PrecureStageON!   作:主氏レム

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ステフォン誕生秘話


第29話:夢の中の邂逅 心優しきプリキュアの誕生

 

 

 

 

 

第29話:夢の中の邂逅 心優しきプリキュアの誕生

 

 

 

 

 

 瞼の奥の明るさに流石に違和感を抱き、巡は目を覚ました。その景色に驚くことにはなるが。

 

 

 

 

 

「……え?」

 

 

 

 

 

 

 巡はなぜか曇り空の下のやけに静かな街のど真ん中に突っ立っていた。格好は、宿泊先の施設で就寝用にきていたジャージ姿のまま。

 夢でも見ているのかと思ったが、夢の中にしてはやけに鮮明な景色で、意識もはっきりしている。

 

 

 

 後ろの方で何かしらの咆哮が聞こえて振り向けば、そこでは見覚えのある怪物の姿が数体ほど出現しているのではないか。欠片達は、のそりのそりとこちらに近づいてきていた。

 

 

 

『サイアーク……!』

「え?」

 

 

 

 怪物の不穏な空気的に、ネオフュージョンの欠片だとすぐにわかった。人の姿を見つけて欠片の一体が襲い掛かろうとしている。身の危険を感じてステフォンを取ろうとするが、なぜかポケットの中にはそれらしき物体がどこにもなかった。これでは戦うどころか自分の身を守ることができない。

 

 

 

「……?マジで?」

『サイアークッ!!!』

「しまっ……!?」

 

 

 

 欠片の腕が、ステフォンを探していた巡に迫る!

 

 しかし、巡は何者によって手を引かれて馬の背中に乗せられて危機を脱した。一体何が起きたんだと混乱するが、欠片との距離はどんどん引き剥がされていく。激しく揺れる馬の上で巡は舌を噛みそうになりながらもなんとか掴まり、落馬という危機を脱する。

 

 

 

 

 

「この国では見ない顔だが、怪我はないか?」

「は、はいなんとか……」

 

 

 

 西洋のどこかの国にありそうな騎士の服を纏い、赤みがかった長い髪を後ろで束ねる少女によって、巡は助けられたようだ。どことなく、自分に似ているような気がするのは気のせいだろうか。

 

 彼女達が進む方向とは逆に、見覚えのある“プリキュア”の姿が欠片の方へと飛んでいく。

 

 

 

「「はぁぁぁっ!!」」

「ら、ラブリーにプリンセス?この世界は一体何……!?」

 

 

 

 飛んできたラブリーとプリンセスの放つ光のエネルギー弾により、欠片はすぐ様浄化されて消滅する。この二人だけではない。いわゆる“オールスターズ”の面々が次々に現れ、この街全体に出現していた様々な姿をした欠片達がその数を減らしていく。目の前にいるプリキュア達は、自分が行ったことのない世界の彼女達だろうか。

 

 

 

「“ジュン”!向こうに住んでいた人たちは高台の方に避難させたわよ!」

「例を言うぞ、“美墨なぎさ”!」

「だから、プリキュアの時は本名で呼ばないでって!しかもまたフルネームだし!!」

「そ、そうか。すまぬ、以後なるべく気をつけよう」

 

 

 

 キュアブラックに名前を呼ばれ、自分を助けた“ジュン”という騎士の少女は、器用に片腕を彼女の方に振り返して返事をする。

 夢にしてはやけに臨場感があって夢のような気がしないこの世界には、どうやらプリキュアが存在しているらしい。さらに彼女達は、この街とどこか深い関わりがあるようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 巡が夢の中で降り立ってしまったのは『ブレス公国』とも呼ばれる、この世界における秘境とも呼べる場所。

 古くより各地の伝説の戦士の逸話が集まり現存していたり、プリキュアという存在が当たり前になっているこの国では、現実世界というよりも、どちらかといえば妖精側の国のような雰囲気があった。巡がいる世界では聞いたことのない国名だ。

 

 

 

 先ほど巡を助けた騎士の少女────ジュン・ソヴァール=ブレスは、齢15でありながらもブレス公国の国家元首であり、この国を守る『祝福の騎士団』を率いる騎士団長のようだ。……年が近いこともあり、変に畏まらなくていいと言われたので、巡はもはや敬語を使っていない。

 

 

 

