PrecureStageON!   作:主氏レム

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第8話:あなたに花を プレゼント大作戦!

 

 

 

 

 

 どこかの世界の、赤い月が照らす漆黒の城のとある一室。

 

 黒いプリキュアこと、闇の使者達が数人集まって何かを話している。

 テーブルの上にはお菓子と飲み物。いかにも女子会をやっていそうな雰囲気だが、話している内容はある意味物騒な事柄ばかり。

 

 

 

「やっぱりね、コンプリートや他のプリキュアのみんなと戦うのって良くないと思う!勝ち目がないから!」

「わぁ、ピーチらしからぬ発言だあ」

 

 

 

 ダークネスピーチの言い分に、思わずダークネスメロディがすかさず突っ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<ネオフュージョンの世界 漆黒の城・闇の使者の大部屋>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハッピー、ピーチに続いてダークネスメロディもコンプリートからステフォンとラブリーを取り戻すために、他のプリキュアの世界へ飛んだのだが、今のところ勝率はゼロ。なんの成果も得られていない。そのことで悩んでいたらしい。

 

 

 

「でもわかるなあ、ピーチの気持ち。別の世界だけど、あたしたちの友達とも戦うかもしれないもん。それはちょっと嫌だなあ……」

「うんうん。だから、なるべくコンプリートだけを狙えるように、奏達はネオフュージョンの欠片に任せてるんだよね」

 

 

 

 しかしピーチの発言への共感度は大変高いようで、話を聞いていた二人は強くうなづく。立場上仕方がないから、別の世界であれど自分たちの大切な仲間達とはなるべく戦うことがないようにしている。

 一時的とはいえネオフュージョンと結託している状態の自分たちが、果たしてそんなことに躊躇するなとは突っ込まれそうではあるが。だとしても、自分たちは結託先のことは信用していないし、向こうだって自分たちをいつ裏切ってくるかはわからない。

 

 

 

「ブラックは……なんとなくそういうことに戸惑いがなさそう。あの感じだと全て割り切っちゃってるというか……」

「いやいやいや、あの人は絶対躊躇してるでしょ。特にほのかさんとは」

 

 

 

 自分たちのリーダーであり、ネオフュージョンによって一番いいように扱われているあの人の姿をハッピーは想像するが、それはないだろうとメロディが否定する。

 

 

 

「でもあの人、ネオフュージョンに色々やらされてるじゃん……。あたし達には手を汚させたくないっていうのはわかるけど……」

「私たちが直接言っても言いくるめられるからなあ……」

「あの人のあれこれに関しては、ブルームとドリームに任せよう。あの二人が一番知ってるんだもん」

「……あ、ブロッサムだ!もう行っちゃうの?」

 

 

 

 この話はまた今度としようとしたところ、もう一人の闇の使者が部屋から出ようとしているのを見つけ、声をかける。ちょうど他の世界へ行くところなのだろう。

 

 

 

「はい!今回はこちらも作戦を考えてきたので、早速試してみたいと思ってるんです!」

「そうなんだ〜!頑張ってね!」

「はい!」

 

 

 

 3人に応援された闇の使者の一人────ダークネスブロッサムは、気合いも自信も十分だと言いたげな笑顔を見せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第8話:あなたに花を プレゼント大作戦!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<巡の世界 心野宮・繋家>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 繋幸。心野宮・天上(てんじょう)高等学校の定時制夜間クラスに通う、16歳の2年生。華道部に所属し、実はもうすぐ誕生日を迎える。

 

 性格は自他共に認める口下手でおとなしい人物。目つきの悪さから怖い人・不良・非行少女とあまりよろしくない勘違いされることも多いが、その本質は人思いの心優しい少女だ。ちなみに生活はすでに昼夜逆転している。

 彼女はキュアコンプリートこと繋巡の姉であり、仕事で海外に飛んでいることが多い両親に変わって、妹と長年ともに暮らしてきた。

 

 

 

「え、幸姉誘われたの?」

「うん。誕生日だから祝わせてって」

 

 

