PrecureStageON!   作:主氏レム

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いろはちゃん君、推しと誕生日同じなんや。というか8月7日はパートナーの日……そういうことか。
この話はちょうど年明けごろに出したやつなので、pixiv版の新年のご挨拶部分は除いてます。


第2章:巡と水晶の世界編
第14話:プリンセスにごきげんよう 巡の夏休み


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なぜ、止める……世界のためか……』

『違うよ……■■■に、そんなことさせたくないもん……!』

『違う……私の役目は……』

『あなたの力は……そんなことのためのものじゃない……!それは一番、あなたが分かってるはずなのに……っ』

『……ぁ』

『あなただって、本当は、やりたくないんじゃないかな……?私たちと……友達と戦うことも、世界を壊すことも……!』

 

 

 

『■■■、■……』

『■■■■■■!』

『たの、む……、『私』が、消える前に……────』

 

 

 

 

 

 そして視界は明転し、徐々にブラックアウトしていく。

 

 

 

 

 

 “彼女”がみている悪夢は、このところずっとあの光景がぐるぐるとループするばかり。自分の世界が、■■■のせいで壊されてしまう夢。

 何度も何度も見続けたせいで、いよいよ嫌気がさしてくる頃だ。それでも、このループを切る方法がわからないから、心は半ば諦めかけている。

 

 まるで”彼女”に何か大事なことを訴えるように流れ続けるそれは、ある声によって偶然にも途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それで、彼女の状態はどうなの?あれから起きたの?」

「ううん、深く眠ったままだよ。でも、昨日よりも呼吸が速くなってるような……?」

 

 

 

 聞き覚えのある“ブラック”と“ハート”の声を耳にし、“彼女”の瞼がわずかに震える。側から見れば全くわからない程度の微細な反応だ。

 

 

 

「それにしても……ステフォンの中のラブリーがここにいないとはいえ、これだけで本当に起きるのかな?」

「正直わからない……。あいつ曰く、『わずかでも残滓があれば目覚める』とは言っていたけども……」

「アタシ達は直接“魂”が“この体”に入ってるから動けるし、今までのことも覚えている。でも、ここで眠ってる彼女は……」

「それに、ハッピー達が言っている、自分たちの体から飛び出した“光”の話も気になるのよね……。暇を持て余してるみんなに調べてもらってるけど、特にみんなに何か不都合なことは起きていないし」

「う〜ん、謎ですな〜」

「……そういえばフローラ達にはもう言ってあるんだけど、あいつが欠片に細工を仕掛けたらしい」

「えぇ!?大丈夫なんですか?!」

「まあ、こっちに危害を及ぶものではないって断言してたし……むしろ、こっちがちょっとだけ有利になる」

 

 

 

 意味深な会話が交わされたあと、ハートの声が遠ざかっていく。“彼女”が眠っているらしい部屋を出たのだろう。まだ部屋に残っているブラックが、眠る“彼女”の姿に、わずかに目を細める。

 

 

 

 

 

「……本当なら、ステフォンの中のラブリーがいれば良かったんだけど……これで目覚めてくれるのなら、この際なんでもいいわ」

 

 

 

 

 

 ────みんな待ってるからね、ラブリー。

 

 

 

 

 

 ここはネオフュージョンの世界の、奴の根城である漆黒の城のとある部屋。

 

 ブラックは────ダークネスブラックは、部屋のベッドで未だ醒めない夢の中にいるであろう“彼女”こと、黒いラブリーに優しく言葉を投げかけた。

 これから彼女は、ネオフュージョンと共に他の世界に飛び立たなくてはならないため、一度彼女の顔を見にきていたのだ。

 

 黒いラブリーの指が、ほんの僅かに震えた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第14話:プリンセスにごきげんよう 巡の夏休み

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<巡の世界 心野宮・繋家>

 

 

 

 

 

 ある夏の日の、とある午前中のこと。

 

 学生の8月は、ちょうど夏休みシーズン。友達や家族と外出したり、観光地や避暑地で満喫したり、お祭りなどのイベントを楽しんだりと、目一杯遊び尽くすにはちょうどいい時期である。

