PrecureStageON!   作:主氏レム

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今週は3連休らしいので、明日も更新するかも


第7話:響き合え!ベストマッチなキュアウェポン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いち、にの……っ、さーぁぁぁんっ!」

 

 

 

 『スイートプリキュア♪』の世界。調べの館付近での出来事。

 

 『3』の掛け声とともに欠片の拳に対して振り上げられたのは、黒い光のリングで拘束された二人の脚。欠片の拳はリングとぶつかり、何をしても外れなかったそれを破壊したのだ。その衝撃か反動か、欠片は後ろに吹き飛ばされてしまう。

 今まで黒い光のリングによって拘束されていた二人は、ようやく自由を得ることになった。

 

 

 

「リングが外れた!!」

「やったね!わわわっ」

 

 

 

 巡は拘束されていた片脚を上げたまま喜んでいたために響という支えを失い後ろによろめき座り込む。闇の使者であるダークネスメロディを追いかけて長い時間走り続けていたためか、呼吸が荒い。

 

 

 

「ま、まさかネガトーンを使って外したなんて……」

「まあ本当にできるかどうかは賭けだったんだけども。響ちゃんが信じてくれてよかった」

「兎にも角にも追いついたんだから、私のキュアモジューレを返してくれる?」

 

 

 

 せっかく大幅に行動制限できると思っていたのに克服された上に自ら解放されたことに驚きを隠せないダークネスメロディ。その手にはまだ、響のキュアモジューレが握られている。

 

 

 

「……こんな状況でよく言えるよね。ここにはネガトーンもいるし、さっきみたいにミュージックロンドで動きを封じることだってできるのに」

「……!」

『巡ちゃん!響ちゃん!』

「響ちゃん下がってて。ここはあたしが……」

 

 

 

 巡が対するのは、ダークネスメロディとネガトーンの形をとったネオフュージョンの欠片。一人で二人分の相手をしなければならない。

 奏達がこの場所にいることに気づいてくれればいいのだが、気づいたところで響はアイテムを向こうに取られているため、ビートとミューズは揃っても、響と奏は取り返すまでは参戦できない。

 

 果たして巡は、この状況を打破できるのだろうか。一瞬の隙をついて変身するしかない。そう感じてステフォンを後ろ手に構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第7話:響き合え!ベストマッチなキュアウェポン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 巡が一歩、ステフォンを構えて踏み出した。それは、そんな矢先で起きた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────ひーびき?」

「わーーーっ!?!?」

 

 

 

 誰かしらに背後から突然話しかけられて、ダークネスメロディが大声を上げて驚く。巡たちには聞こえないほどの小声だったようで、向こうから見れば一体何が起きたか何もわからない。

 振り上げた手は緩み、キュアモジューレが手元から離れていく。

 

 

 

「あっ、しまっ?!」

『キャッチ!!』

 

 

 

 ダークネスメロディの手元から離れてしまったそれは、ステフォンから飛び出したプロトラブリーが掴み取り、響の方に投げ渡される。

 

 

 

「……っ!ありがとう、ラブリー!」

「今の一瞬で何が起きたし」

「ま、間に合ったみたいでよかったわ……」

 

 

 

 一体この数秒で何があったのかと巡が混乱していると、ダークネスメロディの背後に立っていたであろう人物────南野奏が一歩前に出る。

 

 

 

「奏!」

「いつからそこにいたの…?」

「響たちがここに向かってるのを見て、私も頑張って追いかけたのよ……エレンやアコちゃん達にも知らせたから、すぐに来るわ……」

 

 

 

 運動はさほど得意な方ではないのか、奏は若干息を切らしつつすまし顔でそう言い切る。どこかですれ違っていたのだろう。もし町の方だったとすれば、相当頑張って追いつこうとしたのだろう。

 

 

 

「……そっちの響は、後ろに私がいることにも気づけないほどの鈍感になっちゃったのかしら?」

「な、な、なんですって!?」

 

 

 

 響達の方へ向かう最中、奏は煽るように言い残す。その言葉にダークネスメロディは声を荒げる。ほんの少しだけ楽しそうに見えるのは気のせいだろうか。

 こちらに戻ってきた奏は、さっきまでのすまし顔はどこへやら、相当疲れた様子をあらわにする。

 

