「プリキュア・シューティングスターッ!!」
『ホシイナー!!!』
光を纏った突進が、ホシイナーと咆哮を上げる怪物の体を貫く。怪物は一瞬にして消滅するも、次から次へと同じような怪物が出現する。
「何が起きてんのよ一体!」
「倒しても倒しても、キリがありません!」
5人の希望のプリキュアと、青い薔薇の戦士は、突如街に出現した怪物の大群に襲われかけ、こうして怪物をやっつけるために戦っている最中だった。
「おかしいわ。エターナルの仕業にしては、ローズパクトやココさん達を狙わないなんて……」
「それに、幹部らしき人物も見当たらない……」
「あはっ、困ってる困ってる〜」
「ちょ、ちょっとドリーム?」
「え?あたし何も喋ってないよ!?」
「違うわ上よ!」
ドリームと呼ばれたピンクのプリキュアらしき声が聞こえ、青い薔薇の戦士が何呑気なことを言っているんだという目で睨むが、当のドリームは何も喋っていないどころかずっと怪物の方を見ている。しかも、声が聞こえたのは彼女の方からではなく、上だ。
青いプリキュアが何かに気づいて見上げると、そこにはおそらく先ほどの声の持ち主らしき人物が、あるホシイナーの上に腰掛け、6人の様子をニコニコで伺っていた。顔は、ローブを深く被っているためよくわからないが、入りきらなかった長いマゼンダの髪が風に揺れている。
「あ、アンタは……!?このホシイナーの大群は、アンタが操ってんの!?」
「そうだよルージュ!すごいでしょ!」
「……っ!?どうして名前を……」
「んー、どうしてだろうね?」
ルージュの問いかけにわかりやすく惚けつつ、ローブの少女は怪物の上から飛び降りて、6人と向かい合うように、同じ地上に立つ。
「ねえねえ、ここに“コンプリート”っていう子が来なかった?」
「こ、コンプリート……?」
「その様子だとまだ来ていないっぽいね……それならそれでいいや」
ローブの少女の右手に、紅い光で作られた、
ドリームの瞳には、ローブの奥に見えた少女の顔とその紅い瞳が、目一杯映った。
キュアコンプリートこと繋巡が、『Yes!プリキュア5Go!Go!』の世界に辿り着く数分前の出来事である。
第10話:まるで眠り姫?夢見る乙女の誘拐事件
<巡の世界 心野宮・私立光星中学校 玄関前>
6月の心野宮。
絶賛梅雨前線の元で、なかなか青い晴れ間を見ない日々が続いている。本日はなんと午後から雨が降り出し、帰る時間になっても止む気配はない。
「まさか折り畳み傘を忘れていくとは……折り畳み傘の存在意義を疑わなきゃいけなくなるよ」
繋巡は通学用バッグの中身を漁るが、入れていたはずの折り畳み傘がどこにも見当たらない。普段なら常にバッグの奥に忍ばせているはずが、今日に限って忘れてきたらしい。何ならステフォンも忘れている。何という偶然。
学校から駅まではそこまで遠いわけではないので、このまま濡れて駅まで走るか、それとも少し収まるまで教室に戻るかを迷っていた。後者の方が“あのこと”について考えるには都合がいい。
“あのこと”────それは、あの水晶の世界で聞いたお話。
『ただ、私たちがわかっているのは……この世界────私たちが元々暮らしていた世界が“崩壊”して、一度みんなバラバラになって、“声”に導かれてこの世界を探していたこと、かな』
『“崩壊”……』
『なんらかの原因で世界が崩壊した影響かどうかはともかく……私たちの肉体も消滅し、魂だけが幽霊のようになってしまったらしいわ』
『え、肉体が消滅?世界崩壊って、肉体が消し飛ぶくらいの衝撃だったの?』
体が透けていたプリキュア達のことや、あの世界が『崩壊』した原因になったかもしれない爆発のこと。それら全て、プロトラブリー達には何も言っていない。
一度あの世界の存在についてはふんわりと伝えたことはあるが、それ以上にもっと大きな情報が出たのだから、もう一回しっかり話した方がいいのだろうと考えていた。
その話を彼女達にした時、彼女達はショックで打ちひしがれたりしないだろうか。巡にとっては、それが一番の懸念点だった。
いくら彼女達がプリキュアでも、ステフォンの中の精霊であろうと、彼女達も巡と年がさほど変わらない学生だ。言葉を濁してしまう程度には戸惑ってしまう。
