遊戯王ARC-V LDS総合コースの竜姫   作:紅緋

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再開と終了のために戻ってきました。
打ち切りエンドを書きますが、長くなりそうなんでエピローグを分けて投稿します。
初ターン考えるのに3日ぐらいかかりました。


エピローグ①:≪次元障壁≫(どれを宣言すれば良いでしょう)

 

「なぁ零児…」

「何か?」

「今からプロデュエリストの手続きをするんだよな?」

「そうだが?」

「そういうのって普通は窓口でやるもんだよな」

「普通はそうだろう」

「じゃあ何で俺たちはLDSの地下に向かっているんだ?」

「君の手続きが普通ではないからだ」

「えぇ…あぁ、まぁ……そうか…」

 

 遊矢は零児とのデュエルを見事勝利で収め、父遊勝から『プロとして戦い続ける覚悟はあるか?』という言葉に応え、意気揚々と駆け出した――その直後に零児に首根っこを掴まれ、『先ずは手続きが必要だ』の言に渋々従った現状が地下への路。

 手続きが必須であることは遊矢も理解できる。だが、本人からしてみれば記入・捺印、必要なら写真撮影等があるぐらいのものが、何故それらを行うのに地下まで行かなければならないのか理解ができなかった。

それ故に、零児に疑問を投げたものの、その返答は『普通ではない』の一言。

これに関して遊矢はそれぐらい普通でも良いのにという不満と、次元戦争や自身の出自、プロになるまでの経緯が普通とは明らかに異なるため、仕方ないことなのだろうと無理矢理納得させる。

 

「まぁ仕方ないよな……それにしても、改めてLDSってすごいな。地下の方もこんなに設備を充実させているなんてさ」

「入塾者は年々増加傾向にある。上を拡張できない以上、下を拡張するしか手がなかったのだ――尤も、ここまで拡張する気はなかったのだが」

「ウチに対する皮肉にしか聞こえないぞ、それ」

「…皮肉…か……」

 

 遊矢の発言に零児はぼそりと呟くように零す。何か引っ掛かる言い方に遊矢は小首を傾げるも、おそらくは拡張し過ぎて維持費等がかかり、思いの外出費が痛くて悩ませているのだろうと結論づけた。

 実際に柚子の父親も塾生の為になると余計な出費をしては、柚子からハリセンを受けていたものだ。それが大企業のトップともなれば、その心労は比較することもおこがましいだろう。

 

「…零児も大変なんだな……」

「……?」

 

 優しげな眼差しを向ける遊矢に対し、零児は頭上に疑問符を浮かべる。一体何に対して大変と言っているのか――かろうじて、零児を労わってくれている発言であることは理解できるが、本当に大変なのかこれからだということに零児はため息を零す。

 この先の目的地――否、目的の人物との再会に遊矢がどんな反応を見せるのか。

 

 

 

 

 

― ― ― ― ― ― ― ―

 

 

 

 

 

「ここだ」

「ここだ――って、ただのデュエル場じゃん」

 

 あれから数分後、零児の先導で遊矢は目的地である地下のデュエル場に到着した。照明が点いていないので薄暗いものの、一見してデュエル場と分かる。ついさっきデュエルしたのに、またデュエルをするのかと、遊矢は不満げに零児を見る。

 

「そうだ。デュエル場だ。ただし、アクションフィールドではなく、通常のスタンディングデュエル用のデュエル場だが」

「スタンディング用? というか何でここなんだよ? またデュエルするのか? というか手続きはどうしたんだよ?」

「君にはある人物とデュエルをしてもらいたい」

「質問に答えろよ!!」

 

 どの問いにも答えず、遊矢は声を荒げるが、零児はそれを涼しい顔で流す。

 零児が指を軽く鳴らすと、薄暗かったデュエル場が照明で照らされる。一瞬の眩しさに遊矢は思わず目を瞑り、光に慣れてくると、デュエル場の最奥――相手側のスペースに人が立っていることに気付く。