 

 

「奏ちゃん、めっちゃ息切らしてるね……」

「二人してあんな距離爆走して、なんで平気な顔してるのよ……」

「お、お疲れ奏……だ、大丈夫?」

「な、なんとか私は大丈夫よ……それよりも」

 

 

 

 と、ダークネスメロディの方を向く。こちらを敵視している紅い眼に、わずかに憂いが帯びているように見えた気がした。まるで、こちらの響に対して何かしらの羨望のような……。

 

 

 

「……話は終わった?その様子じゃ、ステフォンを渡してくれる感じじゃなさそうだけど」

「わ、渡さないよ。ラブリーが嫌って言ってるのに。というか、そっちだって引き下がらないじゃん」

「別に私も、戦いたくてやってるわけじゃない。あなたが素直に渡してくれればいいものを……!」

『ネガトーォォン!!』

 

 

 

 ダークネスメロディの言葉に同調する声をあげる怪物。ほぼ脅しに近いことを言われても、巡の意思は変わらない。

 

 

 

「巡ちゃんが困ってるのに無理やり渡せだなんて、穏やかじゃないわね」

「あのネガトーンも放って置けないし、向こうもやる気満々っぽいし……」

「二人とも……手伝ってくれない?」

「「もちろん!」」

 

 

 

 二人の手にはあのハート型のキュアモジューレが握られていた。

 

 

 

 

 

『レッツプレイ!プリキュア・モジュレーションッ!!』

「コンプリート・ステージONッ!」

 

 

 

 光に包まれた彼女達の姿が、プリキュアの姿へと変わっていく。

 

 

 

 

 

「爪弾くは荒ぶる調べ!キュアメロディ!」

「爪弾くはたおやかな調べ!キュアリズム!」

 

 

 

「現となりし、12の魂!キュアコンプリート!」

 

 

 

「……うん。プリキュア側のピンク率が意外と高い」

『あっ、そっち?!』

『そっちに突っ込むとは……』

『ネガトーンッ!!』

 

 

 

 今回はまだ二人揃っていないので決め台詞云々への悩みはしなかったものの、相変わらずともいうべきかお決まりのパターンというべきか、斜め上のコンプリートの言葉にプロトキュア達がずっこける。

 そんなことはどうでもいいらしく、ネガトーンの姿をしたネオフュージョンの欠片は、メロディとリズムを狙って襲い掛かろうとする。

 

 

 

「リズム!」

「ええ!」

『ネガッ!?』

 

 

 

 二人の動きをバラバラにさせようと怪物は暴れるが、メロディとリズムの息の合ったステップで、軽々と避けられてしまう。怪物も負けていられず、両手を組んで二人が立つ地面めがけて大きく振り落とす。地面は大きく凹んでしまうものの、その場所には標的がいない。

 

 

 

「「プリキュア・スイートハーモニーキックッ!!」」

 

 

 

 いつの間にか上に跳んでいたメロディとリズムのダブルキックが、怪物の頭上に振り落とされ、怪物は大きくよろけてしまう。

 

 

 

「決まったね!」

「けど、まだまだよ!」

 

 

 

 怪物はよろけるもののすぐに立ち直り、二人を狙おうと再び攻撃を仕掛けようとする。

 

 

 

「あそこにいるのは!」

「やっぱり……!」

 

 

 

 

 

『レッツプレイ!プリキュア・モジュレーションッ!!』

 

 

 

 どこからかエレンとアコの声が聞こえ、光が満ちた先から二人のプリキュアが乱入してくる。彼女達はメロディとリズムに迫りそうだった怪物の拳を蹴りで弾き飛ばす。

 

 

 

 

 

「爪弾くは魂の調べ!キュアビート!」

「爪弾くは女神の調べ!キュアミューズ!」

 

 

 

「ビート!ミューズ!来てくれたのね!」

「遅くなってごめん!」

「でも、ちょうどいいタイミングだったみたい」

「二人がいるなら安心だよ!」

『ネ、ネガ……ッ!?ネ〜ガ〜ッ!!』

 

 

 

 まさかもう二人増えるとは思っていなかったがこれは飛んだ幸運だと、怪物が一歩踏み出す。そんな怪物を前に、4人のプリキュア達は凛々しく立ち向かう。

 