「数ヶ月前のことだ。この公国を中心に、世界各地でネオフュージョンと呼ばれる邪悪な生命体の欠片が、突如出現した」

「ネオフュージョンが?」

 

 

 

 出された紅茶とスコーンを嗜みつつ、ネオフュージョンという名前を聞いて、巡は少し驚いて反応を示す。

 自分が対峙している闇の使者達を裏で操っている確実な敵ではあるが、奴がこんなところでも悪事を働いているとは……と、考えを巡らせる。

 

 

 

「それで、邪悪な気配がこの国中心に発生していることがわかって、クロスミラールームを通じてやってきたってわけ!ブルースカイ王国がここと仲が良くて本当に良かったって感じ〜」

「ここでもネオフュージョンの被害が大きくて定期的に現れるっていうから、プリキュアのみんなで交代交代で頑張ってるの」

「な、なるほど……それはまた大変な……」

 

 

 

 ひめとなぎさの補足で、巡はなんとかこの世界で起きている状況をある程度理解する。

 

 

 

「……本来であれば、自分の国は自分たちが守るべきはずなのだが……あの欠片共は、プリキュアが持つ力ではないと完全に追い返すことができないらしい。彼女達に頼り切るばかりで、迷惑をかけているというのに……」

「じゅ、ジュンさん!そんなに落ち込まないでください!」

「困ったときはお互い様ですよ?」

 

 

 

 ジュンは、自分たちではどうにもできないネオフュージョンの欠片退治をプリキュア達に頼っている現状が歯痒くて仕方ないらしい。ほのかやめぐみにフォローされてもなお、どこか憂いを滲ませた表情は、さっきまで威厳のあって頼れる騎士団長と同一人物であるのが疑わしいとまで思えてしまう。

 これは日常的に起こることのようで、なぎさが苦笑気味に彼女に話しかける。

 

 

 

「ジュン、私たちはそこまで迷惑にはなってないから大丈夫だよ?急に呼び出されるのはびっくりするけど、大切な人や何かを守りたいって気持ちは同じだから」

「美墨なぎさ……」

「そうそう!やっぱりみんな笑顔じゃないと、全然幸せハピネスじゃないからね。一緒に守っていこう!」

「……ああ、すまぬ」

 

 

 

 なぎさの言葉やめぐみの励ましで、憂いた表情は少しだけ和らぐ。この空間だけ、なんだか誰も入ってはいけない聖域のような気がして、巡は穏やかな顔で眺めに徹している。多分このジュンという少女となぎさの仲は良好のようだ。

 

 こんな暖かい空気、自分が見ている夢にしてはやはりどこか変な感じがするが……しかし、巡はどうして自分がここまではっきりと『これは夢ではない』と認識できるのかがよくわかっていなかった。

 

 

 

「……そうだ。それで、巡は一体、どうやってここに?」

「あー、あんまり信じられる話ではないんだけど、あたし夢見てるみたいで……」

「???」

「あーだよねやっぱり信じられるわけないよねちょっと忘れてね」

 

 

 

 一通り話してこれは流石に嘘っぽく聞こえるなとすぐに察して、巡はひとまず『家の鏡に触れたらなぜかここに飛ばされてしまった』という、まあまあぶっ飛んだ程でここに現れた一般中学生ということにしておくことにした。

 

 なんだかんだで怪しい者ではないとわかってくれたのか、ひとまず巡はジュンが暮らす城の方で保護されることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 巡は今、国の元首であるジュン直々の案内の中、ブレス公国を城周辺を巡っていた。

 

 白い石とレンガでできた街並みは中世の街の様子が想起される。街の至る場所に花壇の花が咲き誇っていたり、広場の方では地元の演奏家が小さなコンサートを行なっていたりと、自然豊かでも賑わいのある様子があった。

 この国では手芸系のお土産が多いらしく、特に動物の可愛いぬいぐるみが人気があるらしい。

 

 ジュンによって連れられたのは、公国郊外の原っぱ。パステルカラーの花々が咲き乱れ、奥の方には小さな湖が浮かんでいる。そよ風が暖かな空気を運び、ここだけまるで季節が春に固定されたかのような陽気が立ち込めている。

 

 

 

「わあ……これは綺麗……」

「私の一番好きな場所だ。ここにくると、穏やかな気持ちになれる」

「あ、ソヴァール公だ!」

 

