PrecureStageON!   作:主氏レム

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ようやくこのシリーズにおける主人公の登場です。
これが本家で言うところのOP後の本編です。


第1話:新たなプリキュア!その名はコンプリート!

 

 

 

 

 

 ある春の、よく晴れた日のこと。

 

 

 

 時刻は午後4時過ぎ。部活に所属している学生は、それぞれの活動に打ち込もうとしている時間帯。特に用事のない学生は帰宅中であろう。

 

 何気ない、とある普通の日常のワンシーンだ。

 

 

 

 

 

「……あれ?」

 

 

 

 

 

 この少女────(つなぎ)(めぐる)は、そんな普通の日常の中で生活する一人。

 

 紺色のロングブレザーに学生鞄、赤茶色のポニーテールと金色の髪留めを揺らす彼女は、某県心野宮にある私立学校「私立光星中学校」の中学2年生で、生徒会長に任命されている。

 本日は生徒会での活動がない日で、特に友達とも遊ぶ予定を組んでいないため、まっすぐに自宅に帰る途中であった。

 

 

 

 そんな日の、駅前広場のある街路樹の前。

 

 その木の下で何か見慣れないものを見つけて、巡は立ち止まったのだ。

 

 

 

「これって……スマホ?」

 

 

 

 それは、鮮やかマゼンダの色をしたスマートフォンのような物体。いや、スマホにしては宝石のようなハートの飾りが異質すぎる。それに充電ケーブルを繋げるための穴が見当たらない。

 スマホに見せかけた子供用の玩具かと思っても、電池を入れるための蓋がなければ、電池を入れるにしても薄すぎる。

 

 

 

「誰か、ここで遊んでた…って訳ではないのかな」

 

 

 

 繋巡は考える。

 

 

 

 ただの、模造品だろうか。まるで魔法少女系のアニメに出てきそうな変身アイテムみたいな形だ。しかし、知っている作品の中で、こんな形のアイテムを使っている描写に見覚えは、ない。

 だとしたらこれはなんだ?誰かが考えた創作物(オリジナルキャラクター)のグッズ作品か?そうだとしたら、これを制作した人はとても熱心な人か熱心なファンなのかもと、一種の尊敬心を抱く。

 

 

 

「よし……とりあえず交番に届けよう」

 

 

 

 これを落としてしまった人は、今頃焦って探しているかもしれない。それならまずは、その人のためにも駅の近くの交番に届けてあげないといけない。

 

 そんな良心で、巡はスマホらしきそれに手を伸ばし、触れた。

 

 

 

 

 

 瞬間、彼女の脳裏にとある光景が、モンタージュのように次々に流れ出す。

 

 

 

 降り注ぐ破壊光線、壊れた世界、水晶の柱、真っ赤な瞳、誰かの涙、真っ白な光────

 

 それは、一瞬の出来事。時間にして1秒経つか経っていないかくらいの、たった一瞬の出来事。

 

 

 

 

 

「……え?」

 

 

 巡は思わず周囲を見渡す。駅前広場は壊れていないし、何も変わっていない。何もなければ、それはそれでいいのだが、今のはなんだったのだろう。

 

 まるで、自分に何かを訴えかけているようにも感じた。

 

 

 

 

 

『────!ねえ君!助けて!』

「……え?」

 

 

 

 不思議な出来事はまだ続く。

 

 誰かの作った玩具だと思っていた、触ったスマホらしきもの。そこから女の子の声が聞こえたのだ。しかも、助けを求められている。何かが変だ。どこかに電気がつながっている訳でもないのに。

 

 

 

『このステフォンを拾った君だよ!』

「あたし?あたしのこと言ってる?」

 

 

 

 不思議な事が起こっているというのに、巡は慌てることも怖がることもなく、ひとまずその声に応えてみる。

 彼女は少々、目の前で起きた事象を呑気に捉えたりズレた回答をしてしまう節があるのだ。どんな状況でもブレずに行動できると言えば聞こえはいいのだろうが、いかんせん彼女の場合は天然なのか本気なのかがわからない時がある。

 

 

 

