PrecureStageON!   作:主氏レム

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第9話:光の射す方へ!狭間の世界の戦い

 

 

 

 

 

「プリキュア・オープンマイハート!」

 

 

 

 ここは『狭間の世界』。世界と世界を結ぶ間の異空間。巡が他の世界へ飛ぶ際に通る、ゆらめく星空とオーロラのような光が淡く照らすだけの、不思議な空間。

 本来ならトンネルのように一方通行の狭い空間のはずが、闇の使者の策略により、ドーム状の切り取られた場所として『ハートキャッチプリキュア!』の世界と強制的に繋がってしまったようだ。

 

 

 

「月光に冴える一輪の花!キュアムーンライト!」

 

 

 

 月影ゆりことキュアムーンライトが邂逅した『別の世界の花咲つぼみらしき少女』により、この閉塞した空間に閉じ込められてしまった。

 空間内にはスナッキーと呼ばれるいわゆる雑魚敵が大量に出現していたようで、出口やあの少女を探すよりも先に、この数の戦闘員たちをなんとかしなければならなかった。倒しても倒してもキリがなく、出口らしき場所も見つからない。

 

 そんな絶望的状況の最中に希望の光の如く現れたのが、彼女が全く知らない人物だった。

 

 

 

「いた!いたよ!ムーンライトいた!」

「……!なぜ、私の名前を……!」

 

 

 

 ムーンライトの前に現れたのは、『ハートキャッチプリキュア!』の世界にてえりかのコーデ合わせに付き合っていたところだった、繋巡だ。鏡を見ていたら突然その鏡面が揺らぎ、この場所へと繋がるようになり、一瞬だけ映ったムーンライトを助けるために、危険を顧みず侵入してきたという。

 巡が私服ではなくえりかに選んでもらった服を着たままなあたり、何も考えずに入ってきたのか、相当驚いてやってきたのか。

 

 名前を知っているのはつぼみが一瞬口走ったのを聞いたのと、巡がプリキュアの予習をしたお陰でもある。後者に関しては、当のムーンライトにとってはなんのこっちゃの話にはなるが。

 

 

 

「あなたが誰かは分からなけれど、どうしてここへ?」

「なんで鏡の中にあっちの世界のムーンライトがいるの?」

「「……ん?/え?」」

『同時に聞いちゃったらそうなるよね!?』

 

 

 

 ムーンライトと巡はほぼ同時に純粋な疑問を互いに投げかけたために相手が何が言ったのかを聞き取れず、思わず聞き返す。ついでと言わんばかりにプロトラブリーに突っ込まれている。

 しかしそう呑気にやり取りをしている場合ではない。突如現れた乱入者に一度は怯んだ戦闘員たちは、気を取り直して二人に襲い掛かろうと飛びかかる。

 

 

 

『なんでこんなにネオフュージョンの欠片が!?分裂したの?!』

「……何か知っているようね」

「知ってるも何もこの大量の戦闘員を使役してるっぽい黒いプリキュアを探してるんですがひとまずこっちをどうにかしないと!」

『巡ちゃん!変身するよ!』

 

 

 

 巡はステフォンを構える。見慣れないアイテムを構えたところで、ムーンライトは彼女も自分と同じ立場(プリキュア)だということだとすぐに理解する。

 

 

 

「コンプリート・ステージON!」

 

 

 

 光を纏った巡は、いつものあのコンプリートの姿となる。

 

 

 

「現となりし、12の魂!キュアコンプリート!」

 

 

 

 

 

「話はおいおいするとして、今は周りの戦闘員をどうにかしよう!」

「ええ。あなた、かなりの事情持ちのようね」

 

 

 

 襲いかかるスナッキーの大軍に対し、たった二人のプリキュアは身構えた。

 

 

 

 

「……さて、コンプリートは私に気付けるでしょうか……?」

 

 

 

 その様子を、ムーンライトをこの世界に引き込んだ闇の使者がどこかで様子見をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第9話:光の射す方へ!狭間の世界の戦い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────つまり、私が見たつぼみは、『闇の使者』と呼ばれる存在だったのね?」

「そういうこと!」

『CureWeapon!Lovely!』

『PowerCharge!Muse!』

『キキーッ!?』

 

 

 

 ショットガンから放たれる笛の音と泡のような大量のエネルギー弾の波が、迫るスナッキー達を押し返す。ひとまず奥の方まで流しておけばしばらくは近づくのにも時間がかかるだろう。

 その間にムーンライトが出会った方のつぼみの話をすると、プロトキュアたちが「絶対その子が闇の使者だ!」と確信したようだ。巡がこの世界に来る前に、闇の使者たちはすでに入り込んで何かしらを仕掛けるということもあるらしい。

 

 

 

『この場所への入り口があるってことは、出口もどこかにあるんだよ!』

『ゆりさんや巡ちゃんが別々の場所からここに飛んだみたいだし、出入りできる場所も複数ありそうだよね』

「なるほどね〜、けどまずはこの大量の戦闘員をどうにかしないとまずいよね」

『こ、こんな大量の相手がいるなんて……!』

「ちょっと待った〜!!!」

「……え?」

 

