I am the perfect and ultimate XX   作:生物産業

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第8話 これからがあるさ堀北、頑張ろうぜ

 桔梗の協力を得て、女子に不慣れな先輩男子から1年時に行われたテストや小テストの過去問を入手した。桔梗のうるんだ瞳と愛嬌のおかげもあってか、比較的少ないプライベートポイントで取得した。ポイントを払わされたのは綾小路であるが。

 3年生と2年生の両方から入手し、問題を見比べると中間テストの内容は全く同じだった。小テストに関しても、先日行われたものと同じであったため、茶柱がやりたかったことの確証を得られる結果となった。

 丸暗記をさせるという手もあるが、他の時期に行われたテストの内容はそれぞれ異なっていたため、先のことを考えれば根本的な学力の向上は必須。

 まだ慌てる時間じゃないと、福助と綾小路の判断で、過去問をクラスで共有するのは後にすることになった。

 

 それから3人は解散した。

 福助は茶柱にイヤミを言いに、綾小路はコンビニに寄って帰ると言い、桔梗と分かれた。

 

「最悪最悪最悪!」

 

 誰も居なくなった校舎の階段スペースで桔梗は荒れに荒れていた。

 

「何がイヤミだよ、何がコンビニだよッ! 送って行けよっ! 女の子を夜に1人で帰らそうとすんなよっ!」

 

 ゲシゲシと壁を蹴りまくる桔梗。

 

「堀北は相変わらずお高くとまってるし、福田はクズだし、綾小路は童貞野郎だしっ!」

 

 思いのたけを叫びながら八つ当たりする。

 

「マジでウザい。ムカつく。死ねばいいのに……」

 

 櫛田桔梗は純真無垢で、みんなに愛される優しい女の子である。

 ただそれは桔梗が自分をよく見せるために演じている仮初の姿に過ぎない。

 彼女の本質は、自己顕示欲の塊で、周囲から賞賛される自分が大好きな究極のナルシストである。

 

 自分が福助のような天才でないことは分かっている。努力で得られる賞賛に限界があることは十分に分かっている。

 でも、褒められたい。ちやほやされたい。凄いと思われたい。

 そんな感情が彼女に、仮初の存在を作らせたのだ。

 

 しかし所詮は仮初の姿。何かを演じるにはストレスがたまる。

 それを吐き出すために、人気のない校舎を選び、ストレスの原因を叫んでいるのだ。

 だが、それは軽率な行動だった。

 

 かつん。

 

 靴音に振り向く。

 気が緩んでいたのだろう。自分の背後に綾小路がいることに気付かなかった。

 

「ここで何してるの?」

 

 桔梗が冷え切った声で尋ねる。

 

「人生に迷子になったといったら、どうする?」

「童貞野郎」

「さっきも思ったが、俺を童貞と判断するにはまだ早いぞ」

「へぇ~やっぱり聞いていたんだ」

 

 桔梗の視線が普段とは比べ物にならないくらい冷たくなった。

 純真な櫛田を返して欲しいという綾小路の心の叫びをよそに、桔梗が綾小路の方に足を進める。

 

「孔明の罠だ」

「今聞いたこと、もし他の誰かに話したら許さないから」

「もし話したら?」

「今ここで、あんたにレイプされそうになったって言いふらしてやる」

「冤罪だぞ、それ」

 

 桔梗が冷たく笑った。

 

「大丈夫よ、冤罪じゃないから」

 

 すっと伸ばされた桔梗の手が綾小路の手をとらえる。

 そして自分の胸にゆっくりと触れさせた。

 

「お、お前なにやってんだよ……っ」

 

 そう言いつつも、桔梗の巨峰をがっつり握る綾小路。男のさがには抗えない。

 

「あんたの指紋、これでべっとり付いたから」

「櫛田ビッチ説、やっぱり当たりじゃね?」

「「え?」」

 

 

 パシャ。

 携帯のカメラが向けられ、綾小路と桔梗の目が見開く。

 

「いや、チャバティの奴、定時退社していたみたい。正しい労働者の姿でイヤミを言う気もなくなったよ」

 

 職員室に向かったであろう、福助が階段の上の方から現れた。

 そして、全く状況を理解していないながらも、カメラで写真をとるという手腕。

 いつ何時でも、イベントを楽しむ心を忘れないプロ意識だ。

 

「お邪魔しました。ごゆっくりどうぞ♪」

 

 そそくさとその場から立ち去ろうとする福助。

 

「「ちょっと待て!」」

 

 二人は自分の名誉のために全力で引き留めるのだった。

 

