I am the perfect and ultimate XX 作:生物産業
体育祭に続き、龍園のプライドを粉々に砕いた翌日。
ホームルームが例のごとく自習になったため、桔梗がクラスメイトの前に立って、昨日の状況を説明した。
「勝手に行動してごめんなさい」
「謝る必要はないぜ、桔梗ちゃん! どうせ福田が無理やり連れて行ったんだろ」
「なぜ分かった?」
「分からないわけないだろっ!」
池の叫び。ペア試験の対戦相手を勝手に決めてしまったいきさつと、それに対する謝罪。すべて福助が悪いのだが、桔梗が謝っているのは、彼女の表の顔のせいだろう。
「あとあと、福助君が完全に龍園君の敵になっちゃったよ。さんざん酷いことを言ったから、もしかしたら皆にも迷惑がかかるかもしれない。だから気を付けて」
「おい、福田、ふざけんなよっ!」
「ハニートラップの可能性もあるぞ」
「福田、よくやってくれた!」
山内の手がドリルになる。お手本のような手のひら返しだが、山内にハニートラップを仕掛けるメリットはない。
「相手がAクラスでないだけマシじゃないかな? Dクラス相手なら学力差もそこまでないはずだし」
「名ばかりのCクラスであることを忘れたか。うちのクラスはこの学校の最低評価をくだされた集団だぞ。そこには成長率だって加味されているはずだ。現実的に最弱のクラスが俺たちのクラスであることに変わりはない。上から目線とは……恥を知れ」
「僕は絶対に勝てるなんて言ってないよ。いい勝負が出来そうだねって言っただけだ」
「すまん! イケメンに嫉妬して、いちゃもんを付けたくなった」
立ち上げってぺこりと頭を下げ、素直に謝罪をする福助。理由がいつも通り過ぎて、周囲も特に気にした様子は見られない。
「朗報といえば朗報だな」
「そうね。正直、AやBクラスを相手にするよりは勝率が高い」
「本当はBに挑もうとしたんだけど、坂柳に先を越されてしまった。すまぬ。帆波の顔に落書きする権利を手放してしまった」
「お前は一之瀬に何をしようとしているんだ。坂柳に感謝しているだろうな、一之瀬は」
「一之瀬さんも大変ね」
同情があつまる帆波。変態に色々と名誉を傷つけられそうになっているため、綾小路も鈴音も彼女を不憫に思ってしまう。
「Dクラスが相手だとすると、テストの漏洩だけは防がなければならない」
「テストの作成者をバレるわけにはいかないってことか。でも、大体予想はつくと思うぞ」
Dクラスで優秀な人間といえば、福助、高円寺、鈴音、幸村、平田、桔梗。このあたりが他クラスでも有名になっている生徒だ。
「そうね。問題文をすべて把握し、解答内容まで理解できる人間に限定されるわけだから。池君や山内君にトラップをしかけても無意味だもの」
覚えていない、わからない、3バカに数えられる二人に問題を開示したとしても、彼らにそれを覚えて他人に伝えるほどの能力がない。
「次に警戒すべきは、問題文を先に提出されること。仮に綾小路君を脅して、Dクラスに有利なる問題を提出されてしまった場合、条件次第では変更が不可能になる可能性がある」
「俺以外の提出を受け取ったふりをするように茶柱先生に了承してもらうって感じか?」
「さらに言うならば、ポイントを使って確約させる。そのポイントもDクラスが支払えば、脅された側にデメリットはないわ」
「クラスポイントが減るのは十分なデメリットだけどな」
「一時の恐怖は、一時の救いを求めると思うの。将来がどうかより、今をしのぐほうが大切。弱い気持ちを持つとそんなことを考えてしまう。貴方は無感情人間だから分からないでしょうけど、そう思ってしまう人は少なからずいるわ。私を含めてね」
「説明の中に人を罵倒するテクニック。福田式だな」
「綾小路、お前の無感情に羞恥心を覚えさせてやろう。俺の技術をなめてるな?」
「申し訳ありません。調子に乗りました」
全裸でダンスの動画とかどうだろうと、福助がつぶやいた時点で、綾小路は深々と頭を下げた。
「相変わらずの漫才ね」
「これは脅迫だ」
「友人とのスキンシップだ」
「お互いの意見が一致していて何よりだわ」
鈴音の認知もぶっ壊れ始めているようだ。
「一応、先ほどの懸念点は潰してあるわ。茶柱先生にはすでに問題を提出する人間を指定しているから大丈夫よ。福田君、貴方ならたとえ襲われてもちゃんと届けてくれるでしょう?」
「学校内で襲われるとか、もうなんの教育なのかわからないよね。まあ、アメリカで受けた拷問訓練でその手の対応は習得済み。任せなさい」
「任せるわ」
決して拷問訓練の話に触れないようとしないのは、鈴音と綾小路が4月から学んだ福助に対する対応策だ。
「後は普通の学力勝負。そこが一番の懸念点というのが笑えないわね」