 

 

 ここにジュン達が足を踏み入れたことに気づいたのか、ここで遊んでいたらしい小さな子供達が、ジュン達の方に駆け寄ってくる。

 

 

 

「ソヴァール公も遊びに来たの?」

「ああ。少し息抜きにな」

「あのねあのね、花の冠を作ったの!ソヴァール公にあげるね!」

「いいのか……?」

「うん!いつも怪物から、パパやママ達や私たちを守ってくれてるから!」

 

 

 

 ジュンが、子供の一人と視線を合わせて屈むと、その頭に原っぱの白い花で作られた花の冠を載せられる。どこか気恥ずかしそうに、少し申し訳なさに、困ったように目尻をさげる。

 

 

 

「私は……まだ何もできていない。プリキュア達に頼ってばかりなのに……」

「そんなことないよ!ソヴァール公がプリキュアと友達なのもびっくりしたけど、いつも私たちを逃がしてくれてるもん!」

「むしろ、守られてばかりの私たちが何も還元できていない……」

 

 

 

 小さな子供達の世話役だろう、年齢が少し高めの子供が表情を曇らせる。そんな彼女達を心配させまいと、ジュンは慈愛に溢れる笑顔を見せる。

 

 

 

「気にするな。未来ある君たちの笑顔を費やさないために国や民を守るのが私の役目だ。こうして君たちが、のびのびと過ごしてくれればそれでいい」

「ソヴァール公……!」

「花冠、ありがとう」

 

 

 

 それだけ告げて、客人を案内しなければならないと言って、巡を連れて原っぱを後にする。子供達はどこか嬉しそうに、また外遊びの方に戻って行った。

 

 

 

「ジュンさん、愛されてるね」

「……そう、なのか」

「ああこれ結構鈍感な方なのか……?」

 

 

 

 巡は全く人のことが言えないのだが、どうやらジュンは他者からの好意にとことん鈍感な方らしい。それでも彼女が国民から愛されているようだった。

 街の方でも人々から挨拶されたり話しかけられたり、街でパン屋を営んでいる人からは手作りブレッドで作ったサンドイッチをもらっていたりと、彼女が随分と人々から信頼されていることがなんとなくわかった。

 

 

 

「……だが、私は、ここに暮らす人々の笑顔が好きだ。皆の笑顔を守るためにも、あの欠片共の侵攻を止めねばならん。そのためならば、己の命に換えても……」

「……多分そういうところなんだろうなぁ」

 

 

 

 なんとなく、ジュンが人々に愛される理由がここに詰まっているのだろうと巡は察するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遠くの方で、非常事態を告げる鐘の音が国中に響き渡る。先ほどまで晴れていたはずの春の空は、いつの間にか黒く厚い雲によって覆い隠されている。あらゆる方向から嫌な気配が立ち込めてくる。

 

 

 

『ウザイナー!!』

『ジコチュー!!』

 

 

 

 広場の方に現れたのは、さまざまな怪物の姿をしたネオフュージョンの欠片たち。この2体だけではない。国のあらゆる場所に複数体、欠片が出現したようだ。

 逃げようとする国民に向かって怪物の脅威が迫ろうとするが、飛び掛かった少女の剣捌きによって体勢を崩され奥の方に大きく吹き飛ばされる。

 

 

 

「ここは私たちが食い止める。君たちは早く逃げなさい」

「ソヴァール公……!ありがとうございます!あなたもお気をつけて!」

 

 

 

 欠片を崩したのは、白銀に煌めく剣を抜いたジュンだ。助けられた人々は、彼女に感謝と心遣いある言葉を告げて再び街の外にある避難場所へ向かって走り出す。

 飛び出して行ったジュンを追いかけて、巡もようやく彼女の方に追いつく。

 

 

 

「あ、あの、急に走り出さないで……」

「繋巡……まだ逃げていなかったのか」

「小さな子を逃してたら普通に見かけたから」

 

 

 

 巡は巡で転んでしまった子供を運んでいる最中に欠片の方へ向かっていくジュンの姿を見つけたために追いかけたまである。自分の力が効かないとはいえ大きく吹っ飛ばすほどのパワーがあるのはある意味バグでもありそうだ。一般人に襲いかかったと思ったら返り討ちをされて、欠片もその衝撃でしばらく動けないだろう。

