I am the perfect and ultimate XX   作:生物産業

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第5話 絶対に泣かせます

「クソ、四則演算のカッコの在り方についてお気持ちを表明していたら、解答用紙が足りなかった!」

「お前は小テストで何をやってるんだよ」

「6÷2(1+2)問題。あ、小テストの解答は5分くらいで全部終わった」

「最後の数問、高1の範囲じゃなかった気がするけど、お前には関係ないな」

「私でも出来たわ」

「ドヤ顔うざ」

 

 福助に数本のペンが飛来したが、すべてキャッチして返している。

 

「今のテストは評価対象だろうな」

「そうね。クラスの様子を伺っていたけど、間違いなく減点されるでしょうね」

 

 本当にこの学校に入学できた理由がわからなそうな人間が数名いたのは、福助も確認している。

 

「このクラス、1年終わるまで持つのかな」

「不吉なことは言わないで頂戴」

「でも、やばそうだな」

 

 まだ、学園のシステムに関して完全に確定していないはずなのに、未来を思うと憂鬱になる3人だった。

 

 ◆

 

 移動教室に向かう途中だった。綾小路が福助に話題を振る。

 

「なあ、櫛田から放課後遊びに行かないかというチャットが来たんだが」

「自慢か? もげろ、ビッグマグナム」

「俺だけじゃないぞ。池や山内、須藤なんかも一緒だ」

「もげろ、ポークビッツ」

「お前もどうだ?」

「女子1に男子5という逆ハー。櫛田桔梗おそるべし」

「それはちょっと酷いな~」

 

 なでるような声が二人の背後から聞こえた。

 二人が振り向くとそこには困ってますという顔をした桔梗がいた。

 チャットの確認に直接来たようだ。

 

「お姫様、まさか5人では足りぬと?」

「ち、ちがうよっ! いわれの無い発言に苦情を言っただけだからっ!」

 

 怒る様すら可愛らしい。男子の理想の女の子が今二人の前に立っている。

 

「まじで堀北に見習って欲しい女子力」

「お前、後ろから刺されるぞ」

「返り討ちにするから問題なし」

「なんで物騒な話になっているの?」

「櫛田が悪い」

「え、私の所為!?」

「いや、悪いのはお前だ。福田」

「堀北がわるい」

「関係ない奴を巻き込むなよ」

「倒れるなら、皆まとめてを信条としているので」

「はた迷惑な人だよ!」

 

 あまりのことに、桔梗が思わずツッコミをいれてしまう。

 綾小路は自分のツッコミを取られたことで、少し不満そうに桔梗を見ていた。

 

「それで何用ですか? 綾小路をレンタルする場合、一時間1ポイントの料金がかかりますが」

「安いな俺」

「あはは、それくらいならレンタルしちゃうけど、綾小路君が全くメリットないよね」

「美少女に誘われる以上に、何が必要?」

「び、美少女だなんて……」

 

 顔をあからめる桔梗。

 

「櫛田が美少女だと思う人」

「はい」

 

 無表情ながらも、手を上げる綾小路。2対1で美少女票が有効となった。

 

「褒めてくれても何もでないよ」

「よし、櫛田は不細工。これからはそう認識するし、皆にも伝える」

「…………」

「クラス中の男子を敵に回すから止めろ」

 

 一瞬だけ、桔梗の表情が変わったが、今はニコニコしている。

 少なくとも彼女の前にいる二人には気づかれなかった変化だ。

 

「デリカシーがない奴でな。すまん」

「綾小路君が謝ることじゃないよ。福田君、女の子に不細工なんて言っちゃダメだからね」

「さーせん」

「うん、許します」

「可愛いかよ」

 

 桔梗の笑顔にやられる福助。ちょろい男である。

 

「それで、放課後のことなんだけど、福田君はどうかな?」

「やめておくよ。今日はAクラスに用があるからね」

「Aクラスに知り合いでもいるの?」

「いや興味本位。CとBには知り合いがいるからさ」

「へぇ~私と同じなのかな。私も学年の人全員と仲良くする予定なんだ」

「仲良くはどうだろう? どういう人間なのか知りたいだけだよ」

「そっか。じゃあ、Aクラスの人と知り合いになれたら私にも紹介してくれたら嬉しいな♪」

「紹介できるほど、仲が深められたらね」

 

 じゃあねと、桔梗は小さく手を振って去っていった。

 

「お前、もしかして櫛田が苦手か?」

「別に苦手じゃないよ。ただ彼女がDクラスにいるという事実がこうもやっとする感じ」

「何かしらの欠点を抱えているってことだよな」

「それも爆弾レベルの。彼女起因で、クラス崩壊とかあるかもね。クラスの男子が彼女を取り合ってとか」

「ありそうだから、困る」

 

 綺麗なバラには棘がある。

 これはいつの時代も変わらない。

 

 ◆

 