そしてその人物を見て、遊矢の目が大きく見開いた。

 

 遊矢と同じ学校の女子制服。あの無口そうで無表情っぽい無稽荒唐なデッキを繰る彼女の姿を見て、遊矢は歓喜と驚嘆が混ざった表情になる。

 

「…久しぶり……」

 

 ぶっきらぼうな声色で彼女――龍姫は、そう遊矢に言い放ち、同時に左目で睨む。何故左目でしか見ないか、と言ってもそれは龍姫の装いを一見すればすぐに分かる。

 龍姫の右目に黒い眼帯が着けられていたからだ。

 何故眼帯を着けているか。決してファッションや、14歳がかかる痛い病といった類ではない。右目の周りに酷い怪我を負ったため、その傷跡を隠すために着けている。以前、黒咲隼がLDS狩りをしていた時、その相手をした龍姫が、オーバーキルによるソリッドビジョンのダメージで負った怪我だ。

 当時は記憶の改竄や治療が予想以上に長引き、結局は舞網チャンピオンシップを欠場。一応、バトルロワイヤル時には復帰できていたものの、余計な混乱を抑えるためにデュエルにおける事故という記憶に零児がすり替えた。零児はその処置に僅かばかりの良心が痛んだものの、黒咲と龍姫のデュエルは防ぎようがないものであり、こればかりは仕方のないことだと考えるしかなかったのだ。

 

 龍姫の姿を見て、遊矢は言葉に詰まる。零児からは事故で舞網チャンピオンシップに出場できなかったとしか聞いていない上、次元戦争時はずっとスタンダード次元に居たのだから、全く状況が分からなかったのだ。

 『事故はどうだったのか?』、『元気でやっているか?』等、聞きたいことは山ほどある。だが、突然のことで遊矢は思考が追い付かず、ただ龍姫を見ているだけ。

 そんな遊矢の様子に龍姫は小さくため息を零すと、デュエルディスクを構える。

 

「遊矢、デュエルしよう」

「え――あっ、良いけど…」

 

 遊矢は龍姫から何か不可視の圧力のようなものを感じ取り、やや遅れながらもデュエルディスクを構えた。

 

(話したいことは沢山あるけど、要するにデュエルで語れってことなんだよな? それに次元戦争の最中で成長した俺のデッキがどこまで龍姫を相手にできるか試せる機会だ。今回こそ勝つ!)

 

「さぁ、俺の新生『EM』デッキが龍姫相手にどこまで通用するか試させてもらうぞ!」

「じゃあ私の新生『巨聖魔竜剣姫神』デッキがそれに応える」

「ちょっと待って」

 

 『何?』、と龍姫が不服そうな声をあげるが、遊矢は右手で顔を覆い、項垂れていた。

 『巨聖魔竜剣姫神』――単語の羅列を一聴しただけで、一体何のことを言っているのか遊矢の耳が理解を拒んだ。もしや眼帯を着けた影響で、とうとう14歳が患う病に罹ってしまったのではと危惧してしまうほどに。しかし、龍姫はそれを当然のようにデッキ名で答えた。ならば、各文字がデッキを表しているのだと察することができる。

 

『巨』はどこから来たのか。『巨大戦艦』か?

『聖』はおそらく『聖刻』の『聖』であることは間違いない。

『魔』は何だ? 闇属性のことを表しているのだろうか?

