PrecureStageON!   作:主氏レム

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第5章:巡とオールスターズの世界編
第37話:風邪っぴき巡、みなとみらいへ行く


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある世界の、神奈川県横浜市・みなとみらい。

 

 横浜の都心部はかつて、関内・伊勢佐木町地区と横浜駅周辺地区に二分されていた。

 この二つの都心を一体化させることで賑わいの場を確立させることでの横浜という都市の自立性の強化・海辺に公園や緑地を整備することでのウォーターフロント空間の整備や港湾機能の集積・東京に集中した都市機能の分担のため行われてきた再開発計画の末に誕生した地区が『みなとみらい』と呼ばれている。

 現在では開港の歴史が残る美しい建造物と都市的スポットが融合する、年間来街者数は500万人越えと横浜で1、2を争う人気の観光スポットとなっている。

 

 明治末期から大正初期に建設された歴史的建造物である横浜赤レンガ倉庫、みなとみらいの憩いの場である山下公園、200以上の中華料理屋が軒を連ねる中華街、遊園地のよこはまコスモワールドに、この地を代表する横浜ランドマークタワーなど、観光スポットをあげ出したらキリがない。

 

 

 

 さらにここは、『プリキュアオールスターズ』にとっては物語が動く大事な場所とも言える。

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 横浜ランドマークタワーの頂上────普通なら登れない屋上部分に、翼を生やした黒い闇の使者が、この世界を見下ろしている。この建物自体横浜の建物の中では一番高い建物なので、みなとみらい中を見渡せるようだ。人々は呑気に過ごしているようだ。

 

 思い返すのは、キュアコンプリートと衝突したやり取りばかり。

 

 

 

 

 

『君たちにも事情はあるんだろうけど、あたしにも退っ引きならない事情がある。……そう簡単に、君に譲ることはできない。ましてや、誰かを泣かせるような怪物を操る君たちには、絶対に渡さない』

 

 

 

『……っはぁぁぁぁっ!!』

『やっぱ押し返すのは若干重い……けど、負けないよっ!!』

 

 

 

『で……何しに来たの?またステフォン?』

『私はそれしかないんだけど。……ブルームから聞いたでしょ、私たちがステフォンを狙う理由を』

『……っ』

『うん。その上で渡さないって言ってる。あの世界も君たちのことも、助けたいからね』

 

 

 

 

 

 あのプリキュアは、初めの頃は自分を正しく敵視していたようだが、最近になって自分と戦う理由が自分を止めるため・助けるためと変わってきている。

 

 

 

 

 

『……ふぅ』

『……どうして攻撃を外したの』

『……』

『この世界を壊そうとした相手よ?この世界の自分にも酷いことして、あんただって腹わた煮え繰り返って……』

『別にあたし、今は君たちと戦う道理がそこまでないんだよね。それに、君の仲間が君のことを探しているって言ってたし』

 

 

 

 

 

 そして前回。とうとうあの少女は攻撃をわざと外し、こちらの身を案じる余裕すらも見せていた。ステフォンに宿る力に慣れてきたか、それとも真実を聞いた上でもまだ自分に手を差し伸べようとしているのか。考えれば考えるほど、頭の奥がズキズキと痛む。これ以上考えていたら、足を止めてしまう。

 奴に何かを注がれてから、自分の中で何かがおかしくなっている。おかしいことはわかっているのに、何が起きているのかは全くわからない。何のために戦っているのか、誰のために戦っていたのか、それすらも思い出せなくなっている。

 

 それでも確かなのは、ステフォンが必要だということと、自分はコンプリートを倒さなければならないということ。

 

 

 

 ────壊せ、全てを壊せ────

 

 

 

 

 

「……そうだ、壊さないと……」

 

 

 

 ぼんやりと、彼女の紅い瞳が揺れる。何かをして気を紛らわせないと、頭痛と苦しさで動けなくなりそうだ。

 あんなに嫌だった奴の悪事に対して何も感じられなくなっているあたり、自分自身の中で大きな異常をきたしているのだろう。それをどうにかする方法は、今のところ何一つ思いつかないが。

 

 

 

『貴様には是非、その世界へと向かってほしいのだ……世界を壊すために、貴様にとっての仇を討つために……』

 

 

 

 

 