「繋」
「……!あ、帯刀君」
玄関の前で険しい顔をして考え込む巡に気づき、帰宅するところだった帯刀廻が話しかけてきた。
「帯刀君も帰り?」
「部活が急遽休みになってな。……そんなところでどうした」
「あー……傘忘れちゃってどうしようかなって」
「……」
傘を忘れたのは本当だが、悩んでることはもっと別にある。それは彼にはいえないことなので誤魔化すしかない。しかし、彼には巡が何かを隠しているのかはわかったらしい。
廻は少し悩んだ挙句、自分の傘を刺して、玄関を出て立ち止まる。そして、巡の方を向いた。
「どうせ駅までだろ。……何突っ立ってんだ、来い」
「……え?」
雨が降る雨空の下、駅までの歩道、濡れる紫陽花の花。巡は廻の傘の中に入って、駅まで二人一緒に歩いていた。
周りから見れば、ジメジメとした梅雨の季節にはぴったりの清涼剤のような男女の青春の象徴とも言える相合傘だが、会話はそこまで弾んでいるわけでもない。巡はお察しの通りの鈍感さを発揮しているし、廻に関しては本当に巡が傘の中に入ってくるとは思わず、顔には出していないが相当混乱している。
「……お前が何に悩んでるのか知らんが、あんま抱えすぎんなよ」
「う、うん」
「七星でもお前の友達でもいいから、頼れ。……俺でもなんか力になれそうならなるから」
「あー……相談したいのは山々なんだけど、話すと複雑というか何というか……」
最後の言葉は小声となって何も聞こえていなかったが、相当悩んでいるのが丸わかりだったらしい。目を逸らしながら変に怪しまれないよにやんわりと伝えることができるかを考える。
何かで悩んだときは幼馴染の希奈子かクラスメイトか姉に相談するのだが、廻にこうして二人きりで話すことが今までなかったので困ってしまう。
「実は……友達に大変悲しい事実を伝えなければならなくて」
「あ……???言わなきゃならねえなら言えばいいだろ」
「それで、それを言わなきゃならないんだけど、その友達がショックを受けて閉じこもらないか心配で……」
「あー……そういうことかよ……繋お前、能天気な割に結構繊細なんだな」
普段の巡なら絶対にないだろうことを話したため、廻は思わず呆気に取られる。しかし、その話を聞いて彼女も相当悩んでいることに気づき、苦笑をこぼす。
「繊細て……そんなに???」
「悲しいことを聞いて悲しまない奴なんて滅多にいないだろ。……それでいて隠して嘘つくのも、こっちも向こうも苦しくなるしな」
「嘘は……まあ、つけないな」
「これは俺の自論だが……本当のことを言い合える仲が、友達として一番ベストな関係だと思うぞ」
「ベストな、関係」
ただ、言い方に気をつけねえと勘違いされるがな、と付け足す。
クラスでも無口でぶっきらぼうな雰囲気を持つ彼が根は優しいのは知っているが、ここまで話を聞いてくれるかつ、自身の言葉で親身になってくれるとは思わず少しびっくりする。
「ケンカしねえ関係が悪いとは言わねえけど、時に言い合えばなんとかなることもあるしな」
「君割とやった方だね?」
「うるせえ」
「……話聞いてくれてありがとう、帯刀君。頑張って伝えてみるよ」
「……そうか。……雨、止んだな」
「あ、本当だ!しかもちょうど駅前」
ふと空を見上げれば、いつの間にか雨足が止まり、夕方の陽の光が差し込んでいた。梅雨明けだ。虹までかかっている。これは飛んだ奇跡だ。
「傘の中入らせてくれてありがとう!また明日ね!」
「ああ、またな」
少し険しかった表情が緩んだ巡が、廻に向かって手を振って駅のほうに走って行った。巡が見えなくなって、廻は一人心の中でガッツポーズを決める。
「……今日は、かなり話せたな」
「忘れてて大変申し訳ない」
『いやいやいや!大丈夫だって!』
『忘れ物しちゃうのは誰だってあるから気にしないでね!?』
家に帰ってきた巡がまず行ったのは、自分の部屋に忘れていった折り畳み傘とステフォンに向かって誠心誠意頭を下げた。中のプロトキュアたちには、お詫びの印におやつをあげている。
さあ、“あのこと”を伝えるなら今しかない。
「そうだ……ラブリー達に言わなきゃならないことがあったんだ」
『え、なになに〜?』