 

 しかし、欠片達の咆哮がやけに近くで聞こえた。ジュンの介入によって逃がされた民達の元へ、別の方からやってきた欠片がそちらへ向かおうとしていた。

 

 

 

「あ、欠片が……!」

「くそ……ッ!!繋巡、隠れていろ!」

「ちょ、ぐへっ」

 

 

 

 巡をかなり乱雑に茂みの方へ押し込み、ジュンは一人駆け出し、白銀に煌めく剣を構えて突き進もうとする欠片達の前に立つ。

 

 

 

「怪物共!私が相手だ!」

『ザケンナァ???』

『ネ〜ガ〜ッ!!』

「ジュンさん!おわっ」

「ジュンッ!!」

 

 

 

 無謀にも立ち向かおうとするジュンに向かって、欠片達が標的を変えてジュンに襲い掛かろうと進路を変える。巡も今すぐ彼女を助けたかったが、ステフォンがない今下手に出てしまうと二人してやられてしまう。

 飛び出したジュンに気づいたのか、それとも止めに入ろうとたかった巡の動きを見てか、近くで欠片の侵攻を食い止めていたブラックが全速力でジュンの元へ駆けつけようとする。

 

 

 

 欠片がジュンを押しつぶしたのが先か、ブラックがジュンを突き飛ばしたのが先か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジュンに両者の腕が迫る中、突如としてジュンの右胸から強い光が放たれたのだ。その場所は、鼓動が強く響いている心の臓が生きる場所。

 

 眩い光に驚き、両者がその動きを止める。

 

 

 

『!?』

「うわっ」

「まぶし……ッ!?」

「……!!」

 

 

 

 光に包まれたジュンは、その光の眩さに思わず構えていた剣を落としてしまう。さらに、ブラックの胸のリボンから溢れた桃色の光が、彼女の元へ集まる。

 桃色の光は、この国の様々な場所に出現した欠片達を追い払うためにやってきたプリキュア達からも溢れ出し、一斉に彼女の方へと飛んでいく。

 

 

 

 その情景は、魔法学校の校長から譲り受けた不思議な本の挿絵とよく似ている。

 

 

 

 

 

「……これ、は……」

 

 

 

 桃色の光が集まり、ジュンの手の中に舞い降りたのは、とある一つの小さなアイテム。

 

 それは、鮮やかマゼンダの色をしたスマートフォンのような物体。スマホにしては異質なハート型の飾りが煌めき、スマホではない何か。その形に、巡は見覚えがあった。

 

 

 

「何、それ……!」

「え……それ、ステフォンじゃ……」

「……暖かい、力を感じる……この力であれば……!」

 

 

 

 周りが何が起きているのか困惑する中、ジュンは迷いもなくそのステフォンらしき物体を構え、天高く掲げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「プリキュア・ステージON!」

 

 

 

 

 

 ジュンの体は、ステフォンの画面から溢れた光の渦に包まれて、その姿を神々しい姿へと変えていく。

 

 

 

 偶然、厚い雲の中からうっすらと差し込む光が、その少女の姿を照らし出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神々しさと美しさを混在したような騎士のようなコスチューム。

 

 変身アイテムとして使われたステフォンは、腰に下がったキャリーに。

 

 元々マゼンダだった瞳は、さらにその輝きを灯して。

 

 白に近い薄いピンクの髪は、風に靡いている。

 

 

 

 

 

 その姿に、欠片も巡もプリキュア達も、皆、その少女へ注目が集まる。

 

 

 

 

 

「現となりし、救いの光!キュアクルセイダー!」

 

 

 

 

 

 そう名乗りをあげたあげた少女が────ジュン・ソヴァール=ブレスことキュアクルセイダーが、今ここに顕現したのだ。

 

 

 

 

 

「キュア、クルセイダー……?」

「ジュンさんがプリキュアに変身した……?え、まさかあれがステフォンの始まり……?」

 

 

 

 まさかの状況でステフォンの始まりを見たような気がするが、欠片はたかがプリキュアが一人増えたところでとでも言いたげに、その腕を振り落とそうとする。

 

 

 

『ザケンナーァァッ!!』

「フンっ」

 

 

 

 しかし、クルセイダーは回し蹴り一本叩き込み、欠片を奥の方へと弾き飛ばしたのだ。とんでもない力で吹き飛ばされたようだが、それでも他の欠片達がクルセイダーを陥れようと次々に襲いかかる。