「……待ってなさい、コンプリート。ここで全てを……」

 

 

 

 彼女の周囲に浮かぶのは、複数体のネオフュージョンの欠片の種。それらはみなとみらい中に散らばり、時がくればやがて芽吹き、怪物として世界を壊すために暴れ出すだろう。

 おそらく、欠片の数もその強さも、今まで以上の規模となる。この世界のプリキュアが全滅するのが先か、コンプリートが気づいて解決するのが先か……。

 

 

 

 闇の使者────ダークネスブラックは一人、その時を待つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……?」

 

 

 

 よこはまコスモワールド周辺の通り、ちょうどランドマークタワーが見えるあたりの歩道にて。一人の少女が何らかの気配を感じて立ち止まる。

 

 

 

「……気の、せい……?でも、誰かいたような……」

 

 

 

 少女の視線は、タワーの頂点部分に向いている。しかし、あまりにも高すぎてダークネスブラックの姿は見えていない。

 今日はプリキュアオールスターズのみんながみなとみらいに遊びにくる日。少女もまた、プリキュアの友達に誘われて集合場所に向かっている最中だった。

 

 

 

「……何も、起きなければいいな」

 

 

 

 こういう時に限って、だいたい何かの事件が起きることが多い。春休みに起きたフュージョン基フーちゃんの事件を始め、友達が夢から醒めなくなったり、涙が狙われたり……。色々なことは起きるけど、その度に友達が増えて、嬉しいこともたくさん起きる。

 

 青い空の下、少女はそんなささやかな願いを抱きながら、再び歩みを進めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第37話:風邪っぴき巡、みなとみらいへ行く

 

 

 

 

 

<巡の世界 心野宮・巡の家>

 

 

 

 

 

「めぐるーん、起きてー!」

「う、うぅん……」

 

 

 

 心野宮は12月。まだまだ第1週目の土曜日ではあるが、そろそろ年の瀬の空気が漂ってきた頃だろう。

 

 ステフォンの中から飛び出したプロトピーチに起こされ、巡がようやく目を覚ます。このところ休日は比較的遅起きになりがちのようで、よくプロトキュアたちに起こされている。

 スタンドロッドを召喚し始めた頃からこんな感じのようだが、前回の『ふたりはプリキュア』の世界では、残念ながら使っていないようで。おそらく相当な気力を使っている分の疲労が、睡眠時間の延長につながっているのだろう。次の世界へ飛ぶまでのスパンはまあまあ長い方だが、それでも尾を引いているのは確かだ。

 

 いつもなら起こされるとすぐに目を覚まして着替えに向かうのに、今日は上体だけ起こしたまま動かない。

 

 

 

「頭痛い……今何時……?」

「8時半過ぎたよ〜」

「あらそう……」

 

 

 

 ほんのわずかに顔色が悪く体調不良を訴えているようだが、本人はケロッとした顔ですぐにベッドから飛び起きる。その時、巡が若干よろけたような気がする。

 

 

 

「め、巡!?大丈夫!?」

「大丈夫……このところ喉痛かったり頭痛かったり、風邪引いたのかな……」

「風邪って……」

「土曜日は病院午前中しかやってないし、ひとまず朝ごはんついでに風邪薬飲んでくる……」

「わ、わかった……!」

 

 

 

 巡はどうやら自覚できるレベルで調子が悪いようで、寝巻き姿のまま部屋を後にした。足取りが若干ふらついているようにも見えて、後ろ姿を見送るプロトキュアたちは不安そうだ。

 初めの頃の巡であれば、「まあ大丈夫でしょ」くらいの感覚で熱を出していることを平気で隠しそうだ。……いや、今の巡でも心配するなと言いつつ隠しそうな気がする。

 

 

 

『め、巡、大丈夫かな〜?あの感じだと、熱も出てそうだけど……』

『今日はお家でゆっくりさせようね!』

『そうだね。めぐるん意外とアクティブだから……』

『大丈夫かなぁ、とてもじゃないけど嫌な予感がするナリ……』

 

 

 

 ステフォンの中では巡の身を案じる声が多数寄せられている。しかしてその嫌な予感は、ものの見事に的中してしまうのである。

 

 

 

