とある広場の、とある移動販売車の前のテラス席。その一つのテーブルと椅子に、3人の女子中学生達が、たこ焼きを囲んで座っている。
一人はきょとんとしているが若干不服そうな顔で、一人はガッツリと疑うような顔で、そしてもう一人は二人の間の緊張感に困った顔をしている。
「……で、それ本当に言ってんの?」
「えぇ~……ここまで言ったのになんで信じてくれないの???」
きょとん顔の少女は、あまり困っていないような明るい声でそう言い、疑う少女の表情はさらに険しくなる。いきなり現れていきなり理解に時間が必要なことを説明されてもわかるわけがない。
「もう……君が信じてくれないとこっちも話が進まないんだよね……」
「でも、いきなりあんなこと言われてもさ……」
「ま、まあまあ……」
いつまでも疑う少女を、困り顔でずっと置いてけぼりを喰らっていた少女が諫める。その少女もまた、
「とにかく、あたしは繋巡でキュアコンプリート。『なぎさちゃん』たちと同じプリキュア。君たちがこれからネオフュージョンっていうやばい存在に襲われるかもしれないからここにきたの」
「だから、なんで初対面のアンタにちゃん付けされなきゃいけないの!?」
「同い年じゃん問題ないよ」
「さっきからの不満げな声はそっちだったのね……」
少女────美墨なぎさは、別の世界からの来訪者と名乗る繋巡から、先ほどからずっとちゃん付けで名前を呼ばれていることに不満をこぼしていたようだった。
どうしていきなりなぎさと巡の間でバチバチとした緊張感ある空気になっているのか。それは話を数時間前に遡る必要がある。
第35話:迫る魔の手 消えた闇の使者の謎
<巡の世界 心野宮・繋家>
時刻は夜中の12時半ごろ。11月も後半戦にもなってくると夜はとにかく寒くて、布団の中に潜りたくなる時期でもある。
繋巡はなんとなくぐっすりと眠ることができず、こんな夜中ではあるにもかかわらず目を覚ましてしまったようだ。
「……眠れないってことあるんだ……」
なんとなく、妙な胸騒ぎがしてしまう。それは、この間力に飲まれて暴走した二人の闇の使者のことであったり、最近特に音沙汰のないあの世界のことだったり、プロトキュア達のことだったりと、考えることが妙にたくさんある。その全てが普通の中学生が背負っていいような重さではないのだが、そのどれもが今の巡の胸騒ぎの原因ではない。
ただなんとなくの、漠然とした嫌な予感が、彼女の心を満たしている。全くもって、説明がつかない。
「……うぅ、上着……」
もう一度目を瞑ってもなかなか寝付くことができず、仕方がないので一旦起き上がってみることにする。姉は昼夜逆転しているので、きっとまだ起きているだろう。
布団から出ると部屋の寒さに耐えられる気がしなかったため、自分の椅子に欠けていた厚手のカーディガンを羽織り、なんとなく外の景色を眺めたくて、硬く閉じていたカーテンを開けてみる。
街灯の灯りがあるのにも関わらず、寒空の星はやけに綺麗に瞬いており、この時間は車通りも少ないのでとても静かな夜となっている。
そして、窓の外には巡の姿を見つけて顔を輝かせている、魔法の箒に乗ったダークネスミラクルとその後ろに乗るダークネスメロディの姿が。
「……え?」
「こんばんは〜コンプリート♪まだ起きてたんだね♪夜更かしは体に悪いよ?」
「えぇ……?」
いやまておかしいだろ、と寝ぼけ頭が一瞬だけ覚醒した巡が驚愕の表情を浮かべる。なぜ自分の世界に、よりによってこんな夜遅くに、プリキュアが実在する世界にいるはずの闇の使者が出現しているんだと、色々と突っ込みたくなる状況なのだ。
突然現れたということは何か自分に用があるんだろうと思って、巡は静かに窓を開ける。外の冷たい空気が、巡の髪を揺らす。寝ぼけ頭が覚醒したとはいえ、早寝早起き健康体の巡がこんな時間まで起きていられるわけもなく、すぐに眠気に意識が夢と現実の間を反復横跳びしている状態で二人を見つめる。
