PrecureStageON!   作:主氏レム

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月曜日ですが祝日なので投稿です
今回はお休み回です


第32話:一時休戦?学校祭deパニック!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 10月のとある日曜日。私立光星中学校の生徒会室……ではなく、1階正面玄関前のエントランスホールに設けられたスペースにて。

 

 

 

「えーっと、それでは。本当に待ちに待った学校祭本番です。生徒も一般の方も楽しめるように全力でサポートしていきましょう。後、休憩中はしっかり楽しんでね!……こんな感じでいい?」

「大丈夫ですよ会長!」

 

 

 

 本日は光星中の学校祭。怪物騒ぎのせいで延期になっていた一大イベントがようやく開催できたために生徒たちのボルテージは上がりまくっている。

 繋巡は今回イベント全体を運営や生徒たちのサポートを取り仕切る生徒会チームのリーダーとして、直前ミーティングでアドリブ的な言葉をかけてみる。

 

 これから開会式のため、巡は必要な荷物を持ってくるために体育館近くの準備室へと向かう。ひとまず室内には自分だけだったため、一旦ステフォンの画面をつけて中のプリキュアたちの様子を確認する。

 

 

 

「やっほー、元気?」

『元気だよ!今日は待ちに待った学校祭だね!』

『……闇の使者、本当に来るのかしら……?』

「わかんないけど……前向きには考えてくれてるんじゃないかな」

 

 

 

 

 

『ちょっと今は長話出来なさそうな状況だし……ねえ、戦わない条件で、今度あたしの世界に来ない?』

『……え?』

 

 

 

 

 

『来週、うちの学校の学校祭が始まるんだよね。店番とかしてない時は話は聞けると思うし、敵情視察ってことで遊びにきなよ。ついでにあたしも、君たちについていろいろ知りたいからさ』

『……考えとく』

 

 

 

 

 

 『yes!プリキュア5』の世界にて現れた闇の使者に告げた、実質的な挑発のような招待状の文言。

 

 ステフォンを狙う理由がほとんど、巡が今目指している『あの世界の再生』と同じなら協力路線&彼女たちのバックについているネオフュージョンをどうにかできるような気がしていた。ただ、彼女たちも彼女たちで色々と複雑な事情がありそうなので、まずは話を聞くことが大切だと考えたのだ。

 

 あの時の反応からすると、ある程度は警戒しているが大方好意的に受け取っているような感じだった。

 

 

 

「……流石にまんまの姿でくることはないよね」

『いやあないと思うよ!?色々と混乱しそうだし、向こうもちゃんと弁えてると思う!』

『欠片がこっちの世界にも出たってことを知っていればね……』

「あー……大丈夫でしょ」

 

 

 

 プロトブラックは巡中心に能天気に構える周りの危機感のなさに、一抹の不安を抱えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第32話:一時休戦?学校祭deパニック!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私立光星中学校の学校祭は、心野宮内の私立系学校の中でもかなり大規模なイベントである。生徒たちが高校や大学の学校祭と引けを取らないようなクオリティの屋台や発表などを繰り出してくるため、毎年町内や近隣の町から客が訪れるという。

 毎年9月下旬あたりに行われるのだが、今年は例の騒ぎによって開催自体が10月にずれ込んでしまった。準備期間が伸びたからこそ細部まで屋台・企画を詰められたため、前日準備の時点で今年は勢いが違うと言われている。

 

 一般開場からまだ20分も経っていないのに、すでに賑わいを見せているあたり、この一大イベントは心野宮で暮らす人たちにとっての一種のお祭りともいえよう。

 

 

 

 

 

「お財布持ったー?」

「持ったよー!」

 

 

 

 入場口である正門近くにて。この辺りでは見ない顔である9人の女子中学生たちが、通行人の邪魔にならないように集って何かを話していた。彼女たちも学校祭に遊びに来た客なのであるが、それは建前だったりする。

 

 彼女たちの目的はあくまでも『敵情視察』だ。別に、偶然その話を聞いたからとかその話を聞いた時めちゃめちゃ楽しそうだなと思ったとかではない。あくまで。誘惑に釣られたとか、そんな一般ただただ楽しみな人たちの集まりではない。

 

 

 

 そう、彼女たちは闇の使者。キュアコンプリートこと繋巡が持つステフォンなるアイテムを取り返すためにネオフュージョンと一時的な結託(?)をしている、プリキュアの姿をした存在だ。

 なぜ闇の使者として生きることになったのかの詳細を簡潔に話すと、もともと暮らしていた世界を滅ぼしたのがステフォンとその持ち主であり、彼女たちの元締め的な存在が「ステフォンがあれば元に戻せる」というため、こうして頑張っているわけだ。

 その元締めがネオフュージョンによって大変なことになっていたりと、今はまともにコンプリートの相手をしている場合ではない。

 

 

 

「まさか、コンプリートの方から呼んでくるなんて思わなかったけど……」

「でもよかったよね。ドリームに何があったかも聞けそうだし」

「別の世界のリコたちと戦わないで済むんだから助かるよ〜」

 

 

 

 おそらく今回のまとめ役になるであろうハートの呟きに、メロディとホイップが反応する。

 

