PrecureStageON!   作:主氏レム

31 / 54
今回と次回はお休み回です


第28話:ヒミツの邂逅?闇の使者と巡の世界

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第28話:ヒミツの邂逅?闇の使者と巡の世界

 

 

 

 

 

 9月の某日夜、繋巡の自室にて。

 

 ほとんどのプロトキュア達がステフォンの中で寝落ちしている中、巡は通学用のバッグではなく、リュックサックと大きめのボストンバッグに詰めた荷物を確認していた。

 

 

 

「寝る時用の服とか入れたし、歯磨きセットも準備オッケー。何かあった時用のステフォンはちゃんと持っていくから問題はなし、と。あとは……」

「うわあ、これ全部持ってくの?」

「まあ2泊3日の宿研ですし……」

「荷物多くない……?」

「これくらいが普通じゃないかな……?」

 

 

 

 巡の学年は明日から3日間、心野宮から少し離れた街で、自然と触れ合いながら楽しい楽しい宿泊研修が行われる。本来なら学校祭の後の10月に行われるはずが、先日発生したあの“騒ぎ”のせいで延期になり、代わりに10月にある行事が入れ替わるように行われることになったようだ。

 学校祭が延期になってしまうのは残念だが、何気に宿泊研修も楽しみでもあった。隣町の大きな自然公園や周辺施設でのロゲイニング、火おこしからの班ごとのカレー作り、レクリエーション、川下りなど……2泊3日にしては様々なイベントが組み込まれているので、今からワクワクしている。

 

 一応まだ起きているプロトキュアはブラック・ブルーム・ドリームの3人。ドリームに関してはうとうとしながら巡の荷造りの最終チェックに付き合っている。

 

 

 

「まさか、ネオフュージョンの欠片の騒ぎが結構大きく出ちゃってるとは……派手に壊してったと思ったら、何事もなかったように元通りになってるからそりゃいろんな情報が出回るよね」

「テレビに巡っぽい子も映ってたっもんね」

「うーん流石にカメラに抜かれてたかー」

「あれだけ動き回ってたらねぇ」

 

 

 

 “騒ぎ”────それは、今までプリキュアの世界に出現していたはずの巨大なネオフュージョンの欠片が、巡の世界に突如出現し、巡がプリキュアに変身して戦っていたことを指している。

 思いっきり中継に映った上に、怪奇現象や集団幻覚にしては、周りの関係ない人々までもがはっきり覚えていた事象だったので、テレビの中のキャスターは連日そのニュースを伝えている。国や海外の専門家達までも動いているというのだから、相当大規模な混乱を生んでいたのはしっかり認識している。

 

 二次元が三次元に侵食してくると想像通り、碌なことが起きない。

 

 

 

「これだけ混乱するんだから、ネオフュージョンももう少し出すところ考えて欲しいよね」

「あいつがそんな配慮するかなあ……」

「うーん、無理!」

「だよね〜」

「即答かな?ノリの軽さが女子会のそれなんだよなあ」

 

 

 

 今起きているプロトキュアたちが、ブラックを中心に3人揃ってある程度の事実を知っている組だったためか、ネオフュージョンへの愚痴やら何やらが止まらない。闇の使者としての記憶の中でさまざまな事があったようで、何も知らないラブリー達には絶対に聞かせられないようなことも多いらしい。

 二頭身で、元になった人物達は年齢的に巡と同じくらいの少女達のはずなのに、その背中は歴戦の戦士の語り合いか社畜アラサー手前OL達による限界飲み会のそれっぽく見えるのがアンバランスすぎる。

 

 

 

「そもそもあいつのことだし、何か別のこと考えてそうナリ」

「あ〜、闇の使者っていう最高の戦力を手に入れたからなんでもできる的な?」

「あっちのブラックにやらせてたことも、今考えたら本当に利用されてただけなのかも……」

 

 

 

 ブラックが悔しげな表情を浮かべる。あの世界が滅んだあと、ネオフュージョンはブラック達を見つけてとある約束から闇の使者として彼女を助けたというらしい。

 そして、その最中に出てきた話題を巡が声を顰めて振ってみる。

 

 

 

「……この際だから聞くけど、“さっきの話”って、本当のことなの?」

「え゛ッ、えっと……」

「そ、証人も起きてるからまじ」

「うん。アイツは……逆らえない闇の使者のブラックをいいように扱ってたから……」

「ヒエッ」

 

 

 

