「伝説って?」「ああ!」   作:絞りカス

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どら焼きはマスタードとケチャップで食べよう。


パンケーキにかけるものには宗派がある

 持論である。

 人間の社会とは、どこまでいっても弱肉強食だと思っている。

 学生ならば、受験戦争や就職。

 娯楽に目を向け、ストリーマーなる者達ならば、ゲームの1位や人気、出場した大会なんかでの賞レース。

 社会で生きるには勝敗のつくものが必ずそこらかしろに転がっている。

 人はそこに用意される唯一無二の椅子を勝ち取る為に群がり、競い、争い合う。

 闘い、蹴落とし、引きずり下ろし、そうして人は椅子に座る事が出来る。

 紀元前から変わらない人間の生存競争と言えば最もらしい。そうして成り上がり、見える景色はその者にしか分からない。

 そこその椅子から見えるのは自身の踏みしめてきた道と闘争を肯定する希望か、それともどこまでも真っ黒の全てを否定する絶望なのか。もしくはそのどちらでもないのかもしれない。存外俗物らしい景色でも広がっていたりとか。どうであれ、僕にはわからない。

 人なんてものはその実何処までも醜く、泥臭く生き抜こうとする生き物だ。 

 僕は決してその生き方を否定しない。

 なぜなら僕は、闘争の果てにある勝利の椅子にも座れず敗北の土台にも居場所のない、そんな道楽者(おろかもの)だからだ。

 

 

 ☆

 

 

 表通りから少し逸れた横道を往き、直進、左折、右折と入り組んだ道を進んでいく。そうして道行く道を抜けるいけば徐々に壁や床にスプレーアートの跡が増え、表通りとは雰囲気が変わったのが肌感覚で実感できる。

 僕にとっては既に何度も通り慣れた道だ。いつも通り自分の散歩道と呼べるほど歩き慣れた道を練り歩き、目的地に着き、僕は持っていた携帯とメモ帳をポケットに突っ込み、身なりを再び整えた。

 僕の目指した目的地の名はビビットストリート。恐らく、ここ等一帯で最も音楽の栄えた場所。

 音楽を愛する者達が作り上げた街と言えるもの。

 とはいえそこに僕の居場所と言えるものは無い。何せ僕は根も張らずにふよふよと、ただ長くそこらを歩くだけのしゃぼん玉のように放浪するだけだから。

 

 だから、こうして定期的に客として辺りをうろつく。

 そんな事を何遍も何遍も日常のように繰り返していれば、興味のない者でも覚えられる。

 

『あっ、道楽者だ』

『なぁアレ! 道楽者じゃねぇか?』

『今日もふらついてるな』

『おーい道楽者ー!』

 なんか、気付いたら物凄い不名誉な渾名になってた。こうさ、もうちょい良い渾名なかった? 

 例えばさ、こう遊び人とか、何ならカタカナとかなら散歩者(フラヌール)とかさ。

 ……ダメだ、どっちにしろ同じ様な名前だコレ。

 碌な名前が浮かんでこない。だいぶ終わってる。

 いや、どうであれ齢16の青少年につけていい通り名じゃないと思うけど、バカとかクソだのザコだとと言われたり、何も無い名無しでいるよりはマシなので気にせずその渾名を受け取っている。すっごい不本意だけど。

 兎にも角にも、僕の根城.なんか違う。居場所.これも違う。居場所と呼ぶには自分は浮き過ぎている。

 放浪先として、僕はこの場所によく来る。放浪先。うん。これでいい。

 僕の名は唐桜 都楽(かざくら とらく)

 

 生存競争の激しい音楽の街で、記録者として存在し続ける、勝者でも敗者でも無い道楽者だ。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

「よ。ノメちゃん」

「……呼び方どうにかならねぇのか?」

「うーん、だってこれが呼びやすいからね。

 無難に東雲くんとか、彰人君とかだとなんか距離あるでしょ」

「近すぎるんだよ」

「ありゃま、だけど今更呼び方なんて変えられませーん残念でしたー」

「……で、何の用だ?」

 自らの名前をおそらく誰からも呼ばれたことのない呼び方をされ、若干不機嫌になっている橙色の少年、東雲 彰人は僕の方を見る。

 

「これなーんだ」

「……券? 一体なんの券だって」

「向こう通りの開店から30分完売するパンケーキが目玉の予約必須のカフェの券なんだけど」

「先程の非礼をお許しください都楽様」

「君ほんっとにパンケーキの事となるの態度変わるね見習いたいよその切り替え方は」

 