「もしかして起こしちゃった……?」
「寝付けなくてさっき目が覚めちゃっただけ……明日休みだし別に大丈夫……何でいるの???」
ひとまず巡は二人を窓から迎え入れる。ステフォンの中のプリキュア達は起きていない。闇の使者がこの世界に現れたのは巡の学校祭以来だが、こうしてこっちから来るのは初めてだ。
「な、何用ですか……?」
「眠そうだしすぐに帰るよ。……あのさ、ブラックのこと見てない?」
「ブラック……?ステフォンにいるよ……?多分今無用心にあけっぴろげてねてるけど……」
「ステフォンの中にいる方じゃなくて、私たちの方のだよ。闇の使者の方」
少々緊急事態が起きているのか、メロディが口早に巡に対してあることを聞く。まだ若干寝ぼけが入っているのか、巡は半分瞼を閉じつつワンテンポ遅れて理解し、首を横に振った。闇の使者なら直近だとブルーム、今目の前にいるメロディとミラクル以外では見ていない。そもそもあちらのブラックは前に聞いた話だと、訳あって眠ったままとメロディ達が言っていなかったか?
「そ、そっか……ここの世界にもいないんだ……」
「どうかしたの……?そういえばそっちのブラックって眠ってたんじゃなかったっけ……?」
「……この子立ったまま寝ないよね???実は、ブルームが帰ってきたと思ったら、ブラックがどこにもいなくなっちゃって」
「ブラックが……あそうなの……」
「反応が悪い、ダメだ本当に眠そう!書き置き残しておくからもう寝て!」
「待って……メモ帳が棚に……」
「ピンクのこれかな!?ペンも借りるね!」
「うん……明日の朝片付けとくから机に置きっぱでいいよ〜……」
「あ、ありがとう!」
「あなたはいいから寝てて!ごめんね起こしちゃって!」
小声で静かに叫ぶメロディに促されて、巡は半強制的にベッドの中に戻されて寝かせられる。ミラクルは巡に言われた場所に置いてあるピンクの表紙のメモ帳を一枚ちぎり、伝えようとした大事な要件を簡潔にまとめて書き記す。
巡がぐっすりと眠りについた頃にはメモも書き終わり、二人は窓から彼女の部屋を飛び出して行った。
「あ、あそこまで眠そうだったら、明日になったら忘れてそう……」
「あのコンプリートに限ってそういうのはなさそうな気がするけど……そっか、この世界にも来ていないのか……」
星々が瞬く夜の空の下、箒に乗った闇の使者達は心野宮上空を飛んでいく。この時間帯は特に飛行機も飛んでいないので堂々と空を飛んでいける。表情が暗いのは、この世界にも行方不明のあの人がいないことがわかってしまったからである。
先日、ネオフュージョンの分身から一時的に別の世界へ逃げていたブルームが帰ってきた直後に発覚した、ブラックの失踪。ラブリー達が部屋を見た時にはすでにもぬけの殻だったという。現在、動ける闇の使者達を中心に、今まで行ったことのある場所を中心に、彼女が立ち寄りそうな世界を探し回ってその姿を追い求めている。
ついこの間までは奴に力を与えられた反動で意識を飛ばしていたというのに、一体いつ目を覚ましていたのだろうか。そして、仲間達の目を盗んで一体どこへ消えてしまったのだろうか。
「……ブラック、何もなければいいね」
「え……?それってどういう……」
「ネオフュージョンに力を与えられたっていうんだよ?……あの二人でさえ振り回されて大変なことになってたのに、ブラックだって、当てはまるわけで」
「それはっ、……うぅ、言い返せない……」
メロディの不穏な言葉に、ミラクルが何もいえずに口を噤む。本当はそんなことないと否定したいが、実際に2回も起きていたのだからそれができない。
