I am the perfect and ultimate XX   作:生物産業

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第3話 4か国語を話せる!

 放課後、福助は自室で電話をしていた。

 

「原本で読んでも号泣した。そして日本語版はもっと号泣した。日本語ならではの独特の表現が好きすぎます」

「『アルジャーノンに花束を』は私も泣きました。何度も何度も読み返しましたし。切なさとは、幸せとはと何度も考えさせられました」

 

 感想が聞きたいですと、チャットが届いた。送り主を見れば、椎名ひより。すでに彼女に教えられて、再度読み直した『億万ドルの舞台』は当時ほどの面白さはなかったものの、懐かしさが思い出され、なんとなく心が温まったと、ひよりに返信してから今に至る。

 直後に電話がかかって来てからは、そのまま小説の話に。名作の話の流れから、感動的だったもの話に移り、号泣した本について語っているのがいまだ。

 

「そう言えば、『億万ドルの舞台』の著者調べて、他の本を読んでみたけど、『ゲームの達人』とかおすすめ。何が面白いのか分からないのにすげぇ面白い」

「ふふ、言い得て妙ですね。分かりました、今度図書館で探してみます」

「俺と同じ感想になるか興味があるから、読み終わったら教えてね」

「はい。では、夜遅くに失礼しました」

「いいえ~」

 

 そう言って電話を切る。

 夜中に美少女と電話でやり取り、実にリア充な生活だと満足顔で眠りにつく。

 

 そして翌朝、リア充の王に君臨したような気分は一転、全身が鉛のように重くなったような憂鬱さで学校に向かう。

 教室につけば、当たり前のようにいる友人。

 そんな友人に気にせず、やり場のない気持ちを、暴言と言う形で吐き出す。

 

「なんてクソな日だ」

「機嫌悪いな。話聞いてやるぞ」

 

 二人での会話が普通になりつつある綾小路が福助のイラついた様子に気を遣う。

 それが、無駄な厚意だと知らずに。

 

「俺、プール嫌いなんだ。塩素のにおいが嫌すぎる」

「クソどうでも良い話で安心した。見学はやめておけよ、何かしらの査定に響くかもしれん」

 

 しょうもないことで気分を害す福助を、軽く流して、綾小路はプールの授業のために教室から連れ出す。

 テンションが爆下がりしている福助と違い、男子は気持ち悪いくらいテンションが上がっている。

 

「女子の水着、女子の水着」

「櫛田ちゃん、櫛田ちゃん」

 

 山内と池、ここに須藤を加えるとDクラス最底辺の知性が出来上がる。

 高校生の男子らしいと言えば、そうだが、せめて欲望を隠す努力をしろと綾小路は思った。

 

「おいおいおい」

「バッキバキじゃねか」

「文学少年じゃなかったのか。休み時間は本を読んでいるからてっきり」

 

(綾小路も大概だろ)

 

 福助の身体を見た、山内、池、綾小路の感想である。綾小路の身体をみた福助も彼らと似た感想を抱いた。

 

「帰国子女なもんでね。向こうじゃガタイの良い奴が多いから、舐められないように必然的にマッスルだよ」

「帰国子女ってマジかよ。実は俺もそうなんだ! 日本語、英語、フランス語、イギリス語の4か国語話せるぜ!」

「Wow, that's impressive. By the way, where are you from? I'm from Cambridge, Massachusetts, in the United States, and I majored in computer science.」

「なんて?」

「というか、英語とイギリス語って同じ意味じゃね?」

 

 山内に英語で質問してみたが、返答はなかった。

 

(なるほど、なるほど。これはDクラスですわ)

 

 やべえのがいるなと、悪い意味で感心しながらプールサイドに移動する。

 そしてしばらくすると、女子たちがやって来た。

 一部の男子が、感嘆の声をあげる。櫛田の水着姿に涙を流す変態が若干名いたが、福助は同類と思われないように距離をとった。

 そこに女子生徒の中では浮いている鈴音がやってくる。

 

「……なにかスポーツでもやっていたのかしら?」

「バスケ、アメフトの本場で、自分よりも何個も年上の連中とやりあってましたとも」

「納得の体つきね」

「これ俺が堀北に言ったらセクハラになる案件だよね?」

「プールだもの、水難事故は怖いわね」

「怖いのはお前じゃい」

 