 彰人は先程までの不機嫌な態度から一変し、頭を下げ始めた。

「というか、元から君に渡すつもりだったからね。ほい」

「……マジかよ。本物だ」

「僕のことなんだと思ってんのさ」

「てっきりニセモノ持ってきてからかいに来たのかと」

「心外だねぇ。僕はね、自分の知る人間で好ましく思ってる人に嫌な思いするような暇の潰し方はしないって決めてるの」

 

 シャボン玉のストローをくわえて、僕は彰人にそう言った。

「……シャボン玉作りながら言っても信用ならねぇよ」

「硬っ苦しいの嫌いだからね」

「……そうかよ。しかし、なんでこんなモンを持ってんだ?」

 

「日々の放浪の賜物ってやつだよ。ぶらついてみるもんだね、全く」

「……流石にもらえねぇ」

「人づてでお前がもらったのに何の関係もない俺だけが行くのもなんか違ぇ」

 

「真面目だねぇ君も」

 僕は、しみじみと彼の決断に目を見張る。初めて会ったときはなんかものすっごい警戒されてたのに、長くいれば結構変わるもんだね。

 初見というか、距離の遠い時の警戒に関しては何ら間違った対応じゃないんだよね、悲しいことに。見てくれから言動まで何から何までふざけてるし、信用なんざならないでしょ普通。

 

「だから、だ」

「うん?」

「一緒に行くぞ」

「りょーかい」

 券だけ渡して退散のつもりが、一緒になっていくことになった。

 どうやら、僕らは自分たちが思っているよりも、互いに甘いものに目がないらしい。

 だけど、存外悪い気はしない。

 

 

 

 

「ご注文は?」

「これ二つと、コーヒーで。ノメちゃんは?」

「俺もそれでいい」

「コーヒー二つで」

「畏まりました」

 

 男二人、予約必須のカフェの中。店員は注文を受け取り、奥へと帰っていく。

 

「で、どよ。伝説は、越えられそう?」

「……」

 

 彰人は、開口一番斬り出された僕の話題に載ることはなかった。

 そらそうよ。着席して早々にだす話題にしては、ステーキみたいに重たすぎる。

 

「まぁ、そう簡単に超えられたら、伝説になんてなってないもんね」

 

「ノメちゃんさ、僕にボヤいたことあるよね」

「……ああ」

「でも、やり遂げるんだろ? 君らは」

 僕は、眼前で静かに闘志を燃やす彰人を見据える。

「俺たちは、超えて見せる」

「未だにぶれずにいることを確認できてよかったよ。さ、肩に力の入る話はおしまい。

 美味しいもの食べて、空気抜こうや」

 

 僕らは重たい話を切り上げて、この先に出される甘味を心待ちにすることにした。

 

「いやぁ、やっぱりこうやってスイーツで話が合う友達ってのは貴重だから助かるよ。

 なにせ、周りを見渡したって石投げてくるのばっかりだからね」

「……なぁ、都楽。ずっと気になってるんだがよ……」

 

「お前は、ここにいてどうして歌おうとしないんだ?」

 

 彰人は、こちらに向かってそう聞いてきた。重たい話の仕返しじゃん。

 だけど、至極真っ当な疑問だ。

 僕は、音楽の街で何をするわけでもなく、ただ観覧し、記録することを選んだ意味不明の人間だ。

 

「そうだねぇ……」

 僕は、返答を頭で考える。

 正直、自分でも愚かなんだとは思っている。

「突然だが東雲彰人。君は何を持って舞台とは成立すると思う?」

 

 僕は理由を言う前に、目の前の夢追人に1つ問いをかける事にした。

 

「……ステージで盛り上げる演者と、裏方に……客か?」

 

 流石に、舞台に立つものとして、なにが必要なのかしっかり分かっているようだ。

 というか分かってなかったら料金全部押付けてたからね。セーフセーフ。

 

「正解。僕はね、人のもつ熱を広げるには観測者が必要だと思っているんだ」

「当然の事ながら、ステージ及びライブってのはねそこに立つ演者……言い方を変えるけど、シンガーだけじゃ成り立たない」

「それを目撃して、観測して、見物して、それを聞いて、そうして初めて人に熱は伝わる」

「僕はね、僕が見る事で誰かの熱を伝播させることが出来たって、演者が思えてくれる事を何よりも嬉しく思うんだよ」

 

 あくまでも持論ではあるが僕の考えを述べていく。暴論にも近いと言われればそれまでではあるが。

 

「それに」

「僕がその熱を記録する事で、その演者達は死ぬ事は無い」

「死ぬ……?」

 こればっかりは、譲れない。

 

