PrecureStageON!   作:主氏レム

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盛り上がってまいりました
ある意味ではこの第3章の山場です


第27話:激震!?心野宮 コンプリートの新たな力

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夢を見た。

 

 全ての元凶である真っ白なあいつと対峙する夢を。私たちが本来いるべき世界を滅茶苦茶にしたあいつと対峙する夢を。

 

 

 

「■■■■■■……ッ!!!」

「……」

 

 

 

 様々な気持ちがのって吐き出された低い威圧の声を出しても、あいつは何も喋らない。周りには、私の仲間たちが倒れている。あいつにやられてしまったんだ。きっとそうだ。

 仲間を傷つけられた怒りから、私は強く踏み出して彼女の元へと飛び込んでいく。

 あいつの近くに行こうとするが、踏み出した足が黒い地面に沈み込み、徐々に身動きが取れずに下の方に取り込まれていく。

 

 

 

「……っ!」

「……」

 

 

 

 真っ白なあいつは、沈みゆく私に対して助けることも追い打ちをかけることもせず、ただただ見下ろしている。

 

 

 

「アンタの、せいで……っ!!」

「……」

「私は、アンタを絶対に……っ、がっ……!?」

 

 

 

 忌々しい顔は、ノイズが走ってぼやけている。それでも赤く不気味に光る無機質な瞳だけははっきりと映っている。

 

 世界を、みんなを、■■■をバラバラに消し飛ばしたあいつに向けて手を伸ばすが、どんどん真っ黒な海の中に沈んでいく。

 

 意識は、真っ暗な方へと引きずり落とされていく。誰かの呼び声が、私を繋ぎ止めている────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゆっくりと瞼が開いていく。沈んでいた意識が、水面の方へと向かって上がっていく。

 

 

 

 

 

「……」

「あ!ブラック起きた!」

 

 

 

 耳元でドリームの声がして、ダークネスブラックはそちらに顔を向ける。自分はどうやら、自室のベッドで寝ていたらしい。

 

 確か、コンプリートとぶつかって、自分の中から飛び出した何かに力を大きく奪われて、そのまま逃げてしまった。その後自分たちの世界に戻ってきてからの記憶が、全くない。

 

 

 

「……私、は……」

「ブラック、帰ってきて早々ぶっ倒れちゃったんだよ!?覚えてない?」

「ラブリーが見つけて、部屋に運んでくれたんだって」

「……二人とも……」

 

 

 

 どうやら自分は、戻ってきた後に疲労から意識を飛ばしていたらしい。今はブルームとドリームが、自分が目を覚ましてすぐに動き出さないように看病?監視?していたらしい。回復したらラブリーにお礼を言いに行こう。

 

 

 

「……ごめん……私も、ダメだった」

「そんなに気にしないでよ。また頑張って取り戻そう!」

「……」

 

 

 

 言い出した自分もコンプリートに追い返されてしまったという屈辱感と他の仲間たちへの申し訳なさから自然と謝罪の言葉がこぼれてしまうも、ドリームの前向きな言葉に励まされる。

 それでも元気が全く出ないのは、きっとあの言葉のせいだろう。

 

 

 

 

『どうして……どうしてあなたは、何もかもを背負おうとするの!?あいつの悪事が嫌だったら嫌って、言いなさいよっ!!』

『言えるわけ……言えるわけないじゃないっ!私はみんなを傷つけたくないし、失いたくない!!何も知らないあの子達に言ったら、あの子達は絶対にネオフュージョンの方にぶつかりにいくのよ!?それでみんなに何かがあったら、そんなの……っ!!』

『ピーチ達は、あなたが何か、嫌なことをさせらてるって察してるよ……あなたの力になりたいって……っ。本当はあなただって、誰かに助けて欲しい気持ちがあったんじゃないの!?』

『……っ!?』

 

『あの時だってそう……。あなたは、伸ばされた手を取ろうって思ったんだよね……自分を助けて欲しいって、思ったんだよね……?けどそうしたら、闇の使者のみんなを、あの世界のみんなを裏切るかもしれないから……あの世界のプリキュア達を巻き込みたくなかったから、取れなかったんでしょ……?』

『……っ、それ、は……』

『巡は、あなたのことを優しい人って言ってたんだ……。私には、あなたが自分も周りも傷つくのが怖いって思ってるだけの人に見える……優しい人とは、到底思えない……』

 

 

 

 

 

 あの時に、プロトキュアから自分に向けて溢れ出た言葉は、きっと願いのために全てを投げ打っている自分に対する本当の思いなんだろう。今まともにブルームの顔を見れないのはそのせいだ。

 かつて起きた口論の後からダークネスブラックのことを半ば諦めてかけているようにも感じた彼女が、もっと暗い深淵の方に行こうとしている自分を、今も止めたいと思ってくれているのだろう。

 

 彼女の思いに応えられる自信は、正直全くない。

 