 一応、元々の姿や擬態中の本来の変身前の姿で行ってしまうと、巡の世界の関係上大混乱を起こしてしまいそうだったので、私服や髪型を変えてこちらの世界に馴染むようにしている。よほど詳しい人でもなければ自分たちの正体を察せらることはないだろう。

 

 

 

「……本当なら、呼ばれた本人も来てくれたらもっとよかったんだけどね……」

 

 

 

 少し残念そうにピーチが呟いた。実は学校祭に呼ばれたのは彼女たちではない。彼女たちはその呼ばれた本人から代わりに行って来てくれないかと頼まれただけだったりする。

 

 

 

 

 

『こ、コンプリートの元々の世界へ、ですか!?』

『それって大丈夫なの!?』

『分からないけど、本人がぜひ来てねって言ってるんだから大丈夫なんじゃないかな……?』

 

 

 

 先日、ネオフュージョンによって勝手に与えられてしまった力を使って大怪我を負ってしまったドリームを介抱していた時に、彼女の様子を見に行っていたブルームによって、その話がもたらされた。コンプリート曰く、一度ゆっくりと話がしたいらしい。

 

 

 

『でもいいの?誘われたのならブルームが行ってあげた方が……』

『うーん、でも誰か動ける人がいないと動けない二人が大変だし……』

『き、気にしないで!!あたしは大丈夫だよいたたた……っ』

『……ほら。それに、みんなもたまには遊びたいでしょ?』

 

 

 

 ……といったように、半強制的に休みを取らされたというような形である。

 

 実際、昏睡中のブラックと動くとずっと痛がっているドリームを置いていくことはできないとは思うが、わざわざ一人残る選択をしなくてもとは思ってしまう。

 

 

 

「とりあえず……3人へのお土産を持ってきつつ、めいいっぱい楽しもーう!」

『おー!』

 

 

 

 小さく円陣を組みながら、9人は3人1組のチームに分かれて入場口へと向かっていくのだった。

 

 運営本部と書かれたブースでは、クラスTシャツを上から着た巡が、他の生徒会メンバーと客にスタンプ台紙のような小さなカードを配布していた。クラTはクラスごとにどんな店・企画を出すかでデザインが変わるようで、巡のクラスではホラーハウスをやるためにデフォルメ化したお化けがプリントされた黒Tシャツだ。

 とうとう自分たちの番になり、巡からスタンプ台紙をもらう。巡は一瞬だけ闇の使者たちの顔を見たような気がするが、時に気にすることなく簡潔な説明をする。

 

 

 

「対象のブースでお買い物やイベント体験をするとスタンプが押されます。スタンプが5つ貯まると、こちらの生徒会ブースの方での福引きに参加できるので、よろしければぜひ参加してみてくださいね」

「はーい、ありがとうございまーす」

 

 

 

 巡からの説明を受け、闇の使者達は一枚ずつスタンプ台紙を持っていくと、3チームに分かれて好きな場所を見に行った。

 

 

 

「……コンプリート、全く気づいてなかったね」

「意外とバレてない……?」

 

 

 

 何も突っ込まれなかったあたり実は巡もかなりの節穴では?と感じる彼女達ではあったが、これで問題なく学校祭を順番に巡っていける。この際彼女がステフォンの持ち主であることを忘れて、ぱあっと楽しもうではないかと考えていた。

 

 

 

 

 

「他校の学生さんかな?結構大人数だったけど……可愛かったね」

「うーんそうだね(あれ絶対闇の使者だよね?ほんとに来ちゃったよ面白いね)」

 

 

 

 呑気にバレていないとニコニコな闇の使者に対して、一方彼女達に対応した巡にはしっかりとバレていたようだ。まさか本当に来るとは思わなかったし、なんならここで話しかけるのも周りが混乱しそうだったので他人のふりをしていた。彼女達が過ぎ去った後、同じ学年の生徒会メンバーに話しかけられるが、知らないふりをして後で彼女達に話しかけようと思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 体育館へとつながる通路にて。ハッピー・ハート・ラブリーの3人が、ステージ発表のプログラム表を見ていた。今は次の発表準備のために休憩中のようだ。

 

 

 

「へえ、演劇部があるんだ!さっきのチラシかな?」

「なんだか面白そうな題名だよね。脚本も自分たちで考えてるのかな」

「すぐ始まりそうだし、ちょっと観てみようよ」

 

 

 

 ダンス部のステージパフォーマンスの次にあるのは、演劇部の舞台発表。題名とそのあらすじや、配られた宣伝チラシを見て気になっていたようだ。3人は早速観客席の中でもステージが見やすい場所の席に座り、開演時間をワクワクしながら待つ。

 やがて観客が集まって満席になったところで開演のブザーが鳴り、ステージの緞帳が上がってゆく。

 

 

 

 

 

 題名は、『弱虫な王様』というもの。

 

 

 

 主人公は、とある国の優しい王様。王様は、かつて起きた隣国のと戦争を対話で終わらせた若者であり、誰にでも優しくて民に深く愛されていた。彼は昔から、虫すら殺せないような優しい心を持ち、それゆえに争うことも苦手としていた。

