「うーん、うーん……!!」
ぴかりヶ丘某所。小さな紅いクリスタルの中に閉じ込められてしまったプロトラブリーは、パンチにキックに頭突きラブリービームなど、クリスタルからの脱出を図ろうとするが、全く出られる気がしない。
「だ、だめだびくともしない……!どうして……!?」
「その中から出ようとしてるの?無駄よ。内側からじゃ出られないわ」
「ぶ、ブラック!!」
ラブリーの入ったクリスタルを弄びながら、ダークネスブラックは未だ晴れ間を見せぬ街を高い場所から見下ろしていた。出ることはほぼ不可能だというのに、ラブリーは諦めずに脱出しようとしている。
「ステフォンを狙うのはわかるけど、どうして私も狙われるの?」
「……『世界』のために、あんたの存在が必要なの」
「わ、私が……?」
彼女の言っていることは、漠然としていて何もわからない。世界がどうとかと言っているが、一体何が目的なのかが想像できない。『世界』と聞いて真っ先に思う浮かぶのは、巡がよく意識だけが飛ばされるという“あの世界”くらいだ。
ダークネスブラックは、その世界で何をすると言うのか。
自分が知っているブラックは、ステフォンの画面の外で見たあの人の姿しか出てこない。
────『ステフォン』の中に入って、『ここじゃない別の世界』に逃げるのよ
────……多分、『奴』は私たちを簡単に返そうとは思ってないみたい
────だから、せめて無事なあなただけでも、今は『奴』の手から逃げてほしい
────だからお願い。……できれば、あんたの中で全てが落ち着いたら、私たちを助けに来て欲しい。
表情はわからない。けれど切実に、けれど希望を託して、彼女はステフォンにそんな願いをかけて、どこかにいなくなった。
もし、闇の使者から飛び出してくる自分の仲間が同じ世界出身なら、目の前のダークネスブラックが自分に話しかけてきたことになる。一体何が、彼女を、彼女達を闇に突き落としたのか。それが気になっている。
「さっきも聞いたと思うけど、あの時、私に助けを求めたのはブラックなんでしょ?」
「……」
「どうして、ブラック達はネオフュージョンと一緒に動いているの?『世界』って、あの世界を元に戻すため……?それならこんなことしなくたって一緒に────」
「ラブリー」
次々に聞きたいことが出てくるラブリーの名前を呼んで、一時的に黙らせる。その紅い目には、悲しみと後悔の色が滲んでいるような気がする。
「私は……助けを求めていないし、そんなの覚えていない」
「え……?で、でも……あの時の」
「世界を壊しかねないほどの力を持つステフォンを、他の誰かの手に渡ってほしくない。悲劇を繰り返さないためにも」
「世界を……壊す……?悲劇……?い、一体どういう────」
「誰に何を言われようとも、どんな手を使ってでも、私は、あの少女からステフォンを取り戻す。絶対に」
何を言っても揺らがない意志が、暗い感情に飲まれそうになった瞳を塗り替えた。
記憶がほとんど消えているラブリーにとって、一体彼女が何を言っているのかはさっぱり。それでもわかるのは、彼女との対話での説得は、現状効きそうにもないというくらいだろう。
「巡ちゃんは、絶対にステフォンを渡さないよ!」
「……」
第13話:見逃せぬ涙 秘めたる力を使いこなせ!
「……う、ん……?」
「あ、起きた!!めぐみー!コンプリートって子が起きたよ!!」
ゆっくりと、目を覚ます。まだ身体中が鈍い痛みを訴えているが、意識はなんとか浮上してきたらしい。
ダークネスブラックの猛攻により満身創痍の状態で倒れた繋巡。そんな彼女が目覚めたのは、とある建物の寝室らしき場所。スカイブルーの髪の少女が仲間達を呼んで部屋を飛び出していった。ステフォンは、巡が寝ていた枕元に置かれている。
『巡ちゃん!気が付いたんだ!!』
「……ここ、は……」
『ブルースカイ大使館!この世界のめぐみちゃん達に運ばれたんだよ!』
『今までのこと、ちゃんと覚えてる……?』
「……あー……思い出してきた」
体を起こし、まだ少し痛む頭を抑えつつ、意識を飛ばす前の出来事を手繰り寄せて思い出そうとする。
確か自分は、ダークネスブラックと争ったけど太刀打ちができず……。そういえばと、ステフォンの画面を確認する。
『そういえば!ラブリーが捕まっちゃって!』
「え!?」
『それで、助けて欲しいならブラックを見つけてステフォンを渡せって……』
「あたしが倒れてる間にそんなことが……」
『巡……巡!?』
ドリームの制止を聞かず、巡はベッドから降りて、意識が戻って間もないのに足取りフラフラと部屋を出ようとする。ドアノブにかけようとした彼女の手を、ステフォンから飛び出したドリームがその手に触れて止めようとする
「待って、どこに行こうとしてるの?」
「ラブリーを……助けに行かないと……」
「そんな体じゃ動くのも辛いのに……お願い。今はまだ、回復を待って」
「でも……休んでる、暇は……っ」
「巡!」
怪我だけでなく立っていられないほどに体力も消耗しているようで、巡はゆっくりと膝から崩れ落ち、ドアの前で倒れ込みそうになる。
そんな彼女が完全に床に落ちる前に支えたのは、先ほど助けてくれたプリキュアの一人だった。再び意識を落とした巡は、その少女に支えられながら再び眠りに落ちる。ここまで動けないのは珍しい。
「……っと、セーフ……」
「め、めぐみちゃん!」
『大丈夫!?』
「私は大丈夫!巡ちゃんって子、一応動けるようにはなったんだね。また寝ちゃったけど……」
巡を助けた少女、キュアラブリーこと愛乃めぐみは、ステフォンの中のプリキュア達に笑いかける。
「なるほど〜、巡ちゃん達は、あの大量のサイアークを出してきた闇の使者を追っていたんだね」
「さっきまでのサイアーク騒ぎはそれで……」
「そして、ネオフュージョンという敵は、私たちの世界を壊そうとしているかもしれないと……」
大使館の談話スペースにて。めぐみとプリキュアのチームを組んでいる白雪ひめ、大森ゆうこ、氷川いおなに、巡やプロトキュア達のこれまでのことと今起きている状況について説明する。
再び意識を飛ばした巡はまたすぐに起きたものの、立っていられなさそうだったため、談話室のソファーに横になってもらっている。
「巡ちゃんは、私に似た友達を助けようと起きちゃったんだ……」
