PrecureStageON!   作:主氏レム

36 / 54
第33話:おっどろきの再会!天空に満ちる闇の力

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 青い空と白い雲がどこまでも広がる空の下にある、自然豊かな街・海原市。

 その街のシンボルとも言える巨大な樹の元に、一人の少女が訪れていた。

 

 

 

「用事が済んだらすぐに来るって言ってたけど……」

 

 

 

 少女は親友か誰かを待っているようだが、先にこの場所へ辿り着いてしまったようだ。ここはいつ来ても心が安らぐ場所であると思いながら、暇つぶしでスケッチでもしようと腰掛ける場所を探す。

 

 その時、がさりと近くで誰かが動く物音を耳にする。

 

 

 

「……?」

 

 

 

 森に住んでいる小動物かなとも考えたが、ほんのわずかに人間のもののような呼吸音も聞こえてくる。切羽詰まって息切れしているような感じである。

 こういうのはあまり詮索しない方がいいとは耳にするが、どうも呼吸音的に無視できそうもない雰囲気があった。だから少女は勇気を出して、様子を見ようとしたのだろう。

 

 

 

「あのー……大丈夫です、か?」

「……!!」

「……え」

 

 

 

 声をかけながらその姿を目視する。

 物音の正体は、黒いコスチュームとローブに、虚ろに揺れる紅い瞳を持つ“闇の使者”。その姿を、少女は知っている。数ヶ月前に突如この街に現れた不思議な少女であり、自身の親友によく似た人物である。

 しかし、前回のような余裕そうでどこか刺々しい雰囲気のあった笑顔はどこにもなく、声をかけられた少女に対してひどく怯えているような様子を見せていた。

 

 

 

 

 

「あ、なた、は……」

「ま、い……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第33話:おっどろきの再会!天空に満ちる闇の力

 

 

 

 

 

「へくしっ」

『今のくしゃみ?』

 

 

 

 学校祭という2学期の一大イベントが終わった11月のある日のこと。昼休み中の繋巡は、屋上にてステフォンの中のプロトキュアたちととある話をしていた。

 大きなイベントが終わってひとまず生徒会の仕事が落ち着いている時期だというのに、巡は先ほど吹き込んできた風が冷たかったのか、思わず小さなくしゃみを飛ばす。

 

 

 

『巡、大丈夫?このところ随分と疲れてそうだけど……』

「一応元気だけど……なーんかここ数日喉痛い感じがして……」

『もしかして、風邪ひいた?』

「うーんありそう。帰ったらお薬飲んどこう」

 

 

 

 学校祭が終わったあたりから急激に気温が下がり、上着を一枚羽織っていないと外に出るのが億劫と感じてしまう程、心野宮は秋の寒さで冷え込んでいるらしい。学校の正装としてのジャケットにもある程度の防寒性能があるが、流石にコートを持って屋上に出ればよかったかなと若干の後悔をする。

 

 

 

「明日は午後から芸術鑑賞なんだって」

『そういえばあるよね、毎年この時期にどこの学校も』

『めぐるん挨拶とか考えてるんだよね?大丈夫そう?』

「一応できてるよ」

 

 

 

 他愛のない話をしながら、巡はステフォンの画面をしばらく見つめ、『WorldTrip』の画面を開く。特に赤枠のマークはなく、12個のマークがキラキラと煌めいているだけだ。

 

 

 

「……まじでぱったりと止んだね、闇の使者」

『話せば分かってくれたのかな?』

『もしくはブラック待ちかだよね』

 

 

 

 あの日、学校祭の日に闇の使者との対話の中で飛び出した『ネオフュージョンが悪』という説。もちろん、彼以外にもあの世界を崩壊させたという『キュアクルセイダー』も存在するのだが、先日のドリームやあちらのブラックが意識を失っているという話を聞く限り、彼女達と手を組んでいるネオフュージョンと離れた方がいいのではと考えたのだ。

 もちろん、彼女達にも簡単に離れられない理由はありそうでブラックが目覚めたら話し合ってみると保留にはされたのだが、実際学校祭が終わってから3週間ほど経って今のところ闇の使者が出現したという通知は来ていない。

 

 

 

「何はともあれ、平和なのはいいことだよ。問題は、ステフォンを使ってどうやってあの世界を復活させるかだけど……そもそも、まだあの世界にホワイトが来ていないらしいから、ホワイトの捜索が最優先なんだけどね」

