「伝説って?」「ああ!」   作:絞りカス

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こはねちゃんに自分の趣味に染まらせた格好させて依存させてズブズブの関係築きたいですよね。
え?私が終身刑?



海水をこす。三枚におろす。一日面倒を見る。

 その場の雰囲気を河の流れに例える事がある。

 

 その場を統一する者の心を反映するかのように広がった空間。

 その者の心一つでその場を笑おうが泣こうが黙ろうが軍隊のように左右できる。

 そんな一方向の独特の空間は運河の流れのようである。

 流れに逆らえば逆らうだけ自身に負荷がかかり、石であれば逆らう角は次第に削れて流れる事を堰き止めることも無く川底に沈む。

 流れに逆らう事は、相応の力が必要である。

 だからこそ、挑戦という必ず誰かの想定外を起こす行為を、僕は称賛する。

 自身に課せられた流れに逆らい、自らの意志で逆流の石になりにいく。

 その行為を、僕はその結果の良し悪しに関係なく称賛する。

 

 

 僕には、それが出来ないから。

 僕には、そう踏み出せないから。

 僕には、そうあることを許されていないから。

 道楽者の役割は僕自身の使命であり、それと同時に枷でもある。

 勝手にやっている事とはいえ、筋を通す者として、僕も在らなくてはならない。

 

 全くもって、意志ある記録機とは残酷なものである。

 

 

 ⭐︎

 大河の旦那とのレッスンを行うことを決めてから幾許かの時間が経ち、こはねちゃんはみるみるうちに上達して行った。

 声の出し方、伸ばし方といった、王者の培った技術を存分に吸収し続けている。

 良い兆候だ、と首を縦に振れるかと言われればそうでもない。

 どデカい目標に向かって突き進む姿が悪いわけでもなければ、その進歩を悪く言うわけでもない

 

 ただ、地から足が浮き始めている。

 

 全身の先の目標の明確なゴール地点は、言葉ではこうだとわかっているのだろうが、どうしても本人の実感が湧いていない。

 自分の目指すゴールの概念を、本人がわかっているのに、そのゴールポストの住所をわかっていないような感覚。

 

 野球でいうのならば、ホームベースを踏むことという事はわかっているけど、どれがホームベースなのかが分かっていない。

 

 こんな感じ。

 

 まぁつまるところ、イメージが出来ていない。

 

 だからこそ、そこを補うように大河の旦那のレッスンも技術の仕込みとイメージの伸ばしをしているのだろう。

 イメージに関してはまぁこういう想定だからこうしろと早い段階で言えば逆に意識してしまい、伸びないなんてこともある。

 だから途中までは言わないのが得策なのだろう。

 

 こうして僕としては意味のわかるレッスンだが、これからも続いてくれることを願って今日も放浪を続けよう。

 

 

 

 

 

『風邪ひいたから、今日はお前が担当しろ』

「バカ言ってんじゃねぇっすよ」

 

 子供は風の子大人は火の子とはいうが本当に体を崩す大人がいるか。いるな。電話の先に。

 

 熱を出してレッスンどころではない大河の旦那の代わりに抜擢されはしたものの、本当になぜ僕が選ばれたのかがわからない。

 謙さんや、それこそ旧知の腐れ縁の東のおっさんや、こはねちゃんも面識のある株に頼めばよかったのに。

 

『アイツらは年食って性と一緒に枯れてる。』

『今最悪の例えしましたよ貴方。』

 おう、老人の性欲とかいう数ある選択肢の中で一番ワースの例えしやがりましたね。というかイメージってそういうものじゃないでしょ。

「いや、ほんとに僕だけは違うんじゃないですかね……」

『できるだろ。仮にも宝船のメンバーで、道楽者ってので街を見てきたお前なら。』

 

 うーん。全くもって反論のできない反証です。

 宝船としての僕、道楽者としての僕。その経歴をもって信頼を置いたというのなら、こちらも白旗を挙げるしかない。

 

「……わかりましたよ。受けますって。」

『悪いな。一日だけ頼むぜ。』

「あの教えるのはいいとして、教材に当たる作品とかって」

 

 そう聞いて答えを確認する前に電話は切れてしまった。

 その後、特に何の折り返しもなく、その後すぐにこはねちゃんから旦那から事情を聴いたのだろう、どうするかを聞くメッセージが送られてきた。

 

 今日明日は道楽者の本分はお休みにしなければならないらしい。

 

 

 

 

 

 

「と、いうことで僕が今日のレッスンの代役になりましたとさ。」

「よ、よろしくね。都楽君」

「これ本当に僕が代役でよかったのかね……」

 

