの対応もあるから。大変だろうけど」

「幸村が教師役を引き受けてくれたが、なぜか堀北の連絡係に俺が任命されてしまった」

 

 波瑠加と三宅はこのクラスでは、一人でいることが多い。

 愛里と接するようになってからは、波瑠加も一人でいることが減ったが、それでも一人でいることを苦にしない性格のためか、あまり誰かとつるみはしていない。

 三宅も波瑠加と同様だ。孤立しているわけではないが、一人でいることが多かった。

 そんな二人が今回の試験でペアになる。

 当然仲良くお勉強というわけにはいかないが、二人も退学が掛かっているのだ。少なくとも、自分たちの得手不得手を知って対策すべきだと話し合った結果、困った状況に陥った。

 

 二人の傾向が類似していたのだ。先日行われた中間テストを見比べても、名前を書きかえればどっちの答案かわからないほど、正解と不正解が一致していた。

 しかし、そうなると個人で勉強するのはまずい。二人とも似た弱点を持っているのだ。その弱点を突かれるような問題があった場合、二人して得点を失う。

 それは退学が現実的なものになってしまうため、普段クラスに関わらない二人が藁にもすがるような思いで鈴音に相談したのだ。

 

 勉強会に参加することを打診されたが、合わないだろうと二人が拒否を表明。そこで名乗りを上げたのが、体育祭で活躍できなかった幸村だ。

 勉強だけではこの学校ではやっていけない。それを痛感し、クラスのためになるならと二人の教師役を買って出たのだ。

 幸村だけでは問題が起こった場合に、対応ができないと鈴音が綾小路を派遣。連絡係として勉強会グループに組み込まれたというあらましだ。

 

「長谷部がいる以上、佐倉もいるだろう。コミュニケーション能力が試されるいい機会だな」

「俺はお前みたいに誰とでも話せる社交性は持ち合わせていないんだ。ゆっくり一人一人と関係を築きたい」

「それは麻耶とでもやってくれ」

「あ、仲良くなっちゃう♪」

 

 ナイス福助と言わんばかりに、麻耶が綾小路に近づく。それを不満そうにみる恵に福助は気付いていたが、何も言わなかった。

 

「とりあえず、ギャル子は個室の勉強スペースで良いか? 人に見られる図書館よりはいいだろ?」

 

 この学校には自室以外に集中できるスペースがいくつか存在している。

 無料ではないため、誰もが利用しているわけではないが、ポイントに余裕があり気分を変えたい時に使う生徒はそれなりにいる。

 この情報は福助が学から聞いたものだ。

 

「うん」

 

 男と二人っきりになる状況だが、特に気にした様子がない。

 お互いが異性として興味を持っていないこともあるが、恵としては福助と一緒にいるところを見られても問題ないという認識が大きい。

 このクラスでの福助に対する認識は珍獣のそれであり、男女の仲を疑われることはほぼない。

 

「桔梗と綾小路も勉強で分からないことがあれば、連絡をくれ。めっちゃバカにしながら教えてやるから」

「あー、本当、なんでそういう言い方しちゃうかな」

「櫛田、福田はこういう人間だ。諦めろ」

「私、どんだけバカにされながら勉強を教わることになるの」

「軽井沢さん、頑張って」

 

 恵の不安な未来に、麻耶は応援するしかできなかった。

 

 ◆

 

「へぇー」

「あによ」

 

 現在の恵の実力を測るための簡単なテストをした結果、福助から感心したような言葉が漏れた。

 条件反射のように恵は睨むが、池や山内にするような攻撃的な意思は感じられない。

 

「バカすぎて、感心した」

「ぐぬぬ」

 

 中間テストの結果を知っているため、ある程度は予測していた福助だったが、下位10名に入らないのが不思議なくらいの出来だった。

 

「目標は?」

「あんたに迷惑をかけないくらい」

「よし、満点ね。死ぬ気で勉強しろ」

「ちょっと!」

 

 満点はさすがに無理と、恵が悲鳴をあげる。

 

「冗談だ。さて、俺特製のアプリの出番だ」

「あー佐藤さんが使ってたやつ? あんたが無理やり消したって言ってたけど」

「そう。麻耶はのめりこみ過ぎたから、危険と判断した。クラス中に配っても良いんだが、40人がスマホをガン見している光景はさすがに異様だろう? だから、今はある程度選別している。最終的にどうしようもなくなったら、導入しようと思う」