 

 

『届け、4人の組曲!スイートプリキュア!』

 

 

 

 改めてそう名乗り上げ、咆哮を上げ襲い掛かろうとする怪物の方へと駆け出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっきはこの世界の私を巻き込んだけど、今度はコンプリートだけを……!ダークネス・ミュージックロンド!」

 

 

 

 一方のダークネスメロディはコンプリートを捕らえようと、片手に構えたハンドベルのような楽器のようなアイテムで円を描き、それによって作られた黒い光のリングを撃ち出す。コンプリートはそれらを避けていくが、当たればさっきのように体を拘束されて身動きが取れなくなる可能性があるのでかなり慎重だ。

 

 

 

「こ、これじゃあ近づく隙もない、それなら……!」

『CureWeapon!Happy!』

 

 

 

 それならゴリ押すまでだと言いたいのか、ハッピーウィングを装備して上空に逃げる。前のように急降下してぶつかりにいくつもりなのか、桃色の光を纏いながらダークネスメロディの方に飛び掛かる。

 

 

 

「……っ!そっちがそう来るなら、これで決める!」

 

 

 

 と、ダークネスメロディは構えていたハンドベルらしきアイテムを、コンプリートに向けて大きく振り落とす。ベルからは澄んだ大きな音と共に衝撃波が放たれ、飛んでくるコンプリートの翼を大きく煽らせる。

 

 

 

『うわぁ!?近くで聴くとうるさいかも…?!』

「わ、わっ、体勢が……おわっ」

 

 

 

 なんとか体勢を立て直そうとするが、そんな隙を与えられずに二発目の衝撃波を喰らい、コンプリートは地面に叩きつけられるように落ちてしまう。

 落ちたところを狙って衝撃波がさらに何発が迫るが、すぐに翼を戻して転がりながらそれを避ける。コンプリートの方が動きがわずかに鈍っているような気がするのは気のせいだろうか。若干、いつもよりかなり早めに息を切らしている。

 

 

 

「ま、待って……こんな時に言うのもなんだけど……全速力で走って若干動きが鈍ってるかも……」

『えぇ〜!?』

「メロディはメロディでなんであんなに動けてるの……?体育会系との違いってこと???」

 

 

 

 コンプリートは別に運動系というわけではないので、普段から体力作りをしているわけではない。あれはほぼ集中していたからスタミナ切れを意識していなかっただけで、今になってその反動が来ているらしい。

 避け続けた末に手を膝について立ち止まるコンプリートに向けて、ダークネスメロディが放った衝撃波が迫る。コンプリートはなんとか跳んで避け切るものの、三発避けたところでよろけてしまう。

 

 動けない彼女に、衝撃波が数発飛んでくる。

 

 

 

「……っ!」

『危ない!!』

『あっ、ピーチ!』

 

 

 

 

 

『CureWeapon!Peach!』

 

 

 

 ステフォンの音声の後すぐに、目を瞑ったコンプリートの前に壁のような物体が出現して衝撃波が防がれた。

 

 

 

「……ん?」

『だ、大丈夫だった!?』

「なんとか……なるほどそういうこと」

 

 

 

 彼女の前に現れたのは、ハート型の『盾』のような物体。キュアピーチの姿を模したそれによって、コンプリートは衝撃波から守られたようだ。その盾の取手部分を掴み、ゆっくりと立ち上がる。

 これは、攻撃が当たりそうな彼女を助けなければと、ステフォンから飛び出したプロトピーチが変化したものだ。

 

 

 

「『ピーチイージス』って呼べばいいのかな?」

『イージス?』

「ギリシャ語で盾って意味。シールドでもいいけど、そっちの方がなんかスマートでしょ?」

 

 

 

 そんな会話を交わしながら、コンプリートは再びダークネスメロディと向き合う。念の為、ピーチイージスの後ろに隠れながら。

 

 

 

「……それでどうやって戦うつもり?」

「『防御だって最大の攻撃』っていうことも、見せてあげないとね」

「『攻撃は最大の防御』じゃなくって……っ!?」

 

 

 

 そんな煽り合いの中、ダークネスメロディはさっきと同じように、黒い光のリングを数発放つ。放たれたリングはコンプリートを捕まえようと飛んでくるが、標的の彼女はイージスを振り回してそれらを弾き飛ばす。