 頼まれてやってみることにしたはいいものの、いい案は結局いい案は一つも浮かばずこの日を迎えた。だが頼まれて承諾した分は、それ相応に働かないとならない。

 やれるだけやってみよう。

 

「うなだれてもしゃあない、とりあえずこはねちゃん、いつも大河の旦那とどんなレッスンしてるかを一回僕に説明してみてくれる?」

 

「えっとね、いろんな曲を聴いて、その感想を言ったりするの」

「演奏が上手とか、サビが好きとか、そういう感想じゃなくって……」

「ひまわり畑に来てるみたいとか、海で夕焼けを見てるみたいとか……そういう風に、感じたことを別のものに例えたりするの。」

 

「なるほどねぇ……とりあえずあの御仁が何を目的にそのレッスンやってるのかも検討ついてるけど、僕もそれに倣って同じことした方がよさそうだね」

「大河さんから、やることは全部都楽君に任せてるって言ってたから……私は何でも頑張るよ!」

「あら嬉しい期待~。道楽者腕をかけて頑張っちゃうぞ」

 

 えー全然決めてません。助けてほしい。

 あの人結局何やらせるかの返信一切返してこないで今に至ってるのだいぶあの人やばいよ。

 いや、病人だからって鞭うたせて遅らせるのはおかしいって言われたら反論の一つも出せなくなるんですけど。

 理性がブレーキをかける。怒るに怒れない状況という妙にこじれている。本当に面倒くさい状況になってる。

 

 せめてこういうことやっといてほしいくらいは教えてくれても良かったんじゃないですかねぇ……

 

「んじゃ、今日のレッスン場所に移動しよっか」

「えっと、それってどこになるの?」

 

 愚痴は胸の内で反芻するだけに留め、こはねちゃんを集合場所から移動するように促すが、こはねちゃんにはまだ場所のことを伝えてなかったことを思い出す。

 正直何処でもよいとも思ったが、やるからにはちゃんとした場所でやろうと決めた。だから自分の知るちゃんとした場所でレッスンをしようと思う。

 

「んー、そうだなぁ……」

「僕の秘密基地、ってところかな。」

 

 少なくとも、その場所は僕の知る中で最も曲を聴くことに適した場所だ。

 

 

 

 

「ここが、都楽君の……」

「一名様ごあんなーい」

 

 どうしようかを考え、旦那のレッスンを模倣するために、僕が記録を書くための場所で行うことを決め、案内する。

 そこには過去の記録だけでなく、ネットに転がってる曲を聴けるように、色々と置いておいたのが幸運に働いた。

 道楽者の備えもバカにできないと思ってほしい。ただのお前の趣味だって?はいそうです何も間違ってません。

 こはねちゃんは、壁や棚一面に敷き詰められた報告の紙や、レコードディスクにテープにVHSなどを眺めて興味津々に部屋を見る。

 今こはねちゃんがVHSを指さしてこれは何?とか聞いてきたら多分ジェネレーションギャップで踊り狂ってお亡くなりになる人間が出ると思う。

 特に東のオッサンとかバタさん。あそこ筆頭にぶっ倒れて泡吹いちゃうと思う。僕が言った時に起きたことだし。

 

「えっと、じゃここで……?」

「そ、代わり映えはないけど、大河レッスン特別版、道楽者レッスンですー拍手」

 パチパチパチと自前で拍手はしてみるもののこはねちゃんは少し遠慮気味に僕の後に拍手をしてくれた。ありがたいね、こういうことにのってくれて。

 

「とはいえ、ここには飽きるほどに曲自体は貯蔵されてるから、何にしようかね……」

 

 案内したはいいものの、レッスン用の教本自体は結局決まってない。

 ここまで歩いている間に、色々な案が浮かんでは消えていった。

 クラシック?ボーカロイド?邦ロック?

 

「そうだ、ここの中にある中から適当に2つくらい取ってみてほしい。」

 

 大河の旦那自体がどこから曲を取ってきてたのかすらわかってない中で悩みに悩んだが、こういうのは出会いが運命であるように、曲選びも本人の運命に委ねるのが一番丸いのだろう。

 

「え?えっと……」

「本当に何でもいいよ。こはねちゃんが直感でこれ!って思た物を手に取ってそれでやることにしたから」

 

 当然ながら戸惑いの声が上がるが、本人に気負わないように責任のおわない軽い手選択であることを念押しすると、こはねちゃんは納得してくれたようだ。

 

「う、うん!わかったよ。えっと……」

 