『お願い!誰でもいいからステフォンの電源を入れて〜!真っ暗じゃ何もわからないよ〜!』

「ステフォン?こ、このスマホみたいな玩具のこと?」

『そう!おもちゃじゃないけど!』

「けど、これ交番に届けないと……あたしは持ち主って訳じゃ」

『これは今は誰のものでもないの!』

「え、えぇ…?」

 

 

 会話は噛み合っていないようで噛み合っている。スマホらしき玩具────ステフォンからの声曰く、誰のものでもないから、とにかく誰かに電源を入れて助けて欲しいようだった。

 なんの仕組みで会話が成り立っているのかはともかく、本当に困っているのは声色だけでもわかる。

 

 

 

「うーん、悪いことなんだけど……ちょっと待っててね。家に帰ったら電源を入れてみるから」

『え?!助けてくれるの!?』

 

 

 

 決心し、巡はステフォンを拾い上げてカバンに入れると、すぐに駅の方に向かっていった。家に着くのは4時半過ぎごろだろう。

 

 

 

 

 

「ただいまー……って、幸姉はまだ授業中か」

 

 

 

 約30分後、巡は自宅に到着した。

 

 巡の家は高校2年の姉とほとんど二人暮らしである。父親も母親も海外で働いている身であるため、家にいること自体が少ないのだ。彼女の姉も、夜間制で高校に通っている身であるために実質彼女は夜まで一人だ。

 

 階段を上がり、自室に入る。

 彼女の自室は学習机と収納とベッド、本棚と、どこにでもあるような普通の一人部屋という内装だ。しかし、棚には特撮系のフィギュアが、本棚には漫画が数冊入っていたりと、年頃かつ好きなものに素直な部屋という印象も受ける。

 

 

 

「えぇっと、どこが電源だろう……?」

 

 

 

 ボタンらしき箇所を押し込んでも、特に画面に何かが映し出される訳でもなく真っ暗のまま。電源をつけると言ったが、肝心の電源がどこか聞き忘れている。

 なら、このハートの飾りの部分かとそれに触れた。触れただけでそのハートは淡い光を放ち、画面が真っ黒から白く輝き始めた。

 

 

 

「え?」

 

 

 

 室内に満ちる光が収まり目を開けると、ステフォンの画面が正常に起動したようだった。見た目は普通のスマホ……というより、女児向けの育成ゲームのおもちゃの画面のような雰囲気だった。

 画面の中心には、2頭身の女の子のアバター?が、きょとんとした顔でこちらを見つめていた。

 

 

 

「お?」

『あ!』

 

 

 

 画面上のアバターは、巡の姿を見るなり、嬉しそうな笑顔を浮かべた。

 少しだけ見える涙の跡と目元の涙は、巡に画面をつけてもらうまでずっと一人で助けを求めていた時に辛くなってしまって流していたのだろう。

 

 

 

「だ、大丈夫?」

『ありがとう!久しぶりに人の顔を見たかも!なんだか嬉しい!』

「あ、本当?それはよかった……」

 

 

 

 喜んでいるアバターと会話が成立しているという事実を特に疑問視することなく、巡は画面上にアバターをよく見てみる。

 

 

 

 鮮やかなマゼンダのマゼンダのポニーテールに、可愛らしい制服のようなコスチューム。

 

 猫耳と、赤いリボンが巻かれた尻尾。

 

 まるで誰かの二次創作(ファンアート)の中で考えられたかのような見た目だが、巡はこのキャラクターを知っているし、見たこともある。確か、『ハピネスチャージプリキュア!』の……

 

 

 

「……キュア、ラブリー?」

『…!そう!私はキュアラブリー!……でも今はステフォンの中に住んでる精霊だから、“プロトラブリー”だよ!』

「プロトラブリー?」

『君、さっきから全然驚かないね!』

「……あれ?なんであたし、この子との会話が成立しているの?」

『えっ、今!?』

 

 

 

 ようやく、巡が今起きている出来事に驚いて、キュアラブリーによく似た『プロトラブリー』も一緒に驚く。

 今の時代、スマホにAIが搭載されて会話するなんてことは普通にあることなので、普通に受け入れていたようだ。しかしこのステフォン、スマホのように見えてスマホではないのだ。