「なんだか、誰かさんに似てるような……」
「え、えぇ〜!?何で私!?」
ひめはめぐみの方をじーっと見つめる。この世界の愛乃めぐみも、誰かのためなら自分の身を粉にして頑張ってしまう性分らしい。……その性分は、ピンクの系譜というべきか。
「怪我もかすり傷程度のものが数箇所だったとはいえ、まだ立ち上がるのも辛そうなら……無理に今すぐ行かなくても、巡ちゃん自身の体調が戻ってからでも遅くはないと思う」
「いおなちゃんが言うなら、多分その方がいい!」
『そ、そっか……ラブリー、連れて行かれなければいいんだけど……』
『でも、ブラックがああ言ってたなら、まだぴかりヶ丘にはいるんじゃないかな?』
『あの人約束はちゃんと守るから、ブロッサムの力を使えば居場所はわかると思う』
『私はともかく、問題は巡さんですよね……』
視線は、横になっている巡の方に向けられる。
プロトキュアたちにとってはいつもの様子とは思えないような巡の気分の沈みように、今の彼女とどう接するべきか悩んでいた。
「すぐにでも、助けに行きたい……でも、今行ったら多分、ブラックにやられる気がして……怖いんだろうな、多分、珍しく……」
「巡ちゃん……」
「弱気になってる場合じゃないのに……あの子を、泣いてるかもしれないあの子を、助けに行かないと……」
あのプロトラブリーに限って、一人連れ去られて泣いているとは思えない。しかし、初邂逅でその姿を見た時に、一人でずっと彷徨い続けて泣いていたのをしっかりと覚えている分、巡はあのプロトラブリーに、一抹の不安と心配を抱えている。
『……巡はさ……どうしてそんなに、ボロボロになっても助けたいって思えるの?』
「え……?」
真剣な表情のままの巡に対して、ドリームがある疑問を投げかける。その言葉に、本来の彼女の口からは出てくるイメージのない言葉に、巡はポカンと口を開ける。
「それは……あの子が泣いていたからだよ。泣いている人を見ると飛び出しちゃうのは、あたしでも自覚できることだし」
『どうして、泣いている人を助けたいって思うようになったの?』
「あー……そう思うようになったきっかけがあるんだよね。小さい時に」
そういえば、この世界に来る前にその話をしようとして、ステフォンの着信音に遮られていたんだったと思い出す。このタイミングで話すことになるとは思わなかったがちょうどいい機会だ。
巡は、少し楽になった体でソファーに座り直し、とある昔話をゆっくりと始めた────
────あたしがまだ小さかった頃の話。
よく晴れたゴールデンウィークの、心野宮から少し離れた街の遊園地にての出来事。
この頃は両親の仕事が忙しくはなかったので、家族みんなでお出かけに行くことが多かった。ただ時期が時期だったので、同じような子供連れの家族や、学生同士のグループがたくさんいたと思う。それでも十分に楽しめた。
コーヒーカップやメリーゴーランド、小さな子供向けのローラーコースターなど、いろんなアトラクションに乗っては、敷地内をぐるぐる回っていた。
そこで気づいたのだ。自分が家族と離れて一人になっていることに。
周りを見ていなかったから?親の声が聞こえていなかったから?辺りを見回しても、親も姉の姿が見当たらない。
さっきまで見ていたはずの遊具や景色が、急に見知らぬ場所に見えてきて、何だか怖くなって、泣き出していた。
でも、自分が迷子になっただなんて、認めたくなかったんだと思う。だから遊園地の中をずっと一人で彷徨っていた。
『ねえ君!大丈夫?お父さんとお母さんは?』
そんな中、ある人があたしに話しかけてきた。
あの時のあたしにとって、その人は男性で、大学生か卒業してすぐの若い社会人のようなお兄さんに見えた。知らない人に話しかけられるとは思わず、相当警戒した。
『ああああ違う違う!俺、ここのイベントスペースでヒーローショーのキャストやってるんだけど……近く通った時に泣いてたから、何かあったのかなって』
その人は慌てて怪しくないよアピールをして、とにかく自分はこの遊園地で働いてると説得していた。証拠として、キャストがみんな持っているワッペンを見せてくれたりもした。
そういえば、いつの間にか午前中に観たヒーローショーの会場がある広場のところまで来てしまったようだった。
あのお兄さんがあまりにも慌ただしそうで、こっちの涙は引っ込んでしまい、冷静に「迷子になってしまった」と伝えると、ああやっぱりそうだよねとどこか安心した様子を見せた。
『ここが放送できる場所の近くでよかった……!ひとまず、そっちに行こうか。暑いでしょ?』
お兄さんに手を引かれて、あたしは遊園地内のいわゆる屋内施設に入って行った。お兄さんはそこで働いているスタッフさんと話をして少し経ってから、あたしの家族を呼び出すアナウンスが流れた。
『ふう……これでお母さん達が来るまで安心だね!』
『風間くん、一緒に来たのはいいけど、時間は大丈夫なのかい?』
『……って、もうこんな時間!?そろそろ休憩終わるし次の公演の準備に行かないと……!すみません!巡ちゃんの親が来たらよろしく伝えておいてください!』
風間と呼ばれたお兄さんは、スタッフに向かって慌ただしく伝え、すぐに施設を出ようとする。
少し彼には申し訳なかったけど、どうして助けてくれたのか、お礼を言うついでに聞いてみた。あんなに忙しそうなのに、どうして自分のことよりもあたしを優先したのだろうと気になったんだと思う。
『え、どうしてって……泣いている人や困っている人を助けるのがヒーローだからかな?俺、ここに来てくれる人たちの笑顔が大好きだから!』
それだけ告げて、風間さんは手を振って広場のステージの方に向かって走って行った。
とても頼りなさそうで、常に切羽詰まってそうな人だなと思ってしまったけれど、この時だけは、彼の背中がどこか偉大なものに見えた。
漫画やアニメの中で描かれるようなヒーローがそのまま現実にぴょんと飛び出してきたような彼は、あたしの涙を救ってくれたらしい。
何だか胸が、熱くなった。あの数分の出来事で、あたしの心は
初恋というよりも、尊敬や敬意に近いような、そんな感覚。
そのおかげか、風間さんと入れ違いで家族が迎えにきてくれた時も泣かなかったし、むしろヒーローが助けてくれたともちょっとはしゃぎ気味に話したとも思う。