「あたし、このステフォンの中のプリキュアが増えるたびに意識だけが別の世界に飛ぶことがあるじゃない」
『そういえば、前に言ってたね!それがどうしたの?』
ステフォンの画面の中にいる5人のプリキュア達に話しかける。ハッピーが増えた時にも軽く話してはいるが、詳しくはまだ伝えていないところがある。
『本当のことを言い合える仲が、友達として一番ベストな関係だと思うぞ』
正直言おうかまだ迷っているが、嘘だけは絶対につきたくないので、意を決して伝えることにした。
「ハッピーは、前に話したこと覚えてる?」
『うん!その世界で、サニー達と出会ったって言ってたよ!』
「そう。みんなが増えるたびに他のプリキュア達も集まってきて、あの世界も変化してってるみたいで、それでこの前────」
巡は、あの世界で起きたことや最近知ったことを嘘偽りなく全て伝える。
あの世界に聳え立つ水晶の柱の中にラブリー達が眠っていること、あの世界に集ったプリキュア達の体が透けていて魂だけになっていること、あの世界でデカい爆発が起きて世界が『崩壊』したこと。
『声』の通りであれば、ステフォンが何かしらあの世界をどうにかする鍵になっているかもということに、ステフォンの中のラブリー達が水晶の中で眠るプリキュア達の分離した部分説が出ていることなど……。
『え、え、えぇぇぇ!?』
『そんなことが起きてたんですか?!』
「あの世界にいるムーンライトでさえ、爆発に関しては“おそらく”って言ってて、まだ確定ってわけじゃないけど」
『で、でも、リズム達が魂だけの状態になってるのは……本当なんだ……』
『あたしたちの体があそこで眠っていて、魂は、今ここにいるあたしたち自身かもしれないだなんて……』
「まあ、そういう反応にはなるよね……」
案の定、ラブリー達は衝撃を受け、信じられないという様子で巡を凝視する。巡だってあまり信じたくはない。対象年齢が上がるどころの話ではなくなる。
しかしあの世界は『崩壊』していて、何かしらがあったことは確実だ。
『けれど……私たちは、なぜかその記憶を思い出すことができない……私たちどころか、あの世界にいる皆さんでさえも……』
『崩壊したのはわかっているのに、どうして肝心なところだけがわからないんだろう……?』
やはりプロトキュア達は皆、あの世界のプリキュア同様に世界が『崩壊』した理由につながる記憶を思い出せないようだった。
『ばく、はつ……』
「……ラブリー?」
そんな中、プロトラブリーだけが別の意味で表情をこわばらせていた。思い出せない記憶の量が一番多いであろう彼女から漏れたのは、何かしら心当たりでもあるかのような小さな呟きだった。
『何か、何かが、あったはず……』
『も、もしかして……!』
「ラブリー、何か思い出せそう……?」
『う、うぅ……』
画面上のラブリーは、頭を抱えてうずくまったまま動かない。震えて苦しそうな様子を、巡たちは心配することしかできない。
必死に何かを思い出そうとするが、それ以上の記憶が何も思い出せない。その部分を思い出そうとするだけで、重い頭痛が拒んでくる。眩しい光が、フラッシュバックが、彼女の中の何かを引き止める。
『……だめ、思い出そうとすればするほど、わからなくなる……』
『ラブリー……』
「そ、そっか……ごめんね、ショックを受けた上にそこまでとは……」
『ううん、大丈夫だよ!……きっと今は、その時じゃないってだけだと思う、気がする』
「その時じゃない……」
痛みに耐えていたことで流れた汗を拭いながら、心配させまいとラブリーはけろりと笑いかける。それでも少しやつれているあたり、その痛みは隠しきれていない。
『でも……ありがとう、巡ちゃん!意識だけが別の世界に行ってる時の話もたくさん教えてくれて』
「え……?」
『多分だけど、その世界が私たちが元々いた世界なんだろうなって思ったし、他のみんなも少しずつだけど集まってるっていうのが聞けたから!』
『何で魂だけになっているのか、その原因になっている爆発らしき事象を誰が起こしたか、疑問はまだまだ残っているんですけどね……』
『無事ってわけじゃないけれど、みんなが元気そうならよかったよ!幽霊みたいな感じなのかな』