「学校に行く意味を問われそうね」

 

 40人がスマホを見つめるクラス。異様どころか、病気だろうと恵は思った。

 

「教師役は綾小路で良いか?」

「ふぇ!?」

「驚きすぎだ。お前、自分の挙動がおかしいことに気付いてないのか? 平田とは別れたんだろ? さすがに二股かける奴だとは思いたくない」

「……」

 

 バレていないと思っていた恵。9月に入ってから平田を下の名前で呼ぶようになって、仲の良さを周囲にアピールしていたが、実際はそうではなかった。

 

「というか平田と付き合っていたというのも、どうなんだろうな。平田がお前を特別視しているところを見たことがない」

「……」

「事情は聞かないが、今度の彼氏役は綾小路で良いのか?」

「……べ、別に、か、彼氏ってわけじゃ」

 

 頬を赤く染めながら、顔を背ける恵。まだ、違うらしい。

 

「麻耶に遠慮している感じか?」

「……それもあるけど、ちょっと違う。というか、佐藤さんの気持ち知ってるんだ」

「まあな。綾小路なのは、平田を彼氏役にしていた理由と同じか」

「うん」

「お前、見る目だけはあるな」

「もしかして、アンタもあいつが凄いことを知っているの?」

「さあな?」

 

 あえて知らないふりをする福助。恵はそれだけで答えが分かった。

 

「ねえ、ちょっと聞いても良い?」

「綾小路の好みは知らん。胸が大きい女くらいか?」

 

 無意識に自分の胸を触る恵。そして自分のその行動を理解してから顔を真っ赤にする。

 

「ば、ばかっ! なんてことさせるのよっ!」

「お前が勝手にしたんだろ。それとボリュームを落とせ。いくら個室とはいえ、周囲の迷惑を考えろ」

「くっ」

 

 正論に押し黙る恵。防音対策がされているとはいえ、騒いでいい理由にはならない。

 そもそも勉強する場所なのだから、大声を出していいわけがない。

 

「で、何が聞きたい?」

「アンタって苛めにあったって言ってたじゃん」

「ふーん、お前も過去に苛められてたくちか。ギャル子詐欺の理由が分かった」

 

 たった一つの会話で、自分のすべてを見透かされたような感覚。

 恵は驚き以上に、恐怖を感じた。

 

「ば、ばかにしないの?」

「なんで? 苛めはどこまで行っても苛める方が悪い。相手が不快なら無視すれば良いだけの話。それが出来ない無能さを擁護する気にはならない。あ、俺のイケメンへの嫉妬は見逃してくれ」

「……」

 

 恵は少しだけ肩から力を抜く。思っていた以上に緊張していたようだ。

 中学時代に受けた、人ではない扱いがまた繰り返されるのかと一瞬だけ思ったが、そんな心配は無用だった。

 

「私は苛められてた。それこそ死にたくなるようなこともたくさんされた」

 

 恵は泣きそうになりながら自分の心を打ち明ける。

 なぜ福助に話したのかは分からない。ただ、福助なら受け止めてくれると本能的に感じ取ったようだ。

 

「心が壊れて、何も感じなくなった。でも、そんな自分じゃダメだと思って、過去の私を誰も知らないこの学校を選んだ。自分を変えてやろうって」

「月並みな言葉で悪いが、よく頑張ったな。立派だ」

「アイツと同じこと言うんだ」

 

 泣きそうな顔から、恵は少しだけ優しい顔を浮かばせる。

 

「綾小路が?」

「うん。船上試験のとき、Dクラスの女子と少しもめたんだ」

「まあ、仮初のお前はそうなるだろ」

 

 カースト上位に取り入って、周囲を威圧して、自分が苛められる側に絶対に回らないようにする。

 恵はそれだけを、絶対視してこの学校で実践してきたのだ。

 当然、反感を買うこともある。

 

「それで、言い争っているうちに、人のいないところに連れていかれて」

「苛めを受けたと」

 

 小さく頷く。

 

「絶対に負けるもんかって思ったけど、やっぱりトラウマが出てきて、私泣いて叫んだの、やめてって。あの子たちはそれを笑って見てた。昔苛めて来た奴らと同じ顔をしてた」

 