 巡が部屋を出た数秒後、下の方でとても大きな物音が聞こえた。それも、誰かが勢いよくぶっ倒れた時のような。その後その音を聞きつけて、別の部屋から巡の姉である幸が慌てて部屋を出て階段を降りていく足音も聞こえた。

 

 

 

 

 

「め、巡……!?どうしたの……!?顔色も悪いし、あっついし……」

「さ、幸姉ぇ……渡瀬病院って土曜日やってたよねぇ……?とても具合が悪い気がする……」

 

 

 

『ああほらやっぱり〜……!』

『巡ちゃん……』

『あいつ本当……!』

 

 

 

 

 

 下でのやり取りを耳にして、プロトキュアたちはステフォンの中で頭を抱えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お邪魔します、幸さん」

「めぐるんのお見舞いというか、お留守番のお手伝いに来ました〜!」

「いらっしゃい。巡なら2階の部屋で寝てるよ多分。じゃあ、お願いね……」

「はい……」

 

 

 

 その日の午後、巡の体調不良と聞いてお見舞いにきた七星希奈子と、クラスメイトの日南千夏と帯刀廻が巡の家へと遊びにきた。幸に通されて、巡が寝ている彼女の部屋の方へと向かう。

 

 午前中に病院で診てもらった結果、巡はどうやら季節の変わり目による流行り風邪にかかってしまったらしい。11月の下旬から急激に気温が下がり、巡自体も数週間前から喉を痛めいていたこともあり、珍しく弱っていたところを風邪のウイルスが悪さをしてきたようだ。

 

 

 

「……巡にボーイフレンドかあ……」

 

 

 

 階段を上がる廻の後ろ姿を見ながら、幸は珍しいこともあるもんだと不思議がるのだった。あの、他人からの好意にはとことん鈍感な妹が、特定の男の子と急に距離を縮めているとは思っていなかったのだ。

 どちらに転んでも面白そうだなと、幸はひとまず考える。彼女たちを読んだのは、これから風邪をひいた妹のために、夜ご飯の買い物をするためだ。体調不良者を一人置いていくのはまずいと感じたらしい。

 

 

 

 

 

 

「繋、大丈夫か?」

「ん、帯刀、君?それにきなっちに、千夏ちゃん……いらっしゃーい……」

 

 

 

 部屋のベッドで、巡は額に冷却シートと枕がわりの氷枕、あったかそうな布団にくるまって、熱を出した時の完全装備で三人を出迎える。ちなみにベッド近くに設置された小さなテーブルの上には、水分補給用で買った200mlのスポーツドリンクのペットボトルがからの状態で置かれている。病院の自販機で購入したもののようだ。

 

 本当は起き上がったほうがいいのだが、体がだるくてどうも自由に動かない。

 

 

 

「ごめんねぇ寝たままで、今ちょっと具合悪くて起きれなくって……」

「あんまり無理しないでね巡。そのままでいいから」

「コンビニでスポドリとゼリーを買ったんだが……ちょうど良かったみたいだな」

 

 

 

 廻の手に握られていたレジ袋の中には、500ml入りのスポーツドリンクとフルーツゼリーが入っていた。廻からのお見舞いの気持ちらしい。

 

 

 

「嘘、買ってたの?……ありがとう……」

「お、おぅ……早く元気になれよ」

「インフルじゃなくて良かったねめぐるん。一応今心野宮で流行ってるって言ってたからさー」

「今ゼリー食べる?スプーン持ってくるけど……」

「きなっちお願い……場所わかるよね?」

「キッチンの食器棚でしょ?大丈夫よ」

 

 

 

 食器類は幼馴染で何回も巡の家に来たことがある希奈子に任せ、室内はクラスメイト同士だけの空間となる。

 

 

 

「めぐるん、インフルじゃなくて良かったね」

「正直インフルかと思ったけどね……」

「この時期にかかったらまずいだろ……」

「本当。気をつけてたんだけどなあ……」

 

 

 

 現在心野宮では、A型のインフルエンザが小中学生を中心に流行り出しているという。巡達の学校でもポツポツ罹患者が増えているようで、ある小学校では学級閉鎖になったという噂も耳にしている。

 むしろ巡本人は、インフルじゃなくて良かったと安心している。

 

 

 