ネオフュージョンに凶悪な闇の力を与えられ、その力に飲まれて暴走をきたしていたブルームとドリームは、未だ身体に残るヒビのような黒い傷と痛みを抱えているため、自分たちの根城に待機してもらっている。ネオフュージョンが自分達に直接介入することが今までなかったので、今は奴には見つからないようにこっそりとさまざまな世界に飛んでいる。
「ここにもいないなら、やっぱり他の世界に行っちゃったのかな……?」
「もしくはネオフュージョンに無理やり連れ回されて……とにかく、一旦私たちの世界へ戻ろう!」
「うん!」
そう言って、二人は夜の空へとどこかへ消えていった。心野宮に再び、静かな夜の帷が降ろされていく。
翌朝、巡の部屋にて。
『巡〜!起きて〜!もう8時半になっちゃうよ〜!』
「あー、まじ……?」
やはり夜中に一瞬目が覚めた時の眠気が残っているのか、休日にも関わらず巡が珍しくプロトラブリーに起こされている。若干眠気が残る眼をこすりつつ、昨日の夜中に起きた出来事を手繰り寄せて机の方に向かう。そこには、ダークネスミラクルによって書き残された一枚のメモ帳が残されている。
昨日のは夢でもなんでもなく本当に起きたことだったらしい。
『昨日何か物音が聞こえた気がするけど、何かあったの?』
「うん……、ちょっと闇の使者がお取り込み中で」
『闇の使者がですか……や、闇の使者が?!』
『え!?来てたの!?なんで!?』
「なーんか向こうが大変?なことになってるっぽくて駆け込んできて……で、あたしがあまりにも眠たすぎて使い物にならんって、メモに残してくれたの」
寝ぼけてはいたが、巡は昨日のやりとりをある程度覚えていた。そして、彼女が描いたメモをステフォンの中のプリキュア達に見せる。その中でブロッサムが画面から飛び出し、内容を確認する。
「……えぇっ!?ブラックが消えた!?」
『わっ、私がっ!?』
『えぇぇっ!?ブラックって、闇の使者の方のブラックだよね!?』
『ネオフュージョンに連れまわされてるとかじゃなくて!?』
「いや、だって彼女、奴に力を与えられてからずっと目を覚ましてないって言ってたじゃん」
『そういえば……!』
“ブラックがいなくなった。また来るかもしれないから、もしブラックを見かけていたら教えて!”と、走り書きではあるがとてもわかりやすくまとめられた文章がメモが残されている。
『……どうやって全員であいつから逃げるかとか、ブラックをどう説得しようか、やらなきゃいけないことができたの』
『そ、そっか……』
先日のやりとりから考えるに、ブラックを説得する前に本人が行方不明になっているようだった。
「起きてすぐ連れ回されたとしたら、相当なブラック企業では?」
『アイツ本当に何考えてんの……?』
『文章的にまたこっちに来るのかな?』
「そもそもいない人物が、どうやってここに……」
昨日の夜の焦りようは、寝ぼけていたとしてもしっかりと覚えている。とても心配しているんだろうということが伝わってくるし、彼女達にとってのダークネスブラックという存在が大きいものなのだろうとも考えてしまう。
そもそも巡は彼女からはガッツリ敵認定されているような感じなので、わざわざ自分に会いに来るというのも考えにくい。
『大丈夫。彼女たちの過去はある程度わかってる。だからこそあたしは、悪いことをしなきゃいけなくなった君たちを、止めるために戦うよ』
『止めるために、ですって……?ふざけたことをそう簡単に、言わないでッ!!!』
最後に彼女に出会ったのは、『ふたりはプリキュアMaxHeart』にて。
初めは相容れない相手として敵対していたが、後から彼女が抱えたものや過去を知って助けたいと伝えても、あの少女はそれを拒んでその手を振り落とした。
わかりあうことはできずとも、どうすれば彼女のことを助けられるのだろうか。巡はそんな、漠然と大きなことを考えていた。
そんな時だった。事件というものは、いつも唐突に訪れる。
