PrecureStageON!   作:主氏レム

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第21話:まさにドキドキ!笑わない闇の使者

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コンプリートとプロトラブリーには、その姿には見覚えがあった。

 

 他の闇の使者とは違ってリボンとスカートは赤色だが、それ以外は今までの彼女達とそっくり。マゼンダの大きなポニーテールを揺らし、本来の彼女とはかけ離れたような落ち着いた表情で、コンプリート達の方を虚ろな紅い瞳で見据えている。

 

 

 

「え……これってつまり、そういうこと?」

『ダークネス、ラブリー……!?』

『ああああああ!言い忘れてた!!』

 

 

 

 ラブリーの言葉を聞いて、ステフォンの中でプロトミラクルが悲鳴を上げる。完全に伝え忘れたことを思い出したようだ。

 

 

 

『そういえば最近、あっちのラブリーが起きたの!!』

『えぇ!?うそ!?』

『お、起きたんですか!?』

『もしかして、こっちのラブリーがブラックに捕まった時のクリスタルが……?』

『私なんかした!?』

『したというより利用されたとしか!!』

「な、何か慌ててるみたいだけどもしかして、アタシたち……」

「まあまあ油断してるとまずいやつだったりする?」

 

 

 

 慌てるプロトキュア達と、話が全く読み込めずにとりあえずラブリーの姿をした闇の使者が現れたということは理解したプリキュア二人。

 

 

 

「あなたが、キュアコンプリート。ブラック達がいう、ステフォンの持ち主さんだね」

「そうだけど……だったら何?」

 

 

 

 話しかけられたコンプリートは、嫌な予感がしてすぐさま構える。

 先ほどの奇襲といい、ここにくる前のステフォンのアラーム音といい、油断したらブラックの時のように手も足も出ずにやられることはすでに学習している。

 

 

 

「────みんなのために、あなたからステフォンを取り戻すよ」

 

 

 

 静かにそう告げた闇の使者・ダークネスラブリーは、再び黒い光の剣を構えてコンプリートの方に走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第21話:まさにドキドキ!笑わない闇の使者

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『CureWeapon!Dream!』

 

「……っ!!」

「ぐ……!?」

 

 

 

 黒い光の剣を、ドリームレイピアで受け止める。しかし刀身の細さが仇となってしまっているのか、ダークネスラブリーの勢いを捌ききれずに大きく吹き飛ばされてしまう。

 畳み掛けるように背中の赤いリボンを翼に変え、コンプリートに向かって黒い光を宿した手のひらを突き出そうとする。

 

 

 

「ダークネス・インパクト!」

「っ!!」

 

『CureWeapon!Blossom!』

『PowerCharge!Passion!』

 

 

 

 衝撃波を放たれようとしたところをキュアウェポンの力でテレポートし、間一髪で回避する。あれを食らっていればもっと吹き飛ばされていた。

 

 

 

「ちょっとこの子ラブリーにしては随分とアグレッシブすぎない?本当にラブリー?」

『そんなこと言ってる場合!?』

「いやそうなんだよそうなんだけども」

 

 

 

 呑気に話している隙から、ダークネスラブリーは両手に黒い闇のオーラを纏い、ハート型の黒いエネルギー弾をコンプリートに向けて大量に放つ。

 

 

 

「ダークネス・リストラクション!」

「……!?」

 

 

 

 すぐに反応して避け続けるものの、片足に弾丸が一発被弾してしまい着地する。当たった場所にハートが張り付いて、まるで固定されたかのように動かすことができず、強制的に踏みとどまってしまう。

 

 

 

「ま、まずい動けない……っ!」

「ダークネス・スタンプ!」

 

 

 

 さらに、ダークネスラブリーの放った大きなハート型のエネルギー弾が、動けないコンプリートに迫る。そんな彼女の前に、誰かが手前に現れコンプリートを抱える。

 

 

 

「う……っ!」

「ちょ……!?」

『ハート!!』

 

 

 

 攻撃を喰らって動きを止められていたコンプリートを庇って、ハートが代わりにダークネスラブリーの放ったハート型のエネルギー弾をその背で受け止めた。コンプリートを無理やり後ろに倒して直撃を防いだので、エネルギー弾はハートの左肩に被弾したが、あの威力を喰らって痛がらないわけがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『う……っ!?』

『え……はぁ、と…?…』

 

 

 

 その時、ハートに一撃を与えたラブリーの脳内に“知らない記憶”が流れた。今のコンプリートがハートに庇われたように、自分が彼女に庇われた構図。あの白い少女の攻撃を、彼女は自分を今のように受け止めた時の記憶を。

 

 知らないはずなのに、覚えている何かの記憶。これは一体、いつの記憶だ────?