 

 

 

「こっちがダメなら……!」

 

 

 

 と、またしても音の衝撃波が襲い掛かろうとする。光のリングはともかく、触れられるものではないあれを弾くことはできるのだろうか。

 

 

 

「ピーチ、これも弾ける?」

『あたしに任せて!』

 

 

 

 堂々と宣言するプロトピーチの言葉を信じ、コンプリートは盾を構えて衝撃波を全て受け止める。衝撃に対して後ろに押し出されそうにはなるが、直接食らった時よりも比較的安全に対処できている。

 

 

 

『メロディ!これはお返しだよ!受け止めて!』

「え?」

「え?は?!」

 

 

 

 盾で受け止めた分の衝撃が、光の粒子となって正面に集まり、ハート型のエネルギー弾となる。それは、プロトピーチの声と同時に勢いよく放たれ、ダークネスメロディの方に飛んでいく。倍返しだ。

 おそらく、この前のダークネスピーチがやっていたことの再現だろう。

 

 

 

「ちょ、ちょ、ちょ……っ!?きゃあっ!」

 

 

 エネルギー弾はダークネスメロディがベルを使って物理的に弾き飛ばそうとするが、その威力を相殺しきれずメロディごと吹き飛ばされてしまう。

 

 

 

「おぉ……盾すごい」

『防御だって最大の攻撃っていうこと!?』

『……多分!』

 

 

 

 一方、吹き飛ばされたダークネスメロディは、スイートプリキュアの4人を相手している怪物の頭上に着地する。すぐに体勢を直し、再び立ち上がる。彼女の体から、黒い闇の力が溢れ出す。このままではいられないという強い意志を感じる。

 

 

 

「……まだまだよっ!」

「っ、強い気迫を感じる……!」

「それでも、私たちだって負けない!」

 

 

 

 一人では勝てないと悟ったダークネスメロディは、欠片と一緒に本来のキュアメロディ達ごとコンプリートを相手取るようだ。

 怪物がその腕や脚でプリキュア達を襲う上で、黒いリングや衝撃波を放って彼女達の動きを妨害する。自分たちも呼吸を合わせようとするが、それをすることすら向こうは許してくれない。

 

 

 

「このままじゃ反撃どころか近づけないわ!」

『多分、ダークネスメロディの妨害が止まれば、欠片は浄化できるかも!』

「とにかく上にいる黒いメロディを、ネガトーンの上から下ろさないと!」

「それならあたしが!」

 

『CureWeapon!Happy!』

 

 

 

 再び翼を展開し、コンプリートは上空に舞おうと身構える。さっきは衝撃波に煽られて近づけなかったが、他のプリキュアの力を纏わせれば何かうまくいくかもしれない。何か、何かいい感じの力はないだろうか?

 

 

 

『PowerCharge!Beat!』

「……お?」

 

 

 

 試しにビートの力を纏わせた翼に、青い光が宿る。この前ベリーの力を纏わせた時とは違って形状は変わっていないものの、その時以上に強い光を放っている。

 

 

 

『な、何?何が起きたの?』

「これって……もしかして、”ベストマッチ“ってやつかな」

「べ、ベストマッチ?」

「そ。ビルドでよくあるやつっ」

 

 

 

 地面を蹴って、上空に舞う。纏う光はどんどん強くなる。欠片に向けて急降下すると、光はまるで獲物を狙って飛び掛かる猫のような形をとる。獲物は絶対に逃さないという野良猫のように。

 欠片の上からコンプリートを撃ち落とそうと衝撃波が放たれるが、猫のような俊敏さでそれらは軽やかに避けられていく。

 

 

 

魂震わす黒猫(ホープフルキャットラン)ッ!!」

 

 

 

 今しがた名付けた技名を叫びながら、纏っていた猫のような形をした光を怪物にぶつかる。コンプリート自体は上空に飛んで欠片にぶつかるのを避けている。光は欠片の体に噛みつき、猫パンチをお見舞いし、大ダメージを与える。

 

 

 

「っ!」

「シの音符のシャイニングメロディ!」

 

 

 