『……ん?あれ……!?』
「……どうしたの?まさかこんな時に?」
『巡!“WorldTrip”!』
「やっぱり?」
ステフォンの中で何かに気づいたラブリーに言われて、巡はいそいでステフォンを操作し、『WorldTrip』の画面を確認する。画面上では『ふたりはプリキュアMaxHeart』の世界を表すマークが赤く、異様な速さで点滅をしていた。今までアラームが鳴ったりと異常事態が起きたときは一番わかりやすいお知らせがあったはずだが、これは初めてだ。
『めちゃめちゃ点滅してるんだけど……あっちの世界で一体何があったってのよ……』
「……まさか、ダークネスブラックが……?」
『!?』
『嘘!?あの人が呼んでるかな……?』
「分からないけど……もしパワーアップされて前みたいに大変なことになってるなら」
『助けないとね!』
ステフォンの中のプリキュア達と、巡の意見が一致し、こくりと頷く。そしてすぐにワープホールを展開し、その奥へと広がる世界へと飛び込んでいく。
星の様な煌めきが、虹の様なゆらめきが、自室との距離をどんどん遠ざけていく。出口は、すぐ近くに現れそうだ。この先、どんな世界が広がっているだろうか。
視界が、白い光で塗りつぶされる。
巡達が降り立ったのは、ベローネ学院近くの広場。空は怪しい色合いの雲に覆われ、嫌な雰囲気が漂っている。ちょうど下校時間だったのだろう。あの学校の生徒であろう人たちが数名、意識を失って倒れている。
「ここは……前と同じような感じ?」
『また微妙なところに飛んだわね……』
『というかこの感じ、前にもどこかで……』
『ザケンナーァァァ!!!』
「え???」
『え???』
巡とラブリーの声がハモる。そうだ。この感じは、『ふたりはプリキュアMaxHeart』の世界に訪れた時にも同じようなことがあった。いわゆるデジャヴだ。
咆哮が聞こえた方を向けば、なぜか立っている人間を見つけて襲い掛かろうとするザケンナーの姿が。巡はとことん、降り立つ場所に嫌われているようだ。
「ねえこれ前も似たようなことがあったよね?あたしやっぱステフォンに嫌われてるの……???」
『それにやっぱりネオフュージョンの気配がしない!また野良のザケンナーだよ!』
『闇の使者が出したわけじゃなさそうでよかった!よくないけど!』
ステフォンの中のハッピーとハートが、目の前に迫る怪物がすネオフュージョン由来のものではないとすぐに察知したようだ。それならそれで手こずらずに目の前の怪物退治に集中できる。
「そうだよ。このまま放置するわけには────」
『ザケンナーァァァッ!!!』
ザケンナーは上空へ飛び上がり、巡を踏み潰そうと急降下してくる。しかし巡が構えたステフォンから光が溢れ出しプリキュアの姿に変身すると、その巨体を軽々持ち上げて、ザケンナーを思いっきり投げ飛ばす。
「ちょっと最後まで言わせてよね?このくだり一応2回目なんだから」
『確かにそうだけども!』
『あいつ、また起き上がるわよ!』
「大丈夫。すぐに終わらせる」
コンプリートによって軽々と弾き飛ばされザケンナーはおちょくられたと怒り散らし、もう一度コンプリートを叩き潰してやろうと飛びかかる。
『CureWeapon!Lovely!』
『PowerCharge!Princess!』
一方のコンプリートは、冷静にラブリーショットガン片手にキュアプリンセスの力を纏わせ、銃口を怪物の方に向ける。
「
『ザケッ!?』
放たれた青い光のリングの中で煌めくハート型のエネルギー弾は、ザケンナーの周りを飛び回り翻弄させながらその体を射抜き、一瞬で浄化させてしまった。確実にこの前よりもパワーアップしているコンプリートに瞬殺されてしまい、光に包まれた怪物は小さな星型の何かとなり、「ゴメンナー」と弱々しく、されどとても悔しげにどこかへと逃げ帰っていった。
