羅旋 -RAZEN- 〜双極ノ剣〜   作:さぼてんmark.2

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哀 悼 ②

草木も眠る丑三の刻。

すっかり明かりも消え去った街を闊歩するは、酔った若者達。

酒が回り気分が大きくなった彼等は、自身の力を誇示すべくーー獲物を求めていた。

そしてしばらくすると、向こう正面から残業帰りの会社員が歩いてきた。

若者達は嬉々として群がり、囲み、棒で叩く。

まさに末法とも言えるこの所業。

彼等は血に染まるアスファルトには目もくれず、金を巻き上げて歓喜の声をあげているではないか。

そんな様子の若者達は気づかなかったーー

 

「何だおめぇ、文句でもあんのかぁ!?」

 

己が身にも、死が近づいているということに。

 

若者のうちの一人の肩を叩いたのは、警官風の男。

 

「マッポがなんだオラァ!」

「やっちまえーッ!」

こちらは五人。あちらは一人。まさに多勢に無勢。負ける理由などありはしないーー

 

「いいい嫌だぁ!死にたくないっ!」

 

ほんの数秒前まで、彼等はそう思っていた。

男の掲げる天秤には、泡のような球体に閉じ込められ悲鳴を上げる若者達の姿が。

そして、裁きが下される。

一方の皿がーー若者達が閉じ込められた皿に天秤がふれたその瞬間、彼等は絶叫を上げながらぱかりと開いた男の口へと吸い込まれていった。

男は舌舐めずりをして余韻を楽しむと、またフラフラと歩き出す。

しかしそこに、またしても人影が現れた。

 

「ホラー如きが裁定者気取りか?笑わせる」

 

男の背後からかけられた失笑混じりの声。

それに反応し、男は振り向いた。

目の前にいたのは、白髪に黒衣を纏いし男ーーその手には、短刀が握られている。

 

「魔戒騎士、か…!」

「お見知り置きどうも、それじゃあもういいな?斬られてもらうぞ」

 

魔戒騎士はーー緋影は剣を逆手に持ち直すと、腰を落として低く構え、指を招くように動かして挑発する。

「舐めた真似を!ならばあえて乗せられてやろうではないか!」

男はーーホラーは言い放つと、怒り勇んで駆け出した。

そして右の腕による拳撃が放たれる!

緋影はフッと笑うと、半身になる形でそれを躱す。

攻撃を空振り、体勢を崩したホラー。

「イイヤァッ!」

腕を振り抜き空いた腹目掛け、緋影の回し蹴りが放たれる!

「ヌゥッ!」

直撃!呻きとともに後ずさるホラー。

その隙を逃さず、緋影は剣の柄を前に突き出し殴りつける。

寸前のところで両の手を構え、防御するホラー。

組み合う形となった両者。

しばらくの力比べの後、緋影の面頬の中に隠された口がニヤリと笑った。

瞬間!

「グォアッ!?」

火薬の弾ける音と共に、ホラーが悲鳴を上げた!

己の腹部を見やり、続いて緋影の方へと視点を戻す。

彼の手に握られているのはーー先端から煙を吹く魔導銃であった。

 

「魔戒騎士ともあろうものがそんな物に頼るとは…」

「いいだろう?技術の革新って奴さ。俺は色々作るし試す…貴様らホラーを狩るためならな!」

 

「小癪な!」

叫びとともに、男の目が怪しく輝く。

衣服がーー否、人としての肉体が弾け飛び、異形が姿を現した。

 

「あいつの名はホラー、リブラルク!重力を操る力に気をつけて!」

緋影の左中指に嵌められた魔導輪、ソルバが警告を発する。

 

「重力か…厄介な」

小さくため息をつくと、緋影は牽制の魔導銃を撃ち放つ。

しかしリブラルクが手を翳すや否や、銃弾は地に叩き落とされてしまった。

 

「やはり遠距離戦はできんか…ならば」

緋影は身を更に低く落とし、リブラルク向かって駆け出した。

左右に大きく動き、出来るだけ相手の気を逸らしつつ接近する。

そして壁を蹴り、跳躍。

身を回転させて頭上を飛び越し、背後を取る。

そして再び壁を蹴り、魔戒剣を構えつつ加速。

 

しかし、一手遅い。

「ぐっ!」

リブラルクは素早く反応し、振り向いて緋影をその能力で吹き飛ばした!

