I am the perfect and ultimate XX 作:生物産業
「うわぁ~」
「ギャル子と麻耶は何か文句でも?」
「いや、アンタ本当に何なの? 骨格から変わってない?」
「化粧して気づいたけど、髭とかないし、肌とかめっちゃスベスベだし。うらやま」
パーティが開催される直前。福助は準備を整えている。
「即興でダンスとか、頭おかしいんじゃないの? あ、ちょっと目をつぶって」
Itubeを見ながら、踊る曲と歌を覚えている。恵はアイメイクを文句を言いながら施していた。
ネタ用に用意した衣装を自ら着るしかなくなったのは、学が天才的な選曲をしたからに他ならない。
別室で彼も準備を整えている。サポート役として茜、そしてバックダンサーとして3Aクラスから3名ほど選出された。
学から誘いがあるとは思ってもみなかったようで、誘われた3人は少しばかり動揺したが、面白そうだと切り替えて参加を表明した。現在、猛特訓中である。
そんな強敵に対抗するために、福助もヘルプを呼んだ。化粧担当してギャル代表の恵と麻耶を招集。ダンサーとしては帆波を無理やり着替えさせて、現在踊りを覚えさせている最中だ。
福助自身も、映像を見ながら頭の中でイメージを作り上げていく。彼はそれを表現するだけで良いのだ。
「パーティの盛り上げは主催者自らがやらないと」
「こういうのってあらかじめ準備するもんじゃないの?」
「常在戦場。天才はいつだって臨戦態勢」
「やっぱ頭おかしいわ」
「あ、福助君、こっち向いて」
麻耶がぐいっと顔を引っ張る。福助の顔を女子仕様に変更していく。恵はその間にかつらを整えている。
「ねぇ、福助君、これ着れるの?」
ダンスを練習中の帆波が、福助にそう尋ねた。
筋骨隆々で、180cmの大柄な体格を誇る福助。帆波が手にした衣装では明らかにサイズが合っていない。
身長はカバーできても、色んな部分が弾けると予想される。
「筋肉は内側にしまえるの」
そう言った後に、福助のサイズが二回りほど細くなった。さすがに身長は変わっていないが、スレンダーな体型に変わっている。
そしてそのまま衣装を着こむ。その様子を口を引きつらせてみる女性陣。
化粧効果と衣装もあって、女性と言われても全く違和感がない。
「なにその気持ち悪い技術」
「キモ、うける~」
恵と麻耶が笑顔で暴言を吐く。
「お前ら後で、絶対に男装でEXILEさせるから。インナーで足と腕の筋肉を隠してるから、完全なモデル体型の女の子」
かつらをかぶり、少しばかり整える。そして立ち上がると、大柄のアイドルが誕生する。
くびれがなぜできているのか、胸はどうした、なんかエロい、と色々言いたいことはあるが、女性陣3人は福助の女装に腹を立てる。
こいつ、ホントなんでもできるなと。
「あーあーあー」
声をチューニング。普段の福助から、アイドル仕様に徐々に変わっていく。
「良い感じ?」
目の前にいるのは女の子。福助だと分かっていても、3人は全く違和感のないアイドルに、少しばかりきゅんとした。
これがアイドルにはまる心境なのかと、3人は初めて理解する。
「帆波はオタ芸を頑張って。サイリウムはちゃんと用意してあるから」
「普通は逆でしょ? 一之瀬さんが歌って、あんたがオタ芸やるのが一番自然だわ」
「ギャル子、マナブ君見たら、普通じゃ勝てないって分かるから」
「そう言われるとめっちゃ気になる」
クソ真面目な生徒会長。恵にはそのイメージしかない。
だが、福助は帆波起用では勝てないという。どれだけのことをする気なのかと興味を抱かずにはいられなかった。
「会場の進行は、桔梗に任せてるから。そろそろ始まるだろう。うし、気合をいれて会場の度肝を抜かせてやろう」
「話し方が男の子なのに、声が女の子が凄い違和感。顔はもう完全に美少女なのが腹立つ」
麻耶の言葉に福助以外が同意した。
「帆波、よろしく頼む。今回はお前に頼るしかない。さすがにオタ芸まではお前にしか仕込んでいない」
「OK。福助君も頑張って」
二人は小さく拳を合わせる。
その後、福助は両目を閉じながら集中していく。
「I am the perfect and ultimate idol」
まるで意識を切り替えるように自分に言い聞かせた。福助の表情が変わる。