『闇の使者達も協力してくれたら嬉しいよね!』

『しかし……あの世界へこちらから向かう方法も今のところありませんし……』

 

 

 

 闇の使者の問題が一応の解決のめど(?)がたったとはいえ、まだまだやることが多いのが現状の話。ひとまず考えもなしに探し回るのは意味がないし、そもそも自分たちがこちらから動くのも悪手だったりする。

 どうすればいいかと考えている中、昼休み終了の予鈴が耳を通り抜ける。

 

 

 

「……次の授業は教室だったよな……そろそろ戻るか」

 

 

 

 

 

 ステフォンをスカートのポケットに隠し、巡は教室に戻ろうと屋上を後にした。

 階段を降りていくと、同じくちょうど教室に戻るところであろう帯刀廻の姿を見つける。

 

 

 

「あ、帯刀君だ」

「……!な、なんだ繋か」

 

 

 

 サッカー部の副部長に選ばれたらしい廻は、今日の部活の練習メニューを考えるためにマネージャーのところに行っていたのだろう。巡はついでだし話しかけようと段差を一段降りようとした。

 

 

 

「────っ、つ、繋!!」

「……あれ?」

 

 

 

 数秒後、廻の焦る声と共に巡は、彼によって胸の中に飛び込んでいるような形で支えられていた。巡にが何が起きたのか一体何が何だかというような雰囲気で頭の中で疑問符を浮かべているが、まさか巡の体にこんな予想外の形で触れることになるとはと思わず、熱くなる顔をなるべく見られないように逸らしている。

 

 

 

 どうやら巡は、本人も知らずのうちに階段を一歩踏み外して前の方に転びそうになったようだ。大惨事になる前に一気に階段を駆け上がって受け止めたようだが、側から見ればただ二人が抱き合っているようにしか見えない。

 

 

 

「だ、大丈夫?」

「お前が大丈夫なのかよ……ったく、前見ろよな」

「あはは、ごめんごめん……」

 

 

 

 頼む頑張って離れろと言われて巡もすぐに彼の支えによって立ち直り、一緒にゆっくりと階段を降りる。

 自分の危機だったというのに、彼に受け止められた時に、どうして心臓の鼓動が急激に早まったのだろうと一瞬だけ呑気に首を傾げるのだった。

 

 

 

 

 

『巡ちゃーん!さっきの衝撃はなんだったの!?

『ステフォンも揺れたからびっくりしちゃったんだけど!!』

「あー違うの。階段一個踏み外して」

『踏み外したぁ!?』

 

 

 

 放課後、再び屋上へ足を向けた巡にプロトハッピーが話しかけてくる。昼休みに巡が階段を踏み外して廻に受け止められた衝撃が、ステフォンの中でも伝わったのだろう。事のあらましを伝えれば、中のプリキュア達がそれはそれは驚きの声を上げる。

 

 

 

『あんたならいつかやりそうとは思ってたけど、まさか本当に踏み外すとは……』

「結構失礼では???」

『怪我しなかったの!?』

「通りがかった帯刀君に受け止めてもらわなかったらちょっと危なかった」

『た、帯刀君に!?』

 

 

 

 しかも、巡への好意が周りやプロトキュア達にはバレバレの帯刀廻に受け止められたとも言っていたので二重の意味で驚きを隠せなかった。

 

 

 

「いやあ、こんなこともあるんだね」

『なんであんたはそんなに呑気に構えられるの!?』

『自分の危機だよ!!』

「うう……まさかそこまで言われるとは……」

 

 

 

 あまりにも能天気すぎる反応だったために流石のプリキュア達も心配で声を荒げている。

 

 いくら危機感がない巡でも流石に気をつけなければと反省する一方で、ふと『WorldTrip』のアイコンが何かを知らせていることに気づく。

 

 

 

 

 

「……え?」

『嘘!?』

 

 

 

 

 

 『WorldTrip』の画面を開くと、昼休みの時点では正常だったはずの画面上のマークのうち、『ふたりはプリキュアSplash☆Star』の世界を表すマークが赤く点滅していたのだ。

 

 

 

 

 

「あれ?マジで?」

『まさかダメだったパターン!?き、昨日確かにきてなかったけども!!』

『いや……むしろネオフュージョンじゃ……!』

『ど、どうしよう巡ちゃん!!』

「どうするもこうするも……行くしかないでしょ」

 

 

 

 

 

 巡は何の迷いもなくワープホールを展開して、その奥へと広がる世界へと飛び込んでいく。

 