 よろけ倒れる欠片に向かって、容赦なくミューズがキュアモジューレを笛のように吹き鳴らし、欠片を囲うように4人の分身を出現させる。何かを感じ取ったのか、ダークネスメロディがすぐに怪物の上から飛び降りる。

 

 

 

「プリキュア・シャイニングサークルッ!」

 

 

 

 分身とともにはなった光は五芒星を描き、放たれた光に閉じ込められた欠片が動けなくなる。ダークネスメロディはこれを見越して離れたのだろう。

 

 

 

「今よ!」

「ミューズ!ありがとう!」

 

 

 

『翔けめぐれ、トーンのリング!』

 

「「プリキュア・ミュージックロンドッ!」」

「プリキュア・ハートフルビートロックッ!」

 

 

 

 メロディの持つミラクルベルティエ、リズムの持つファンタスティックベルティエ、ビートの持つラブギターロッドから放たれる光によって作られたオレンジ、黄色、緑色の光のリングが同時に放たれ、動けなくなった欠片をリングの中に閉じ込める。

 

 

 

『三拍子!1・2・3!フィナーレ!』

 

 

 

 まるで指揮棒のようにベルティエやギターで三拍子をとり、フィナーレの合図とともに大爆発を起こす。爆発に巻き込まれた欠片は姿を維持できず、そのまま消滅してしまう。

 

 

 

「っ、ネガトーンを倒したところで……!」

「忘れてはいないから安心して!」

 

『CureWeapon!Lovely!』

『PowerCharge!Rhythm!』

 

 

 

 上空に避けたままのコンプリートが、リズムの力を纏わせたショットガンから黄色い光のリングを解き放つ。リングはコンプリートを探していたダークネスメロディに向けてまっすぐ飛んでいき、その体を拘束する。これでまた逃げられる心配はない。

 

 

 

「ぐ……っ」

「これでもう逃げられないね。続けていくよ!プリキュア・ポップンロケットシャワーッ!」

 

 

 

 上空から放たれた無数のハートが、身動きできないダークネスメロディを包み込むように降り注ぐ。

 やはり闇の使者自体の浄化はできず、一時的に彼女達を無力化することしかできないようだ。拘束とハートの濁流から解放されて、ダークネスメロディはゆっくりと地面に着地する。息は切れ切れで、動き回れる程度の体力は奪えているらしい。

 そんな彼女の胸の紅いクリスタルから、またしても桃色の光が飛び出して、コンプリートの手の中にゆっくりと飛んでいく。

 

 

 

「はぁ…はぁ……っ、く……っ!」

「だ、大丈夫……?」

「……!」

「おっと」

 

 

 

 技を食らってもステフォンを狙えるほどの元気はあるようで、コンプリートが持つステフォンに手を伸ばそうとする。流石にまずいと思って一歩引くと、ダークネスメロディは膝をついてしまう。

 

 

 

「……、お、覚えてなさい……!私が元気になったら、絶対に取り返して見せるんだから……!今は、少し休ませて!」

 

 

 

 体に相当な負荷がかかっていたのだろう。コンプリートにそう宣言して、ダークネスメロディはどこかへ消えていった。いつものことながら一時撤退させるまでの威力と効果を持つとは、恐るべし、プリキュア・ポップンロケットシャワー。

 

 

 

「……今回は来なかったね。ブラックって人」

『た、確かに!』

『また別行動中かな……?』

 

 

 

 この前一瞬だけ出会った『ブラック』は現れなかったものの、暗かった空は再び青い色を取り戻す。ダークネスメロディの方から飛び出したあの小さな光の玉が、ステフォンの画面の中に吸い込まれていった。

 

 瞬間、ステフォンからは白い光が溢れ出し、コンプリートの視界を白く塗りつぶしてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……でしょうね」

 

 

 

 ステフォンから溢れた白い光が収まると、コンプリートは三度、あの灰色の世界に飛ばされていた。

 

 やはりどうしても顔と視線しか動かせないが、見渡してあの水晶の柱を探す。今回コンプリートが立っていた場所は、この前の2回とは違う水晶の柱の近く。見上げると、そこにはやはり、見覚えのあるプリキュアが眠っていた。

 

 

 

「……ダークネスメロディと出会ったから、今回はメロディの近く……ってことでいいのかな」

 

 

 

 水晶の中で眠っているのは、キュアメロディだった。

 