 “さっきの話”というのは、闇の使者・ダークネスブラックがやらされていたというネオフュージョンの所業のことだ。ちらっと最初の方で話題が上がったのだが、内容があまりにも過激でもの悲しいもので、あの何事でも寛大な態度を示すことの多い巡が若干引いてしまっていた。

 

 

 

「多分アイツは、他の闇の使者が今の巡以上に嫌な反応をされるのが嫌だったんだと思う。……ネオフュージョンに逆らえなかったとはいえ、どう見てもアイツと同じことしてるだけなのに」

「う、ご、ごめん……あまりにも現実味がなくて驚いちゃったけど、よく考えると本当に……」

「ううん。私がやったことだし……」

「も〜、嫌だったら嫌って言ってよ〜!友達じゃん!」

 

 

 

 ドン引きの反応をしてしまったことを詫びるが、ブラックはさして気に留めていない様子。

 いや、むしろちゃんと嫌なら嫌と言えばいいのにとも思えてしまう。それは他二人も同じ意見のようで、ブラックに対してポカポカと軽く叩いている。

 

 

 

「……ラブリーの友達もとい、プロトキュアというみんなを助けたというか仲間にしたというものの、これからどうすればいいんだろう」

「うーん、今のとこどどうやってあの世界をステフォンを使って戻すのかもわからないし、そもそもホワイトがあの世界に戻ってきていないのを見ると、まだやることが多そうだよね」

 

 

 

 暗くなる雰囲気を変えるために出した話題で、再び4人は考え込む。

 相変わらずあの世界を元に戻す方法の詳細は分からなければ、まだ一人だけ戻ってきていない人もいるという二つの大きな問題が起きている。さらに、先日の騒ぎのせいで、ネオフュージョンが巡に目をつけて容赦なく襲いかかる可能性も浮上している。まだまだやることはたくさんあるようだ。

 

 

 

「……でも、きっと大丈夫だよ。作戦は何もないけど、なんとかなるなる!」

「なんとかなる、ねえ……まあ、動きがないとあたしたちもどうすればいいか分からないし、気長に待つのもありだよね」

 

 

 

 プリキュア達に前向きに励まされ、巡もひとまずは待つという選択を取ることにはしている。またしばらくは、ラブリー達と過ごすことになりそうだ。

 

 

 

 

 

 

(……ほのか、一体どこまで飛ばされてしまったんだろう……)

 

 

 

 宿泊研修の準備を再開する巡の裏で、ブラックはぼんやりと相方の安否をそわそわと待ち続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日は明けて心野宮はステラモール。心野宮駅周辺に位置する大型ショッピングモールのファッションブランドが集まる階層にて。

 先日あれだけの騒ぎがあったというのに、数日経てばいつも通り。老若男女が衣服やら何やらを買いに賑わいを見せている。

 

 

 

 そんな、巡の世界の裏事情なんてものは全く知らない少女がここに一人……。

 

 

 

 

 

「……流石に中学生、には見えてない、よね……」

 

 

 

 今時の中高生に流行りそうな服を纏ったマネキンが飾られているショーウィンドウに、黒いパーカーのフードを深く被った自身の姿が映る。フードの奥から、少々不機嫌そうな紅い瞳がのぞいている。現実世界にいる人間にしては、カラコンでもつけているのかと思われるくらいにはやけに鮮やかな色をしているため、どう見ても異質な存在と言える。

 

 

 

「他のみんなはちゃんと本来の自分達には戻れるみたいだけど……私だけは違うのか……」

 

 

 

 他の闇の使者達は目の色までちゃんと擬態できていたらしいのだが、どうやら自分だけはその例外に入ってしまうらしい。少女────ダークネスブラックは僅かに肩を落とす。

 

 今の彼女の姿的には変身前の『美墨なぎさ』が正しいのだが、身に纏う衣服や雰囲気的に、自分のことをよほど知っている人物でもなければ気づきはしないだろうと思っている。……そもそも、この世界に自分がいること自体が誰も信じてくれないかも知れないけど。今着ている服は、周りに怪しまれないように先程購入したものだ。

 

 

 

 なぜ彼女が、『プリキュア』という存在が創作物の中の話となる繋巡の世界にいるのか。

 

 

 

 理由は簡単だ。彼女の世界に直接乗り込んだ方が早いと思ったのだ。もう一つ、彼女の動向を探れば自然と彼女の弱点になりうるものも見つかるのではという希望も込めてだが。

 他の仲間達にはもちろん何も告げていないので、またネオフュージョンに連れ回されていると思っていそうだ。ただ、これがバレたらみんな羨んで同じことをしそうだし、ブルームあたりに怒られるリスクもある。