 

 

 

『と、とにかく!助けてくれてありがとう!君は何て言うの?』

「どういたしまして。力になれたみたいならよかった。あたしは繋巡。中学2年生だよ」

『巡ちゃんって言うんだね!……って、こんなことしてる場合じゃなかったんだ!』

 

 

 

 喜びも束の間。プロトラブリーは何かを思い出したのか、ステフォンごと宙に浮く。巡はもはや突っ込んでいない。むしろ「最近の玩具は進化してるなあ」くらいにしか思えていない。突っ込むべき場所はそこではない。

 

 

 

『早く、早くプリキュアのみんなを助けに行かないと!』

「助けに?プリキュアを?な、何を言って……」

『巡ちゃん!電源を入れてくれてありがとう!またね!』

 

 

 

 そう言って、ステフォンの画面から光が放たれ、床に人ひとりが入れるくらいの『穴』が出現する。穴の中は星空のようなほの暗さと淡い煌めきがあって、オーロラのベールのような、虹色の光のゆらめきが見えた。

 その不思議な穴の中に、ステフォンは一人でに吸い込まれていった。

 

 残されたのは、巡一人だけ。

 

 

 

「な……何だったんだろう……」

 

 

 

 このまま、『ただの不思議な出来事』として片付けていればよかっただろう。しかし巡は、どうしてもプロトラブリーが残した言葉が引っかかっていた。

 

 

 

“プリキュアのみんなを助けに行かないと!”

 

 

 

 巡にとっての『プリキュア』は、日曜朝8時半からやっているアニメの中の話でしかない。ただ、それだけ。彼女の言葉を信じるか信じないかはともかく、そのプリキュア達がピンチらしい。

 

 

 

「……なんだろう。このままだと、後悔する気がする」

 

 

 

 あの穴は、少しずつだが収縮している。けれどまだ、一人入れるほどの大きさではある。タイミングを逃せば、この穴には入れなくなる。

 

 

 

「……よし」

 

 

 

 繋巡は意を決して、その穴の中に入っていった。

 

 星の様な煌めきが、虹の様なゆらめきが、一瞬にして通り過ぎてゆく。自分のいた部屋の天井が、一瞬にして遠ざかってゆく。

 

 きっと今から何か、自分の想像だにしないことが起きるのだろう。

 けれど、目の前で非現実的なことが起きようとも、今の巡には関係ない。あの時の、プロトラブリーの困っていた様子が、どうしても頭から離れなかっただけなのだ。

 

 視界が、白い光で塗りつぶされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<???>

 

 

 

 

 

「……あれ?」

 

 

 

 あまりの眩しさに目を開けていられなかったが、目を開けると、巡の周りの景色が一変していた。気づけば彼女は、大都会の大通りのど真ん中に突っ立っていたのだ。

 空は厚く黒い雲に覆われて薄暗く、妙な静けさで包まれている。嵐の前の静けさとでもいうように。

 

 この景色を、巡は知っている。

 

 

 

「ここは……もしかして、『みなとみらい』?」

 

 

 

 神奈川県横浜市の、みなとみらいのような、そんな景色。しかし、なぜそこに?

 大都会にしてはあまりにも静かすぎる。人の気配は、一切しない。

 

 遠くの方で、激しいそうな物音が聞こえる。特撮系のアニメでよくあるような、誰かが戦っていて、激しくぶつかり合っている衝撃音。その音は、地響きとなってこちらにも伝わってくる。相当激しい戦いになっているようだ。

 

 ────あの穴は、気軽に入ってはいけないものだったかもしれない。

 

 後悔しても時すでに遅し。凄まじい轟音が、高速で巡の方に近づいているのだ。

 

 

 

「え」

 

 

 

 振り返れば、何か黒く大きな物体が、ものすごい勢いでこちらの方に突っ込んできていた。巡は驚いて避けようとするが、立て続けに起きている不思議な出来事に頭が追いつかず、なんの反応もできずにいた。