 この水晶は一体なんなのか、この世界でいったい何があったらこうなってしまったのか。この世界のことについても、詳しく知らないといけない気がする。

 

 彼女が眠る水晶の柱からは、淡く優しい桃色の光が溢れ出し、厚い雲が覆う天へと伸びていく。

 

 光が収まり辺りを見回せば、綺麗な音色が耳に入ってくるようになった。今まで無音か、冷たい風が吹き付ける程度の雑音しかここでは聞けなかったので、少しだけ寂しさが弱くなったような雰囲気がある。

 

 先日追加された代償様々な浮遊するステージ上には、トランペットやシンバル、バイオリンに木琴、鉄琴など、様々な楽器が置かれていた。ご丁寧に演奏するための椅子やら楽譜、楽譜台も散らばっている。綺麗な音色の正体は、風に揺れるウィンドチャイムだったようだ。

 この世界のメロディが眠る水晶の近くで浮いているステージには、グランドピアノが出現している。

 

 

 

「なんか……すごい変化したなあ」

「音楽が増えるだけでこんなにも変わるものなのね……」

「……わあ、また集った」

 

 

 

 隣で誰かが喋り、横向けばそこにはリズム・ビート・ミューズがいつの間にか揃っていた。彼女達の例に漏れず、幽霊のようにその体が透き通っている。

 

 

 

「やっぱりこれ、ステフォンの中にいるプリキュアとこの世界のプリキュア……何かしらがリンクしてるってことだよね」

「詳しくはわからないけれど、もし『声』の通りなら…」

「『声』?」

 

 

 

 ビートが意味深なことを呟き、コンプリートは聞き返す。まだ意識は続いている。これは大きな情報を聞き出せるチャンスかもしれない。

 

 

 

「ええ……私たちが世界の狭間で彷徨っている時に聞こえたの。『ステフォンに想い、壊れた世界に私たちが集まれば、世界に変化が訪れる』って」

「あの声が聞こえた後、しばらくしてピーチたちの気配がして、ここに少しずつ辿り着いていったってわけ」

「壊れた世界……」

 

 

 

 いつの間にか近くで話を聞いていたであろうベリーの声が、青い光の玉から聞こえた。前回と同じならいわゆる省エネ中だろう。

 “壊れた世界”という言葉に、確かにこの世界は、そう表現したほうがいいのかもしれないと感じた。今は小鳥が舞い、浮遊するステージと綺麗な音が響き渡る世界にはなっているが、こうなる前は本当に何があったんやと聞きたくなるくらいの無機質さと異様さで溢れていたのだ。景色に対して色と情報量が少し増えるだけで、寂しい雰囲気は大きく変わる。

 

 

 

「もしかすると、闇の使者から飛び出したラブリーの友達が鍵になる……?この壊れた世界をなんとかするための?」

 

 

 

 彼女たちの言う『声』の通りなら、このまま闇の使者から飛び出したプロトキュア────ラブリーの友達を助けていけば、この世界に何かしらが起こるらしい。それがいい変化なのかどうかはさておいて。

 

 

 

「まあ……これだけ変化していると、壊れた世界とは言えなくなくなってきたんだけど……」

「確かに」

 

 

 

 ミューズが苦笑気味にそう告げる。まさに彼女の言う通りだ。それならここはどう表現すべきだろう。いっそのこと見たままに“水晶の世界”と言った方がいいのかどうか。

 

 

 

「でも……これである程度のやるべきことははっきりしたかも。ピーチとハッピー、そしてメロディを助けたから、残りは9人?ラブリーはもういるけど彼女は別枠?うーむ、難しいところ……あやべ」

 

 

 

 ぼんやりと、視界が白く染まっていく。周りの景色が淡く揺らいでいく。今回は少し長めに会話ができた気がするが、意識は徐々に元の場所に引き戻されようとしている。

 自分の意識が慣れてきて、少しずつこちらの世界にいられる時間が長くなっている。多分自分も成長(?)しているのだろう。

 

 

 

「まずい、そろそろ時間かも……とにかく、他のみんなも頑張って助けてみるから、もう少し待っててね」

「え、ええ!そ、そうだわ!」

 

 

 

