「伝説って?」「ああ!」   作:絞りカス

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連続投稿。


実は一歩ってより踏みしめた方のことを指したりする

 

 カツリ、カツリと靴音が響く中で、足は仄暗い道へと進んでいく。

 昨日のイベントが終わり、携帯の電源をつけた時に、再び一つのメッセージが入っていた。

 今回のトラブルが何かしらの人為的な出来事が起きたということ。イベントスタッフの話から、関係者の一人が弄ったのを見たというが、誰かという特定はできていないこと。そんな情報をもらった。

 

 いや、知ったこっちゃないが? 

 

 こっちは犯人探しに精を出すつもりもなければ吊るし上げるつもりもない。

 自分の良心が痛むとかいうよりも、んなことしたところで得も無い。

 それをやってしまえば、僕は道楽者以前に客ではなくなってしまう。

 

 そのあと、スタッフさんたちは会場裏で何か喧嘩のような言い合いを聞いたとも報告してくれた。詳しく耳を立てれば、杏ちゃんが自分たちの時に音楽を止めたのがノメちゃん達なんだと聞いて、責め立てていたようだった。

 スタッフさんもその時の犯人がノメちゃん達ではないことを知っていたため杏ちゃんに、多分それ違う人やでと言いに行こうともしたが、ノメちゃんがその行為をしたことをおっ被って逆に挑発し始めたので諦めたそうだ。

 イベント終わりにノメちゃん達も杏ちゃん達のどちらも見たけれど、僕はただ何も言わずに通り過ぎることしかしなかった。他人のけんかに顔を突っ込むほど、僕は人間としてお節介なつもりもないし、野次馬根性で迷惑かけるほど愚かしいつもりもない。

 

 そうして、少し控えめの柄模様の着物をいつも通り肩に羽織って、何にも考えずにぶらぶらと散歩をしている今に至る。

 

「や、ニュービー」

「……都楽、さん?」

「メイビー同い年ですよ? さんづけじゃなくていいって」

 

 入り組んだ路地の先にある遊具もない空っぽの公園を足を運べば、そこには暗い顔のこはねちゃんがいた。何? 僕は老けているの? まだ16だよ? お肌も体年齢もピチピチの10代だよ? 

 

 

「どうだった.って聞いたところでアレだといい感情はわかないだろうね」

 

 浮かんだ心情の者のいない公園で、ただただ空しく静かな時間だけが過ぎていく。

 

 

「……後悔は、している?」

「ステージに立ったこと、誘ってくれた人と練習したこと」

「あの日、僕に案内されたこと」

「……」

 

 僕の問いかけに、目の前の悩める少女は答えてくれることもなく、口を綴んで下を向き続けている。

 

「これじゃあ聞き方が卑怯だな。そうだなあ……」

 

 なるべく棘のなく、すんなりと答えられそうな言い回しがないかを頭の中で一つ浮かべては消していく。意気消沈の人間に強い言葉を与える意図は僕にはない。

 

 まぁ進行形で言葉におびえられて僕の方向いてくれないんだけど。僕もしかしたら人付き合い下手くそなのかもしれない。

 

「失敗しちゃったことよりも……杏ちゃんの隣に」

「別に、怒ったり咎めたり、叱責するつもりなんじゃない」

 

「僕の見てきたこの街を取り巻く環境は、果てしなく厳しい道だった」

「人が目指し、人が崩れ、人が去って、夢を続ける。観客の僕が感じ取れるほど異常で、そして残酷な環境」

 

「それでも、君はここで歌うことを決めた」

「それも、この街で最も重たい看板を背負い続けている彼女とともに」

 

「重たい……看板……?」

 

 一月相棒として共にいた者に対しての単語に、こはねちゃんは反応する。

 

「伝説を担った人の娘。街が意図してその扱いなのかそうでないかは知ったこっちゃないけれど、あの子はそんなトロフィー紛いの看板を背負わされていることを。君も近くにいたんだ。感じなかったわけじゃないでしょ」

 

 練習を重ねて、街に少しでも触れてみて。そんな歪を知って。一緒に組んだことは巡り合わせだったのかもしれない。

 

「どうあれ、君はその中で知ったことで、彼女と共に行くことの意味を君が担うことになったんだ」

「君がそう歩もうとした道を、間違いだったと君は思う?」

 

 そこまでの言葉をゆっくり、出来るだけ圧のないように心がけていってみたものの、こはねちゃんはやっぱり黙ってしまった。

 

「……だめだね、どうしたって強めの言葉になっちゃうや」

 