 

 6月のとある夕食中。自身の姉の話を聞いて、巡が数回瞬きする程度に驚く。

 彼女は、よく話すクラスメイトから誕生日に遊びに行こうと誘われたらしい。姉が今まで他者からお誘いを受けること自体が珍しいことらしい。

 

 

 

「よかったじゃん。どこ行くの?」

「遊ぶって言ってもショッピングモールとかだよ。買い物したり、カラオケ行ったり……」

「へぇ〜、いいな〜。楽しんで来なよ。ケーキとかは買っておくから」

「うん……」

 

 

 

 ポーカーフェイスなところも幸らしいと言えばそうなのだが、その口元はどこか嬉しそうだ。自身の姉のことは巡もよく知っているので、なんだかとても感慨深いと思ってしまう。一体彼女は過去に何があったのかは、また別の機会に話すとしよう。

 しかし、喜んでいる巡にも、幸の誕生日までに考えておかなければならないことがある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誕プレどうしようかって話なんだよね」

「誕プレ?」

 

 

 

 夕食後、自室でステフォンの中から出てきたプロトキュア達4人と話す。

 最近彼女達がステフォンの外でも出られることを知ったようで、巡以外の人間にバレないようにこうして外に出ることが多くなった。側から見ればまるで魔法少女やヒロインが主役のアニメ・漫画の中の描写のように見えるが、これが現実に起きている。多分周りにバレたら色々と終わる。

 

 

 

「毎年幸姉が好きなケーキ屋さんのチーズケーキとかを買ってるんだけど、今年はケーキの他にも別なものを贈りたいなって思ってて。幸姉が身内以外の人と遊ぶのが久しぶりだし……」

「め、巡のお姉ちゃんって前も見たけど……恥ずかしがり屋さんなの?」

「恥ずかしがり屋っていうか、なんというか……話すと長くなるんだけど端的に言うと中学の時に色々あって、学校に行かない日が多くなっちゃって……」

「あ、あぁ……」

「あんまり触れちゃいけないやつかな……?」

「あたしもあんまり教えられていないから、ちゃんとは言えないんだけど……ははっ」

 

 

 

 プロトメロディの問いかけになるべくオブラートに包んで答えると、彼女達もなんとなく、幸が過去に嫌な思いをするようなことが起きたんだろうなと察したようだ。

 それはそれとして、巡にとって姉の幸が他人と遊ぶこと自体が珍しいかつ久しぶりで、さらに喜ばしいことだったため、今年は何かを渡したいと思い立ったのだ。

 

 

 

「幸さんって、何か好きなものはある?好きなものを渡したら喜んでくれるかも!」

「そ、そんな単純なことでもいいの?」

「あたし達はめぐるんのお姉さんのことは詳しく知らないけど、めぐるんがくれるものなら嬉しいってなると思う!」

「そ、そういうものなのか……」

 

 

 

 ピーチやラブリー達の助言に背中を押されて、今一度自身の姉についてを考えてみる。そういえば姉の好きなものはなんだろう。

 

 スイーツは生クリーム系が苦手だからという理由でタルトやチーズケーキを好んでいて、紅茶も好き。しかしケーキは買うと言っているのでこちらは除いておこう。

 よくオンラインゲームをしているが、好んでやるのはFPSゲーム。ゲームを買うとしても値が張ってしまうし、自分がやるにしても、前にやらせてもらった時にゲーム酔いをして痛い目を見たことがあるので乗り気になれない。

 色々挙げてみたがそう言えば……と、もう一つ。姉が好きなものに心当たりがあった。

 

 

 

「花……そう言えば幸姉、花が好きなんだよね」

「花?」

「うん。中学の頃から華道部に入ってて高校でも続けてるっぽいし、花見てる時の幸姉はどこかリラックスしてるように見えるし」

「……!そう言えば、玄関のところの花瓶の花って」

「ああ、あれ幸姉が部活で余ったのをもらって生けてるんだって」

「そ、そうだったの!?」

「華道の先生?も、幸姉が花に対しての好意も公認……らしい」

 