可愛いの? それともカッコいいの? 恵と麻耶は福助の後姿を見ながらそんな疑問に悩まされ続けるのだった。
◆
「それではクリスマスパーティを開催したいと思います!」
福助と学の準備が整ったことで、桔梗がパーティの進行を始める。
学校で用意されているイベント用会場。少し照明をおとして、会場の雰囲気はクラシックな感じが保たれている。
そしてそんな雰囲気をぶち壊しにやって来た二人。
先鋒は学。福助はステージ脇で恵たちとともに観察することになった。
「場を盛り上げるために、前生徒会長と有志の皆さんが歌って踊ってくれます!」
桔梗のマイクパフォーマンスに会場が大いに盛り上がる。
まさか寡黙な生徒会長の歌が聞けるとは誰も思ってもみなかったからだ。
そして、会場が雰囲気が大きく変わる。
照明が完全におちる。中心に設置されたステージは、幾つかのスポットライトが浮かび上がらせており、その光がクリスマスツリーの飾りと組み合わさり、幻想的な雰囲気を演出していた。
そこに黒服の集団が現れる。
「RADIO FISHをカバーして歌っていただきます! 曲は『PERFECT HUMAN』!」
「「ぶふっ!」」
桔梗の叫びに、ステージ脇で観察していた女性陣が吹いた。まさか、まさかである。
会場は大いに盛り上がっている。まさかの選曲に一様にテンションが上がった。
帆波たちは予想外過ぎて、笑いのツボを激しく刺激されたらしい。麻耶に至っては膝をついて笑いをこらえるのを必死に抑えていた。
「ボーカル1、ダンサー3、神1の布陣」
「神ってww」
麻耶が完全に倒れた。お腹を押さえながら、笑い転げている。
「始まるぞ」
ステージ上に静かに立ち、深呼吸を一つ。照明が次第に学の姿を明るく照らし始めると、同時に「パーフェクトヒューマン」のイントロが流れ出した。彼は微動だにしない。会場へ顔を向けない。しかし、圧倒的な存在感。
茜の歌と音楽に合わせて周りで踊るパーフォーマー。次第にリズムを感じ始める。観客もその変化を感じ取り、期待感が高まる。
そしてその時がやってくる。
曲のビートに合わせて、彼は突如として動き出した。たった一つのターン。非常に流れるような動きで、観客は息をのんだ。
ここだ、こここそが最大の見せ場だ。
「I’m a perfect human」
振り向いて一言。ただそれだけで会場が大いに湧き立った。兄を慕う鈴音は、驚きと喜々の狭間で揺れ動き、口をあけて停止している。
お前、そんな人間じゃないだろと、心の中でツッコんでいる綾小路も、若干思考を停止しかけていた。
そんな彼らとは対照的に3Aを中心に爆笑しながら、会場は盛り上がっていた。
「これよ。歌は全部橘パイセン任せなのに、この圧倒的パーフォーマンス。選曲の時点で方向性を変えざるを得なかった。アルベルトと『お願いマッスル』を熱唱するつもりだったのに」
「それはそれで見てみたい。ムキムキなところを見せるの?」
恵の疑問に親指を立てる。マッスルは世界共通言語。
「橘先輩、ちゃんと堀北会長用に歌詞変えてる。MA・NA・BUって」
「ちょっと怖い」
熱狂的な信者。茜の歌はまさにそれだ。神を称えるかのような歌い方に、恵は少しビビってる。麻耶は爆笑でそれどころではなさそうだ。
曲がクライマックスに達すると、学は中央で一回転すると同時に大きくジャンプ。その瞬間、スポットライトが彼を強く照らし、彼のシルエットが会場に強烈な印象を与えた。着地すると同時に、周囲の照明が一斉に明るくなり、彼は決め台詞で最後を締めくくる。
「I’m a perfect human」
その姿に、会場からは雷のような拍手が鳴り響き、歓声が上がった。普段不愛想な彼が見せた情熱的で自由なダンスは、多くの人々に新たな一面を見せ、彼への見方を一夜にして変えた。「これが生徒会長の実力……」と驚きのあまり感極まっている生徒もいる。保健室をおすすめしたい。
歌とダンスで勝負のはずが、学は一切歌っていない。しかし、福助がそれもよしと納得したため、問題にはならなかった。
会場を盛り上げるという1点において、学は最高の仕事をした。
「普通はこの後、何やってもダメそうだけど」
「あっちがパーフェクトヒューマンならこっちは完璧で究極のアイドルじゃい」