「ギャル子の改造はちゃくちゃくと進んでいるぞ。8教科中4教科であれば、60点以上はいける状態だ」
「順調だな。ただ軽井沢の目が日に日に濁っているのは気のせいか?」
「気のせいだ。ギャル子の精神回復剤は用意してある。問題ない」
「その発言に問題があることを自覚して頂戴。これなら、貴方と山内君あたりを組ませた方が良かったじゃないかしら?」
「堀北、山内の場合だと人格が変わりかねないぞ」
好きな言葉は勉強です、そんな発言を急に言い出す山内春樹が別の世界線にはいたかもしれない。
◆
福助と鈴音、平田は無人の教室に集まっていた。
テストの問題に対する観点を福助に聞くためだ。
「ぶっちゃけ、反則有りなら今回のテストは余裕で勝てる」
「どういうことかな?」
「問題文を作成する場合、お前はどうする?」
「図書館とかで、過去問や問題集を見て、良さそうなものを組み合わせたりするかな」
「もっと根本的な話。作った問題を提出するためにはどうすればいい?」
「パソコンで作成して、印刷するくらいじゃないかな」
「そう。そして個人のパソコンは学校のネット環境に接続されている。俺、天才ハッカーとしても十分やれるんだよね」
笑みが怖い。平田は素直にそう感じた。
「要するに、貴方は個人のパソコンにアクセスできるから各クラスの問題文を簡単に入手できるってことよね?」
「正解」
スマホにもアクセス可能であることまでは言わない福助。
「ダメよ」
「了解」
相手の謀略に対応策を用意することはあっても、こちらから相手に反則をするつもりはない。
鈴音は目でそう訴えているし、平田も鈴音に同意している。
「まあ、さすがに賛成していたら見限ったけどね」
「私は正道を歩みたいの。他者を落として、勝利することに意味があるとは思わない」
「カッコいいね、堀北さん」
「実際やれないのが、鈴音ちゃんの未熟さ」
「……」
まだ兄、学のように何でも完璧にこなせるわけでもない。それが分かっているからこそ、鈴音は口を真一文字に結んで、福助を睨みつけるしかできない
「さて、講義を始めよう。まず理系科目から」
それから福助の講義が始まる。テストの観点は定着させた知識をいかにアウトプットさせるかだ。
公式を覚え、問題集で出た問題は解ける。だけど、似た問題は解けませんでは意味がない。
自分の知っている形を見つけるための試行錯誤が理系では必要だ。言われてみたらできるというのが良問の一つ。
文系科目も同様で、覚えたことをいかに使えるかを追求すべきなのだ。
「結局身に付けた知識をいかにして出すか。その視点をテストに組み込むのは必須。誰も知らないような用語を知ってるかなんて難易度どうこうじゃなくて、ただの嫌がらせ。教科書の隅をつつくのは知識自慢の典型だぞ。正誤問題は日本の悪習を凝縮したようなものだ。ちゃんとした知識を分かっているという建前で、本質を忘れる。ぶっちゃけ、性格の悪い人間が最初に作ったとしか思えん。些細なことより、まずは自分の考えを表現できることが世界では求められている」
「なるほど。確かにその視点は抜けていたかもしれない。ひっかけ問題とかそう言った面に重きをおいていたけど、知識を表現するテストか」
「一応、各科目のサンプルテストは用意した。ギャル子用にインプット系とアウトプット系で2種類作った。URLを渡すから、後で覗いてみれ。ギャル子には親の仇を見るような目で見られたが、デコピンで沈めてやった」
「軽井沢さんの扱いが雑過ぎるのではないかしら?」
「甘えは許さない。ギャル子の場合は、講師を特別仕様にしているんだ、むしろ優遇していると言える」
「それって昔言ってたアプリの話だよね?」
平田が1学期の中間対策に提案された話を思い出した。
「そう。AIで問題は何パターンも作れるし、その回答も優しく教えてくれる。会話形式だから、一方的にならない。そして教えてくれる先生は自分の意中の男子。なんの不満があるだろうか?」
「平田君の人権が無視されてないかしら?」
鈴音の認識では恵と平田が恋仲であるため、講師役は平田だと思いそう発言している。
しかし、実際は仮初の彼氏役にすぎない平田は、鈴音の疑問にあいまいな顔をするしかできない。
その平田の対応を見て、福助も事実を指摘せず、誤認を誤認のままですませるようにした。
「クラスのためだ」
「あはは、まあ、しょうがないよね」
それから少しばかり確認をして解散となる。
鈴音は福助が作った問題の方に興味があるらしく、先に帰っていた。
残った二人は、そのままなんとなく帰宅をともにする。
「ギャル子とは、どうだ?」
「福田くんは分かっているだろう?」
福助の質問に苦笑気味に答える平田。福助が自分たちが仮初の関係であることに既に気付いていると確信しているようだ。