 

 

 

「……ブラック?」

「……なんでもない。後でラブリーにお礼言っておかないと」

「顔見せてあげてね、ラブリー喜ぶよきっと」

「うん……」

 

 

 

 もう少し寝ているとだけ告げて、二人は交代のためにブラックの部屋を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第27話:激辛!?心野宮 コンプリートの新たな力

 

 

 

 

 

「よかった、あなたまだここにいたのね……!」

「きなっち」

 

 

 

 『ふたりはプリキュアMaxHeart』の世界から戻ってきた巡は、行きよりも空が暗くなっていて、遠くの方に何やら巨大な黒い塊が佇んでいるのが窓から見えて困惑していた。そんな彼女がいる生徒会室に希奈子が現れる。

 

 

 

「放送聞いた!?」

「ほ、放送……」

「あの物体が突然現れて、周辺住民の人たちが避難してくるみたいなの。私たちも、安全が確認されるまでは学校に待機みたいで……」

「えぇ……?」

 

 

 

 鞄の中に隠したステフォンの中のプロトキュアたちが何かを訴えている。まさかとは思うが、これも闇の使者かネオフュージョンの仕業だと言うのか。教室の中は希奈子がいるため彼女たちと会話できないので、ひとまず一人になれそうなところへ向かうために教室から出ようとする。

 

 

 

「巡!あなたどこへ!?」

「屋上!上に人がいないか見てくる!」

「でも!!」

 

 

 

 巡がプリキュアだという事実なんて知らない希奈子は、突然動き出してとんでもないことを言い出す巡を止めようと引き止めるが、巡は心配するなといいたげに笑顔を見せる。

 

 

 

「大丈夫。上の階のどこかの教室には隠れてるから安心して。きなっちは他の教室に残ってる人たちに呼びかけて!」

「巡!」

 

 

 

 そういって希奈子と別れると、巡は屋上へ向かって階段を駆け上がっていった。希奈子は巡の背中を見送ることしかできずに立ちすくむ。幼馴染ゆえに巡のお願いを断り切れない彼女は、怪我しませんようにとだけ願い、他の教室にまだ残っている生徒たちが残っていないか探すために、巡とは反対の方向を向いて走り出した。

 

 

 

 

 

「……!!」

『あれは!!』

 

 

 

 屋上の落下防止の柵から身を乗り出し、巡はあの黒い巨大な物体が出現している場所を確認する。その場所は、光星中学校から近いいつも使っている駅の方面に落ちているようだ。

 

 

 

『ネオフュージョンの気配!?なんで!?』

『はぁ!?』

『あいつ、プリキュアがいない世界には手を出さない約束じゃなかったの!?そもそもあいつ、そういう世界には興味すら示さなかったのに!』

『どういうこと!?』

「え、えぇ?」

 

 

 

 ステフォンの中のプリキュアたちからの反応からして、当初の予想通りでネオフュージョンの差金だったようだ。ブラックがかなり気になることを口走っているが、とにかく明らかな異常事態が起きているのは巡もすぐに理解する。

 雰囲気的にまだ暴れていないようだが、あれがなんらかの拍子で破壊活動的なことをし出したら、どう考えても周辺に甚大な被害が発生してしまう。

 

 ここはプリキュアの世界なんかではない、巡たちが生きる普通の世界。二次元(創作物)じゃなくて三次元(リアル)の世界。不思議なパワー(都合のいい奇跡)などは簡単に起こせない。しかし、プリキュアの力ではないとあの巨大な物体をどうにかすることはできない。

 

 

 

 

 

「……正直さ、この場所でやるとは思ってなかったけど……やるしかないやつだよね」

『巡!?』

「わかってる。プリキュアがいる世界じゃないから、余計な被害が出ないように細心の注意を払わないといけないくらい……」

『……アンタが全くそう見えないけど……ひょっとして、怖い?』

「……正直めちゃめちゃ怖い」

 

 

 

 ブラックに問いかけられ、巡は本心を話す。よく見ると、巡の足が若干すくんでいる。

 

 余程のことが無い限りは起こる事はないだろうとなりつつ、心の片隅の何処かでは考えていた“恐れていた事態”が起きてしまったのだ。どうやら自分は、今まで自分たちの前では現れる事はなかった闇の使者たちの裏で糸を引いているであろうネオフュージョンに目をつけられてしまったらしい。

 

 それでも、と言葉を続ける。

 

 

 

「それでも……ネオフュージョンとかいうわけ分からん存在に、あたしが生きてる世界を壊されたく無い」

『巡』

「……まあ、こんなことあったら確実に今準備してる学校祭やってる場合じゃ無いんだけどさ……」

『……絶対そっちも本音だよね!?』

「……バレた?」

 

 

 