 

 

 

 

 

「……っ、だい、じょうぶ……!これくらい平気だよ……!」

「いやいやいやいや今の確実にダメだった時の声だったって」

 

 

 

 一方のコンプリートはというと、自分を庇ったハートを心配していた。相当な威力で放たれたそれは確実に彼女に大打撃を与えているというのに平気そうな顔をしているのだから、いくらなんでも無茶するなと突っ込んでしまう。

 ひとまずキュアウェポンの力で君の怪我を癒さなければ、いやいやアタシは大丈夫だからあなたを助けないとという、善意の譲り合いが行われる一方で、プロトラブリーが嫌な気配を感じ取る。

 

 

 

『……あれ?闇の使者の私の様子が……!』

「……え?」

 

 

 

 言われて2人がダークネスラブリーの方を向く。彼女は、苦しそうな様子で頭を抑えてうずくまっている。何かを堪えているようにも見えるが、その体からは闇の力がどす黒いオーラとなって溢れ出している。

 いつも闇の使者が必殺の技を放つ時にも黒い闇が可視化して溢れ出す時があるが、ダークネスラブリーのそれは桁違いの量だ。

 

 

 

「う、ぐ……ぅあ……っ!!」

「だ、大丈夫!?」

 

 

 

 ただならぬ状況に、攻撃してきた相手にも関わらず痛む肩を抑えながらハートが近づこうとする。しかし、そんな彼女を拒むように、黒い闇は衝撃波となって吹き飛ばそうとする。

 

 

 

「うわ!?」

『もしかして、暴発!?』

「暴発!?」

『詳しくは見れなかったんだけど、あのラブリーが起きた直後もあんな感じになってたの!』

 

 

 

 プロトミラクルの話を聞くに、何かしらがトリガーとなって起きた、あの状態を放置するのはまずいらしいのはすぐにわかった。ようやく動けるようになったコンプリートも彼女の力を押さえ込むため、ホイップウィップを伸ばして動きを止めようとする。しかし、闇の力が強すぎて、衝撃波に阻まれてしまう。

 

 

 

『うわぁっ!?』

『弾いた!?』

 

 

 

 鞭を伸ばしたコンプリートの存在に気づいたダークネスラブリーは、瞳に紅い光を強く灯らせ、闇を纏いながら彼女の方に飛びかかってくる。

 

 

 

「ぅあ゛あぁぁぁっっ!」

「!!」

 

 

 

 すぐさまリングを外して力を解放すると、コンプリートは素早く彼女の振り下ろす拳を避ける。その後も彼女はコンプリートをしつこく攻撃し続ける。

 

 

 

「ちょ、ちょっと、なんか急に……!おっとっと」

「コンプリート!今助けに……うぅ……」

『ハートは狙われていないうちに休んでてください!!』

「でもこのままじゃ、あたし流石に、やられるって!」

 

 

 

 最近は強い力に飲まれることなく安定して戦えているコンプリートだが、このまま戦闘が長引けば確実にやられるし、この力を完全に使いこなしているわけじゃない。

 なかなか攻撃が当たらず、ダークネスラブリーは周囲に黒い闇のエネルギー弾を複数展開し、コンプリートを集中砲火しようとする。

 

 

 

「……っ!!」

『コンプリート!』

 

 

 

 

 

『CureWeapon!Miracle!』

『PowerCharge!Mint!』

 

 

 

『キュアップ・ラパパ!光よ、コンプリートを守って!』

 

 

 

 プロトミラクルの声と共に、ステフォンの中から光が飛び出し、コンプリートの右の手首に巻かれたリングのような形となる。それは、キュアミラクルの姿を模したような装飾が施された『ブレスレット』の形をしたキュアウェポン。

 詠唱と共に放たれた緑色の光は、ドーム状のバリアとなって、闇のエネルギーの弾丸による集中砲火からコンプリートを守った。

 

 

 

『魔法の力で、一緒にあっちのラブリーを止めよう!』

「ミラクルブレスってこと?あの呪文的なの使ったらあたしも魔法使いになれるんだね」

『簡単な魔法しかうまく操れないけど……』

「それでも十分すぎるよ」

 

『PowerCharge!Honey!』

 

「えっと、キュアップ・ラパパ!怪我を癒して!」

 

 

 

 ブレスが揺れる右手に優しく宿る黄色の光が、ハートの方に放たれる。光は彼女の右肩に負った怪我を癒やしていく。

 