「やっば、一瞬で倒しちゃった」
『コンプリート、絶対に前よりも強くなってる……!キュアウェポンの力だけで浄化まで持って行ってしまうとは……』
「あたしも今割とドン引きしてる。これはジュンさんも恐れるわ」
『ジュンさんって誰だっけ……?ああ巡が夢で見たっていうステフォンの持ち主だよ』
「最近そっちの進展がないから忘れかけてたよ」
かなり大事なことを会話で繰り広げつつ、この世界に絶対いるであろうプリキュア達を見つけるために歩き出そうとした。
、
「さっきまでここにザケンナーが出たって聞いたのに、誰もいないじゃない!!」
「ミップルたちも気配を感じたというのにどうして……」
「……え?」
と、二人の少女達の話し声が聞こえて思わずコンプリートは振り返る。
視線の先にいたのは、黒と白のプリキュア。見間違えるはずがない。キュアブラックとキュアホワイトだ。しかし、巡が前回見たブラックとホワイトのコスチュームが違い、何よりもこの場にいそうなルミナスの姿がどこにも見当たらない。
「あそこにいるのは……まさか、プリキュア?」
「私たち以外にもいたの!?ね、ねえ!あなたもしかして、そこにいたザケンナーって奴と戦ってたの!?」
「……なぎさちゃんと、ほのかちゃん?」
近づいてたブラックは、コンプリートにその名前を呼ばれた瞬間動きを止める。確か前回出会ったような気がするが、この二人は全く覚えていないようだ。……いや違う、どことなく二人が幼なげな雰囲気があるため、もしかすると『ふたりはプリキュアMaxHeart』の世界における過去、の可能性がある。
そういえば二人は前回、なぜか巡やプロトキュアに闇の使者について以前から知っていたような口ぶりだったため、コンプリートはある意味でタイムスリップしたような状況に巻き込まれたようだ。
「な、なんで私たちの名前を……?」
「まさかこいつ、ドツクゾーンの……!」
『どうしてそうなるのよ私ぃ!!!』
「はぁ!?画面の中に私がいる!?なんで!?」
「ちょっとブラック〜、あたしは敵じゃないよ」
「あ、怪しい……しかもちゃん付けなのが妙に馴れ馴れしい感じがしてなんか嫌……!!」
「嫌って何?こちとら急に敵対されて傷付いちゃったんだけど〜」
「知らないわよアンタの事情は!」
「ひど〜い!」
「ふ、二人とも落ち着いて……!まずはお互いに話し合いましょ?」
エキサイトしそうなコンプリートとブラックの会話に、ホワイトが仲裁に入る。わかりやすく警戒を解かないブラックと、出会って早々敵にされかけたコンプリートは、不服そうな表情で一度変身を解くのであった。
────そして話は、冒頭のやり取りに戻る。
「も〜、呼び方如きで不満をぶつけないでよ。多分歳は同じくらいなんだし」
「はぁぁっ!?」
「敵認定された仕返しだよーだ」
「……繋って、根に持つタイプ?」
「別にそんなんじゃないよ。あと苗字呼び捨ては君がやるときつい気がするからせめて名前で呼び捨ててよ」
「出会って数分の相手にそれはなしじゃない???」
「えぇ……???」
『ちょ、ちょっと!私相手になんで喧嘩腰になってんの!?』
「なぎさも落ち着いて、ね?」
若干喧嘩腰というより、元気だけど繊細で奥手ななぎさと、思慮深い割に愉快で積極的な巡との馬があっていないせいで、二人の間では微妙に空気が張り詰めたような感じになっている。ちなみに二人は怒ってはいないのではなく、お互いに不満なことをぶつけ合っているだけなのである。
「そもそも、君が早とちりしたのが始まりでしょうに……」
「ぐっ」
『ちょ、ちょっと!痛いところ刺さないで!?』
と、たこ焼きを一個頬張りながら巡がそもそもの原因を言及する。心当たりしかないなぎさはもちろんのこと、まるで自分のことを言われているようで、プロトブラックにもその言葉がグサリと突き刺さっている。