 そんな若い王様に、敵国だった姫君との偶然の出会いを通じて心を通わせ、お互いに恋心を抱く。元々二人が争うことを嫌い歩み寄る道を選んでいたので、すぐに意気投合したようだ。二人が初々しく手を繋ぎながら森の小道を歩いていく演技は、観ているこちらもドキドキしてしまうような感覚があった。

 

 しかし、そんな二人を切り裂くような悲劇が起きてしまう。王様に嫉妬を募らせていた国の将軍が、自身の忠臣たちと共に謀反を引き起こし、王様を幽閉してしまったのだ。軍人は戦争をして戦果を上げることを生き甲斐としていたので、対話の道を選んだ王様をよく思っていなかったのだ。

 敵国だった姫君の手引きにより幽閉場所から逃げ出せたものの、外では将軍の暴走によって、姫君の国が奇襲攻撃を受けていたという。将軍の目的は、隣国の大地であり自国の領土拡張であったのだ。

 

『あんな弱虫な王様では、いずれ隣国に食われてしまう。強き力を持つ者ではないと民を導くことはできない』

 

 その言葉通り、将軍は罪のない隣国の兵士たちをバッタバッタと倒していき、ついには安全な中立地帯へと逃げている途中であった姫君を殺害しようと剣先を伸ばした。

 

 しかし刺されたのは、幽閉場所から脱出し、姫君を庇った優しい王様だった。敵国の人間、それも姫君を庇った彼を理解できないと言ったように狼狽えていたが、姫君の護衛によって投降することになった。

 

 

 

『どうして……どうして私を庇ったの……?!』

『私は、彼の言う通り、弱虫の王様だ……こんな弱虫でも、大切な人を守りたいと言う気持ちは変わらない……君が血を流してしまうのなら、代わりに私が流そう……君に赤い血は似合わない……』

 

 

 

 刺されたことで衰弱し切った王様は、慣れない愛の言葉を紡ぎながら、姫君の膝の上でゆっくりと目を瞑り、動かなくなってしまった。

 愛する人が逝ってしまったことを徐々に理解してしまい、姫君は穏やかな月明かりの下、眠りについた王様の瞼に悲しみの雫を流す。

 

 

 

 

 

『■■■……せめて、君の心だけでも────』

『■■■!待って、■■■────ッッ!!!』

 

 

 

「……ぇ?」

 

 

 

 美しく儚い悲劇に目が離せなくなっている一瞬、ラブリーの脳内に身に覚えのない記憶が流れた。自分たちの世界を壊した相手は何故か正気を取り戻しており、自分に向けられているのは光を放つステフォンの画面で────

 

 

 

 

 

「すごかったね!さっきの舞台!!」

「あんなに悲しい物語だったのに、とても綺麗で儚くて面白かった!特に終盤のシーンだけど……」

「……」

 

 

 

 舞台発表が終わり、二人が先ほどの舞台の感想を共有し合う中、ラブリーは一人、別のことを考えていた。

 

 

 

「……?」

「ら、ラブリー、顔色悪いけど……大丈夫?」

 

 

 

 あの舞台を見てからというものの、ラブリーは終始何かを考え込むような顔で歩いていたため、ハッピーやハートは心配になって彼女に話しかける。しかし彼女は特に具合が悪いわけでもないので、心配させまいと訂正する。

 

 

 

「あ、うん……大丈夫。人酔いしちゃったのかな……?」

「そ、そっか……ちょっと歩きすぎちゃったもんね〜お客さんもいっぱいきてるし……」

「あっちの休憩スペースで座っていこうよ!」

 

 

 

 空き教室の休憩スペースを見つけ、3人は一度ここで休憩を取ることにしたようだ。

 

 ラブリーは、あの舞台を見ていた時に一瞬だけ頭の中に流れた『知らない記憶』のことをずっと考えていた。

 それは、自分が知っているステフォンの持ち主によって世界が『崩壊』した一部始終ではなく、もっとあとの時間軸。言ってしまえば、あの爆発の後のような光景だった。

 

 正気に戻った元々の持ち主によって、自分がステフォンの中に閉じ込められてしまったような、そんな不可思議な記憶。どう見てもあの彼女が原因なのに、どうして正気を取り戻していたのだろう。

 

 

 

(さっきのは、私が無くした記憶……?でも、どうして今……何かに重なってたのかな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?」

 

 

 

 校内会場を回っているフローラ・ミラクル・ホイップはというと、雑貨屋さんからの帰り道で、ある小さな女の子が泣きそうな顔で一人彷徨っているのを見かけた。

 

 小さな女の子は、誰かの手作りであろうキュアホイップのコスチュームを着ており、逸れて寂しい思いを抱えているのか、ホイップの姿をしたぬいぐるみをギュッと抱きしめている。

 

 

 

「あの子、ホイップのこと好きなのかな?」

「いやあ照れますなあ〜……でも、一人だけ?あんな小さな子供なら、親と一緒に来てそうだけど……」

「もしかして迷子かも」

 

 

 

 フローラがなんとなく小さな女の子が迷子なのかもと察する。もしかすると、逸れてお母さんを探しているのかもと思ったのか、3人は互いの顔を見つめてうんと頷き、その女の子の方へと向かう。