 星の様な煌めきが、虹の様なゆらめきが、屋上からの空との距離をどんどん遠ざけていく。出口は、すぐ近くに現れそうだ。この先、どんな世界が広がっているだろうか。

 

 視界が、白い光で塗りつぶされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<ふたりはプリキュアSplash☆Starの世界>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おかしいなあ、気配を感じるのに嫌なものが一切しない……っ』

「これっていわゆる潜伏ってやつ?」

 

 

 

 前とは違って市街地の方に降り立った巡は、早速どこに闇の使者が出現したのかを探そうとする。ステフォンの中のラブリーもおかしな気配を感じているものの、特別緊急的な異変は起きていないために若干混乱していた。

 

 

 

『それとも、まだ本格的に動いてはいないのかな……?』

「……一旦、大空の樹の方に向かってみる?何となくだけど、何かが起きるとしたらあそこっぽい気がする」

 

 

 

 ”この世界“なら尚更ありそうだよねという巡のメタ的な読み方ではあるものの、おそらく出現したであろう闇の使者はあの場所に対しての思い入れが強い方だ。なので巡は、木が生い茂る中で一際大きな樹が立つ森へ向かって走っていく。

 

 少し走っていき、町のパン屋近くを通り過ぎようとしたところだろう。店の中から出てきたとある人物とぶつかりそうになり、急ブレーキをかける。

 

 

 

 

 

「ぅおっとっとっと」

「おわっ!?……あれ!?巡じゃん!!」

 

 

 

 こちらの世界でも転びそうになって体勢を整えつつ、何かデジャヴのような感覚を覚えつつ、巡の名前を知っていたのか、ぶつかりそうになった少女はびっくりしている。巡もまた、自分の名前を呼ばれたことに驚きつつもその人物の顔を見てはっきりと思い出す。

 

 

 

「……え?咲ちゃん?お、覚えてるの?」

「覚えてるも何も、この前闇の使者がどうとかできてたんじゃ……?」

『あれ?もしかして、前来た世界と同じところだったりする???』

 

 

 

 巡が出会ったのは、なんと日向咲だった。しかも、咲の発言やプロトミラクルの推測で、この世界が前回来た場所と同じ世界だと巡は確信した。前回が別々の世界だったために、てっきりこの場所も前とは別と思っていたので普通に驚いている。まさにおっどろきの再会である。

 

 

 

「わあ〜!久しぶりだね!元気だった?」

「元気だよ。今日ちょっと階段から落ちそうになったけど」

「え゛!?それは元気なの!?」

「まあ一応生きてるから平気平気」

「咲、その人は誰?」

 

 

 

 と、二人のやりとりを不思議そうな顔で、前回は見ていなかった2人の少女が問いかける。巡も不思議な雰囲気を感じとるが、悪い人たちという雰囲気は全く感じていなかった。

 

 

 

「前に言った巡って子だよ!」

「その人が、咲達が言ってた巡なのね……」

「巡にも紹介するね!友達の満と薫だよ!」

「満ちゃんと薫ちゃんね、初めまして」

 

 

 

 咲の友達らしい霧生満と霧生薫に簡単に自己紹介したところで、そういえばもう一人、美翔舞の姿が見えないことに気づく。

 

 

 

「あれ?舞ちゃんは?」

「そうだ!舞と遊ぶ約束してて、先に大空の樹の方に行ってるんだった!」

「なるほどあの樹のところに向かってたのね。ついていっていい?」

「構わないけど、あなたも何か用があるの?」

「うん。説明は後でする」

 

 

 

 そう言って、4人は大空の樹の方へと向かって走っていくのであった。

 

 

 

 

 

「舞ー!遅れてごめーん!」

「咲!?満さんと薫さんと……め、巡さん……!?」

「久しぶりだね舞ちゃん、闇の使者が現れたっぽくってまた来ちゃったんだけど……」

 

 

 

 木漏れ日が差し込む中、大空の大樹がある場所まで登ってきた4人は、先に来ていた舞の姿を見かけて駆け寄る。しかし舞は少し焦った様子で珍しく目線をうろうろさせている。咲同様に巡のことを覚えていたようで、やはりこの世界は前回訪れた場所と同じところだと確信する。

 

 

 

「……舞?どうかしたの?」

「え、あ、あの……」

「……?別の気配を感じる……」

 

 

 

 満と薫が舞の様子の違和感に気づき話しかけるものの、舞は少しだけどう説明すべきか困っている様子で言葉を濁す。舞の後ろで何かの黒い人影が動いたような気がして、巡と咲はチラリと体を傾けて、彼女の後ろにいる誰かを認識する。