 

 

「怪我が治って……、もう、痛くない……?」

「やっぱり痛がってたじゃないか」

「うぐっ」

「……とにかく、頑張ってあの子を止めるよ」

「お、オッケー!」

 

 

 

 ハートとコンプリートが、迫るダークネスラブリーに立ち向かうために二人同時に飛び出す。相手は、ずっと苦しそうな声を上げながら、無茶苦茶な方向に攻撃を放っている。

 

 

 

『PowerCharge!Magical!』

「この!」

 

 

 

 闇を纏った拳を、キュアマジカルの力を纏ったことで展開された魔法陣のバリアで受け止める。ぶつかり合う強大な闇の力を、光ある魔法の力で相殺し、少しずつ削っていく。

 

 

 

「ぐ、うぅぅ……!」

「こっちだって、吹き飛ばされるばかりじゃないよ……!」

『そっちの私!コンプリートばかりに構ってる場合!?』

「……ッ!!」

 

 

 

 いつの間にか、一緒に飛び出したはずのハートの姿が見当たらなくなっていた。いや違う。コンプリートの後ろで、ラブハートアローを構え、愛の詰まったハート型のエネルギー弾を放とうとするハートの姿があった。

 

 

 

 

「この愛届け!プリキュア・ハートシュートッ!!」

 

 

 

 放たれたハートは、闇の力を纏うダークネスラブリーに被弾する。彼女の放った愛の力が、余分に溢れていた闇の力を浄化したのか、急速に彼女から溢れるものが収束していく。同時に、ゆっくりとダークネスラブリーが座り込み、ばたりと力が抜け落ちたかのように崩れ落ちた。

 もうあのいやな雰囲気を感じることはない。おそらく他の闇の使者同様に、一時的に力を奪われたのだろう。

 

 

 

 

 

『止まっ……た……?』

「な、何だったのかしら今の……おっかなかった……」

 

 

 

 一件落着の余韻も味合わせてくれないまま、何もない空間内に、真っ白な光が満ちる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ジコチュー!』

「カッチカチのロゼッタウォール!」

 

 

 

 欠片の攻撃が、ロゼッタの展開したクローバー型の2枚の小さなバリアで阻まれる。そのバリアを破ろうと連続で拳を叩き込むが、ロゼッタはバリアを使いながら攻撃をいなしつつ、反撃の蹴りを喰らわせ欠片をよろけさせる。

 

 

 

「閃け!ホーリーソード!」

 

 

 

 ソードが放つ無数の剣型のエネルギー弾の雨が、よろけた欠片へ追撃するように降り注ぐ。欠片が一体消滅するが、まだ大量に残っている。

 

 

 

「これじゃあキリがない……!」

「あの黒いキュアハートの話であれば、ここにいるジコチューのどれかにハート達がいると言うけれど……」

 

 

 

 黒いキュアハート────ダークネスハート曰く、本物のハートがこの欠片達のどれか一体の中に続く空間の中に閉じ込められていると聞いている。しかし、この量の中から一体を見つけ出すと言うのは流石に至難の業となる。

 一方のダイヤモンドとエースは、元凶であるダークネスハートと対峙している。エースの手刀を受け止めつつ、黒いハートは笑顔を崩さぬまま攻撃を仕掛ける。

 

 

 

「あなたの目的がわたくし達ではないのなら、どうしてこんなことを……!」

「だって、コンプリートが確実に来るならこうするしかなかったんだもん。みんなには悪いけど、これもあの人のためだから」

「あの人……?きゃあっ!?」

「ダメだよエース、よそ見しちゃあ」

 

 

 

 あの人のことが気になり聞こうとするが、ダークネスハートの手刀がそれを拒んでエースを後ろに吹き飛ばす。そんな彼女の背後に、ダイヤモンドが迫る。

 

 

 

「煌めきなさい!トゥインクルダイヤモンド!」

 

 

 

 ダイヤモンの指先から放たれるダイヤ型の無数の氷が、ダークネスハートの足元を凍らせて動きを封じる。しかし彼女は全く気にしていないのか、その手にラブハートアローのような黒い弓矢を召喚して身構え、黒いハート型のエネルギー弾を放とうとする。

 

 

 

「ごめんね、ダイヤモンド。アタシだって、ステフォンのためとはいえこんなことしたくないよ」

「ハート!それなら……」

「それでも、アタシ達にはやらなきゃいけないことがあるんだ、だからごめんね!」

 

 

 

 ダークネスハートの表情で言葉に嘘はないとは察せられるが、ダイヤモンドに向けるエネルギー弾を撃たないという選択は取ってくれない。

 