 さらに、周りが自分の存在に勘づかれてしまったら、間違いなく現場は大混乱になってしまうので、細心の注意を払わなければならない。

 

 フードコートなどでは巡が通っているであろう学校の制服を着た学生達が数人確認できるが、見覚えのある巡の姿は見当たらない。

 

 

 

「……まあ、あいつがこんなところで遊んでいるようなやつとは思えないけど……」

 

 

 

 ショッピングモールでは当たり前だが、学生以外の買い物客がたくさん訪れるような場所だ。ブラックは、他に巡がいそうな場所を探すために、ショッピングモールを後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わって噴水公園。学校も近くそれなりに敷地面積もあるため、小中学生だけでなく、どこかのスポーツサークルが練習に使っていたり、移動販売のキッチンカーが止まっていたりと賑わいを見せている。

 

 

 

「……クレープ」

 

 

 

 その中でも、ブラックは『Mucha's Crepe』という看板を掲げたキッチンカーの看板を目にして立ち止まる。公園に泊まる移動販売の中でも比較的頻度が高く人気もあるこの店の前では、ちょうど学校帰りの学生達が美味しそうなクレープが完成するのを今か今かと待ち侘びている。

 

 

 

「美味しそう……でも……」

 

 

 

 普通に美味しそうで食べてみたいのだが、自分に遊んでいる暇なんてものはない。遊びに来たわけではなく、繋巡を探しに来たのだ。『DXブラウニーパーティー』という、絶対に美味しいことが確定している文言の誘惑に負けている場合ではない。

 

 

 

「そのブラウニークレープ、Mucha's Crepeの期間限定フレーバーっすよ?」

「っ!?」

 

 

 

 看板の前で悩んでいるのを見兼ねたのか、一人の少女が悩むブラックの背中を押してきた。突然話しかけられて振り向くと、にっこり笑顔の中学生が顔を覗いている。制服的に巡と同じ学校だろうか。

 

 

 

「す、すみません!悩んでそうだったんで話しかけちゃったんですけど……迷惑でした?」

「い、いや……別に……」

 

 

 

 さっきの少女の後押しが効いたのか、結局ブラックは自らの欲に忠実になって、ブラウニークレープを楽しむ決意をした。

 

 

 

 

 

「なーんだ!巡先輩の知り合いだったんすね!」

「ええ、まあ……」

「巡先輩もここのクレープが好きなんですよ!ベリーベリーパラダイスっていうやつなんですけど……」

 

 

 

 チョコホイップにチョコレートアイス、細長いブラウニーやチョコソースで飾られたまさにチョコづくしのクレープを頬張り、ほんのわずかに彼女の表情が緩む。アクセントのアーモンドスライスの食感がまた楽しい。

 背中を押してくれた少女こと、柑崎恋華も同じ店でシトラスオランジェットという、オランジェットやマーマレードが入ったものを買い、ベンチに座って話し込む。

 不本意ではあるが巡の知り合いと話せば恋華がすぐに釣れたので、話を聞くにはちょうど良さそうだった。

 

 

 

「けど、惜しかったですね」

「?」

「今巡先輩達の学年、宿泊研修中で心野宮にいないんですよ」

「そ、そうなの……?」

「今頃、火おこしからのカレー作り中じゃないっすかね」

 

 

 

 恋華の話から、どうやら巡は学校行事の関係で、この付近にはいないことがわかってしまった。本人に会えることが叶わないのは残念だが、この恋華という少女は、巡と仲のいい後輩のようだ。

 

 

 

「先輩はすごいんです。頼れる生徒会長で、色々な人と仲良くなれるし!ま、まあ時々呑気なこと言ってたりはするんだけど……」

「へ、へぇ……」

 

 

 

 隣に座りクレープを食べながら話し続ける彼女は、ブラックが話をふらなくても勝手に巡のことについてを教えてくれる。

 繋巡という少女は、人から頼られるタイプの人間らしい。能天気だけど諦めない心が強くてしぶとい少女だとは思っていたが、話の中でも結構そんな感じの人間だと感じていた。

 

 

 

「10月に学校祭があるんですけど、先輩達がいる生徒会の運営で成り立ってるところがあって、今年は先輩が中心になってやってるみたいなんです。去年よりも相談しやすくて連携が取りやすいって、ダンス部の先輩が言ってました!」