 人間の負の部分。自分より下の存在がいた場合、残虐になる人間は少なからず存在する。

 

「また、中学の頃の繰り返しになるのかって思った時、アイツが助けてくれた。スマホで一部始終撮影してたみたいで、脅しも十分だった」

「ヒーローじゃん」

「うん。私にとって間違いなくヒーローだった。ありがとうって感謝したら、福田ならこうしたはずだ、俺は感謝される人間じゃないって。少しカッコつけてた」

 

 嬉しそうに笑う恵。福助もそれを聞いて苦笑いする。

 

「イケメンじゃん」

「そうね。助けるのが遅れてすまないって逆に謝られた。福田ならもっとスマートに解決したとか言ってたけど」

「アイツの俺への信頼が怖い」

「そこはちょっとムカつく」

「おい」

 

 冗談だよと、恵は笑う。

 

「泣いている私をよく頑張った、立派だって慰めてくれて、これからは俺が守ってやるって」

「カッコ良すぎじゃない? これでマッチポンプだったら、最悪だけど」

「あーあのお昼の話ね。自分の話をされたみたいでかなりビックリした。こいつ、人の心読めるのかよって」

「読めないから。綾小路に人の心があると信じたい」

「さすがにないと思う。言い争いは完全に私が原因だし、人がいない場所に連れていかれたのもたまたま近くに空き部屋があっただけだし」

「それなら良いが、あいつのたまたまをぶち抜きたくなったら、相談してくれ。アメリカに連行して、射撃の的にしよう」

「変な想像させないでよ」

 

 白馬の王子様のイメージが一瞬にして塗り替えられる。

 

「でも、そこまでベタ惚れで付き合ってない理由は?」

「付きあっ!? べ、別に恋愛感情があるわけじゃ」

「落ち着け。お前の心の内はすでに白日の下にさらされている。今更言いつくろったって無意味だ」

「うぅ~」

 

 再度を顔を真っ赤にさせて、頭を抱える恵。

 それからしばらくして、ぽつりと言葉を絞り出した。

 

「あいつ、恋愛とか分からなそうじゃない?」

「童貞野郎だからな」

「女の子の前でそういうこというのやめれば?」

「俺は素直なんだ」

 

 じと目でみる恵を、福助はなんてことのないように流す。

 

「過去のことがあるから、バレたくない。だから、あいつとは恋愛しなくてもいい。それにあいつが恋愛してくれるかも分からない。そんなことで悩んで、気が緩んで過去のことがバレるのは嫌」

「普通に俺にバレてるけど?」

「あんたはクズだけど、アタシを苛めてきた奴とは絶対に違う。それだけは断言できる」

「褒めてんの? 貶してんの?」

 

 福助がクズであることは疑いようがないらしい。

 

「私は、この学校生活を何事もなく過ごしたい」

「心配するな。例えお前の過去の情報が出回ったとしても、俺が改竄してやる。情報を出した奴が、学校を去るだけだ。それくらいはしてやるさ。綾小路の友人代表として」

「……それは応援してくれているの?」

「麻耶には悪いけどな。俺の友人は一般常識が欠落しているからな、ツッコミ役は必要だと思っている」

「私の価値ってなんなのよ」

「さあな?」

 

 福助の不敵な笑みに恵は不満そうな顔をする。

 

「青春しなさいな若人よ」

「アンタ急におっさんになるのはなんでなの?」

「お前らがガキなんだよ。成長しろ、クソガキ」

「くぅ~」

「あと、護身術くらい身に付けろ。普通の女子が相手なら、簡単に制圧できるぞ。鈴音が苛められない理由の一つだ」

「うぅ」

「綾小路も何かしらの武道の経験はあるっぽいし、一緒に練習したら?」

「あんたは教えてくんないの?」

「意中の相手がいる女子に手を出す気はない」

「困っている女の子を助けないからモテないんじゃない?」

「綾小路相手なら、寝技も練習できるでしょ? これは気遣い」

「……変態」

 

 本日の会話で初めて、混じり気なしの蔑みの言葉が恵から放たれた。

 

「よし、勉強すっぺ」

「そんな気分じゃないわよっ!」

 

 その後、恵は勉強マシーンに改造され、後日、彼女を見た綾小路が「直接脳を弄ったのか?」と尋ねてきたのは小話の一つである。




恵ちゃんに不幸は訪れません。
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