『私たちも、その世界に行ける日が来るかな?そもそもちゃんと姿見れるかな?』
「君らって……結構前向き思考な人が多いよね」
『前向きなのがあたし達だから!落ち込んでるだけじゃ何もできないからね!』
「……そっか」
正直、廻に話を聞いてもらった後も、あの水晶の世界に集ったプリキュア達の話を言っていいか迷っていた。あの世界のムーンライト達の話を聞く限り、どうも大変なことが確実に起きたとしか思えないから。その話をして、彼女達がショックを受けて何かしら起きないかが不安だった。
しかしそれ以上に、嘘をついてまで隠すのも彼女達へ酷なことをしているようで嫌だった。だから巡は、あの世界で起きたことを包み隠さず共有したのだ。
もちろん、最初は驚かれはしたが、彼女達も彼女達なりに前向きに考えて、何ならあの世界に行ってみたいとも声も聞こえた。巡が抱いていた懸念は杞憂に終わったようだ。
「あ、あたしの心配はどこに……いくら君たちでもこのこと話したらびっくりして動けなくなるんじゃないかと……」
『あ、あはは……けど、びっくりしたのは本当だよ!あの世界で何があったのか、思い出せる時が来るといいんだけど……』
「そうだね。今度あの世界に行った時、詳しいことがもっと知れたらいいんだけど……」
『めぐるんは、どうしてそのことを言おうと思ったの?心配だったら言わなくてもよかったのに……』
「いやあ、嘘はつきたくなかったし……それに、帯刀君のアドバイスのおかげだよ。本当のことを言い合える仲が、友達として一番ベストな関係だと思うって言葉がなかったら、多分ずっと言えなかったから……」
『帯刀君……帯刀君!?』
『え!?廻君が!?』
巡が言おうとしたことへ背中を押したのが噂の彼だと知るや否や、彼女達のテンションが突然湧き上がる。
『噂の彼、結構いいこと言いますねぇ!?』
『やっぱり彼、巡ちゃんのことがs────むぐっ!?』
『わぁぁぁハッピー言っちゃだめだよ〜!』
『これは巡ちゃん本人に気づいてほしい!』
「???」
『な、なんでもないよ!こっちの話だから!……そ、それにしても、ベストな関係か〜』
ラブリー達にとっての帯刀君は、巡に対して好意を抱いている相手という認識が広まっている。
巡がその彼と話したというのだから、彼女達の脳内フロアは爆上がりだ。(なお、当の本人は全く気づいていないこととする。)
『巡さん、私たちのことを友達って思ってくれたんですね』
「え、違うの?思ってたのはあたしだけっていう悲しいオチ?」
『違う違う!巡ちゃんからそう言ってくれるの、すごく嬉しい!』
『うんうん!』
『あたし達も友達って思ってるから安心して!』
「……そっか、よかった」
彼女達は、さも当たり前のように友達だと伝えてくれる。自分たちの感覚がシビアなだけなのか、彼女達が素直すぎるだけなのかは分からないが、面と向かって『友達』と言われると、心のどこかが嬉しさと気恥ずかしさで熱を上げる。
こんな彼女達の笑顔を守りたいと思ってしまう。彼女達の涙は見たくないと思ってしまう。
その為にも、おそらくあの世界由来であろう彼女達の友達を、闇の使者の中から助け出したい。彼女達の記憶にあるであろう世界の『崩壊』の理由も知りたい。……大切な友達の世界を、なんとかしてあげたい。
そう改めて、巡は決心するのだった。
翌日の朝。
『巡ちゃーん!』
「ど、どうしたのラブリー。今から学校行こうとしたんだけど……まさか闇の使者?」
『そのまさかです!』
朝の支度を終えた巡の元に、ステフォンの中からラブリーとブロッサムが焦っている。どうやらどこかのプリキュアの世界で何かがあったようだ。すぐに『WorldTrip』を開いて画面を確認する。
今までは12個の枠のうち4つがマークとして出現し、この前4つ全てが金枠になった。今回見てみると、その他に3時と9時の方向の位置に新たなマークが増えていた。
今回赤く点滅していたのは、3時の位置にあるマークだ。バラの花に小さな蝶が止まっているマーク。このプリキュアは流石に知っている。周りで見ていた人が多かったので、まあまあ記憶にあるほうだ。
「これプリキュア5じゃね?このシリーズは何となく知ってる」
