「伝説って?」「ああ!」   作:絞りカス

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水どうをみんな見よう


ド深夜に殴りこんできて腹を割って話そうとしてくるのはグーでやったっていい

扉の先の思わぬ来訪者に、青ちゃんは当然驚いてる。

 

「さて、年寄りは退散するかな。杏、店は任せたぞ」 

「ちょっと、父さん!?」

 

 一瞬時が止まったように視線がノメちゃんに集中していると、謙さんはそう言ってバックルーム側へと引っ込んでいった。いい役者回しでありましたこと。

 杏ちゃんも唐突な離脱に反応を示すが、杏ちゃんの言葉もサラリと流され、謙さんのいなくなった店内は微妙な雰囲気に包まれた。

 

 ……しまったな。僕もこの場から出ていくつもりだったんだけど、完全にタイミングを逃した。

 次どうするかを考えていたところで、謙さんから一件のメッセージが届いた。

 

『お前はその場にいろ』

 

 ……really?僕この場に留まらないといけないのマ?

 雰囲気からも時間からも置いてけぼりにされた僕などお構いなしに、場の人間は重苦しい雰囲気を回すように、口を開いた。

 

「……彰人、聞いていたのか」

「ああ。謙さんにお願いして、電話を繋いでもらってた」

「……そうか……」

 

 青ちゃんの独白は、全てノメちゃんに聞かれていた。青ちゃんはその事実を知って、俯きながらノメちゃんに言葉を続ける。

 

「失望しただろう、彰人。隣にいた俺が、一番中途半端だったんだ」 

「…………」 

「俺はずっと、お前のように真剣に夢を追えてはいなかったんだ」

 

 自分が醜いと思っている一面、知られたくないと思っている一面を聞かれた。知られてしまった。そんなショックは、どうあれ他人には計り知れないものではある。

 

「……オレは、お前くらい朝から晩までバカみたいに練習するヤツ見たことねえぞ」

 

 自分の言葉に対して自虐の様に言葉を続ける青ちゃんに、ノメちゃんは、耐えるようにしながらも絞り出して言葉を返す。

「……。お前の隣に立ちたいと……少しでも思ってしまったからな」 

「冬弥……」

 青ちゃんは、ノメちゃんのそんな言葉の答えかのように、より一層寂しげに小さな笑みを浮かべた。

 

「俺には、クラシックを通して得た技術しかない。……その上、それすらやり切れず、逃げ出してしまった」 

「そんな中途半端な人間が、本気で歌う奴の隣に立ちたいと思ったら、必死になるしかないだろう」

 

「……っ。この、クソ真面目バカが……」

 

 ほんの少しだけ声を震わせるノメちゃんの言葉に、青ちゃんは口元の笑みを搔き消すように、固い表情で言葉を再び紡ぎ続ける。

 

「……彰人と歌っているあいだ、俺はたしかに、俺でいられた気がする。本当に感謝している」

「だからこそ、俺はここにはいられない。俺は……これ以上、お前の夢に、何もしてやれない」

 

 そう青ちゃんが締めくくろうとする言葉の中身は、別れの言葉である。

「……本当は、どうなんだよ」

「…………え?」

 ノメちゃんの言葉がそんな別れの言葉を切り伏せるように続く。

 

「最初のことなんて、どうでもいい!クラシックから逃げ出したことも!大事なのは、今、お前が本当はどうしたいのかってことだ!」

「…………」 

 ノメちゃんが、自らの手から取りこぼしたくないと思った人物にぶつけるように言葉が続いていく。

 

「BAD DOGSを組んですぐの頃、客に『勢いだけで技術がない』って言われたことがあっただろ」

「あの時、オレめちゃくちゃ悔しくてさ。でもお前、なんにも言わねえんだよな」

「普通相棒が荒れてたらはげますなりなんなりするだろ。でもお前はなんにも言わないで……」

「——ずっとオレと練習してただろ」

「『俺達はこんなもんじゃない』って、『本当の力を見せてやるぞ』って顔、してただろ」

「…………」 

 青ちゃんは何を言うでもないまま口をつぐんで言葉を返さない。そんな青ちゃんを前に、ノメちゃんは次第に言葉の語気が熱くなっていく。

 