「お互いが納得しているのであれば、特に何もない。ギャル子にムキーしたいというなら手を貸そう」
「大丈夫だよ。僕も軽井沢さんもそこは割り切ってるから」
「これがイケメンの余裕か」
「福田くんだって、色んな女子生徒と仲良くしているじゃないか」
「仲良くしているのと恋愛対象になるのは全くの別問題だ」
「……ごめん」
福助の沈痛な面持ちに、平田は静かに謝ることしかできなかった。
「そう言えば、ギャル子がストレス発散したいとか言ってたな」
「福田くん、少しは手加減してあげてね。軽井沢さん、遠い目を最近するようになっているから」
「まあ、あいつが0点取ろうが俺がいる時点で退学にならんが、後々困るのはアイツだぞ? 前にも言ったがどんな試験があるかもわからないんだ。テストでビリだった奴が退学なんてこともありえるんだから、勉強できる頭にしてやるのが優しさだろ」
「……そうだったね。ごめん軽率過ぎたよ」
「よし、彼氏役の言質は取ったから、多少ぱーんしても問題ない」
「待って!」
ギャル子バージョン2.2を作り上げようとする福助を、平田は必死に止めるのだった。
◆
「私、この試験が終わったら、アンタを殺すわ」
「疲れているようだ。聞き間違いか? そこは結婚するんだ、がテンプレだぞ」
「殺すわ」
福田福助と櫛田桔梗は現在、福助の部屋で勉強中だ。
ペア試験で3バカの一人である池と組まされた桔梗。
勉強を教える際は、勉強会を開くため二人っきりになることはないのだが、ちょくちょく遊びに誘ってくるのを断るのがストレスになっているようだ。
なぜか、関係ない福助に殺意を向けるほどには、精神が病んでいるらしい。
「少し休憩するか」
「殺すわ」
「目を覚ませ」
デコピンを桔梗の額に決める。
結構いい音が鳴り、桔梗の額は赤くなっている。
急な痛みに意識が覚醒した桔梗。なぜ頭が痛いのか、彼女はその理由が分かっていなかった。
「え? え?」
「ブラックコーヒーだ。苦味たっぷり。意識が覚醒するぞ」
「飲めないよ!」
砂糖とミルクを要求する桔梗。
「よし意識が完全に戻ったな」
「私、なんか変なこと言った?」
「全裸で走り回りたい」
「かぁ~!」
声にならないような、奇声が発せられる。寮内の壁は防音のため、隣の人間に聞こえはしないが、さすがにうるさいと福助に注意される。
言ってもいないことで動揺させられた桔梗は一人顔を赤くして、顔を隠すばかりだ。
「お前、そんなボロボロでよく中学時代やってこれたな。中3の最後までは一応バレなかったんだろ?」
「うっさい。アンタのせいよ。こうやってちょくちょくストレスを発散するようになったから、気が緩んじゃうの!」
「もうやめれば? なんか最近そこまで皆からの承認を求めているように見えないけど」
「……急にやめられるわけないでしょ。それより、疲れた~」
言いたいことはあったが、本人に直接言えるものではない。
「褒美のブラックコーヒーだ」
「だから飲めないってばっ!」
福助は仕方なく、砂糖とミルクを用意した。
「池の方はどうだ?」
「全然! 良くて30点」
「ボーダーが700点前後らしいから、お前が70点くらいとってないと、仲良く退学だな。うける」
他人事のように笑う福助を睨みつける桔梗。
「笑えないから。もし退学するときはアンタも道ずれにしてやるから」
「ほーう、どうやって?」
「……わかんないっ!」
「正直すぎる。レイプされたって言いふらすかと思った」
「無理でしょ。アリバイの動画とか作りそうだもん。必ず私の証言と矛盾しちゃう」
「技術を制する者が嘘つきを制すってか?」
「福助君なら冤罪を作り放題だよね」
「まあな。犯罪を犯すような奴なら容赦はしないが、一般生徒に対して使う気はない」
「はい! 私一般生徒なのに脅されてます!」
「使ってないから問題ない」
「先生! 脅迫って犯罪行為です!」
無言で桔梗の頬を引っ張る。柔らかくもっちりとした彼女の頬をいじくりまわす。
暴れる桔梗だったが、上手く重心を押さえられ、結局されるがままになってしまった。
「うぅ……けがされた」
「やめろ、人聞きの悪い」
「責任取って」
「結婚でもするか?」
「ポイント全部ちょうーだい」
誠意は金。責任の大事な取り方である。
「やらん」
「ケチ」
ぶーと不貞腐れる桔梗だが、その顔は笑顔だ。
少しのやり取りだが、ストレスが解消できているらしい。
それからバカップルのようなやり取りが少しばかり続いて、急に福助がこう言いだした。
「あ、言い忘れてたことがあった。お前には先に言っておくが――」
その内容を聞いた桔梗は、驚きすぎてスカートの中が福助に見えていることに気付かなかった。