 しかし、忘れるなかれ。学校からの課題が出されて、一部の学生にとってはそれを後回しにして地獄を見るハメになることもあると……。

 

 

 

 

 

「……よし、今日の分終了っと」

「お疲れ様、巡!」

「このペースなら、あと3日くらいで終わりそうかな」

「えぇ!?夏休み始まってからまだ4日しか経ってないよ!?」

 

 

 

 この少女────繋巡は、地獄を見る方ではない。むしろ課題など面倒なものは先に全部終わらせ、残りの夏休みを楽しみ倒す側の人間である。本日も巡はプロトラブリーに見守られながら、自室で先に今日の分の課題を終わらせ腕を伸ばしていた。

 

 ラブリー達のようないわゆる『勉強や学校の課題に対して苦手意識がある』タイプのプリキュア達にとっては羨ましい精神持ちだ。

 

 

 

「うーむ……少し飛ばしすぎたかな?」

「やっぱ巡はすごいよ、宿題をしっかりこなすとは……」

「やるのは当たり前では……あっ」

「あって何あって」

 

 

 

 ステフォンの中のプリキュア達6人のうち、いわゆる勉強するのが苦手or嫌いな性分持ちがほとんどである。一人は勉強が得意だったり、一人は先生を夢見ているために苦手だとばかり言ってはいられない。……それはそれとして、夏休みはなるべく遊んでいたいタイプが大半を占めているのが現状。

 

 

 

「ま、まあ……今日はきなっちと買い物行く日だから、なるべく速く終わらせたかったんだけど……」

「買い物?」

「うん。来週、きなっちの家族に連れられて海に行くんだ。それで、水着とかそういうのを色々買いに行こうってなって」

「海!?夏っぽくていいね!」

「でしょ?それに今年は幸姉とお出かけしたり、帯刀君から夏祭り行こうって誘われたり……そういえば夏祭りのステージで、千夏ちゃんや恋華ちゃんがいるダンス部でパフォーマンスするって言ってたっけ」

「予定がいっぱい詰まってるね……それなら確かに速く宿題を終わらせたいって思うかも」

 

 

 

 今年の巡の夏休みの予定は、学年が上がったからかはどうかはともかくかなり詰まっている方らしい。まさに充実した夏休みと言っても差し支えない。

 

 

 

「いやあ、海楽しみだな……まあ、それはそれでいいんだよ」

「……うん」

 

 

 

 二人は、視線を学習机のステフォンが置いてある場所を見る。ステフォンの中では、ラブリー以外のプリキュア────闇の使者の中にいた5人のプロトキュア達が、真面目に何かを話し合っている様子だった。

 

 

 

 

 

『やっぱり……何が起きたかの記憶がないのか……ドリームならあの感じで覚えてることも多そうって思ったんだけど……』

『うぅ……ごめんね……』

『やっぱり、ブラックに直接聞くしかないんでしょうね』

『あの人、今度はいつ現れるんだろう……』

『あの様子だとしばらくは休んでそうな……』

『えー?でもあのブラックだよ?すぐ隠されちゃいそう……』

 

 

 

 話題の中心はプロトドリーム。他4人はドリームが何かを知っているかもしれないと踏んで、色々と聞き込んでいた。

 

 それは、彼女達が元いた世界の話。巡がよく意識だけが飛ばされるあの『水晶の世界』がああなってしまう前に、あの世界で一体何が起きたのか。なぜあの世界が『崩壊』する羽目になってしまったのか。

 

 闇の使者の中でもブラック、ブルーム、ドリームの3人が古参枠で、彼女達の間で覚えていることも共有していること多いと聞いているらしく、こうしてこちらも何かしらの情報を得ようとしている。しかし、ドリームも詳しく覚えていないと言っているらしい。話し合いが煮詰まり終わりの気配を察知したところで、巡が話しかける。

 

 

 

「……お、終わりそう?」

「なんだか、割と揉めてるような感じがしたけれど……」

『揉めてはないよ!?』

『けれど、収穫はありませんでした……』

「そっか……」

 

 

 