 せっかくの決意をもう一つの理由で雰囲気が壊れてラブリーに突っ込まれているが、巡の「自分たちが生きる世界を壊されたくない」という言葉は本心なのは確かだ。その証拠に、今はまだ佇んでいるだけの巨大な黒い塊を真剣な眼差しで見据えている。

 

 

 

「……大丈夫。みんながいるから、怖くても立ち向かえる」

『巡……うん、巡ならそう言うもんね。みんなで一緒に、戦う』

『一体あいつが何考えて繰り出したのかは分からないけど、あれを止めるわよ!』

「うん」

 

 

 

 大きく深呼吸し、ステフォンを構える。ここで変身して戦うのは初めてだが、緊急事態だ。やむを得ない。

 

 

 

「コンプリート・ステージON!」

 

 

 

 

 

「現となりし、12の魂!キュアコンプリート!」

 

 

 

 少女は光に包まれキュアコンプリートの姿に変身すると、そのまままっすぐにあの黒い塊が落ちている場所へと全速力で飛んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 心野宮駅前。いつもならこの時間帯は帰宅途中の人々で溢れているはずが、人気が全くない。外の不気味なほどの暗さと相まって、余計な異様な空気が立ち込めている。

 それもそのはず。駅前広場の方には、真っ黒で光沢のある巨大な何かが出現しているのだから。

 

 例の超巨大な黒い物体は、突然現れて何かをするわけでもなく、じっと佇んでいる。空から飛来してきたと言うそれは明らかに不気味なそれで、人々に恐怖と威圧感を与え続けている。周辺にいた人たちはこの謎物体の危険性を本能で察知し、心野宮の自治体からの避難命令が出るよりも先に自主的に遠くへ避難している。

 テレビ局の中継ヘリがその様子を迅速に伝え、周辺地域の人々に避難を呼びかけることしかできない。なぜならこんな異常事態をどうにか解決するなんて、誰がどう考えても無理な話にしか聞こえないからだ。

 

 

 

 そんな黒い物体に、流れ星のような真っ白な光が突撃しようとしている。一瞬だけカメラに映ったのは、淡い桃色の髪を揺らす少女の姿だ。

 

 

 

 

 

『……!!』

 

 

 

 

 

 黒い物体はその光を感知し、静止状態から突然動き出す。その体からは触手のようなものが伸び、その光を叩き落とそうとする。

 

 

 

「おっと……!」

 

 

 

 光は────黒い物体を追い返すために変身したキュアコンプリートは、迫る触手を華麗にかわす。コンプリートを仕留め損ねた職種は勢いよく近くの建物を貫いて破壊する。

 すでに中にいた人たちは建物から離れているため、怪我人とかが出るわけでもないが、もし人がいたらと思えば……。

 

 

 

「あーほらもう恐れてた事態を目の前で起こされる〜」

『うーんこんなヤバい状況でも通常運転なのね!?』

「いや結構やべえとは思ってるからね?」

 

 

 

 コンプリートの反応的に全く焦っていないように見えるが、実際はヤバいヤバいと心の中では大変慌てている。アニメの中や巡っていたプリキュア達の世界で起きていた戦闘が実際の世界で起こるとこんなにも悲惨なことになってしまうとは、早急にあの怪物をなんとかしなければならなくなった。

 その証拠に、最初からリングを外して宿す力を解放させている。そうでもしないと確実に太刀打ちできないと察したのだ。

 

 

 

『気をつけて!あの欠片、今までのやつよりもずっと大きいから手強いかも!!』

「わかってる!おっとっと……!?」

 

 

 

 間髪入れずにもう一本の触手が勢いよく伸びてきたために会話を中断して回避に集中する。今自分はハッピーウィングの力で飛び回っているため機動力には自信があるはずだが、どうもあの巨大なカケラにはそれが通用しないらしい。

 

 

 

『CureWeapon!Lovely!』

『PowerCharge!Ace!』

 

愛の一撃必殺(ラブハートショット)ッ!!」

 

 

 

 自身に迫る数本の触手に向けて、構えたラブリーショットガンに宿る赤い光のビームが放たれる。赤いバラの花びらを散らしながら、光は真っ直ぐに触手を貫き、本体である欠片の巨大な図体に被弾する。

 欠片の体に大きな穴が開くが、その体はすぐに修復されてしまう。それどころが、全身から真っ黒な闇のエネルギー弾が大量に吐き出され、周囲の建造物を破壊しながらコンプリートめがけて容赦なく放たれる。

 

 

 

「はぁ?」

『避けて!』

 

 

 

 エネルギー弾が被弾しないようにぐるぐると飛び回るが、このままでは気圧されてしまう。なかなかコンプリートに被弾しないことに苛立ちを覚えたのか、今度は真っ黒な破壊光線を放ってコンプリートを撃墜させようとする。

 

 

 

『CureWeapon!Miracle!』

『PowerCharge!Passion!』

 

 

 

