実をいうと、僕は学生の身だ。当然とも言うべきかもしれないけれど。だからちゃんと学校で勉強もするし、学校の購買にだって並ぶ。
娯楽のために図書室でミッケだってするし、知識のためにペンを走らせることだってある。
だから、図書室で本を借りることだってあるのだ。
まぁ、それが今なんですけれども。
ここは学校の喧騒の中から、ほんの少し離れている図書室。
僕は何冊か本を借りるために、僕はここに足を運んだ。
本の虫とまで自負するつもりもないけど、ラノベも純文学も読む人間なので、割と雑食気味ではある。
谷崎はいいぞ。女性の描写が気持ち悪いくらいに極まってる。近代の文豪は大体極まってるだろと言われれば、ぐうの音は出ないけれど。
「ちゃーっす。これ借りたいんですけど」
そういって、僕はその日の暇をつぶす為の活字をいくつか選んで、カウンターへと持っていく。
「……都楽?」
「あら、青ちゃん。丁度よかったわ」
カウンターにはいろいろと話題の人物の一人がいた。
「パイセン?青ちゃんとチョーっとだけ話したいんだけど、3分くらいもらってっちゃっても大丈夫すかね?」
「なんだ都楽君か、君は割と常連の子だからな……まぁなんかトラブルみたいなことは起こさないだろう、青柳君、少し休んでもいいよ。幸い利用者は少ないっぽいからね。」
「……ありがとうございます。」
「すんませんねパイセン……今度手伝いに行きますんでまたそん時に」
そうして、青ちゃんを連れだすことに成功し、青ちゃんと指しで話すことのできる環境を整えることが出来た。なんで僕学校でも世渡りスタイル出来てるんだろうね。自分でも怖いって。
「なんだか、くどいことを聞くことになるけど、ノメちゃんとコンビを解消したってのは真実?」
「ああ……本当のことだ。」
「そっかぁ……」
何か二人にひと悶着起きるなとは思ったけど、感じたその日にデカめなことが起きちゃったか。
「一応、理由とか言えたりする?無理にとは言わないけれど」
「共に歌わないと決めた理由は……特にない。」
「……そっか。」
当然のことながら、青ちゃんからはきっぱり断りの言葉をもらい、口を閉ざした。青ちゃんの口からは、きっとこれ以上の言葉を今引き出すことは出来ないだろう。
元々、結構ガードの堅い感じでは若干あったが、自分の日常になりつつあったものからの離脱という選択について聞かれているんだ。より聞き出せなくたって不思議なことはない。
「ま、僕から何か君にかける言葉があるとするならば、喧嘩は互いがノーガードでするものだよってことかな」
「なんだかね、今の青ちゃんは我慢している感じがするよ」
僕の言葉に青ちゃんはほんの少し目を見開いて、痛いところを突かれたような表情をした。
「……一体何を根拠に」
「僕は長くいろんな人の行く末を見てきた。」
「目標を達成する人、目標を達成できずに挫折する人も。競争の世界なんだ、街を去る理由は千種万別だったよ。」
青ちゃんが根拠を求めて口を開き、僕が答える中で様々な人物の姿を思い出すことができていた。
去っていった人間たちはつらい顔して去っていたものもいれば、何処かすっきりした顔をして去ったものもいた。どんな人間にも、何かをやめるにはそれ相応の理由が絶対にあった。
「でもね、青ちゃんはさっき言ったね。やめる理由なんて特にないって。」
「嘘ついてんじゃねぇよ。」