『のぞみちゃん達だね!こんな朝早くに来るなんて……』
『プリキュア5ってことは、多分そこにいる闇の使者は……』
『あれ?でもブラックにまだその時じゃないって止められてなかった?』
「止められていた?なぜ???」
『私たちも闇の使者達の中から見ていただけなので定かではないんですが……』
『今回は少し、気をつけた方がいいかも!』
「手強い相手ってことだね、わかったよ」
闇の使者の中から飛び出した4人のプリキュア達からのアドバイスをもらいつつ、巡は早速、床に現れたワープホールの中に飛び込む。
星の様な煌めきが、虹の様なゆらめきが、自室との距離をどんどん遠ざけていく。出口は、すぐ近くに現れそうだ。この先、どんな世界が広がっているだろうか。
視界が、白い光で塗りつぶされる。
<ネオフュージョンの世界 漆黒の城・闇の使者の大部屋>
「あの後すぐ行ったドリームがさ、すごく心配なんだよね」
「本当にそれ」
闇の使者の一人であるピーチの発言を皮切りに、他の仲間達も同意するように頷く。どうもあの後すぐに他の世界に旅立ったようで、一部始終を見ていた4人は頭をかかえる。
「あのさ、一瞬さ、私たちで追いかけて止めるってても考えたんだよね」
「何を言ってるのメロディ?」「死ぬ気ですか!?」「やめといた方がいいよ〜」
「まあそうなんだよ。絶対止められるし全く自信がない」
メロディの提案を一瞬にして引き止める3人。
ドリームは、自分たちが闇の使者として目覚めた時よりも前に目覚めていた3人のうちの1人で、『自分たちが知らない戦い方』をしていたり、プリキュアだった頃よりも妙に強くなっていたりと奇妙なことが起きているうちの1人でもある。性格は特に自分たちが知っての通りだが、今まで以上に自分よりも周りのことや目的を優先させている気がする。
十中八九ネオフュージョンに何かをされたとしか思えないが、それを抜きにしたって、闇の使者としての彼女を引き止めるのは怖いと思ってしまう。
「あ、あの〜」
「4人ともどうしたの?」
「あ、フローラにホイップ!実はドリームがステフォンを取り返しに行っちゃって……」
「え、えぇぇ!?」
4人の会話を聞いていたらしい2人の別の闇の使者が心配そうな面持ちで話しかける。彼女達にとっても、ドリームのその話は驚かれることらしい。
「あの人、確かに自分のこと以上に周りを優先させてしまうところはあるけど……」
「大丈夫だと思いますけど、ドリームって誰よりも諦めない人だし、ボロボロになってでも取り返してきそう……」
「ダメだしっかりと想像ついちゃう……」
「そんなに心配なら、私が様子見てこようか?」
新たな声に話しかけられて、6人はそちらの方を向いた。
<Yes!プリキュア5Go!Go!の世界>
『ホシイナーッッ!!』
「あらやだナチュラルにネオフュージョンの欠片が出現してるし、しかもわかりやすくステフォンを欲しがってる」
『何でこんなにたくさん!?』
「この前のデジャヴ?」
『そうそれ!!スナッキーと違って普通の怪物のサイズだけど!!』
このプリキュアの世界の舞台となる街のとある場所に降り立った瞬間、ホシイナーと咆哮を上げる怪物の姿をした欠片数体に囲まれていたため、びっくりして走り回っているハメになった。
変身させてくれそうな隙がねえと思ったのか、巡は生身のままで怪物から逃げている。
「今まではあたしがここに来てから動き出すことが多かったのに、今回はとんでもない出迎えを寄越してたよ闇の使者ェ」
『そんなこと言ってる場合じゃないよ〜!!』
『早く隙を見つけて変身しないと追いつかれちゃいます〜!』
『待ってめぐるん何で生身でそんなに早く走れるの!?』
「それがわからない!火事場の馬鹿力?こっちが聞きたいよ」
ステフォンの中のプリキュアが4人増えたことで、かなり賑やかなことになっている。
テンションと感性が通常運転の巡と、感覚が若干麻痺してきたラブリーと、まだ突っ込める程度には慣れていない他のプリキュア達による漫才じみた会話が、恒例行事になりつつある。
走り続けてたどり着いたのは、裏路地を抜けた先の広い場所。そこにも欠片が数体いるようで、逃げ場を塞がれてしまっている。