「それにしても……久しぶりに熱を出したかも……」

「まあ去年は皆勤だったしねえ……」

「小2以来じゃないかしら?おたふくかぜ」

「ああ確かに。あの時は熱以外にも耳の後ろあたりで激痛走ってたから……」

「お前以外と、病弱なところあるんだな……」

「病弱ってか、主に小学生くらいの時が結構色んなのに罹ったような……」

 

 

 

 三人の会話の中に、スプーンやコップを持ってきた希奈子が戻ってきた。

 彼女からスプーンとゼリーを渡され、風邪っぴきの胃に優しいゼリーを食べながら、巡は再び会話に戻る。寂しかったところに友人が遊びにきてくれたことで、巡に少しだけ元気が戻ってきたようだ。ちゅるんと痛む喉を潤しながら通り抜ける甘いゼリーが染み渡る。

 

 

 

 改めて自分は、いい友人に恵まれたなと感慨深くなるのだった。

 

 

 

「とにかく、早く良くなれよ」

「うん……善処します……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 姉が買い物が帰ってきて、友人達が帰る途中だった。希奈子と別れた千夏と廻は、駅まで二人で歩いてる途中だ。

 

 

 

「あいつ、見るからに弱ってたな……」

「無敵の生徒会長も病には勝てないってことだよ多分。……帯刀、1学期の時よりもめぐるんと話すようになったじゃん」

「……なんだよ」

 

 

 

 周知の事実だが、帯刀廻は巡に対して好意を寄せている。4月から今日までにかけて巡に色々とアプローチをかけてきたが、巡が他人からの好意にとことん鈍感なせいで、周りから見るとほとんど進展がないように見える。しかし実際は少しずつ廻の方から話しかけに行くことが多かったり、巡が無意識に廻を意識しているのか……?と思えるような行動があったりと、ちゃんと進展はしている。

 千夏はそれを近くで見守っていたこともあり、廻の成長に自分のことのようにうんうんと頷いている。

 

 

 

「で、告白はいつすんの?」

「ぶっっっ」

「いやあ、そろそろ帯刀のちょっといいとこ見てみたいなあ〜???」

「日南お前ぇ……」

 

 

 

 クラスのギャルに煽られているが、実際彼も、いつ面と向かって告白しようかを悩んでいる最中だった。特に焦っているわけではないのだが、巡に自身の気持ちを知ってほしいとどこかで思っているのも否定できない。

 

 悩んでいる廻を見てか、千夏はスマホを操作してある画面を彼に見せる。

 

 

 

「……?」

「クリスマスぐらいにスケートリンクが期間限定でできるみたいだし、ついでで告白してみれば〜?」

「こっ……!?」

 

 

 

 クリスマスツリーのライトアップもあるっぽいしめちゃめちゃロマンチックだよと言う、聞いてもいないアドバイスを耳にして少しだけ考え込む。

 

 

 

「か……考えとく」

「ま、頑張りなよ?成功したらクラス全員で祝うからさ」

「なんで全員知ってるんだよ……」

「だって帯刀がわかりやすすぎるんだも〜ん」

「あ、おい!……ったく……」

 

 

 

 詳しく話を聞きたかったが、駅の乗り場が違うからと言う理由で千夏に逃げられてしまう。一人駅のホームに残されるが、先ほど千夏が見せてくれたサイト画面のようなポスターを目にして立ち止まる。

 『冬季限定屋外スケートリンク』と言う話を聞いて、なんとなく帯刀もそのイメージを想像する。夜になればイルミネーションで聖夜を彩る。その中で告白するのは、かなり夢みがちではないだろうか。

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

 ……ひとまず、この話は巡が復活してからすることにしようと考えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……36度7分。熱は上がってないからほぼ平熱だね」

『よ、良かったぁ……!』

 

 

 

 2日後の月曜日の午後、安静にしていたおかげかすぐに熱は下がったようだ。しかし完全復活というわけにもいかず、本日は様子を見て学校はお休みにしてもらっている。

 ようやく元気になった巡の姿を見て、ステフォンの中のプリキュア達は心底ホッとした様子で声をかける。

 

 

 

『巡、もう大丈夫なの?』

「一応。君たちも心配かけてごめんね」

『ううん、巡ちゃんが元気になって良かったよ〜!』

「まあ、今日はひとまず安静にしとけって言われたし……」

 