 プリキュア達は再び考え込む。覚えていないと言われた以上、確実に何かを知っているダークネスブラックに直接聞き出す他、現状では方法がないらしい。その彼女に話を聞くことができるか否かという話は別として。

 

 ……ただ巡は、なんとなくだがドリームは何か(・・)を隠しているような気がしていた。

 

 

 

 

 

『ドリームに伝言を託すわ。“ラブリーを助けたいなら、私を見つけてステフォンを渡せ”と』

『っ!どうして、あたしに……』

『あっちのドリームから溢れたものなら、私が何をしているか、何を求めているかはよく知ってるでしょう?そんなあなたにしか頼めないの』

『それ、は……』

 

 

 

『無駄よ。その状態の彼女には、何も届かない。……ドリームはわかってるでしょう?』

『……わかるよ。わかるけど……巡は、そんなんじゃないもん……!』

 

 

 

 

 

 あの時は巡が気を失っていたり力に振り回されていたりと聞くことしかできていなかったが、あの時のダークネスブラックとドリームの間で交わされた言葉は、何か(・・)を知っている者同士だからこそできる信頼を感じ取れた。

 さらに言うと、あのリングがキュアコンプリートが持つ強い力を制限するリミッターの役割を担っていることを知っていたのは彼女一人であり、真っ先に巡を止めようとしてくれたらしい。

 

 おまけに、ようやく話題の中心から逸れたおかげか、他の子達が見えないところで少しだけ表情に影を落としている。

 

 言わない(言えない)理由は、隠しているものがかなり複雑で彼女達をかえって混乱させてしまうためか、それとも余程の惨状ゆえの彼女達への優しい嘘なのか……。真相は、ドリームにしかわからない。

 

 本当は巡も聞きたいことだらけだが、これから外に出る準備して、幼馴染のところに向かわなければならない。色々と落ち着いてから聞いた方がいいだろうと判断し、椅子から立ち上がる。

 

 

 

「まあまあそう気を張らずに、これから思い出していこうよ」

「私だって何もわかってないからね!大丈夫!」

『ラブリーが一番記憶なくしてるんだよなあ……ま、まあ本人が元気そうなら私たちもひとまず安心なんだけども』

『巡さんは、これからお出かけ準備ですか?』

「うん。お小遣いはもらってるし、お昼はあっちで済ましてくるし……あ、幸姉に書き置きも残しておかないと。あの人休みだからって昼まで寝てるし」

『えぇ……??』

『流石にあたし達でもそんなに長く寝過ごさないよ……?』

「夜間制だし幸姉だから仕方ない仕方ない。ラブリー、行くよ」

「うん!」

 

 

 巡の姉である繋幸も夏休みで、絶賛昼夜逆転の堕落した生活を送っているらしい。

 

 平和に夏休みを謳歌する姉はさておき、巡はお出かけ用のバッグにラブリーが戻ってきたステフォンをしまい、幼馴染を迎えに行くために自室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<巡の世界 心野宮・ステラモール>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午前11時半、ステラモールにて。

 

 心野宮駅周辺に位置する大型ショッピングモール。食料品から衣類、おもちゃ、イートインスペースなど、困ったらとりあえずここで買い物を済ませたり暇つぶしに使えば問題ない商業施設。2年前にリニューアルオープンしてから、いまだに盛り上がりが途絶えるような兆しが見えない。

 

 

 

「こういうのとか?」

「あの……それはすごく目のやりどころに困るからやめた方がいいわ」

「えぇ???」

 

 

 

 ステラモール3階の衣料品店が並ぶエリアのとある店の中、巡とその幼馴染である七星希奈子は、海で遊ぶための水着選びをしていた。どうも巡のピックアップのセンスに問題があるのか、希奈子は若干頭を抱える。

 

 

 

「うーん、じゃあ……あ、これかわいい。今持ってるお金で買えそうだし、いいんじゃない?」

「ああ……確かに」

「こうしてきなっちと買い物するのも珍しいよね」

「ふふっ、最近は学校で話すくらいだったもの、二人で遊ぶのも久しぶりな気がするわ」

 

 

 