 狙われた彼女はミラクルブレスに宿る魔法の力を使い、両手を光線を前に突き出して赤いクローバーの形をした魔法陣を展開する。

 

 

 

「重た……!?幸せが吹く四葉魔法(ハピネスリーフエターナル)ッ!!」

 

 

 

 魔法陣から赤いハートと真っ白な羽根の嵐が吹き荒れ、放たれる破壊光線とぶつかり合う。光線の闇の力を相殺しながら、その力を浄化していく。

 

 

 

「ぐ、うぅ……こ、の……!!」

『……!』

『コンプリート避けて!』

「え、ぅわっ」

 

 

 

 ピーチの叫びの数秒後、コンプリートは気付かぬうちに迫っていた黒い触手によって、思い切り地面の方に叩きつけられる。相当な威力だったようで、落とされた彼女中心にコンクリートの地面が割れ、小規模なクレーターを作り出している。

 黒い欠片は、倒れたコンプリートを見下ろしながら、脳に直接響くような不快な低い声で唸る。このまま勢いよく潰してしまおうと、触手を束ねているようだ。

 

 

 

 

 

『全テヲ、闇ニ……!!』

「さっきから、そればっかり……っ」

 

 

 

 コンクリートの地面に思い切り叩きつけられたコンプリートは、叩きつけられた際の背中の痛みを抱え込みながら、絶対に意識を飛ばしてたまるかと言う強い意志で立ちあがろうとする。

 

 

 

「全てを闇に染めるとか、破壊するとか……こっちからすると迷惑でしかないんだけど……」

『コンプリート!だ、大丈夫!?』

「一応大丈夫……痛いけど」

 

 

 

 ラブリーに声をかけられ、コンプリートは険しげな様子から一転して優しげな笑顔を見せる。本当は立ち上がるのもきついくらいの激痛が尾を引いているけれど、それでも彼女には立ち上がらなければならない理由があるのだ。

 そんな理由もつゆ知らず、巨大な欠片は再びその大きな触手を束にして、地上のコンプリートを叩き潰そうと振り下ろしてくる。しかし、コンプリートはそれを両手で受け止め、潰されないようにと持ち上げる。この前と状況が違い、コンプリートが疲労している分、余裕そうな雰囲気はない。

 

 

 

「ぐ……」

『諦メロ……全テ消エル定メ……』

「それは、違う……、あたしは、諦めない……あの世界を救うまで、闇の使者達を助けるまで……!」

『……!』

 

 

 

 

 

「彼女達の苦悩も知らずに、勝手に世界を壊そうとするなんて……絶対に、許さない……っ!」

 

 

 

 押しつぶされそうになりながらも、コンプリートの口から溢れた渾身の『絶対に許さない』。

 プロトキュア達が彼女のそばにいて初めて見せた“怒り”の感情。普段の明るく能天気で頼れる生徒会長による燃える感情。ネオフュージョンへの憎悪ではなく、守るという純粋で絶対的な気持ちから溢れた激情。

 

 

 

『……!!!』

「え……?」

 

 

 

 コンプリートが初めて敵に向かって見せた本気の怒りと、自分の世界を守りたいという強い気持ち。

 

 

 

 その二つの想いが共鳴したのか、巨大なあの欠片の心臓部あたりから、強い光が放たれる。眩しいけれど暖かい、そんな真っ白な光が、コンプリートの方に向かって放たれる。

 

 

 

「これは……」

『どうして、欠片から光が……?』

 

 

 

 欠片の心臓部から抜け出すように光の玉が出現し、それはふわふわとコンプリートの元に舞い降りてくる。まるで、闇の使者からプロトキュアが飛び出してくる時のようだ。

 

 

 

「……もしかして、あたしに力を貸してくれるの?」

 

 

 

 彼女の声に応えるように、光はきらりと煌めく。

 どういう仕組みで何故欠片の中に閉じ込められていたのかは知らないが、もし自分の声に答えてここへ舞い降りたというのなら、きっと何かあるかもしれない。この、どこからどう見ても絶望的な状況を打開できる方法を見つけられるかもしれない。

 

 

 

「……一緒に、この場所を守ろう」

 

 

 

 その声と共に、コンプリートは光の玉に触れる。

 

 光の玉は虹色の光を放ち、周囲を包み込むように広がってゆく。光のドームは次第に欠片を、ひいては破壊された周辺の建物ごと飲み込んでいく。

 やがて光が収まると、そこには何事もなかったかのように全てがなくなっていた。突如出現した超巨大な未確認生命体も、アニメの中から出てきたようなヒーローの姿も。そして、戦闘によって破壊された街並みは傷ひとつない今までの景色を取り戻していた。

 

 

 

 彼女達がどこかに消えたことにより、この世界はネオフュージョンというこの世界の人間達にとっては知らない脅威から、知らずのうちに救われたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……!?』

 

 

 

 

 