その日からだろう。あたし自身が“人の涙”というものにひどく敏感になったのは。あの人の存在は、今のあたし自身を形成する一部になっている。
あの日出会ったヒーローのように、誰かの笑顔を守れるような、誰かの涙に気づけるような人でありたいと思うようになったのは。
「────だから、初めてコンプリートに変身した時、あたしは飛び出せたの……」
『巡ちゃん……』
『過去に、そんなことが……』
あの日自分がプリキュアに変身する時、いや、ステフォンの中のプロトラブリーが泣いていた時に、どうしようもなく心配になって、あのワープホールを潜り抜けようと思えたんだろう。
ビルが崩れ落ちる中、自分の危険を顧みずに彼女を助けに飛び込んだのも、あの子の涙が見逃せなかったからだ。……あの子の笑顔を、守りたいと思ったからだ。
「……みんな。やっぱりあたしはあの子を、あっちのラブリーを助けに行きたい。泣いていたあの子を笑顔にしたい。だから……」
「大丈夫だよ、巡ちゃん!」
「私たちも手伝う!手伝うに決まってるよ!」
「一緒に頑張りましょう!」
巡の話を聞かないであれ、どっちにしてもめぐみ達は彼女を助ける気満々だった。自分たちもぴかりヶ丘という自分たちが当たり前に暮らす街を、ネオフュージョンから守らねばならないという使命という名の強い気持ちがある。
『そうだよ……巡ちゃんがああ言ってるのに、あたしたちが弱気になってる場合じゃない!』
『うんうん!あたし達の友達を取り返しに行きたい!』
『こっちだってブラックに聞きたいこと、いっぱいあるのにね!』
『さっきはビビってしまいましたが、今度はそうなりませんからね!』
実はダークネスブラックの威圧に気圧されていたプロトキュア達も、ドリームの鶴の一声を起点にすぐに本調子を取り戻し始めている。
「その前に、ご飯にしましょう?腹は減っては戦はできぬと言いますし!」
キッチンの方でゆうこが何やら準備していたようだが、どうやらご飯支度をしていたらしい。ローテーブルに並べられるのは、彼女お手製のおにぎりやら唐揚げやら何やら、とにかく栄養面の偏りが少ないかつ、スタミナがつきそうなものばかり。
そういえば時刻は正午過ぎ。お昼ご飯にはちょうどいい。
「おぉ〜!そういえばずっと動いていたからお腹空いてたんだった!いっただっきまーす!!」
「ありがとう!ゆうゆう!」
「どういたしまして!小さなプリキュアさん達もご一緒にどう?」
『わ〜い!やった〜!』
『私たちも腹ごしらえしておかないと!』
「す、ステフォンから出られるし、食事も摂れるのね……?知れば知るほど不思議なアイテム」
「持ってるあたし自身もよくわかってないんだよなあ……」
食事の準備ができるや否や、全員空腹だったのか頂きますのあとすぐに手をつけ始める。特に食いしん坊らしいドリームやメロディに相当腹を空かせていたひめの食べるスピードは速いし、作った本人であるゆうこも負けていない。
「待っててよラブリー、ご飯食べ終わったら、ちゃんと助けに行くからね……!あ、唐揚げが味しっかりついてて美味しい……作り方も知りたい……」
「後で教えるから安心してね?」
この期に及んでまあまあ呑気な発言が飛び出しているが、巡の決意は本物なのは確かである。
少女達の決戦は、昼食後すぐに行われるのであろう。
「見つけたよ、ブラック」
「……本当に来るなんて……」
『巡ちゃん!!』
ブロッサムミラーの力を借りてたどり着いたのは、あの時自分が彼女によって負かされてしまった河川敷近くの公園。巡が本当にここに現れるとは思わず、ダークネスブラックが感嘆の声を上げる。コンプリートだけでなく、めぐみたちこの世界のプリキュアたちも勢揃いしている。
彼女の周囲に浮いている紅いクリスタルの中に、プロトラブリーらしき人影が見える。あんな小さなカゴの中に閉じ込められているとは。
「ステフォンを渡す気になったのかしら」
「ううん、ステフォンは渡せない。だから、頑張って自力でラブリーを取り戻すことにした」
「私たちは、あなたが出現させているサイアークを止めてもらうために来たの!」
めぐみたちは、ダークネスブラックの周囲に集まるサイアーク────ネオフュージョンの欠片をこれ以上出させないためにやってきた。
「そう……どうやらまたやられたいみたいね」
「今度は同じ目には遭わないようにすればいい」
「わかったわ……それならこの世界ごと壊してでも、あんたからステフォンを取り戻すまでよ!」
ダークネスブラックの目がさらに紅く煌めく。二度もやってくる巡を、どうやら今度こそ心を折らすつもりなのだろう。たとえそれでも、巡の意思は変わらない。必ずやラブリーを助け出すという強い気持ちで、ダークネスブラックをまっすぐ見据える。
その手にはステフォン。めぐみたちはプリチェンミラーとフォーチュンピアノがきらりと輝いていた。
『プリキュア・くるりんミラーチェンジ!』
「プリキュア・きらりんスターシンフォニー!」
「コンプリート・ステージON!」
光に包まれた少女たちは、世界と日常を守るヒーロー・プリキュアの姿へと変わる。
「世界に広がるビッグな愛!キュアラブリー!」
「天空に舞う蒼き風!キュアプリンセス!」
「大地に実る命の光!キュアハニー!」
「夜空にきらめく希望の星!キュアフォーチュン!」
『ハピネス注入!』『幸せチャージ!』
『ハピネスチャージプリキュア!』
「現となりし、12の魂!キュアコンプリート!」
「さあ、リベンジマッチと行こうか」
「何度ぶつかっても無駄だと言うことが分からないようね……っ!」
『サイアークッ!!!』
サイアーク数体は、ラブリーたちの方へ向かって襲いかかる。コンプリートとブラックの邪魔はさせないとでも言いたげだ。
一方のコンプリートは、ブラックの方に向かって跳び上がって距離を詰め、その拳を叩き込もうとする。
「はぁっ!」
「!!」
しかしその拳はすぐに避けられ、カウンターで蹴りを入れられそうになる。それでもその動きを読んで、コンプリートは飛び上がって回避する。
前回は変に攻撃を与えようと近づきすぎて逆に反撃を喰らっていたところがあったので、一定の距離を保とうとしている作戦だ。
「なるべく私に近づきたくないのね……それならこっちから来てあげる……っ!」