「そうなんだ……」

「……本当は今頃学校祭のはずだったんですけど、あの”騒ぎ”のせいで学校祭が延期になっちゃって……」

「騒ぎ……?」

「あれ?知らないんですか?連日ニュースになってるのに」

 

 

 

 恋華の話に知らない単語が出てきて思わず首を傾げる。一瞬怪しまれるのではと思ったが、恋華はブラックが普段テレビとか見ない人だなと思ったのか、その詳細について話してくれた。

 

 

 

 

 

「心野宮駅の前に、黒くてでっかい物体が出現したんすよ。オブジェにしてもあまりにも怪しくて、周辺地域の人たちがみんな避難するくらい」

「物体が……」

「しかも、飛んできた光を追い払うように弾幕とかビームとか触手とか出してきて、もうアニメの中の話かと思いましたもん」

「……え……」

 

 

 

 彼女の話を聞いて、ブラックは違和感を持つ。

 この世界ではプリキュアがいる世界で起きそうなことは絶対にないと思っていたのに、その異常事態が現実で起きていたのだ。

 

 

 

「謎物体は黒くて見た目は液体の金属みたいな表面で、プリキュアでいうところのフュージョンみたいなやつで……そう言えばあの光の中に映ってたのってプリキュアっぽかったような……え、でもプリキュアはアニメキャラでしょ。なんで現実に起きてるんだろう……?」

「……っ!?」

「そ、その後も変なことが起きてたんですよ!突然辺りが眩しくなったかと思ったら、何事もなかったかのように物体も光もいなくなって!確か建物も破壊してたような気がしたんだけど何もなくて……あれ?」

「……」

「だ、大丈夫ですか?なんか、顔色悪いような……」

「大丈夫……不思議なこともあるものね……あはは……」

「そ、そうですよね〜」

 

 

 

 話の中にどう見ても心当たりあることばかりだったので、ブラックは内心ではとてつもなく焦っていた。やがて恋華は家の用事があるからこれで失礼しますと言って、ベンチから立ち上がって駅の方へと向かっていった。

 恋華の姿がいなくなり一人になった彼女は、ふと、恋華との会話の中で出てきたこの世界で起きた騒ぎについて思い返す。

 

 不定形で真っ黒で、表面だけなら液体っぽいというのなら、それは確実に自分たちが普段使役しているネオフュージョンの欠片だ。しかもそれを凶悪にさせているのだから、誰が使役させたのかなんて想像に難くない。

 他の闇の使者がやるとしても、プリキュアが関係ない世界に放つことをする子達には思えないのだから、ほぼ確実にネオフュージョンの単独犯だろう。

 

 問題なのは、なぜ奴が突然動き出したのかだ。今まで奴は、自分たちのステフォン探しにはほとんど介入してこなかったのに。

 

 

 

(あいつは、この世界に欠片を放ったというの……?一体何のために……?まさか、あいつもステフォンを狙って……)

 

 

 

 一体、どうして急に『プリキュア』という存在が創作物の中でしか語られないような世界に現れたのか。考えれば考えるほど疑問が溢れてくる。

 秋の始まりの夕暮れ後は、自分たちが想像するよりもずっと肌寒い。上着を纏っているとはいえひとりぼっちであることの寂しさと、言いようのないネオフュージョンへの不信感が、彼女の心と体を冷え込ませる。

 

 

 

 ────これは早急にネオフュージョンに問い詰めないといけない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どれくらい時間が経っただろうか。外はすでに暗く、星が見え始めている。

 ここまでのんびりすることがなかったのか、それともネオフュージョンの思惑について考えすぎていたのか、気づけばブラックはベンチに座ったまま寝落ちしてしまったようだ。

 

 

 

 

 

「あの……」

「……!」

 

 

 

 誰かに話しかけられて、ゆっくりと目を開ける。少し驚いて振り向くと、高校生くらいの背の高い女性が、少々心配した様子でこちらの方に駆け寄ってきていた。

 どこかキュアコンプリートのような雰囲気で、通学用のリュックのほかに、学校帰りに買い物に行ったのか、エコバッグを片手で握っている。

 

 

 

「その公園、不審者出たらしいから一人でいるの、気をつけた方がいい、よ……」

「……え。あ、はい……すみません……」

「……?ちょっと、待って」

 

 

 

 話しかけてきた人物は普段は口下手な方なのか、辿々しく大事なことだけをブラックに伝えている。

 

 だがしかしそう言われても、自分には帰る世界があるし、もしもの時があれば本来の姿を晒して相手をどうにかすることはできる。それでもせっかく忠告してくれた彼女の気持ちを無下にすることもできず、曖昧に返事しておく。