 このままでは、あの黒い物体と激突してしまう。

 

 

 

「あぶなーいっ!!」

 

 

 

 黒いものから見えた紅く鋭い双眸を捉え、『死』の文字が漠然と思い浮かんだ時だった。瞬間、どこからか飛んできた誰かの声と共に巡の体がふわりと宙に浮いた。

 

 

 

「……?あれ、痛くない……」

「大丈夫!?」

「……え」

 

 

 

 痛みは感じない。むしろ誰かに抱えられて、足が地を着いていない。聞き覚えがある声を耳にして顔を上げれば、マゼンダのポニーテールの少女が心配そうに顔を覗き込んでいた。

 さっき出会ったプロトラブリーに似ているが、この子は精霊でもなんでもなく、本物の『キュアラブリー』だ。ラブリーによって、巡は間一髪のところで救われたらしい。先ほどから感じているふわふわした感覚は、ラブリーが空を飛んでいるかららしい。

 

 巡にぶつかろうとしていた黒い何かは大通りを過ぎていったが、それを追いかけて何十人もの少女たち────『プリキュア』が追いかけている。

 

 自分は、夢でも見ているのだろうか。

 

 アニメで知っているはずのキャラクターが、目の前で動いて、喋って、戦っているのだ。

 別に巡は、プリキュアに詳しいわけではない。どちらかといえば特撮の方が好きな人間である。けれど、知っているキャラクターが実際に動いているのを目の前にすると、妙な感動とワクワク感を覚えてしまう。

 

 

 

「ラブリー!」

「あ、プリンセス!」

 

 

 

 そんなことを呑気に考えていると、水色のツインテールのプリキュア、『キュアプリンセス』がラブリーの方に飛んでくる。

 

 

 

「先輩たちは!?」

「みんな向こうに行ったよ!『ネオフュージョン』の欠片もあっちに!」

「わかった!そ、その子逃したらラブリーも早く来てね!」

 

 

 

 口早に要件を伝えて、プリンセスもあの黒い物体を追いかけた少女たちの方に向かっていった。

 

 

 

「ネオフュージョン?あの黒いのが?」

「あれは欠片だから本体じゃないの。なんだか、ステフォン?っていうのを狙ってるみたいで…『今の声って巡ちゃん!?』おっと」

 

 

 

 ラブリーの言葉を遮るように、あのプロトラブリーの声が聞こえた。ラブリーの変身アイテムを入れているキャリーから、あのマゼンダのスマホらしき玩具ことステフォンが飛び出す。同じ顔が並んでいると妙なシュールさを覚えてしまう。

 

 

 

「あ、プロトラブリー。さっきぶりだね」

『さっきぶり〜じゃないよ!ど、どうして巡ちゃんここに!?』

「君があまりにも困ってそうな顔してたからつい勢いで……多分、できることがない気がするけど」

『え、えぇぇぇ!?』

 

 

 

 困っている様子が離れなれなくて勢いのままに穴に飛び込んできてしまったのだから、プロトラブリーも困惑する。側から見れば無謀だが、巡にとっては単なる心配から来ただけのことだ。

 

 

 

「二人は知り合いなの?」

「知り合いというか、なんというか、さっき会った振り以来というか」

『びっくりして違う世界に飛び出しちゃった時に助けてもらったの!』

「そっか!プロトラブリーとステフォンを助けてくれてありがとう!」

 

 

 

 そんな会話を交わしながら、渦中から離れたとあるビルの屋上に降り立ち、ようやく巡は地面に足をついた。

 

 

 

『ごめんね、私が来ちゃったから、みんなもネオフュージョンに狙われちゃってるのに…』

「ううん。気にしないで、ステフォンの中の私!私たちも、自分たちの世界を壊されたくないからね!」

 

 

 

 何か励ましの言葉をかけられているが、プロトラブリーの表情はどこか暗い。

 何やら気になる会話が取り交わされているが、巡だけはあの黒い物体がこちらに近づいてくることに気づいていた。あの黒い物体────彼女たちの言葉を借りるなら『ネオフュージョン』の欠片が、その腕をラブリーに伸ばしている。

