もしかしたらかきなおすかもしれない。
突然ながら、僕は道楽者だ。ちょっと前にすっごい嫌がってたけど、もう受け入れることにした。
足掻いたってしょうがないことってあるよね。だからどうしたって話だけど。
僕は観測し、記録し、熱を残していく。
無駄なことなのかもしれないがこいつは僕の趣味のようなものだ。
僕がこの街に感じていることでも述べておこう。
音楽の街。
その言葉に違わぬ厳しい街。しかしながら、そんな過酷な競争環境だからこそ、そこに光るものが生まれることも、僕は記録してきている立場である故、競争者として生きていなくとも知っている。
そこで賞賛を掴む者。そこで失意に折れる者。ただそのどちらであれ、共通しているものがある。
この街にいる人間は、客の有無を気にしない。
客がいれば、ほんの少し彼らのモチベーションが上がる。いなければ、呼び寄せるように自らの音楽を奏で始める。
いようがいなかろうが、彼らは骨の髄までミュージシャンだということだ。
皆、街の中でありのままであるように羽ばたいている。
これじゃ街の評価というか住人の分析だなんて聞こえてきそうだが、そんな彼らがこの街を構成する一部であることは変えようのない事実だ。
僕自身、眺めていてまぁ良い環境なんだろうなってのは思っている。
とはいえ、自分はその街には含まれない。いや、含めてはならない。
何故なら、自分は街を形成する表現者の立場には立てないのだから。
⭐︎
某日、ある場所のストリート。
ふらふらと、慣れた散歩道を花柄の服着てほっつき歩く。
当然ながら、道楽者として顔の割れている僕は、道行く人に見かけられてはほぼ日課のように声を掛けられる。
「よぉ!道楽者!」
「あらまぁお久じゃないの。どうよ最近?いい音楽見つけた?」
ね、こんな風に。こうやって道行く人間に近況を聞いたりして、記録する内容を厚くしていく。
実際に文字として記録される際に書かれるかは分からないけど、大元の話に付随するような小ネタって意外と大事になることあるよね。
勉強してて、先生がぽろっと言ったことがテストで満点かそうでないかを分けるみたいな。
「お前ほどじゃないけど、聞けてるさ。じゃあお前はこんなこと知ってるか?
【座頭】って奴等さ、ここ最近見ないんだよ。」
道中の人間が挙げた座頭というその名前は知っていた。
僕が少し前に記録したユニットの名前だった。
僕が見た時、その人たちには悩みが出来たそうで聴き相手になったのは覚えている。
周りの成長スピードに自信を無くしそう、と僕にこぼしていくれていた。
誰にだって自信の喪失する期間はある。
挫折とも少し違う、壁に当たるようなもの。
だからこそ、彼らがどのような決断をしようが、僕は彼らを称える事にしている。
「どこいっちまったのかねぇ...しっぽ巻いて逃げやがったか!」
だが、僕に話題を提供するように話しかけて来た者の口は止まらない。
「全く生半可な気分でいるからだっての。」
「ハナっから何もするんじゃ」
「ちょいと黙ってくれるかい。」
話題提供のつもりだろうが、少々おいたが過ぎるぞ雑音声が。
ハナから挑戦するなだって?バカを言っちゃいけない。
少なくとも客席でヤジを飛ばす我々よりは、彼らは優秀であり、我々よりも遥かに逞しい人間だ。
それらに対する愚弄は、道楽者としても、記録者としても許すことはない。
「また立つかもしれないからね。あんまり言わないでくれるかい?」
なんでもヘラヘラと返せる僕だけど、僕にだってラインはあるんだよ。
「じゃーねー。今度は陰口じゃないお話聞かせてよ。」
僕は散歩の道を再び歩くことにした。
嗚呼、全く嫌だ嫌だ。不貞腐れた顔で会いに行くのは申し訳ない。そう思い、人影の無い路地の裏に周り、自分の顔を思い切りぶん殴る。
