I am the perfect and ultimate XX   作:生物産業

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第4話 大天使に遭遇

「お前って本当にすごいんだな」

「そうね。普段の様子からは全くわからないところが、さらにすごいわ」

「褒めるなよ。モテちゃうだろ」

「あら、不思議ね。貴方の周りに女子生徒が一人しかいないのだけど? 席の都合上仕方ない状態ね」

「堀北ルート爆誕のお知らせですか?」

「死ねばいいのに」

「爆誕しなかったみたいだな。わりと本気で言っているのが怖い」

「もっと軽快なコミュニケーションを要求する」

 

 放課後になり、帰宅前のことである。

 本日行われた水泳の授業の感想が、綾小路から出たことで、福助がダメージを受けることとなった。

 

「綾小路君も実力を隠していたみたいね」

「福田に比べれば、なんてことない実力だけどな」

「そう」

 

 普通の高校生と比べれば、別の話であるが、鈴音はあえて追及はしなかった。

 

「さて帰りますか。中間テストに向けて、久保統計の完全解答書でも作りますか」

「……何の話をしてるのよ?」

「物理大好き人間なら、泣いて喜ぶ代物だよ。熱力学・統計力学でバカみたいな演習をしたいと思ったら真っ先にあがる良書」

「お前は高校のテストで、どこまで予習する気だよ。というかそれは予習なのか?」

「エリート校だよ? 高1で大学の物理とか普通でしょ? 中高一貫校の中等部で高校内容を終わらせているところだってあるのに」

「……少なくともそのレベルの授業はまだ受けてないわ」

 

 卒業すれば、望む進路を国が用意すると豪語している学校だ。中高一貫ではない故に、遅れをとっている学習進度を早める可能性は十分にあり得る。だからと言って、習っていない部分でテストすることはないだろうというのが、鈴音の考えだ。

 

「いや、海外では普通だけど? 参考論文だけ指定して、レポートをまとめて来いが一般的だし」

「……言い返せない自分に腹が立つ」

「お前はどこを目指しているんだよ、堀北」

 

 負けず嫌いの性格の鈴音は、超えるべき壁がどんなに高くとも諦めない精神性を持っている。

 福助という存在が、彼女の凝り固まった固定観念を壊しはじめているのだ。

 

「なあ、福田」

「奢ってくれるというなら、友人とのケーキバイキングに付き合おうじゃないか」

「奢らないし、ケーキバイキングにもいかない。というか男二人でそこは厳しいだろ」

「つまらん男だ。女装する気概を見せるべきだろ」

「俺の尊厳をなくす提案をするな」

 

 バカなやり取りを、鈴音は呆れた目で見る。

 そんな鈴音の視線を感じ取った綾小路は話を戻した。

 

「お前、なんでこの学校に来たんだ?」

「エリートじゃない人間のエリート教育(笑)を確認するため」

「(笑)を声に出して言うと、ちょっと面白いな――すげぇくだらない理由だな」

「何かを成し遂げる時の動機なんてくだらないことがほとんだ。人はいつだって本能的な行動を取るものさ」

「迷言だな」

「迷うほうのね」

 

 もともと大した理由じゃないだろうと綾小路も鈴音も思っていた。

 実際、本当にくだらない理由で、呆れを通りこして感心している。

 

「そもそも、既に望んだ進路にいるし。今はモラトリアムなんだ。自己形成を見直そうと思ってね」

「見直す気はなさそうね。でも確かに、貴方はやりたいようにやっている感じがするわ」

「やりたいことを実現する力を優れた能力という」

「名言だな」

「否定できないわね」

 

(やりたいことを実現するための力)

 

 綾小路の心にすっと入ってきた言葉だ。

 自分の能力は優れている。それは天才を育成する機関で、最高値を叩き出した点を見ても疑いようがない。

 では、自分は優れているのか。

 

(俺はやりたいことをやっているのだろうか? ただ父親から逃げているだけ……)

 

 天才と評された能力。しかし、自分の父親というたった一人の男を動かすことすらできない。

 それは本当に優れた人間と言えるのだろうか?