『竜』はどうせドラゴンだろう。

『剣』は不明。戦士族でも入れてあるのかと推察できる程度。

『姫』――これは彼女のエースである《竜姫神サフィラ》だ。

『神』――これも彼女のエースである《竜姫神サフィラ》だ。

 

 半分程度しか判明できず、一体、何がどうなってそんなデッキ名になったのかと、龍姫のデッキを見て――唖然とする。デッキ枚数が通常のデュエリストのデッキと比較し、一見すると1.5倍。およそ60枚デッキになっているではないか。以前は45枚前後と、やや多い程度にしか思わなかったが、一体何をどうしたら60枚デッキになるのだ。色んな要素を詰め込み過ぎたのではないかと、遊矢は不安な眼差しを龍姫とその肥大化したデッキに向ける。

 当の龍姫はその視線が自分と、自身のデッキに向けられていることに気付くと、思い出したように口を開いた。

 

「デッキ枚数が多く見えるかもしれないけど、デュエルする分には全く問題ない。むしろ60枚のデッキでなければ新しいカードが入らないし、既存と新規を混成した結果、こうなっただけ」

「……それでデッキが回せるのか?」

「……これでデッキが回せないの?」

 

 なるほど、この問答は平行線であり、全くの無意味だと遊矢は瞬時に察する。一般的な思考の持ち主であれば、デッキの枚数は多ければ多いほど必要なカードを引く確率が低くなるため、可能な限り最低枚数である40枚にするものだ。しかし、それを60枚でもデッキを回せると龍姫が言い切る以上、できるのだろう。そのドロー力とタクティクスには、これからのデュエルで確認すれば良い。

 

「――ごめん、ちょっとビックリしただけ。それじゃあ、始めよう!」

「……? よろしく」

 

 デュエルディスクを起動させ、互いにデッキからカードを5枚引く。ソリッドビジョンで両者の情報、LPが表示され、先攻・後攻が決定した。

 デュエルの準備が整い、互いの双眸が交差する。

 

「「デュエル!!」」

 

 

 

 

 

― ― ― ― ― ― ― ―

 

 

 

 

 

「私の先攻。手札から≪聖刻龍-ドラゴンゲイヴ≫を召喚。次いで≪ドラゴンゲイヴ≫をリリースし、手札から≪聖刻龍-ネフテドラゴン≫を特殊召喚。このカードは場の『聖刻』モンスターをリリースすることで手札から特殊召喚することができる。さらにリリースされた≪ドラゴンゲイヴ≫のモンスター効果発動。このカードがリリースされた時、手札・デッキ・墓地から『聖刻』通常モンスター1体を特殊召喚する。私はデッキから≪神龍の聖刻印≫を特殊召喚」

 

 先ずは基本的な動き、と言わんばかりに龍姫は手札・デッキから愛用の『聖刻』モンスターを展開する。場にはレベル5の≪ネフテドラゴン≫、レベル8の≪神龍の聖刻印≫、手札は3枚。

 場に出すモンスターが同じレベルであればエクシーズ召喚、チューナーが居ればシンクロ召喚等、適宜その状況に応じたモンスターを出すのだろうが、場には同じレベルでもなければ、チューナーも居ない。また、既に通常召喚権も使用しているので、残った手札3枚から出せる手は限られて来るだろうと遊矢は推察する。おそらく、あとはエースモンスターを儀式召喚し、エクシーズかシンクロをして終わりだろうと――。

 

「私は≪神龍の聖刻印≫をリリースし、魔法カード≪アドバンスドロー≫を発動し――チェーンして手札を全て捨て、速攻魔法≪連続魔法≫を発動する。≪アドバンスドロー≫は場のレベル8以上のモンスターをリリースしてデッキからカードを2枚ドローし、発動した通常魔法にチェーン発動することで≪連続魔法≫はその効果をコピーする。よって私はデッキから4枚ドローする」

(…………あれ?)