 クルセイダーの手には光が集まり、拳銃のような形となってエネルギー弾を放ち、近づく欠片達を一瞬にして散らばらせる。追い打ちをかけるように光を剣の形にし、一刀両断で消滅させた。こんな芸当をやってのけたクルセイダーは、涼しい顔だ。自分に突如として宿った強い力を、使いこなしている。

 

 

 

「……」

「う、うそ!?あんな一瞬で……」

「クルセイダーつっよ」

『ヨクバールッ!!!』

 

 

 

 ブラックや巡が驚きと感嘆の声をあげる中、先ほどよりも強い個体の欠片がここを嗅ぎつけ、大きく飛び上がって襲い掛かろうとしている。他のプリキュア達の頑張りもあって、あとはこいつだけのようだ。

 それでもクルセイダーは表情を恐怖でわずかに歪ませることもなく、光を剣の形状から大きなバリアにして、欠片を受け止める。

 

 

 

『ヨクッ!?』

「あとはお前だけのようだな、覚悟しろ」

 

 

 

 そのまま上空に欠片を投げ飛ばし、クルセイダーの両手に桃色の光が集まる。

 

 

 

 

 

「暗闇に飲まれたその力、撃ち抜くぞ!プリキュア・ブレッシングキッスッ!!」

 

 

 

 両手から放たれた暖かな桃色の光のレーザー光線が、打ち上げられた欠片を貫き浄化する。空高く放たれた光は、ブレス公国に立ち込めていた真っ黒な雲に穴をあけ、青い空を切り開くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っ、これが、プリキュアの力……」

 

 

 

 自然とプリキュアの姿から元の姿へと戻ったジュンは、手に持った変身アイテムと己の手を交互に見比べる。いつの間にか、破壊された街並みが元通りに戻っている。

 欠片達から民や国を守るために集中していたのであろう。ジュンは今になって、自らに起きた奇跡と状況への驚きが今になってきているようだった。

 

 

 

「ジュン!!」

「……!」

「あ、あんた、ほ、本当にプリキュアになったの……!?」

「あ、ああ、そのようだな……君たちは、こんなにも暖かくて、恐ろしい力を、守るための力として使っていたのか……」

「ジュン……?」

 

 

 

 よろけた彼女が心配になって近づいてきたブラックに対して、少し疲れた様子で笑いをこぼしながらジュンはそう言う。

 

 

 

「……私に、使いこなせる自信はないが……これで君たちと共に民を、人々を守れるというのなら、私はプリキュアとして戦うことを誓おう」

「すっごい堅苦しい感じになってるけど、つまり、一緒に戦ってくれるってことでいいのこれ……?」

「これで、私も皆のことをこの手で守ることができる……」

 

 

 

 ブラックの言葉にはさすがに頷いてしまうが、ジュンはキュアクルセイダーという名のプリキュアとして、戦うことになったらしい。

 誰かの笑顔を守るために変身した彼女は、なんとなく巡とも繋がる所がある。

 

 

 

 

 太陽の光に祝福される彼女に歩み寄ろうとしたところ、突如巡の視界がぐにゃりと歪む。徐々に意識が引っ張り出され、目の前が真っ暗になっていく────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!」

 

 

 

 巡の瞼がゆっくりと開く。視界に映るのは、城の中でも青空の下でもなく、旅館の部屋の天井。やけに鮮明に覚えている不思議な夢から、巡は覚めていたらしい。

 

 時刻はまだ午前5時を過ぎた頃。起床時間までにはまだ時間がある。同じ部屋のクラスメイト達は、まだぐっすりと眠っている。無理もない、昨日はロゲイニングとカレー作りではしゃいでいたのだから。

 

 

 

「今のは、夢……?」

 

 

 

 何か色々と気になるものを見たような気がするので、これは是非ともステフォンの中のプリキュア達にも共有したい。そう思って巡は寝ている人を邪魔しないように自身のリュックからステフォンを持ち出し、部屋に備え付きのバスルームの方に移動する。ここなら多少声を出してもそこまで怪しまれることはないだろう。

 画面を覗くと、中ではラブリー達がぐっすり眠っている。少し悪いが彼女達には起きてもらいたいので、画面に優しく触れながら叩き起こす。

 