 そんなことを福助の言葉で考えるようになった。

 

「それなら二人はなぜここに?」

「まあ、進路だろう」

「教える義理はないわ」

「うん、クソ野郎ども♪」

 

 人を罵倒しておいて、お前らはそれかと満面の笑みで悪態をつく福助。

 

「じゃあ、刺激的な生活とかか?」

「おお、堀北の隣の席であることを幸運に思いたまえ。とても刺激的な生活だな」

「物理は勘弁して欲しいんだが」

「二人とも、刺されたいの?」

 

 いつの間にか取り出したのか、コンパスを二人に向ける鈴音。

 

「堀北ルートは高難易度じゃすまない件について」

「エリート教育で学び取るしかないんじゃないか?」

 

 睨みつけるを特技としている少女の対応策は、逃げるである。

 野郎二人は足早に教室を去っていた。

 

 ◆

 

 鈴音の攻撃から逃れた二人は、ぷらぷらと学内施設を巡っていた。

 

「綾小路、女装しよう」

「しない」

 

 ケーキバイキングに行きたい福助の提案を秒速で断る綾小路。

 することもなく、寮に帰るかと思いだしたところで、福助の視線に見知った顔が入ってきた。

 

「およおよおよ?」

「知り合いか?」

「同じ中学。まあ、中3の半ばくらいからだけど。まさか同じ高校に来ているとは思わなかった」

 

 視線の先には女子生徒達が仲良く歩いている。その中でひと際容姿端麗な少女がいた。楽しく談笑しているようで、福助のことに気付いていない。

 にやにやと笑みを浮かべる福助。変態そのものである。

 そして福助とすれ違いそうになる距離になってはじめて、少女は彼の存在に気付いた。

 しかし、その顔は知り合いに会えてうれしいというものではなかった。

 

「やっはろ~♪」

「……」

「久しぶり、中学卒業以来かな」

「……」

「元気そうでなによりだよ」

「……クズ助君、とりあえず視線を上にあげようか。私の顔はそんな下にはないよ」

 

 福助が話しかけた少女は、スタイルが周りの女子生徒と比べて抜群に良かった。

 女性の象徴の自己主張の激しさといったら、他の追随を許さないくらいだ。

 そんな双丘に挨拶をする男子。周りの女子生徒、そして福助の視線の対象となった美少女、一之瀬帆波の目はゴミを見るようなものになっている。

 

「おっと、帆波たそへの挨拶は、こうしないとというジェントルマンの本能がですね」

「クズのくせにジェントルマンとか片腹痛いし♪」

「ほ、帆波ちゃんっ!?」

 

 帆波の対応が予想外過ぎたのか、彼女の友達の女子生徒たちは驚きを隠せないでいる。

 福助の後ろにいた綾小路も、この人、人の悪口を言わなそうとか思っていたので、暴言が飛び出したことに少しばかり驚いてた。

 暴言が出る理由は、理解しているが。

 

「綾小路、彼女が大天使一之瀬帆波だ。容姿端麗、成績優秀。人当たりも良くて、男女ともに大人気。人の悪口なんて言わない心優しい女の子さ」

「その心優しい女の子に、暴言を吐かれるお前を俺はやばいと思う」

「にゃはは。綾小路君? よく分かってるね。ホントその通りだから、クズ助君には気を付けてね。あ、改めまして、一之瀬帆波です♪ 1B所属です」

「綾小路清隆です。1Dです。こちらこそ、よろしくどうぞ」

「福田福助です。帆波たそとは、深い関係です」

「寝言は寝ていえ、クソ野郎♪」

「ほ、帆波ちゃん!?」

 

 とてもいい笑顔なのに、口からは汚い言葉が飛び出してくる。

 一体、どれだけのことをして来たのかと、周囲が福助を危険人物を見る目で見つめる。

 

「いや、別に帆波たそを襲った過去があるとかはないよ」

「そうだね。クズだけどゲスではないし。クズ要素の大半はデリカシーの無さだから。基本的に無害だと思って大丈夫だよ、皆」

 

 帆波の説明で、危険人物ではなくなったが、善人ではないことは確定した。

 