「オレは、お前がいるからここまでこられた」 

「お前は、音楽が好きだ。バカみてえに好きだ。本気で好きだ。それは、オレが一番よくわかってる!」

「『RAD WEEKEND』を超えるって夢も、お前が横で真剣に聞いてくれてたから追えた!お前が信じてるから、オレは迷わずにいれんだよ!」

「彰人、だが俺は——」

 

「グダグダうるせえ!!」

 

 青ちゃんの言葉を遮って、ノメちゃんの大声が店全体を震わせる。

 

「……わかれよ!オレは、お前以外の相棒なんかいらねえって!」

「…………!」 

「今の、お前の本当の想いはどうなんだよ!お前は本当に、もうオレと一緒にやりたくねえのか!?」

「オレの隣に、少しでも立ちたいと思ったんじゃねぇのかよ!だったら、お前もオレと同じ夢を…… 

『RAD WEEKEND』を超えたいって思ってるはずだろ!?」 

 

 むき出しの感情で、むき出しの思いを爆発させて言葉をぶつけるノメちゃんに、ようやく青ちゃんからも自らの想いを口にさせる。

「………………っ!」

「やりたいに……決まっているだろう!!」

「俺だって何度も思った!お前と、純粋に夢を追いかけられればどれだけ……!」

「冬弥…………。……やっと吐いたか」

「…………それなら、一緒にやればいいだけだろ」

「だが……!」 

 

 尚も更なるもう一歩を踏み出せずに足踏みを続けようとする青ちゃんを、ノメちゃんは強引に遮る。

 

 さながら、物語の主人公のように、悩む友人の手を引いて歩むように。

 

「あーうるせえうるせえ。難しく考えてんじゃねえよ。オレは冬弥とやりたくて、冬弥もオレとやりたいんだ」

「あとはオレ達で夢を叶える。……それでいいだろ」

「…………いいのか……それで」

「いい」 

 青ちゃんの道を確かめるように問う声に、ノメちゃんは自信をもって答える。

 

「…………こんな、中途半端な俺が……またお前の隣に立ってもいいのか?」

「お前は中途半端じゃねえ。中途半端って自分で言ってるだけの、オレの最高の相棒だ」

「…………彰人」

 青ちゃんに、そう宣言したノメちゃんの最大限のラブコールにも近しい言葉に

 強く断言する言葉に、もう否定の言葉は続かない

 暫くして青ちゃんは呆然と呟く。 

 

「やりたければやればいい、か……」

「…………そうか。それくらい、単純なことだったんだな……」

 

 自分が苦心して、自らの道を閉ざすまで悩み続けた難問が実に簡単なものだということに気づいたかのように、青ちゃんの雰囲気が先ほどまでの張りつめたものから心なしか緩んだ気がした。

 

「……たく、お前って勉強はできるくせにバカだよな」

「ま、いいか。明日からブランク空いた分取り戻すぞ、相棒」

「で、『RAD WEEKEND』を超える最高のイベントをやる。……それでいいな?」

「……ああ」

 呆れたような、しかしどこか嬉しさを隠せずに出たような笑みを浮かべて握手の手を差し出すノメちゃんへ、それに応える微笑みを返す青ちゃんはその手をしっかりと握る。

 硬く、決して揺らぐことのない繋がりは、再び結びなおされた。

 笑い合う二人に、完全に周りが見えていない二人に杏ちゃんは意地悪く、にこやかに声を掛けた。

「で、お客さんご注文はどうします?」

「な……!?」

「あ、杏ちゃん!」

「…………」

 杏ちゃんが声を掛けてようやく気付いたのか、ノメちゃんがそちらを向けば、隠れて見守っていた杏ちゃんとこはねちゃんの二人と、なぜかコーヒーを何食わぬ顔で嗜んでいる僕の姿である。

 

 うん。お前何してんだって言われそう。

 

「お前らいつから……っていうか立ち聞きしてやがったのかよ!」

「そっちがこっちのこと無視して話してただけじゃない。水差すのもなんだから今まで黙ってたのに」

「そちらに同じく。僕はホンマに出ていくタイミングを逃した」

 ノメちゃんの言葉をどこかいたずらを成功させた子供みたいに軽く流す杏ちゃんだが、どこか安心したようなきれいな笑顔で二人を褒めた。

 