 

 

 大人しく寝ていますと言おうとしたその時だった。ステフォンからあのけたたましい着信音が鳴り響いたのだ。今回は巡が部屋に一人だけなので、余計にうるさく聞こえてしまう。あまりのやかましさに姉が何事だと聞きつけてきそうだが、奇跡的に姉が登校中のため、その心配はしなくても良さそうだ。

 ただ音声は、以前『ハピネスチャージプリキュア!』や『ドキドキ!プリキュア』の世界に訪れる前にも流れたことがあるものと同じだ。

 

 

 

「……!?」

『こんな時に!?』

『頼むからタイミング考えて!?巡ちゃんは病み上がりなんだよ!?』

『いや、あいつらが知るわけないし……』

 

 

 

 この前の『ふたりはプリキュア』の世界といい、少し頻度が高くないか?こちらを呼んでいる闇の使者は今のところただ一人しか思い浮かばないが、相当ステフォンを欲しているようだ。

 

 

 

「今度はどの世界?うちかな?」

『また巡の世界!?で、でもこの近くで気配は感じないし……』

 

 

 

 『WorldTrip』の画面を確認すると、赤枠になっていたアイコンは真ん中の巡の世界を表すマーク……ではなく、全く知らないもの。ハートを模った形に筆記体の“P”が描かれただけのシンプルなもの。

 

 

 

「いつの間に……?誰かこのマークに見覚えは?」

『知らないよ!?……えぇ……?なにこのマーク……』

「……どうしよう。行ったほうがいいんだけど、こっちは病み上がりだしなあ……」

 

 

 

 流石の巡も、病み上がりすぐに動き回って大丈夫なのかという自制心は持ち合わせている。ただ、あのけたたましいアラーム音が鳴った時はすでに大量の欠片が出現していることしかなかったので、こうして悩んでいる間にも、この世界にいるプリキュア達が追い詰められているのも事実。

 

 散々悩んだ末に、巡は例のアイコンをタップし、足元にワープホールを出現させる。

 

 

 

『め、巡!?あんた正気!?』

「いやあ割と悩んでるよ?……でも、ここで拒否できないのがあたしだって君らも大体わかってきてるでしょ?」

『た、確かにそうだけど……』

『巡ちゃん!具合が悪くなってきたらすぐに言ってね!』

「うん」

 

 

 

 

 

 いつもより雰囲気の違う何かを、ワープホールの奥につながるまだ見ぬ世界から感じてしまう。足がすくんでいるわけではないが、なんとなく躊躇心が出てしまう。それでも、ここまでして逃げるような巡ではない。巡は一歩踏み出し、ワープホールの中に飛び込む。

 

 星の様な煌めきが、虹の様なゆらめきが、自室の距離をどんどん遠ざけていく。出口は、すぐ近くに現れそうだ。この先、どんな世界が広がっているだろうか。果たして巡は倒れずに進んでいけるだろうか。

 

 

 

 視界が、白い光で塗りつぶされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あれ!?ここって……!』

「ここ、流石に見覚えがありすぎるよ」

 

 

 

 光が収まり巡が降り立ったのはなんと、神奈川県横浜市はみなとみらい・山下公園。プリキュア特有の架空の街とかではなく、巡の世界にもしっかりと実在する街だ。

 

 

 

 

 

<プリキュアオールスターズの世界 神奈川県横浜市・みなとみらい>

 

 

 

 

 

 関東大震災の瓦礫の埋立地に昭和5年3月に開園したこの場所は、海や記念碑に歌碑、横浜ベイブリッヂに港を行き交う船など、見どころが多い観光スポットでもある。またこの公園はバラの名所でもあり、毎年春と秋の時期には、未来のバラ園にたくさんのバラが咲き誇るという。

 巡の世界ではがっつり冬に直行しそうな気温だったが、こちらの世界ではまだ初冬……という感じだろうか。流石に一枚羽織ってくれば良かったかなと後悔する。絶対に風邪をぶり返す気がする。

 

 奇跡的に周囲に人の気配はなく、世界ではなく場所だけ移動したのか?と疑ったが、そういうわけでもないようだ。

 明らかに自分の見覚えのないような雰囲気があり、空も闇の使者やネオフュージョンの何かが悪さをしている時のような黒く厚い雲に覆われ、空の色を隠している。

 