 

 

 

 

 

「ふ、二人とも!?」

「……えぇぇ?」

「あぁぁぁ!!アンタは!!」

「ぎくっ……」

 

 

 

 その姿を見て、全く驚いているようには見えないがある程度は困惑している巡と、大声を挙げてわかりやすく驚愕と警戒している咲と、予想通りの反応を示した。

 

 

 

「……咲と舞から話は聞いていたけど……本当に咲とそっくりなのね」

「けど、雰囲気は聞いていた話と違う……嫌な感じはしない」

「満と、薫までいるの……?」

 

 

 

 二人の反応が気になって、満と薫もその人物の姿を興味津々に確認する。

 

 

 

 舞の後ろの方の茂みに隠れていた(?)のは、咲と瓜二つの顔を持つ闇の使者であるダークネスブルームだった。しかし、この前見たような真剣そうな雰囲気でも、衝突した時のどこか余裕そうな雰囲気が全くない。なぜか、ローブで右腕を隠している。

 巡達に見つかっても向こうが戦うそぶりを見せなかったり、満と薫が特に警戒しなかったこともあり、巡の持つステフォンを狙ってきたわけでもなさそうだった。

 

 

 

『何でアンタがここに!?あっちのピーチ達から何か提案されてなかったの!?』

「て、提案……?あ、ああ……ピーチ達、学校祭楽しんでたんだね。あなたとも話できたっぽいし」

「あれ話ずらされてる?やっぱそっちで何かあったの……?」

「ちょっと色々あってね……」

 

 

 

 ステフォンの中のプロトブラックの声に驚いて、すぐに自分が巡に言われたことを思い出して、明るげに返事をする。先ほどまでの何かを恐れていた様子から一転していつものような笑顔に戻ったために、巡が珍しく呆気に取られて話がずれたことに気づく。

 巡が何があったのかを聞いても、ダークネスブルームは曖昧に返すだけ。こんなに何も言わないあたり、あまり知られたくないような大事があったんだろうとしか思えない。

 

 何とか続きを促そうとするが、そんな緊迫した状況の中で空気を読まず、誰かの空腹を知らせる腹の音が響き渡った。

 

 

 

『ちょ、ちょっと誰!?今割と大事なこと言いそうだったんだけど!!』

「……ごめん」

『あ、そっち!?』

「き、君らにも空腹の概念があったのね」

『いや多分気にするところはそっちじゃないし、若干失礼だし』

 

 

 

 ステフォンの中のプロトハートが誰だと突っ込むが、少々気まずそうにダークネスブルームが手を上げた。気が抜けてしまったのか、巡がまあまあ呑気な感想を呟いている。

 

 

 

(おかしいな……あいつに用意されたような(こんな)体だし、今までこんなことなかったのに……)

「……そうだ!お母さんにうちのお店のパン持たされたんだった!」

 

 

 

 若干微妙に緩んでしまった空気に割り込む形で、咲が思い出したようにその手に持っていたパン屋の袋からチョココロネを一個取り出し、気まずくて視線を逸らして何かを思案している様子の彼女に差し出す。

 

 

 

「……え」

「結構多くもらったんだけどさ、一緒に食べない?」

「な、何で」

「あー、話はひとまず食べながらってこと?」

 

 

 

 多分咲は無意識のうちに微妙な空気を変えようと声を上げたのだろう。困惑するダークネスブルームを見て、巡は何となく咲の意図を汲み取ったようだ。

 

 

 

「まあ座りなよ。今の様子だと、戦うつもりはなさそうだし。あたしも色々話したいし」

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど……また闇の使者が現れたからここに来たんだ……」

「まあ、当の本人はステフォン以外の理由でこっちに来たっぽそうだけど……」

「……」

 

 

 

 大樹の麓で美味しいパンを食べながら、巡はこの世界へ再び訪れた理由を話す。ステフォンの『WorldTrip』が反応したのは、ダークネスブルームがこちらの世界に現れたからネオフュージョンの力を感知したのだろう。しかし当の本人からは、こちらが持つステフォンを取り返しに来たわけでもないらしい。

 

 

 

「それで、あなたはどうしてここへ来たの?」

「……逃げてきたって、言えばいいのかな……」

「逃げてきた……?」

 

 

 