 そうして、僕はこはねちゃんに向かって困ったように愛想笑いのような笑みを向けてしまう。

 別に、僕は他人の行く末を決めたりしようだなんて烏滸がましい事をするつもりはない。他人に選択の強制をするなんてまっぴらだ。

 だけど、悩んで、苦しんでいる原因の一端を僕が何処かで担っている。そんなことが起きているのならば、その責任を少しでも持つ。

 誰かが自分に縛られるような事になっているのは、嫌だ。素直な自分の気持ちでもあるし、それが道楽者のケジメでもある。

 

「こんなこと言ってるけどね、僕は何もする気がない。というよりも、街のそれこれに出来るだけ干渉をしないようにしているんだ」

「だけど、僕には君の背中を押した責任がある」

「……責任?」

「ちょっとしたアドバイス……違うな。妄言でいっか。なんだけどね」

 

「一歩目がほんのちょっぴり小さかったり、足跡が薄かったりするんだったら、より大きな一歩でかき消してしまえばいい」

 

「……意味が通っているかを聞かれたら、まぁ苦しい言い訳にもなるけどね」

 

「でも、初めの一歩位、それくらい欲張ってもいいと思ってるよ」

「欲張って、大きな一歩を大地に踏みつけた所から始めたって構わないんじゃない?」

 

 この街の住人や音楽に限らないけれど、勝負事や競争にいる人たちはこぞって我が強い。

 

 そんな奴らの一歩は、どいつもこいつも大きくほかのことなんざ考えていないくらい乱暴で、力強い。

 我が強いこそ、そこには必ず必死が残るし、誰かの記憶に色濃く刻まれる。

 

「こぞって自分を見せつけて、こぞって自分を主張する。そうして、自分のエゴを押し通して進んでいく」

 

 エゴと言われれば聞こえは悪いけれど、それも言い換えてしまえばそれはみんな自らの心に従った末の自己表現。自分の心が思うままに進んでいる。そう考えたら、さほど悪いことではないはずだ。

 故にこそ、僕は彼女にこんな言葉を贈ることにした。

 

「だからさ、自分の一歩だって、わがまま言ったっていいんじゃない? 『私の気持ちはこんなものじゃない。もう一回見せてやる』そんな風に意気込んで見せたって、バチは当たらないはずだから、良いんだよ」

 

「……都楽君は、明るいね……」

 こはねちゃんは僕にそんな言葉をくれた。

 

「そらそうさ。僕は道楽者なんだ。なんだってポジティブに考えるのがスタンスさ」

 

 楽観主義者の間違いだろなんて突っ込まれれば、さすがにぐうの音も出なくはなるが、生憎まだ言われたことはない。しばらくこういうスタンスでも怒られないことが確約されている。

 

「んじゃ、僕は帰るよ。あんまり遅くなったりしちゃだめよ?」

 

 そういって、僕はその公園を後にした。

 これから、彼女がどういう道に進んでいこうとも、それは彼女の選択だ。

 言葉ならべて嘘八百じゃないけれど、少しでも何かのきっかけになれるのなら、それでいい。

 彼女の感じたように、彼女の想うように、進んでいってくれたら僕が案内したことの責任はとれているのだろう。

 

 僕は、そんなことを思いながら影の長くなった公園から去ることにしたのだった。

 それから時間も経っていない中、僕は彼女たちが再びイベントに出ることを耳にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 イベント当日

 ライブハウス『Mossy stone』

 再び僕は彼女たちの出るこのイベントを記録するべく、この場所に来た。当然というべきなのか、このイベントにはBAD DOGSも出演するってハナシだ。

 今回のイベントは前回のハコと比べても様々なものが違う。

 REDの方でも十分観客が多く入っていたとはいえ、Mossy stoneの方は規模から何まで別物だ。

 それこそ、設備も、収容人数も、ステージも。

 何もかもが、前よりも格上の舞台。

 

 ここからは見えることはないが、裏では参加する者たちも心高ぶるものを感じているのだろう。

 それは、観客とて同じことだ。

 周りを見渡せば、前回のREDでも観た観客も多くいる。

 前回のトラブルによる中断は、観客の彼らにだって消化不良間の否めないものが残ったのだろう。

 完全となった『Vivids』が見たい。『BAD DOGS』が盛り上げる姿を見たい。

 そんな願いか欲望かもわからないものが、この会場では渦巻いている。

 ……気のせいだと言われれば、それまでであるが。

 兎にも角にも、この会場は、前回よりも大きな熱と大きな一歩を期待している。

 当然、僕のその一人だ。

 このイベントに参加するミュージシャンたちが自らの証明たる一歩を踏めることを、僕は望んでいる。

 

 

 

 イベントがスタートし、それらの活動を記録していると、BAD DOGSの番となっていた。

 

『♪ —————————!!!』

 