少なくとも、見てて不快な顔からは変えれた。すっげぇ痛いけれど。でも人と会う際の最低限の規律みたいなものには従っておかないとダメでしょ。
事後工作をしっかりと整え、店の扉を開ける。
「いらっしゃいませー!...って都楽!」
「ちゃっす杏ちゃん。お久。」
「学校であってるでしょ?」
「道楽者としてって話よん。謙さんも、お久しぶりです。」
「おう。と言っても、ふらついているお前を何度も見てるがな。」
「まぁ放浪してなんぼが僕の生業みたいな所ありますから」
「珈琲をひとつお願いします。」
「豆はなにがいい?」
「お任せします。」
「あいよ。」
カウンター席に座り都楽が注文し、店主である男性は、注文されたものを用意しに戻った。
「さて、杏ちゃんや。上手い事進んでいるようで。」
「上手い事?」
「自分の目標にってこと。ノメちゃんからある程度は聞いてるし、自分の目で見てるしね。」
僕は椅子に腰を落とし、看板娘の方を向く。
「久しぶりにしっかりお話しできそうだから、この際色々聞いとこうって感じ。」
「ふーん…」
「何さその顔、不審者見る顔みたいに見るんじゃないよ。いや確かに不審者みたいな見た目してるけどさ。」
「なーんか変わっちゃってるなって。」
「今更の話過ぎだって。この街で観測者で居続けてる時点で変わってないわけないでしょ。」
「僕の話しなんてなしなし。掘ったって励ましたとかそういうのしかないんだから。
それなんかよりも教えてよ。君の仲間の凄かったところとかさ。」
「なーんかはぐらかされた感じ…
そうそう!この前ね、こはねがね!」
そういって、杏は自身と共に夢を歩んでいる仲間の事を話してくれた。と、言っても僕はそのほとんどを事象として知っている。
だが、本人の言葉から聞くということはどの事柄よりも詳しく知ることが出来る。
ただただ事実のみの書かれた歴史の教科書と、ある程度の心象などの綴られた三文小説が書店に置かれていたとして、少なくとも教科書の方を手に取る人間はそういない。なんならどっちも手に取ることなく店を出ていくかもしれない。
ただ記録するにも、そこにどんな思いがあったのか。どんな背景があったのか。どんな風に心を動かされたのか。
そういうのを、そこにあった熱を記録する事を僕は大事にしている。
くだらないと言われればそれまでではあるが。だが、少なくとも僕の監修した教科書でなら、教室で居眠りする子を無くす自信はある。
そんな戯言は置いといて、僕は彼女の口から語られる誇らしい仲間たちの話を聞く。
少なくとも僕は自分でこの道を選んでいるんだから羨むのはお門違いってやつだ。
僕は傍観者だ。だからこうして、記録する。
…これじゃあもう機械的なのかそうじゃないのか分かったもんじゃないな。
まぁどうでもいいことか。
「ねぇ!聞いてる?」
「ん?聞いてるよ?」
話を聞きながらも、届いた珈琲の味を堪能していると、そんな言葉が飛んできた。
「じゃあさっきの話は何だった?」
「ノメちゃんがライブ後のパンケーキの海に親指たてながら沈んだんでしょ。」
「なにその面白い状況。…そうじゃなくて!」
「ノメちゃんの心配とかじゃなくて面白いで済ますの流石だね。」
「え、ホントにそんなことあったの?!」
「いや、ないけど。」
まぁ、夢を追う子の爛々とした顔が見れているので、良しとしよう。
「杏ちゃん、一個聞いてもいいかい?」
「今、楽しい?」
杏ちゃんはきょとんとした顔を一瞬したが、
「あったり前じゃん!」
とてもいい笑顔で、そう答えた。それはもう写真に収めても絵になる位のいい笑顔で。見聞きしているこちらが元気にさせてくれるような。
「でも、なんでいきなりそんなこと聞くの?」
「さぁ?シャボン玉みたいな気分屋だし。というか道楽者の行動原理に気にかけてたらキリないよ。」
「…都楽さ、なんだか曲がったよね。」
「何を失礼な。こんな正直が服着てるような男の子いないよ。」