 

 

 実が巡の家の玄関の窓際には、一輪挿しの花瓶が置いてある。時々花が生けられているのをラブリー達は何度か見たことあるが、彼女の姉がやっていたという話を聞いて、その事実を初めて知ることになる。

 

 

 

「そうだったんだ〜!多分だけど幸さん、ブロッサムと話が合いそうって感じがする!あの子もお花が大好きだから!」

「つぼみちゃん……あー、ハートキャッチプリキュアの」

 

 

 

 プリキュアガチ勢の後輩・柑崎恋華から借りてすでに返却済みのレポートを思い出す。あのレポートのおかげで、プリキュアの名前を出されてなんとなく頭に顔が思い浮かぶようになったのはいい進歩かもしれない。

 チラリとステフォンの画面を見ると、『WorldTrip』のアイコンが光っていた。ちょうどこの前『スイートプリキュア♪』の世界で闇の使者とネオフュージョンの魔の手を退いてきたので、おそらく今回で4回目のワープになる。

 赤く点滅しているマークは、5時の方向にあるハートを模った────『フレッシュプリキュア!』と『スイートプリキュア♪』のマークに挟まれているものだ。これは知っている。幼い頃に紅白でそのOPを誰かが歌っていたのを見たということは覚えている。

 

 

 

「話してる側から現れたみたい」

『え!?本当だ!』

「花に関するプリキュアだってことは知ってるから、花に詳しいことで会えたらプレゼントの相談もできそうだよね」

『それならつぼみちゃんに会えばできるかも!』

『早速行っちゃう?』

「うん行っちゃおう!」

 

 

 

 流れるようにマークをタップすると、あのワープホールが開かれる。この先に、プリキュアが暮らす世界と自分たちを待っているであろう闇の使者が待っている。

 

 深呼吸をし、巡はワープホールの中に勢いよく飛び込んだ。

 

 星の様な煌めきが、虹の様なゆらめきが、自室との距離をどんどん遠ざけていく。出口は、すぐ近くに現れそうだ。この先、どんな世界が広がっているだろうか。

 

 視界が、白い光で塗りつぶされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あなたは今日、えりかやいつき達と行動しているはずよ」

「……そうでしたっけ?」

 

 

 

 希望ヶ花市某所。

 

 月影ゆりは、本来ならここにいるはずのない知り合いに向けて笑いかける。自分も今日はその少女の賑やかな友人に「新作のモデルになって」と懇願され、これから向かうところだったらしい。

 しかし、その少女がなぜか目の前に現れたのだからこれがまたおかしい。なるべく自身の困惑を見せないよう冷静に問いかける。少女に対して、漠然とした違和感を感じてしまったのだ。

 

 

 

「あなたにしては珍しく惚けるのね……それに、あなたはあの子達の約束を無下にするような人ではないわ」

「……」

 

 

 

 ゆりにそう言われ、少女は驚いて緊張感を持つどころか、ほんの僅かに表情が緩んだのだ。まさかの反応に、今度はゆりがその顔に困惑を滲ませる番だった。

 

 ────この人は、どの世界(・・・・)でも変わらないんだろうな。少女はゆりに対し、自身が別の世界から来た異分子だと見透かされたことへの若干の畏怖と、相反するような僅かな懐かしさと嬉しさを感じていた。

 

 

 

「あなたは……一体誰?」

「私は花咲つぼみですよ。何をおっしゃってるんですか、ゆりさん」

 

 

 

 ここまで察せられたのならわざわざ正体を隠さなくてもいいだろうと判断し、ゆりの目の前にいる“花咲つぼみ”は、闇を纏って本来の姿を彼女に晒した。

 

 

 

「────でも、あなたが知っている方の“つぼみ”ではないんですけどね……」

 

 

 

 真っ赤に煌めく瞳が、月の花のような瞳目一杯に映り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<ハートキャッチプリキュア!の世界>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここは、希望ヶ花市。『ハートキャッチプリキュア!』の舞台となる街である。

 

 