 

 

 ダイヤモンドにその弾丸が放たれようとしたその時、ジコチューの姿をした欠片の一体が、真っ白な強い光を放つ。

 

 

 

 

 

「な、何!?」

「あの光は……!」

「う、うそ!?もう出てきちゃうの?!」

「もしかして、あのジコチューにハートが……!」

 

 

 

 向こうの反応からソードが、あの一体がハートを別の場所へと誘った奴だと確信を得た。それを知ったエースは、すぐにラブキッスルージュに宿る赤い光で唇を彩り、あの欠片に向かって投げキッスを放つ。

 

 

 

「ときめきなさい!エースショット!ばきゅ〜ん!」

 

 

 

 放たれたハート型のエネルギーは、赤い薔薇の花びらを纏ったビームとなって欠片の胸を撃ち抜く。白と赤の二つの光が混ざり合い、大爆発を起こす。爆発に巻き込まれ、周囲の欠片達は一斉に光に飲まれて消滅していく。

 光の中からは、気を失ったままのダークネスラブリーを抱えたハートと、闇の使者の狙いであるコンプリートが勢いよく飛び出してくる。コンプリートはダークネスハートの姿を見つけるやいなや、そのまま拳を振り翳して飛びかかろうとする。

 

 

 

「ラブリー!?ど、どうして……!」

「さっきはよくもやってくれたね!仕返しの時間だよ!」

 

 

 

 コンプリートの拳に対応するため、すぐに弓矢をしまって受け止める。

 

 

 

「なんとか脱出できたけども、二人であたし一人を攻めてくるのはちょっと卑怯じゃない?」

「それがどうしたの?アタシは、あなたからステフォンを取り戻したいだけなのに」

「なのに関係ないこの世界に大量の欠片を呼んじゃって……、ブラックの入れ知恵かな?」

「あの人を悪く言わないで!あの人は何も教えてくれないけど、あの人のためにも、アタシは……!」

「何も教えてくれない、ねえ……おっと」

 

 

 

 コンプリートを後ろに弾き飛ばし、弓矢を召喚して先ほど放とうとした黒いハートのエネルギー弾を放とうとする。狙われたコンプリートもまた、投げキッスの要領で右手の指を銃口のように、ダークネスハートの胸のリボンに輝く紅いクリスタルに向ける。

 

 

 

「ダークネス・シュートッ!!」

「暗闇に飲まれたその心、撃ち抜くよ!プリキュア・ブレッシングキッスッ!」

 

 

 

 放たれた二つのハートのエネルギー弾がぶつかり合い、火花を散らす。両者互いに優勢を譲らず、コンプリートもいつかの時のように押し返されそうになる。

 

 

 

「う、ちょっと強くない……?想いは相当強いみたいだね……」

「当然、だよ……アタシたちも、譲れない思いがあるから……!!」

「……っ、はー、と……!」

「……!」

 

 

 

 コンプリートを押し込んだダークネスハートだったが、こちらの世界のハートに抱えられたダークネスラブリーが目覚め、今起きている状況を読み込もうとしている。

 起きた彼女に気を取られたのが仇となってしまったのだろう。ダークネスハートの気がわずかに緩んでしまったのか、コンプリートの全力によって押し返されてしまい、そのままクリスタルを撃ち抜かれてしまった。

 

 

 

「ぁぐ……っ!?」

 

 

 

 ハートの弾丸に撃ち抜かれたダークネスハートは、一時的な無力化を受けるものの、崩れ落ちずにふらついた。しかし相当持って行かれたようで、肩で息をしているのには変わりない。無理やり立っているというような状態だろう。彼女から飛び出した光の玉は、いつものようにステフォンの中に吸い込まれていく。

 そのまま彼女は、ハートに抱えられたままのダークネスラブリーの元に辿り着く。

 

 

 

「だ、大丈夫……!?」

「私は何とか……でも、また暴発しちゃったみたい……」

「ぼ、暴発……!?か、返して!」

「おっとっと……!?」

 

 

 

 自分が苦しいはずなのに他人を優先して心配をしてしまうのは本来のハートとは変わっていないのだが、ラブリーの発言に驚いて、彼女を抱えているハートから彼女を取り上げるように抱きかかえる。

 

 

 

「……ごめんね、気付けなくて」

「ううん……私もちょっとびっくりしただけだから……」

「ラブリーのこともあるから今回はこれくらいで勘弁してあげる。次会った時は覚えてなさい!」

 

 

 