「それ、神高の変人先輩たち見て言える?」
「あー…発言の撤回って受け付けてたりする?」
「しませーん。」
こちらをからかうようにまた杏は笑顔を向けてくる。やめて?好きになっちゃうって。ホントに。
「あーあ。また都楽の歌聞きたいなぁ…」
「まーたワガママ言っちゃって。ご馳走様でした。とても美味しい珈琲でした。」
「そうかい。また来いよ。都楽。」
「勿論です。今度は此方が紅茶とか持ってきますよ。」
「あぁ。楽しみにしておくさ。」
そうして、僕は会計を済ませて扉に手をかける。
「都楽。」
不意に、謙さんに呼び止められる。
「お前、街の事をどう思っている?」
止められたと思えば、そんなことを?とは思うが、僕は謙さんの言葉に嘘偽りのない返答を返すことにした。
「楽しい場所ですよ。競争場所としても、放浪先としても。」
そういって僕は、珈琲香るその店から出た。
☆
私が都楽と会ったのは昔も昔。有り体に言うなら、腐れ縁。
テストの点数だって見せ合ったし、かけっこでだって勝負もした。
テストの点数はほとんど勝てなかったけど、かけっこは負けなし。
毎回勝負した時は遥も一緒。
都楽と遥の勝負はなんだか毎回ギリギリの結果だったのはちょっとだけズルいと思ったこともあったりと、思い出せば良い事ばかりがあふれてくる。ほんの少し意地の張り合いみたいなこともしてたっけ。
なにかがお互いに決定的に変わったな、と思ったのはやっぱりあの日からだ。
私が都楽を誘った、あの夜だ。
その日の少し前から、都楽の元気がなく、一緒に父さんの見に行こうと誘った。
都楽の面倒を見てくれている人達も、同じくミュージシャンとして活動している事を都楽本人から教えてもらった。
【宝船】
たくさんの夢と想いと情熱の積まれた船。
それが都楽の面倒をよく見てくれている人たちの名前だと、都楽は言ってた。
父さんにも聞いてみたら、その人達は実力派の集まりだって言っていたっけ。
都楽は宝船の人達の話をする時、いつだってニッコニコの上機嫌。
都楽がどれだけ落ち込んでいても、その人たちのことを話す時だけは直前の落ち込みの過程も吹き飛ばして、嬉しそうに話していた。
『僕はあの人達の曲だって歌えちゃうんだ!』
そう言って歌った都楽の歌声は忘れもしない。
父さんのそのイベントには、その人達も出るだろう。そう思って、一緒に見に行った。
そこで見たものは言うまでもない。
だけど、都楽が泣きそうな顔をしていたのは、気がかりだった。
それからすこしして、私は、今は私たちは、父さんたちのあの夜を超えるために歌う事にした。
当然、都楽だって誘った。
だけど、都楽はあっけらかんと、こう言った。
「ぼくな、歌わんわ。」
「ぼくな、お客さんでいることにしたよ。」
「みんなが歌って、みんなが凄いものを見せてくれる。」
「そういうものを残す機会を、僕は逃さないようにするよ。」
そう言って何かが変わった都楽の顔を、私は見れなかった。
都楽に何が起こって変わってしまったのかは分からないし、都楽の心が決めた事なんだから、私がどうこうしようとはしない。
だけど、けれども。
叶うことなら、もう一度彼の歌声を。
私達の立っているステージで聞いてみたい。
そう思ってしまうのはきっと、私のワガママだ。
白石 杏(しらいし あん)
町娘。
唐桜 都楽(かざくら とらく)
道楽者。
座頭(ざとう)
そういうやつら。もう出てこない。
はと×4様 評価ありがとうございます。
ストックは後一個あるのでそれを投稿したらまた間が空くと思います。
ゆるしてください好きな性癖発表ドラゴンを召喚するので
ヤニカスダウナーお姉さん。
推しは杏ちゃん。
評価お気に入り感想の程よろしくお願いします。
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