 

「……でも、よかったじゃん」

「うん……!青柳くん、東雲くん達とまた歌えるんだね……!」

「……小豆沢、白石」

「心配をかけてすまなかったな……」

 青ちゃんは申し訳なさそうに二人に言葉を返す。

 

「都楽にも、礼を言わなくてならないな」

「僕何もしてませんよ」

「……図書室で、お前が俺に声をかけなかったら、もしかしたら俺は、ここに最後の挨拶のために来ることもなかったのかもしれないからな」

 

「アレってそもそも噂の真偽を確かめに行っただけの野次馬根性だっただけだよ」

「そうか……そういうことにしておこう」

 そういって、優しい目で青ちゃんは笑みを浮かべた。

 ……また大人の対応されたかもしれない。

 

「僕としては、最悪の終わり方をしなくて済んだことと、それ以上の結果を見届けられたからよかったかな」

 やっぱり、喧嘩はどんなものであれ適度にやって腹の中見せ合うことってのは大切だね。

「ノメちゃんも。お疲れ様」

 

「……お前、どこまで仕組んでた?」

「仕組んでなんていないよ。最悪を回避するための保険として、動いてみたけれど……なんか必要なかったか」

「必要も何も、お前が根回ししたんだろうがよ……」

「いやいや、中心になった人物の話を聞いて、反応してみただけだよ」

 ホントに、それ以上のやったことなんて何もないんだから。

「……そうかよ」

 あんまり納得いってないようだが、無理やり飲み込んではくれたみたいだ。

「あーすっきりした。色々とね」

 ともかく、最悪は回避され、尚且つより良い結果に帰結させているのを見届けたので、どっと疲れが体にのしかかった。

 お前、何かしたか?と言われそうだが、ホンマにそう。実際に何かを残したのか?と問いただされてしまえばない。

 どこに疲れる要素があるんですか?(現場猫)

「ほいじゃき、僕もお暇しますかね」

 そうして、話が始まる前に終わらせていた会計のレシートをポケットに雑に突っ込んで、席を立つ。

 別に、自分のやることこそ正しいだなんてと思って動いたつもりじゃ無い。

 なるようになるとは思っていたけど、夢見が悪い、明日のご飯が美味しく無いのは御免被る。

 

「それではみなさまお達者で〜。より良い活動になることを願っとくよ〜」

 

 そうして、僕は彼らの新たな一歩になりうるページの風景からするりと抜け出した。

 ここから先の話は後日談といったものだ。

 

 彼らはあの後、そのまま4人でユニットを組んで共に活動することにしたらしい。

 ……ある意味一番想定してなかった結末ではある。

 

 いい感じに和解したから、ライバルとして切磋琢磨するかなーとかぼんやり帰路で思ってたけど、そのまんま仲間になるのは知らんって。それでも、一番まとまりのある結末ではある。

 元々、この街でハングリー精神で駆け上がっている二人、そして、直近で大きく十分すぎる一歩を踏み出した二人。グループとしての相性云々は未知数ではあるが、それも自ずと結果についてくるのだろう。

 どうあれ、彼らの道は大きく交わり、個々4つの矢印は重なって大きな一つの矢へと変貌した。

 彼らの軌道が、どこまで続いていくのか。何分、僕自身が楽しみである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 これらが、報告者の観測した大きな始まりとも呼称される一連の顛末である。

 その他、この出来事に付随したその他の事象は追加資料に記載する事を勧める。

 本報告書でも述べている通り、報告者は此れより期間をかけて上記人物達の活動を引き続き観測の継続を行う。

 それら観測時の記録書は、その都度作成される事をここに記す。

 

 以上。

 観測記録報告書 No.13

 唐桜 都楽

 




唐桜 都楽
道楽者
青柳 冬弥
救われた者
東雲 彰人
手を引いた者。
小豆沢 こはね
ある意味きっかけ。
白石 杏
修復を見届けた者。

ユニスト編はこれにておしまいでガンス。
次からまたせこせこ書いていきます。
作者ごとではあるけど、初任給でゲームを買いました。
バグまみれでやってられません。
評価お気に入り感想の程よろしくお願いします。
作者が泣いて喜びます。
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