 

 

 

「ラブリー!」

「大丈夫!」

 

 

 

 巡の声でラブリーは振り返り、伸ばされた黒い腕をハートの形をした光のバリアで受け止める。欠片の方のパワーが強いのか、バリアはすぐに破られてしまうも、すかさずラブリーはグーの形をした大きな光の拳を欠片に叩き込む。

 

 

 

「はぁぁぁっ!!」

『……!!』

 

 

 

 欠片は吹き飛ばされるが、すぐにどこかに消えてしまった。逃げ帰った、という雰囲気ではなかった。

 

 

 

「き、消えた?」

『まだ近くにいるのかも!』

 

 

 

 どこを見渡しても、それらしき人影は見つからない。一体どこへ……

 

 ぞわり。嫌な気配を背中で感じ取った。

 

 

 

「……っ!?」

『わっ!?』

 

 

 

 消えた欠片は巡たちの背後に現れ、その腕でビルの屋上の足場を崩したのだ。巡はすぐに安全な足場の方へ逃れることができたが、ステフォンはその衝撃に煽られ、足場の外に投げ出されてしまう。

 

 

 

『うわぁっ!?』

「ラブリー!!」

「ま、待って!……っ!?」

 

 

 

 ステフォンと、その中にいるプロトラブリーを助けようと、巡じゃ反射的に崩れた足場の方に飛び出した。そんな巡を助けようとラブリーもまた飛んで行こうとするが、現れた欠片に掴まれ投げ飛ばされてしまう。

 

 なんとかステフォンをキャッチした巡だが、飛び出した先は高層ビルの外。生身の人間が地面と遠く離れている場所から飛び出せば、どうなるかなんて気が知れている。

 

 崩れゆくビルの風圧に煽られて、巡は高所から落ちていってしまう。

 

 

 

 

『巡ちゃん!どうして?!このままじゃ巡ちゃんが!』

「そんな悲しい顔されたら、逃げ出せるわけないよ!」

『!!』

「あたしね、泣いてる人を見ると、どうしても体が飛び出しちゃうんだ……、本当、困った性分だよね……!」

 

 

 

 

 画面の中の彼女は、涙をこぼしていた。

 

 チラリと話を聞いただけでは判断できないが、このステフォンといいプロトラブリーといい、自分が狙われていることで周りの関係のない人たちが巻き込まれていくのをひどく恐れているらしい。それは、偶然出会った巡も含めて。

 おそらく彼女は、今回以外にも何回も同じ目にあって、同じ後悔を繰り返しているのだろう。

 

 

 

「大丈夫。君は一人じゃない。君が全部背負い込まなくていい。あたしじゃあんまり力になれないかもだけど、それでも君の、泣いている君の力になりたいって思うの」

『巡ちゃん……!』

 

 

 

 落ちていく二人を追うように。欠片の一部分がステフォンを狙って迫ってくる。それでも巡は、覚悟を決めた鮮やかな瞳で、迫り来る黒い物体を睨みつける。

 

 

 

「彼女の…誰かの悲しい涙は、見たくないし、流させないっ!そんなことを平気でする訳分からんあなたになんかに、やられてたまるもんかっ!」

 

 

 

 そう、啖呵を切った。

 

 

 

 

 

 その時だった。ステフォンのハートの飾りから虹色の光が溢れ出し、巡の体を包み込んだ。光の玉は緩やかに落下速度を落としていく。

 それを好機と捉えた欠片は、光の玉ごと取り込もうとするが、あまりの光の強さに消し飛んでしまう。

 

 

 

「何?何が起きたの?」

『ステフォンが、巡に反応した……?もしかして、巡になら、この力を使えるってこと……?』

 

 

 

 光に包まれた巡は、一体今の一瞬で何が起きたのかわからない様子。再び足が地に着いていない状態に。反対にプロトラブリーは、何か心当たりがあるような様子だった。

 

 

 