 ◆

 

「なるほど、なるほど。櫛田は実は性悪であったと」

「ああ」

「櫛田の胸に手を当てたのは、あくまで櫛田からしてきたことであると」

「ああ」

「豊かなお胸は気持ちよかったと」

「……黙秘権を行使する」

「変態」

「変態」

 

 自ら行ったにも関わらず酷い言いようである。福助の場合はただの嫉妬。

 

「ちなみに口封じに俺にもパイタッチをさせてくれるとか」

「あるわけないでしょ」

「ちっ」

「欲望に正直だな」

「がっつりもみもみした奴は言うことが違うな」

「……すまん」

「変態」

 

 それは俺が悪いのか、いや悪いなと自問自答して反省する綾小路。

 

「まあ、二人がただれた関係なのは理解した。乳繰り合うのは青春の一つだ。好きにしてくれ」

「絶対理解してないでしょ。で、あんたの望みは……エロいことはなしで。ていうか、もう少し隠しなさいよ」

 

 え、良いの? といやらしい顔をする福助に桔梗が制止をかける。

 

「いや別にこれをネタに櫛田を脅すとかしないよ? というか無意味だ」

「どういうこと?」

「俺が撮った写真は綾小路が、櫛田の胸を鷲掴みしているところ。これだけで、櫛田が性悪だと伝えることはできない。むしろ、綾小路が野郎どもから闇討ちされる可能性大」

「消してくれ」

「これから先綾小路が美少女とにゃんにゃんする可能性がある。イケメンのくせに童貞くさいところに好感をいだいていたのに、それが覆されるのは許しがたい。灰色の青春を送らせるための切り札にしておく」

「クズ過ぎて、逆に好感がもてるね」

「俺の青春に危機が迫っているんだが」

 

 綾小路の輝かしい未来は魔王の手によって防がれるようだ。

 

「櫛田の性格だって俺たちが公表したところで、一体なんになる? 既に櫛田と俺らとでは信頼度という点に関して天と地ほど差がある。鼻で笑われるのがオチだ」

「確かにそうだな」

「……なるほど」

「まあ、だからと言って俺らに脅されたとか言おうものなら、全力で報復するけど」

「……あんたには絶対にしない」

「俺は?」

 

 福助の脅威度を理解していた桔梗は逆らわないことを宣言する。

 綾小路の将来は不透明のままだが。

 

「でも、ある程度の協力はお願いするかも」

「……どういうこと?」

「いや、別にお前に損をさせるわけじゃない。良い子ちゃんを演じてるってことは、皆からよしよしされたいってことだろう?」

「言い方」

「実際そうなんだから。でだ、俺ら二人はリーダーのような貧乏くじは引きたくない」

「綾小路君はあんたみたいな能力があるわけじゃ――」

「しゃべってれば分かるだろ。こいつはバカなふりをしているだけ。普通に優秀だよ。上限まではわからないけど」

「嘘でしょ?」

「そうだな、福田の冗談は本当に聞こえるから困る」

「こういう対応も無意識なんだろうな。ちょっと慌てるとか、あえて強者風を装うとか、そういうやり取りをやってこなかったんだろう。友達がいない天才の特徴だ。周囲が自分をどう見ているかわからない」

「……」

「警戒する必要はないさ。別にお前の過去に興味はない。友達がいない悲しい奴だから、憐れんでいるだけだ」

「警戒してなくて良いと言いつつ、暴言で相手の心をえぐる。帆波ちゃんをして、クズと言わしめるだけのことはある」

「全裸に引ん剥くぞ♪」

「ひっ!」

 

 ささっと綾小路の背中に隠れる桔梗。

 

「で、話を戻すけど、基本前に出るのは櫛田、平田、堀北あたりに頼むことになる。体のいい駒扱いだ」

「言っちゃうんだ」

「お前も友達いないだろ」

「根に持つな――実際、ブレインとフロントが違うなんて会社じゃ普通さ。そういう意味では櫛田は最高のフロントマンさ」

「……褒められている気がしない」

「褒めてる、褒めてる。俺や綾小路より格段に優れている点があるとすればそこだ。女優のように映像媒体を通じてではなく、実際に人と人が接したときに最大限自分の魅力が発揮される。キャバ嬢なら天下を取れる逸材だ」

「ね、バカにしてるよね?」

「え、櫛田って職業差別する系なの? 性業界やちょっと特殊な接客業界の収益はバカに出来ないよ、日本では。まあ脱税しているところも多いけど」

「なんだろう、こう絶妙にかみ合わない感じ」

「目線が違うんだろ。俺らはお金を動かした経験がないからな」

 