 彼女曰く、根城で一人になっていたところをネオフュージョンの分身に狙われ、よからぬことを吹き込まれ襲われそうになっていたらしい。そこへ、現在負傷中のドリームに逃げろと言われ、飛び込んだ先がこの世界だったようだ。話を聞いても、やはりどこかでネオフュージョンが糸を引いているように感じてしまう。

 

 

 

「襲われかけたって……!」

「聞いたことがない存在だが……普通にまずいんじゃ」

「やっぱネオフュージョンと離れた方がいいってこれ」

「……」

 

 

 

 周りもその話を聞いて、ネオフュージョンに対して否定的な意見を出す。しかし言われた本人はどこか表情が浮かばず、彼女達のアドバイスに反論も肯定もしない。

 

 

 

「……?」

『ど、どうしたの黙り込んで……?』

「……まさかとは思うけど、ストックホルム症候群的な何かとかじゃないよね……?」

「え?ストラックアウト症候群?何、それ?」

「咲……」

『すごい、綺麗に全部間違えてる』

「別に三振してないし、ピッチングゲームでもないし……というか多分違いそうだし……」

 

 

 

 さも当然のように咲が聞きなれない言葉を思いっきり言い間違えているが、正しくは“ストックホルム症候群”である。

 

 1973年、スェーデンはストックホルムで、銀行強盗人質立てこもり事件が発生した。事件の中で人質にされてしまった人々が犯人を援助したり、解放後も犯人を庇うような言動があったりしたという話が由来となっている。

 簡単にいうと、誘拐・監禁されている/いた被害者が、加害者と同じ場所で長時間過ごすことで、加害者に対して共感や好意・信頼というような心理的な繋がりを持つようになることをいう。

 

 

 

『うーん……ストラップダウト症候群っていう感じじゃ無さそう』

「そっちも間違えるのね」

 

 

 

 ステフォンの中のブルームも色々と間違えているが、今回に関しては特に閉じ込められているわけでもなければ、ネオフュージョンに対しての好感があるとは思えない。多分別事情だろう。

 

 

 

「別に、あいつに対していいとか思ってない……一人で、逃げちゃったから……」

「……!」

「ブラックとドリームがまともに動ける状態じゃないのに……戻らなきゃいけないのに……、そのまま、逃げて……」

「怖くなってしまったのね……」

「だからあの時……」

 

 

 

 どうやら、分身から逃げてしまったという事実に対して気にしていたようだった。本人的には庇ってくれたドリームを助けにいきたいし、何も言わずに出てきてしまったことに対しての罪悪感が心に積もっているのだろう。

 先に彼女と出会っていた舞が、最初はどうしてどこか怯えているような様子だったのか、ようやくここでつながったようだ。

 

 

 

『なんというか……抱えすぎているのはブラックだけじゃないみたいですね……』

「え?」

 

 

 

 思い悩む彼女の姿に何を思ったのか、ステフォンの中で話を聞いていたブロッサムがそんなとこと言い出す。彼女の言葉になんとなく理解したのか、他のプロトキュア達もああなるほどと頷いている。当の本人やブラックは何もわからない。

 

 

 

『ブロッサムの言ってること、なんとなくわかる気がする……』

『闇の使者達の中にいた時も、主にあそこ二人が無理している時があったような……』

『分かりやすいのはブラックなんだけど、ブルームに関しては分かりにくいというか、なんというか……』

『ぐ……』

『え、えぇ!?』

「別に、無理しては……」

 

 

 

 プロトキュア達も闇の使者の中にいた時から何かしらの心当たりはあったようで、次々とリークが寄せられる。もちろんダークネスブルームはそれを否定しようとしているが、暗い声色と明るく装っている表情が一致していない。

 おそらく襲われたりネオフュージョンにおかしな力を与えられたり、そのせいで2名ほど危なっかしい状況になっていることが重なった精神的なストレスが、今の彼女を押し潰しそうになっているのだろう。

 

 ……いや、どう考えても中学生程度の少女たちが抱えていいようなストレスの重さではないでしょと、色々突っ込みたくなる。

 

 

 

「……あのさ、そっちの事情が詳しいわけじゃないけど……多分今戻らない方がいいんじゃないかな?」

「……っ!!」

「ええ。何だか限界そうで、あなた自身が壊れてしまいそう……」

「ま、舞まで……」

 

 

 

 その話を聞いて、多分今戻るのは危険なのではと感じて咲と舞が待ったをかける。満と薫も二人の言葉に肯定するように小さく頷く。こちらの世界の自分どころか、相方や親友達にすらも止められてもなおダークネスブルームはどこか納得できない様子で俯く。