 

 

 上空から聞き覚えのある少女たちの声が聞こえた気がして見上げると、同じく鏡の中から入ってきたであろうつぼみ、えりか、いつきの3人が光のマントを纏って現れたのではないか。

 その手には、ココロパフュームとプリキュアの種が握られていた。

 

 

 

 

 

『プリキュア・オープンマイハート!』

 

 

 

 何の予告もなしに鏡の奥に続く世界に飛び込んでいった巡を追いかけて、彼女たちもやってきたのだ。

 

 

 

「大地に咲く一輪の花!キュアブロッサム!」

「海風に揺れる一輪の花!キュアマリン!」

「日の光浴びる一輪の花!キュアサンシャイン!」

 

『ハートキャッチプリキュア!』

 

 

 

 2人でもかなり大変だったこの状況の中、もう3人のプリキュアが降臨した。

 

 

 

「さらに増えた……あとなんかいつきちゃんの雰囲気変わった……」

『ツインテールかわいいよね!』

『えぇ!?ピーチもそっち側に回っちゃうの!?』

「わかる」

『わかっちゃったよ!!』

「あー!さっきのめぐるんもプリキュアだったの!?」

「見慣れないアイテムから声がした時点で、もしかしてとは思ったけれど……」

「隠すつもりではなかったんだけどね」

 

 

 

 マリンには驚かれているが、直前に色々見せていたおかげで、ブロッサムとサンシャインは何となく彼女が『プリキュア』だと察してしまったようだ。

 

 

 

「ムーンライト、大丈夫ですか?」

「コンプリートもいるから、私は何とか平気よ。気づいてきてくれると信じていたわ」

「ムーンライトに信頼されてるよあたし達〜」

「あれ……?マリンってお調子者タイプ……?今まで出会った青い子の雰囲気とは何か違うような」

『マリンはあれで通常運転というか何というか……』

 

 

 

 まるで今までの世界で出会ったピンク色のプリキュア達の如く表情がコロコロ変わるマリンに対して妙な新鮮味を覚えつつ、コンプリートは先ほど見えた闇の使者の方を見据える。

 

 

 

「ブロッサム!ここに来て早々なんだけど、ここにいる大量の戦闘員のこと任せてもいい?あそこに多分、ムーンライトを閉じ込めたかもしれない相手がいるから、話をつけてくる!」

「わ、わかりました!お気をつけて!」

 

『CureWeapon!Happy!』

 

 

 

 ブロッサム達に地上を任せ、コンプリートは空間の上の方で見た闇の使者の方に向かって翼で飛んでいく。そんな彼女を追いかけるように、スナッキー達が追いかける。

 

 

 

「あなた達の目的はわかりませんが、これ以上好きにはさせません!私、堪忍袋の尾が切れました!」

「あんた達の相手はあたしたちよ!マリン・ダイナマイトッ!」

 

 

 

 マリンを中心にして弾けた水色の光が、スナッキーたちを巻き込んで行く手を阻む。上空からその様子をコンプリートはチラリと見ていた。

 

 

 

「わあ、すごい爆発……」

『ねえ見て!あそこに誰かいるよ!』

 

 

 

 プロトメロディに言われて前を見ると、待っていたと言わんばかりに一人の闇の使者が浮かんでいた。

 

 黒いコスチュームを纏ったキュアブロッサム────“闇の使者”のダークネスブロッサムは、コンプリートを見つけた途端に黒いタクトの先を向ける。

 

 

 

「来ましたね、コンプリート。待っていましたよ。あなたならくると思ったからゆりさんだけをここに連れ込んだのに、まさか自分たちまでこちらに来てしまうとは……」

『つぼみちゃん達なら絶対来るよ!あなただってわかっててやったでしょ!』

「さあ、どうでしょうね」

「どうせステフォン狙いなんでしょ?渡さないからね!」

「さっさと渡せばいいものを……」

 

 

 

 光を纏った突進を仕掛けるも、ダークネスブロッサムはぶつかる寸前に移動し、コンプリートの後ろに回る。彼女が穿ったのは残像だ。

 

 

 

「うぉっとあっぶな」

「避けられましたか……」

 

 

 

 ステフォンが入ったキャリーに手を伸ばされそうになるが、コンプリートがすぐに気づいて方向転換する。

 

 

 

「ねえ!君たちはなんでステフォンとラブリーを狙うの?」

「あなたに教えるようなことではありません!」

「えぇ〜?それを教えてくれないと判断ができないんだけど……まさか、『ブラック』って人に教えられていなかったりしない?」

「……!!」

「ステフォンの中のハッピー達は、あんまり知らなそうな感じだったからそうなのかなとは思ったけど……図星?」

「だ、黙っててください!」

 

 

 

 何か聞いてまずいものでも踏んだのか、ダークネスブロッサムの周囲に浮いていたガラスの破片のような物体から、黒い花びらの旋風が吹き荒れコンプリートを落とそうとする。彼女はなんとか旋風を避けて、ダークネスブロッサムの方に近づこうとする。