 

 

「おーい、みんなー」

『う、うーん……あれ?もう朝……?』

『まだ5時じゃないどうしたのよ……』

「おはようみんな、ごめんね起こしちゃって」

 

 

 

 巡の呼びかけに、プロトキュア達は次々に目をさます。特にブラックは突然叩き起こされて不機嫌気味だが仕方がない。なんなら起こしてもまだ寝てる子もいるのだ。

 

 

 

「ちょっと変というか随分と鮮明に覚えている夢を見たんだけどさ、“キュアクルセイダー”って名前に聞き覚えとかない?夢の中でステフォン生み出して戦ってたんだけど……」

『キュア、クルセイダー……?』

『どこかで聞いたことあるような……』

『……っ!?キュアクルセイダーッ!?』

『待って待って待って!?』

 

 

 

 一瞬彼女達が寝ぼけて頭が働いていない感じの呟きが入ったが、ようやく頭が働いてきたのか、ブロッサムとハートがこの上ない大声をあげて驚いた。彼女の声に反応し、次々に心当たりがあるという反応を示す。

 

 

 

「あ、やっぱ知ってる感じ?」

『知ってるというか、巡ちゃんがその名前を言った時に突然思い出したんだけど……』

『その人、名前を“ジュン”って言ってなかった!?』

「うん。ブレス公国っていう、絶対にこっちの世界では聞かない名前の国の元首だって」

『その人だよ!ステフォンの元の持ち主!!』

「あ、まじで?そんな感じ?」

 

 

 

 さらにホイップの言葉で、あの夢の中で出会ったジュン・ソヴァール=ブレスことキュアクルセイダーはステフォンの本来の持ち主でありそれを生み出した重要人物だということが確定した。彼女達の反応を見るに、ジュンという存在自体が記憶のどこかで今の今まで封じられていたらしい。

 

 

 

『ブラックも知ってたの!?』

『ううん、私も今思い出した。……そう、あいつはジュンだったんだ……』

「じゃ、じゃああそこにいたブラックたちが、あの闇の使者になったってこと……?」

 

 

 

 プロトキュアたちの記憶が一部復活したことで、あの場所で出会ったプリキュアたちが、あの世界の崩壊に巻き込まれたり闇の使者となったり魂だけの存在になったりと、散々な目に遭っていることも判明した。

 

 

 

「ブラック、君ジュンさんと仲良かったじゃん何があってあんなに敵対して」

『う……それはあいつが暴走して崩壊させたようなもんで……』

「それはそうなんだけど……あたしが見た感じだけど、あのジュンさんが無闇に力を解放するような人に見えなかったんだよなあ……」

 

 

 

 あの夢の通りであれば、ジュンは自分が得たプリキュアの力に可能性を感じていたと同時に、その力を使いこなせるのかという恐怖心が見え隠れしていた。

 自分と違ってある程度の慎重さを持ち合わせる彼女が、余程のことでもない限り、迂闊にリミッターを外すとは思えない。

 

 

 

『ジュン、か……』

「お、今回はラブリーも心当たりあり?」

『うん!ブラックと仲が良かったなーって』

『私がアイツと!?ないないないない!』

『ラブリーだけ思い出したことが若干違っているような……?』

 

 

 

 今回は一番失っている記憶の多いラブリーもしっかりと思い出せたようだ。ただ、その記憶はブラックがあのジュンと仲が良かったという事実らしいが。

 

 

 

「……ブレス公国、ね……帰ったら調べてみないと。あの本を全部見たってわけじゃないし」

『やること盛り沢山だね……』

「これも、なんであの世界をジュンが崩壊させてしまったのかを調べるためだからね」

 

 

 

 

 

 ────あの民思いの優しい騎士王が、世界を壊してしまうような人とは思えない。きっと何か(・・)がある。

 

 

 

 巡は心のどこかでそう感じながら、宿泊研修2日目を迎えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<ネオフュージョンの世界 漆黒の城・闇の使者たちの大広間>

 

 

 

 

 

「……っ」

「ら、ラブリー?!」

「どうしたの!?な、何か悲しいことでもあったの……?」

「え……?あ、れ……?」

 

 

 