それだけは、言っちゃならねぇ。
そいつだけは、言っちゃいけない言葉なんだよ。
「お前、自分の相棒と歌ってた時間がそんなに退屈だったか?」
「そんなにバカらしかったか?そんなに滑稽だったか?本当にそう思っているのなら話は終わるがな」
「別にやめることが悪だなんて言うつもりはさらさら無い。ただ、嘘をつくんならもうちょいまともな嘘ついてからにしろ。」
「……都楽。お前は何を見てきたんだ?」
「さぁ?少なくとも、君が誰かに腹を割らない限り、僕も何を見てきたなんてことに腹を割るつもりはないよ」
ほんの少し語気が強くなってしまった中で、青ちゃんはそんなことを聞いてきたが、当然答えるつもりなんてない。
青ちゃんがその心中を明かすことがないんなら、僕だって明かすつもりなんてない。リスク管理ってやつの一環だ。
「……そうさな、僕から一つなぞかけみたいなことを出してあげる。答えはないよ?回答者次第のタイプだけど」
「……なぞかけの定義がわからなくなるな」
僕はこれ以上の追求も詮索も徒労に終わることを予感し、話を別のことに切り替える。
「太宰の作品にさ、メロスってやつが走るやつあったじゃん。スタート地点での走る目標って、妹の結婚式のためって、親友の命を張った割にえらく俗物的だったでしょ。あれは、許される目的だったと思う?」
「芥川の作品で、自らが転がり落ちた先にあった河童の国の世界のことを、帰ってきて打ち明けたことは愚かだったと思う?」
「カンダタが、天から伸びてきた糸につかまって登ろうとしたのは悪?」
問題を三つほど問いかけ、青ちゃんがほんの少し考えるような素振りをする。
「……どれも、回答に困る」
「それはそうではあるね。」
僕だってそのつもりで出してるいじわる問題なんだ。アドバイスついでのちょっとの茶目っ気位は許してちょうだいな。
「さて、これでキッカリ三分だ。約束通り元の場所に戻ろう」
「……そういえば、都楽は何の本を借りに来たんだ?」
「まぁ、それも含めて、図書室で済ますよ」
そうして、僕は時間を守って青ちゃんを元の場所に戻し、本来の目的であった本を借りてこの場を後にした。
因みに借りた本は泉鏡花の作品である。とにかく活字を読みたかっただけなんだ。何もやましい気持ちはない。
これで今日は終わるかなと思ってたら、なんかこはねちゃんが学校にいた。
なにやら、彼女たちは先のトラブルが青ちゃん達がやったことではないことを知ったようで、その上で青ちゃんがどうしてやめてしまうのか、その理由を探りに来たようだった。
大体僕と一緒だったわね。
そこで話されることに介入するつもりはないので、半分くらい聞き流していたけれど、こはねちゃんに青ちゃんは歌っていた時は楽しそうだったと指摘されたときに、ほんの少し奇妙な反応をしたことは、こちらとしても思わぬ収穫ではあった。
やっぱり、青ちゃんはウソをついている。言葉を交わし、その一連の反応と自分の勘からなる根拠の薄い確信ではあるけれど。
「で、何でいるんすかね。」
「私たちは、冬弥に話があってここまで来たけど……」
「あー、青ちゃん関係?」
それはそれとして、なんでほんまにここに忍び込めたんですかね???
ナチュラルになんでいるんでるかね?と思っていたら、杏ちゃんの手引きだったわ。風紀委員のはずですよね貴方。
え?よく他校の子が入ってるし、バレなきゃセーフ?
……まぁ、いいか!