 

 

 

「プロトキュアの内情が若干晒されたのはさておいて……」

『さておかないで!?』

「戻るか戻らないかは君が決めるとて、一度休んだ方がいいのは確かだよね」

「私が……」

「君の色々あるんだろうし、無理に戻るなとは言えないけど。でも、君が思ってる以上にメンタルが限界そうで心配……」

「……」

 

 

 

 巡が苦笑気味に返すが、その瞳には本気の心配の色が滲み出ている。

 前回は彼女達に真実をもたらしたり、本気で倒そうとしたのに、目の前の少女は困惑する自分をよそに心配しているのだ。

 

 

 

「……どうして、そこまで心配するの?」

「えぇ?」

「だって私は、私たちはあなたからステフォンを奪おうとしてたんだよ……?なのに、どうして……」

「え、だって────」

『……!?今の気配は』

 

 

 

 あまりにも親身になって話を聞いてくれるものだから、ダークネスブルームは混乱してそんなことを聞いてしまう。普段の自分では絶対に言わないようなことを聞いてしまうのも、彼女が相当精神的に来ている証拠だろう。

 

 

 

 

 

 さも当たり前だろという声色で巡がその答えを言おうとしたところ、中のラブリーが何かおかしな気配を察知して会話を止めてしまう。

 

 

 

「ど、どうしたの?」

『ごめん会話止めちゃった!!でも今嫌な気配が……!』

「……何、この音……」

 

 

 

 満もその気配を察知したのか、周囲を見渡す。

 

 

 

 瞬間、大きな衝突音と共に、巡達の前に巨大な何かが上空より降り出してきたのだ。

 

 

 

「……!?」

『ウザイナーッッ!!』

 

 

 

 目の前に現れたのは、ウザイナーと咆哮を上げる怪物。しかしその突発性の出現は確実にネオフュージョンの欠片。

 

 

 

「う、ウザイナー!?ダークフォールの奴らがいないから……え?でも出すとしたら……」

「何、で……?」

「……こっちが繰り出したわけじゃなさそうだね……」

 

 

 

 突如出現した欠片は、闇の使者の反応的に彼女が繰り出したわけではないとすぐに察する。だからと言って放置することは絶対にできないので、巡はすぐにステフォンを、咲と舞はクリスタルコミューンを構えて立ち向かおうとする。

 

 

 

「……あれ?そういえばすごい今更だけど、満ちゃんと薫ちゃんにはバレていいの?」

『本当に今更だね!?大丈夫だよ!ふたりは味方だから!』

「オーケーわかった」

 

 

 

 今更ながらの気づきにプロトブルームが補足を入れ、懸念事項がなくなったところで再びステフォンを構えた。

 

 

 

 

 

「「デュアル・スピリチュアル・パワー!」」

「コンプリート・ステージON!」

 

 

 

 

 

 光に包まれた少女達は、プリキュアの姿へと変身していく。

 

 

 

 

 

「天空に満ちる月!キュアブライト!」

「大地に薫る風!キュアウィンディ!」

 

「「ふたりはプリキュア!」」

 

「聖なる泉を汚す者よ!」

「アコギな真似はおやめなさい!」

 

 

「現となりし、12の魂!キュアコンプリート!」

 

 

 

 

 

「……あたしの知ってる二人じゃない」

『言い方ぁ!!』

「そういえば、こっちの姿にもなれること言ってなかったわね」

「前回はブルームとイーグレットだったし……」

「3人とも!くる!」

 

 

 

『CureWeapon!Miracle!』

『PowerCharge!Beat!』

 

「キュアップ・ラパパ!音よ、跳ね返せ!」

 

 

 

 薫の呼びかけの数秒後、欠片が振り下ろした拳がこちらの方へと飛んでくる。コンプリートはその拳を受け止めるために魔法の力で光のバリアを展開する。バリアに拳が当たった瞬間、エレキギターをかき鳴らしたような、魂が震える音と共にカケラの拳が跳ね返される。

 その隙を狙って、ブライトとウィンディが飛び込んで欠片の方へと飛んでいく。

 

 

 

「風よ!」

 

 

 

 ウィンディの掛け声によって起こされた桃色の光の突風が、襲い掛かろうとする欠片の体勢を余計によろけさせる。なんとか突風を耐え切った欠片が、上空に舞うウィンディを撃ち落とそうと腕を振り上げるが、その背後に回ったブライトの存在に気づいていないようだ。