「誰かの記憶から消えて行くこと。それがこの世で最も身近で残酷な人の死に方だ」

 

「それはどの場所でも起きる、……いや、この街なら一層多くいると思う」

 

 大衆は、これを自業自得ともいうかもしれない。

 だけど、僕はその死に方だけは個人的なエゴでさせたくないと、そう思っている。

 

「気色悪いだろうけど、僕はそうやって死んでいく者がいないように、見続けるのさ」

 

「……結局、舞台に立つつもりはないってことか」

「理想もない人間が舞台に立って、その場所に懸ける人たちの誇りを侮辱するような真似は、僕もしたくないからね」

 

 少なくともそれを実行することで怒る人間を、僕は手で数えられるほどには観測している。

 

「ま、枯木かボウブラか、気狂い男の言葉だからね。ここまで言ったこともただ舌を回しただけの戯言に過ぎないかもしれない。君が歌い続けるような大層な理由がある訳じゃないかもしれない」

 

「結局どっちなんだよ」

「さぁね。僕は道楽者だ。自分の行動に合理性なんて求めてたら、楽しくないでしょ」

 眉を曲げ、彰人からのさらなる追求を避ける。

 まぁ、どっちとも受け取ってもらってもいいからね。

 

「はい、小難しいはおしまい。

 食べようか。このために来たんだからさ」

 

「……そうだな」

 彰人も目を伏せて、これ以上は辞めてくれたようだ。

 僕らは、目の前にある黄金色のふわっふわのパンケーキに再度視点を戻した。

 

「そういや、何かける?」

「決まってるだろ」

「そうだよね」

「生クリームかけるよね。「メープルシロップだろ」」

 

「よーし彰人戦争だ。生クリームが至高だってことその脳ミソに刻みつけてやる」

「上等だ都楽コッチが最高にうめぇって叩き込んでやる」

 

 この後しこたまパンケーキ頼んでどっちが至高なのか主張をぶつけ合う甘ったるい争いが勃発した。

 

 

 両者腹パンパンになるまで両者の良さを語り合い、双方ともに理解したことで握手して帰れたよ。戦うことによる相互理解。まったくもって素晴らしいね。

 結果ですかい? 

 

 ……さらば大いなるユキチ様。

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 俺は、唐桜都楽という人物をよく知っている。

 気付けば街の何処にでもいて、いつの間にかに居なくなる。なんと言うか……こうふわふわしている。

 いや、アイツがじゃない。アイツの立場が、だ。

 前提として、人となりであれ、出来事であれ、俺は半端なことが一番嫌いだ。

 音楽によって成り立っているこの街で、一切の歌声を発することのない、アイツの言葉を借りるならば観測者。

 街の噂を聞けば、歌う訳でもなく、花柄の服を着てシャボン玉を吹きながら、そこらをふらついている。そんなアイツの渾名が道楽者。

 どうにも、そんなあいつが気に食わなかった。

 初めて会った時、いの一番に感じたことは、とにかく気に食わない。

 歌も歌わず、ふと現われてはただその場にふらついているだけ、それなのに街に根付いている。

 道楽者だ何だと言われていても、街の人たちはアイツを心の底からは馬鹿にしていない。

 多少はあるのかもしれないが、それでもどこか信頼のような何かをされている。

 ……当然ながら、意味が分からなかった。

 

 アイツに対する評価を変えたのは、いつかの夜のこと。

 その日のハコは俺と冬弥で挑み、俺たちにとって成長を感じさせたイベントが終わり、返ろうとしていた時の事だ。

 同じように、イベントに出ていたヤツがどこか思い詰めたような顔で帰っていくのを見た。

 この街ではよく見かける光景、己の全てを懸けても届かなかった者が折れていく。ただそれだけの事。

 当時の俺はそんなことを思いながら、その場を後にしようとしたが、

『よっ。浮かない顔だねぇシンガーさん』

 

 その時の俺にとっては、気に食わない声が聞こえた。

 

『……道楽者?』

『そ、見てたよシンガーさんのパフォーマンス』

 

『……そうかよ』

 アイツはにこやかに、思い詰めた顔の名前も知らない同業に話しかけるが、同業は目をそらし下を向く。

 

『何思い詰めてるのよ。話位は聞くよ?みんなのサンドバックな僕が相手だけど』

『……自分で行ってて悲しくならないのか?』

『慣れって怖いね』

『……そうだな、お前ならいいかもな』

 

『俺な、ここから去ろうと思うんだ』

『……言いにくくなければ、理由を聞いても?』

 