 気づけば欠片は、巡の世界の心野宮から別の場所に転移されていた。

 

 周囲には特に何もない。その代わり、星の様な煌めきが、虹の様なゆらめきが、この空間を満たしている。

 ここは、世界同士を繋ぐ狭間のような場所。かつて『ハートキャッチプリキュア!』の世界へ訪れた際に閉じ込められたこともあるあの空間だった。

 

 

 

「……まさか、またここの場所に移動することになるとは……」

『でもこれで、思う存分動けるわね!』

「さて……どうやってあの欠片を懲らしめようか」

『……!!!』

 

 

 

 再び巡の世界に居座るために、欠片は先に宙に浮いているコンプリートを撃墜しようとたくさんの触手とエネルギー弾を放つ。コンプリートはそれら全てを飛び回りながら爆撃と触手を縫うように避け、その拳と手刀で時々弾き飛ばしながら反撃の機会を伺う。

 しかし欠片はそんな彼女の心を見透かしているのか、全く隙を与えてくれない。

 

 

 

「ちょっとこのままじゃあたしが全く動けないね……」

『一度動きを止めてみるとか?まあ、あれだけでかいとすぐに破られそうな気がするけど……』

「まあ、気休めにはなるか……っ」

 

『Cureweapon!Peach!』

『PowerCharge!Luminous!』

 

 

 

 展開したピーチシールドから、虹色の光のバリアが展開される。それに向かって欠片が真っ黒なあの破壊光線を発射するが、虹色のバリアはそれの勢いに押されることなく完全に受け止め防いでいる。

 

 

 

「おおすごい無敵のシールドになってる」

『跳ね返すよ!』

「オッケー、覚悟してね。真愛なる女神の加護(ラビングトゥルーアンクション)ッ!!」

 

 

 

 そして、バリアからは真っ黒な光線を包み込むように、虹色の光の大波が放たれる。それは破壊力が高いはずの黒い光線をもろともせず、あの巨大な欠片を飲み込んでしまう。欠片は光の力によってその身動きを封じられてしまう。動こうともがいているようで、すぐに破られそうだ。

 

 

 

「おお、めっちゃ効いてる。効いてるけどここからどうすれば」

『ブレッシングキッスを放つにしても、さっきみたいに修復されちゃったらどうしよう……』

 

 

 

 ここからどうしようかと困っていると、ステフォンが強い光を放つ。先ほど自分たちをここへ移動させたようなあの眩くて暖かい光だ。

 

 

 

「え……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『CureWeapon!Complete!』

 

 

 

 

 

ステフォンの音声がコンプリートの名前を呼ぶと、暖かい光の中から何かが飛び出し、彼女の前に召喚される。

 

 

 

「想いを届けて!“スタンドロッド”!」

 

 

 

 スタンドロッドと名付けられたそれの見た目は完全に、ピンク色の『スタンドマイク』だ。マイクホルダー部分に結ばれる淡い桃色のリボンには、ガラスのようなハートが煌めいている。

 

 

 

『マイク……?』

「これで、やれるってこと……?よく分からないけど……」

 

 

 

 プロトキュア達でも知らないステフォンの機能に驚きつつも、コンプリートはすぐに飲み込んでマイクに手をかけ目を瞑る。不思議と、胸に勇気が湧いてくる。頭に、不思議なメロディも流れてくる。

 

 

 

 

 

Dear around the world(巡り巡る世界へ),with light of salvation(救いの光を込めて)────♪」

 

 

 

 スタンドロッドに向かって、綺麗な歌声が響く。コンプリートの声に呼応し、彼女の背後に12個のハートが出現し、神々しい光が放たれる。全ては、あの巨大な欠片を自身の世界から追い出すために。

 

 

 

「プリキュア・セーブ・ユア・ハートッ!!」

 

 

 

 声と共に放たれた12個のハートは重なり合い、一つの桃色の光線となって巨大な欠片の心臓部へと向かって伸びていく。欠片はもちろん拘束を破ってそれを防ごうとするが、光はその腕を穿ちハートの穴を開ける。

 

 

 

『……!!!』

 

 

 

 光線は欠片の心臓に当たると、その光で欠片の体を包み込んでしまう。光の中に閉じ込められた欠片は、すぐに飛んできたコンプリートに抱きしめられる。光はさらに強く輝き、真っ黒な図体は急速に崩壊していく。

 

 欠片がチリ一つ残さずに消滅した瞬間、辺りはさらに強い光に満ち溢れ、何も見えなくなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!?」

「また飛ばされた!?」

「あれ?!巡ちゃん……じゃない!?多分ステフォンで変身した姿だよね!?」

 

 

 

 光が収まり、コンプリートたちはあの水晶の世界へと誘われた。本日2度目のこの世界である。この世界のプリキュアたちも、彼女が期間を空けずに再び現れたことに驚いている様子だ。