 

 

 

「ねえねえ!一人でどうしたの?」

「……!ママのこと、さがしてて……でも、どこにもいなくて……」

「やっぱり……ど、どうしよう……!」

「とりあえず、生徒会本部の方に連れて行って放送かけてもらった方がいいんじゃないかな……」

 

 

 

 あかりという名前の小さな女の子にも了承してもらい、3階から1階の生徒会本部のブースへ連れていくことにした。話しかけた以上、自分たちには彼女を連れていく責任がある。

 

 

 

「あかりちゃんは、プリキュアが好きなの?」

「うん!キュアホイップが好きなの」

「そっか〜」

「さっきね、あっちでプリキュアがいたから見に行ったの。そうしたら、ママがどこにもいなくって……」

「あぁ〜……」

 

 

 

 この学校祭では、仮装コンテストと言うイベントが行われるという。学校祭の時期がハロウィン前ということで企画されたというが、要するにコスプレショーだったりする。普通にハロウィンっぽい仮装をする人もいれば、アニメや漫画キャラになりきる人、いわゆる“地味ハロウィン”っぽい感じの面白枠な仮装をする人などをちょくちょく見かけていた。おそらくあかりが見たというプリキュアも、コスプレイヤーだったのだろう。

 

 見失った挙句親と逸れてしまうなんて彼女も不憫で仕方がない。向こうにとってはそんなこと知る由もないだろうが。

 

 

 

「了解しました。ご連絡ありがとうございます」

「放送かけてくるから一旦席外すわ!」

 

 

 

 なんとか本部のブースに辿り着き、そこで対応をしていた副会長にあかりを預け、3人は彼女たちと別れる。対応が早くてとても助かった。

 

 

 

「生徒会の人たちもいい人たちでよかったね!」

「うん。あー……」

 

 

 

 ホイップは、終始表情が浮かなかったあかりを思い出して曖昧な返事を返す。

 目を輝かせて好きなものについて話す姿が、自分たちと重なるところもあって何かしてあげたいと思ったのだろう。年齢的にも、多分あのあかりという少女は、プリキュアが本当に存在していると思っていそうだった節があるのだ。自分のことが好きだと言ってくれたのもあるのだろうが、それを抜きにしても、なんとかしたいと思ってしまう。

 

 

 

「……あかりちゃんのこと気になるの?」

「え、えっと……結局、あんまり笑ってなかったからかな……」

 

 

 

 ホイップは考える。どうすれば彼女を笑顔にすることができるのかを。数秒考えたのち、ピコンととある案が思い浮かんでくる。

 

 

 

『さっきね、あっちでプリキュアがいたから見に行ったの。そうしたら、ママがどこにもいなくって……』

 

 

 

 

 

「そうだ!キラッとひらめいた!」

「?」

「二人とも!無茶かもしれないけど相談に乗ってもらっていいかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<ネオフュージョンの世界 漆黒の城・闇の使者達の大広間>

 

 

 

 

 

「今頃みんなどうしてるかな〜」

 

 

 

 一方、お留守番中の闇の使者はというと……。

 

 いまだに痛みと傷が残ったままで包帯だらけのドリームは、ソファの上で横になり、ゆっくりとした時間を過ごしていた。前よりも痛みは引いているものの、痛いことには変わりがない。

 他の闇の使者達が巡の世界に遊びに行っているため、特にすることもないドリームは寝てるか何か食べるかブラックの様子を見にいくことくらいしかやることがない。

 

 ふと、ブラックの様子を見に行っていたブルームが戻ってきたので、ドリームが起き上がって話しかける。

 

 

 

「ブラック起きてた?」

「ううん、時々うなされてたくらいで何も……」

「そっか……」

 

 

 

 ネオフュージョンに無理やり力を与えられてしまった反動か、ここ1週間ほどブラックがずっと眠ったままである。死んでいると言うわけではなく、呼吸はしているし魂が潰えてしまったわけでもない。本当に、まるで死んでしまったかのように眠り続けているのである。

 単純にやつの闇の力が強すぎて抗っているのか、それとも今まで無理していた分が祟ってしまい回復が遅れているのか、はたまたそのどちらもか。

 

 

 

「……よかったの?お留守番しちゃって。あたしも流石に動けるよ?全然遊びに行ってもいいのに……」

「うん」

「……咲ちゃん、もしかしてなぎささんみたいに無理してたりしない?」

「だ、大丈夫だよ。別にあの人ほど抱えてないし、何かあったらみんなにも言ってるから……」

「……」

「……」

 

 

 

 

「……あの、もしかしてあたしがあいつの力に飲まれてる時の見てたりしない?」

「流石にそこまで見えなかったから大丈夫だよ」

 

 

 

 心配するドリームをよそに、ブルームは笑顔を繕って大丈夫だと伝える。ブラックが眠った時から、自分がネオフュージョンの力を使ってしまってからというもの、目の前の少女はかなり無理しているような気がする。

 しかし、自分たちがいざ彼女に話しかけようとすると、彼女は大丈夫そうに装っていつも通りの様子を見せる。

 