『囲まれた?!』
「けどこれで、集中して戦えるかも?待ってくれてるみたいだし、変身してまずは欠片を何とかしよう」
ようやく巡はステフォンを構え、変身する構えを取る。
「コンプリート・ステージON!」
合言葉と共に放たれた光に包まれ、巡はキュアコンプリートの姿へと変身する。
「現となりし、12の魂!キュアコンプリート!」
『CureWeapon!Melody!』
『PowerCharge!Pine』
変身したと同時にメロディベルを両手に構え、早速キュアパインの力を纏わせる。ベルは黄色の光を纏い、炎ではなくホワホワとした光を撒き散らしている。
「早速行くよ!」
『うん!癒しのメロディを届けよう!』
「
メロディベルの綺麗な音色と共に放たれた癒しの黄色い光の波が、襲いかかる欠片の1体を飲み込み浄化する。光に飲み込まれ欠片は消滅する。欠片が大量に現れて驚いたが、強さ自体はそこまでではないようで安心した。
「さて、割と一人でも対処できそうだけど……おっと、まずはここ一帯の欠片をどうにかしないと進めないよね」
『……あれ?誰か来るよ』
ハッピーに言われて振り向くと、裏路地のほうから5人の少女が駆け寄ってくる。
「さっきの音は一体!」
「あそこにいるのは……プリキュア?」
「見たことのないプリキュアね……じゃなくて、囲まれてるじゃない!」
「ねえちょっと!大丈夫!?」
「あたしは大丈夫だけど、君たちは?」
『あ〜!りんちゃん達だ!!』
コンプリートの前に現れた少女達は、彼女が見覚えのある欠片に囲まれていることに気づくや否や、キュアモおよびミルキィパレットを構えていた。
『プリキュア・メタモルフォーゼ!』
「スカイローズ・トランスレイト!」
その場は光に満ち溢れ、コンプリートの前にさらにプリキュアが現れる。
「情熱の赤い炎!キュアルージュ!」
「弾けるレモンの香り!キュアレモネード!」
「安らぎの緑の大地!キュアミント!」
「知性の青き泉!キュアアクア!」
「青いバラは秘密の印!ミルキィローズ!」
「わあ、なんかすっごい見たことある。流石にプリキュア5は知ってる……」
『あれ?ドリームは……?』
プロトラブリーの疑問をよそに、欠片はさらに標的が増えたと喜んでいるかのように、その腕を伸ばして力を行使してくる。
「はぁぁぁっ!!!」
飛び上がったミルキィローズ渾身のパンチで、襲い掛かろうとした欠片の体が大きく凹んで消滅する。相当な威力でぶん殴っているのがよくわかる。
「うわパワーが桁違いすぎない???」
『ミルキィローズは強いからね!』
「この場に現れたホシイナーはこれだけかしら?」
「私たちをこの先へは行かせないって言っているみたいね……」
アクアとミントが、まだ数体残る欠片達を見て表情を強張らせる。彼女達は何かしら用があってどこかに向かっているようだが、欠片がそれを阻んでいる。これは闇の使者にすでに会っていそうな雰囲気だ。
「アンタ、いつからここに?」
「今さっき来たばっかだよ!この怪物達を操ってる?っぽい子に用があるんだけど……」
「き、奇遇ですね!私たちもその人を探しているんです!」
「そうなの?それなら手を組まない理由はないね!」
ルージュやレモネードから話を聞く限りでは予想通り、闇の使者の魔の手がすでに入っていたようだ。詳しく話を聞きたいところだが、欠片はそうはさせない。
襲いかかってくる欠片の攻撃を、前に出たミントが繰り出した緑の光の円盤が受け止める。
「……話は、先にこっちをどうにかしてからかも」
「そうみたい……!」
その上で、レモネードが繰り出す黄色の光の鎖が、周囲の欠片の動きを封じる。鎖から逃れた欠片も、ルージュが蹴り出す火球とアクアが射抜く水の矢が直撃し、少しずつ散らばっていた欠片達が一箇所に固まっていく。
『これだけ固まってれば一気に行けるよ!』
「ここで決めるわよ!」
「うん」
『CureWeapon!Lovely!』
『PowerCharge!Marine!』
コンプリートが構えるショットガンの銃口に、青い光の蕾の形をしたエネルギー弾が。ミルキィローズが構えるミルキィミラーが呼び出すのは、煌めく青いバラの花。