 それだけではなく、この前までは変身が解けた状態で訪れていたが、今回はプリキュアの姿に変身したままこの地へ足を踏み入れていたようだ。技を放ってもとうとう変身が解けることがなくなったらしい。

 

 

 

『な、なんでまたこの世界に!?』

「おかしいな、闇の使者からみんなのことは助けたはずなんだけど……」

『まだ助かってないよ!』

『ホワイトがいないし、ドリーム達の姿が違うし!』

「そういえば、ホワイトいた?」

「ううん、どこにもいなかったわ……」

「やっぱり、まだどこかで彷徨っているのかな……」

『そんな……っ』

 

 

 

 前回来た時にはホワイトがたどり着いていなかったようで、コンプリート達が引き戻された後もこの場所をくまなく探していたらしい。しかし、見つかっていない。

 コンプリートたちが話している中、ステフォンの中から真っ白な光の玉が飛び出し、ふよふよとコンプリートの周囲を飛び回る。少しの間飛び回ったのち、あの水晶の柱が集まる場所へと飛んでいく。

 光を追いかけ立ち止まると、光の玉は淡く優しい輝きを放つ。

 

 

 

「ぐ、眩しい」

「何!?何が起きてるの……?!」

 

 

 

 眩い輝きが収まり、腕を下ろしてその場所を再び向いた。光の玉が浮いていた場所には、一人のプリキュアが出現していた。もちろん例に漏れず、魂だけという影響で体が透けているが、他のプリキュアたちとは何かが違う不思議な雰囲気を醸し出している。

 

 

 

 白くて、金髪で、ツインテールのプリキュア。その少女は確か、映画限定のキャラクターだと後輩から聞いたことがあるような……

 

 

 

 

 

「────ありがとう、キュアコンプリート。あなたが私を呼んでくれたんだね」

「あなたは……」

『あゆみちゃん!?』

『いや、今はキュアエコー!?』

 

 

 

 コンプリートが話しかけるよりも先に、ステフォンの中のメロディとハッピーがその姿に気づいてその名前を呼ぶ。白いプリキュアことキュアエコーは二人の声に気づくと、ステフォンの方にいる彼女たちに向かって微笑む。

 

 

 

「魂だけが彷徨っていたみたいなんだけど、いつの間にかネオフュージョンに捕まっていたみたいで……」

「そうだったんだ……でもよかった、あゆみちゃんも無事で!」

『あゆみちゃんも、この世界の崩壊にまきこまれてたのね……』

「びっくりしちゃったけど……またみんなと再会できて、私は嬉しいよ」

 

 

 

 メロディとハッピーがエコーとの再会を喜ぶ中で、エコーがネオフュージョンに捕まっていたという事実を聞いて、コンプリートを含めて周りのプリキュア達が驚いている。

 ……この世界におけるキュアホワイトの魂が、ネオフュージョンによって捕えられてここに来れなかった可能性が出てきたのだ。

 

 

 

 

 

 いや、キュアエコー云々の前に、コンプリートがまず彼女達が一番気づくべき変化に気づいた。

 

 

 

「……君らいつの間にか透けてる子達のことが見えるようになったの?」

『……え?』

『本当だ!?イーグレット達のことが見える!?』

「え?!ブロッサム達があたしらのこと見えてるようになったの!?」

『みんな本当に透けてる!?なんで!?』

「今気づいたの!?」

「なんというか、彼女の呑気さが移っているような……」

『……!まさか……!』

 

 

 

 そう。どうやらプロトキュア達にも、エコーの姿が見えているようだった。魂だけになって透けていることに今更驚きつつも、やっと見えるようになった友人の出現に喜んでいるようにも見える。

 そんなやりとりをしている中、ステフォンの中のラブリーが何かに気づいてステフォンから飛び出し、コンプリートの頭の上に乗って周囲の景色を見回す。そして、ある人物を見つけてマゼンダの瞳を丸くする。

 

 

 

「プリンセス……ひめっ!!」

「え、ラブリー!?まさか見えてぎにゃぁっ!?」

「あ、ちょ、ラブリー!?」

 

 

 

 プリンセスの姿を目視することができたようで、ラブリーは混乱するプリンセスを差し置いて彼女の顔に飛びつく。プリンセスは、プロトキュアとして手のひらサイズになってしまったラブリーを抱きしめながら、ようやく自分たちを認識できるようになったことを嬉しく思い涙を流す。

 

 

 

「ひめ〜!やっと、やっとひめと話せたよ〜!」

「うわ〜ん!めぐみにやっと気づいてもらえた〜!!」

「「めぐみちゃん/めぐみ!!」」

「ゆうゆう!いおなちゃん!」

「私たちのことも見えるのね!」

「もう!このまま私たちの姿を認識できないままだったらどうしようかと……!」

 

 

 