 

「お花屋さんだ。めっちゃ店の近くにワープしたけどバレてないよね?」

『周りに人はいなかったから大丈夫だよ!』

「いやでもお店の中からガッツリ見えそうだったけど……」

 

 

 

 『HANASAKIフラワーSHOP』という名前の花屋の前でこの世界にたどり着いたようで、思い切り人に見られたのではと周囲を見渡す。幸運にも外では誰にも見られていないようでほっと一息つく。ただ、店の中から見えていたのなら話は変わってくるが。

 一応、プリキュア達の前以外では自分が異世界人だということは言わないようにはしているのである意味助かったと言える。

 

 

 

『ちょっと危なかったけれど、つぼみちゃんちの前に来れたのはラッキーだね!』

「つぼみちゃん?その子がこの世界にいるプリキュアの一人ってことだよね。というかお花屋さんなのか……」

『そう!まだおかしな気配はしていないから、今はここで本当に渡す時の参考にしてみるのもいいかも』

「なるほど考えたね」

 

 

 

 ひとまず店員さんに一旦話を聞いてみようと思い、入店しようと扉の前まで歩いて行った。ちょうど巡がその中へ入ろうとした時、同年代くらいの3人の少女の1人とぶつかりそうになる。

 

 

 

「おっとっと、ごめん」

「す、すみません!大丈夫でしたか?」

「あたしは大丈夫」

 

 

 

 ツインテールの真面目そうな子と、ロングヘアの小柄な子、ショートヘアのかっこいい感じの子。巡がぶつかりそうになったのはツインテールの子だ。確か、恋華から借りたレポートに書いていたような……。話しかけるべきかどうかを悩んでいると、ふとロングヘアの子からの視線を感じてそちらを見る。

 彼女は、どこか真剣な表情でこちらを舐め回すように観察しているようにも見える。まさか、自分がワープホールを潜り抜けて現れたところや、ステフォンの中のラブリー達と会話しているところでも目撃してしまったのだろうか?

 

 いや、それならそれで事情を説明すれば誤解なく話が進みそうだが……。

 

 

 

「え、と……何か……」

「この子めっちゃスタイル良くね?」

「……え?」

「ちょ、ちょっとえりか!?」

「流石に初対面の方に失礼だと思うんだ……」

「あはは〜、ごめんごめん」

 

 

 

 えりかと呼ばれた少女からの第一声が、巡が予想していたものと斜め上を行ったので拍子抜けしてしまう。えりか自体はほか二人に嗜められているが、この様子だと巡がこの世界に現れた姿は見られていなかったようだ。危ない危ない。

 ひとまず変に怪しまれないように、話題を変えたほうがいいだろう。

 

 

 

「えっと……あたしは繋巡。自分の姉がもう少しで誕生日だから、その時に渡せるような花を選びたくて、何か参考にならないかなってここに来たんだけど……お店の人ってどこにいるかわかる?」

「ああ、それなら……!」

「つぼみの出番じゃん!」

「……?」

 

 

 

 

 

「も、もしよろしければ、私でも大丈夫でしょうか……?」

 

 

 

 つぼみと呼ばれた気弱そうな少女が、巡の前に一歩踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へえ、ご両親どころかおばあさまも植物に詳しいんだ……つぼみちゃんが花に詳しいのも分かる……しかも花言葉全部知ってるのは強い」

「い、いえ!それほどでも……」

「謙遜せず、もっと誇っていいと思うよ。おかげでどんな花を送ればいいかのイメージはついたもん」

「巡さんのお役に立てたのならよかったです」

 

 

 

 ここはつぼみの祖母が園長だという植物園。つぼみ達と打ち解けつつどんな花を幸に送ればいいかのアドバイスをもらってから、彼女達に連れられてやってきたのだ。

 様々な花が咲き誇る園内で、ある花を見かけて立ち止まる。

 

 

 

「あ、ハナショウブ」

「知ってるの?」

「うん。幸姉が好きな花って言ってたから名前は知ってる」

 

 

 