『巡!きっと巡になら、ステフォンに宿る(プリキュア)の力を使えるかも知れない!』

「え、ぷ、プリキュア?それって、アニメとかそういうのじゃなく、マジの?え、やっぱベルトが出てきて変身!みたいな」

『ベルトじゃないよ!“コンプリート・ステージON”。それが合言葉!』

「あーなんか本当っぽいねこれ。……でも、これであの訳分からん何かに対抗できるなら、あたしは遠慮なく使わせてもらうよ……!」

 

 

 

 

 

 目の前に浮くステフォンを構えた巡は、声高らかに詠唱する。

 

 

 

 

 

「コンプリート・ステージONッ!!」

 

 

 巡の体は、ステフォンの画面から溢れた光の渦に包まれていった。

 

 

 

 

 

 制服姿から桃色の光のワンピース姿となった彼女を囲うように、桃色の光輪が複数個現れる。

 

 光輪は両腕を通り抜けグローブを、両脚にはニーハイソックスとシューズを纏わせる。

 

 ふんわりとしたスカート、白とピンクを基調としたトップスに、桃色のハートが煌めく淡いピンクのリボン。

 

 ポニーテールが解けた髪は、淡いピンクに染まり、アクセサリーやティアラ、グラデーションを施していく。

 

 金色の髪留めは、ハートのアクセントが煌めくガラスの髪飾りに。

 

 まるで天使のような姿となった巡は、上空を目指して飛んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なに!?」

 

 

 なんとか欠片から抜け出すことができたラブリーは、突如として出現した光の柱に驚く。そこは確か、巡とステフォンとプロトラブリーが落下した場所とほとんど同じ。

 

 光の柱が収まると、崩壊したビルよりも高い隣の建物の屋上、その場所に、一人の少女が立っていることに気づいた。

 

 偶然、厚い雲の中からうっすらと刺した光が、その少女の姿を照らし出す。

 

 

 

 

 神々しさと美しさが混在した天使のようなコスチューム。

 

 変身アイテムとして使われたステフォンは、腰に下がったキャリーに。

 

 元々マゼンダだった瞳は、赤とピンクのオッドアイに。

 

 白に近い薄いピンクの髪は、ハーフツインに。

 

 ツインテールの毛束の先にかけて、12色のグラデーションが────いうならば、12人の戦士の髪の色に似ている色が施されている。

 

 

 

 その姿に、欠片もラブリーも、欠片を追っていた他のプリキュアたちも皆、その少女へ注目が集まる。

 

 

 

 

 

「現となりし、12の魂!キュアコンプリート!」

 

 

 

 そう名乗りを上げた少女が────繋巡ことキュアコンプリートが、今ここに顕現したのだ。

 

 

 

「コンプリート……!もしかして、さっきの……!」

『……!!!』

 

 

 

『や、やったあ!ステフォンがちゃんと反応してくれた!』

「……!おお、これは夢でもなくマジのやつだ」

 

 

 

 コンプリートは手を見たりくるりと一回転してみたりして、自身の姿を確認する。五体満足で、しかも体の底から力が湧いてくるような元気さもある。

 

 

 

「へえ、自分で言うのもなんだけど……可愛いね。このコスチューム」

『コンプリートォォォ……!!!』

 

 

 

 ラブリーに激しく抵抗されたであろう欠片が、今度は現れたコンプリートに対して強い反応を示す。それは嫌悪も憎悪も歓喜も、さまざまな感情がないまぜになって出ている呻き声のような音だ。

 

 

 

「さて……とりあえず、あなたの罪を数えてもらおうか」

『生意気な……!!!』

「うわっ!?」

 

 

 

 ラブリーをよそにコンプリートへ狙いを定めた欠片は、本来の姿らしい人型となってその拳を叩きつけようと迫り来る。

 しかし、コンプリートは軽く地面を蹴って、上空の方に欠片の拳を避ける。眼下には、みなとみらいの街並みが広がっている。元から高い場所にいたのもあるが、プリキュアに変身したことで身体能力も格段に上がっているらしい。

 

 

 

(体が軽い……!プリキュアってこんなに高く飛べるんだ……!)