 

 

「みなとみらい……何で?」

『そういえば、初めてドリーム達みたいな他のプリキュアの存在を知ったのも、ここだったような……』

『うんうん。あの時はフュージョンが現れて大変だったよね!』

 

 

 

 ステフォンの中でドリームやピーチがそんな会話をする。どうやらこのみなとみらいという街は、プリキュアオールスターズにとっては思い出深い場所のようだ。そういえば最初のオールスターズ映画ではこの場所が舞台になっていたと後輩が言っていなかったか。

 さらにいえば、自分が初めてプリキュアに変身したときも、ある世界のみなとみらいではなかったか。

 

 

 

『……おかしい。こんなに空は暗くて嫌な気配しかしないのに、どうしてどこにも欠片がいないの……?』

『まだ潜伏、してるのかな……?』

 

 

 

 メロディとフローラがステフォンの中から飛び出して周囲を確認するが、今のところ妙な静寂が町を包んでいるのと、欠片の気配が至る場所から感じている以外は、なにもおかしなことが起きていない。

 

 しかしこのまま警戒していても埒が開かない。ひとまず変身して周囲を探索したほうが良さそうだと考えた巡がステフォンを構えようとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ザケンナーァァァ!!!』

『ウザイナーァァァ!!!』

『コワイナーァァァ!!!』

『ホシイナーァァァ!!!』

「……!!」

 

 

 

 刹那、どこからか怪物の咆哮が響き渡る。上を見上げれば、巡の変身を阻止するかのように飛びかかろうとする数体のネオフュージョンの欠片達が、さまざまな怪物達の姿で出現したのだ。

 

 

 

『え、えぇぇぇ!?たくさんいる〜!?』

「いや多すぎでしょっ」

『巡!一旦ここから離れよう!』

「そうだよね」

 

 

 

 流石に変身できる隙が見つからず、巡はステフォンの中のブルームに言われて怪物の落下地点から全力で離れ、逃げることを優先するしかなかった。

 走る巡と、追いかける欠片達。いくら生身といえど向こうも本気すぎやしないかというツッコミは置いておき、公園から街の中の方へと向かう。

 

 

 

『ソレワターセェェェ!!!』

『キキーッ!!!』

『ネ〜〜ガ〜〜ァァァ!!!』

「いやいやいやいや、カオスかな???」

『挟まれた!?』

 

 

 

 逃げ場を無くされた巡が困り果てている中、とある一人の少女が目の前に現れ、巡の手を引く。

 

 

 

「こっちだよ!」

「!!」

 

 

 

 赤いシュシュと茶色のツインテール、茶色の瞳、年相応の服装、少し大きなショルダーバッグ。一見、どこにでもいそうな少女によって、巡は欠片達に挟まれそうだったところを助けられたようだ。少女は巡と共に狭そうな路地の怪物達が入り込まなそうな場所で一度立ち止まり、スマホらしきアイテムを使いながら誰かと会話している。

 

 

 

『あゆみちゃん!そっちは大丈夫!?』

「私は大丈夫だよ、みゆきちゃん!」

『よ、良かった〜!あたしたちも今、のぞみちゃんや響ちゃんたちと合流したところだよ!あゆみちゃんも、危なくなったらすぐに逃げてね!』

「わかったよ。みんなも気をつけてね!」

 

 

 

 あゆみと呼ばれた少女の話し相手は、『スマイルプリキュア!』の星空みゆきのようだ。

 みゆきが他のシリーズのキャラクターである『Yes!プリキュア5go!go!』の夢原のぞみや『スイートプリキュア♪』の北條響を認知しているあたり、この世界はプリキュアオールスターズという概念が存在する世界のようだと、巡はここで理解する。

 

 

 

 それなら、プリキュア達と仲の良いあゆみは彼女たちの協力者というような立場なのだろうか。

 

 

 

「……!君は一体……?プリキュアの人たちと仲良さそうだけど……」

「私は坂上あゆみです。……あなたも、プリキュアを知っているの?」

「あ、えっと……色々あってね。君も?」

「わ、私も色々あって……」

 

 

 