 その返事がさらに彼女の不安を誘ったのか、小さく謝って立ち去ろうとするブラックを女子高生が呼び止める。

 

 

 

「も、もしかして……家出してたりする……?」

「……え?」

 

 

 

 ブラックの様子を見て何かを勘違いした高校生────繋幸は、ブラックの正体を知るはずもなく、本気で心配した様子で話しかけてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この時期になってくると、夜も肌寒くて風邪ひいちゃうからね……」

「は、はい……(ど、どうしてこうなったんだろう……)」

 

 

 

 ブラックは、幸の言葉を断りきれずに、彼女のクラス自宅へと連れて行かれてしまった。一般人である幸が、ブラックの事情を知っているはずもなく、なぜか遠くまで家出してきたけど今更帰ることができなくなった学生と認識されて、警察に補導されてしまうのもかわいそうなので夜だけ保護(?)されてしまった。

 帰る場所があるし別に他の闇の使者達とギクシャクして帰るのが気まずいわけでもないのだが、心のどこかで幸のお節介を断りきれずに話を進めてしまった。ここまできて今更帰ることもできず、本日は観念して彼女の家に泊まらせてもらうことにした。

 

 また、幸はどうやらキュアコンプリートことステフォンの持ち主であるあの巡の姉らしい。あいつが次女とは思えないような性格ではあるが、姉がいるのならそうなんだろう。

 

 ダイニングのテーブルには、先ほど彼女が抱えていたエコバッグの中に入っていたスーパーの惣菜コーナーのお惣菜と、先に作っていたであろう温めたお味噌汁に白米と、典型的な夕食の席が用意されていた。

 

 

 

「妹が宿泊研修でいないから、お惣菜ばっかりになっちゃったけど……」

「い、いえ、気にしないでください!……いただきます」

 

 

 

 礼儀正しく手を合わせてから、お味噌汁を少しだけ飲む。なんだか久しぶりにちゃんとした食事をした気がして、お腹と心が温まっているような気がした。

ネオフュージョンによって作られたこの体は、食事を必要としない。ただの人形でしかないから。何かを食べることはできるけど、それで何かが満たされること自体がない。だからこそ、満たされないこの肉体が恨めしい。

 

 

 

「そっか……うちの妹の知り合いだったんだ……」

「ま、まあそんな感じです」

「……大丈夫。巡には言わないでおくから。巡ならもっと心配しそうだし」

 

 

 

 不本意ではあるが、巡の知り合いということにしておいた。そっちの方が彼女の話が聞けるかも知れないと思ったからだ。

 

 

 

「あの、どうして、私に話しかけたんですか……?どう見ても怪しかったのに……」

「ああ、単純に心配だったのと……少しだけ、自分と重ねちゃったの」

「……?」

 

 

 

 幸は少しだけ悲しそうな様子で、とある話をする。

 

 

 

 

 

 幸は昔からコミュ障なところがあり、絶妙な近寄り難さから中学生の頃はいじめの標的にされていたらしい。

 周りに心配をかけたくないから、学校でされた嫌なことを親や先生に告げることができず、数ヶ月経った頃にある事件を起こしてしまった。

 

 嫌がらせに耐えきれなくなった中学の頃の幸は、嫌がらせしてきた人物の一人を殴ってしまったのだ。

 

 

 

 向こうが先にしてきたために正当防衛ではあるものの、幸にとってはそれがショックだったようで学校に行きづらくなってしまい、不登校が続いてしまったというのだ。

 

 

 

 

 

「そ、それって……幸さんは何も悪くないじゃないですか……!?」

「呼び出された親もそう言ってくれたよ。……でも……」

 

 

 

 話を聞いたブラックは、幸を傷つけた人物を想像して顔を顰める。向こうが殴られたのは自業自得・残念ながら当然の結果でしかないが、当の幸は苦笑気味に続ける。

 

 

 

「でも……正当防衛とはいえ、私も向こうも傷ついてしまったことには、変わりないから……」

「……それは……」

 

 

 

 幸の言葉には、自身にも当てはまることだったので、反論しようとしたのに言葉を押し込めてしまう。

 

 他のプリキュア達が生きる世界を壊す時だって、そこで暮らす彼女達を倒さなければならない時だって、自分の心はずっとダメージを食らい続けているのだから。全ては、自分たちの世界を取り戻すためという大義名分を振り翳して。

 

 

 