 意識が薄れる中、リズムに呼び止められて頑張ってそちらに集中する。景色は白み、リズムの表情は良くわからない。

 

 

 

「メロディのこと……頼んだわよ」

「……!うん、あたし任せて」

 

 

 

 明転する視界で、何か大事なものを託されたような気がした。

 世界は明転し、意識は再び元の世界へと戻される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!」

『起きた!みんな〜!コンプリートが起きたよ!』

 

 

 

 プロトピーチに心配されながら、コンプリートの意識はあの世界から元の加音町に戻ってくる。

 あの時、あの世界のキュアリズムは、一体どんな顔をしていただろう。声色的に、覚悟を持ってこちらに託すような雰囲気だったが……。

 あの世界のプリキュアたちの中で、やはり何かがあったようだ。そもそもあの世界のプリキュアたちは、闇の使者を認知している雰囲気ではない。次に出会った時はそのことも話してみよう。

 

 

 

「だ、大丈夫?」

「急に倒れちゃったから何事かと……」

「大丈夫。ちょっと意識だけが別の世界に飛んでただけだから」

「言葉に起こすと気絶したみたいね……」

「……ああほんとだ」

「つまり、“トリップ”していたってこと?」

「あたし何かしらをキめた人みたいになってるけど、多分そんな感じ」

『あってるけどそうじゃない気がする!』

 

 

 

 メロディとリズムに心配の声をかけられるが、別に体調が悪くなったわけではないしいつものことなので元気であることを伝える。

 ただ、コンプリートの伝え方に言葉が足りていなかったのか、ミューズにはジト目で冷静なツッコミを入れられ、ビートには何かしら語弊がありそうな解釈をされている。ビートに関してはコンプリートが若干悪ノリしている節が見える。

 

 

 

「…そうだ、プロトキュア増えたかな」

『こっちも大丈夫!メロディが戻ってきたよ!』

 

 

 

 気を取り直してステフォンの画面を見ると、住人がもう一人増えていた。

 

 相変わらずの猫耳と二頭身だが、キュアメロディ似の精霊────プロトメロディが増えていた。今回はまだ眠っているらしい。

 

 

 

「寝顔までメロディそっくりね……」

「私こんな顔してるの???」

『……寝てるね、彼女』

『お、起こしてみる?』

「いや、今はそっとしておこう」

 

 

 

 よいしょと立ち上がり、変身を解いて再び巡の姿に戻るが、長時間走った分とプリキュアになって戦っていた分の疲労に限界が来ていたのだろう。すぐに座り込んだ。

 

 

 

「あー、まずい。走った分が今になって体に……」

「大丈夫じゃない!!た、立てる?」

「あ、ありがとう響ちゃん……なんで君はピンピンしてるの???」

 

 

 

 突然ヘナヘナと座り込んでしまった巡にびっくりしつつも、彼女が立ち上がれるように、変身を解いた響は手を差し伸べる。巡はその手を掴み、頑張って立ち上がる。これは筋肉痛不可避だ。

 

 

 

「あーあ、走ってたらお腹すいちゃったし、今から奏ん家でカップケーキ食べに行こうよ!」

「奏ちゃんの家ってケーキ屋さん?」

「そう!奏の作るお菓子はとっても美味しいんだから!」

「ひ、響!?何勝手に決めて……」

『奏のお菓子!?食べる食べる!!』

『わっ、起きた!?』

 

 

 

 何かの琴線に触れたのか、眠っていたプロトメロディが飛び起きたようだ。世界が変わろうが同一人物同士で好みなどは変わらないらしい。

 響に腕を引っ張られて、巡はそのまま市街地の方へと共に駆け出していく。相当走っていたはずなのに、そんなものは気にならない。後ろからは「巡ちゃんに無茶させない!」と怒る奏が追いかけ、なんだいつものことかとどこか楽しげなエレンに、まあまあ呆れた様子のアコが付いてくる。

 

 

 

『メロディのこと……頼んだわよ』

 

 

 

 ふと、あの世界のリズムにかけられた言葉がリフレインする。

 穏やかな寝顔を晒していたり、好物の名前を耳にしてすぐに飛び起きた彼女を見て、大丈夫今の彼女は割と元気そうだよと答えてあげたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<巡の世界 心野宮・噴水公園>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「1、2、1、2!」

 

 