その作戦を読まれたのか、距離を置こうとしているコンプリートに向かって一気に距離を詰めようと走り出す。近づかれた彼女もなるべく離れようとするも、ダークネスブラックはしつこく彼女との距離を詰めてくる。
「はぁぁぁぁっ!!」
『CureWeapon!Melody!』
あの時のように拳の嵐を浴びせられそうになり、コンプリートは何故かメロディベルを両手に構え、大きく音を鳴らそうと腕を振り上げる。
『PowerCharge!Beauty!』
キュアビューティの力を纏ったベルは、りいんと言う澄んだ音色と共に衝撃波と凍える冷気が放たれる。それをモロに食らったブラックは大きく吹き飛ばされ、地に足をつく。その衝撃波に立ち向かおうと足を動かそうとするが、冷気によって足元を氷漬けにされ、動きを封じられる。
その拍子で、プロトラブリーを閉じ込めた赤いクリスタルを手放してしまったようだ。
「……!?」
「まともにやり合えないなら、慣れ親しんだやり方で戦うよ。これでゆっくりとラブリーを助けられる」
『コンプリート!こっちだよ!』
「待っててねラブリー!プリキュア・ポップンロケットシャワーッ!!」
コンプリートが放つ無数のハートのシャワーは、プロトラブリーを閉じ込める紅いクリスタルを包み込む。その力に浄化され、プロトラブリーがクリスタルの中からようやく飛び出してきた。飛んでくる彼女を、コンプリートが両手で受け止める。
「ラブリー!無事?」
「無事だよ!助けてくれてありがとう!信じてた!」
「そっか……本当に、よかった……!」
二人の感動の再会も束の間、氷漬けの状態から自力で脱出したダークネスブラックが、一気に距離を詰めてくる。
「本当に取り返してくるとは思わなかったけど……面白いことしてくれるじゃない……!!」
「やっべめちゃくちゃキレてる」
『まずい、またダークネス・マーブルスクリューを放ってくるかも!?』
彼女の右腕に、最初の時のように黒い闇がまとわりついている。再び力を溜めて、一気に放出するつもりだ。コンプリートはラブリーを守るためにステフォンの中に入れ、自身も射程範囲内から逃れるように走り出す。
あれが直撃したら碌なことにならないのは、1回目の時に理解している。
「逃がさない……っ!!!」
憎しみがこもった声で放たれた漆黒の雷撃は、コンプリートめがけて放たれる。
コンプリートの足が速かったために直撃は免れたものの、コンプリートの前髪を留めていた、ハートが煌めくガラスのリングを掠めた。
「っ!?」
「……!」
『コンプリート!?』
リングにヒビが入り、一気に砕け散る。瞬間、コンプリートの意識が遠くの方に吹き飛ばされる。
あのリングが壊れた瞬間、ステフォンとコンプリート自身から、まばゆい光がとめどなく溢れ出した。
「うわぁっ!?」
「何!?」
「……!?」
『コンプリート……!?』
突然の出来事に、ラブリーも欠片もダークネスブラックもステフォンのプリキュアたちも、一斉に動きを止めた。
いったい何が起きているのか周りが混乱する中、その状態でふらつきながら彼女が立ち上がる。表情が全くわからないが、髪飾りのリングが壊れる前と纏う雰囲気が全く違う。
この状態は、ダークネスブラックとステフォンの中のドリームには見覚えのある光景だったらしく、ただただ唖然としている。
『ど、どうしたの、コンプリート……大丈夫……?!』
「……っ」
『みんな!コンプリートを止め────』
呆気に取られていたがすぐに気を取り直したドリームが、切羽詰まった様子で仲間に呼びかける。それよりも前にコンプリートが見たこともないスピードで一瞬にしてダークネスブラックとの距離を詰めた。
「……っ!?」
「……」
振りかぶった光を纏った拳が、ブラックを捉える。ブラックも両手をクロスして受け止めるが、その威力はさっきまでとは大幅に上がっている。火花をばちばちと散らせながら押し切ろうとするも、まだブラックの方が捌き切れたようで、コンプリートは小さく吹き飛ばされる。
「さっきよりも強くなってる……?」
「けれど、様子がおかしいわ……!あんな戦い方は、まるで……」
『リングが外れて、ステフォンの力に振り回されてるんだよ!』
「あ、あのリング、リミッター的なものだったの!?」
『こ、このままじゃコンプリートが壊れちゃう……!!』
ステフォンに秘められた大きな光の力によって、
「……ぐ……っ」
「そう……あなた
そう言って、ブラックは再びダークネス・マーブルスクリューを放とうと右手に闇の力を集める。
そんな目の前のブラックの方に再び攻撃を仕掛けようと拳を構えるが、コンプリートはその手をすぐにしまい、両手で顔を覆い隠してうずくまってしまう。呼吸が、かなり乱れている。
違う。ただ振り回されているだけではない。彼女はその力のままに動かないよう、頑張って押さえ込もうとしているのだ。
このまま流れのままに暴走を続けたら、目の前の闇の使者や欠片どころか、せっかく助けたラブリーやこの世界のプリキュア達にまで危害が及んでしまう可能性だってある。
「コンプリート……巡ちゃん!しっかりして!!」
「こんなところで振り回されてる場合じゃないよ!!」
「元の優しい巡さんに戻ってきてください!!」
「めぐるん!あたし達の声が聞こえる?!聞こえてるなら返事をして!!」
「……っ、ぅ……」
コンプリートが、繋巡が、自分たちの友達が、こんなふうに苦しみながらも頑張っているのなら、呼びかけて引き留めるしかない。制御の効かないステフォンの中から飛び出し、彼女に声を届ける。
「巡ちゃん!負けないで!!」
「頑張ってこっちに戻ってきて!」
「小さなプリキュアさんだけじゃない、私たちもついてるわ!」
「大丈夫、力の使い方をわかっているあなたらきっと……!」
プロトキュアだけでない。この世界のラブリー達も彼女のそばに寄り添い、呼びかけ続ける。巡の意識が光の力だけに支配されないように。ここにいると導くように。
「無駄よ。その状態の彼女には、何も届かない。……ドリームはわかってるでしょう?」
「……わかるよ。わかるけど……巡は、そんなんじゃないもん……!」
何かを知っているような口ぶりで、冷たく突き放すダークネスブラックの言葉を否定する。
「聞こえてる?巡……巡の友達、みんな君を待ってるんだよ。みんな君を信じてるんだよ。……あたしも君を信じてる。だから、ステフォンの強い力に押し潰されないで!」