 放課後、福助はAクラスにやって来ていた。

 桔梗との予定を断るために咄嗟についた嘘とはいえ、本当にすれば問題ないと実際に足を運ぶ。

 すでに部活に向かった生徒を除けば、それなりに教室に残っている。教科書を開いて復習ないし予習をしている者たちがいるのを見ると、自分のクラスとはまるで違うなと感心した。

 

(日本人らしいエリート像って感じかな)

 

 教室の中を見ながら、そんな感想を抱く。

 

「誰かお探しですか?」

「え?」

 

 視線を少し下げる。学帽をかぶった少女が杖を支えに立っているのが見えた。

 中学生と見まがうほど小柄で、180を超える福助の視線からは外れていたため、近づいてくるのが全く分からなかったようだ。

 

「誰かお探しであるなら、呼びますが?」

「いや、別に特定の誰かを探していたわけじゃないんだ。ただエリート学校のエリート集団を見てみたくてね。不躾な視線を向けていたのなら謝るよ」

「……おかしなことを言いますね。私たちは同じ高校に通う生徒同士。貴方の言葉を借りれば、同じエリートでは?」

「……そうかも」

 

 少女が面白い奴を見つけたと、はっきりと分かるくらいに笑顔を向けて来たことに、若干の恐怖を感じる福助。

 

「少し私と貴方では見解に相違がありそうですね。別のクラスですし、ここは友好を深めるという意味でぜひ、カフェにでも行きませんか?」

「杖を突いているから怪我でもしているのかな? フェミニストである俺はそんな君を10分以上も歩かせるようなことはできないな」

「フェミニストを自称するなら、女性の誘いをそんなつれなく断らなくも宜しいでしょうに。では、近場の空き教室で少しお話しませんか? ボードゲームでもたしなみながら」

 

(逃がす気がなさそうだ。背後に野郎がいつの間にかいるし)

 

 Aクラス怖い、そんなことを考えながら、少女、坂柳有栖が案内する空き教室に足を進めるのだった。

 

 ◆

 

「自己紹介から始めましょう。私は坂柳有栖といいます。それで福田福助さん、この学校は楽しめていますか?」

「俺のことをご存じで? というか自己紹介させてくれない件に関して、どうぞ」

「神童福田福助の名前を知らないほど、私の教養は浅くありませんよ。既に飛び級で海外の大学を卒業し、取得した特許を活用して起業した会社を上場させたのは有名な話です」

 

 案内された教室。有栖の背後には控える男子生徒と女子生徒は、有栖の言葉に少しばかり驚いていた。

 体の悪い有栖を補助するための生徒であろうが、Aクラスに所属している以上、かなりの能力を有しているはずだ。

 そんな彼らにすら、知られていないのかと若干ショックを受けている福助。

 

「後ろの二人に驚かれるくらいの知名度だけどね」

「海外のことにまだ興味を抱ていないのでしょうね」

「グローバル的な視点を持たないとエリートとしてやっていけないと思うけど」

「それをここで学んでいくんですよ」

「なるほど。さすがは日本の誇るエリート校だ」

 

 そうでしょうと、皮肉に微笑む有栖。

 

「それで先ほどの質問の回答はいただけるのでしょうか?」

「楽しんでいるよ。この学園のシステムも挑戦的だと思っているし」

「興味深いお話ですね。一体どのような点で?」

「敵となりうるクラスだからね。情報は出さないでおくよ」

「敵ですか」

 

 福助の発言から、何かを察する有栖。

 彼女はまだこの学園のシステムを把握していないようだ。

 

「貴方に何が見えているのか、どんどん興味がわいてきますね」

「今はクラス内の観察かな。人間の思考というのは、未だ解明できない難題だからね。科学者の一人として興味は尽きないよ」

「あら、そういう言い方をするとなると、興味を抱いた人物でもいらっしゃるのですか? 神童である福田君のお眼鏡にかかった人がいるとか?」

「興味という意味では結構いるよ。明らかに能力を隠しているのに、わざと普通ぶってるアホとかいるし。自分の今を認められない子とか、2面性を持ってそうな子とかね。あとは単純にバカのように見えて、実際バカなことをしているやつとか、息をするように嘘を吐く人間性とか、その行動の起点を分析するだけでも面白い」

「実力を隠しているですか……その方のお名前を聞いても?」

 

 有栖が嬉しそうに尋ねてくる。

 まるで、彼女が知り合いであるかのように。

 

「個人情報には厳しい時代なんだ。この学校でそれが適用されるかは分からないけどね。だから、今は秘密」

「あら、残念ですね」

「そういう秘密を探っていくのも、学校生活の楽しみでしょ?」

「そうですね。それはこれから知っていけばいいことです」

 

 福助の言葉に満足そうに頷く有栖。福助はその様子からなんとなく察した。

 そこで彼の似非紳士システムが反応する。

 