 無意識に自分がプリキュアのことを知っている人物だと悟られて微妙な誤魔化し方になったが、あゆみもあゆみで何か訳ありでプリキュアのことを認知しその正体を知っている側の人間らしい。それなら別に自分がプリキュアだということを言ってもいいかと話し出そうとした。

 

 

 

『アカンベ〜ェェェ!!!』

『ジコチューゥゥゥ!!!』

『サイアーァァァク!!!』

『上に!?』

 

 

 

 しかしそう呑気にやっている場合ではない。上空を自由に飛び回るタイプの欠片に見つかってしまい。巡とあゆみに襲い掛かろうと、建物を破壊しながら無理やり路地の方に入り込もうとする。

 

 

 

「やっば見つかった」

「こ、ここから出よう!」

『ゼツボーォォォグ!!!』

『ヨクバーァァァル!!!』

『〜〜〜〜!!!』

 

 

 

 二人は路地を抜け出して再び広い場所に出て別の隠れ場所を見つけるために走り出す。しかし二人を見つけた別の欠片達が腕を伸ばして捕まえようとする。こうなったら早く変身してあゆみを守らなければとステフォンを構えようとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「はぁぁぁぁぁっ!!!」」

『ヨクッッッ!?』

 

 

 

 飛びかかろうとした怪物一体に、聞き覚えのある黒と白の声と共に鋭い蹴りが決まった。欠片は二人分の勢いにやられて吹き飛ばされてしまう。

 さらに別の一体にはハート型のエネルギー弾、もう一体には光のクリームが放たれ、一瞬にして浄化され消滅していく。

 

 

 

「この声は……!」

 

 

 

 二人の前に現れたのは、キュアブラックとキュアホワイトとシャイニールミナス、『ハピネスチャージプリキュア!』の4人と、『キラキラ☆プリキュアアラモード』の6人だった。

 

 

 

「良かった!間に合ったみたい!」

「あゆみさん、大丈夫?」

「ブラック!ホワイト!みんな!」

「……あれ?君って確か……」

 

 

 

 プリキュアの登場にあゆみが安心して巡が混乱する中、ラブリーが巡の顔を見て何か覚えがあるような声を出す。ラブリーの反応を見て、巡も何かのデジャヴにも似た不思議な感覚を覚える。

 

 

 

 オールスターズの世界、みなとみらい、初めて変身した世界もみなとみらいで……そこまで考えて、巡の中でとある予想が浮上する。

 

 

 

 

 

 

「……もしかして、あたし一度君に助けられてた……?」

『え?』

「そうそう!ネオフュージョンに襲われそうだったところを見つけて……あぁ!じゃああの時の!?」

「マジか……」

『……あ!そういうこと!?』

『え、何!?何が起きてるの!?』

 

 

 

 ラブリーの反応やプロトラブリーの思い出した顔に、他のプロトキュアやプリキュア達が置いてけぼりを喰らっているが、巡の中で思い浮かんだ予想が当たったようだ。

 

 

 

 

 

 思い出してほしい。繋巡がキュアコンプリートに覚醒する前、彼女はステフォンを追いかけてオールスターズの世界に迷い込んだことを。そこに現れた怪物によって襲われそうだった時に、キュアラブリーによって助けられていたことを。巡ならステフォンを悪用しないと信じて、プロトラブリーの背中をこの世界のラブリーが押してくれたことを。

 

 

 

 

 繋巡は以前にも、この世界に来ていたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

『ワープホールっていうんだ。……それじゃあ、失礼しました〜』

『あ、待って!また会える?』

『わかんないけど、また会えたら覚えててね』

 

 

 

 

 

「……まさか、本当にまた(・・)この世界に来ることになるなんて……」

また(・・)会えたね、巡ちゃん!」

「もしかして、あの時ラブリーが言ってた……」

『こんなこともあるんだね!』

「え……?」

 

 

 

 そして他のプリキュア達も、ラブリー伝いで巡の話を聞いていたために、あの子があの少女なのかと理解する。

 何度も言うが、今は呑気に再会を喜んでいる場合ではない。この立ち止まりのおかげで、欠片達が数体集まってきたようだ。

 ただ悪いことばかりではなく、欠片たちは巡にようやくゆっくりと変身させてくれる暇を与えてくれたようだ。

 

 

 