 

 ――思っていた矢先に手札増強カード。場のモンスターこそ1体減ったものの、龍姫の手札は3枚から4枚へ。場のモンスターを手札に変えただけだから、実質カード・アドバンテージは変わらない、できることと言っても、あとは≪ネフテドラゴン≫をリリースして、エクシーズかシンクロに繋げるしか手はないハズ――。

 

「私は手札から魔法カード≪闇の量産工場≫を発動。墓地の通常モンスター2体を手札に加える。私は墓地≪神龍の聖刻印≫と≪連続魔法≫で捨てた≪ガード・オブ・フレムベル≫を回収。この2枚をそれぞれ、魔法カード≪トレード・イン≫と≪調和の宝札≫の手札コストとして捨て、手札を4枚入れ替える」

 

 ――おかしい、4枚だった手札が5枚になり、手札入替カードによって情報アドバンテージも消された。しかも場には未だ≪ネフテドラゴン≫も顕在のため、カード・アドバンテージとしては+1枚だ。これはまさか初ターンから一気に来るのではと、遊矢はやや緩んでいた気を引き締める。

 

「手札から魔法カード≪儀式の下準備≫を発動。デッキから儀式魔法1枚を選び、そのカードに記された儀式モンスター1体をデッキ・墓地から手札に加える。私はデッキから≪祝祷の聖歌≫を選び、これと≪竜姫神サフィラ≫をデッキから手札に」

(…………ん?)

 

 何やらシンプルな強さのパワーカードを発動され、いつの間にか龍姫の手札は6枚になっていることに遊矢は不穏な空気を感じた。場にはモンスターが1体、手札は6枚――後攻1ドローよりも圧倒的にカード・アドバンテージを得ている。

 

(いや、待て、大丈夫。儀式召喚には最低でもカードを3枚使うし、融合も最低3枚、シンクロは2枚、エクシーズは2枚――合計10枚も使う訳なんだから、流石にこのターンでそんな零児みたいなことはしないハズだ! ……しないよな?)

 

「手札から儀式魔法≪祝祷の聖歌≫を発動。手札・場から儀式召喚に必要なレベル分、モンスターをリリースし、≪竜姫神サフィラ≫を儀式召喚する。私はレベル6以上になるように手札のレベル5、≪聖刻龍-アセトドラゴン≫と、場のレベル5、≪聖刻龍-ネフテドラゴン≫をリリース――祝福の祈りを奏で、聖なる歌で光を導け! 儀式召喚! 光臨せよ、《竜姫神サフィラ》!」

 

 天から6本の光が六角形の角を描く形で矢のように龍姫のフィールドを囲い、その中央に一際巨大な光柱が降り注ぐ。光柱から全身がサファイアブルーの鱗で覆われ、背から天使を連想させる翼を生やし、体の各所に金色の装飾を纏った竜人がフィールドに降臨する。

 

「出たな、龍姫のエースモンスター…!」

 

 自身の≪オッドアイズ・ペンンデュラム・ドラゴン≫と同様、デュエル中は必ず1度は場に出るエースモンスターの出現に遊矢は身構えた。≪サフィラ≫自体に戦闘力こそはないが、ドロー・ハンデス・サルベージと、3種のアドバンテージに富んだ非常に厄介なドラゴンだ。デュエルが長引けば長引くほどアドバンテージの差は開いていく。可能であるなら、早めに対処はしておきたい――。

 

「リリースされた≪アセトドラゴン≫と≪ネフテドラゴン≫のモンスター効果発動。自身がリリースされた時、手札・デッキ・墓地からドラゴン族・通常モンスターを攻守0にして特殊召喚する。私はデッキからドラゴン族・通常――」

 

 ――しかし、ここで輪を掛けて厄介なのがリリースされた『聖刻』モンスターの効果だ。リリースされることで、あらゆる場所からドラゴン族・通常モンスターを攻守0にして呼び出す展開効果。融合・シンクロ・エクシーズ、各召喚の素材に使えるこの効果はシンプルだが強力――否、シンプルだからこそ強力なのだろう。これが龍姫のエースである儀式モンスター≪竜姫神サフィラ≫との相性が異常なまで良い。現に今も、リリースされたドラゴン族・通常――。

 

「――ペンデュラムモンスターの≪竜剣士マスターP≫と≪竜魔王ベクターP≫を攻守0にして特殊召喚する」

「――っ!? ペンデュラムの通常モンスターだって!?」

 