 なるほどと綾小路の言葉に桔梗が納得する。

 

「前に出る人間は多い方が良い。敵対組織の注意が分散する。それに女子でいえば堀北と櫛田では出来ることの領域がまるで違うからな。補完もしあえる分、いい関係だろ」

「無理」

 

 桔梗がきっぱりと断る。

 

「あ、堀北のこと嫌い? まあ美人で高飛車だもんな。嫌われる要素はある。特に同性から嫌われそうだ」

「それもあるけど、私、あいつと同じ中学なの。だからこの学校で私の過去を知る唯一の人物なわけ。出来れば退学させたい」

「ほほーう。やはり櫛田の取り合いで学級崩壊したか。傾国の美女とは恐れ入る」

「?」

「元は中国の話だ。国家元首が寵愛にかまけて政治を疎かにしたため、その国家を崩壊に至らせた女性のことを指す」

 

 綾小路の補足を聞いて、引きつった笑みを浮かべる桔梗。

 

「原因は違うけど、結果は同じ」

「んー男女ともってことね。人の相談とか受けてて、それを暴露――は直接しなさそうだから、匿名掲示板とかに、ストレス発散ついでに書き込んでいたら、バレて、犯人としてつるし上げられたと」

「福田君って、本当に私と同じ中学じゃないよね?」

「違うよ」

「でもそれだと、櫛田がつるし上げられるだけで、学級崩壊はしないんじゃないか?」

「さすがに誰それの好き嫌い程度じゃないだろ。二股してるとか、万引きみたいな犯罪とか、櫛田みたいに陰口をサイトに書いてるとか、そう言うのじゃない? クラス全体が疑心暗鬼になる要因を作ったってことだろ」

「それって櫛田が悪いのか?」

「え?」

「他人の好き嫌いの暴露は擁護しようがない。感情に関しては人間であるがゆえに生まれるものだし、それを隠して生きるのは円満な社会生活を送るためには必要なことだ。ただ他は別だな。悪いことをした奴は悪いことをした奴が悪い。当たり前のことだ」

「なるほど、櫛田の暴露を利用して、いろいろぶっ壊したのか。騒ぎ立て中に、うやむやにしたかった奴でもいたみたいだな」

「え? 私悪くない?」

「他責思考は危険だぞ。お前がきっかけなのは間違いないし、悪い部分はある。ただすべてじゃないというだけだ」

「そうだな」

「慰めてくれているようでくれてない」

「慰めてはいないからな。クソ女であることに変わりはない」

「……」

「福田がモテないのは俺でも分かる」

 

 桔梗が睨みを利かせたが、どこ吹く風な福助に、たんたんと事実を告げる綾小路。

 

「とりあえず、櫛田がクソであることが確定した以上、堀北を退学に追いやる必要ない」

「福田君たちなら、皆にバレても、いくらでも誤魔化せる。やっぱり堀北は退学させたい」

「堀北だぞ? 学力こそ至高とか思っていた奴が、他人のクラスのことなんて気にするわけがない。むしろ、櫛田が同じ中学であると認識していたかどうかすらある」

「あ、それは俺も思った。堀北にとって、櫛田は興味の対象にならないだろう」

「……それはそれでムカツク」

「どんだけかまってちゃんなんだ。とりあえず、堀北を除外する方向は無しで」

「もしかして堀北のことが好きなの?」

 

 にやっと桔梗が笑う。福助の弱点になるかもしれない。そう思ったのだろう。

 しかし、相手は福助、期待通りの応えが返ってくるわけもなかった。

 

「美人は目の保養になる。それにここの学校ってスカートが短い。うん、健康的」

「クズだね」

「クズだな」

「ぱい揉み男に言われるのは心外だな。櫛田の桔梗ちゃんを揉んだ時、やましい気持ちが一切なかったのであれば、俺を罵りなさい」

「……すまん」

「……クズ野郎ども」

「「おま言う」」

 

 その言葉にキレた桔梗が襲い掛かり、二人はダッシュで逃げるのだった。

 

 ◆ 

 

 二人は桔梗から逃げるために寮の裏に隠れている。

 

「あいつ意外と足速いな」

「目が怖かったぞ」

 

 桔梗が自室に帰るまで時間を潰ししていたときである。

 二人の耳に男女の声が聞こえてきた。

 

「密会か? まあ思春期だからな。全く今日はイベントが多いぜ」

「嬉しそうにカメラを構えるな」

 

 物陰に隠れながら、様子を伺う二人。青春している。

 こういった行動が自然とできるのが怖い。

 