 巡の両親が仕事でいない時は彼女の家でお世話になったことが何度もあったため、二人は幼い頃に一緒に遊んでいることが多かった。成長してからはその頻度は一気に減ってしまったが、こうして互いに遠慮のいらない関係が続いているのはいいことかもしれない。

 

 

 

「最近の巡、どこか忙しそうだったから……」

「えぇ?そんなことないよ。むしろ2学期から忙しいよ。学校祭もあったり、生徒会選挙があったり」

「あぁ……確かに色々と行事があったわね。学校祭、巡のクラスは何するの?」

「ホラーハウス。……でも、あたしは生徒会の方で学校祭の裏仕事に回らなきゃいけなくなるから、あんまり手伝えないかもだけど。きなっちは?」

「うちは射的やわなげとかの遊べる屋台をいくつかやる予定よ」

「え。縁日じゃん、楽しそう」

「暇ができたら遊びにきてね」

 

 

 

 会話の内容は、夏休み明け2学期の一大イベントである学校祭のこと。

 巡は生徒会に入っているため、クラスでやる出し物の準備以外にも、学校祭全体が楽しくなるようにサポートする裏方仕事にも回らなければならない。学校祭以外にも2学期には生徒会選挙や定期テスト、2年生では秋ごろに宿泊研修なるイベントもあるので、忙しさと期待感ですでに心はウズウズ湧き立とうとしている。

 さらにそこへ不定期に闇の使者とネオフュージョンの相手をしなければならない日も出てくる。そう考えるとまあまあ大変なことになりそうな予感はしている。

 

 

 

「そっか、9月になったらいきなり学校祭のこともやるのか……しかも生徒会選挙……でもあたし2年だし一応もう1年できそうだし、信任投票になりそう」

「去年まで生徒会長になる予定だった先輩が転校したことで、当時書記だった巡が突然生徒のトップになったという、異例のケースらしかったみたいで」

「うんうん。あの人元気かな〜」

「元気だといいわね。……巡、もし大変なことがあったら、私でもいいからいつでも相談していいからね」

「わかってるって。心配しないで」

 

 

 

 この幼馴染、心優しいいい子ではあるのだが、対巡になるとかなりの心配性になってしまったりする。

 

 巡がプリキュアとなって他の世界に飛んでいくようになってからというものの、妙に勘が鋭いのか気づきやす方だったりするのか、当たってはいないが巡が何かしら周りに言えない何かを抱えているとは察せられているらしい。なんとか変に突っ込まれないように、巡も細心の注意を払って言いくるめているものの、希奈子も希奈子で心配が勝っているのか引いてくれない。実はプリキュアなんですと言ったら、確実に巻き込んでしまうかもしれない。

 友人に心配されること自体は嫌と思うことはなく、むしろ「あああたしめっちゃ心配されてるな寝不足と怪我には気をつけないと」と自己反省をし、次に世界を巡るときに生かしている。

 

 

 

「……って、もうこんな時間?お昼どこで食べる?この時間帯ってすっごく混みそう」

「そうね……こんなこと言うのもアレなのだけど、私先にお手洗いを済ませてもいいかしら?」

「え、いいよ!?とりあえず、食べれるところに先向かってるね!」

「お願い」

 

 

 

 と、希奈子はお手洗いを探して一度巡と別れる。そして巡は、ハンバーガーやうどんなどの有名な飲食チェーン店が立ち並ぶエリアへと足を運ぶ。夏休みなこともあって、子供連れの親子や他校の学生、カップルなど、さまざまな人が食事を楽しんでいる。自分たちが座れそうな席は残っているだろうか?

 

 

 

 

 

[めぐるーん、水着買えたー?]

「買えたよー、良さそうなのがあってよかったよ」

[さっきの希奈子ちゃんって子、相当心配してたけど、もしかしてプリキュアってバレてる?]