 

 クラスの有志で集まった運動会の練習は、心野宮の噴水公園で行われている。大きめの噴水を中心に、小さな子供向けの遊具や、広々と使えるジョギングコースや原っぱがあり、十数人が集まっても有り余る程度の広さを有している。

 

 偶然ではあったものの、響が気づいた巡の弱点を意識したおかげで、二人三脚の練習は今まで以上に転ばずに走ることができた。あの時は響が自分に合わせていたが、今回は自分が相方に歩幅を合わせる番だ。おかげで、クラス委員長からは「本番は心配せずにすみそうだ」と太鼓判を押された。巡が苦手を克服した瞬間でもいいだろう。

 

 ただ、『スイートプリキュア♪』の世界から帰ってからぶっ通しで走ったので、今かなり自分が感じている疲労感が大変面白いことになっている。あの世界で奏の家の菓子店でカップケーキを食べていなければ、ぶっ倒れていたまである。

 

 

 

「めぐるんめっちゃ上達してね???コソ練した???」

「コソ練というか、なんというか……姉に自分でも気づけてないことがあるんじゃない?って言われて」

「めぐるんのねーちゃん、会ったことないけど話だけ聞いてるとめぐるんへの理解度めっちゃ高くない???」

 

 

 

 練習後、千夏に話しかけられてとりあえず話を受け流しておく。流石にプリキュアと偶然脚を拘束されて、偶然一緒に二人三脚で走り回っただなんて絶対に言えない。

 ただし、自身の姉に『細かいところを見落としてる』と指摘されたのは紛れもない事実。実際彼女は、『歩幅』という本当に単純なところを見落としていたのだ。あの姉は、口下手で周りの出来事に無関心そうに見えて、対巡への洞察力はかなり鋭い方だ。

 

 

 

「まあ、よかったじゃん。うまいことできて」

「ほんとほんと。これで足引っ張らずに済む……気づけてよかったよ」

「めぐるんの弱点がなくなったことだし、お祝いにアイス食べよ。今アイス屋さん来てるっぽいし」

「それいいね。練習終わりのご褒美ってわけで」

「お前ら、まだ帰ってなかったのか」

「あ、帯刀じゃん」

 

 

 

 アイス屋のキッチンカーの方へ行こうとしたところで、帯刀廻が話しかけてくる。彼は大縄跳びの大縄を回す役として、向こうのほうで練習していたらしく、持ってきたバッグの中に大縄が飛び出している。

 

 

 

「帯刀君もアイス食べる?」

「ん、食う」

 

 

 

 廻も巡に誘われて、女子二人についていく。

 

 

 

「そういや繋お前……二人三脚で転ばなくなったらしいな」

「おかげさまでね。練習いっぱいしたんだから」

「そうか……本番、頑張れよ」

「帯刀君もね」

「おう」

「いやこれ私ここにいるのめっちゃ気まずくない???」

 

 

 

 巡と廻の絶妙な距離感となんとも言えない会話の空気感に、若干ニヤけながら千夏は小声で突っ込む。側から見ればベストな関係性に見えるが、残念ながら巡が鈍感なせいで、こちらが想像するような深い関係というわけではない。

 

 

 

『え、あれなに!?めぐるんの彼氏!?』

『あれで付き合ってないから、巡ちゃんが自分への好意に対していかに鈍感なのかがよくわかるよね』

『千夏ちゃんって子、困っちゃってるけど……』

『まー、あの場に出会したらどうすればいいかわかんないよねー。奏と王子先輩みたいな感じ、なのかな?』

 

 

 

 ステフォンはミュート中のため、プロトキュア達の会話は聞こえていないが、彼女達の中では巡と巡に好意を寄せているであろう廻の行く末が気になる事象のようだ。主にラブリーとピーチが食いつき、メロディとハッピーはひとまず様子見といったところか。

 

 

 

『何はともあれ、(めぐるんが気づけば)きっと廻君も幸せゲットできるよ!応援するね!』

『巡ちゃんが気付けるのは、果たしていつになるのやら……』

 

 

 

 その答えは、今の巡を見るに当分先のことになりそうだ……。

 

 

 

 

 

続く…

 




次回更新日:4月29日(月)
pixivの方はもしかすると最終回が近い、かも?
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