「ぐ、それは悪かったって……というか、そっちだって急に名前を呼んだからびっくりしたじゃない」
「……」
『巡ちゃん、なんで目を逸らす必要があるの……?』
なぎさもまた、たこ焼きを一口頬張りながら巡にも非があったと反論する。もちろん巡本人もいきなり名前を呼んでしまったことは反省しているが、若干部が悪くなったような気がしてゆっくりと視線を外してプロトミラクルに突っ込まれている。
「……で、繋は未来の私たちに出逢ってるんだ……え?未来でもプリキュアしてるの……?」
「いつとは言ってないからねぇ」
「なんで焦らされてるの私……?」
「未来はあんまり知らない方が幸せなこともありますしね」
「えぇ……!?そう言われると余計気になるんだけど……!」
「ははっ」
若干のギスギス感は残しつつも自然な流れで通常の仲良しな人たちが繰り広げるような雑談に入ったので、流れを見ていたほのかと、ステフォンの中のブルームが一言。
「……あなた達……」
『本当は仲良かったりする……?私たちは遊ばれてるだけ……?』
「「ちょっとほのか/ブルーム!?なんでこいつ/彼女と仲良くならなきゃならないの!?」」
「えぇぇ……?」
『ハモってるし……』
こんなに声が揃っているのなら、多分この二人は蟠りがなくなりお互いに理解し合えば、一気に仲良くなれそうな雰囲気があるなと、この時ほのかはそう感じたのだ。
ただ、状況的にはこんな和やか(?)に雑談している場合ではない。巡はまだ、大事なことを説明していないのだ。
「……そ、それで、巡さんはどうしてここに来たの?」
「闇の使者、というよりネオフュージョンっていうヤバい奴の気配を追って来たの」
「闇の使者?ネオフュージョン???」
「闇の使者はステフォンを狙ってたけど今はちょっとそれどころじゃなくって……」
『ネオフュージョンは、色んな世界に現れては世界を真っ暗闇にして破壊している奴よ!ドツクゾーンよりもタチが悪いのって思ってて!』
「な、なるほど……」
『それで闇の使者はネオフュージョンに色々されてたみたいで、一人行方不明だって言ってて……』
「もしかすると、この世界に現れたんじゃないかってステフォンが反応したの」
相変わらず『WorldTrip』の画面の『ふたりはプリキュア/ふたりはプリキュアMaxHeart』のマークは赤く点滅している。今はまだ気配を感じていないが、確実にこの世界に闇の使者の誰かがいると強く伝えている。
もし闇の使者がいるとするなら、現在消息がつかめていないあの黒い少女が最有力候補として上がるだろう。他の闇の使者は、黒い少女を探している最中でこちら側に対して敵対・欠片を繰り出す理由がない。
「その闇の使者って、一体何者?」
「話すと長くなるんだけど、言っちゃえば訳あってあたしと敵対していた、別の世界の君とその仲間たちだよ」
『色々あって今は急戦状態なんだけど……』
「別の世界の私……ほ、ほのかは?」
『……その世界が壊れて、あっちのほのかも行方不明で……』
「私も、行方不明……!?」
プロトブラックの表情がくらい。彼女も気をつけてはいるものの、壊れた世界や自身の相方についての話をするときは、だいたい暗い空気になってしまう。闇の使者の中から生まれた想いの形が、ラブリー以外のプロトキュア達の成り立ちなので、一番知っていることの多いあの闇の使者から飛び出したブラックにだって、後ろめたいものはある。
『初めはステフォンと元々の持ち主が原因だって思ってたけど、なんだか食い違ってたり気になる部分もあって……』
「そ、そんなことが……」
「つまり私たちは、その闇の使者に気をつければいいのね?」
「大体そんな感じ。……でも不思議だね、なぎさちゃんとほのかちゃんがいるならきっと大丈夫って思えるんだ」