 抱き合いながら待ちに待った再会の嬉し涙を流す中、ハニーとフォーチュンも二人の方に駆け寄る。

 互いの無事を喜び合う彼女達の様子に、他のプロトキュア達もどこかウズウズしている。誰よりもみんなと話せるのを望んでいたのはラブリーだが、それは他の彼女達だって同じ。その様子に気づいた巡は、ステフォンの画面の中にいる彼女たちにふっと微笑む。

 

 

 

「……行っておいでよ。君ら会いたがってたみたいだし」

『……え!?』

『い、いいの!?』

「いいに決まってるでしょこんな感動の場面」

「感動の場面って────『りんちゃ〜んッ!!』うわぁっ!?」

「……あらら」

『舞!舞〜!!』

『奏!!』

『リコ!はーちゃん!』

『みんなぁっ!!』

 

 

 

 ドリームがステフォンから飛び出して直接ルージュに飛びついたのをきっかけに、他のプロトキュアたちもステフォンの中から思い思いに仲間達の元へ飛び出していく。

 ある者は久しぶりの仲間の元気そうな姿に喜び、ある者はずっと見えなかった寂しさから泣き出したり、ある者はステフォンの持ち主に迷惑かけていないかと心配されたりと、再会の反応はさまざま。しかし彼女達は皆、心底安心しきった笑顔を浮かべていた。

 

 

 

「……まあ、またいつもとの場所に戻されるか分からないんだけどさ。いいの?ブラックは行かなくて」

『私は……』

「ブラック!」

 

 

 

 唯一ドリーム達に便乗せずにステフォンの中にいたブラックに、ルミナスが話しかける。眉を下げて心配そうに話しかける彼女に、ブラックは少し気まずそうに顔をあわせる。

 

 

 

『……ルミナスが無事でよかった。……おかしいな、私はあいつじゃないはずなのに、申し訳ないって思っちゃうの』

「ブラック……」

「闇の使者の想いの部分とはいえ、記憶がないってわけじゃないから……」

「それでも、あなたが無事でよかったです。改めて、助けてくれてありがとうございます……!」

『ルミナス……!』

 

 

 

 優しい笑顔を浮かべる彼女に、ブラックはどこか嬉しそうな和らいだ表情を浮かべる。

 

 彼女達の再会を微笑ましく思う中、コンプリートは先ほど思い浮かんだあの可能性への不安が拭いきれなかった。それはエコーや一部のプリキュア達もなんとなく嫌な予感だけがしていた。

 

 

 

「……とりあえず、何かの手がかりが入るまでは、ホワイト捜索編ってことかな」

「エコーが捕まっていたのなら、ホワイトももしかすると……みたいな感じがするわね」

『ほのか……どうか、どうか無事でいて……!』

 

 

 

 話したいことはたくさんあったのだが、巡達の体が光り出したことで、元の世界に戻る時間だということを教えてくれているらしい。

 

 

 

 

 

「あら、もう帰らなきゃいけないのね……」

「そ、そんな〜!?まだ話し足りないのに……」

「またなにかあったらこっちに来るかも」

「巡ちゃん!ラブリー達のことよろしくね!」

「うん、任せて」

 

 

 

 光に包まれ、巡達は元の世界へと戻されていく。

 

 

 

 今回、エコーがこの世界へ辿り着いたおかげで、この世界の変化というよりも、プロトキュア達がこの世界にいるプリキュア達を認識できるようになった。おそらく今後のことについても話を共有しやすくなったし、何よりも一番会いたがっていた彼女達の笑顔を見れてよかったと思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<巡の世界 心野宮・私立光星中学校 2階廊下>

 

 

 

 

 

「巡!」

「きなっち!」

 

 

 

 あの世界から戻ってきてすぐに学校までひとっ飛びし、変身を解いて屋上から戻ってきた。ことが終わった後のため、ちょうど希奈子が巡を探して階段を上がっていたところで合流した。

 

 

 

「だ、大丈夫だった?!」

「あたしは特に問題なかったけど……きなっちたちは?」

「特に怪我はしていないわ……気付いたら何事もなかったようにあの黒い物体が消えていたのよ」

 

 

 

 しかも、建物がいくつか破壊されていたはずなのに全部が元通りだという話を聞いて、十中八九さっきの光だなと巡はこっそり考える。都合の良い奇跡は、意外と簡単に起きてしまうらしい。

 

 

 

「あれは一体、なんだったのかしら……」

「建物が壊れていないんじゃ、集団幻覚とかじゃない?」

「けど、確かに見たのよ。あの黒い物体も。……黒い物体に向かって飛んでいく光も」

「……うーん、なんだったんだろうね」

 

 

 

 光の正体は自分だということは伏せて、変に怪しまれないように言葉を濁す。流石に自分がプリキュアなのは何がなんでも言えない。

 ひとまず安全は確認されたようで、避難勧告などは解除されていると放送であったらしく、巡は希奈子と一緒に家まで帰ることになった。生徒会や別クラスだったという関係であまり一緒に帰ることはなかったが、偶然にも帰宅時間がかぶるのが珍しい。