 ――ペンデュラムモンスターをも場に出せるのだ。

 突然のペンデュラムモンスターの登場に遊矢は目を見開く。何故ペンデュラムモンスターを龍姫が、と思うも、龍姫はLDS所属。沢渡や月影のように提供された可能性は十分にある。ただ、それがまるで龍姫に合わせたかのように通常モンスターになっただけの話。

 しかし、通常モンスターになっただけと考えても、遊矢の頬を冷や汗が伝う。リリースされた『聖刻』モンスターの効果により、疑似デッキからのペンデュラム召喚。さらにこのターンの間にエクストラデッキに送る手段があれば、通常のペンデュラム召喚で場に再度展開できる。

 

 恐ろしい。おそらく、既存の『聖刻』にペンデュラムモンスターをさらに足した結果があの60枚デッキになったのだろうと、遊矢はやっとそこで龍姫のデッキ枚数の多さを理解した。もしも、あれにさらにペンデュラムモンスターが複数枚積まれているとしたら、半ば不死身のドラゴンデッキだ。下手をすれば、毎ターン融合・シンクロ・エクシーズ召喚されても不思議ではない。

 遊矢が以降の展開を危惧していた最中、龍姫はデュエルディスクのエクストラデッキから1枚の融合モンスターカードを取り出し、それを遊矢に見えるように掲げる。

 

「このカードは私の場の『竜剣士』ペンデュラムモンスターとペンデュラムモンスターをリリースすることで特殊召喚することができる――私は場の≪マスターP≫と≪ベクターP≫をリリース――竜剣よ、瀑流を纏い、剛勇を示せ! 融合召喚! 降臨せよ、≪剛竜剣士ダイナスターP≫!」

「ペンデュラム融合っ…!」

 

 続け様に、とでも言うように難なく≪融合≫カードなしで融合モンスターを場に出す龍姫。先ほどの儀式召喚から続けてモンスターを4体リリースしているにも関わらず、未だ龍姫の手札は3枚。最早ここまで来ると通常召喚権がなくとも、シンクロかエクシーズまで出されるのではないかと、遊矢は身構える。

 

「私は手札からスケール2の≪魔装戦士ドラゴディウス≫と、スケール7の≪魔装戦士ドラゴノックス≫でペンデュラムスケールをセッティング! 揺れろ竜魂のペンデュラム! この身より夢現から解き放たれよ! ペンデュラム召喚! 現出せよ!エクストラデッキよりレベル4の≪竜剣士マスターP≫! ≪竜魔王ベクターP≫! 手札からレベル4の≪竜剣士ラスターP≫!」

「今度は普通のペンデュラム召喚っ…!」

 

 龍姫の場の両端に青柱が現れ、その中に白と黒の戦士が佇む。息つく間もなく、天上からは先程エクストラデッキに送られた2体に加え、最後に残っていた手札からも1体――計3体のドラゴンが龍姫の場に姿を現す。

 先攻1ターン目からモンスターゾーンを全て埋めたことに遊矢は戦々恐々とするも、龍姫がこれで終わるとも思っていない。その証拠とばかりに龍姫の場には1体、『チューナー』という不穏なモンスターが居ることを遊矢は理解していた。

 

「私はレベル4の≪ベクターP≫にレベル4チューナーの≪ラスターP≫をチューニング! 竜剣よ、劫火を纏い、全てを爆砕せよ! シンクロ召喚! 招来せよ! ≪爆竜剣士イグニスターP≫!」

「ペンデュラムシンクロっ…!」

 

 次いでシンクロモンスター。場には4体のモンスターが揃ったが、これで龍姫は手札を全て使い切った。いくら何でもここからさらにモンスターを展開することはないだろうと、遊矢が冷や汗を拭おうとした瞬間。

 