 彼らは、ハコの規格も圧も何もかもが違う中で、前回と変わらぬ自然さで、前回よりもすさまじい歌唱をして見せていた。成長曲線目まぐるしいともいうべきであるし、先週と環境がガラリと変わっているのにも関わらずこのように気動じせずにパフォーマンスを出来ているのは、彼らの実力の賜物と言うべきなのだろう。

 

 正直、彼らについて失敗だとか、トラブルだとかを、ステージ上で起こすとかの心配はしていない。

 何せ、このように会場を盛り上げられる二人だから、そんなことが起こってもアッサリと乗り越えてくるのだと、僕は思っている。

 

 ……客感情だしね? そりゃ成功してほしいって思っているよ。

 歌で会場が沸かせる。そんなことは僕にはできないし、それを試みようとステージ側に回る人間たちのことを僕は尊敬しているのだ。

『BAD DOGSだ! 今夜も聴いてくれてありがとな』

 

 そうして、彼らのすさまじい歌唱は終わり、ノメちゃんが締めのコールをして彼らの番は終わった。

 何の運命なのか、こうして大歓声巻き起こる中、次のグループはこはねちゃん達の『Vivids』だったのだ。こはねちゃんの姿は、以前の姿とは異なり、髪形を変えてどこか何かの覚悟の決まったような姿をしていた。

 

 そうして、その変化に驚く暇もなく、彼女たちの歌は始まる。

 ノメちゃん達の作った熱を引き継ぐように、こはねちゃんは息を吸い込んで初めから歌い始めた。

 前回は杏ちゃんが担っていたリードボーカルの役目を、今、彼女が行っているのだ。

 

『♪ —————————!』

 

 彼女の歌声は、高くしかし、力強さとは違う揺るがなさを感じるような歌声であり、その歌声は会場の全てに通っていく。

 

『♪—————————!』

 

 そしてそこに杏ちゃんの力強く芯のある歌声が加わり、そして混ざり合うことで、会場に大きな一歩を叩きつけた。

 

『『♪—————————!!』』

 

 そうして重ねて歌われた二人の声には、二人の胸の中にあった想いのようなものが乗っているように感じた。

 覚醒と呼ぶべき? いいやきっと違う。

 確かに彼女達は殻を破ったわけではあるのだろうが、それだけではない。

 

 彼女達の勢いは止まらずに、下がることのなかったボルテージをさらに上げていく。

 

 その姿は僕の脳裏の記憶に少し重なって見えていた。

 伝説の夜、『RAD WEEKEND』。

 この街の人間の全ての脳裏に焼き付いている光景。それが今、ほんの少しだけ形を見せているように見えているのだ。

 期待していた者も、即興ユニットだと侮っていた者も、ステージで放たれる歌を聞いて、目の色が変わっていく。

 

『なあ、初めて聴くけど……すげえな。この子らが『Vivids』なんだよな?』

 

『ひとりは謙さんの娘だから知ってたけど、リードの子もすげえな。……おいおい、まだいくのか!?』

 

『なんだよ、『BAD DOGS』相手じゃ比べ物にならないんじゃなかったのか? これなら全然通用するじゃねえか。むしろ——』

『盛り上げならこっちの方が上手いんじゃないか? なんつーか、すごく熱い気持ちが伝わってくるぜ!』

 

『Vivids……! こいつら、最高だぜ!!』

 

『な、なんだよこれ……。すげえ……』

 

 皆それぞれ口を開いているが、その言葉の内容は似通っている。

 どこまで行くのか。どこまで行けるのか。各々のそんな思いが言葉にされていく。

 彼女達の歌は、観客の、この空間の、認識の世界を全て塗り替えていったのだ。

 

「……なぁるほど。こりゃあ大きな一歩だわな」

 

 僕は彼女達の一歩目として踏み出した歌を聴きながら、そんな独り言を吐いた。

 

『♪————!♪————!♪————!』

 

羨ましいなぁ。本当に。

 

 ……何か口からこぼれ出ただろうか。

 引き続き、僕は彼女達の華々しい歩みの一歩目をヒッソリと写し続けることにした。

 映像として残す為の手はそのままに、記憶として残すための網膜と鼓膜は彼女達の姿を焼き付けるように。

 

 ☆

 

 曲が終わり、ステージ上の二人は息を整えて観客達に呼びかける。

 

 

『“Vivids”だよ! みんな、盛り上がってくれたー!?』

『え、えっと……ありがとうございました!』

 

『私達は走り出したばっかりだけど、いつか絶対“RAD WEEKEND”を超えるイベントをやってみせる! みんな、応援よろしくねー!』

 

 

 相棒の隣で、再び“伝説超え”を宣言する杏の姿に会場を観客達の声が嵐のように震わせる

 