 ブラックも色々抱え込んでる時も似たような装い方をしていたが、あっちはまだ嘘をつくのが苦手なのか、顔と声色に出やすいのかわかりやすい。ネオフュージョンの悪事を周りに言っていないのに闇の使者全員がある程度察せられているのはそのためである。

 逆にブルームの場合は、元の性格がムードメーカー寄りだったり周りのことをよく考えているためか、自分よりも時折周りを優先させてしまう節がある。それはドリーム自身にも当てはまる話でもあるのだが、自分とあちらではベクトルが違う。

 

 これは完全にドリームによるなんとなくの想像なのだが、あの少女は闇の使者として行動するようになってから、『自分が望んでいるもの』を。気付かぬうちに募らせてしまった『何か』によって見失っているような気がするのだ。

 彼女ももちろん、自分の相方や友達を取り戻したいとは思っている。しかし、その内面を自分たちの前で晒したことはない。ブラックなら一時口論になったとは言っていたので何か知れそうだが、そのブラックは眠っているので聞ける機会がない。

 

 

 

「……」

「ドリーム?」

「なんでもないよ〜」

 

 

 

 そんな心配を知ってか知らずか、ブルームの浮かべた笑顔はどこか硬かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<巡の世界 心野宮・私立光星中学校 校舎裏>

 

 

 

 

 

「いやあ、さっきのホラーハウス面白かったね!」

「トテモコワカッタデス……」

「つぼみちゃんェ……」

 

 

 

 会場の賑わいから少し離れて校舎裏。ピーチ・ブロッサム・メロディの3人は、巡がいるであろうクラスの企画であるホラーハウスから生還してきた。

 中学生が作ったとは思えないような高クオリティの脅かし要素にブロッサムがずっと絶叫していたために1日中巡るほどの体力を使い切り、一旦休憩をしていたようだ。

 

 そんな3人の元に、一人の少女が近づいていることには気付かずにいる。

 

 

 

「どう?結構大規模でびっくりしたでしょ?」

「はい!自分たちが通ってたところとはまた雰囲気があって楽しいですよね〜……って」

「ふぁっ!?」

「えぇぇ!?」

 

 

 

 3人が校舎裏の方で休憩していたところ、誰かに話しかけられて思わずその質問に答えてしまう。声が聞こえた人物の方を向くと、そこにいたのは運営仕事の当番を終えて休憩に入っていた巡の姿だった。

 

 

 

「こ、コンプリート!?」

「やっぱり闇の使者だ。せめてここでは繋か巡って呼んでよ……」

『ほ、本当に闇の使者が来るなんて……!!』

「ち、違うよ!?今は休憩中で遊んでるだけだから!ステフォンは狙わないよ!!」

「というか呼んだの巡の方じゃない!!」

「提案したのはあたしだけど、まさか君たちの方が来るとは思わなかったんだよ」

 

 

 

 巡は3人に同時に突っ込まれながらも、闇の使者が巡の世界に、しかも大勢連れて遊びに来るとは思っていなかったのか、普段の様子すぎて分かりずらいが少しからず驚いていた。正直来るのは実際に話をした方だと思っていた。

 

 

 

「けど助かった。ちょうど話ってか聞きたいことがいろいろあったから……」

「き、聞きたい事……?」

「あたしたちブラックたちほど知ってることが少ないけど大丈夫なの?」

「うん。大丈夫」

 

 

 

 ひとまず校舎裏で話すのも忍びないと思ったので、裏玄関から校内に入り、今は誰も使っていない生徒会室の方へと移動する。基本的に後片付けまでは3階の生徒会室のあるエリアは、学校関係者以外立ち入り不可能になるため、周りに言えない内緒話をするのにはうってつけだ。典型的な権限の濫用である。

 ピーチたちも相当学校祭を楽しんでたようで、手には露店で買った食べ物やイベントの景品が握られている。お昼ご飯にはちょうどいいため、巡も持ってきたお弁当を食べながら話を聞くことにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、話って何?」

「うん。君たちの間で、何かヤバそうなことでもあったのかなって」

「ヤバそうなこと、ですか?」

 

 

 

 ヤバそうなこと────この前のダークネスドリームの様子に関連したあの出来事である。勝手に力を与えられたと言っていたあのブルームの話から、ネオフュージョンが思いっきり関わっていると思われるのだが……。

 先日起きたことを簡潔に話すと、心当たりがあると言いそうな顔で3人が反応する。

 

 

 

「そういえば、ドリームも同じことを言ってました……」

「帰ってきた時にはボロボロだったし、本人もあんまり覚えていないって言ってて……」

『お、覚えていない?!あんなに暴れてたのに……』

「もしかすると、力に振り回されて……とりあえずあの子は一応元気になったんだね」

「うん!ただ、傷が残ってたりずっと痛がってたりするけど……それで流石にまともに動ける人がみんないなくなったら大変だろうって、ブルームが今お留守番してるの」

 

 

 

 巡の世界で学校祭やってるのはその時聞いたとメロディが付け足す。ひとまずドリームが目を覚ましたことには安堵したが、後遺症がひどいらしい。そこまで聞いてふと、ステフォンの中のミラクルが何かに気づく。