 バカなやり取りをしているうちに綾小路が合流。

 それから談笑しながら、身体をほぐしたところで教師からお呼びがかった。

 

「よーし集合!」

 

 見学者の数名を除いて、生徒たちが集まる。

 

「さっそくだが、お前らの実力がみたい。1位には特別ボーナスで5000ポイントを支給する。遅い奴は補習になるから手を抜くなよ。それと泳げない奴は先に言ってくれ、先生が夏までに必ず泳げるようにしてやるからな。それに泳ぎは将来、絶対に役に立つぞ」

 

 男女別で50M自由形が開催されることになった。

 女子部門では水泳部に所属している小野寺かや乃が一位となっていた。

 鈴音は小野寺に迫ったが、明確な差をつけられての二位。からかったらブチ切れるだろうなというのが分かるくらいには不満そうな顔で、プールサイドに座っている。

 

「惜しかったね」

「慰めは不要よ」

「ざっこww」

 

 鈴音の神速の回し蹴りが、福助に直撃するが、逆に鈴音がダメージを受ける羽目になった。

 

「……足に鉄でも仕込んでいるのかしら」

「アメリカンフットボーラーですから」

「答えになっていないわよ」

 

 涙目で非難の目を向ける鈴音を笑って制する福助。それが鈴音をイラだたせることを分かってやっているあたりかなり性格が悪い。

 

「お、出番だ」

「お手並み拝見させてもらうわ」

「俺としては綾小路の実力が気になるんだけどね」

「……彼も良い体つきをしてるわね」

「えっち」

 

 死になさいと殺気のこもった睨みつけを、華麗にながしながら福助はスタート台に向かう。

 

「福田君、よろしくね」

「よろしく、平田。イケメンはもげろって思っているから気を付けて」

「……いきなり物騒なことを言わないで欲しいな」

 

 苦笑する平田。高校生活が始まって二週間ほど経つが、Dクラスのリーダーは誰かと問われたら、彼の名前が真っ先に上がるだろう。

 穏やかでさわやかな好青年。一部男子の嫉妬を除けば、クラスから好印象を一番持たれている存在だ。

 サッカー部に所属しているため、運動能力は高いと言えるだろう。

 

「へ、俺向きの授業がやっと来たぜ。お前ら、悪いけど勝たせてもらうぜ」

「お手やわらかに、須藤君」

「なま言ってんじゃねぇぞ♪ 現実を教えてやるから、全力でかかってこい」

「あ?」

「ちょっ!」

「って綾小路が言ってました」

「おい」

 

 畜生の所業である。自分の悪態を他人に平然と擦り付ける福助。

 

「ふふふ、はしゃぐのは勝手だが、私の引き立て役であることに変わりないさ。せいぜいあがきたまえ」

 

 唯我独尊具合では、福助の上を行く存在の登場だ。日本が世界に誇る高円寺コンツェルンの一人息子である彼は、すでに将来が約束されている。

 普段から授業を真面目に受けるようなことはしていないが、別段迷惑をかけているわけでもない。

 授業中にスマホや私語をしている生徒に比べれば十分理知的だ。

 さらに体格もかなり良い。

 筋肉でコーティングされている男たち相手に、勝利宣言をするくらいには完成された肉体美を誇っている。

 バスケットマンでもある須藤より、一回りデカいのが彼の能力の高さをうかがわせる。

 

「良いじゃないか、坊ちゃん。挫折は早い方が良い」

「ふん、福田ボーイ。君の名前はよく耳にしていたよ。私を退屈させない存在であることを願っているよ」

「煽り散らかして、禿げあがらせてやるから、覚悟しとけ」

 

 海外の大学に飛び級で入学しただけでも、好奇の視線を受けてきた福助。差別などは日常的で、その都度報復を行うメンタル持つ彼からすれば、高円寺の挑発には懐かしさを覚える。

 決して善人ではない福助の顔の歪み具合は、聖人平田が引くほどだった。

 