帆波を従えて、ステージに向かう福助。恵は少し不安そうにしながらも、期待せずにはいられなかった。
◆
「それでは後攻、福田福助! 天才とも鬼才とも変態とも呼ばれる彼が歌うのは、YOASOBIで『アイドル』です! 正直、意味が分かりませんっ!」
桔梗の言葉に周囲が、ざわつく。会場は既に暗くなっており、福助の姿は見えない。
進行役の桔梗もまさか、女装しているとは思わずなぜここで女性の曲をチョイスしたのかと首を傾げていた。
しかし、その疑問もすぐに解消される。
普段からその天才ぶりで知られる福助が、今宵は女装してステージに立っている。
天才福田福助、その才に疑いの余地はない。
鬼才福田福助、相手に対抗するためとはいえ、女装で歌おうという発想は常人にはできない。
変態福田福助、女装で女性以上に女性らしく振る舞えるのは、日頃の変態的観察の賜物だろう。
音楽が流れ始めると、『アイドル』のイントロが会場に響き渡る。
ライトアップはない。あるのは音楽と帆波のキレキレのサイリウムパフォーマンスだけだ。
誰しもが思っただろう。あのダンスは福助が行っているのだと。
あれだけのキレだ。福助なら問題なくできると。
しかし違う。中学時代に色々と仕込まれた帆波。その中で歌って踊れるアイドルの登竜門として、オタ芸を学ばせられたことがある。
応援をもらう側が、応援する側の練習をするという意味不明の特訓だ。ここで使わなければ、二度と見せることはなかったかもしれない。
そんな帆波のパフォーマンスに皆が騙されている中、ライトが福助を映し出した。「誰だ、あの美女は!?」と観客が騒ぐ。
鮮やかなピンクのアイドル衣装に身を包み、繊細なメイクで顔を整えている。彼の姿は、まさにアイドルのそれで、観客は一瞬にして彼の虜になった。
福助は微笑みを浮かべながら、確信に満ちた動きでダンスを始めた。彼の動き一つ一つが計算されつつも、心から楽しんでいるように見えた。
まだ歌ってすらいないのに、彼のパフォーマンスは、見た目だけでなく、その技術の高さでも観客を魅了していた。
そして歌が始まる。普段の福助からは絶対に出ないような声。
音源をそのまま流しているかのような、本人と聞き間違うほどの歌唱力。
学が作った雰囲気をさらに福助は盛り上げた。
歌うたびに表情をコロコロと変える。観客と一緒に楽しいという感情を全力で表現している。そして、あの歌詞が登場する。
「
自信に満ちた表情は観客のを容易くひきつけた。あえて歌詞を変えて自分を全力で主張する。
その歌で、その踊りで、そして何よりその最高の笑顔で、幾人もの観客の心を打ち抜いた。男女問わず、顔を赤らめて胸を押さえている。まさに皆の望んだアイドルが顕現した。
曲が中盤に差し掛かると、福助は観客に向けて手を振りながら歌い続けた。よりアイドルらしく。振る舞いが本物のそれだ。
観客からは歓声が上がり、多くの人が腕を振って彼に応えた。福助は、男であるにも関わらず、この日この瞬間だけのアイドルとして、完璧にその役割を果たしていた。サイリウムが人数分あれば大変なことになっていただろう。
「まさに最強で無敵のアイドル!」
クライマックスに近づくにつれ、福助のパフォーマンスはさらに熱を帯びていった。最高潮に達したところで、彼はステージ中央で華麗なバク中を披露し、最後には大胆なポーズでフィニッシュした。その姿は、まるで長年舞台に立っているプロのアイドルのようで、完璧で究極のアイドルを体現していた。
会場からは割れんばかりの拍手が送られ、観客は彼の圧倒的なパフォーマンスに心を奪われた。ライトが消える時、多くの観客が叫びながら彼を称賛した。
ただ、目の前にいたのが福助であることは誰も気づいていない。
会場が福助に酔いしれたところで、ライトが復活する。
そこに居たのは、福助と帆波。福助は再度満面の笑みで、帆波は苦笑いで小さく手を振っている。
「ちょっと待て」
誰が言っただろうか?
会場が違和感に気付く。帆波がいるのは良い。彼女はとなりのアイドルと比べても遜色のない容姿だ。その手にサイリウムを持っていなければ、会場の拍手は帆波に注がれることになっていただろう。
ここで疑問が浮かび上がる。そして誰もが思い出す。桔梗が最初に言った言葉を。
――それでは後攻、福田福助!