「君は……優しい子だね」

「……私は、優しくなんてない……みんなを庇って、嫌なことして……誰にも、相談もできない……したくない、弱虫でしかないから……」

「……?」

 

 

 

 溢れた言葉は、確実に幸にはいえないような本当のこと。一般人が知ってはいけない、別の世界で起きた出来事。

 

 詳しくは言っていないものの、溢れ出す負のオーラは明らかに普通の女子中学生が背負っていいレベルのものではないのが幸でもわかってしまう。それこそ、彼女が食事の手を止めてしまうほど。

 人のプライベートに首を突っ込むことはできないが、幸は優しく微笑んでブラックに話しかける。

 

 

 

「……辛いなら、逃げていい」

「……でも」

「何も逃げるは悪いことじゃない。きっと、逃げ込んだ先に、君の味方はいるはずだから」

「……うん……」

 

 

 

 さっきまでの口下手な様子は何処へやら、幸は意志を持って断言する。その目は、過去に辛い経験があったからこその信頼性を帯びている。意志の強い眼差しに気圧され、ブラックは何も言うことができなかった。

 

 自分だって逃げたい。けれど、仲間がいるから、願いがあるから、奴に縛られているから、逃げたくない。

 

 この世界では嘘みたいな話になりそうな[[rb:逃げられない>逃げたくない]]理由を、全く関係のない幸に話せるわけもなく、そのあとは無言で夕食の時間が進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は午前1時。昼夜逆転した生活になりかけている幸でも、今日は珍しくPCゲームで遊んでいる最中に寝落ちしてしまっている。そんな彼女の部屋に、ブラックは普通に上がり込んでいる。

 流石に寒そうだと思って、ベッドから毛布と引っ張り出して彼女の肩にかけてあげる。

 

 

 

「悪いわね。今日起きたことは忘れなさい……」

「ぅ……」

「!」

「だい、じょうぶ……信じてくれる、味方はいる……」

「……寝言か」

 

 

 

 一瞬起きたかと警戒したが、ただの寝言だったらしい。

 

 

 

「……お味噌汁、美味しかった」

 

 

 

 眠る幸の額に指を当て、淡い赤の光が一瞬だけ灯る。これで彼女は、自分に出会ったことは思い出せなくなる。随分と良くしてもらったが、これでいい。

 この力は、他の闇の使者達にも施した暗示である。あの世界が『崩壊』した理由を思い出せないようにしたのも、彼女のこの力のせいである。……弱点があるとすれば、自分が同じようなことを施せば思い出すことと、関連する重要なワードを聞いてしまうと簡単に解除されてしまうことくらいだろうか。

 

 

 

 幸が次に起きた時には、自分と出会っていたことを忘れているだろう。少し寂しいが、仕方がない。彼女には関係がないのだ。それよりも自分には、帰ってやらなければいけないことができてしまった。

 

 ダークネスブラックは、穏やかな幸の寝顔から顔を背け、そのまま元の世界へと帰っていった。

 

 

 

 

 

「……あれ、寝落ちした……?」

 

 

 

 ブラックが帰って数十分後、幸ががばりと起き上がる。

 いつの間にか、自分の肩には毛布がかけられている。自分でやった記憶はなく、人を呼んだ覚えはない。それでも、ほのかに人がいた気配がしたような気がする。

 

 

 

 

「……気の、せい……?おかしいな、誰か呼んだような気がしたんだけど……」

 

 

 

 

 

 今日は満月の日。彼女達がいるあの世界の赤い月とは違って、真っ白な丸い月が、心野宮に淡いの光の帷を落としている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わって、想いヶ浜市のとある宿泊施設。ここでは私立光星中学校2年生の宿泊研修における宿泊先となっている。

 

 繋巡は1日目のロゲイニングや、火おこしからのカレー作りを楽しみつくし、ぐっすりと眠っている。

 

 念の為にステフォンはリュックの中に入れてあるが、今の所どこかでネオフュージョンの欠片や闇の使者が現れたという知らせはなく、とことん平和な時間が過ぎていた。ステフォンの中ではプリキュア達もしっかり寝落ちしている。

 

 

 

 そんなプリキュア達が、ステフォンの画面が一人でに光を放っていることにも気づくはずもなく。光はリュックを通り抜け、眠る巡の方に伸びていく。

 

 

 

「ぅん……」

 

 

 

 寝返りを打った巡が、閉じた瞼の先が妙に明るいなと違和感を一瞬抱きつつ、再び夢の中へと旅立っていくのだった。

 

 

 

 

 

続く…

 




次回投稿日:7月7日(日)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。