 そういってこはねちゃんがもう一度棚を見渡し、こはねちゃんがどれにしようかとソワソワと見る。

 背伸びして上段を覗き込み、少し屈んで下段を確認し、指が空中で何度も止まっては引っ込む。

 その迷い方は、宝箱を前にした子どもみたいで、こちらの緊張まで少しだけ和らいだ。

 

「えっと、じゃあこれ!」

 

「おー?どれどれ……」

 

 こはねちゃんはそういって一つのCDケースを手に取った。本人にとっても見たことのあるものを直観的に取ったのだろう。

 ケースのラベルには、D98/CSと書かれており、自分の記憶にはないが昔の自分がしっかりと分類した後が残っている。

 まぁ中身とケースがごっちゃになってる事は流石にないだろう。僕はそこまで適当はしない……はず。うん。

 

「わ、わかるの?どんな曲が入ってるのか……」

「まぁじっくり見ても流石になんだったかはすぐには出てこないね僕も。少なくとも一度は僕も手に取ってちゃんと聞いたって後がある事しかわかんない」

「そっか……」

「まぁこれを機に聞き直しながら思い出すよ。んで、プレイヤーはどこだったか……」

 

 そういって僕はこはねちゃんの選んだCDを再生する為に、雑に置かれた物の山からゴソゴソとプレイヤーの機械を探す。最近はストリーミングだのとサブスクだのと便利になったが、CDやらレコードやらテープやらと言った現物が信用に足りるし、人間の所持欲なんてのも満たされるから、昔の人間は頑張ったものだと思う。

 サブスク側も現物側も再生するものだったりイヤホン側だったりと外部装置に金がかかるのは変わらんけども。

 素材の再発見ってところですね。何を言ってんの??

 

 山の奥から引っ張り出したプレイヤーに電源を入れてCDを再生する為にこはねちゃんから預かったCDをプレイヤーの蓋を開けてセットする。

 

「まず動くかなこれ……」

「そ、そこからなんだね……」

「一旦適当な違うもの入れて試すかな?」

 

 という事で、そこら辺に落ちていた無造作に置かれた別のCDをセットし直し、一旦再生をしてみる。

「おー……お前マジかノイズ無しで高品質お届けできるんか……眠ってた割に偉いなぁ……」

 

「んじゃ、選んだそれを再生しよっか」

 テスト用のディスクを取り出し、こはねちゃんの選んだディスクを新しくセットすると、僕はプレイヤーの再生ボタンを押した。

 プレイヤーは少しだけ音を立ててディスクの溝を読み取り、刻まれた音楽を流し始めた。

 

 

『────ー……』

 

 プレイヤーから再生された音は、ピアノの音から始まった。

 高音域で不規則に跳ねるピアノのリフから始まった曲は、そのまますぐに男の軽快なラップリリックが入ってくる。

 

『流れるような黒髪に髪飾り 晴れやかなコーディネートに口笛をひとつ』

『首かかる麦藁帽子 と 手荷物は日焼けしたバスケット 目に留まるまで一瞬 見惚れるまでほんのわずか』

『合わない視線 合わせない目線 でもね、すぐに、ほらね、』

 

 男のリリックは楽しく軽快なものであると同時に、どこか距離感の近い独り言のような歌詞を紡いでいる。

 ただ、歌詞を歌いあげるのではなく、言葉の一つ一つに期待とどこか諦観の滲んだ、感情の乗ったラップが一区切りすると、順番を変わるように一転して女性の歌声が入ってくる。

 

 女性の歌声は透き通っていながら物語を読み上げるように優しいものであり、情景を歌い上げる。

 海を見つめる少女たちの情景が、彼女の優しいビブラートによって僕らの脳裏へと強制的に現像されていく。

 音の階層が粛々と重なり、厚みを増し、曲は逃げ場のないサビへと加速していった。

 

『海岸線スコール 手引く演出 ドラマティックにリード 「間もなく虹色」』

『入道雲エスコート 軽やかな足取りで キャッチ捉えるピント 「止まったようにじっと」』

『「サンシャイン」 -baby!!「無邪気に笑うから絵になるトッピングは歌声とフォトフレーム」』

 

 曲のラストを盛り上げるような男のリズムのカッチリハマったラップに添えるように、女性の歌声が続き、最後の歌詞を歌い切る。

 

『ガラス玉、覗き込んで 「call me...」映し出すフィルム 「青い海と2人」』

 

 残っているのかもわからない海を、真っ暗な空のかつての姿の青を、少女の二人が見つめるような、そんな曲だった。

 

 

「……こはねちゃん、これが、君の選んだ曲だよ」

 そういって曲を聴き終わったこはねちゃんの方を見れば、どこかぼんやりしていた。

 しかし、気がどこかに行っているわけではなさそうで、こはねちゃんの両手はギュッと絡むように膝の上で握られていた。

 

