羅旋 -RAZEN- 〜双極ノ剣〜 作:さぼてんmark.2
古来より、人々は闇を恐れた。
人の邪心に付け込み、その魂と肉体を喰らう魔獣"ホラー"。
それを狩り人を守りし者、"魔戒騎士"。
今宵もまた、とある騎士の物語が綴られる…
哀 悼
--とあるアパートの一室に、男が一人。
それだけなら取るに足らない光景であるが、決してそうでは無かった。
何故なら--男は全ての明かりを消した暗闇の中に佇んでいたためである。
一点に視線を集めたまま立ち尽くし、壊れたテープレコーダーめいて繰り返し呟き続けるのみである。
さて、彼は一体何を見つめているのであろうか。
その答えは--写真立てであった。
そこには、仲睦まじい父娘の姿が写し取られている。
二度と戻ることのない愛しき時間がーーそこには収められていた。
暫くして男は写真立てを両の手で強く握り締めると、膝からくず落ちた。
「アァ…アァゥ…ッ!」
そして嗚咽を漏らしながら、体を震わせてうずくまる彼。
そうーー彼はつい最近、大切なものを失ったのだ。
この世に一人だけの、大切な一人娘を。
その犯人はーーその場で銃弾に倒れ、もはやいない。
他ならぬ彼がーー娘の仇を討ったのだ。
しかしある意味での復讐を成し遂げて尚、彼の心が満たされることはなかった。
それどころか、虚な心と憎悪の念は、日を追うにつれて増大してゆくばかりであった。
憎い。
憎い。
憎い。
この世に蔓延る全ての悪が憎い。
「力が欲しいか?」
そんな彼の情念がーー今この場に、悪魔を呼び寄せた。
どこからともなく聞こえたその声に背を振るわせ、辺りを見回す男。
そして、彼は静かに頷いた。
「ならば…我に身と魂を委ねよ!」
瞬間、男と悪魔はひとつとなった。
※※
そして幾許かの日が経った頃。
一件の茶屋を、黒衣を纏った白髪の男が訪れた。
従業員は会釈をすると、彼を席へと通す。
そうして注文がなされるよりも早く、一杯の茶と茶菓子を差し出した。
男は一瞥すると、茶菓子の包装を丁寧に剥がしてゆく。
広げられたそれには、何やら文字が刻まれているではないか。
男は眉間に皺を寄せ、ため息をつく。
何故ならこれは、面倒な仕事の始まりを告げる報せであったためだ。
「…邪悪を喰らう邪悪、出現せり。今宵その魔獣を殲滅せよ、か」
「左様でございます」
「悪人喰いのホラーとはな…寝覚めが悪くて苦手なんだがな」
「そうおっしゃらず」
「わかってるさ、言ってみただけだ」
男は菓子を食べ、茶をぐい、と飲み干すと席を立つ。
そしてその左中指に嵌められた単眼の人面めいた指輪に声をかける。
「行くぞソルバ、仕事の時間だ」
「もう少し寝ていたかったなぁ…残念」
大人しそうな男の声で返すソルバ、と呼ばれた指輪。
男はそんな彼へと言う。
「仕方ないだろう、これも俺達の使命だ」
「わかってるよ緋影<<ひかげ>>、言ってみただけ」
緋影とソルバという名の二人組は、そう言い合いながら茶屋を後にしたーー