 そう言って、ラブリーを抱えたまま自分たちのアジトへと消えていった。

 結局彼女達は何だったのだろうと考える間もなく、ハートと変身が解けた巡が地面にペタンと座り込んだ。

 

 

 

 

 

「つ、疲れた……」

「ハート!それと、あなたがキュアコンプリートね……?」

「え、あ、うん」

「ハートを助けてくれてありがとう。私たちだけじゃ、ハートをどうやって助ければいいかわからなかったから」

「助けたというか、あたしも助けられたところもあったけど……それなら良かった」

『あ、またステフォンが!』

 

 

 

 ダイヤモンドから感謝の言葉を述べられ、とりあえず闇の使者にとんでもねえ子が入ってきたなと考える束の間、光の玉を吸い込んだステフォンから光が放たれ、巡達を水晶の世界へと誘う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っ!?」

「ここは一体……」

「もしかして、そのステフォンの力で?」

 

 

 

 ステフォンから溢れ出した光が収まると、変身が解けたキュアハートこと、相田マナ達ごと、巡はあの水晶の世界へと飛ばされていた。最近のステフォンは、自分はともかく周りにいたプリキュアたちまで巻き込んでこの場所へ飛ばすのがお気に入りらしい。

 

 

 

「……何というか、カオスな感じがするわね、この場所」

「それは前々から思ってた」

『今回はどうなっちゃうんだろう……』

「あの水晶の柱の中にも、わたくしたちと同じようなプリキュアの人たちがいらっしゃるのですね……」

「この場所で、いったい何が起きたというのでしょうか……」

 

 

 

 菱川六花の冷静そうで困惑しているのが隠しきれないツッコミに巡が反応し、四葉ありすや円亜久里はあの水晶の柱を見つけ、この世界で何かが起きたんだろうとすぐに察する。

 今回は誰が眠る近くにいるのだろうと、柱の中を確認する。

 

 

 

「……え、キュア、ハート……?」

「あ、アタシがいる……?」

 

 

 

 剣崎真琴がその中で眠っているプリキュアの姿を発見し、巡もそちらを向いた。水晶の柱の中で眠っていたのは、キュアハートだ。

 

 彼女が眠る水晶の柱からは、淡く優しい桃色の光が溢れ出し、厚い雲が覆う天へと伸びていく。

 

 光が収まった後に周りを見渡すと、今回はこの世界の景観に関わる変化は起きていなかった。いやしかし、確実に何かが起きているという違和感だけは拭えない。よく見回してみれば、その違和感にすぐ気づいた。

 

 

 

「……あれ?」

『どうしたの!?』

『私たちは相変わらず、ここにきた私たちの仲間の姿が見えないけど……!』

「マジで?今回の変化はそっちなんだけど……」

 

 

 

 ここに集うプリキュアたちは、一定の期間が過ぎると省エネ状態と呼ばれる光の玉のような姿となる。本人たちは誰が誰だか判別できるようだが、巡や何も知らない人たちから見れば、喋る色のついた光の玉がふよふよ浮いているだけにしか見えない。

 だが今はどうだろう。その光の玉がどこにも見当たらない代わりに、随分と人口密度が増えた気がする。

 

 

 

 

 

「……サニー?」

「ん?あれ?ステフォンも持ち主さんやないか!」

「別の世界のマナちゃんたちもいるんだね!どうしたの?」

「どうしたもこうしたも、君ら省エネモードじゃなくても本来の状態になれたんだ」

「……え?あ!ほんまや!!!」

「久しぶりに自分の姿を見たかも」

「……もしかして、お取り込み中だったかしら」

「あ、え、ダイヤモンド!?それにみんなも!?」

『何!?いったい何が起きてるの!?』

「ちょっと待って情報で溢れかえって大変なことになってる」

『だ、誰かー!この状況を何とかしてー!私たちだけじゃどうにもできない!』

「み、みんな落ち着いて〜!」

 

 

 

 巡に言われて初めて、この世界のプリキュアたちも自身の変化に気づく。相変わらず半透明ではあるが、光の玉ではなく元の人型になっていたのだ。

 さらにこの世界に辿り着いたダイヤモンド・ロゼッタ・ソード・エースの登場、プロトキュアたちが相変わらず彼女たちの姿が見えていないという状況下で、カオスさを極めている世界がさらに混乱に陥る。

 

 

 

 

 

「つ、つまり!巡ちゃんはこの場所を元に戻す?ためにここに来ていて、この世界のプリキュアたちは色々あってバラバラになってて、ステフォンの中のラブリーたちには見えていないってことだね?」