 

 

 

 追ってきた欠片を、今度は軽い身のこなしでパンチを入れる。軽く力を入れただけなのに、欠片は大きくよろける。

 

 

 

『くっ…これならどうだ……!!』

 

 

 

 肉弾戦で敵わないならと、欠片は真っ黒なエネルギー弾をコンプリートに向かって撃ち出してくる。対抗手段がないコンプリートは、防戦を強いられてしまう。

 

 

 

「ええっとこれは……!」

『それなら私の力を使って!』

「ラブリーの?それってどういうこと?」

『こういうこと!』

 

 

 

『CureWeapon!Lovely!』

 

 

 

 キャリーに収納されたステフォンから音声が流れたかと思えば、光の玉が飛び出しコンプリートの手の中に収まる。それを握りしめると、光は、キュアラブリーのコスチュームを模したような『拳銃』へと形を変えた。

 

 

 

『キュアウェポン!コンプリートだけが使えるアイテムだよ!』

「まさかの拳銃?『ラブリーショットガン』ってこと?」

『名前かっこいい!今度からそうするね!』

「あ、名称がなかったんだ……でもこれなら……!」

 

 

 

 コンプリートが銃を構えて引き金を弾く。すると、銃口からは桃色のエネルギー弾が放たれ、欠片が放つエネルギー弾を突き破って欠片に命中する。

 

 

 

「おぉ、ラブリーすごいね」

『えへへ〜それほどでも〜』

 

『ぐ、ふざけた真似を……!!!』

 

 

 

 欠片からは明らかに先ほどまでの余裕はなく、コンプリートめがけて飛びかかろうとする。

 コンプリートは一度呼吸を整え、欠片の死角に潜り込む。

 

 

 

「それは……こっちの台詞だよ!」

『グゥ……ッ!!!』

 

 

 欠片のちょうどど真ん中に決まった右ストレートで、欠片が思い切り地面の方に叩きつけられる。

 プリキュア達が束になっても苦戦したフュージョンの一欠片相手に、たった一人で形成逆転してしまったのだ。プリキュア達も欠片も、何が起きているのか分からない。

 

 

 

「さて、あとは……」

『コンプリート!決めるよ!』

「ライダーキックで?」

『キックじゃない!』

「あ、そうなの?」

『ほら!両手に力を溜める感じに……』

 

 

 

 プロトラブリーのアドバイスの通り、コンプリートはその両手に力を入れてみる。

 すると光のエネルギーが両手に集まり、目の前に大きなハート型の桃色のエネルギー弾が展開される。

 

 

 

「行くよ!プリキュア・ポップンロケットシャワーッ!!」

 

 

 

 巨大なエネルギー弾は、無数の小さなハートとなって、叩きつけられた欠片を飲み込もうとする。

 

 

 

『こんな力など全て……何……?!』

 

 

 

 欠片はその力を吸収して逃げようとしたが、あまりのハートの数に力全てを吸いきれず、体内でどんどん飽和していく。

 やがて吸いきれず、欠片はハートの雨に飲み込まれて消滅してしまった。

 

 

 

 空を覆う雲が、少しずつ晴れ間をのぞかせている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おっとっと」

 

 

 

 再び大通りに降り立ったコンプリートは変身を解き、元の巡の姿に戻る。初めての変身に、飛び回ったせいか、一瞬だけ彼女はのしかかる疲労感と浮遊感で、地に足をついてよろめいてしまう。

 

 

 

「巡ちゃん!」

「あ、ラブリー」

 

 

 

 そんなコンプリートの元に、ラブリーがいの一番に飛んでくる。

 

 

 

「プリキュアって、結構体力使うんだね……君たちすごいよ」

『巡ちゃんすごいよ!ネオフュージョンの欠片をやっつけちゃった!』

「うんうん!あ、そうだ!他のみんなにも巡ちゃんのこと言っておかないと!」

「いいよ別に。あたしもなんだかんだあんまり長居できる気がしないし……」

 

 

 

 なんとなくだか、こういう世界に長居してはいけないような気がしたのだ。

 

 

 