積み上げられたダンボール箱の山に突っ込み、埋もれる緋影。

頭に落ちてきたオレンジをむさぼりつつ、彼は思う。

 

(今、何故振り向いた?)

 

と。

 

重力を操る能力ーーその力は直接目にして確かめた。

だがそれ故に、納得がいかなかったのだ。

奴は背後からの奇襲に対し、わざわざこちらの方を向いて能力を用いた。

ならばーー緋影の中で、一つの仮説が産まれる。

 

「もう終わりか魔戒騎士?大口を叩いた割には大したこと無いな?」

 

箱の山に埋もれたまま動きのない緋影に、勝ち誇った様子のリブラルク。

しかしその時ーー

 

「ム!」

 

その隙間から、突如として何かが投げ放たれた!

手を翳し、迎撃するリブラルク。

金属音を立てて地に落ちたそれは、手裏剣めいた暗器ーー円参。

 

「まだ生きてるか、しぶとい奴だ!」

 

緋影の生存を確信した彼は、両肩に備えられた天秤を輝かせ、光弾を山へ向かって撃ち放つ。

KABOOM!

そう表現すべき巨大な爆発が辺りを照らす。

焼け落ちる箱と荷。しかし、肝心の魔戒騎士の姿がどこにも見当たらないではないか。

一体どこへ?

リブラルクが頭を動かし、探す。

その時である!

 

「ヌ、ヌゥッ!?」

がちゃり、という金属音と共に、己の背に鋭いものが突き刺さる感覚を覚えたリブラルク。

見やると、そこには刃とーーそこから伸びるワイヤーがあるではないか。

 

「なっ…!?」

 

そして、彼は目を見開いた。

なんと、そのワイヤーの先にはーー

己を見据える鋭い眼光が。

赤黒い鎧の魔戒騎士が、目にも止まらぬ速度でこちらへ向かってきているではないか!

 

「やはり貴様が力を使えるのは正面だけのようだな!イイイヤーッ!」

「グォアアーッ!」

 

一太刀!

リブラルクの背に深々と突き刺さる剣!

「ガッ…ウゥォ…ッ!」

痛みに呻くリブラルク。

しかし緋影はーー双極騎士・羅旋<<ラゼン>>は、

 

「ま だ だ !!」

 

もう一本の剣をーー蒼い柄をした魔戒剣を取り出すと、勢いよくリブラルクの背へ突き立てた!

 

「この剣が…弟が哭いている…!貴様らホラーを全て斬れと!」

「な、何を…!?」

「貴様は裁定者の真似事をしていたな?ならばこの俺が貴様の罪を推し量ってやろう」

剣を突き立てたまま動かし、傷口を抉る羅旋。

そして背を蹴り飛ばし剣を引き抜くと、倒れ込んだリブラルクの前に立ち、月夜を背にその瞳を輝かせる。

 

「貴様らホラーは…全て大罪人!死、あるのみだ…ッ!」

 

天高く交差させた剣が、振り下ろされる。

正面を向くよりも早く放たれた剣撃は、リブラルクを深々と切り裂きーー討滅せしめた。

 

そして間も無く一人となった緋影。

鎧を返還し、立ち尽くす。

そしてーー

 

「はは…ハハハ!見ているか蒼陽<<そうひ>>よ!我が弟よ!俺はまた…お前の仇を討った!」

 

「ハハハハ…ハハハハハハッ…!」

 

半ば狂ったような高笑いが、夜の街に響き渡る。

 

「緋影…」

そんな姿をーーソルバはただ見つめることしかできなかったーー




過去を振り返り、誇りに思う。
飾られた勲章は、己の生きた証。
しかしそれは果たして誇るべきものなのか?
次回、『杵柄』!
錆びついたのは刃か?それとも君の魂か?
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