 ハッピーやハートに心配されて、ラブリーは自身の瞳から涙が溢れていることに気づく。

 淡い色の長い髪を揺らした白いプリキュアが────自分たちの世界を崩壊させた人物の姿がふと思い浮かび、なぜか胸に湧いた苦しさと懐かしさに動かされ、無意識に泣いてしまったのだろう。

 

 

 

「どうしたんだろう、私……」

「きっと、疲れちゃったんだよ。少し寝てる?」

「うん……でも大丈夫」

 

 

 

 特に外に出て何かをしていたというわけでもないので、疲れているわけではない。どうして泣いてしまったのだろうと考えていると、ピーチが少し焦った様子で広間の方にやってきた。

 

 

 

「3人とも〜!ブラック見てない!?」

「え?ここには来てないけど……またネオフュージョンに呼ばれたとかじゃ」

「今帰ってきたんだけどめっちゃ怒ってて、『ネオフュージョンのところに行ってくる』とだけ言ってどこにもいないんだけど!!」

「……えぇ!?」

 

 

 

 ピーチの言葉に、3人は顔を見合わせる。まるでネオフュージョンが何かやったとしか思えないような感じだったが、異様なことが起きているのは確かだ。

 ネオフュージョンに何かされるのも嫌なので、闇の使者たちは城の中を探している最中のようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 漆黒の城の最深部。ネオフュージョンは基本的にここから動くことはない。手を組んでいる闇の使者もまた、滅多にここに訪れることはない。

 

 

 

 

 

 そんな不定形の彼の元に、3人の闇の使者たちが来客としてこの場所へ訪れていた。呼んだのはただ1人────ダークネスブラックだけなのだが、後の2人は警戒して連れてきたか勝手についてきたかのどちらかだろう。

 

 

 

「……」

『……』

「……言っておくけど、私が連れてきたわけじゃないわよ」

「勝手についてきただけだから!」

「そうそう!ブラックだけだと何されるかわからないからね!」

『……ふん、まあいい』

 

 

 

 ブラックと一緒についてきたのは、ブルームとドリームの2人。ネオフュージョンに警戒して勝手についてきたようだ。しかしそんなことはどうでもいいと感じているのがネオフュージョン。特に気にすることなく問いかける。

 

 

 

『それで……貴様達がここへ素直に訪れるわけがないだろう?何の用だ』

「呼び出したのはそっちでしょうに……まあいいわ。アンタには是非聞かなきゃならないことがあるのよ」

 

 

 

 ネオフュージョンとダークネスブラック。手を組んでいる者同士でありながらも、両者の間ではばちばちと火花が散っているのがよくわかる。

 

 

 

「……アンタ、プリキュアが全く関係ない世界に欠片を放ったわね」

「……え?ど、どう言うこと?」

「要は、私たちみたいなプリキュアがいない世界でしょ?……え、なんで?」

 

 

 

 ブラックの告げた言葉にドリームが何事だと首を傾げるが、ブルームがなんとなくその意味を理解したようだ。

 いやそれよりも、彼女いつの間にその世界に行ったのかと色々とツッコミどころが満載なのはともかく、穏やかではないことが起きているのは確かだ。

 

 

 

『貴様達が対峙しているというキュアコンプリートというやらが気になったのだ……あれでも相当力を抑えた方だ。……すぐに消されてしまったようだが』

「やっぱり……一体なんのつもり?プリキュアがいない世界には興味がないんじゃなかったの?」

『キュアコンプリートはプリキュアであろう』

「だけど……それで全く関係のない人が巻き込まれたりでもしたらどうするの」

『何を今更……貴様とて、世界を幾つ自身の手で壊したと思っている』

「……っ、それは」

 

 

 

 奴に従わされてやっているとはいえ、ブラックは今まで様々な世界で他のプリキュア達をこの手で倒している。ネオフュージョンの言葉に正論で返されてしまい、何も言い返せなくなってしまう。

 そんな彼女を守るように、一緒についてきたブルームとドリームが前に立つ。

 

 

 

「二人、共」

「大丈夫だよ、ブラック」

「それは、ブラックに余計なことさせてるアンタが一番悪いでしょ!」

『随分と威勢のいい……闇に染まっても心()堕ちることはないとでも言うのか……』

 

 

 

 弱々しい少女を守るように立ちはだかる二人の姿に、ネオフュージョンは嘲笑を吐く。そんなことはどうでもいいと話を無理やり変え、俯くブラックの方に視線を向ける。

 