 

 

 

「あたしもしかしてちょっと地雷踏んじゃった?」

『そりゃ軽率にブラックの話を出したら!』

『闇の使者達も“ステフォンとラブリーを取り戻せ”としか言われてないから……』

「や、闇の使者達がブラックって人のことを信頼してる証拠だって前向きに考えれば……」

『気をつけて!風に煽られたら一気に攻め込まれるかも!』

「それはまずい」

 

 

 

 翼を展開して飛んでいるのだから、強い風にあたれば思い切り煽られる可能性も大いにある。どうにか、反撃ができそうな隙を探すが、近づかせてくれる気配は今のところない。

 

 

 

「あの人は、私たちを思って何も言っていないだけなんです!」

「やっぱり聞いてないじゃん、報連相がルーズなだけだよそのブラックって人」

『はっきり言った!?』

「こ、これ以上あの人への悪口を言うなら、私、容赦しません!」

「悪口じゃないって待って」

 

 

 

 ダークネスブロッサムの背後から、波のように大量のスナッキーの形をした欠片が出現し、コンプリートを飲み込もうとする。

 

 

 

「ちょっと容赦しなさすぎじゃない???」

『コンプリート!ここは私に任せて!』

 

 

 

 

 

『CureWeapon!Melody!』

 

 

 

 ステフォンからの音声と同時に、コンプリートの両手にステフォンの画面から飛び出した光がとある形となって出現する。

 

 それは、リボンで飾られたマゼンダの『ハンドベル』型の物体。キュアメロディを模したであろうそれは、コンプリートの第4のキュアウェポンとしてプロトメロディが変化したものだ。

 

 

 

「は、ハンドベル?『メロディベル』ってこと?これでどうしろと」

『音を鳴らして!』

「わ、わかった」

 

 

 

 プロトメロディに言われるがままベルを鳴らす。綺麗な音色と共に、音の衝撃波が迫る欠片の大群を押し返して地上に落とす。どうやらこのハンドベル、十分に戦えるポテンシャルは高いようだ。

 

 

 

「……す、すっご……これは響鬼的なこともできるのでは」

『え、何どう言うこと』

「こういうこと!」

 

 

 

 コンプリートがメロディベルを構える。片方に桃色の、もう片方にはオレンジ色の炎が宿り、メラメラと燃える。欠片が押し返されたのならばと、ダークネスブロッサムは黒い光を纏ってこちらに飛んでくる。

 コンプリートは、炎を纏ったベルを大きく鳴らす。りぃんと綺麗な音色と共に、二色の炎が放たれる。光と炎はぶつかり合い、火花と硝煙を放ちながら大爆発を起こす。

 火花が散り、周囲の破片らしき物体に当たっては弾ける。その破片の一つが、一瞬だけ強く煌めいた気がした。

 

 

 

「……ん?」

 

 

 

 煙が晴れると、そこにダークネスブロッサムの姿はなかった。逃げられてしまったのだろう。

 どこに逃げたのだろう。その前に、自分たちはここからどう脱出すればいいのだろう。さっき煌めいた破片に近づき、よく見てみる。その破片だけ、この狭間の世界由来の光ではないような明るい光を差し込ませていた。

 

 

 

『これだけ何か違う……!あれ?他にも何か映って……』

 

 

 

 プロトラブリーが続けようとしたその時、大きな物音が下の方で聞こえた。

 下の方で戦っていたブロッサム達に何かがあったわけではなく、むしろ何かがあったのは欠片の方だ。欠片達はハートキャッチプリキュア!の4人によって着実に数を減らしていたようだが、個々で戦うと負けると察したようで、欠片達はその体を合体させ、巨大なスナッキーとして4人の前に立ちはだかったのだ。

 

 

 

「ちょ、ちょっとデカくない!?」

「巨大化は敗北フラグだよ!」

「みんなの技を集中させれば……!」

 

 

 

 怪物の動きは巨大化した反動で幾分か鈍くなっている。しかし、その振り上げた拳の威力は計り知れないものになっているだろう。

 あの時、弾けた大きな火花が、あの光が差し込むガラスの破片のような物体に当たった時、一瞬だけ強い光を放っていた。破片から見えたものと繋がっているのならもしかすると……。

 

 

 

「ブロッサム!みんな!」

 

 

 

 何かを思いついたコンプリートは、ブロッサム達の方に向かって大声を出す。

 

 

 

「光の差す方に向けて何かをぶつけて!」

「え、えぇぇ!?どこ!!」

「あれだわ!」

 

 

 

 からくりに気づいたコンプリートの言葉に一瞬戸惑うも、周囲を漂う破片のような物体の一つから、雲間から刺す日の光(薄明光線)のような光の筋が見えた。その奥でコンプリートは、見覚えのある希望ヶ花市の街並みが見た。

 スナッキーの姿をした巨大な怪物をぶつけて何か衝撃を与えれば何かが起こるだろうと踏んだのだろう。何の確信もないが、やってみる価値は存分にある。

 