「Dクラスに知り合いでもいるのかな? 恋愛相談なら任せてくれ」

「ふふ、初めて会った殿方と恋のお話をするというもの楽しいかもしれませんが、私はこれでも乙女ですので、自分の胸の内は大事に秘めておきますね」

「ほほーう。話した感じだと積極的に行きそうだけど、なるほど外堀を埋めていく、いや、自分の城に招くタイプか。他人に邪魔をされることを嫌う、研究者に多い性格だね」

「女の子はいつだって、恋の研究者ですよ」

 

 有栖が可愛く言ったが、有栖の後ろに控えている二人は、渋い顔をしている。

 まるで似合わないと言いたげだ。

 

「後ろの二人には不評みたいだけど? というか同じクラスの生徒を従者のように扱っている時点で、女王様だよね。なるほど、その視点で見ると後ろ二人の性癖がなんとなく分かってくるよ」

「待ってくれ、酷い誤解だ」

「そうよ」

 

 自分たちの性癖を勝手にゆがめようとしている福助に、待ったの声を掛ける。

 

「橋本君も神室さんも、私の身体が弱いことを知って、助けてくれる優しい人ですよ」

「言葉と実情がこれほど合わないのも珍しい。橋本とやら、校内で椅子になるのだけはダメだぞ。坂柳が美少女でも、さすがに高レベルすぎて、周囲がドン引きする」

「するかっ!」

「あら、してくださらないんですか? 橋本君」

 

 ニコニコでからかう有栖に、押し黙ることしかできない橋本少年。今この瞬間、彼の名誉は二人の愉快犯に著しく傷つけられるのだった。

 

「となると」

「こっち見ないでくれる?」

 

 神室と呼ばれた少女に視線を送ると、拒否されてしまう。

 

「ドM執事とツンデレメイド。なかなかの人選だな」

「お褒め頂き光栄です」

「いや、褒めてはいないよ?」

 

 終始笑顔を崩さない有栖。

 この子、絶対サイコパス、と失礼な判断をする福助。

 もし二人の心の中が、お互いに分かれば、バトル開始のゴングが鳴っていたかもしれない。

 

「Aクラスの怖さは分かったよ。これから警戒していくことにする」

「橋本君のせいですよ。Aクラスが福田君に警戒されてしまいました」

「お、俺が悪いんですか?」

 

 酷い言われように、お手上げ状態の橋本。神室は関わりたくないのか、顔を背けている。

 

「ですが、Aクラスのイメージが悪いままでは、私としても問題です」

「悪いイメージはないよ。趣味は人それぞれ。橋本、俺はお前がどんな奴でも、噂にしたりはしないぜ。噂にしそうなやつに話すかもだけど」

「それは噂にするってことだからなっ!」

 

 橋本正義は思った。ここで戦わなければ、自分の名誉は守られないと。

 しかし、そこに助け舟を出す人間がいる。そう、有栖だ。

 

「では、橋本君の名誉をかけて、一つ賭け勝負をしませんか?」

「別に良いけど、俺は泣いている女の子に優しく声を掛けるとかできないよ? それに橋本の名誉が勝手にかけられちゃうけど?」

 

 何の勝負かも決まっていない状態で、ナチュラルに勝利宣言をして煽る福助。

 有栖の後ろに控えている二人は、有栖の能力を理解しているため、大言壮語だと思ったが、先ほどの有栖の発言からその発想を否定した。

 

「ふふふ、フェミニストではなかったのですか? 橋本君は真のフェミニストですから、私のお願いを聞いてくれます。だから、大丈夫です」

 

 ちょっと待て、と橋本が言う前に話が進む。

 

「さっきやめたんだ」

「あらあら。ですが、元フェミニストとしてこの勝負だけはお願いを聞いてくださいね。チェスでお願いします。私が一番得意とするものなので」

「運ゲーの方が確率は上がると思うけど」

「私にもプライドはありますもの」

 

 不敵に笑う有栖に、なるほどと返す福助。

 

「ちなみに賭けの内容は? 橋本君、ドM説を流したところで、俺にメリットはないんだけど」

「そんな説はないっ!」

「では、勝った方の言うことを一つ聞くということでどうでしょう? あ、えっちなことはいけませんよ」

「I am not a pervert, little girl. Come back when you've grown up a bit more. You understand that much, don't you?(俺は変態ではないんだ、お嬢ちゃん。もう少し成長してから出直してくれ。それくらいは、わかるだろう?)」

 

 終始にこやかだった有栖から笑顔が消えた。

 

「……絶対に泣かせます」

 

 有栖の背後から、強烈な何かがあふれ出したが、勝敗に影響はなかった。

 貸し一つとだけ言ってから、福助は教室を去る。

 優れた指し手同士であれば、1時間以上かかるチェスの試合で30分で終わってしまった勝負。

 有栖が少し涙目になってたのは、その場にいた人間だけの秘密となった。

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