 

 

『どうやら……キュアコンプリートとやらに負けて落ち込んでいるようではないか』

「……っ!?」

『隠しているつもりのようだが、我の目は誤魔化せんぞ……貴様が求めているモノが奪えず、さぞ悔しかろう……』

「……っ、だったら、何」

 

 

 

 そう問いかけるブラックに、ネオフュージョンは顔らしき部分で気味の悪い笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

『わかるだろう?貴様に我の力を直接与えてやると言っているのだ……』

「……!?別に、アンタの力がなくたって……っ!!」

 

 

 

 まるで悪魔の誘惑だ。唸るようなそれに、ブラックが顔を上げる。しかしその手だけは絶対に使いたくないのか、すぐに断りを入れる。しかし奴も引き下がらず、彼女の良心に漬け込むように決断を迫る。不定形の肉体からは黒い触手のようなものが数本のび、彼女の体に触れる。

 

 

 

『貴様の大切なものを取り戻したいだろう?壊された世界を取り戻したいだろう?そのために、我と手を組んだのだろう?』

「それは……」

『貴様は恋しくないのか?相方という存在を……』

「ぅ……」

「や、やめてよ!ブラックが嫌がってるでしょ!?」

 

 

 

 ドリームが、ブラックを取り込もうとしているように見えたのか、彼女の体を引っ張って触手から引き剥がす。

 彼女が本当に望んでいるものなど、長年彼女をこき使っているネオフュージョンにとっては手に取るようにわかること。その名前や存在をちらつかせば、彼女はすぐにでも釣れてしまう。

 

 

 

『そうか……それなら……』

「ぇ────っあぐ……ッ!?」

 

 

 

 ネオフュージョンの双眸が紅く怪しげに煌めいた瞬間、ブラックの胸のクリスタルが同調するように紅い光を放つ。その瞬間、ブラックの表情が苦痛に歪み、頭を押さえつけながら苦しそうな呻き声を上げる。

 彼女の動きが止まった瞬間を狙って、奴から放たれた邪悪な闇の力がブラックの方に取り込まれていく。

 

 

 

「〜〜〜ッ!?」

「ブラック!?しっかりして!ねえ!!」

『せっかくの機会を無駄にするほど、虚しいものはない……』

「ネオフュージョンッ!!」

 

 

 

 最初から彼女の意見を聞くつもりがなかったのか、いずれにせよ自身の力をブラックに与えるつもりだったらしい。そんな奴の行動に、ブルームが声を荒げて奴に殴りかかろうと構える。

 

 もちろん、このまま突っ込んでしまうと確実に返り討ちにあってやられる。そんなリスクよりも先に、ブラックを苦しませている存在がいるのが何よりも許せなかった。まさに一触即発のムード。

 

 

 

『我に叶うとでも?……だが、まあいい。……貴様らにも力を与えてやろう』

「は……、っ!?」

「うわ!?」

 

 

 

 さらに放たれた黒い光の何かが、立っている2人の方に飛んでくる。

 ブルームは右腕に、ドリームは首元にそれが巻きつき、紅いクリスタルが妖しげに煌めく黒いリングへと姿を変える。

 

 

 

 

 

「な、何これ……うわぁ、趣味悪い……」

「外してよ……っ!」

『なあに、リングさえ壊さなければどうということはない。貴様ら()な……』

「私たちは……?」

「ぅ、ぁ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────ぅぁああああああああああアアアアア゛ア゛ア゛ア゛ッッッ!?!?!?」

 

 

 

 

 

 意味深な奴の言葉に困惑する中、劈くようなブラックの悲鳴が、ネオフュージョンのいる空間に響き渡る。その体にまとわりつくのは、ネオフュージョン由来の凶悪な闇の力。

 

 そのかっ開いた紅い瞳には、苦痛と恐怖と絶望、ほんのわずかに闇に魅せられてしまった歓喜の色がごちゃごちゃになってしまっている。

 

 

 

 喉が枯れてしまうほどの悲鳴が弱々しくなるにつれ、一瞬だけ幻として現れたキュアクルセイダーや相方の姿を見ながら、少女の意識は闇の中に落ちていくのであった。

 

 

 

 

 

続く…

 




次回更新日:7月13日(土)
ラストが不穏だねえ
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