 黄色い付け根で3枚の紫の花弁が一際目を引く花、ハナショウブを見かけてよく観察する。この花はアヤメやカキツバタ?という花とよく間違えやすいと、姉が熱弁してたっけと思い返す。

 

 

 

「幸姉って、巡ちゃんのお姉さん?一体どんな人なの?」

「あー……自分からあんまり話し出すような人じゃないから、怖い人って勘違いされやすい人」

「え」

「でも、すっごく他人思いで、花が好きで、優しい人だよ。……まあ、そういうところを見せないからか色々あったって言ってたんだけどね……」

 

 

 

 ショートヘアのボーイッシュな少女、明堂院いつきに問われ、自分から見た姉の印象を苦笑気味に話す。あの人は第一印象だけで語ってしまうと余計なイメージがついてしまう。

 周りからの勝手なイメージのせいで、彼女は中学時代に嫌なことがあったというのに。

 よく覚えている。小学校から帰ってきたら、姉が部屋で一人で嗚咽を堪えて泣いていたのを見た時のこと。相談すればいいのにと思っても、一人で全部抱えてしまうのがあの姉なんだということも。

 

 

 

「……そういえば、幸姉が花が好きな理由、『優しい気持ちになれるから』って言ってたんだ」

「優しい気持ちに、ですか?」

「うん」

 

 

 

 そういえばと、自身が知っている昔の姉の姿が思い浮かぶ。

 

 まだ姉が中学生で、自分が小学生だった頃の初夏の頃。梅雨の時期でも晴れ間をぬってお花見で噴水公園に遊びに行き、大きな花壇に咲いている花を見ていた時のこと。

 幸は中学で色々あって落ち込んでいて、家でも表情が暗いままという日が続いていたが、花壇に咲く小さな花を見ていたときは、暗いものが外れてどこか柔らかな表情だったのを覚えている。

 

 

 

『幸姉、ちょっと笑顔になったね』

『え……?』

『この前からずっと、しんどそうな顔しかしてなかったから……』

『そう、かな……。でも……懸命に咲いている花を見てると、心が安らぐから、かな……。うまく言葉にはできないけれど……苦しくても、花を見てると、優しい気持ちになれる……』

 

 

 

 あの口下手な姉が表情を緩ませて話すものだから、あの時はどういうことなのかは全くわからなかった。けれど、しんどかった時に好きなものに触れて、どこか楽になれたのだろうと思っている。

 

 

 

「そういえば……ハナショウブの花言葉の一つに、“優しい心”というのもがあるんです」

「優しい心……なんか、なんで幸姉がこの花が好きなのかわかった気がする。あの人、本当に優しいからさ」

 

 

 

 あの時の姉が一体どんな気持ちで花を見ていたのか改めて理解する。この紫の花は、あの時の姉の心の支えの一つとなったのだろう。

 

 

 

「それにしても、ゆりさん何してるんだろう……」

「全く来る感じがしないというか……」

「ゆりさん?誰か待ってたの?」

「そう!今日はうちの店の新作のモデルになってくれるって約束してたんだよ!」

 

 

 

 えりかの家はブティックのようで、彼女自身もファッション部なる服飾専門の部活を設立するほどの情熱と技量を持ち合わせるという。

 主にえりかの用事ではあるが、つぼみたちはつぼみたちで人を待っていたようだ。しかし、約束の時間を過ぎてもその人物の姿が見えず困っている模様。その人物は、普段約束を忘れたり遅刻をするような人ではないという。

 

 

 

「ファッション、か……」

「お?めぐるんも興味あるの???」

「興味というか……ブティックってあんまり行ったことないから楽しそうだなって」

「それなら!ぜひうちで色々合わせてみない?」

「……え?」

 

 

 

 目を輝かせるえりかに、巡がきょとんとした表情を晒す。ナチュラルに“めぐるん”呼びされていることも知らずに。

 最初はサイズを伝えていないし断ろうかと思ったが、えりかが見ただけでわかったというために、どうにも断りづらくなった気がした。

 