「いや、きなっちが察し良いだけだよ。バレてはないけどなんか隠してるって思われてる」

 

 

 

 なんとか席を確保し、ひとまずステフォンの中のプリキュア達とこっそり会話を試みる。ほぼ満席でここまでガヤガヤしているのなら、特に怪しまれることもない。スマートフォンを使ってなるべく周りに配慮しながらテレビ電話をしているようにしか見えない。ついでにステフォンはミュート中で、彼女達の会話は全て画面上のテキストボックスで表示されるので音漏れの心配も無用。

 ステフォンの中から会話を聞いていたのだが、幼馴染の察しの良さにぎくりぎくりと背筋が凍り、心臓もバクバク鳴っていたようだ。顔は知っているが実際に話すことはないだろう彼女達を震え上がらせるほどの自分の幼馴染の鋭さに、巡も改めて感心する。

 

 

 

「安心して。流石にプリキュアがアニメの世界であたしプリキュアなんだよとは言わないから。あらゆる方向に謝らなきゃいけなくなるけど、多分言ったらきなっちにいよいよ『あなた疲れてるのよ』って突っ込まれる」

[め、巡……そんなに?]

「けど、『実は私、街を守るヒーローなんです』的な秘密が一つあるだけで、なんかしらの特別感は感じて楽しいよね」

[楽しい……楽しいか???]

[どちらかといえば大変というか何というか……でも、そう言うふうにポジティブに考えられるのは、巡さんの強みですよね]

[うんうん!巡ちゃんすごい!]

「あ、これ褒められてるの?」

[褒めてるよ!]

 

 

 

 巡とプロトキュア達が希奈子の話題から膨らみ会話に花を咲かせる中、ただ一人、プロトドリームだけは別のことを考えていた。

 

 『秘密』と言う言葉が飛んできて、自身にも心当たりのあるものを抱えているために、引っかかってしまったようだ。

 

 

 

 ラブリー以外のプロトキュアは皆、闇の使者の中から飛び出してきた存在。そのため、彼女達と記憶を共有している。ブラックからステフォンを狙う理由を詳しく教えられていないのも知っているし、逆にドリームはブラックからその理由や自分たちが闇の使者となった訳、そしてブラックが何をネオフュージョンにさせられているのかをある程度知っている。……自分よりも先に目覚めているブルームの方が上手く説明してくれそうだが、今のところ彼女が出てくる気配はない。

 

 ブラックから話を聞いている二人は、ブラックから「ピーチ達には絶対に言うな」と釘を刺されている。闇の使者とは分離した存在になったので、その忠告は無視してもいいのだが、それでも言えずにここまできてしまった。

 本来ならその事実全てを巡やラブリーに話す責任があるのだが、それを話したときに責められるのは自分たちでありブラックだ。自分たちならまだいいが、あの状態のブラックが守るべき仲間達にまで悲しみをぶつけられてしまったら、それこそあの人が壊れてしまう。

 

 そして、記憶を失っているラブリーに教えて、彼女すらも傷つけてしまうのではないかという懸念も抱えていた。

 

 

 

 

 

(こんな大事なことも言えないなんて……あたし、一体どうしちゃったんだろう)

 

 

 

 

 

[……ドリーム?]

[あ、ご、ごめんね!ちょっと、ぼーっとしてて……あははは]

[もしかして……寝てた?]

[び、びっくりした〜]

「……?」

 

 

 

 考え込んでいたドリームに気づいてメロディが話しかけるが、ドリームは慌てて誤魔化す。他のみんなは寝てただけかと安心するが、巡だけは少し首を傾げた。

 

 

 

「ど、ドリーム。もしかして君は────」

[あ、あああああ!巡!大変だよ!またネオフュージョンが!]

「って、こんなときに?」

 

 

 

 何かを聞こうとしたが、ドリームの叫び声で全て遮られてしまう。しかも何やら不穏なワードも飛び出したのでそっちに引っ張られる。

 何とか画面を確認したいが、ここは衆目が集まりすぎているし、人前でワープホールを開くわけにもいかない。しかしここで、お手洗いから戻ってきた希奈子がやってくる。これはチャンスだ。

 

 

 

「お待たせ巡。さて、何食べようかしら────」

「きなっちごめん!あたしの荷物見てて!お手洗い行ってくる!」

「あ、ちょっと……!……一緒に行けばよかったのに……」

 

 

 