「……一体この世界で何が起きているのかは後で聞くとして、やばそうだし手伝うよ」

「め、巡ちゃんもプリキュアなの?」

「うん。……さっきから欠片が全く変身させてくれなかったけど。あゆみちゃん、今のうちに少し離れてて」

「わかった。……ブラック、私()後で向かいます」

「ええ、あんまり無理しないでよ?」

 

 

 

 あゆみはブラックと意味深な言葉を告げて、欠片達が立ち止まっている好きに他の場所へと走り出す。彼女の逃走を逃さないと言わんばかりに欠片が追いかけようとするが、ジェラートが放った氷の礫がそれを阻む。

 

 

 

「ここから先へは行かせねえぞ!」

「せっかく今日はみなとみらいであゆみちゃんや他のプリキュアのみんなと遊ぶ約束だったのに、邪魔するなんて許さないんだから!」

「こっちは病み上がりだよ?これでぶり返したらそっちの責任だからね?」

『巡に関しては本当にそう』

 

 

 

 巡含めそれぞれ今日の予定を潰されたり呼び出されたりで、割と散々な目に遭っていたようだが、ひとまず先に欠片の対処が先だ。全ての不満はネオフュージョンにぶつけるしかないとして、巡は改めてステフォンを構える。

 

 

 

「さて、覚悟はいいよね?コンプリート・ステージON!」

 

 

 

 巡は光に包まれ、プリキュアの姿へと変身していく。

 

 

 

 

 

 プリキュア達は、横浜マリンタワーが見える中華街近くにいる14人以外だけではない。

 

 

 

 コスモクロック21が見える遊園地周辺には『Yes!プリキュア5go!go!』・『スイートプリキュア♪』・『スマイルプリキュア』が。

 

 横浜スタジアム周辺にはキュアブルームとキュアイーグレット・『ハートキャッチプリキュア!』・『魔法つかいプリキュア!』が。

 

 横浜三塔周辺には『フレッシュプリキュア』・『ドキドキ!プリキュア』・『go!プリンセスプリキュア』が。

 

 

 

 主に4つのエリアを中心に欠片達が大量に出現し、すでにプリキュアオールスターズ達が手分けして欠片の侵攻を食い止めようと戦っているところだったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「現となりし、12の魂!キュアコンプリート!」

 

 

 

 

 

『CureWeapon!Lovely!』

 

「……んじゃ、さっさとやっちゃおうか」

 

 

 

 ようやくプリキュアの姿となったコンプリートは、迫り来る欠片達を前にキュアウェポンを構えるのだった。

 

 みなとみらいを舞台に今、プリキュアオールスターズとネオフュージョンとの戦いが始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(確かに今、ここでブラックの気配を感じたような気がしたのに……)

 

 

 

 横浜ランドマークタワーの頂上。ダークネスブラックを探しにこの世界へとやってきたダークネスラブリーが辺りを見回している。

 しかし、みなとみらい中が怪物の姿をしたネオフュージョンの欠片で溢れかえって、それらに立ち向かうプリキュア達の姿が見えるだけで、あの人の姿はどこにも見当たらない。

 

 

 

「……ブラック、どこに行っちゃったんだろう……」

 

 

 

 あの人がどこにも見つからずに困り果てるダークネスラブリー。

 

 彼女の脳裏によぎるのは。まだ闇の使者になる前の自分たちのこと。■■■の国から溢れていたネオフュージョンの侵攻を止めるために戦う自分たち。■■■がプリキュアになってから、欠片達は■■■のことを狙うようになっていた気がする。

 

 

 

 しかし、■■■は力に飲まれて世界を壊してしまった。これが正史のはずなのに、ラブリーはどことなく違和感を覚えていた。■■■の最期は、そんなに苦しく虚しいものだったろうか。以前思い出したものは、一体なんだったのか。

 

 

 

 

「……!あれは……」

 

 

 

 

 思考を巡らせている中、遊園地の方で欠片達と戦っているプリキュア達の姿を目撃する。他のプリキュア────特にキュアブラックがいるところに、あの人は現れるかもしれない。

 

 

 

 そう考えたダークネスラブリーは、この世界のプリキュア達に姿を見られないように慎重に近づくのであった。

 

 

 

 

 

続く…

 




次回更新日:8月4日(日)
推しの誕生日イラスト、今年は描かねえと
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