「ね、アンタさ冬弥と話したって言ってたけど何か言ってた?」
「なーんも?君らも言われたでしょ?辞める理由は特にないって。僕もおんなじ解答もらったよ」
杏ちゃんも青ちゃんから何か聞いていないのかと言われたけれど、つかんだ情報も大したものもない
「……そっか。」
「十中八九嘘だろうけどね。」
「……それは、どうして思うの?」
「前にも言ったけど、僕はこの街の記録人だ。当然、街を去る者の姿も見届けている。」
「青ちゃんは歌うことをやめることに何の後悔もないようなことを言ってくれやがって面見て話しても、そんなわけがあるはずないんだわ。」
「理由なく辞める人間が、我慢なんてする筈ないから。」
当然、去る理由は十人十色。後悔を滲ませたりする人も後腐れなく去る人も多岐に渡る。
そう、多岐に渡るんだ。
去ることに理由がないなんてことは、あり得ない。それでもって直前のイベントでの反応だ。
僕の質問に対して、青ちゃんは苦しそうな顔をほんの一瞬している。まるで何かを決めかねているみたいに。
「まぁ、そんな感じで僕が青ちゃんから取れたのは青ちゃんが嘘をついているって事だけ。それ以上は詮索しなかったよ」
だってプライバシーの云々で後から言われたくないもの。アレ以上踏み込んだ事を聞けば、記録者の役割から外れる事になっちゃうからね。
……はいそこの人たち、とっくに外れているのでは?なんて言わないの。僕は道楽者なんだから許せ。
「で、どうする?」
「どうするって……」
「僕としては、アレを空中離散させるのは惜しい。腹の中も自分の相棒に明かさずの状態なら尚更ね。」
「君ら、アレらの腹の中をぶちまけられるよう良い案あったりする?あるんなら協力はするんだけど。」
「じゃあさ、うちの店で作戦会議しよう!都楽も一緒に来てさ!」
杏ちゃんは色々と話をすり合わせた後に、僕を杏ちゃんのお店に誘ってきた。正直僕一人でどうにかなる問題でもなくなってきたので好都合な提案だった。
「ご厚意に甘えて、お邪魔させてもらうかな。」
そうして、僕らは学校が終わり次第、どうしたら二人が仲直りできるのか、作戦を練る事にするのだった。……多分これこはねちゃんと二人でやる流れだったよね。それが頭によぎっちゃったよやっぱりいない方が良かったかもしれない。
「じゃあどうするのよ」
「うーん……むずかしいね……」
「まぁ、こうなるよなぁ……」
とはいえ、当然ながら、当事者の居ない状態での作戦なんてものは机上の空論から抜けることはない為、どうしたって現実味のない作戦ばかりが上がっては消えていく。
ハナシの中で、こはねちゃんも案を出してくれたりしたけれど、すごいねこの子。気弱そうな雰囲気のイメージだったのに、提案してくれる内容が結構ぶっ飛んだものだったよ。
見た目に似合わず結構大胆な女の子だね。とりあえずどこかでいきなり突然の告白しても僕は驚かない心構えはできたよ。
「おーい、三人とも。熱心なのはいいことだが……そろそろいい感じの時間じゃないか」
「あれ、もうそんな時間?バーの営業の準備しなきゃ」
「あっ、そうだよね。それじゃ、私は……」
謙さんに声を掛けられたところで僕たちはようやく陽の傾き始めている事実に気が付いて、杏ちゃんはお店の看板を出す為に立ち上がった。
そんな時間まで話し合ってたのね。結局、解決に直結しそうなめぼしい案はいくつかあったけど、どれも奇跡を祈るような前提の上で起こすものだった。
こはねちゃんも杏ちゃんにつられるように立ち上がった。
……一旦、ここだどお邪魔かな。僕は。
「んじゃあ、僕はちょっと外の空気を吸って頭切り替えてくるよ。」
僕は煮詰まった現在の話し合いから席から立ちあがり、店の外にいったん出ることにした。
お店の外で話し合いの合間にチカチカと光っていた携帯の通知を見れば、幾つかのメッセージ通知と見慣れない楽曲が追加されていることに気づいた。
優先順位的にメッセージ通知を見ると、幾つかの店に既に青ちゃんがお礼参りに現れたという報告の連絡だった。
僕は、この報告を見て、事は奇跡を願ってどうにかしてもらうほどの猶予は残っていないと、喉元に突きつけられていることをハッキリと実感させられた。
せめて彼らが双方のことを勘違いせずに、幸福な終わりに帰結するにはどうすればいい?
彼らの結論を変えるには、どうしたらいい?
傍観者、記録者でいるには深く関わりすぎた僕の脳みそは、刻一刻と迫る期限に判断力を削られながらも、動き続けていた。
唐桜 都楽
道楽者。
青柳 冬弥
悩める若者。
小豆沢 こはね
意外と大胆。
白石 杏
看板娘
東雲 彰人
切り札。
わりぃ。次遅れるかもしれない。
早めに出したい。
コース様。評価ありがとうございます。
評価お気に入り感想の程よろしくお願いします。
ホンマにたのんます。
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