プロトドリームの声が強く響く。巡の乱れた呼吸が、少しずつ落ち着いてくる。
「そう……それなら、コンプリートごと、全員消し飛ばす……っ!」
『ラブ、リー……』
『■■■■■■!』
『たの、む……、“私”が、消える前に……────』
一瞬だけ、プロトラブリーの脳内に何かしらのビジョンが流れた。これは、自分の記憶?それでも……
「巡ちゃ……巡!!お願い!!戻ってきて!!!!」
ダークネスブラックが放った真っ黒な闇の雷撃が、うずくまるコンプリートに向かって放たれたと同時に一番強く響いたのは、初めて彼女を呼び捨てにしたプロトラブリーの声だった。
容赦ない雷撃が、全員に迫り来る。
『CureWeapon!Peach!』
『PowerCharge!Mint!』
その雷撃から全員を守るように、ドーム状に展開された緑色の光のバリアが膨らんだ。あの全てを破壊せんと言う威力の雷撃を、完全にシャットアウトしている。
「……っ!?」
「……!巡!!!」
「……だい、じょう、ぶ……ちゃんと、聞こえてる……」
ようやくコンプリートの声が聞こえる。ゆっくりと顔を覆っていた両手を下ろすと、その顔は汗でびっしょりだった。相当苦しかったのだろう。
「巡ちゃん!」
「みんなの声がなかったら、流石にやばかったかも……突然いろんなものが入ってきたような気がしてびっくりしちゃったけど……何とか戻って来れた……」
「も、もう大丈夫なの?」
「うん……笑顔を守るヒーローが、みんなに呼ばれたプリキュアが、力に振り回されてる場合じゃいられないからね……!」
やっぱり体はふらついているものの、先ほどよりも危なっかしい雰囲気も様子のおかしさも感じられない。いつものコンプリートが戻ってきた。
ただ違うのは、前髪の髪飾りであるリングがないことと、光を纏えるほどにパワーが増していること。そして、さっきよりも凛々しさの増した表情で、目を見開いて驚愕した表情を晒すダークネスブラックを真っ直ぐに見据えていることくらいだ。
「あ、ありえない……!力を、使いこなしたなんて……」
「いやあ、結構ギリギリよ?けど、名前を呼んでくれる人がいるなら……あたしは何度でも戻ってくるよ」
『一回きりにはして欲しいけどね!!急に呼び出されるからびっくりしたよ!!』
「ご、ごめんねピーチ……盾って汎用性高いからつい繰り出しちゃった」
『全然いいよ!めぐるんが戻ってきてくれて嬉しいから!』
会話内容もまあまあいつも通りなので、コンプリート自体は完全に本調子らしい。凛々しさが増しても特に性格方面に変化はない。
まさかあの状態から復活するとは思っていなかったらしいブラックだが、気を取り直して再び構え直す。
「ま、まあいいわ……、今度こそ、アンタを倒して、ステフォンもラブリーも取り返すまでよ!」
「こっちも今度は負けないよ!」
二人は同時に走り出し、攻撃を仕掛ける!
「だだだだだだだっ!!!」
「ぐ、このっ!」
ダークネスブラックが繰り出す拳の嵐を、コンプリートはさっきまでとは明らかに軽い動きで避け切っている。向こうも全力を出しているというのに、コンプリートは余裕そうだ。
「すごいすごい、さっきよりも早く動ける。むしろそっちが遅いくらい?」
「……っ!今煽ったわね……?」
「そんなつもりはないよ……!はあ!」
動きが一瞬止まったブラックに、コンプリートの蹴り技が迫る。すぐに気づいて避けようとするも、彼女のヒールが、右腕を掠った。ある意味、コンプリートにとって初めてブラックに対して、まともに攻撃を与えることができたといえよう。
『掠った!?』
「……っ」
『サイアーク!!』
ブラックのピンチに気付き、欠片達がまたしても湧いて出てくる。無限湧きとはこの事らしい。
「ま、またサイアークが!」
「あたしに任せて!ラブリー!一緒に行くよ!」
『CureWeapon!Lovely!』
『PowerCharge!Princess!』
「狙うは周りの欠片達!」
『この愛を届けよう!』
「『
銃口から放たれるのは、青い光のリングの中で煌めくハート型のエネルギー弾。それらは壁のように連なる欠片達のハートを射抜き、次々に浄化して消滅させていく。
「……っ!」
「さあ、あとは……!」
残るはダークネスブラックのみ。
「暗闇に飲まれたその心、撃ち抜くよ!」
コンプリートが投げキッスの要領で、右手の人差し指と中指で自身の唇を軽く弾き、その指を銃口のようにブラックの方に向ける。その指の前に、無数の桃色のハートが集まり、一つのハートのエネルギー弾に凝縮されてゆく。
狙うは彼女の胸の紅いクリスタル。
「プリキュア・ブレッシングキッスッ!」
バーン!という合図とともに、たくさんのハートが詰まったエネルギー弾が、光を放ちながらダークネスブラックの方に向かって飛んでゆく。
そんなハートの弾丸にやられてたまるかと、ブラックもダークネス・マーブルスクリューで応戦する。
「……っはぁぁぁぁっ!!」
「やっぱ押し返すのは若干重い……けど、負けないよっ!!」
ギリギリの攻防であったが、結局互いに相殺されて大爆発を起こした。土煙と光と闇でできた粒が弾け、視界は閉ざされる。
「はぁ……はぁ……っ」
「……ふぅ……これは……、って、変身解けた」
『え、えぇぇ!?』
『ステフォン側が、耐えられなくて強制的に解除したんでしょうか……?』
「うっそステフォン側に怒られたってこと?」
どちらもまだ立っている。全力の必殺技をぶつけ合っても、どちらかが倒れることはないらしい。コンプリートに関しては、ブラック相手に戦闘不能にならなかったのが大きな成長だろう。
しかし、コンプリートはいつの間にか変身が解除されていたようだ。
「……っ、プリキュアじゃないなら、ちょうどいいわ……このまま、もう一度……!」
「え」
向こうも相当疲れているというのに、ダークネスブラックは目の前のコンプリートを倒すという確かな執念で、再びその右手に闇の力を溜めようとする。何がなんでも、ステフォンを持っている巡を倒したいらしい。
「ま、まだやるつもりなの!?」
「巡ちゃんは離れてて!」
「ここは私たちで……!」
変身が解けてしまった巡の前に、ラブリー達がラブプリブレスやトリプルダンスハニーバトン、フォーチュンタンバリンを構えて立ち向かおうとする。