「ガッツリまとめたね大体そんな感じ」

 

 

 

 何とかマナが音頭をとって全員の話をまとめ上げ、わかりやすくしてくれた。喜ぶ気持ちもわかるが、まずは落ち着いて状況確認しようということなのだろう。

 

 

 

「今回は、ドキドキ!プリキュアの人たちが戻ってきて、世界じゃなくてプリキュア側に変化があったってことなのかな」

「一体、何がトリガーになっているんでしょうね」

「わたくし達全員が、この世界で起きた何かを忘れている。まるで、それを思い出してはいけないと誰かに言われているように」

「誰かに……?」

「それってやっぱり、元々の持ち主?」

「そこまではわからないけれど……やるとしたらありえるかも」

 

 

 

 エースの言葉に、巡がある心当たりがあった。全員が共通した地点での記憶喪失をしているなら、それが不都合な記憶だからと誰かが失わせそうだ。その誰かというのが、ステフォンの元々の持ち主だった人物だ。

 この世界のプリキュアとの会話でたびたび出てくるその人物がどういう奴なのかは知らないが、全てのきっかけがそちらにありそうだ。

 

 

 

「それにしても……私たちが知らないプリキュアがこんなにたくさんいたのね……」

「探せばいるかな?」

「そっちのマナ、元気そうね」

「え?……あ、そうか……」

「べ、別に寂しくないわよ。体はこっちで眠ってるみたいだし」

 

 

 

 そう言いながら、この世界のダイヤモンドはどこか寂しそうな目で、ハートが眠る水晶の柱を見上げていた。

 ステフォンの中には、ダークネスハートから飛び出した光の玉から変化した猫耳で2等身のキュアハートの姿をした精霊────プロトハートがすやすやと眠っている。

 

 

 

「こっちにはいるのね。小さくなっているけど……」

「そちらのハートは、任せましたよ」

「わかってる」

「……ところで、そちらのハートや他の皆さんは、どうやって助けたのですか?」

「あれ?前に言ってなかったっけ……いや言ってないわ……」

『どうしたの?』

 

 

 

 ロゼッタにプロトハートを任されたついでに、彼女にどうやってプロトキュア達を助けたのかを聞かれて、そういえばその大事なことを告げていなかったことを思い出す。

 

 

 

「ラブリー以外は闇の使者っていう、真っ黒なプリキュアから飛び出してきて」

「黒い、プリキュア……?」

 

 

 

 ムーンライトが巡の話に反応を示す。それは何か心当たりがあるような雰囲気で詳しく話を聞こうとしたが、巡たちの体が発光する。

 普段巡たちは自分たちの視界がゆっくりと白い光で満たされていきながら元の世界に引き戻されているようだが、この世界のプリキュア達から見るとこうなっているらしい。

 

 

 

「それは一体どういうことかしら?」

「え……?この子達とよく似た姿のプリキュアがいて……あれ?この世界のプリキュアとかじゃないの?」

「ここの……?」

「ムーンライト、何かあったんですか?」

「少し、気になることがあって……」

「気になること?」

「……あなたがまたここに訪れたときに、それを話すわ。まだ核心に、至れていないの」

「わかった!じゃあ、また今度!」

 

 

 

 そう言って、巡達は元の世界へと引き戻されていった。

 

 

 

 

 

 彼女達がいなくなり、ムーンライトは考え込む。そして、彼女以外にもそれの当事者だったプリキュア達も困惑した表情を見せる。

 

 

 

「ちょ、ちょっと、今のって……」

「やっぱこの前見たのってさぁ」

「な、何かあったの?」

「ピース、まだウチらしかおらんかった時に、2人くらい黒いローブの女の子来たことあったやろ?」

「そういえば……」

「そのうちの一人が、もしかすると……」

 

 

 

 マカロンが珍しく言い淀む。ただこれを真として確信するとなると、ステフォンの中のプリキュア達が一体何なのかという問題につながる。

 

 

 

 

 

『……おっかしいなぁ、誰か近くにいるような気がしたんだけど……』

 

 

 

「あの時、この世界に現れた黒いローブの子を闇の使者の一人だとして……その一人の声は、私たちが確実に知っている人物のもの」

「じゃ、じゃあやっぱり、あの子が言ってる闇の使者って、この世界のプリキュア……ってこと?」

「ここに集っていない魂が彼女達ならば、一体どうして、敵対するような真似を……?ネオフュージョンに脅されてるの……!?」

「わからない。わからないけど……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────彼女達の目的も、この『崩壊』した世界に関わることなのでしょうね。

 

 

 