 4人が今からやろうとしていることに気づいた怪物は、そうはさせまいとその拳を強く振り落とす。しかしそれは、サンシャインが展開した光のバリアによって阻まれ弾かれる。

 

 

 

「花よ舞い踊れ!」

 

 

 

 続けて踊るようにシャイニータンバリンを鳴らし、周囲にひまわりの花の形をした大量の光弾を展開する。

 

 

 

「プリキュア・ゴールドフォルテバーストッ!!」

 

 

 

 光弾は怪物の拳を集中的に狙い、大量に被弾する。マシンガンのように放たれるそれの威力に押し負け、怪物の片腕は宙に投げ出される。

 

 

 

「花よ輝け!プリキュア・シルバーフォルテウェイブッ!!」

 

 

 

 さらに追撃として、銀色の光を放つ蕾の形をしたエネルギー弾が襲い、怪物を標的の光射す破片の方に向かって押し込んでいく。

 怪物はこのままやられてたまるかと抜け出そうとするが、ブロッサムとマリンがそれを許さない。

 

 

 

「「集まれ、二つの花の力よ!」」

 

 

 

 手を繋ぎ、タクトには二人が司る花の力が集まる。タクトの先で描くのは、フォルティシモ記号。

 

 

 

「「プリキュア・フローラルパワー・フォルティシモッ!!」」

 

 

 

 ブロッサムはピンク、マリンは水色の光を纏い、怪物に向かって勢いよく突進する。これ以上押し込まれて仕舞えば怪物も身動きが取れず、4人の力に押し込まれるまま、破片に衝突した。

 

 

 

 

 

 瞬間、狭間の世界は光で満ち溢れ、視界は白く塗りつぶされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っ、ここ、は……」

「嘘……!?」

 

 

 

 先にあの世界を脱出していたダークネスブロッサムは驚く。彼女達は、自力であの世界から希望ヶ花市へ戻ったのだ。4人とコンプリートは脱出を喜ぶまもなく、残った闇の使者と対峙することになる。

 コンプリートは飛び出しそうになっているマリンを制し、一歩前へ出る。彼女一人で、ダークネスブロッサムと戦うつもりだ。

 

 

 

「あなた一人でやるつもりですか……まあいいでしょう。私の全力を受け止めてみなさい」

「オッケー頑張る……」

 

 

 

 ダークネスブロッサムの体から闇の力が溢れ出し、フラワータクトによく似たアイテムが握られる。

 

 

 

「ダークネス・ピンクフォルテウェイブッ!!」

 

 

 

 桃色の光を纏った黒い蕾の形をしたエネルギー弾が、ピーチイージスを構えたコンプリートに迫る。しかし彼女は逃げも隠れもしない。なぜなら、そのエネルギー弾を跳ね返そうとしているのだから。

 

 

 

「ピーチ、行くよ!」

『オッケー!』

 

『PowerCharge!Sunshine!』

 

 

 

 キュアサンシャインの力を纏った盾は、黄金色の光で形成された円形の防御壁を前面に展開し、ダークネスブロッサムのはなったエネルギー弾を受け止める。光の粒を撒き散らしながら、エネルギー弾に巻き込まれそうなコンプリートを守り通している。

 

 

 

「ぐ……結構威力高いねこれ……」

「避けなくて、良かったんですか?このままではあなたが巻き込まれてしまうのに」

「君は優しいね……あたしを心配してくれるなんて……!君もあんまり戦いたくはないって人?それも、ステフォンやラブリーのため……?」

「……っ、それ以外に、何があると?」

 

 

 

 冷静なふうに装って、どこかでは必死になってタクトを回して力を送り、コンプリートを押し切ろうとしているが、コンプリートも負けてはいられない。向こうに何かしらの理由があろうと、こっちだって闇の使者引いてはいまだに訳のわからないネオフュージョンにステフォンを渡すわけにはいかないのだ。

 最初の頃は他の世界のみんなに支えられて押されないようにしてくれたが、今では盾があるし、自分もステフォンの力をうまく使いこなせるようになってきた。だから彼女は、踏ん張っていられる。

 

 

 

「でも……あたしも、あたしだって、負けられない……!」

『コンプリート!一気に決めよう!』

「うん!……はぁっ!」

 

 

 

 後退りしそうな片足を一歩前に踏み出し、腕を伸ばす。

 瞬間、黄金色の光の防御壁が花びらが開くかのように大きく広がり、黒い蕾のエネルギー弾を包み込んでしまった。一つの黄金色の巨大な光の玉となったそれは、多数のハートとなってコンプリートの周囲に出現する。

 

 

 

「な……っ!?」

真愛なる太陽の花(ラブサンシャインインパクト)ッ!!」

 

 

 

 黄金色の日の光のようなハートの光弾は、舞い踊るようにダークネスブロッサムの方に向かって大量に飛んでいく。危険を察知して逃げ惑うも、光弾は追尾しその逃げ場すらを失わせ、とうとうそのうちの一つが彼女に被弾する。

 被弾して体勢が崩れた瞬間、残りのハートが容赦なく彼女に向かって飛んでいき、動きを封じるように花が開く。必殺技を放つなら、今だ。

 