「≪イグニスターP≫のモンスター効果発動。1ターンに1度、デッキから『竜剣士』モンスター1体を守備表示で特殊召喚する。私はデッキから2体目の≪竜剣士マスターP≫を守備表示で特殊召喚。この効果で特殊召喚したモンスターはシンクロ素材にできない」

「……シンクロ素材にはできないんだよな?」

「そう。だから――私はレベル4の≪マスターP≫2体でオーバーレイ! 2体のペンデュラムモンスターでオーバーレイネットワークを構築! 轟風を纏い、彼の地より昇天せよ! エクシーズ召喚! 顕現せよ! ≪昇竜剣士マジェスターP≫!」

「やっぱり最後はペンデュラムエクシーズかっ…!」

 

 トドメとばかりのエクシーズモンスター。これで龍姫の場には4体のドラゴンが揃った。

    儀式モンスター、攻撃力2500の≪竜姫神サフィラ≫

    融合モンスター、守備力2950の≪剛竜剣士ダイナスターP≫

  シンクロモンスター、攻撃力2850の≪爆竜剣士イグニスターP≫

 エクシーズモンスター、守備力2200の≪昇竜剣士マジェスターP≫

 

 幸いと言うべきか、攻守どちらかが3000を超える高ステータスのモンスターは居ない。また、遊矢のデッキであればユート、ユーゴ、ユーリから継がれたドラゴンが居る。四天の龍さえ出せれば龍姫のフィールドを一掃とまではいかずとも、半壊程度にすることはできるハズだと、遊矢は気持ちを落ち着かせて龍姫の場と、彼女を見る。

 

「………………」

(……何考えてるか相変わらず分からないな…)

 

 一見すると無表情だが、龍姫は龍姫で内心は『儀式・融合・シンクロ・エクシーズ・ペンデュラム召喚のコンプリートできた』とドヤっている。

 しかし、そんな内心など読めるハズもない遊矢は先程ぬぐいかけた頬の汗を腕で拭い、改めて龍姫に視線を向ける。

 

「流石だな龍姫。でもまだ終わりじゃないんだろ?」

「……ご明察。私はターンの終わりにモンスター効果を発動する」

 

 そうそう、いつものターンの終わりに≪サフィラ≫の効果でドローして、手札補充をするんだよなぁ、と遊矢はいつものパターンを待っていた――。

 

「私は≪昇竜剣士マジェスターP≫のモンスター効果発動。このカードがエクシーズ召喚に成功したターンの終わりにデッキからペンデュラムモンスター1体を手札に加える」

「……ん?」

「私はデッキからレベル8のペンデュラムモンスターの≪アモルファージ・イリテュム≫を手札に加える」

 

 ――しかし、いつもとやや異なる処理に遊矢が不安に思っていた最中――。

 

「次いで≪サフィラ≫のモンスター効果発動。儀式召喚に成功したターン、または手札・デッキから光属性が墓地に送られたターンの終わりに3つの効果から1つを選択して発動。私はデッキから2枚ドローし、1枚捨てる効果を選択。私はデッキからカードを2枚ドローし、1枚捨てる」

「……まだ何かやるよな?」

「当然。私は手札から捨てた≪コドモドラゴン≫のモンスター効果発動。このターンのバトルを放棄することで、手札からドラゴン1体を特殊召喚する――侵食し、浸食し、深食せよ! 現出せよ! ≪アモルファージ・イリテュム≫!」

「最後の最後にペンデュラムからのペンデュラムかよっ!?」

 

 空いていたモンスターゾーンに龍姫は(他人が見たら分からないが)恍惚とした表情で残った手札の2枚の内の1枚をセットする。これで龍姫の場には計5体のモンスター――儀式・融合・シンクロ・エクシーズ・ペンデュラム、しかも全てドラゴン族であり、かつ属性が全て異なる盤面を完成させた。

 