 

 

 

『動ける人がいないって……ブラックは?こっちに来てるの?』

「あー……それが……」

「巡さんは、ブルームからどこまで話を聞いてるんですか?」

「え?あの子とドリームと一緒に力を与えられたって言ってたけど……」

「あぁぁ……実は今、ブラックがずっと目覚めてないの」

『わ、私が!?』

 

 

 

 そう。会話の流れ的にはブラックも動けているような気がしたのだ。

 しかし彼女たち曰く、ブラックはネオフュージョンに力を与えられた後からずっと眠っているというのだ。その話を聞いて、巡は表情を顰める。

 

 

 

「実害出てるあたりやっぱネオフュージョンが悪なのでは?」

「そうだよねやっぱり」

「ブラックが目覚めたら、ちゃんと話すべきでしょうね……」

「でも、なんて離せばいいんだろう?あの人が渋る未来しか見えないんだけど……」

『ま、まああいつが一番それを望んでるなら渋りそうな気がするけど……』

「君やっぱあのブラックとしての自覚が……」

『うるっさいわねえ私だって一番罪悪感と責任感感じてんのよ。だったら、あいつの方が一番……』

 

 

 

 

 

『生徒会より、学校祭を楽しまれている皆さんへ迷子のお知らせをいたします。プリキュアのぬいぐるみを抱えた5歳くらいの女の子が、1階玄関前ホールの生徒会本部でお連れ様をお待ちでございます。お心当たりのお客様は、1階玄関前ホールの生徒会本部までお越しくださいませ。繰り返します────』

 

 

 

 4人とプロトキュア達の会話をぶった斬るように流れた放送は、迷子を知らせるアナウンスだった。

 

 

 

「……プリキュアのぬいぐるみ……そういうのがあるんだ……」

『ここ一応あたしたちがキャラクターになってる世界だからね!?』

「人気者なんだねえ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございます……!」

「あかりちゃん。お母さん、見つかってよかったね」

「うん……」

「すみませーん!」

 

 

 

 迷子のあかりの母親が現れてほっと一息ついた副会長の元に、3人の少女たちが慌てて駆けつけてくる。もちろん彼女たちも学校祭に訪れていた側の人間である。

 しかし、あかりにはその姿には見覚えしかなかったようで、暗い様子から一転、ぱあっと表情を明るくさせた。

 

 

 

「体育館ってあっちの方でしたっけ!?」

「え!?あ、そうですけど……」

「わぁ〜!プリキュアだ〜!!」

 

 

 

 まるでこのやりとりを見ていて助け舟がやってきたような奇跡的なタイミングで参加者が飛び込んできて、副会長は混乱する。逆にあかりは、大好きなキャラクターの姿をした少女が目の前に現れて、ぬいぐるみと一緒に喜んでいる。

 

 

 

(よ、よかった〜!この子が笑顔になったよ〜!)

(なんだか久しぶりの姿だからか、こっちの方がしっくりくるな〜……)

(そして意外と違和感がない!!)

 

 

 

 突如として副会長のピンチに現れたこの少女たちの正体は、先ほどここを通りかかった闇の使者のフローラ・ミラクル・ホイップの3人だ。プリキュアが大好きだと言ってくれたあかりをあのまま放っておくことができず、ミラクルの魔法によって元々の姿に変身したのだ。

 この世界だとプリキュアが『アニメのキャラクター』になるらしいので、コスプレしているくらいの認識のはずだ。

 もちろん、他の闇の使者にバレたら怒られる。だがしかし、これは自分たちの存在を信じていた子供の夢を壊さないための、今できる最大限の配慮なので許してほしい。

 

 

 

「よかったら、一緒に写真撮りませんか?」

「い、いいんですか……?!すみません娘のために……」

「全然いいですよ!あかりちゃんだったっけ?隣いいかな?」

「あかりの名前知ってるの?」

「え゛っ、と……さっきあかりちゃんのことをお兄さんのところに連れて行った人と友達なんだ〜」

「そうなんだ〜!」

 

 

 

 特にあかりが大好きだと言っていたホイップが中心になって話しかけるが、一瞬ボロを出してヒヤッとしたものの、すぐに取り繕ってなんとかバレずに済む。自分やフローラはともかく、ミラクルの場合は身長も気持ち伸びているところがあるので、さっきまで一緒にいた人と思われてしまう。

 近くで対応していた副会長の人に写真を撮ってもらい、あかりを中心に思い思いのポーズをとる。

 

 

 

「ありがとう!プリキュアのお姉ちゃん達〜!」

「ううん!大丈夫だよ!君が笑顔になってよかった!」

 

 

 

 ようやく笑顔を取り戻して、別れ際に手を振るあかりに、3人は手を振りかえす。ひとまずホイップの心配事も無事解決したようなので急いで更衣室の方へ向かう。今の時間帯なら誰もいないのでそこでさっきまでの姿に戻ろうとするのであった。

 

 

 

「なんかいいことしたかも?」

「これは3人だけの秘密ね!」

 

 

 

 そんな会話は聞こえるはずもなく、目の前でヒーローのような人たちの神対応を目撃した副会長は、あんぐりと口を開けながら走り去る後ろ姿を見送っていた。

 