 

 

 

 

 

「巡……!希奈子ちゃん……!」

「あれ?幸姉?」

「幸さん?」

 

 

 

 電車に乗って自宅のある方面の駅で降りて駅から出ると、そこには巡の姉である幸が不安そうな顔でこちらに走ってきていた。彼女が珍しく外に出ていたので、二人は少し驚いた様子で彼女の元に駆け寄る。

 

 

 

「どうしてここに?」

「だって……駅前で巨大物体騒ぎがあったってニュースでやってて、近くに巡たちの学校もあったし……」

「幸姉……」

 

 

 

 それで、避難勧告が解除されたと同時に連絡のない巡達を迎えにきたらしい。巡と希奈子が何事もなく帰ってきたことが嬉しかったようで、幸は気の抜けたように安心しきって膝から崩れ落ちてしまう。

 姉の学校は、さっきの騒ぎのせいで臨時休校になったらしく、怖い気持ちを抑えながらここへきたと思うとガッツリ心配させていたらしい。

 

 

 

 

 

 力が抜けた姉を支えながら、3人は暗くなった空の下、家に向かって歩き出していく。

 

 先ほどまでの暗い色の雲は完全に晴れて、空には星が瞬き始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<ネオフュージョンの世界 漆黒の城・闇の使者の大広間>

 

 

 

 

 

「……!ブラック」

「……」

 

 

 

 少し睡眠をとったことである程度の疲労感と体の重さが回復したのか、ブラックは自室から大広間の方に移動し、そこのソファの上で休んでいた。

 最近はネオフュージョンに呼び出される頻度が少ない方になったのか、今まで以上に落ち着けられる時間が増えて少しだけ嬉しいと感じていた。このまま奴に呼び出されることがなければ、自分だってあいつからステフォンを取り戻すために動けるのだが……。

 

 そんなことを考えていると、自室から出てきたであろうラブリーに話しかけられる。そう言えば自分は彼女に運ばれたと聞いている。

 

 

 

「ラブリーが、部屋に運んでくれたんだね。ありがとう」

「う、ううん。ブラックが倒れててびっくりしちゃったけど……少し元気になってよかった」

 

 

 

 感情の起伏が弱いのか、それとも彼女を動かしているものが彼女本人ではないのか、ラブリーは相変わらず笑うことはなく目を伏せる。ただ、嬉しいという気持ちと安心したという気持ちは伝わる。

 

 

 

「……ねえ」

「?」

「ブラックが言ってた、『崩壊』の話は、やっぱり本当のことなの?」

「……ええ。あれは、私が見たものよ。あなたは、あいつの攻撃を喰らって……」

 

 

 

 この前、闇の使者の仲間達に話した世界の『崩壊』の話について問われ、ブラックはその顔に影を落とす。

 あの時自分たちが確かに見たのは、彼女を止めようとしたラブリーが力尽きて倒れていく姿。その後すぐに光が満ち溢れて壊れてしまったのだから、あれは確かなことなのだ。

 

 

 

「……そっか」

「……どうかしたの?」

「ううん、特になんでもないよ」

 

 

 

 それだけ告げて、ラブリーはまた自室へと戻っていく。

 再び一人になったブラックはソファーから降り、外の景色が見える大きな窓の方へと向かう。外から見えるのは、真っ黒な空と真っ赤な月。そして、真下に広がる無彩色の荒野。城自体は高台の方に建っているようだ。

 

 

 

「……っ」

 

 

 

 

 

 

『大丈夫。彼女たちの過去はある程度わかってる。だからこそあたしは、悪いことをしなきゃいけなくなった君たちを、止めるために戦うよ』

『止めるために、ですって……?ふざけたことをそう簡単に、言わないでッ!!!』

 

 

 

 あの時、コンプリートに叫ばれたあの言葉が反響する。彼女は、自分がやっていることが許せないとかではなく、単純にこんなことをしている自分たちを止めたいと思って告げたのだろう。どうして、あそこまで彼女は憎むことなく手を伸ばそうとしてくるのだろうかと考えあぐねいていた。

 

 

 

 ────私なんか、もう手遅れなのに。

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 ふと、彼女の脳内にとある考えが思い浮かぶ。

 

 それは、周りにバレると厄介なことになってしまう少し危険な考えではあるが、コンプリートの動向を探るためなら止めない手段はないだろう。ネオフュージョンに連れ回され続けた影響か、ブラックの考え方に何かしらの悪影響が滲み出ているようだ。

 

 そんなことにも気付かぬまま、早速準備をしようとブラックは自室に戻っていくのであった。

 

 

 

 真っ暗闇の世界を、紅い月だけが照らしている。

 

 

 

 

 

続く…

 




次回更新日:7月6日(土)
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