 ムーンライトは嫌な確信を抱えながら、極めて冷静にそう結論づけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<ネオフュージョンの世界 漆黒の城・闇の使者の大広間>

 

 

 

 

 

「悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい……」

「ハートが……なんか、とても珍しいことになってるんだけど」

「コンプリートに叶わなかった挙句、ラブリーが見てないところで暴発させた責任感でああなってるんだって」

「ハート、大丈夫だった?」

「うぅ……」

 

 

 

 ハートにしては珍しく頭を抱えて今回のことを猛反省している中、その姿を目撃したメロディとハッピーが困惑しつつも彼女をフォローしようと隣に座る。肝心のラブリーは、帰ってきてすぐにソファで横になったまま、そのまま夢の世界に旅立っている。

 

 

 

「ラブリーは疲れて眠ってるみたいだし、二人が無事で良かったよ」

「でも!でも、アタシがちゃんと見てなかったから、ラブリーが……」

「何がきっかけで暴発しちゃうのかも、私たちでもまだわからないことだらけなだから、そこまで気にしなくても大丈夫だと思うよ」

 

 

 

 ね、ブラック!と、ちょうど近くを通りがかったブラックに話題をふっかける。彼女も一部は聞いていたので頷きながら、ハートのそばに立つ。そういえばこの人は、一度暴発した彼女に何かを囁いて止めていたではなかったか。

 

 

 

「うん。……ハートもよく頑張ったわね。あとは任せてゆっくり休んでて」

「は、はい……」

「……」

 

 

 

 ブラックにそう励まされても、ハートの表情はどこか暗い。

 

 ハートに関わらず、闇の使者達にとって今の彼女は、大事なことを隠しているずるい人という共通認識がある。特にハートは目覚めた直後のラブリーの呟きのせいなのか、今まで気にすることがなかった自分たちの世界が崩壊した理由が、変に気になるようになってしまったのだ。

 そしてブラックもまた、自分がまだ教えていないことに勘づき始めているハートに対して若干の警戒心を抱いていた。これ以上隠していても意味はないとわかっているのに、彼女たちを傷つけたくないという思いが強すぎて言い出せなくなっているだけなのに。

 

 

 

「え、えぇ〜何これ」

「ブラックとハート、喧嘩したのかな……?」

「そんな感じなかったと思うけど……」

 

 

 やけに二人の間で不穏な壁を挟んだような探り合いの会話だったために、聞いていたメロディとハッピーが小声で話す。今までこんなことなかったのに、とても心配だった。

 そんな微妙な空気を挟んだ彼女達の間に、一人の少女が割り込んでくる。

 

 

 

「ちょっとブラック借りてくナリ〜」

「!?」

「あ、ちょ、ブルーム!?」

「あれ?ドリームまで連れて行かれてない???」

「あはは〜ちょっと捕まっちゃって〜すぐ戻るよ〜」

 

 

 

 ブラックの翼を掴み、ドリームのローブを引っ張りながら、二人を連れた(引きずっている)ブルームは笑顔で大広間を後にする。あまりにも唐突な状況だったため、3人は呆気に取られてしまうが、おかしな空気から解放されたことで力が抜けたように体勢を崩す。

 

 

 

「な、なんだったんだろう、今の……おかげで空気が突然明るくなったけども」

「助けてくれたのかな……そういえば次は、ブルームの番だったよね」

「何か考えがあるのかな?」

 

 

 

 

 

 一方、ブルームによって引っ張り込まれていった2人は、普段は誰も寄りつかない空き部屋の方に移動させられる。

 

 

 

「な、何なのよ突然……」

「大事な話があるって言って突然掴まれて……」

「二人にも関わる話だったし、ちょっとね」

「……それで、話って何……?」

 

 

 

 ブラックが困惑と警戒しながら聞いてみると、目の前の彼女は真剣な表情でこう告げる。いつもニコニコしている彼女が真面目に話すのだから、二人も背筋を伸ばす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────そろそろさ、みんなに教えない?『崩壊』した理由を」

「……は?」

「え……えぇぇ!?」

 

 

 

 もちろんあっちのコンプリートやラブリーにもちゃんと言うからとは言っているが、全く何のフォローになっていない。

 

 

 

 ブルームが告げるそれは、この3人で他の闇の使者達に隠していた『秘密』の根幹に関わる話題だったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<巡の世界 心野宮・夏祭り会場>

 

 

 

 

 

「不思議なことは色々あったけど、とりあえず残り戻ってきてない人たちが3人くらい?なんだっけ」

『ほのかさんとひかりちゃんと舞ちゃんだね!』

「……って、あれ?帯刀君が見当たらない」

『ほんとだ!さっきまで近くにいたのに……』

 