 

 

「それじゃあいつもの行くよ!プリキュア・ポップンロケットシャワーッ!!」

「っ!!」

 

 

 

 ダークネスブロッサムを閉じ込めた大きな花を、コンプリートが放った無数の愛あるハートの奔流が優しく包み込む。

 闇の使者から溢れ出ていた余分な闇の力だけを消し去り、一時的に無力化させるだけでも随分と助かっている。

 花とハートの波から解放されたダークネスブロッサムがおろされ、ぺたんと座り込んでしまう。その胸の紅いクリスタルからは桃色の光の玉が飛び出し、コンプリートの方に飛んでいく。

 

 

 

「うぅ……今回はいけると思ったのにどうして……」

「あー、なんかごめん」

「謝られるともっと悔しいのでやめてください」

「……はい」

 

 

 

 悲しそうな悔しそうな顔のダークネスブロッサム思わず謝ってしまうが逆効果だったようだ。話をしようと声をかけようとするが、向こうはそんな気分じゃなったようでどこかに消えてしまった。結局、闇の使者から得られそうな情報はなかったようだ。

 その様子を、この世界のブロッサムは困惑と心配を孕んだ目で見ていた。

 

 

 

「あの子は……本当に別の世界の私なんでしょうか……?」

「似てるところは色々あったけど、なーんであたしたちと敵対するようなことしてんだろうね?」

『一番知っていそうなのはブラックだけど……闇の使者達にも言ってないみたいだし……』

『私たちも記憶があれば、なんでステフォンを狙うのかの理由がわかるかもしれないのに……』

 

 

 

 いなくなる前の彼女の背中はどこか寂しげで、絶対に過去に何かがあったんだろうなとわかるような雰囲気があった。その理由を聞きたいのに、すぐにいなくなってしまうため、歯痒い思いだけが募るばかり。せめて話し合うことができれば、変に争い合わなくても済みそうなのだが……。

 ダークネスブロッサムから飛び出した光の玉は、コンプリートたちの気持ちとは裏腹にステフォンの画面に向かって吸い込まれていった。

 

 瞬間、ステフォンからは白い光が溢れ出し、コンプリートの視界を白く塗りつぶしてしまう。ああ、またあの世界に意識が飛んでいってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ほらやっぱり今回もそうだよね」

 

 

 

 ステフォンから溢れた白い光が収まると、コンプリートは三度、あの灰色の『水晶の世界』に飛ばされていた。もはや恒例行事となってきたため慣れたものだ。

 

 どう足掻いても顔と視線しか動かせないが、見渡してあの水晶の柱を探す。今回コンプリートが立っていた場所は、この前の3回とは違う水晶の柱の近く。

 同じことが起こるのなら、水晶で眠る見覚えのあるプリキュアは、さっきまでいた世界のプリキュアと同じになるはず。

 

 

 

「ということは……ブロッサム、だよね」

 

 

 

 水晶の中で眠るのは、コンプリートの予想通り、キュアブロッサムだった。

 

 今回はなんとかして、この世界で何があったのかということを聞き出すことができればいいのだが……。

 

 彼女が眠る水晶の柱からは、淡く優しい桃色の光が溢れ出し、厚い雲が覆う天へと伸びていく。それと同時に、コンプリートの視界も一瞬だけ光に飲まれていく。

 

 光が収まり辺りを見回すと、足元に違和感を感じて下を向いた。足元は灰色の砂の地面から、全てではないが緑の草原と淡い色の小さな花々が咲き乱れ、広がっていた。花は浮遊するステージの上にも侵食している。

 小鳥といい建造物といい音といい、ものが増えるだけでこの水晶の世界の寂しさは弱くなっているが、流石にこれだけ大きな変化があると一気に雰囲気が変わる。

 

 

 

「とうとう花が咲いたよ……いよいよファンタジーに出てきてもおかしくない楽園めいた風景になってきたよこの世界」

「確かに……なんかしらのゲーム作品に出てきそうだよねー」

「そうそれ。って、ぬるっと会話に混ざるのびっくりするから勘弁して」

 

 

 

 コンプリートの独り言を思い切り聞いていたのか、光に導かれてこの世界に辿り着いたらしいマリンが当たり前のように混ざり、会話として成立させた。そのすぐ後に、サンシャインとムーンライトも合流し、コンプリートの目の前に現れた。

 やはり彼女たちは、幽霊のように体が透けている。

 

 

 

「毎回思うけど君たちって……どうして体透けちゃってるの?」

「どうしてと言われても、私たちも詳しいことはよく覚えていないんだ」

「あらそうなの?」

「まるでその部分の記憶だけがすっぽり抜け落ちてるみたいな感じで……」

 

 

 

 ただ……と、サンシャインが言葉を続ける。

 

 

 

「ただ、私たちがわかっているのは……この世界────私たちが元々暮らしていた世界が『崩壊』して、一度みんなバラバラになって、『声』に導かれてこの世界を探していたこと、かな」