「セクハラが特にひどい」

「帰国子女なんでね。ハグの文化だったからさ。ちょっと日本の価値観とのズレを修正するの時間がかかったんだ」

「私の存在価値は胸だけみたい」

「まさかまさかよ。大天使一之瀬帆波になんて失礼な。どんな不貞野郎だ」

「お前だぞ♪」

「あははは」

 

 なぜだろう、この二人、実はかなり仲が良いのではないか。周囲の人間はそう思い始めていた。

 

「そうだ帆波たそ、ケーキバイキング行かない? 綾小路の奢りで」

「クズ助君はいらないけど、綾小路君とは話してみたいから、良いよ」

「俺は奢らないぞ」

「綾小路も帆波たそも照れ屋だから困る」

 

 認識の違いが酷い。帆波の友達の一人である白波千尋はそう思うのだった。

 

 ◆

 

 用事があると帰った帆波の友達を除けば、ケーキバイキングにやって来たのは、4人だ。

 

「甘い。うん、きつい」

「お前、何しにケーキ屋に来たんだ」

 

 カットケーキをひと切れ食べて限界を迎えた福助。それをあきれ顔で見る周囲という構図だ。

 

「あのー」

 

 そんな微妙な空気の中、白波が口を開く。

 

「初対面でこんなことを聞くのはあれなんですが、クズ助さんは――」

「福田福助ね」

「福田さんは、帆波ちゃんとどういった関係なのでしょうか?」

 

 白波千尋は一之瀬帆波に好意を持っている。それは単純な友好以上のものだ。

 そんな彼女からすれば、たとえ暴言をはいているとはいえ、クラスでは絶対にとらないような対応をとっている福助に関心が向くのは仕方がない。

 

「まあ、普通に友人」

「そうだね。中学が同じだったし」

 

 返答はあまりに普通過ぎた。

 帆波も同意し、そこになんらやましさを感じない。

 

「…………」

「いや、ホントホント。帆波たその初めての相手とか、そんな嬉し恥ずかしな関係じゃないし」

「死ねばいいのに♪」

「お前ら二人、さっきの会話を思い出せ。友人関係が破綻してるぞ」

 

 綾小路の知る友達とは大きく違っていた。

 

「お二人を見ていると、確かに男女の関係ではなさそうですけど……」

「あ、やっぱり私の態度かな?」

「う、うん」

 

 誰にでも分け隔てなく優しい。Bクラスの面々が帆波を評価するなら、こういった言葉が出てくるだろう。

 

「まあ、福助君には何を言っても良いかなって思ってるのもあるけど」

「うん、よくないぞ♪」

「なんというか、私じゃない私を引き出してくれるというか」

「実は俺と同じクソみたいな性格ですって。大変ですよ、綾小路さん」

「本当だったらマジで大変だな。ありえないだろうけど」

「表現するのが難しいかな。千尋ちゃんも福助君と関わっていけば、なんとなく分かるよ。あ、でも品性はないから気を付けてね」

「おすすめされているのか、されていないのか分かりません」

 

 帆波の曖昧過ぎる言葉に困惑した。もしかしたら帆波自身もよく分かっていないのではと、白波は推測する。

 

「頼りにはなるよ。手段を問わなければ問題が起こっても解決してくれるし。キノコタケノコ論争にポッキーで参戦してくるみたいな」

「それ本当に問題解決します!?」

「にゃはは、しないかも。でも中学の時お世話になったのはホント。そこだけは感謝してる」

 

 ちょっと照れくさそうに過去を語った。

 感謝している、その言葉が嘘ではないことは明らかだった。

 

「帆波たその過去編を語れと?」

「うん、言ってない。それは――ちゃんと自分でやるから」

「おk」

 

 なぜか雰囲気が変わったが、深くは聞けなかった綾小路と白波。

 それから、高校生活でのこととか、今度皆で遊びに行こうとか、他愛のない会話をしてお開きになった。

 学生寮に帰る途中、

 

「ありがとね。あの時のこと黙ってくれて」

「語る気満々でした」

「やっぱり、福助君はクズだよね♪」

 

 嬉しそうに暴言を吐く帆波。

 友人が全く変わっていないことが、当たり前すぎて、嬉しかったようだ。

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