「そうだ。このステフォン、あたしが使っちゃったし、あたしが持っていっていいかな?」

「え?」『え?』

「この力が狙われてしまう理由、わかった気がする。それに、今のところ使いこなせるのはあたしだけっぽいし」

『でも、それじゃ巡ちゃんが……』

「言ったでしょ。君が全部背負い込まなくてもいいって」

 

 

 

 笑顔で言ってのける巡に、プロトラブリーは不安そうに瞳を揺らす。そんな彼女を覗き込んで、ラブリーは声をかける。

 

 

 

「巡ちゃんも言ってるんだし、行っておいでよ」

『!』

「巡ちゃんなら大丈夫って、悪用しないって、なんとなくだけどそう思えるの。だから、信じてあげて」

『……巡ちゃん、いいの?』

「うん。でも、君に何があったかはちゃんと教えてもらうからね」

『……わかった』

 

 

 

 ようやく決心のついたプロトラブリーは、ステフォンごと巡の手元に収まる。巡の足元には、ここにくる時に見た『穴』が展開されていた。

 

 

 

『このワープホールから、元の世界に戻れるよ!』

「ワープホールっていうんだ。……それじゃあ、失礼しました〜」

「あ、待って!また会える?」

「わかんないけど、また会えたら覚えててね」

 

 

 

 そう告げて、巡はワープホールの中に消えていった。巡と入れちがうように、他のプリキュア達もこちらに現れる。

 

 

 

「ラブリー!さっきのプリキュアは?」

「さっき帰っちゃって……」

「ええ!?嘘!?」

「な、なんだったんでしょう、さっきの子は……」

「話してみたかったなぁ」

 

 

 

 ──また会えたら覚えていてね

 

 

 

 突然現れて今さっき帰ってしまった不思議な少女だったが、なんとなく親近感を覚えるような相手だった。

 いつかまた出会う日が来ればいいな。そう思うラブリーであった。

 

 

 

 空は、さっきまでの曇天とは打って変わり、青い空を取り戻していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ステフォンを見つけたのはいいんだけど、欠片だけを行かせるんじゃ力不足だったみたい」

 

 

 

 ────どこかの世界の、赤い月が照らす漆黒の城のとある一室。

 一人の少女が、ため息混じりに呟く。巡があの世界に迷い込んだ時に、どこかから見ていたらしい。

 

 

 

「も〜!なんでステフォンを使えるプリキュアがいるの!?アタシ聞いてないんだけど!」

「うるさいなあ、何かあったの?」

「聞いてよ〜!私がせっかく魔法で強くしたフュージョンの欠片、ステフォンの持ち主さんに倒されちゃった!」

「……え?ステフォンの持ち主が?いたの!?」

「彼女は、“あの後”姿を消したんじゃなかったんですか?」

「…あ、わかった〜!ステフォンがあれば変身ができちゃうから、誰かの手に渡っちゃったんだよ!」

「こ、これって『ブラック』に言った方がいいんじゃ……」

「あの人は今いないよ。……多分、また別の世界に行ってるんじゃないかな」

「え、えぇぇ!?」

「肝心な時にブラックがいないよ〜」

「あの人働かせすぎだってネオフュージョン」

「やっていいことと悪いことがあると思うんですよ、私」

 

 

 

 少女達は思い思いに会話を繰り広げる。

 

 それらは全て、『キュアコンプリート』や『ステフォン』に関することばかり。彼女達にとってそれらは、あまり良い印象ではないらしい。

 

 

 

「まあまあみんな落ち着いて。あの人が帰ってくれば言えばいいんだし」

「それに、ステフォンの新しい持ち主さんはきっと、世界を巡りに行くと思うよ?」

「な、なるほど!」

「その時に先回りすれば……!」

「ステフォンを取り戻せるかも!」

「でも、ステフォンの持ち主に対してどう立ち回るかは考えとかないと」

「なんだか楽しみだな〜」

 

 

 

 

 

 少女達のどこか嬉しそうな声が、部屋の中で反響している。

 

 

 

 

 

続く…

 




次回更新:4月13日(土)

いよいよ変身しましたね。そのうちキャラ紹介枠を作っておかないと。
多機能フォームで打つと本文の方にも適用されるのか……
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