「邪悪な力を包み込む、煌めくバラを咲かせましょう!ミルキィローズ・メタルブリザードッ!!」
蕾のエネルギー弾と煌めく花吹雪が、欠片を飲み込み包み込む。蕾がぶつかった瞬間、青い花が開き、煌めく花びらが爆裂し、欠片達を一体残らず消滅させた。
『る、ルージュ!ドリームは!?』
「それが!!大変なことが起きて……!」
「ど、どしたん話聞こか?まず落ち着いて……」
『なんでそんな聞き方に!?』
ようやく欠片が全員対処でき、一体この世界で何があったのかを聞いてみた。
ひとまずルージュの話をまとめると、コンプリートがこの世界に来る前に欠片が大量に現れ、彼女達はその怪物達と戦っていたという。
しかし、突如現れた“黒いキュアドリーム”によって、この世界のキュアドリームが連れ攫われてしまったらしい。どこに消えたかも分からず探していたところ、コンプリートが欠片相手に囲まれていたところを目撃し今に至る。
『ど、ドリームがドリームに攫われた!?』
『ステフォンじゃなくて???』
「言葉にすると何のこっちゃって感じだけど、とてもまずいことが起きてるのは確かだね」
「その黒いドリーム、コンプリートを探しているみたいで……コンプリートを見つけて連れてきてくれたら返すって言って……」
「あたしを?あー……」
「……って、あ、あなたがコンプリートだったんですか?!」
「そういえば名乗ってなかったわぁどうもコンプリートです」
「あ、こちらこそよろしくお願いします!」
「いや、そこで挨拶するんかい」
レモネードの証言を聞いて何となく、自分を誘き寄せるためにこの世界の自分を狙ったのだなと予測する。ついでに名乗ってもなかったので軽く会釈する。
『どうしよう、彼女なら割とやりそう……』
「えぇぇ……???あたしやステフォンを狙う為にわざわざ……?手の込んだ果し状かな?」
「けれどあの黒いドリーム、肝心のどこにいるかを私たちに伝えていないの」
「……どうやら、性格はこっちのドリームと変わらないみたいで安心はしたけど……」
「あら、それはまた大変な……」
ミントとアクアの話を聞く限り、キュアドリームというプリキュアはまあまあドジっ子の方に分類されるようだ。やはり闇の使者と本来の世界のプリキュアとの性格はそこまで大差がないらしい。
「一体どこに、闇の使者のドリームは隠れているんだろう……」
『嫌な気配を全く感じないし……うまく場所が辿れない……』
『あ、あのー……』
考え込む6人とラブリー達にに申し訳ない様子で、ステフォンの中のプロトブロッサムがおずおずと手を挙げる。
『私なら、もしかすると力になれるかもしれないです』
「え……どういうこと?」
『CureWeapon!Blossom!』
その音声と共に、コンプリートの手に光が握られる。それはリボンで飾られた、キュアブロッサムを模したような『手鏡』だ。
探し物ならぬ探し人に困っている彼女の力になるために、プロトブロッサムが第5のキュアウェポンとして覚醒した姿だ。メロディの時といい、武器系アイテムにしては斜め上の形状だ。
「鏡ね」
「鏡だ……ああでもこれでどうすれば……」
『これで、探したいものや人の姿を思い浮かべてみてください!』
「な、なるほど……?」
ブロッサムに言われるがまま、前に見た後輩のレポートに切り抜かれた画像で見たドリームの姿を思い浮かべてみる。すると、鏡面から淡い光が漏れ出し、とある場所を指し示す。
指し示したのは、街の中心に位置する時計塔。時計塔の、鐘が吊り下げられている場所を指している。
「と、時計塔……?あそこにドリームが?」
『はい!あそこにいます!』
「歩ける距離……割と近くにいる……灯台下暗し……?」
「そ、その言葉が適切かどうかはともかく……居場所は割れたみたいね」
真っ暗な雲に突き刺すように聳えるあの時計塔を見上げる。時刻は午後2時前。あの場所に、闇の使者に連れ去られたキュアドリームがいる。
「……とにかく、行ってみるしかないみたい」
「ドリームを、助けに行こう」
ルージュとコンプリートを筆頭に、プリキュア達は時計塔を目指して駆け出していった。時計の針が、1分分進んだ。
続く…
次回投稿日:5月5日(日)