緊迫したままの糸は、ある人物の介入によって緩むことになる。
「なーにやってるんですかー?」
「うぐっ」
「え?」
「え!?」
技を放とうとしたブラックの背後で、聞き覚えのある声で誰かが彼女の背中を思いっきり叩いて、放とうとした技を強制キャンセルさせた。黄金色の光が散っている気がするあたり、確実に相当な威力でやっている。ブラックはぶっ叩かれた場所をさすりながら、現れた人物の方を向く。
その人物は巡も知っている。確かこの前のダークネスドリームの時にも現れた闇の使者だ。
「えっと……ブルーム、だったっけ……?」
「そうだよ。覚えててくれたんだね!」
『な、何しにきたの!?まさか援軍!?』
「違う違う。ブラックを止めにきただけだから。……そっちのドリーム、元気そうだね」
『げ、元気だけど!?』
「いっ……たぁ……!!な、何すんのよあんた!?」
さっきまでの寡黙で恐ろしい雰囲気はどこへやら。ダークネスブラックが、叩いたことへの不満をぶつけている。多分これが彼女の素の状態のようだ。元々は元気な方なんだろうなと思ってしまう。
彼女に恨めしげに凄まれようがどこ吹く風、ぶっ叩いた本人であるダークネスブルームはけろっとしている。なんなら、長引いた戦闘によって少しよろけた彼女を支えている。ついでに、プロトラブリーが閉じ込められていたクリスタルを拾っている。
「ふらついてるし、流石に生身の子に全力出すのはちょっと、ね……?」
「けど……っ!……あー、わかった、わかったから。そんな顔しないでよもう……キュアコンプリート、悔しいけど今回はここまでにしてあげる」
ブラックはそう告げて、二人一緒にどこかへ消えていった。どうやらまた、介入者によって助けられてしまったようだ。
「えっと……今の子も闇の使者?」
『うん』
『また見逃されたって感じですねこれ……』
「……闇の使者回収業者かな……?」
『うん……うん?』
『ブルーム!巡に変な名称つけられちゃってるよ〜!?』
『めぐるんならこのままそれで覚えちゃいそう……!』
なんとなく消化不良感が残る終局ではあったものの、この世界へのネオフュージョンや闇の使者の侵攻は食い止められたと言うことらしい。消化不良だが。ブラックから何も出されていないので、多分今回は仲間は助けられていない。
しかし、ステフォンからはいつものように、と言うよりいつも以上の光を放って、周囲の世界を白く染める。
「……っ!?」
「な、何ここ!?」
『えぇぇ!?』
「って、私たちさっきまでプリキュアだったよね?!」
ステフォンから溢れ出した光が収まると、巡はあの水晶の世界に飛ばされていた。
今回は何故か体を動かせるし、ラブリーたちハピネスチャージプリキュアの面々やステフォンの中のプリキュアたちも、一緒にこの世界へ飛んで来てしまっている。ラブリーたちに関しては、変身が勝手に解けてしまっている。
「花畑に、楽器?空飛ぶステージ?」
「綺麗だけど、なんだかまとまりがない場所ね……」
『ここが、巡ちゃんの言ってた水晶の世界……?』
『あ!ほら!中にあたしたちがいる!』
プロトピーチが指差す先に、プリキュアたちが眠る水晶の柱があった。今回巡が立っていたのは、そのうちの一人が眠る水晶の前。
「ラブリー!?ラブリーが眠ってるよ!?」
「ほ、本当だ!どうして私が?」
巡の代わりに今回はプリンセスが驚いてくれた。中で眠っているのは、この世界のキュアラブリーだ。
彼女が眠る水晶の柱からは、淡く優しい桃色の光が溢れ出し、厚い雲が覆う天へと伸びていく。
光が収まった後に周りを見渡すと、視線の先には淡い空色の小さな教会らしき建物が建っていた。また、周囲にはガラスの欠片のような光るエネルギー体がいくつか浮遊している。特に触ろうとしても触れられないため、エフェクトのようなものだろうか。
「教会……?小さな大使館みたいな建物ね……」
「ああああああああ!!」
別の報告から、ひめの絶叫が響き渡る。近くにいるひめは叫んでいることはなく、どちらかというとさっきの叫びにびっくりしているだけなので、彼女が出したわけではない。
声のした方を向けば、光に導かれてここに辿り着いた、この世界のプリンセス・ハニー・フォーチュンの3人だった。
「わ、私たちがもう一人……?」
「あら?別の世界の私たちね!元気そうで何よりだわ!」
「か、体透けてる……!」
「ちょっと色々あって魂だけの存在になっちゃったみたいで……」
「魂だけ」
「幽霊みたいである意味面白いでしょ?」
「幽霊みたい」
この世界のハニーとフォーチュンによる若干の達観が入った発言に、めぐみたちは目をぱちくりさせる。一方のプリンセスは、巡が持つステフォンの画面の中にラブリーたちがいるのを見かけ、そちらに注目が行っている。
しかし当の彼女たちには、透けている方のプリンセスたちが見えていないのか困惑した様子で辺りを見回している。
「ら、ラブリー!無事だったんだね!なんか見えてない気がするけど!!」
『え……そこに、誰かいるの!?』
「こっちのラブリーたちには見えていないの?今、半透明のプリンセスが涙目で君たちとの再会を喜んでるけど……」
『ええええ!?どうしよう!何も見えてない!』
「そ、そんな〜!?ラブリー、見えなくてもここにいるからね〜!?」
『プリンセスー!そこにいるの!?』
『と言うことは、他のみんなもどこかに!?』
「もしかしてだけど、周りに浮いてる光の玉がそうだったりする?」
プリンセスの発言的に、やはりここはステフォンの中のプリキュアたちが元々いた世界で間違いなさそうだ。周囲に浮く色とりどりの光の玉は、ここに辿り着いたプリキュアの魂の省エネ体と言っていたのであながち間違ってはいない。ただ、当の彼女たちにはプリンセスたちの姿が見えないらしい。
「と、と言うかこれってステフォン!?君
「え???“も”って何“も”って」
「この世界が崩壊しちゃう前に使っていた子も、ステフォンを使って戦っていたの」
「その子が、今どこにいるのかわからないけれど……」
さらに、ステフォンの元々の持ち主がいたことが新しく判明する。
彼女たち曰く、この世界が『崩壊』を迎える前に出会って交流していたらしいが、その人物も今どこにいるかわからないらしい。
「ステフォンの、元々の持ち主……」