「あぁ、それから最後に速攻魔法≪超再生能力≫を発動。このターン、私はリリース、もしくは手札から捨てたドラゴン1回につき1枚ドローする」

「――何枚ドローするんだ?」

「先ず≪神龍の聖刻印≫を1回リリース、1回捨て小計2回。≪ガード・オブ・フレムベル≫を2回捨て、小計4回。≪ドラゴンゲイヴ≫、≪アセトドラゴン≫、≪ネフテドラゴン≫、≪マスターP≫、≪ベクターP≫をリリースして小計9回。≪コドモドラゴン≫を捨てて――合計10枚ドロー」

「多過ぎだろっ!?」

「手札枚数制限で4枚捨てるから――あっ、捨てた内の1枚の≪エクリプス・ワイバーン≫の効果でデッキからレベル7以上の光か闇のドラゴン1体をデッキから除外。私はデッキから≪巨神竜フェルグラント≫を除外してターンエンド……あぁ、それと言い忘れていたけど、≪ダイナスターP≫が居る限り私のペンデュラムモンスターとペンデュラムゾーンのカードは破壊されず、≪イリテュム≫が居る限りエクストラデッキからモンスターを特殊召喚できず、≪ディウス≫のペンデュラム効果で手札1枚をコストに戦闘する相手モンスターの攻撃力を半減させ、≪ノックス≫のペンデュラム効果でバトルフェイズを終了する効果があるから」

「ん? んん~?」

 

 (他人から見たら分からないが)龍姫はやり切った、という風に(小さな)胸を張ってドヤ顔を決める。相対する遊矢からしてみればラスボスが初手から奥義を放ってきたようなこの光景に軽く引いていた。

 

 結果的には――

    儀式モンスター、攻撃力2500の≪竜姫神サフィラ≫

    融合モンスター、守備力2950の≪剛竜剣士ダイナスターP≫

  シンクロモンスター、攻撃力2850の≪爆竜剣士イグニスターP≫

 エクシーズモンスター、守備力2200の≪昇竜剣士マジェスターP≫

ペンデュラムモンスター、攻撃力2750の≪アモルファージ・イリテュム≫

 右のペンデュラムスケールに≪魔装戦士ドラゴディウス≫

 左のペンデュラムスケールに≪魔装戦士ドラゴノックス≫

 ――という盤面。

 

 しかも先の龍姫の説明を聞く限りでは、エクストラデッキから特殊召喚するには≪イリテュム≫をフィールドから離す必要がある。その≪イリテュム≫は≪ダイナスターP≫の効果で現状は破壊できない。≪ダイナスターP≫を狙うにはペンデュラムモンスターの≪ディウス≫と≪ノックス≫の効果を回避しなくてならず、≪ディウス≫と≪ノックス≫も≪ダイナスターP≫の効果で破壊できない。

 つまり、エクストラデッキのモンスターに頼らず、≪ディウス≫と≪ノックス≫の効果を回避しつつ、≪ダイナスターP≫を倒した後に≪イリテュム≫を破壊しなければエクストラデッキから特殊召喚ができないという訳かと、遊矢は状況を整理した。

 

(……これ、零児の超死偉王3体よりもキツくないか…?)

 

 率直にそう思い、ふと静観していた零児の方へと目を向ける。

 すると視線に気づいた零児は眼鏡を1度軽く上げ、マフラーをなびかせながら口を開いた――

 

「さぁ遊矢! 彼女の最強のポートフォリオにどう立ち向かう! ちなみに私は3ターン保ったぞ!」

「負けてるんじゃないか!!」

 

 

 




感想欄でオリ主はドラゴン族のペンデュラムを何使うんだろ的なことを頂きまして、魔装戦士や竜剣士やアモルファージが候補に上がりました。
どうせなので全部入れました。

あと当然ですが、この動きはマスタールール3でだからこそできるもので、新マスタールールではルール上できません。
新マスタールール版はその内徒然の方に投稿します。


次回ネタバレ
???「猿ゥっ!」

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