『……圧倒的な実力を前に、心が折れたっていうのかね……』

『俺だって自慢じゃないが、実力があるような気がしてたさ。

 だけど、やっぱり本物を見ると、さ』

 そういってまた、引退を告げた同業の男はこぶしを握り締めて目を伏せる。

『……なるほどねぇ……分からなくはない』

 アイツはその決断を否定をしなければ肯定もしない返答を、咥えたノズルからシャボン玉と共に発した。

 

『止めないんだな』

『そりゃあね、シンガーさんだって赤の他人から止められても癪に障るでしょ』

 どこか、優しさとも冷たさともとれる返答をアイツは返した。

 

『でもね、僕知ってるんだわ。君のステージに立つ姿』

『自分の全てをぶつけるように歌って、自分がここにいるぞって証明するように叫んでいるような、そんな姿』

『多分、それはこの場所で歌っている人たち皆がそんなことを発信している。

 だけど、誰一人、その姿は被ってない』

 

 アイツは、いつもふらついている時のつかめない朗らかな顔とは一風変わり、真剣な面で言葉を言う。

 

『アンタの声も、歌も、誰とも被ってないアンタの姿を、僕は知ってるし、全部覚えてるんだ』

 

『だから、誰もアンタを見ていないなんて言うな』

『自分に価値が無いなんて言うな』

『僕がいる』

『僕がアンタを覚えている』

『アンタの価値を、僕が知っている』

 その言葉は迷えるものを救うように神が道を指し示すもののようにも。

 それは、この場所で広く長く物事を見てきたからこそ発することのできる救済の一手のようにも思えた。

 

 

『お前だけは知っている、か。随分、入れ込んでくれていたんだな』

『違うよ。僕は平等に入れ込んでるんだよ』

 

『この熱量を?ここの全員に?』

『そりゃ、僕だからね』

 

 同業の男はその言葉を受けて驚いていた。当然だろう。しかし、その言葉がただ自分を鼓舞するだけに吐いた嘘にもどうにも聞こえない。

 

 

『僕が来てからは、いつどの箱で誰が何をしたか、手の届く範囲全部覚えてるから』

 

『.こりゃ、とんだ観客だな』

『そいつはどうも。気分は浮かんだ?』

『アンタのお陰でな』

 そう言って前を向いた同業は先ほどの浮かない顔から変わり、どこかスッキリした顔になっている。

 思い詰めていたその表情は、もうどこにもなかった。

 

『さっきの言葉、ナシにしといてくれや』

『はいよ。また聞かせてちょーだいねー』

 

 アイツはその言葉をニコニコしながら受け、同業の男は再び前を向きながらその場を去っていった。

 

 この一件で、俺はアイツの評価を改めることにした。

 アイツは決してただここをふらつくいけ好かない奴なんかじゃない。

 アイツは、この場所で誰かを応援することをずっとやってきた大した男だ。

 それらを分かった上で尚、俺には疑問が浮かぶ。

 なぜ、表現する側にならないのか?

 聞いては見たが、返ってきた答えは、要はまだ死なせたくない人達がたくさんいるから、というものだった。

 

 ……正直、アイツのやる事を否定するつもりは無い。

 だが、長くいる男の実力を知ってみたいと、俺は心のどこかで思わざるを得ない。

 ごく最近、この場に現れた何回りも違うヤツが、仲間にいるからなのかもしれない。

 

 ほんのいつか、興味本位でしか無いが、道楽者の実力を見てみたいと、俺は思ってしまうのだ。

 

 とはいえ、あいつの意志を無視して聞きたいわけじゃない。

 アイツが心の底から望んで出すその実力を、俺はいつか見てみたい。その場に相対してみたい。

 そんな自分勝手なモンが通せれば、俺はアイツの歌を見てみたい、そう思ってしまうのだ。

 

 

 

 

「よ、ノメちゃん」

「んで、今日はなんだ?」

「アンタの歌った分の記録。この前のハコ分だけだけど持ってきたって言ったらどうする?」

 

「……へぇ?他の奴らには?」

「とっくに渡して来たよ。あ、青ちゃんから伝言も預かってるんだ」

 

「彰人。赤点は取らないように。だってさ」

「お前まさか言ったのか?」

「言ってるでしょ?道楽者は誰に対しても平等に入れ込むって」

 

 ……やっぱ、ムカつくところはかわってないかもしれねぇ。




唐桜 都楽(かざくら とらく)
道楽者。
東雲 彰人(しののめ あきと)
挑戦者。

お久しぶりでガンス。
また連載小説で書きます。
エミュはクソ雑魚ナメクジ以下なのでご容赦ください。
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