 希奈子が戻ってくるや否や、巡はステフォンをショートパンツのポケットに隠し、イートインスペースの方に近いお手洗いへと走っていった。一人置いて行かれた希奈子は、先に何を食べようかと、見て回る事にした。

 

 

 

 

 

「こ、ここならまあ……個室だし……」

『女子トイレかあ……こ、ここなら確かに誰にも見られないけども!』

「ひとまず確認しないと」

 

 

 

 女子トイレの個室の中で、巡はステフォンの『WorldTrip』を確認する。別に他の世界にいる時は、この世界の時間経過の心配をしなくてもいいのがある意味救済措置だろう。

 

 金枠の世界が6つになったが、さらに8時、10時、12時の方向の位置に新たなマークが増えていた。今回赤く点滅していたのは、10時の位置にあるマークだ。王冠のようなマークが煌めいている。このシリーズは……。

 

 

 

「Go!プリンセスプリキュア、でいいんだよね。プリンセスか……想像はつくけどどんな感じなんだろうか」

『はるかちゃん達の世界だね!』

『一度はブラックを退けたのに、ネオフュージョンも懲りないなあ』

「それくらい、ステフォンが欲しいんだよ。それでも渡せないんだけどね!じゃあ、行くよ」

『気をつけてね、巡!』

 

 

 

 足元にワープホールが現れ、巡はすぐにその穴の中へ飛び込んだ。

 

 星の様な煌めきが、虹の様なゆらめきが、個室トイレのよく見る光景との距離をどんどん遠ざけていく。出口は、すぐ近くに現れそうだ。この先、どんな世界が広がっているだろうか。

 

 視界が、白い光で塗りつぶされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Go!プリンセスプリキュアの世界>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここは夢ヶ浜。全寮制の私立ノーブル学園が建つ島をつなぐ橋を渡ることで辿り着く街。

 

 

 

 

 

『ゼツボーグッ!!!』

「世界に入った瞬間お出ましじゃん」

『これ絶対ネオフュージョンの欠片だよ!!』

 

 

 

 しかしその街には、ネオフュージョンの欠片であろう、絵本型の怪物がすでに出現していたようだ。欠片は巡の姿を視認した途端に標的を彼女に変え、こちらへと迫ってくる。

 巡がステフォンを構えて光に包まれた後、一瞬にしてキュアコンプリートに変身する。そして、迫り来る欠片の拳を両腕で受け止める。

 

 

 

「この程度、この前のブラックと比べたら全然受け止められるよ!はぁっ!」

『ゼツッ!?』

 

 

 

 そのままノータイムで繰り出された蹴りで、怪物を後ろにのけぞらせる。

 

 

 

『CureWeapon!Lovely!』

 

『PowerCharge!Fortune!』

 

 

 

 手に持ったラブリーショットガンの銃口からは、紫色の光の星の雨が放たれ、欠片をさらに大きく吹き飛ばす。

 

 

 

「少しづつだけど、プリキュアとしての戦い方も慣れてきた気がするよ。やっぱりダークネスの方のブラックとの激闘を経たからかな?」

『よくわからないけど多分そうだと思う!って、前前!!』

「え」

 

 

 

 キュアコンプリートとして4月あたりから戦い続けてきたことで、戦い方やどうすれば怪物に的確な攻撃を与えられるかを考え、実践できるようになっている。コンプリート自身がステフォンに宿る力を使いこなせるようになったのもあるが、ダークネスブラックとの敗北からの接戦、さらにステフォンに宿る力を大きく引き出す方法を知ったことで、精神的な成長も、彼女の強化につながったのかもしれない。

 ただ、能天気な性格と隙あらば油断するところだけは変わらないようで、欠片が振り落とす拳が迫ってきていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「燃えよ、炎よ!プリキュア・スカーレットスパーク!」

 

 

 

 コンプリートの背後から激しい炎のビームが放たれ、それは欠片が振り落とそうとした拳に被弾する。熱い炎にやられて、欠片の動きが止まる。

 

 

 

「な、何?誰?」

「「はぁぁぁっ!!」」

 

 

 