 前提条件が整っていなければ、荒唐無稽な宣言に聞こえるだろう。

 だが、彼女達はそれを超えることが出来る可能性を持っているという証拠を、たった今自らの歌唱で示したのだ。観客達は、熱気新たなる伝説の誕生を予感した会場の殆どの観客達はそれを否定せず歓声を上げていた。

 

 イベントが終わり、各々が施設から捌けていく。

 さて自分も、と思った辺りで入口の方で聞き覚えのある話し声が聞こえた。なんとなく分かりながらもその方向へと歩いていけば、そこには杏ちゃん達とノメちゃん達がいた。

 前回はお互いのあれこれで口げんかに発展していったと聞いているが、今回のパッと見の雰囲気ではそんな感じにはならなさそうではある。

 

「……そうか」

 

「お前らの歌は、よかった。……前は、邪魔して悪かったな」

「………………!あ、ありがとう……!」

「あれ?意外とあっさりじゃん。もしかして、案外素直?」

「うるせえ、用がないならさっさと行けよ」

 

 ……どうやら、仲直り?というか蟠りが解けた瞬間だったようだ。

 ノメちゃんの短い称賛の言葉にこはねちゃんは嬉しそうにお礼を言い、杏ちゃんは意外にも真っすぐ賞賛の言葉をかけたノメちゃんを揶揄っていた。

 あー……すっごい邪魔しちゃいけなさそうな雰囲気。何も見なかったことにして帰った方がよさそうかもしれない。

 

「あっ都楽じゃん!」

 バレちゃったし。

「もしかして、声に出てた?」

「いや?その大きい着物が見えたからわかっただけだけど?」

「なーんだ自分のただの自滅だったわ」

 うん。しばらく観客側の時は派手なものは控えよう。冠婚葬祭かな??

 

「あー……とりあえず、皆様お疲れ様です……」

「ンでそんなテンション低いんだよ……」

「しゃあないですやん……声のする方向出たら全然4人の雰囲気だったし、邪魔した感じを勝手に感じてるんだよ」

 

「さて各々方、納得のいくパフォーマンスは出来ていて?」

「……いきなりだな」

「会ってしまったもんは仕方ない。だったら切り替えて自分の役割こなすよ」

「……それはいい心がけだな」

「当事者の一言くらい感想を織り交ぜておかないと、記録に厚みが出ないんだよ……あんまり言いたくないけど」

「さて、お二人さん?納得のいく大きめの一歩は踏めたかい?」

「勿論!!」「は、はい!」

「それは今後もやっていけそうなものだった?」

「なら、僕から送る言葉はひとつだ。

 頑張って。チャレンジャー」

「疎外感与えちゃってすんませんね。次は、そっちの二人だ」

「ノメちゃん?青ちゃんも、自分の納得いくパフォーマンスは出来たのかい?」

「あぁ」「……あぁ」

 

 その言葉を言った時、ほんの少しだけ、青ちゃんの方の顔に陰りが見えた気がした。

「……そっか。だったら、今日の僕のやることはおしまい。じゃねーお四方。お気をつけて〜」

 僕は薬液をつけたパイプを咥えて、この場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ⭐︎

 

 暗い部屋。僕は目の前のパソコンに今回の流れを打ち込んで行く。

 一連の出来事は富んだ物語のようでもあり、人一人の成長としても、全くもって素晴らしい門出だったし、素晴らしいパフォーマンスだった。これなら記録書も気分よく閉められそうだと思い、軽く感想を聞き出した所で話は変わった。

 

 うん。アレ、まだ一騒動起きそうだね。というよりも、終わらないだろう。

 

 そして、僕は終わりの抜けた記録書とは別の作業に移る。

 今回は、初舞台ということもあって、彼女達の方に割と視点を置いて記録していたが、そうじゃダメだった。彼らの方は、まだなにかが起こる。

 そんな予感を僕はあの聞き取りで感じ取った。杞憂ならば後日句点をつけておしまいでいい。

 続くのならば、僕はまだ録画終了のスイッチを押すわけにはいかない。

 僕は、本日の記録書の締めを、初めて書かなかった。

 全ての作業が終わり、僕はあるものを電子の海に放流する事にした。

 魚の釣りのように、当たれば幸運程度ではあるので、此方の成果はもとより期待はしていない。

 次の日、僕の予想はピタリと当たってしまい青ちゃんがノメちゃんとのコンビを解消したという話が、僕のところにまで転がってきた。




唐桜 都楽
記録者
Vivids
素晴らしい一歩。
BAD DOGS
爆弾残存。

ユニスト分は早めの投稿をしたい。
評価お気に入り感想の程よろしくお願いします。
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