 

 

 元の世界に戻ってきて、悪友を黙らせに行った廻の姿が見当たらない。いちどプリキュアの世界に行く前は、背中姿だけが見えていたのだが、どこに連れて行ったのだろう。

 ひとまず彼が戻ってくるのを待つかと、置いて行った荷物と共に座っていると、巡の姿を見たとある男がこちらに近づいてくる。巡は特に気付いている様子はない。

 

 

 

 

 

「あの……繋さん、ですよね?」

「え」

 

 

 

 話しかけられて顔を上げると、なんとなく巡はその顔に見覚えがあった。確か、廻と同じサッカー部の2年生ではなかっただろうか。彼が黙らせに行ったという悪友集団にはいなかったが、こんなところで何をしているのだろうか。

 

 

 

「あー、確かサッカー部の……」

「はい!山本です!偶然ですね!ここで何を……」

「一緒に来た人を待ってるの。君こそ何してるの?」

「えぇっと、その……」

 

 

 

 山本と名乗る青年は少しモジモジとしていたが、覚悟を決めて巡の方へとその手を突き出した。

 

 

 

「もしお時間がよろしければ、一緒に花火を見ませんか!」

「え」

『えぇぇ〜!?』

 

 

 

 おっとこれは略奪かぁ?とプロトキュアがバッグの中でドキドキしている中、巡はまさかのお誘いに戸惑ってしまう。自分はこれから廻の帰りを待っているのだが、彼をなるべく傷つけずに断るための言葉に困っている。

 

 どうしようかと柄にもなく困っていると、また一人の男が救世主のように。巡のそばにぬるっと現れる。

 

 

 

 

 

「悪いな山本、俺が先客だ」

「た、帯刀!?」

「行くぞ繋」

「あ、ちょ」

 

 

 

 ようやく戻ってきた帯刀廻が、わずかな嫉妬心と邪魔すんなオーラで山本を威圧し、驚いた巡の腕を引いて神社の階段をの方に走る。

 一人取り残された山本は、「なんだやっぱ大好きじゃねえか!」とツッコミつつも、仕方ないここは邪魔しないでおこうとすぐに察知し、悪友の方へと走っていった。なかなか踏み切れない彼には、これくらい強引にやったって問題ないだろう。

 

 一方、廻に腕を引かれながら花火がよく見えるスポットである神社の階段を登る巡は、ちょっと待ってと立ち止まる。

 

 

 

「ったく……(あいつら、俺が全然動かねえからって強引に……)」

「だ、大丈夫かなあの山本君」

「ああ、あいつは別に大丈夫だ。次の部活の時にはケロッとしてる」

 

 

 

 悪友達は廻が巡のことを好いているとわかっていて、帯刀廻のちょっといいとこ見てみたい的なノリや、彼らが全く進展しないことに痺れを切らして、かなり強引な方法で廻側が積極的に動くように巡をナンパするという考えに至ったのだろう。

 

 

 

「それにしても……ありがと、帯刀君。助けてくれて」

「べ、別に大したことはしてねえよ……」

 

 

 

 ちょうど花火が上がり、夜空に咲く光の花の煌めきが逆光となって、ふんわりとした笑顔を浮かべる巡を照らしている。その姿が妙に綺麗に見えて、廻は思わず彼女の顔に見惚れる。あいつの顔、あんなに綺麗に見えてたっけ?

 

 

 

「……!」

「帯刀君?」

「……い、いや、別に……。な、なあ繋、さっきの続きだけど……」

 

 

 

 意を決して、廻は巡にあることを告げる。

 

 

 

 

 

「繋が良かったらでいい……夏祭り、来年も一緒に来ねえか……?」

「……!あたしはいいよ、今日すっごく楽しかったし」

「……そうか」

 

 

 

 全く照れていないあたり、巡は本気で彼からの好意に気づいていない。多分巡は純粋に今日の夏祭りが楽しかったから、また来年も一緒に行こうねと言っているんだろう。

 

 それでもいい。それでも構わない。

 今はまだ、自分の想いに気づけなくたっていい。まだ自分が巡には叶わないということだろう。

 

 

 

 それでもいつか、彼女がこの言葉の意味に気づく日が来れば、その時は────

 

 

 

 夜空に咲く虹色の大きな花火が、向かい合う二人を照らしている。

 

 

 

 

 

続く…

 




次回更新日:6月15日(土)
いよいよ色々わかる、かも?
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