 

 

 

 

「あ、あの人たち多分さっきこの子を連れてきた人たち……?でも友達って言ってて……もしかして、さっき一緒にいて何かしてあげたかったからわざわざ……?」

 

 

 

 副会長達もさっきの女の子を笑顔にしたくて色々したのだが全く効果がなかったようで困り果ててしまっていたところであの母親が迎えにきたのだ。本当ならお礼を言いたかったのだが、そんな暇なく彼女達はいなくなってしまった。

 

 

 

「な、何が何だかよくわからないけど、ありがとう、名前も知らないコスプレイヤーさん(ヒーロー)達……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ、4等だ」

「わぁ〜!すごいねめぐみちゃん!」

 

 

 

 学校祭を隅々まで楽しみ、スタンプラリーを集め切ったハッピー達は、生徒会ブースの方で行われていた福引きに参加していた。先に引いたハッピーとハートは残念ながらハズレ枠である6等を引いたので、お菓子の詰め合わせをもらっている。

 次に引いたラブリーは見事4等というなかなかいいところを引いて、ボールペン・メモ帳・消しゴムというちょっとしたステーショナリーセットをもらっている。グッズには全てこの学校の校章のようなマークがデザインされているが、普段使いしても違和感はないようにデザインされている。

 

 

 

「校章……?」

「はい!この学校の初代校長が、『ここで学友達と共に明るい未来へ』行けるようにっていう意味が込められて作ったんですって」

「へえ……」

 

 

 

 表情ではわかりづらいが、ラブリー的にはこの景品が気に入ったようだ。

 ひとまず最初の集合場所である校門前まで戻ると、すでに戻っていたフローラ達と合流する。

 

 

 

「あ!3人とも〜!どうだった?」

「はい!楽しかったですよ!」

「結局コンプリートには会えなかったけど……」

「ピーチ達が話しかけたのかな?」

 

 

 

 普通に楽しんでいたのもあってシンプルに巡に会うのを忘れていたようだが、息抜きにはなったようだ。あとは残りの3人が帰ってくるのを待つだけ。空はいつの間に、夕焼けのオレンジに染まっていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「忘れ物ない?」

「んー、ない!」

『とりあえず、あなた達もブラックが起きたら切り出してね!』

「なるべく頑張ります。先に他の皆さんには共有しますけど……」

「学校祭、楽しかったよ。教えてもらったブルームにも言っておくね」

 

 

 

 ある程度話をしたあと一緒に学校祭を回ったり、途中巡が自分のクラスのホラーハウスを手伝っていたりと寄り道はしていたが、閉会式が終わって彼女達もそろそろ帰ろうとしていた。

 とりあえず、闇の使者の方のブラックが目覚めた時にネオフュージョンとの関係をどうするか話し合うという結論に落ち着き、ひとまず彼女達の間では休戦を継続しようという話になったようだ。

 

 

 

「……ふう。こんな感じでいいのだろうか……」

『これで一応、闇の使者が襲いかかってくることは無くなったのかな……?』

『ブラック次第だよね……話したのがピーチ達だけだったし、他のみんながどういう反応をするか…… 』

「よお」

「めぐるんおつ〜」

「あっ……おつおつ〜」

 

 

 

 闇の使者3人を見送ってプロトキュア達と会話していたところ、自分のクラスのあらかたの片付けが終わったらしい千夏と廻が駆けつけてきたため急遽ステフォンをスカートのポケットに隠し、2人との会話に参加する。

 

 

 

「さっきの友達?」

「う、うん。他校のだけど」

「へえ。……そうだ、めぐるん明日の打ち上げだけど行く?」

「明日って月曜であれか、振替休日か。行く行く。場所どこになるの?リーダーに任せてるけども」

「駅前の焼肉屋じゃないか?先生も時間によっては参加できるらしいと聞いたぞ」

「そうなんだ!きてくれるかな。そういえば二人はどうしてここに?」

「いや……繋と一番仲良いのお前らだろって言われて呼びにきただけだぞ」

「最後に集合写真撮りたいから会長探してこいだってさ」

「なるほどね……オッケー色々終わったからすぐ行くよ」

 

 

 

 そんな他愛もない会話をしながら、巡はクラスメイトが待つ教室へ向かうため、千夏と廻と一緒に戻っていく。

 

 いろんなことがあったが、なんだかんだ彼女達の楽しめていたようで嬉しかったと思うと同時に、ひとまず2学期の最大イベントを滞りなく運営することができたことへの達成感を感じるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<ネオフュージョンの世界 漆黒の城・ダークネスブラックの部屋>

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 赤い月の光が窓から差し込む中。あの人はまだ眠っている。時折少し苦しげな魘され方をしているが、それでも目覚めてくれない。

 あの時の、空間を劈くあの人の絶叫が耳から離れてくれない。あの人にトラウマのようなものを見せられたのは、悪事に加担していることを知って以来である。

 

 

 

「……どうして……」

 

 

 

 あの時、もしブラックとドリームの手を引いてあいつの空間から逃げ出していれば、こんなことにならなかったのだろうか。ブラックも眠ったままではないだろうし、ドリームだってあそこまで大怪我しなかったはずだ。