「聞いたことのある声だ」

「堀北だな」

「ま、まさかあいつに彼氏がいるだなんて……」

「あれだけの容姿なら居ても不思議じゃないだろ。性格がきついけど」

「なるほど、相手はドMか」

 

 勝手に彼氏認定され、性癖を決められるかわいそうな男子生徒。

 

「物陰に隠れてる二人、出て来い」

 

 二人のしゃべる声が大きかったのか、男子生徒に気付かれたようだ。

 

「わん、わん」

「にゃー」

「それで本当にごまかせると思っているのか?」

 

 なんて鋭い奴なんだと、二人は仕方がなく正体を現す。

 

「福田君に綾小路君……」

「鈴音の知り合いか」

「鈴音ですって綾小路さん」

「そうですね、福田さん」

「青春って羨ましいですね。メガネかち割りたいです」

「暴力沙汰は勘弁だな」

「妙な誤解をするな。俺は鈴音の兄だ。堀北学、この学校の生徒会長でもある」

「近親――」

「それ以上は言わせない」

 

 綾小路が福助の口をふさぐ。

 

「いや、兄弟揃って美形とかムカついたんで、悪質なデマでも流そうかと」

「お前、時々知能が著しく下がるのはなぜだ?」

「嫉妬だ」

「正直すぎて、何も言えない」

 

 二人のおふざけが過ぎたのが原因だろう。

 学が綺麗なすり足で相手に気付かせないように距離を詰めていた。

 そして次の瞬間には、強烈な2段蹴りを二人相手に放っていた。

 

「腰いた」

「っぶね!」

 

 ボクシングのスウェーのようにかわした福助と、バックステップで距離をとった綾小路。

 福助の方は、急に上体を逸らしたためか、腰が悲鳴をあげていた。

 

「良い動きだな」

「堀北家のコミュニケーション能力に疑問を抱かざるを得ないんだけど!」

「ボディランゲージが主なんだろ。堀北もよくやる」

 

 やばい家系と結論づける二人。

 

「……何か習っていたのか?」

「小学生の時は卓球で全国に、中学時代は野球部でエースで背番号は4番だった。けどインターハイで怪我をして今はリハビリ中」

「どこかで聞いた自己紹介だな」

「あれを堂々と言ってのける度胸に感心した。卓球だけは真実の可能性が1%くらい残しているところがポイントが高い」

 

 なんの芸術点の審査だろうかと綾小路は、そんなことが頭に浮かんだ。

 バスケットと野球を混同しているクラスメイトの、出来るはずのないインターハイでの名誉の負傷の回復を願うこと忘れない紳士の鑑である。

 

「……ちなみにお前の方は?」

「ピアノと書道を少々」

「マジで!? もし音楽祭みたいなイベントあったら、お前に難易度の高い曲を順に弾かせよ」

「嘘だ、すまん」

「嘘つきとか人として最低の行為ですわ」

「先ほどの発言は嘘としか言いようのないものだが?」

 

 学にツッコミをいれられる福助。

 福助と綾小路はどちらが人として最低か、言い争っている。

 

「……鈴音、お前に友達がいたとはな。なかなかユニークな二人じゃないか」

 

 ユニークであることは鈴音も否定はできない。

 

「兄さん、彼らは友人では――」

「お兄たまに、ナチュラルにボッチであると思われている鈴音ちゃんかわいそう」

「これからがあるさ堀北。頑張ろうぜ」

 

 優しく慰める二人。

 しかし、その言葉は思春期の女の子を慰めるには至らない。

 

「殺すわ」

 

 尋常ではない怒気がまき散らされることになった。

 

「お兄たま、妹さんが犯罪をおかしそうです!」

「責任をもって対応してください」

「そうか、お前もようやく人と関わることを覚えたのだな。まあその二人がいれば、面白くなるかもしれないな」

 

 満足げな顔をする学。鈴音が荒ぶっていることは気にしないようだ。

 

「上のクラスに上がりたかったら、死に物狂いで足掻け。それしか方法はない」

 

 それだけ言って去っていく学。

 去り方が非常に見事だ。

 

「良い感じに去ったけど、ライオンを落ち着かせてからにして欲しい」

「悪いのは福田だ。俺じゃない」

「あ、この野郎! ビッグマグナムを広めてやる」

「死になさい!」

 

 尊敬する兄の前で恥をかかされたからか、顔を真っ赤に染めた鈴音が全力で駆け出す。

 本日二度目の逃走を開始する二人。

 

 女子に追いかけられる素敵な一日となるのだった。

 

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