 

 

 

「光よ!」

 

 

 

 突き出した両手に纏う黄緑色の光が大きな光弾となって撃ち出され、欠片の体に被弾する。その衝撃で手も足も出ずに欠片は完全に転倒してしまう。

 

 

 

『ウ、ウザイナー……ッ!!』

「……初めて見たけどバカ強いね!それじゃああたしも、ブライト達には初めて見せるキュアウェポンで…。」

 

『CureWeapon!Bloom!』

『PowerCharge!Aqua!』

 

「え!?剣!?」

「かっこいいでしょ」

 

 

 

 コンプリートも追撃として、青き激流を刀身に纏わせたブルームソードを構えて、立ちあがろうとする欠片に向かって走り出し、飛びかかる。

 

 

 

「それじゃあ行くよ!激流月花(ストリームスプラッシュ)ッ!!」

 

 

 

 振り下ろされた青い斬撃は、激しくうねる青い水流となって欠片を穿つように降り注ぐ。欠片はそれを受け止めて相殺しようとしたが、コンプリートの威力に勝てることなく真っ二つに切られ、消滅する。前回のドリーム同様、出現した欠片事態の脅威度は高くないようだ。

 

 

 

「……やっぱり、手応えがない」

『なんというか、さっきの欠片が囮にされているような……』

「お、囮……?それってどういう────」

 

 

 

 まるで遊ばれているように、まるで本来の目的ではないように、突如現れた欠片にしては随分と弱いと感じてしまう。違和感を抱いたコンプリートとプロトキュアの言葉にブライトが詳しく聞こうとしたところ、ぞわりとした謎の悪寒を感じた。

 その気配は、プロトキュアや元々闇の存在だった満と薫はもちろんのこと、本来なら怪しげな気配を感じることはないコンプリートやブライト、ウィンディですらもその嫌な雰囲気を・明らかな殺気が体を通り抜けて嫌な感覚を覚えてしまっている。

 

 

 

「な、何今の!?」

『まさかネオフュージョンの力!?一体どこで……っ』

「……っ」

 

 

 

 なんとなく嫌な予感がして、コンプリートはゆっくりと後ろを振り返る。彼女達の背後にいるのは、今の所ダークネスブルームしかいない。

 

 

 

「え、わ、私……?」

「前回のドリームのことを考えたらと思うと……」

 

 

 

 コンプリートはなんとなくだが、先ほどの殺気の正体が何なのかをある程度察していた。察してしまった。

 疑るように向けられた彼女の視線に驚いて一歩下がるダークネスブルームの退路を塞ぐように、彼女の影から這い出るように黒い何かが出現した。

 

 

 

「……っ!?」

「あれは、この前の……!?」

「え、あ、何あれ……っ!?」

 

 

 

 どう足掻いても感じてしまう異様な雰囲気は、この前と同じようにダークネスブルームに纏わりついて何かを囁こうとしている。その声は雑音のようにしか聞こえず、一体何を吹き込んでいるのかは全くわからない。

 

 

 

「……!?その声を聞くな!!」

『あの影の言ってることがわかるの!?』

 

 

 

 満と薫はひどく警戒して、ダークネスブルームにまとわりつくように突如出現した黒い影に対して身構える。あの影は、ドリームの時にも出現した何かだ。相変わらず何かを話しかけているようだが、巡たちには地鳴りのような不気味な音声にしか聞こえない。

 ただ、同じ闇から生まれた存在である二人には、あの影が何を言っているのかがわかるようだ。内容的にもあまりよろしくないらしい。

 

 

 

『目の前に仇が持っていたものがあるぞ……いいのか……』

「……っ、うるさい……っ!!」

 

 

 

 ネオフュージョンとの間で何か揉めていたのか、ダークネスブルームは随分と気が立った様子で反論して、影を振り払おうとする。しかし影はのらりくらりと振り翳される拳を避けて言葉を続ける。

 

 

 

『彼奴のために役立ちたいのだろう?彼奴のことが気にかかるのだろう……?』

「アンタが……アンタのせいで、ブラックが……ッ!!」

『彼奴の何かが壊れているのは、貴様もすでに理解しているだろう……?』

「……っ!!なんですって────」

『だが彼奴がああなったのは、貴様の責任でもあるのだぞ……?』

「……ッ!?」

 

 

 

 何を囁かれたのか、抵抗していた彼女の動きがぴたりと止まる。一番言われたくなかったことを一番嫌なタイミングで指摘されてしまったかのように。

 