 

 

 

『────随分と悩んでいるようだな……』

「ぁ……っ」

『何もそこまで驚かなくてもよかろう』

 

 

 

 突如自身の影の中から黒いものが這いずり出て、聞き覚えのあるネオフュージョンの声を出しながらそれは、ブラックの部屋を後にしようとしたブルームの前に現れる。コンプリートの話通りであれば、ドリームを惑わせたネオフュージョンの分身のようだ。

 今まで考え込んでいた暗いものを心の奥底に押し込み、分身をきっと睨む。

 

 

 

「ね、ネオフュージョン……!のぞみちゃんに一体何を吹き込んだの……?」

『ひどい言いようだな……力は使わなければ意味がないということを説いただけだというのに……』

「説いただけで記憶が飛ぶなんてありえないでしょ!……って、話聞かれてたの!?」

 

 

 

 警戒する彼女の問いかけには答えず、地鳴りのような不気味な笑い声をこぼしながら彼女に巻き付くように飛び回る。それはまるで、品定めでもしているかのようで居心地が悪い。

 

 

 

『貴様とて彼奴のように、仲間とやらを思って、キュアコンプリートと戦ったのだろう?』

「……っ、そうだよ。だから何」

『その力を使えば、簡単に奴の息の根を止めることができるのに、なぜ使おうとしない?』

「あんたの力なんて使えるわけない!……あんな姿見せられたら、もう……」

 

 

 

 ドリームには嘘をついた。

 

 いくら水晶のドームで入れなかったとしても、中の状況を全く確認できなかったわけではない。チラッと見えてしまった奴の力に振り回され苦しみながら戦う姿は、とても長い間見ていられるものではなかった。コンプリートの浄化が間に合っていなければ、きっとあのまま彼女は……。

 

 

 

『……責任を、感じているのか?奴を止められなかったことに対して』

「……っ」

『奴は、使わざるを得なかったのだ……起きたことは仕方がない、そうだろう……?』

 

 

 

 そう言って、分身は押し黙ってしまったブルームに触れようとゆっくりと近づいてくる。しかし、そんな静寂を一人の少女が打ち破った。

 

 

 

「こいつのいうこと聞いちゃダメェェェ!!」

『!?』

「っ!!」

 

 

 

 一部話を聞いていたであろうドリームが背後から飛び出し、ブルームに触れようとした分身に掴みかかったのだ。分身はなんとか抜け出そうとするが、ドリームは絶対に離すもんかと取っ組み合いになる。もう少しで分身の声にペースがのまれそうだったブルームは、彼女の叫び声で意識が一気に前を向いた。

 

 

 

「……っ!?どりー、む」

「咲ちゃん逃げて!今こいつのいうこと聞いてたら飲まれちゃうよ!!」

「で、でも……!」

「いたた……っ、あたしは大丈夫!みんなにはちゃんと言っておくから!!」

「……っ、────っ」

 

 

 

 まだ本調子でないかつヒビのような傷を痛がっているはずなのに、自身のピンチに駆けつけてドリームは自分に逃げろと笑顔で言い放っている。まだ帰ってきていない他の仲間達や眠っているブラックのこともあるというのに、彼女を一人にして逃げられない。逃げてはいけない。

 しかし、本来の名前で呼ばれたことや身の危険が迫っていたこと、ずっと表に出さないようにしていた恐怖心と罪悪感で脳内が埋まったせいで思考停止に拍車がかかり、ブルームは何も言えずに踵を返し、他の世界へ飛ぶための扉へと無心で走り出した。

 

 

 

『……!?』

「行かせない……っ、うわぁっ!」

 

 

 

 分身が逃げないように捕まえていたドリームだったが、十数秒後に抜け出されてしまう。分身は標的を失って仕方なく床に染み込むようにどこかへ逃げていった。一応、彼女を追いかけたりしないだろうかと心配になるが、今は無事を祈るしかない。

 

 

 

 

 

「ただいま〜ってドリーム!?何で倒れてるの!?」

「うぅ、みんな!おかえり〜!」

「おかえり〜じゃなくて!!」

「一体何がどうしちゃったの!?」

「実は、咲ちゃんがネオフュージョンの分身に襲われそうになって」

「え!?」

「今ちょっと別の世界に逃げてもらってるから、しばらくそっとしておいてね……」

 

 

 

 数分後、入れ替わるように学校祭から帰ってきたピーチたちによって廊下に倒れ込んでいるドリームを発見される。昨日よりも痛みは鈍くなっているが、相変わらず傷口が痛む。一体何があったのか、すぐに駆け寄って彼女を大広間の方へと運ぶ。

 

 果たしてダークネスブルームはどこへ逃げ込んだのか、ネオフュージョンの意図とは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『実害出てるあたりやっぱネオフュージョンが悪なのでは?』

 

 

 

 巡の言うとおり、早急に奴との関係を絶った方がいいのでは?ピーチの頭の片隅には、そんな言葉が一瞬でも過ぎってしまうのであった。

 

 

 

 

 

続く…

 




次回投稿日:7月20日(土)

次回はシリアス確定かもしれない
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