「伝説って?」「ああ!」   作:絞りカス

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空想科学読本、読もう。


顔なじみが投じてきた6138キロ

 色濃いという表現では足りないほどの内容を詰め込まれた昨日から一夜が明け、僕は何をしているかと言えばがぶ飲みした珈琲のツケを払うように、トイレとお友達になっていた。

 

 なぜ僕はあのアホの言うことを真に受けて実行してしまったのだ。普通に腹下したとかのレベルじゃないって。

ケツから水止まらん。うへー摂取してないのに水が抜けるよ~。○されて来いお前。

 

 世のお医者さんがエナジードリンクを多量摂取するなと警鐘を鳴らす理由を身をもって知った。

 朝から白湯と漬物の朝食を口にしたことに始まり、急に食生活が老け始めた辺りで、僕はふと昨日のことを思い出す。

 

 街の土台となった伝説の立役者の帰還。

 売り出し中、絶賛成長中の子の引き抜きのような形でのレッスン勧誘。

 

 こうも事がポンポンと双六のように進むと不満とか疑問とかが出る前に、変に冷静に事を見れているなと思ったのが一つ。

 これが傍観者としてほぼ関わりのない出来事だからなのか、どうにも言葉にするのも億劫な感情が渦巻いて、それ以上の思考をさせないための納得なのかは、自分でも言語化はまだできない。

 僕もこはねちゃんのあの時の悩みの根本の人物がまさか旦那だとは思ってもなかったけど、それにしたってビタ当てで証明するとは恐れ入った。

 

 本人は、そうして順調に足を進めていることは何よりではある。

 ただ、物事の進展には当然のことながら良くも悪くも変化が伴う。

 

 昨日、僕が見た中でその変化を最も感じ取れたのが、僕もその日に気にしていた杏ちゃんについてだ。

 大河の旦那の提案について、本人の胸の内は少なくともよろしいものとはどうにも思えない。

 これからの不和に繋がるような出来事に発展するのではなんて想像もしたが、杏ちゃんのことだしそんなことにはならないだろう。あの子はきっと時間をかけて乗り越える。

 ただ、黙ってみてるだけってのもあの場にいた人間としては少々不満がある。

 葛藤し続ける友人の姿を見るのも若干嫌だから、ほんの少しだけお節介を焼いてみよう。

 僕はそう思い切り、残っていた味噌汁を飲み干して朝食を取り終えた。

 ……自分でも思うが普通にシジミの味噌汁飲みながらの決断というのはどこまで老人みたいな生活してるんだか。

 

 ☆

 

 

 伝説の帰還の報告が町全体に回り始めたからなのか、フラフラと風切って歩いていてもいつも以上に街が活気付きふわふわとしたような雰囲気を肌で感じることができる。

 あちらこちらで伝説が、大河さんが、なんて単語が聞こえてくる。

 浮ついた空気に口にくわえたパイプに息を吹き込んで、シャボン玉を混ぜて彩を与えてくる。

 これくらいふわふわしているものには混ざっていてもそう不思議ではないだろう。

 

 そうしてフラフラとそこらかしこを当てなくほっつき歩いていると、一人で難しい顔をしている杏ちゃんの姿を見つけることができた。

 

「浮かない顔は昨日から引き続きかい?」

「都楽?どうしたのさ」

「いやぁ、町全体が浮ついているから僕の存在意義が消えそうだったんでとにかくフラフラしてたとこで、杏ちゃんを見つけたってところ」

「浮ついてるって……確かにそんな雰囲気あるかもね」

 

 どうやら、この浮ついた空気は杏ちゃんですらわかるほどのものらしく、存外街自体にとって悪い変化でもないらしい。

 

「なんだかねこう……昔の人が帰ってくるっていうのは喜ぶべきことだろうし。僕も思うところがないわけじゃないから」

「それって、自分の応援してきた人が帰って来たから?」

「うーん……それもだし、まぁホントのことは内緒で」

「えー?それってズルじゃない?」

「僕が公表する義務はないのでズルくも何にもないんだよね実は」

「なーんかスッキリしない……」

 残念だね杏ちゃん。道楽者とはズルくなくてはならないのだガハハ。

 

「で、やっぱり昨日のことまだモヤモヤしてるんじゃない?」

「……もしかして顔に出てた?」

「いんや?そこは長年の付き合いと道楽者のセンスと言ってほしいものだね」

「はいはい。やっぱり都楽に隠し事は出来ないね」

「言わなくても勝手に分かるのも考えものなものでしてね」

 