 

 

『貴様がもっと早くに気づけていれば、彼奴もあそこまで壊れなかったのになぁ……』

「ぁ……」

「は、え?」

「今、声が聞こえて……」

 

 

 

 そこ言葉だけが、コンプリート達もなんとか認識できた。どちらかといえばあの黒い影がこちらにわざと聞こえるようにしたような気がするが、そのすぐ後に黒い影は再び彼女の影に潜り込む。

 

 

 

「私の、せい……違う……ちが、う……」

 

 

 

 ぼんやりとその瞳を紅く光らせながら、ダークネスブルームがポツリと呟く。それはどこか虚しい響きで、自分自身に怯えているようにも聞こえる。

 

 ピキリ。彼女は何もしていないはずなのに、右腕の黒いリングに勝手にヒビが入る。あの時とは違って、急速にヒビが広がっていく。どう見ても外部からの干渉でしか、このヒビは入らない。

 

 

 

『あのリングは……!?』

『今触ってないのに勝手に……っ!』

 

 

 

 

 次の瞬間、ダークネスブルームを中心に、闇を纏った強力な衝撃波が広がるように放たれ、周囲にいたプリキュア達が吹き飛ばされそうになる。吹っ飛ばされないように両腕と足の踏ん張りで衝撃波による突風を耐えるが、突如として地面に足がつく感覚を失って転倒しそうになる。

 

 

 

「ぐ……地面の感覚が……っ!!」

『違う浮いてるんだよ私たち!!』

「満!薫!コンプリート!」

「みんな大丈夫!?」

 

 

 

 目を開けると、コンプリート達は星々が煌めく薄暗い無重力の空間の中に閉じ込められていた。おそらく、先ほどのネオフュージョンによって余計に与えられた力が固有の空間を生み出したのだろう。ここが一体どこに生成されたのかは全く知らないが、おそらく海原市のままなのは確かだ。

 無重力のままどこに飛んで行かないようにハッピーウィングを装備し、同じく空間に閉じ込められたブライトとウィンディ、満と薫と離れないように次に来るであろう脅威に備える。

 

 

 

「さっきの闇の力は一体何?」

「滅びの力以上の、恐ろしい何かがいたような……」

「……!闇の使者の方のブルームは……?」

「ねえ!まさかあれがそうとかじゃないよね!?」

 

 

 

 

 

 ブルームが指差す先にいるのは、与えられた闇の力を解放してしまったダークネスブルームの姿が。ドリームの時と同様、その姿は大きく変化していた。

 

 見た目だけなら『キュアブライト』や『ブライティブルーム』に近い姿をしているはずが、翼すらも漆黒に染まっているせいで、どこか狂気的で退廃的な印象を受けてしまう。

 そしてドリーム同様、手首や足首、首を縛り付けるように煌めく黒と赤の光輪は、まるで彼女の体は支配されているという事実を見せつけているようにも見えた。

 

 前回と違うのは、ダークネスブルームがずっと俯いたままという点と、彼女の体に纏わりついていた黒い影が、彼女の中に入り込もうとしている点だろう。

 

 

 

「……っ」

『!?』

 

 

 

 しかしダークネスブルームは、その影に向けて片方の手のひらを向ける。その手には狂気の紅い月のような光が集まり、一つの大きなエネルギー弾として放たれる。影はそれに飲まれて消失してしまった。

 一瞬の鮮やかな出来事かつ、強化された分のパワーを目の当たりにして、一瞬だけ恐れてしまう。

 

 

 

「影を、消した……!?」

『やっぱりあの影、ネオフュージョンの分身……!?』

『じゃああのドリームの時にいたのも……!!』

「……ぅ……っ」

 

 

 

 少しだけ苦しそうな声をあげて、俯いていた顔をゆっくりと上げる。虚ろな紅い瞳が不気味に光るが、その瞳には闇の力に飲まれてもなお自我を奴に食われたくないという意思が微かに揺れている。彼女の中で、心だけは染まり切らないように必死に戦っているようだった。

 

 

 

「だ、れか……っ」

「まずい、来る……っ!!」

『みんな構えて!』

『ウザイナー!!!』

 

 

 

 そんなダークネスブルームの必死の抵抗とは裏腹に、周囲には流れ星のような小型のネオフュージョンの欠片達が大量に出現し、5人の少女達の方へと向かって襲来するのであった。

 

 

 

 

 

続く…

 




次回更新日:7月21日(日)

盛り上がってまいりました
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。