『も、元々の持ち主!?……ああ!思い出した!いたよ確か!!』
『名前までは思い出せないけれど、使っている子がいた!』
「おっとまじか……」
プロトラブリーは全くピンときていないが、プリンセスたちの話を聞いた巡のつぶやきをきっかけに、他のプロトキュアたちの中で無くなっていた記憶が一部復活したようだ。彼女たちにとっても“持ち主”と言う存在は共通事項らしい。
そのタイミングで、いつものように景色が白く淡くなっていく。元の世界に戻される時は今まで通りらしい。
「い、意識が……!」
「話ができるのは、今はここまでみたい……」
「嘘!まだまだ話したいこといっぱいあるのに〜!君!ラブリーたちのこと頼んだよ!!」
「わ、わかった!」
プリンセスの言葉を最後に世界は明転し、巡たちを元の世界に引き戻す。
「……!戻ってきた……!」
『巡ちゃん、いつもこんな感じにあの世界へ飛んでたんだ……』
「今回は、意識以外もちゃんとあっちに飛んでったけどね」
あの世界に飛んでいた者たちは、元の『ハピネスチャージプリキュア!』の世界のぴかりヶ丘に戻ってきたようだ。
『そっか……あの世界が私たちがいた世界で、みんなが集まってくるごとに、世界が少しずつ変化していってるんだ……』
「元々はもっと寂しい場所だったんだけどね……けど、まさかみんなが見えていないとは……」
『うぅ……ど、どうして……』
あの世界に行ったことで新たに判明したのは、あの世界に元々いたであろうプロトキュアたちが、あの場所に集うプリキュアたちの姿が一切見えていないと言う事実だった。
自分やこっちの世界のめぐみたちは、あそこにいた彼女たちが幽霊のような状態であれど目視することはできていた。しかし、ステフォンの中の彼女たちには姿どころか声すらも届いていないようで、再会すら叶わないらしい。
せっかく、久しぶりに元々の世界へ再び足を踏み入れることができたと言うのに、彼女たちが不憫で仕方がない。
『で、でもね!なんとなくだけど、近くにプリンセスたちがいるって言うのはわかる気がしたの』
「ラブリー……」
『なんとなくなんだけどね?……きっと、今はまだ他に助けられていないみんながいるから、完全に見ることはできないのかなって』
一番あの世界のプリンセスに話しかけられていたラブリーは、姿見えずともその気配はなんとなく察知していたようだ。築き上げてきたものが違うのだろう。
もしかしすると、他の彼女たちにも関連性の高いプリキュアが近くにいれば、気配程度ならそこに確かにいるのもわかったのかもしれない。
「……あたし、ラブリーたちの友達をみんな助けて、あの世界に辿り着くプリキュアたちに会わせてあげたい」
『……!』
「まあ、方法が今のところそれしかないんだけどさ……ネオフュージョンをなんとかしつつ、闇の使者の中にいるであろう君たちの友達を助けて、君たちのためにできることをしたい」
『巡……!』
「それまでは、君たちの力を借りることになるだろうけど……それでも、君たちのことは何がなんでも守るからね」
『大丈夫!あたしたちも一緒に戦う!』
『私たちだって、あの世界の奏たちに会いたいもの!』
『だから巡、これからも一緒に頑張っていこうね!』
「うん!」
ステフォンの中のラブリーとハイタッチを交わす。
これは、繋巡の我儘であり目標だ。
きっとこれから、本格的にネオフュージョンや闇の使者に狙われそうな気はしている。それでも巡は、プロトラブリーたちをあの世界にいる本来の仲間たちに会わせてあげたいという真っすぐな気持ちで、どんな逆境にも立ち向かっていくつもりだ。
「巡ちゃんたちも、きっと色々あるんだろうけど、私たちも応援するし、手伝えることがあるなら力になるよ!」
「めぐみちゃん……!ありがとう」
この世界のめぐみに手を伸ばされ、巡はその手を握り返す。生きる世界が違えど、同じプリキュアで共に戦った仲間だ。
巡はめぐみたちに引っ張られ、晴れ渡る空の下のぴかりヶ丘で休日を過ごすのだった。
<巡の世界 心野宮・繋家>
翌日の朝、登校前の空き時間。巡は朝の情報番組のエンタメコーナーを聞き流しながら、朝ごはんを食べた食器を洗っていた。
『────続いては、今話題の若手俳優、
「……風間健人?」
ある名前を聞いて、巡の手が止まる。
『スーパーヒーローはここにいる』とは、常に前向きで明るいことが取り柄の主人公が、笑顔を守れる本物のヒーローを目指して、ひょんなことからとある劇団に入団することになる、笑いあり涙ありのエンターテイメント小説が原作となるドラマだ。あまりドラマ系には興味はないが、巡は風間と呼ばれた男性俳優の姿を見て、なぜか過去の出来事が重なる。
『主人公のヒイロさんって、人々の笑顔が誰よりも好きなんですよね。俺自身がまだ下積みだった時に、地元の遊園地でショーキャストをやっていて……俺自身もショーを見てくれる人や遊園地に遊びにくる人たちの笑顔が好きだったので、ヒイロさんのスタンスにとても共感するんですよね────』
『え、どうしてって……泣いている人や困っている人を助けるのがヒーローだからかな?俺、ここに来てくれる人たちの笑顔が大好きだから!』
「……あの人、俳優になっても変わらないな」
いつかのヒーローは、立場が変われど、その気持ちはずっと変わっていなかった。あの人は今でも、誰かの笑顔のために頑張っている。
そんな彼のように、自分も目の前のラブリーたちのような、笑顔を守れるような人になれるだろうか。
「……いや、なるんだ」
いつかあの子達が、あの世界の本来の仲間たちと笑い合えるように、自分も頑張っていかないとなと、改めて決意するのだった。
<ネオフュージョンの世界 漆黒の城・闇の使者の大部屋>
「ただいまー」
「わぁブルームおかえりー……って、ブラック!?」
「迎えに行ってきたナリ〜」
「連行の間違いでしょうに……」
ブルームに肩を支えられながら、ダークネスブラックは自分たちの根城に戻ってきた。負けはしなかったものの、やりきれない思いで悔しさが滲んでいる。彼女たちを出迎えたのはピーチだ。他のみんなは自室で眠っているらしい。
「ブラックでもここまで追い詰められるなんて……ステフォンの持ち主強すぎでは?」
「もうちょっとくらい手加減してくれてもいいのに……」
「……あれはもう、手加減してくれないわよ……」