「こはねちゃーん?大丈夫?」

「ひゃっ!……ごめんね都楽くん、ずっと考えてた……」

 

 どうやらこはねちゃんは曲を聴いてその内容を吟味し続けて周りを置いてけぼりにしてたみたいだった。

 

「考えはまとまった?」

「……うん」

「よかった。んじゃ、帰ってきたということで、聞いてみよっか」

 

「君は、何を思い浮かべた?」

 

 回り回り道をした気もするが、ここからが本来のレッスンになるのだ。

 彼女が明確にイメージが出来なければ、僕は今日一日を不意にしたことを旦那にキツくお仕置きされることになってしまうのだから。

 なんなら今日は僕とレッスンすることをこはねちゃんは杏ちゃんに喋ったらしく、さっき気付いたことだけど、現在進行形で僕の携帯に鬼のように通知が来ているのだ。

 

 怖いよ?普通に。

 

 後ろで電動髭剃りレベルで振動し続け、スタンプ爆撃レベルで増え続ける携帯の通知を切り、こはねちゃんの解答を待つことした。

 

「……絵みたいな、海……かな」

 

 しばらくラジカセの駆動音と、換気扇の回転音が響いた後にこはねちゃんはゆっくりと口を開いた。

 

「なんて言ったら良いんだろう……自然に満ち溢れてるんだけど、自然じゃないっていうか……」

 

 こはねちゃんは曲のことをそう浮かべたらしい。

 

「絵の海ねぇ……もっと聞かせてくれる?」

「えっとね……海が見えたのはすぐにだったんだけど、聞いてたら普通の海じゃないって思って……」

 

 こはねちゃんは先ほどの曲の雰囲気を思い出しながら語ってくれる。

 

「この曲の海はね、私たちの知ってる海じゃない気がするの。」

「もっと、貴重なものになったっていうか……とにかく普通の海じゃなかったの」

 

「まるで、海を知らない人が海を描いて、それを見に行ってるみたいな……そんな場所に立ってた気がするの」

「いつものレッスンの曲と違って、なんだか不思議な曲だった……」

「なんだか、色々と君の前に広がったみたいだね」

 

 こはねちゃんはそう曲のことを締めくくると、僕は彼女の前に広がった風景を想像してみた。

 あんなにも、海についての曲のように歌詞が綴られても、その風景として広がったのは、淡い海のようでどこか味気のない海を見ることになるようなどこか諦めのような二人の姿。

 それでも、海は海として、かつての人々が楽しんだように、今眼前に映る海を全力で楽しもうとする二人の姿。

 そんな風景であったように、僕には見えたのだ。

 

「とまぁ、曲を聴いて何を思い浮かべるかなんてのに正解はないので、こはねちゃんの浮かべたソレが正解だよ」

「そ、それでいいの、かな……」

「これは別に音楽のテストでも何でもないからね、それくらいでいいんですよ。」

 

 こはねちゃんは、まだどこか半信半疑の顔をしていた。

 僕が「それでいい」と言ったところで本当にそれで良いのかどうかを彼女は自分の中で確かめきれていない。そんな顔だった。

 決して僕に信頼がないとかそういう話じゃないと思う。うん。きっと。

 そうだったら僕は今から泣きます。

 海が見えた。

 しかも普通の海じゃない。

 絵の海みたいな、どこか現実と少しズレた海。

 それを「正解だよ」と言われても、拍子抜けするのは当然だろう。

 

 だが、それが正解なのだ。

 彼女の見た世界。彼女の聴いた世界。彼女の感じた世界。

 彼女が紛れもなくそう聴いたのだ。

 ならば彼女にとってのそれが正解だ。

「ほ、本当……?」

「ほんとほんと。道楽者ウソつかない」

 

 こはねちゃんはさっきよりも、肩の力が抜けているのか、膝の上で絡めていた指もいつの間にかほどけていた。

 

 僕はその様子を見て、このレッスンに何か気負っていたものが落ちてくれたのだと安心した。

 

 本当に助かった。

 海が見えた。

 それもただの海じゃない。

 それだけで十分すぎるほど“イメージ”だ。

 

「ねえ、都楽くん」

「ん?」

「さっきの曲……」

 

 こはねちゃんは、ラジカセの方をちらりと見ると、CDプレイヤーは曲を流し終えてもなお、小さく駆動音を残していた。

 

「なんだか、懐かしい感じがしたんだよね」

「懐かしい?」

「うん。でも、私その海を見たことないはずなのに」

 