 かくして巡は、えりかの実家だという『フェアリードロップ』というブティックを目指すことになった。彼女たち曰く、あの人ならまっすぐこっちに向かってくるだろうという確信があるらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『巡ちゃーん……!』

「ん……?どうしたの……」

『今、一瞬だけネオフュージョンの気配を感じちゃったんだけど……』

 

 

 

 フェアリードロップへ向かっている途中のこと。ラブリーたちに小声で話しかけられ、後ろを歩いていた巡が立ち止まる。

 バレないようにしていたプロトキュア達が本来の目的である嫌な気配を感じたようで、辺りを見回す。しかし、空はいつも通り晴れているし、何かが現れたような気はしない。

 

 

 

「……何も、ないね……?」

 

 

 

 ふと、通り過ぎた店の窓に反射する虚像が、何か別のものを映していたような気がした。だが、その違和感はすぐに消え去り、反射した自分の姿だけが映るだけとなる。

 

 

 

「……え?」

『ど、どうしたの?』

「今、別のものが映っていたような……気のせい……?」

『えぇぇ!?ま、まさかお化け!?』

「そんなわけ……ま、まあ、警戒しておいたほうがいいよね」

 

 

 

 ひとまずまた何かあったらちゃんと疑おうと思い、先に行ったえりかたちに追いつくために走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まずは、天然素材の生地をベースにアースカラーでまとめたナチュラル系!」

「おお」

 

 

 

 フレンチスリーブワンピースとTシャツを合わせ、体のラインを拾わないようなナチュラル系のコーデ。髪を下ろされていたり、ストローハットを載せていたりするのがポイントだ。

 

 

 

 

「清潔感あるコンサバ系もありでは???」

「わあ、雰囲気変わった」

 

 

 

 首元に程よい開きのある白いブラウスと膝下丈のスカートで、清潔感の他にも上品さも併せ持ったコンサバ系なコーデ。後ろで髪を纏めている。

 

 

 

「もしかして可愛い系も似合ってたりする?」

「おお……!フリルいっぱい」

 

 

 

 花柄のワンピースをベースにフリルやリボンで飾られたガーリー系のコーデ。いつきに手伝ってもらい、ツインテールに結ばれている。

 

 

 

「やっだ〜クール系に合わせてもかっこいいじゃ〜ん」

「おしゃだ……これはかっこいいやつ」

 

 

 

 ショートパンツとライダースジャケット、エナメルのブーツで締めたクール系のコーデ。さっきまでの雰囲気とガラリと変わって、巡もノリノリになってきたようだ。

 

 

 

「……うん、やっぱこれっしゅ」

「わあ、すごい……」

 

 

 

 

 

 

 最終的に巡は、華やかさとソフトな印象を与えるような、ピッタリとしたトップスとふんわりしたスカートでメリハリをつけたようなコーデとなった。私服とはまた違った雰囲気を持つ服装に、巡は感嘆の声を漏らす。

 鏡に映る自分の姿は、まるで別人のよう。巡がいわゆる『原石』タイプだったからか、それともえりかのセンスが冴えて渡っているおかげか、そのどちらもか。

 

 

 

「とっても似合ってるね!」

「そ、そうかな?こうやってオシャレに気を遣いながら服を選ぶことってなかなかないから、感覚がよくわかってないんだけど……」

 

 

 

 ヘアアレンジを手伝ってくれたいつきにそう言われて、ほんわかと照れながら鏡の自分を見てみる。

 

 鏡に映るのは、自分自身と、つぼみ、えりか、いつきの3人。あとは、ほんのわずかな歪み。

 

 

 

 ……歪み?