 とはいえ、隠し事を暴きに行く側のこちらとしては何でもかんでも当てまくって気味が悪く思われないかずーっと冷や冷やしているのは内緒の話。

 

「アタシね、こはねがおじさんに誘われてから……かな、ずっとモヤモヤするんだ」

「でもね、羨ましいとか、嫉妬みたいなそう言うのじゃなくて、逆にこはねの凄いところに気づいてくれて嬉しいんだ!」

「でも、それと一緒にずっとモヤモヤが収まってくれないの」

 

 

「……」

 

 僕は杏ちゃんの話を茶化しも入れずに黙って聞いていた。

 杏ちゃんのその溢れ出てしまったその感情の名称を知っている。

 ただ、それは赤の他人に指摘されて理解が出来るものかと言われればそうでは無い。

 寧ろ、心を見透かされて気分のいいものでも無いのだ。

 

 だから、お前はこの問題に立ち入るべきでは無い。

 頭の中で道楽者としての自分が、僕を睨みながらそんなことを忠告してきた気がした。

 

 だから、コレはきっと答え合わせに行くのは僕ではなく、もっと彼女の心に寄り添える人物が丸つけをしてあげるべき問題だ。

 そんな言葉を、頭の中の道楽者は僕に向かって殴りつけて来た気がした。

 

「都楽はさ、こういうこと起こった事ある?」

「えぇ……?」

 

 シャボン玉を吹きながらそんなことを思案していると、杏ちゃんは僕に聞いて来た。

 

「いや、僕の経歴というか来歴って人生経験としても相談にしても当てにならんって……」

 

「いいから、ある?」

 

 彼女の問いかけに茶化しで誤魔化そうにも、そんなことを彼女が許すはずもなく、是が非でも答えなくてはいけないような目でこちらをじっと見つめてきた。

 ……昔から僕は、この子たちの曲げさせてくれないこの真っすぐな目に勝てないんだった。

 

「……ない。と言ったら嘘になるかな。君らが伝説に思いを馳せたように僕も宝船に幼少時の情操教育をオールインした人間だからね」

「……そりゃあ、自分の誇らしいと思っていた人間と自分とのギャップでいやーな気持ちになったことくらいあるよ」

 

「でも教えないよ」

 

「そりゃあ、そもそもの前提が違う」

「君のは自分の相棒の話で、僕はそもそもの居場所の話だ。土台の時点から話が合わない」

 

「それに、だ」

「多分そのモヤモヤは、誰かに言われたところで解消されるものじゃない」

 

「徹底的に自分の気持ちに向き合って、嫌って思うほどの自問自答を繰り返した先に、ようやく出せる答えだよ」

 

 残念ながら、こればっかりは譲れない、というか教えてはならない。

 だから、僕は君の考えを聞くだけの人形になる。

 解答はしない。だが、考えを聞くことだけはしてあげられる。

 正解も不正解も言わない。正誤を言うつもりもない。

 その問題は自分で答えを見つけて実行する事で初めて解決になるものだからだ。

 

「……なんか、思ってるよりも都楽もずっと悩んだんだね」

「そりゃね、宝船の最年少枠だもの」

「……なんだか、モヤモヤにも色々あるんだね」

「僕の場合は、どうしたら本気で遊んでくれるかって事だったよ」

 

 な、毒にも薬にも、当てにも参考にもならないモヤモヤだったでしょ。

 

「遊んでもらう……?」

「あー……宝船って集団はとにかく人の目を気にせずに音楽で内ゲバする人たちだったのよ」

「だからコミュニケーションは全部音楽。互いが互いに殴り合うためのターゲットにしか見てないような、そんな集団」

「そんな集団で自分を見てもらうために何をしたらいいか、なにをしたらその中で対等に遊んでもらえるのか。ずーっと考えてたよ」

 

「だから、ずーっとずーっと公園のブランコで朝から夕方まで、子供の頭で必死に考えて」

「自分のできる子供の全力で、皆のところに遊びに行くことにした」

 

「……え?」

「だから言ったじゃん……当てにならないって……」

 

 杏ちゃんは自分の悩み抜いたその回答を参考にしたかったんだろうけどさ、普通にゴリ押しで解決しに行ったんだもん僕。当てになるとかどうとかのもんじゃないでしょ。

「……でもさ、それで都楽はどうなったの?」

「どうなったの?って」

 

「……皆全力で遊んでくれるようになったよ」

「手を抜かれたり、加減されたりすることなく、全力で叩き潰しに来てくれた」

「……おかしいとか、意味がわからないなって言われるのはわかってる」

 