 追い打ちをかけるように、青と黄色のプリキュアが跳んできて、欠片に拳を喰らわせる。攻撃を喰らった欠片はよろめき、ゆっくりと倒れそうになる。それでも欠片はまだ立ち上がって見せると言いたげに踏ん張り、さらに攻撃を与えようとする。

 

 

 

「やぁぁぁっ!!!」

 

 

 

 しかし、上空からピンクのプリキュアが降りてきて、欠片の頭上に鋭い足蹴りを喰らわせる。色とりどりの花びらが舞う。

 

 ドレスを靡かせ戦う彼女達の姿は、まさに“強く、優しく、美しく”を体現したプリンセス。

 

 

 

『フローラ達だ!』

「……マジのプリンセスが来ちゃった」

「ぷ、プリンセス……!えへへ」

「二人とも!前見て!」

 

 

 

 コンプリートの近くに着地したピンクのプリキュア────キュアフローラは、コンプリートに大丈夫かと聞く前に『プリンセス』と呼ばれ、表情を綻ばせる。

 しかし、ここで話に花を咲かせている場合ではない。欠片は攻撃された事に憤慨し、コンプリートとフローラを狙う。

 

 

 

「おっと」

 

『CureWeapon!Happy!』

 

『PowerCharge!Moonlight!』

 

 

 

 コンプリートは背中に装備したハッピーウィングにキュアムーンライトの力を纏わせ、白銀の月のような光を纏い、欠片に突撃する。流石の欠片もこれには耐えきれず、危険を悟ってどこかに消えていった。逃げられたようだ。

 

 

 

『あちゃあ、逃げられちゃった!』

「また現れるのを待つしかないか……」

「あ、あのー!さっきのプリキュアですか?」

 

 

 

 ひとまず変身を解いたところ、先ほどのフローラらしき少女が近づいてくる。

 

 

 

「そうだよ。あたしは繋巡。助けてくれてありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここのドーナツ美味しいね」

『うんうん!ちょうどお腹も空いてたからいっぱい食べられるよ!』

「でしょ?今新作のフレーバーも出てるから超おすすめ」

 

 

 

 天ノ川きららの勧めで、ひとまず夢ヶ浜のマーブルドーナツと呼ばれる移動販売のワゴンのテラス席で、お互いに情報を共有する事にした。ついでにドーナツを食べる事にする。

 

 

 

「つまり、ネオフュージョンと呼ばれる敵が現れて、わたくし達の世界にも侵攻しに来たと言うことですのね?」

『そう!』

「さっきのゼツボーグは作り物で、それを操っている闇の使者がどこかにいると」

 

 

 

 巡達の話を聞いて、海藤みなみと紅城トワはすぐにその話を理解する。自分たちの世界にも関わる事なので、重く受け止めているようだった。

 

 

 

「私たちも、突然ゼツボーグが現れたと聞いて駆けつけたら、あなたが戦ってるのを見つけたの」

「なるほど。もしかして、ここに闇の使者が来たのはついさっきのことだったのか……」

『なんだか、またすぐに現れそうな気がするよ』

 

 

 

 もしかすると、すぐにこちらに現れる可能性が高そうだ。しかし、その気配を感じない以上は動けないので、適当に暇を潰すしかないようだ。

 

 

 

「それにしても、君たち本当にプリンセスみたいでかっこよかったな〜」

「まあ、ガチのプリンセスがいるし、プリンセスプリキュアだし」

「巡も、プリンセスに憧れたりするの?」

「今はそこまでないけど、なんか本当に、女の子の憧れ……みたいな?」

 

 

 

 巡はどちらかというと、プリンセスよりもロボットや仮面ライダーの方面に憧れを持つ方だが、プリンセスと聞いてワクワクしないほどの心ではない。

 

 

 

「私、巡さんにプリンセスって言われてすごく嬉しかったんだ」

「え?」

「実は私……プリンセスになりたいんだ」

 

 

 

 春野はるかは、少し照れたようにそう告白する。巡は数回瞬きするが、特に変とは思わずに首を傾げる。

 

 

 