 その言葉は、さっき彼女が言った“海を知らない人が描いた海”というイメージと、妙に繋がっているのだろう。

 見たことはない。

 でも、どこかで知っている気がする。

 そんな景色。

 

 僕はそんな彼女の小さな疑問に答えることにした。

 

「多分、曲の中の“誰かの記憶”だよ」

「……記憶?」

「歌詞を書いた人とか、曲を作った人とか。はたまたそこに書かれた題材の人のとか、そういう人の見た海」

 

「で、こはねちゃんはそれを借りて見れている」

「借りて……」

「音楽てのはそういうものだよ」

 

「誰かが奏でて、奏でた音で景色を広げて、聞いてくれる人に見せたい景色を耳を介して届けていく」

 

「それも、音楽の形の一つだと思ってるから」

「だからさ、こはねちゃんの見た海も、ちゃんと曲の中にあった海なんだよ」

 

 そんな僕の一つの解答にこはねちゃんは目を丸くしている。

 

「……そっか。なんだか、ちょっとだけ安心できた。」

「安心てあんさん……」

「うん、なんだか、変なことを言ってるのかなって、思っちゃったから……」

 

「曲から浮かべるものなんて、すべからく変じゃなきゃ。」

「そう、なの?」

 

「だって、そうじゃないと面白くない」

「どんな情景であっても、終点まで自分で見てあげないと、楽しめないし失礼じゃないか……なんて、冗談だよ」

 

「どう見るかなんて、人の自由なんだ。君の思うままに見ればいい。」

 

「自分の見る景色を疑わないで進んでみるのもいいもんだよ。」

 

 こはねちゃんは「そっかぁ」と小さく息を吐いて、何処かスッキリしたような顔をしていた。

 

 僕は、テーブルに置いてあった珈琲を手に取り軽く一口飲む。

 喉を温い液体がゆっくりと落ちていく。

 

 ふと背中側でブルブルと恐怖を訴えるように震えている形態のことを思い出し、後ろの携帯を手に取ってみた。

 嫌な予感はとことん当たる様で、つい数秒前の杏ちゃんからついに短文で一言。

 

『アタシもそっちに行くから』

 

「待て何するつもりだバカタレめ」

「え、えっと、どうしたの?」

「いんや何でも、んまぁ今日はこのくらいにしとこっか」

 

 なんとしてもあの邪知暴虐の暴走列車を許してはならぬ。しかしてそれはこはねちゃんに悟られてはならない。

 

「元々代役だし、そこで僕が好き勝手何個も好き勝手にやるのは違うでしょ?番外編のはじめの一歩みたいな感じで軽くでいいかななんて」

「そっか……」

 

 彼女は名残惜しそうにCDプレイヤーと部屋の周りを見渡す。ごめんね。

 

「お詫びと言っちゃなんだけど、好きにここに来てまた僕とこのレッスンやってもいいから、また今度ってことで」

「わかったよ。今日はありがとう!」

 

 こはねちゃんは笑顔で僕にお礼を言ってくれた。この笑顔だけで十分なつり銭が来るから、これからの後始末も頑張れるのだ。

 

 

 そうして、また僕はこはねちゃんを送り届け、杏ちゃんからのメッセージに対して一言返信し、部屋に残った珈琲をまた口に入れた。

 珈琲の香りが先ほどまであった気のする海の潮の代わりに匂う。

 しかし驚いた。運命なのかは知らないが、まさかあれを選んでくると思わなかった。

 

 僕は肩に乗せたいつもの着物を直して、その日の珈琲を飲み干した。

 

 

 

 

 

 

 アレ、二度と聞けないデュエットなんだよな。もう。

 

 

 

 先ほどまで彼女と共にあった海は、僕のひざ下で静かにさざ波をうった気がした。

 




唐桜 都楽(かざくら とらく)
代理教授
小豆沢 こはね(あずさわ こはね)
受講生

JASRAC、NexToneでの管理楽曲外の為、YouTubeにて参考楽曲引用
https://youtu.be/7zcHhmSVTTs?si=qe2QdOJOOd9RTOuw

 久々に投下したら誤字脱字訂正をたくさんいただいて、ありがたいの気持ちとなんでこんなアホなミスしてんだよの二つの心が現れる。
 社会人やりながら自分の趣味できる人間がどれほどすごいかを物凄くわからされています。
チンタラ体を慣らしながら、更新を続けたいと思います。

ゾロリせんせ。評価入れてお気に入り登録して、感想投げてほしいだ。
感想ないと、おら不安だ。
ついでにお題箱みたいなものを置いておきます。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=327501&uid=291605
 よろしくお願いします。
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