 そこまでのことを口にすると、杏ちゃんは信じられないようなものを目にするような顔をした。

 ……まぁ、子供相手に全力で対面してくださいって言って、一回だけそうしたとかならまぁその子に付き合ってあげたのかと思うのだろうが、僕にとってはそうすることでしか解決は出来なかったのだ。

 

「でもね、僕は対等に遊べる人が欲しかった」

「等身大で遊んでくれるのは君たちがいる。そこに不満はなかった」

「でも、楽しそうなあの人達を見て、あそこに混ざりたいと思ったんだ」

「そりゃあ、最初はつまみ出されたり相手にもされなかったさ。自分たちが慣れて走っている車道に無知な子供が飛び出してきたんだから」

 

「でも、その子供はそこで止まらなかった。

 自分の知らないことを、スポンジみたいに覚えていって、スピードの出し方を見稽古で学んで」

 

 今でも思い出す。

 自分の参加しようとした集団の名前を出してみると、当時は苦い顔をされた。

 まるで、あの問題児達かと言わんばかりに。

 それでもその実力は皆に認められていた。

 その場所で行われていることが高い水準でのやり取りであることは街が認めていたのだ。

 正直、ぜいたくな悩みを抱えた上で、ありきたりな方法でもよくゴリ押しで解決を通したなとも思う。

 でも、これでよかったのだ。

 

 だからこそ、僕は問わなければならない。

 

「白石杏。君はどうしたい」

 

「自分の中の暗いモノを、どう変化させたい?」

「……ま、硬い話はここまでにしますよ」

「どうしようとも、君の心持ちの問題なんだ」

「こはねちゃんに対する負い目と判断するも良し、自分の中の悪感情とするも良し。気持ちのラベリングの仕方は君に任せる」

 

 何度も繰り返すが、この問題は僕が解答するべきものではない。

 彼女自身が、自分の言葉で、自分の方法で答えにたどり着かなければならない問題だ。

 

「自分の中で判断しないと、いつか君は致命的に間違える。それだけははっきりと言っといてあげる」

 

「ま、成り立ちから間違いまみれの人間の妄言なので、お好きな解釈をするといいよ」

 

「あぁ、一つ」

「僕を引き摺り出したいんなら、それ相応の準備と覚悟をしてくれ」

 

 

「……なんで?」

「そりゃあ、その場の雰囲気丸々ぶち壊すから」

「言ってるでしょ?闘争感丸出しの曲は僕にはできないって」

「仮にやったとしても、その恰好は」

 それを是としているこの町では、僕は歪でどうしようもなく居場所のない男なのさ」

 

 誰かに勝ちたい。誰かに負けたくない。一番で最高の音楽を聞かせたい。そんな願望の渦巻く街で、僕のスタイルはそもそもピースからして歪であり、誰にぴったりとはまるものでもなかったのだ。

 そんなピースをはめることのできる絵があるというのなら、僕も喜んですっぽりとはまりに行くのだ。

 

「ま、その場の雰囲気とか関係ないよって願うんなら僕の首根っこ捕まえて口開かせてみてね。まぁ相応の仕事はするよ」

 

「……そっか。でも、都楽が歌う未来がゼロってわけじゃないんだね?」

「考え方がポジティブ過ぎない??その通りだけどさ」

「どんなことも前向きに考えておくとさ、いつかは叶うじゃん?」

「ダメなんだって僕の前向きさに勝てたためしないんだから……」

 

「じゃあさ、ここで約束させて」

「……一応、聞くよ」

 

 そんな乙女の一大決心みたいな顔されたらこっちも黙って聞くしかないじゃん。

 こっからは入れる人生の保険ってあるの?

 

「都楽」

「はい」

 

「アンタのこと、アタシらの歌で必ずステージに引き摺り出してあげる」

 

 彼女は曇りない強い瞳で、僕に照準を定めながら、そんな宣戦布告を叩きつけてきた。

 

「……そんな目で見られちゃあね、突っぱねられないじゃないか」

「いいよ。その時は、ちゃんと遊びに行くよ」

 

「……遊びに行くって、こっちは本気で!」

「あー違う違う。そうじゃない遊びに行くってそんなふらっと他人の家にお邪魔する感じの遊びに行くじゃなくって……」

 

「というかそっか、その挑戦状君から飛んでくるのかー……」

 