「『崩壊』……」

「なんらかの原因で世界が崩壊した影響かどうかはともかく……私たちの肉体も消滅し、魂だけが幽霊のようになってしまったらしいわ」

「……、え?肉体が消滅?世界崩壊って、肉体が消し飛ぶくらいの衝撃だったの?」

「え……えっ!?そうだったの!?」

「は、はぁ!?!?」

「わあなんかいっぱいきた」

 

 

 

 サンシャインの説明に、ムーンライトが補足する。というより、ムーンライトの言葉に全部を持っていかれた。コンプリートも表情には出さなかったものの少なからず衝撃を受けている。なんならムーンライトにとっても信じ難いことだったようで、表情は硬い。

 驚くマリンとサンシャインの他にも、先にこの世界に辿り着いていたプリキュアたちの声も聞こえ、光の玉としてすっ飛んでくるくらいだった。

 

 

 

「わ、私たちの体無くなっちゃったの?!」

「ウチらもこの世界に戻ってきたときはなんで透けてんのかもわからんかったけど、そういうことなん!?」

「あ、君たちもあんまりわかってなかったのね」

「よく考えてみれば、体が半透明だったり、長く元々の姿になれないのは……」

「私たちはどうして今こうして動けているの……?」

「ますます何があったんだこの世界」

 

 

 

 衝撃の事実がさらっと判明して混乱する一方、ムーンライトですらもうまく事実を受け入れていない気がする。

 

 

 

「ムーンライトは、どうやって肉体が消えてることに気づいたの?」

「……覚えている範囲でなら、大きな光の爆発にみんなが巻き込まれてしまったの。勿論、私も……気づいたら体が軽くなっていたから、嫌な予感がしただけよ……」

「そういえば、とてつもない力に飲み込まれたような気が……」

「……あぁ、あかん!その前に何があったかが、なんも出てこうへん!」

「それに、どうしてピーチたちは水晶の中で眠っているのかの、疑問も浮かんでくる……」

 

 

 

 みんな必死で思い出そうとするが、何も出てこないようだった。余程のことがこの世界であったのだろう。

 爆発なら確かに、肉体に重度のダメージを負わせることができる。それにここは巡の世界とは全く違う(プリキュアみたいな不思議なパワーの)概念があるなら、肉体自体を消し飛ばしてしまう程度の馬鹿みたいな火力も威力も十分すぎるくらいに出せそうだ。

 水晶の中で眠る『主役』たちは、その爆発から守るために生成されていそうだが、なぜ彼女たちだけなのだろうと言う疑問も湧いてくる。

 

 その爆発を起こしたのは、一体誰だ?

 

 

 

「……肉体と魂が離れ離れになったとして、仮にネオフュージョンが力を狙っているとして……」

「え……?」

「どちらかが手に入れば、勿論もう片方も狙う……彼女たちの全てが奪われないために、この水晶ができたとしたら……」

「どこかに、ブロッサムたちがいる……?」

「保証は全くないけどね……」

「ブロッサムはまたどうしてネオフュージョンに?やっぱり力?」

「うーん、そこまでは……」

 

 

 

 またしても、視界がゆっくりと白く染まっていく。今回も長めに会話できたようだが、大きな情報と新たな疑問、そのどちらも得てしまった。

 

 

 

「あんたの言ってることが当たったんなら、水晶の中にいるブロッサムは多分肉体の方じゃないか?!」

「……離れた魂が今どこにいるのか、なんとなく分かるような……」

「えぇぇ!?どこ!?」

「この世界に、あたし以外で人ってこないの?黒いプリキュアとか!」

「く、黒いプリキュア!?ブラックじゃなくって?」

「そういえば、私たちがこの世界に来たばかりの頃に、ローブで顔を隠した二人の少女が現れたんです!」

「だ、だれだった?」

「声だけで言うなら、あの二人は────」

 

 

 

 自分の予想が当たってほしくはないが、もし彼女たちの肉体と魂が分離して、肉体があの水晶の中で眠っている者達だとすれば、魂はおそらく……。

 それに確信を得るための答えを聞こうとするが意識が続かない。

 

 

 

 

 

 世界は明転し、コンプリートの意識を元の世界に引きずり戻す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!」

 

 

 

 

 

 がばりと起き上がると、コンプリートの意識は元の希望ヶ花市に戻ってきた。とても大事な情報を得られたのに、肝心の答えは全く聞こえなかった。

 

 

 

「大丈夫ですか!?」

「う、うんあたしは大丈夫」

「うわあ急に起き上がるな」

「と、とりあえずとんでもなくでかい話を聞いた気がする……」

『やっぱり、コンプリートが見たっていう世界の!?』

「そ、そうそれ。ステフォンの方も増えた?」

『うん!』

 

 

 

 プロトラブリーがステフォンの画面を見せると、猫耳と二頭身の、キュアブロッサム似の精霊────プロトブロッサムが仲間入りしていた。彼女は眠そうな眼を擦りながらゆっくりと起き上がる。

 さっきの世界で聞いた話といい自分で導き出した予想といい、もしそれが本当ならば、ステフォンの中のプリキュアたちを純粋な気持ちで見ることができない気がする。

 