「ブラックに何が」
『君たちにも事情はあるんだろうけど、あたしにも退っ引きならない事情がある。……そう簡単に、君に譲ることはできない。ましてや、誰かを泣かせるような怪物を操る君たちには、絶対に渡さない』
オッドアイの真っすぐな眼差しで放たれたあの言葉が、ずっと胸につっかえている。きっと、戦わずともいい方法でステフォンを取り戻せるような気配はした。
けれど、自分にはもうこの方法しか見当たらない。あの少女に自分は、“絶対に渡しちゃいけない敵”と認定されてしまったようだった。
「……あれ?ブルーム、何持ってるの?」
「これ?私も知らない。ブラック、何これ」
「あー、一回ラブリーを閉じ込めてたんだけど抜け出されたやつ」
ラブリーを閉じ込めた紅いクリスタルは、いつの間にか回収されていた。それにはもう誰もいないので空っぽのはずだが。しかし、ほんのりと彼女がいたという残滓は感じ取ることができる。内側から脱出するために、彼女がラブリービームなどを放っていたからだろう。
「……これだけで“あの子”を起こせないかしら」
「え、えぇ!?できるの!?」
「それで起きたら、あっちのラブリーを狙う必要は無くなっちゃうけど……あ、そっか。ステフォンだけに集中できるんだ」
「ちょ、ちょっとそれ貸して!できるかどうか試してくる!」
そう言ってピーチが紅いクリスタルを受け取り、そそくさと部屋を後にする。
そんな彼女と入れ違いで、ドリームが二人の前に現れる。おそらく、ブラックたちが帰ってくるまでずっと起きていたんだろう。
「あ〜!ブラック、戻ってきたんだ!」
「戻ってきたというか、連れ戻しに行ったというか」
「……二人揃ってるならちょうどいいわ。……コンプリートが、あの“リング”を外しても力を使いこなしてたんだけど」
「……え?」
「う、うそ!?あれって使いこなせるものだったっけ!?」
そしてブラックは、二人に対してコンプリートのリングが外れたことを説明する。二人はあんまり信じていない様子だったが、ほの暗く真剣な表情を見て信じざるを得なかった。
「ま、まあ、それで世界が壊されていないんならいいんだけどさ……それを使いこなしてるなんて……」
「あと、ステフォンの中に入ってるドリーム
「あたしの中から出てきたやつ?あれ、結局なんだろうね?ハッピーたちに聞いてもわからなそうだし、あたしたちは問題なく動けてるし……」
「何もないならいいけど、そっちも色々調べておく必要があるかもね」
この3人の中では、他の闇の使者とは違い、知っていること覚えていることの量が違うようだ。その分、このように深く切り込んだ話などができるため、ブラックにとっては非常に助かっていることでもある。
……最初は、彼女たちにすら何も知らせないつもりでいたらしいが。
「でもでも!ブラックが無事に帰ってきてよかった!大体ネオフュージョンに呼ばれて会わないって時が多いから、こうして長く話すのも久しぶりかも!」
「そうだ……
「ううん、大丈夫。絶対こんなこと言っちゃダメなんだけど、もう、慣れたっていうか……」
「うわあ……本当にダメなやつナリ」
「ブラック、あいつに毒されちゃダメだからね!?現状を知ってて呼び戻せるの、あたしかブルームだけなんだから!」
「え、ええ……わかってる……」
手を握られながらとてつもなく釘を刺され、ドリームはまた自分の部屋に戻って行った。あの子もあの子で自分のことを心配してくれているのだろう。二人だけとなった大広間は、とてつもなく広く感じる。
「……ドリームやピーチだけじゃなくて、みんなブラックのこと心配してたよ。ほぼ連続で他の世界に飛んでたっぽいし」
「そう、なんだ……」
「あと、次はフローラが行ってくれるみたい。ステフォン取り返しに。じゃんけんだったけど」
「……」
「ブラックがあいつに何させられてるかは教えてないけど、察せられてるよ。言わないだけで」
「……」
「止めないし、止めたところで聞かないんだろうけどさ……嫌だって思ったらちゃんと言いなよ?その時は、私たちも力になるから」
「……わかってる」
ずっと表情の浮かないブラックに対して、ブルームは何かを察して言葉をかける。
ステフォンの持ち主らしいキュアコンプリートとの間で一体何があったのか、ブルームにはわからない。連れ戻すためにあの世界に飛び込んだら、冷静さを欠いて変身の解けたあの子に攻撃を続けようとしたブラックの姿を見たのだから、少々強引に仲裁に入ってしまった。
ドリームの時といい、随分と久しく精霊の力に頼っていなかったので出力を間違えた気がするが、体は頑丈にできているのでまあ大丈夫だろう。
自分だって乗り気で叩いたわけではない。ああするしかなかったし、これは彼女自身と交わした約束でもあるのだ。
「……ブルーム、さっきみたいに私が間違ったことをしていたら────」
「“殴ってでもいいから止めろ”でしょ?……それ、あんまりやりたくないんだけど……」
「だって、この中だと一番付き合い長いし、アンタは直接“見てる”から、あいつの悪事を……」
「あー……」
あいつの悪事に────他の世界の支配や破壊行為にブラックが加担していることを知っているのは、自分とドリームしかいない。さらにそれを直接見ているのは自分しかいない。
そういうことばかり続けているのを見ていると、ブラックへの精神的なダメージも凄そうだが、彼女はそれを全部抱えたままでいようとしたことがある。今でこそその事実を知る自分たちが彼女を支えられるように頑張っているのだが……。
残念ながら彼女は当初からあんまり変わっていないというのが、ブルームから見た今の彼女の姿である。この人はずっと、重いものを背負い込んで、自分たちにも分けてくれない、そんな意地悪で我慢強い人。
この人自体は、自分以上に大切なことを成し遂げたいんだろう。かつてのあの人とは大違い。
「……言っておくけど、ブラックだけが全部を背負わなくていいんだよ。みんな、ここにいるから」
「……うん」
果たして彼女の言葉は、今のブラックの心に響いているのだろうか。
紅くゆらめく瞳は、曖昧な返事をしたまま憂いを帯びている。
この世界の真っ暗な空に浮かぶ紅い月だけが、この世界唯一の建造物である漆黒の城を照らしている。
続く…
次回更新日:5月18日(土)