 

 

 

 

 

「……え?」

「……えっ!?」

 

 

 

 鏡面が大きく歪んで揺らぐ。現実では絶対に起こり得ない現象が、巡達の目の前で起きている。

 歪んだ画面の先に一瞬だけ映ったのは、白銀のロングワンピースを纏った、淡い紫の髪のプリキュア。その相手は、戦隊モノでよく出てきそうな大量の戦闘員。

 

 

 

「む、ムーンライト!?な、何があって……!?」

「つぼみちゃんたちの知り合い?」

「あ、えっと、その!!」

「……まさか、ネオフュージョンと闇の使者?」

 

 

 

 ムーンライトと呼ばれた少女は映らなくなったが、鏡面は未だ巡たちを映さずに揺らいだまま。まるで、水面のようだ。もしかしてと思い、巡はなんの躊躇もなくその鏡面に触れる。

 鏡面はさらに大きく揺らぎ、巡の手を飲み込む。一体なんの仕組みかはわからないが、どうやら別の場所につながっているらしい。

 

 

 

「手が……飲み込まれた……!?」

「……ラブリー、みんな」

『うん、間違いなくそうかも!』

「おーけーわかった。……それじゃちょっと行ってくるね」

「あ、ちょ、ちょっと!?」

「巡ちゃん!」

 

 

 

 えりかやいつきの制止を聞かぬまま、なんの戸惑いもなく巡は鏡の中へと入っていった。流石に緊急事態のためか、ステフォンのミュート機能は外れている。

 もう色々と見てしまっているつぼみたちも、身内が鏡に映った時点で流石に動かざるを得なかった。彼女がなかなか自分たちの前に現れなかったのは、そういうことだったのだろう。

 

 何か、自分たちも知らない何かに、巡もゆりも巻き込まれていると────。

 

 

 

「二人とも!私たちも行きましょう!」

「そうだね。僕たちも急がないと」

「よぉし!何が何だかわからないけど、ゆりさんたちを助けに行くっしゅ!」

 

 

 

 巡が通り抜けた後、まだ大きな波紋を描いたままの鏡面を、警戒した様子で見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『キキッ!!』

『キーッ!!』

「わあ、ショッカーの戦闘員かマスカレイド・ドーパントみたいな奴がいっぱいいるね」

『うーんまるでいつも通りだ!』

『囲まれてるんだけど!?』

 

 

 

 星の様な煌めきが、虹の様なゆらめきが、宇宙空間のような暗い世界を彩っている。

 鏡面を潜り抜けた先は、いつもワープホールを潜り抜ける際に見るあの狭間みたいな場所だった。巡はそこで、同じような見た目をした大量の灰色の戦闘員に囲まれ、逃げながらあの白銀のプリキュアことキュアムーンライトと合流するために探していた。

 

 

 

「で、ここどこ?他の世界に行くときに見るあのトンネルみたいなとこだけど」

『おんなじ感じだからきっとそこだよ!でもなんで鏡と繋がってるの!?』

『闇の使者の誰かが細工したとか!!』

『やりそうなのって誰だと思う!?あたしはブルームかドリームのどっちかに一票!』

『えぇ〜!?一番はミラクルだけど、ハートやブロッサムもやりそう!』

『あの二人はパワーで解決するから違うと思う!つぼみちゃんのいる世界だからブロッサムだって!』

「やっぱり君たち闇の使者と意識共有してるよね?」

『そうりゃそうだよ!じゃなきゃ知ってること言えないでしょうに!』

『なんだかんだで巡ちゃん、生身で全部避けてる……!なんでぇ???』

 

 

 

 巡はキキキという鳴き声しか出してくれない戦闘員たちの攻撃をうまく潜り抜けつつ、何やら戦闘が行われているだろう場所に向かう。

 

 

 

「さっきからいるこの戦闘員の名前は?」

『スナッキー!でもみんなネオフュージョンの欠片でできた偽物だよ!』

『あ!!!あそこにいるのは!!!』

 

 

 

 戦闘員たちの隙間を潜り抜けてたどり着いた広がり。そこにいたのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いた!いたよ!ムーンライトいた!」

「……!なぜ、私の名前を……!」

 

 

 

 巡がそこで出会ったのは、鏡面に一瞬だけ映ったプリキュア────キュアムーンライトその人だった。

 

 

 

続く…

 




次回更新日:5月3日(金)
ゴールデンウィークなので金土日で1話ずつ出す予定です。
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