「プリンセス……なんか、夢が大きくてかっこいいね」

「そ、そうかな〜?でも、まだまだだから、もっと修行して行かないと!」

「けれど……プリンセスと呼ばれるくらいには、はるかも成長してるということね」

「はるかならきっとなれますわ」

「よっ、未来のプリンセス〜」

『私たちも応援してるよ!』

「そ、そんなに言われると照れちゃうよ〜、え、えへへへ///」

 

 

 

 目の前で照れる少女は、どうやら人一倍努力家のようだ。夢に向かって進み続ける姿勢は、巡も見習わなければならない。

 しかし今の巡にはこれといった夢はない。「誰かの笑顔を守れるような、誰かの涙に気づけるような人でありたい」というのは、夢と呼ぶには漠然としすぎている。

 

 でも、現状の目標である「ラブリーの友達を助けて彼女達の世界をなんとかする」ために進み続けるという意味では、彼女達プリキュア達の姿勢に学ぶべきものがある気がしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────ええ、あなたならなれるよ」

「……え?」

 

 

 

 奥の方で、目の前にいるはずのはるからしき声が聞こえ、5人とプロトキュア達がその方向を向く。

 

 

 

「ごきげんよう。コンプリートに、この世界の私たち」

「……え、えぇぇぇ!?」

 

 

 

 5人の前に現れたのは、黒いドレスを纏った闇の使者だ。今までの例に漏れず、その姿はほとんど“キュアフローラ”と瓜二つだ。しかし纏うその雰囲気は、本来の明るい彼女と同じはずなのに、歪で別な何かを感じてしまう。

 彼女の後ろには、先ほど逃げられてしまったゼツボーグの姿をしたネオフュージョンの欠片が控えている。

 

 

 

「フローラが、二人……?」

「な、なんであのゼツボーグと一緒にいるワケ?まさか……」

『や、闇の使者だ!』

「あ、あの子が噂の……?」

「……ということは、ダークネスフローラってこと?」

 

 

 

 そう呼ばれても闇の使者────ダークネスフローラは、笑顔を崩すことなくこてりと小さく首を傾ける。この世界に現れたということは、どう足掻いてもステフォン狙いだ。

 

 

 

「一体、何が目的?」

「トワちゃん達にはあまり手を出したくないんだけど……目的は、コンプリートが持つステフォンだよ」

「それは、ブラックの命令?」

「命令だなんて人聞きが悪いよ……それは、あの人が望んでいるものだから」

「言っておくけど、君たちに何らかの事情があっても、あたしも簡単に渡すことはできないよ。あたしにも、やらなきゃいけないことがあるからね」

「め、巡さんたちの間で何かあるんだろうけど……そのゼツボーグを使って悪いことをしようとするなら、私たちも相手するよ!」

 

 

 

 彼女達は、自身の変身アイテムを構えていつでも応戦できるように準備する。ダークネスフローラは微笑みを浮かべたまま、困ったように眉を下げる。

 

 

 

「本当なら目一杯頑張らなきゃいけないんだけど、この場所は壊したくないんだ。だから、一度“場所”を変えようかな」

「場所?」

 

 

 

 そういった瞬間、ダークネスフローラの背後に控えていた欠片が、本来その姿をした怪物にはないはずの大口を開け、巡達を取り込もうと大きく吸い込む。

 

 

 

「あ、ちょ……っと……!」

「す、吸い込まれる……!」

「大丈夫。食べるんじゃなくて、ちょっと移動するだけだからね」

 

 

 

 絶叫を上げる間もなく、巡たち5人のプリキュア達は、欠片の口の中へと吸い込まれていった。中は真っ暗で、先が見えない。

 

 

 

「……っと、これがブラックの言ってた“細工”か……これなら、この世界にいるみんなや学園や街を傷つけずに済むかも……」

 

 

 

 そう言って、ダークネスフローラも欠片の中に広がる世界へと自ら入っていった。全員を取り込み役目を終えた欠片は、主人が帰ってくるまで大人しく待機する。

 

 

 

 

 

 人がいなくなった夢ヶ浜に、一陣の風が虚しく欠片に吹きつけている。

 

 

 

 

 

続く…

 




次回投稿日:5月19日(日)
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