 普通にそういうのはノメちゃんとかから強めに宣言されるものだと思っていたものだから、正直驚いている。

 でも、彼女は芯をもって僕に宣言してくれたのだ。

 そこまでされたのならば、こちらもそれ相応の対応をしなければ宝船の一員としても申し訳が立たない。

 

「さっきの話覚えてる?僕が宝船のところに飛び込んだ時の話」

 

「僕にとって、遊ぶというのはアレを指すんだよ」

「だからね、白石杏」

 

「その時は、俺は宝船として本気で遊んでやるよ」

 

 僕も、腹を決めて彼女の宣戦布告に応じることを叩きつけた。

 

「……へぇ。その言葉、嘘じゃねぇんだな?」

 

 そんな宣言を叩きつけたところで、後ろから聞きなじみのある人の声を聴いた。

 

「うげ、ノメちゃん……」

「いい事を聞いちまったな。お前、上がってくるんだって?」

「そりゃ、君たちの頑張り次第だけど……つかぬことを聞きますがいつ辺りからお聞きになっていまして???」

「お前が宝船の場所に突撃をかけたって話からだな」

「ほぼ最初からじゃん」

 

 アレ、割と隠しておきたいことなのに……だって普通に自分の恥じゃん。

 あまりにも幼すぎる自分の若すぎる至りの話なんて恥以外の何物でもないって。

 何で隠れてんのよこのスケベさんめ。

 

「ノメちゃんも人が悪いね。僕はこの後市中引き回しになったりする?」

「なんでシチューを引きずるんだよ……」

 

「たった今ほど君が勉強不足でこれほどよかったと思ったことはないね」

「バカにしてんだろお前」

「わかるんだ賢いね」

 

「……なんか、有耶無耶にされちゃった気分……」

 

 ノーガードのプロレスで突然の人間にちょっかいをかけていると、先ほどの宣言の雰囲気をまるまるぶち壊しになってしまった杏ちゃんが釈然としない顔でこっちを見ていた。

 

「流石に、あそこまで啖呵きられて有耶無耶にするほど僕もバカじゃないよ」

「ちゃんと宣戦布告は受け取ったし、そっちの要望も達成されたら聞いてあげる」

 

「だから、今は自分のことでしっかり悩んで、しっかり答えを出して前に進みな」

「その先に、僕らの船の錨はある」

「……わかった。都楽もちゃんと準備しておいてね!」

 

 まったくこの子のこの姿勢には、勝てそうもない。

 

「じゃあの。たくさん悩んで、たくさん考えて、どうか自分だけの答えを見つけられるよう応援はしておくよ」

 

 そういって、僕はその日の道楽散歩を後にして、彼女の悩みが自力で解決されることを願いながら一日を終えた。

 

 あの後、どうやら杏ちゃんはノメちゃん達とも少し話したのか、どこか一つ吹っ切ったような顔で路上ライブに望んでいた。

 

 本人的には納得の上で一歩を進んだのだろうが、僕が見るにまだ根本的な解決とは言えない気もする。

 

 アレはまだ、相棒へのモヤモヤに離れやすいのりでラベリングしただけに過ぎない。

 いつかは剥がれ、再び彼女自身で向き合わないといけないものだが、今はそれで良い。

 その問題は一つ一つ行動し、自分の中で納得の上で解決に進んでいくものだ。

 

 ……しかし、なんともまぁ大層な約束を結んでしまった。

 

 僕自身の役目は果たせていないのに。

 

 ただ、彼女は僕の「いつか」を差し押さえたのだ。

 僕もその「いつか」を心待ちにしておくことにしよう。

 

 ……先に、あちらを解決しないとならないのだろう。

 しかし、こちらも別途の契約は守らないといけない。だが、街に出現したということは、何かをする気なのだろう。

 僕は⬛︎⬛︎しなければならない。

 彼の、彼らの行動を。

 

 

 僕は、自分の部屋に飾られたチラリと見つめた。

 

 

 

 そこには、中央にポッカリと穴の破けた頭目の役職の書かれた宝船の連判書と、いつかの集合写真。

 

 日付は、人々が伝説が築かれたとしている日の1日前の集合写真。

 

 僕も皆も、その写真では笑顔であった。




唐桜 都楽(かざくら とらく)
幼少期から気狂い

白石 杏(しらいし あん)
モヤモヤ払拭(一時的)

東雲 彰人(しののめ あきと)
ちょっとだけバカwith Creepy Nuts

 ゾロリせんせ。評価入れてお気に入り登録して、感想投げてほしいだ。
 感想ないと、おら不安だ。
ついでにお題箱みたいなものを置いておきます。
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 よろしくお願いします。
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