 

 

『ん……あれ……?ここは……』

『ステフォンの中だよ、ブロッサム』

『ステフォンの中』

「元気?」

『い、一応元気ですけど……、あ、あなたが助けてくれたんですか?!ありがとうございます!』

「あー、いや。元気そうでよかったよ」

 

 

 

 とりあえずブロッサムは元気そうだ。自分の予想の話は、とりあえずこの世界から帰ってからの方がいいかもしれない。いくらなんでも情報が多すぎる。

 

 

 

「ひ、ひとまず闇の使者は追い払ったってことでいいんだよね?ということは、続きができる……」

「続き……?」

「さっきはゆりさんがいなかったから本来の目的を果たせなかったけど……」

 

 

 

 変身を解いたえりかによって、ゆりと巡はその腕をガッチリと掴まれる。心なしか、その目は期待と絶対に逃さないとでも言いたいかのような怪しげな目をしている。

 

 

 

「あの、何これ」

「巡と言ったわね。諦めなさい、こうなれば最後よ」

「な、なんですかその怖い言い方」

『あっ……』

 

 

 

 一体何が何だかわからなかったが、あのムーンライトこと月影ゆりが全てを受け入れ諦めた様子を見る限り、自分への拒否権はほぼないに等しい。プロトキュア達も何かしらを察したようだ。

 

 

 

「一件落着ということで、早速新作の衣装合わせをやるっしゅ!」

「あ、ちょっとえりか!待ってくださーい!」

「ふふっ」

 

 

 

 有無を言わさぬパワーで引っ張られ、フェアリードロップに向けて駆け出していく。どうやらしばらくは、元の世界には返してくれないらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<巡の世界 心野宮・繋家>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま……」

「あ、おかえり幸姉!」

 

 

 

 幸の誕生日当日。友人との外出から帰ってきたのを待っていた巡が、ある花のブーケを持って玄関へとかけていく。

 

 

 

「映画、面白かったし、カラオケもいっぱい歌って楽しかった……その花は?」

「これ、幸姉へあたしからのプレゼント!」

 

 

 

 ブーケに包まれていたのは、白い蝶のような花。

 

 

 

「これは……胡蝶蘭?それも紫の……」

「確か幸姉って花が好きだったし、友達に教えてもらいながら選んだんだ」

「そっか……、ありがとう、巡。とっても嬉しい」

 

 

 

 普段はあまり変わらない表情が、嬉しそうに緩んでいる。つぼみからのアドバイスと花言葉も加味しつつ、心野宮の花屋さんでかなり悩んだ上で選んだ甲斐があった。

 

 

 

「この花……後で生けていい?」

「うん!あたしはさっぱりだから、幸姉の好きに任せる!ほら、今日結構ご飯も頑張ったから早く食べようよ」

「ま、待って、ちょっと上着と花を……」

 

 

 

 性格が正反対であれ、仲のいい姉妹はわちゃわちゃしながらリビングの方に消えていく。これから楽しい二人だけの誕生日パーティーが始まるのだろう。

 その様子を、こっそりプロトキュア達がステフォンの奥で見守っていた。

 

 

 

『巡ちゃんのお姉さん、喜んでるみたいでよかった!』

『プレゼント選びは大成功だね!』

『胡蝶蘭の花言葉は“幸福が飛んでくる”。幸さんのこころの花と同じなのは偶然でしょうか……?』

『ブロッサム!……ん?こころの花?』

 

 

 

 プロトブロッサムが本来特別なアイテムを介してでしかみることができないものが見えているような発言をして、思わず聞き返す。

 こころの花は、『ハートキャッチプリキュア!』の世界における概念の一つで、人間一人ひとりの心の中に咲いている花である。

 

 

 

『ステフォンの中に入ったことが原因なのかはともかく、巡さんや巡さん周辺の人物の花が時々見えるようになったんですよね』

『何その状況!?』

『じゃ、じゃあ巡ちゃんの花も見れたりするの?』

『はい!さっき見えました!』

『どんな花だった!?』

『はい!メラスフェルラです!……あまりみたことがない花なんですけど……』

『め、めらす……?』

 

 

 

 聞き覚えのない花の名前に、4人が首を傾げる。しかしブロッサム自身もあまり聞き馴染みのない花の名前のようで、少し自信なさげではある。

 

 

 

 

 

『ちなみに花言葉は胡蝶蘭と同じ“幸福が飛んでくる”ともう一つ。“光の射す方へ”らしいですよ』

 

 

 

 ブロッサムは、姉と楽しく談笑する巡の笑顔をどこか優しい眼差しで見つめていた。

 

 彼女だけが見えている小さな黄色い花が、みずみずしく小さく揺れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<ネオフュージョンの世界 漆黒の城・闇の使者の大部屋>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「負けました〜!」

「あぁ〜……」

「ブロッサムでもダメだったか〜……」

「お疲れ様〜」

「いやあ、いけると思ったんですけどねぇ……」

 

 

 