福田福助。ふ・く・だ・ふ・く・す・け。どこにも女性らしい要素はない。ましてやアイドル要素など皆無である。
「皆~応援ありがとう♪」
うん、女性の声だ。テレビで聞いた声だ。ネットで聞いた声だ。
しかし、誰もが違和感を拭い去れない。
「I am the perfect and ultimate idol」
その言葉を聞いた瞬間、全員の目が見開かれた。
中にはショックで膝をつく者もいる。
女性にしてはあまりに低すぎる声。例え、英語であっても、聞き間違えることのない男らしい声。
「楽しんでもらえたかな?」
かつらを外したその瞬間。
阿鼻叫喚の地獄絵図。俺の、私の、ときめきを返せと男も女も関係なく泣き叫んだ。
学以上のインパクトを残し、福助は満足げにステージを去る。
脇で控えていた恵は、呆れながらも「お疲れさま」と労い、麻耶が爆笑しすぎて、腹筋を攣り、一人苦しんでいるのだった。
◆
お疲れ様という言葉を待ちながら、福助は皆がいる場所に戻ってきた。
かつらをつけなおし、メイクはそのままに、先ほどまでのアイドルが姿を現したのだ。
皆から拍手で迎えられると思っていた。福助の後ろの恵と麻耶は苦笑しているが。
「ただまー」
「「ふざけんなっ!」」
須藤を筆頭に男女関係なくそう叫んだ。そこにクラスの垣根など存在しない。
「人様が会場を盛り上げたというのに、なんという仕打ち。クソ野郎どもめ」
福助としては感謝の拍手を期待していたため、悪態をつきたくもなる。
「違和感が酷い」
「桔梗ちゃん? 笑顔でお疲れの言葉を俺は待ってるよ」
「頭がパンクしそう」
見た目と声のミスマッチに進行役を終えて戻ってきた桔梗が混乱を引き起こす。
「一度見てるけど、違和感なくて可愛すぎてキモいね」
「千秋ちゃん、暴言はオブラート包まないと、俺のダイヤモンドハートが砕けるよ」
「ふ、福田くん、す、凄いですね。アイドルデビューするんですか?」
「佐倉、パニくってるのは分かったから、落ち着こう。ひぃーひいーふー」
「それ違うやつ」
「長谷部、労いの言葉ないんだけど、なぜだろう?」
「福田くんが天才すぎるからじゃない?」
凡人には理解できないのよ、波瑠加はそう言って福助を納得させた。
それから色んな人間に文句を言われる。
有栖には、
「私より女性らしいとかムカつきます」
と言われ、鈴音には、
「天才って何なのかしら?」
と哲学を説かれ、
「福助ちゃん、可愛いです」
ひよりには女の子扱いされる始末。
思ってたのと違うと、不満たらたらでいると、今回の対戦相手の学がやって来た。
会場に用意されたケータリング料理で、やけ食いをしようとするところだった。
「お疲れ様だな。勝負はお前の勝ちで良いか?」
「会場をあっと沸かせたという点では俺でしょう」
「あのー違和感が凄いんで着替えてもらえます?」
茜が見た目とのギャップに文句をつける。
「この後もカラオケはやるし、このままでいるっす。この格好でストリートダンスとかやりますよ」
「頭壊れそうです」
茜が頭を抱える。
そんな茜を放置して、福助は学に向かって不敵な笑みを浮かべる。
「罰ゲーム」
「ああ、そうだな。鈴音を呼んでくれるか?」
その言葉で、茜ががっくりと肩をおとす。さすがに、公衆の面前で彼女でもない女子にぐっとくる言葉を囁こうとは思わなかったらしい。
福助の格好に不満そうな鈴音を無理やり引っ張り、学の下に連れてきた。
「に、兄さん」
学を見て鈴音の足が止まる。
何を言われるのか、呆れられるようなことをしてしまったのではないか、鈴音の頭には色んな不安が駆け巡った。
しかし、学は鈴音にそっと近づき、そっと一言。
その言葉は鈴音と学以外に誰も聞こえなかった。
学の言葉を聞いた鈴音は数秒の停止後、顔を真っ赤にして駆け出した。
お花摘みに向かったらしい。鼻を隠しながらだが。
「これで良いか?」
「まあ、面白いのが見れたから良いけど。なんて言ったの?」
「秘密だ」
「ち、イケメンめ」
茶目っ気のあるイケメンとか、マジで完璧じゃんと福助は心の中で思った。
その後、どこか心ここに非ずの鈴音が復活し、クリスマスパーティは問題なく進んでいく。
女性陣の男装や、福助とアルベルトによる『お願いマッスル』のパフォーマンスは再度会場を爆笑で沸かせた。
メインイベントのプレゼント交換。今回の参加費用替わりで、2000ポイントで買えるものだ。
それを学年問わずシャッフルして、交換し終えると、パーティはお開きになった。
「あ、言い忘れてた」
会場の片づけをしている時だ。
福助がふと思い出したかのようにこう告げる。
「俺、今月で退学するわ! See you again」
その言葉に、思考を停止したのは福助のクラスメイトだけではなかった。
この話をやりたかった。神(堀北学)降臨の儀式を思いついた時、Perfect Humanを思い出しました。それで天才キャラを作るに至った感じです。神のダンスに勝つには完璧なアイドルしかないと思い、その歌をチョイスしました。そこからタイトルも考えました。
本当はAdoさんの『私は最強』も考えていたんですが、神に勝てるビジョンが思いつかず……おジャ魔女カーニバルという手も。神が強すぎて勝てません。