「あ、これ戦わなきゃいけない感じ?……ま、まあ、自分達も大変な目に遭いそうなら、なるべく頑張るけども〜?」
「なぎさったら……」
本当になんとなくなのだが、この二人ならきっと大丈夫だろうと思えてしまう。これも巡の世界では“初代”と呼ばれる二人だからこその安定感というべきか。不服そうだったなぎさも頼られていると思ったのか、少々嬉しそうな気持ちを抑えきれていないのがわかる。
だからと言って油断は全くできない。行方不明とはいえ直前の出来事を聞いた限り、前回のブルームやドリームの時と同様、ネオフュージョンによる何かしらおかしな介入が入ったせいでパワーアップしている可能性が一番高いのだ。
今はまだ闇の使者は出現していない。なぎさやほのかも部活前に抜け出してきたというのだから、一旦そっちへ向かうと言って席を立とうとした。
『────っ!?!?』
『今のは何……っ!?』
「え?」
突如としてステフォンの中のプロトキュアたちが騒ぎ出す。彼女達が強く反応するのは、ネオフュージョンや闇の使者の気配。ただし、今のその反応は確実に何かがおかしいものを気づいた時のもの。
空が、いつの間にか真っ暗な黒い雲に覆われている。ドツクゾーンの何かとは訳が違う。
「な、何!?またドツクゾーン!?」
「けど様子がおかしいわ……?!」
「どうしたの?もしかして闇の使者?」
『そうなんだけど、今のは……何?!あの人の気配のはずなのに、禍々しくて……怖い……!』
ラブリーが的確に正直に、おかしな気配についての感想を言及する。あの時の二人よりももっと刺々しくて禍々しい何かが、近づいてくる。そんな気配が、着実に迫っている。緊迫した空気が、流れ込んでくる。
3人は思わずアイテムを手に持って身構える。妙に嫌な静けさが、立ち込めている。周囲を見渡しても、誰もいない。
『……っ!?ここから離れて!!』
「え?」
『いいから早く!!!』
「うわっ」
「ちょっ!?」
「う……?!」
プロトブラックによりステフォンごと巡が引っ張られ、なぎさとほのかが何かに気づいて慌ててその場を離れる。その瞬間、3人が立っていた場所には真っ黒な雷撃が放たれ地面に小規模なクレーターを作り出す。その爆風に飲まれて、生身の3人は煽られて転んでしまう。
「痛たた……、あー、心臓が止まるかと思った」
『そんなふうに聞こえないよ!?』
「なぎさ!大丈夫!?」
「私は大丈夫!変身もしてないのにいきなり攻撃されるとかありえなーい!」
『今の攻撃って、ダークネス・マーブルスクリューだよね!?』
その攻撃を、巡達はよく知っている。その攻撃に何度苦しめられたことか。そして、真っ黒な雷撃を放てるのはたった一人しかいない。
巡は、雷撃が飛んできた空の上を見上げ、きっと警戒して睨む。
「ダークネス、ブラック……ッ!!」
「……」
視線の先にいるのは、唯一デフォルトで黒い翼を生やした闇の使者────ダークネスブラック。
前回見た時以上に澱んでしまった紅の瞳が、巡達をまるでどうとでも思っていないかのように見下ろしている。
「あれが、闇の使者……?もろ私じゃん……!」
「何かしら、この冷たい感じは……!」
『おかしい……何か変だわあの私……!』
「……」
ダークネスブラックは、なぎさやほのか、プロトキュア達を順に見てから、巡の姿を見て一気視線を鋭くさせる。その空気は初めて巡が彼女に睨みを聞かされた時以上の威圧感があり、思わず足がすくんでしまう。
それでも、一瞬でも抱いた恐怖心を彼女に悟られないためにも、巡は真っ直ぐに彼女を見つめ直す。
「久しぶりね、キュアコンプリート。……あなたを倒し、この世界を壊しに来たの」
「……っ!!」
まるでそれが当たり前のことだというように告げられた冷たい言葉には、巡に対する憎悪がしっかりと乗せられていた。
続く…
次回更新日:7月28日(日)