 コンプリートとの戦闘を終えて、ダークネスブロッサムが拠点へと戻ってきた。コンプリートによって無事ステフォンを死守されてしまったのと、彼女の浄化技をがっつり食らったことで一時的な無力化を喰らい、撤退してしまった。

 

 

 

「……冷静になれなかったのが、今回の敗因だと思います。まさかあのコンプリートにブラックのことを言われるなんて……」

「あぁ……私も言われたらつい飛び出しちゃうかも……」

「もしかして、あたしたちがなんでステフォンを狙わなきゃいけない理由をブラックから聞かされていないことがわかっちゃったとか?」

「仕方ないよ。ブラックは、あたし達にステフォンの以外のネオフュージョンのおつかい全部やってるから……。何させられてるかは、なんとなくわかっちゃうんだけどさ……」

「でも、ステフォンは取り戻しても、ネオフュージョンだけには絶対に渡さないようにしないとね!」

 

 

 

 闇の使者達は、手を組んでいるネオジュージョンに関してはよく思っていない。ブラックにそう言われているから、絶対に渡したくない。

 

 

 

「というかピンク・カルテット全滅じゃ〜ん笑えないよ〜」

「本当にステフォンの力、恐るべし」

「コンプリートってあんなに強かったっけ?……見慣れないキュアウェポン?っていうのもあるし……」

「次はいったい誰が行くんだろう?やっぱりブラック?なんか出そうな雰囲気だったし」

「でもあの人まだ帰ってきてないよ?フローラたちになるのかな?」

「ねえねえ!次、あたしが行ってもいい?」

 

 

 

 突然声をかけられて振り向くと、黒いローブを羽織ったマゼンダの髪の闇の使者が笑顔で立っていた。どこか興味津々な様子で話を聞いていたようだ。

 

 

 

「ど、ドリーム!?いつからここに?!」

「あたしもステフォンの今の持ち主さんに会ってみたいし……いいよね?」

「わ、私たちは大丈夫ですけど……」

「ブラックに言わなくていいの?ブルーム共々まだ出るなって止められてるみたいな話を聞いたんだけど……」

「大丈夫大丈夫!後で言っておくから!」

「あ、ちょっと!」

 

 

 

 ピーチたちの制止を聞かず、少女────ダークネスドリームは部屋を出て行った。

 

 

 

「……行っちゃった」

「大丈夫かなあ……信頼はしているけど、ドリームって結構無茶しちゃうから……」

「ドリームを信じよう!……多分、大丈夫だと思うけど……なんか、怖いなあ」

 

 

 

 ローブの裾を揺らしながら楽しそうに駆けていく背中を、4人は止めようとしたけど行き場を失った腕で虚空を切りながら見つめることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わって、巡の世界でも他のプリキュアの世界でも、ましてはネオフュージョンの世界でもない、どこか違う世界。

 

 すでに廃墟とかしたこの街は真っ暗で不穏な色をした雲に覆われ、やがてネオフューションによって取り込まれるであろう。崩れ落ちゆく地面に伏すのは、名前も知らない『プリキュア』達。広がる空の下でこの世界を守っていたようだが、異空の闇であるネオフュージョンの侵攻には、成す術もなかったようだった。

 

 

「……」

『いい働きぶりではないか……』

 

 

 

 廃墟と化したタワーの上で、黒い翼を生やした闇の使者が壊れゆく世界を見下ろす。その後ろで、一回り大きな人型の黒い異形が出現する。地鳴りのような声で、嗤うように少女を褒めるが、少女にとってはあまり嬉しくない模様。

 

 

 

「別に……私は言われるがままにやっただけよ。望んでやったわけじゃない」

『それにしては随分と楽しそうに破壊していたな……ハマり役というものか』

「……っ」

 

 

 

 異形に嘲笑され、少女は赤くギラつく瞳で睨みつける。

 

 しかし、それらは全て、奴の言う通り。確かに彼女は、この世界のプリキュア達を自身の拳で殴り飛ばし、再起不能になるまで傷つけていた。

 

 

 

 

 

『忘れるなよ?貴様は、貴様の仲間に手を汚させたくないという、貴様自身の我儘で滅ぼしているのだからな』

「……ええ。分かってる。分かってるわ」

 

 

 

 

 

 ────これは、大好きな大切な仲間たちを守るための犠牲だ。

 

 自分だけが悪役としてこいつに従っているだけで、他の仲間たちは安心して本来の目的を遂行できる。あの子たちは、自分があいつによって何をさせられているかは知らない。知らなくていい。

 ……ただ、“これ”を知っているあの二人から話を聞く限り、本来の目的にはかなり苦戦を強いられているようだが……。

 

 

 

 

 

『貴様が嫌であれば、他の者に任せてもいいのだぞ?』

「そんなの、ありえない。……手を汚すのは、私だけで十分よ」

 

 

 

 滅びゆく世界を少女は────ダークネスブラックは、無情さの奥底にもの悲しさと憂いを孕ませた紅い瞳で見ていた。

 

 

 

 

 

続く…

 




次回投稿日:5月4日(土)
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