「福田の主人公要素ってゼロだな」

「黙りなさい、綾小路。お前も全力でやるんだぞ。もし手を抜いたりしたら、学校中にポークビッツだと知らせるからな。情報操作は得意だ」

「具体的な意味は分からんが、良くない言葉だというのは分かった。やめろ」

「え、ビッグマグナムの方が良いって? 仕方がない、そっちで手を打とう。目立ちたがり屋さんめ」

「嫌な予感しかしないから、やめろ」

 

 これ、本気でやらないと、何か色々と失うかもと本能的に悟った綾小路は覚悟を決めた。

 

 

 

 全員が準備を整え、スタートの笛を待つ。

 教師の笛が鳴り、一斉に飛び込む。

 まずは序盤、高円寺が類まれなる肉体を見せつけるかのような瞬発力でスタートダッシュに成功する。

 しかし、同種の人間である福助も僅差で追いかけ、グングンと加速していく。須藤、綾小路、平田はそれに続く形になった。

 

 (手を抜きすぎるのは危険だな。福田は本当に何をするかわからん。高円寺の後ろにつけるか)

 

 水面ながらも、周囲の状況冷静に把握した綾小路はペースを上げる。

 綾小路清隆は、天才である。

 ギフテッドに近い福助とは違い、彼は後天的な教育で作られた人工的な天才であった。

 彼の父親が作り出した特殊育成機関、通称ホワイトルーム。天才育成のための教育システムが施されており、学問学術のみならず武術や護身術、処世術など様々な科目が存在する。その教育機関最高傑作と言われる綾小路の実力は、学業、身体能力、ともに常人の領域をはるかに超えている。

 

 本気を出せば、誰にも負けない。

 綾小路自身、それは虚勢でもなんでもなく、純然たる事実として認識していた。

 しかし、その認識にズレが生じる。

 

(……本気なら追いつけるか?)

 

 いつの間にか、高円寺を抜き、一位の座に位置する少年。綾小路は力をセーブしているが、セーブしているがゆえに考えてしまう。

 全力(・・)を出した場合の結果を。

 いくら専門ではないとはいえ、あらゆる訓練を最高レベルの成績でクリアしてきた綾小路。しかし、どう計算しても勝てるビジョンが浮かばない。

 

「高円寺がなんぼのもんじゃいっ!!」

 

 一着でフィニッシュ。21秒50という日本記録を破るタイムを叩き出す。次点が高円寺。こちらのタイムも23秒台前半。水泳部なら全国優勝を狙えるタイムだ。

 本気を出していなかった綾小路は3位で、24秒ジャストと普通の高校生なら十分すぎるほどのタイムだ。後続の須藤、平田を含めた全員が、体育教師から水泳部への勧誘を受けるほどで、並みの高校生ではないということ間違いない。

 

(……負けたのか?)

 

 自分を道具としてしか見ていなかった父親。しかし、そんな父親の作った自分という天才性を信じて疑わなかった綾小路は茫然と言った感じで、たたずんでいる。

 

「よう、ベストフレンド。世界の壁を知ってショックを受けるのは仕方がないが、ビッグマグナムはやめてやるから、それで元気出せって」

「…………ああ」

「俺は高円寺が禿げるまで煽ってくるから、また後でな」

 

 ウキウキ顔の福助が、去っていくのを見ながら、綾小路は心の中に何かを感じ取った。

 自分は井の中の蛙なのかもしれない。ホワイトルームという狭い世界で、天才だと決めつけられただけの存在。自分より優れた人間を知らなかったが故の弊害。しかし、知らなかっただけなのだ。

 世界は広い。

 綾小路にそう言った考えが芽生え始めた。

 あまり表情を動かさない彼だが、その口角は少しばかり上がっていた。

 

 

 ちなみに高円寺を煽り散らかすはずだった福助は、

 

「素晴らしい。美しくはないが君は私の友となるに相応しい人間だ。福助ボーイ」

 

 となぜか友達認定されたことで、何とも言えない表情を浮かべる。

 やり場のない感情を、

 

「1位とか普通だよね、優秀を自称するなら」

 

 と鈴音を煽ることに使い、全力で足を踏みつけられ、悲痛な叫びを上げるのだった。




英語力はネットだよりなので、お察しください。
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