PrecureStageON!   作:主氏レム

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真実さらに開示のお時間です


第43話:ステフォンは見た!優しきプリキュアの想い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────私は今まで、たくさんの罪を重ねてきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アイツに世界を壊されて、ほのかたちもどこかに消えて、ネオフュージョンに闇の使者としての身体を与えられてから────闇の使者として生きるようになってから、私はどれだけの人を傷つけてきたのだろうか。

 今更ながらに、ネオフュージョンの手を取るべきではなかったんだと考えてしまう。

 

 生き残ったみんなを守るために、ネオフュージョンの言われるがままに、私はたくさんの世界を壊して、たくさんの人たちを悲しませて、たくさんのプリキュア達をこの手で倒してしまった。

 

 私が知らないプリキュアを相手することが多かったけど、中には私が知っている子達を攻撃することもあった。……もちろん、ほのかのことだって、別の世界で何回も手にかけたことがある。

 

 

 

 

 

『大丈夫、■■■が■■■のことを守るから……!』

『私が……あなたを止めてみせる……っ!!』

『どうしてこんなことを……!ねえ、どうして……!?』

 

 

 

 

 

 ぶつけられた怒り悲しみは数知れず。私だって嫌だった。私と同じ立場の人たちに、大切な人たちを失ってしまった時の苦しくて悲しくてどうしようもない気持ちをぶつけられるのが怖かった。

 

 それでも私は彼女達を傷つけるしかなかった。私の仲間達に私と同じような苦しみを味わって欲しくなかったから。

 

 

 

 

 

『だって!あなたが一番苦しそうなんだもんっ!!』

『私たちじゃ、あなたの力になれないの……?』

『そんなことしたって、楽しくないじゃん……』

 

 

 

 

 

 同情されて向けられた憐れみをも数知れず。どうして被害者のあなた達が悲しむの?あんなことした私が、あなた達に許されるべき立場ではないのに。

 

 それでも私はや彼女達を裏切るしかなかった。自分には、彼女達の同情心を素直に受け取る筋合いはないのだから。

 

 

 

 

 

『大丈夫だよ。一人で悩むより、みんなで解決しようよ!』

 

 

 

 

 初めて私に手を差し伸べてくれたあの子も、私の手で壊してしまった。

 

 ごめんね。私はその手を取れない。取ってはいけない。私の手は、誰かの憎しみと悲しみと自分の罪の意識で真っ黒に汚れてしまったの。その真っ白な手を、汚したくなかったの。

 

 

 

 

 

 けれど心のどこかでは、私の行いを誰かに止めて欲しかったのも事実。これ以上苦しみたくなくて、誰かに楽にして欲しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも、これだけは信じてほしい。……君たちがいた世界に、ホワイト以外のみんなの魂が集ってるの」

 

 

 

 

 

 その話を聞いた時、私は嬉しいと感じた裏で今までやってきたことが全て泡となって消えていくような虚無感が胸を満たした。

 あの少女は、私がやろうとしていたことをすでにやっていて、ただまっすぐな気持ちでステフォンと共にあの世界を元に戻そうとしていた。

 

 最初のあの子は、どうせアイツ(・・・)のようにステフォンの力に振り回されて壊れてしまうんだと思っていたのに。あの子は、あのプリキュアは、振り回されることなく、むしろあいつよりも使いこなして世界を巡り、あの世界のプリキュアのみんなを集めていった。

 あの子に対しての嫉妬や焦りがあったのかも知れない。私が助けなきゃいけないのに、どうして何も知らないあの子が頑張っているのか、理解しようとしなかっただけなのかも知れない。

 

 

 

 

 

 あの子は、繋巡は、純粋にステフォンの中に入ってしまったラブリー達のために、闇の使者になった私たちが苦しまないために、こちらの事情を変に深く突っ込まず頑張っていただけなのに。

 

 

 

 

 

「それに……あなたも気づいてるでしょ。あの世界に、みんながいるってことを」

 

 

 

 

 

 気づいてるよ、ドリーム。あんたもブルームも、あの世界に行くたびに増えるる気配に違和感を感じていたんだから、私もちゃんと気づいてたんだよ。でも、信じたくなかったの。……本当に、私がやってきたことの意味がなくなってしまうから。

 

 

 

 

 

「大丈夫だよ。一緒に……巡や闇の使者になったみんなとも一緒に、あの世界を元に戻す方法を見つけようよ!」

 

 

 

 

 

 ラブリー、元に戻ったんだね。なんだか久しぶりに笑顔を見た気がするよ。

 ……でも、今更私がその手を取ってもいいのかな?……もう、私は救えないほど道を外してしまったのに。どうしようも、なくなっちゃったのに。

 

 

 

 

 

「資格も何も、関係ないわ!」

「これからやり直していけばいい、そうでしょ?」

 

 

 

 

 

 別の世界の私やホワイトまで、その手を取れと言ってくれている。あなた達の世界に欠片をたくさん放ったり、私のせいでこんな状況に巻き込まれてしまったのに、二人はとっても優しいんだね。

 

 

 

 

 

「あなたも私たちもこれまでたくさん傷ついたんだから、今更汚れたって気にしないよ」

 

 

 

 

 

 あなたにはきっと、一番迷惑をかけちゃったね、ブルーム。他のみんなのことをあなたにばかり任せちゃったし、私があなたに酷いトラウマを植え付けちゃったし。……私のことを一番嫌いになったっておかしくないのに、あなたはずっと、気にしないで私のことを信じてくれてたのね。

 

 

 

 

 

 みんなを信じて、私は、光が差す方へと手を伸ばそうとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……しかし、伸ばされたラブリーの手を取ることはできなかった。

 

 ゆっくりと視界がぼやけて、下の方へと落ちていく。

 

 

 

 

 

「……え?」

「……!!」

 

 

 

 

 

 瞬間、腹部の方に異様なほどの激痛が遅れて走る。膝をつき腹を押さえつければ、真っ黒な闇でできた槍がいつの間にか貫通していた。

 

 この槍を放ったのは、アイツしかいない。

 

 

 

 

 

『興醒めだ……簡単に分かり合えるようではつまらないだろう……』

「……ネオフュージョン……お前、やったな」

 

 

 

 

 

 コンプリートの呆気に取られたような声と、ラブリーの悲鳴が木霊する中、私はまだ許されちゃいけないんだという意識が頭の中を支配した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第43話:ステフォンは見た!優しきプリキュアの想い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────その状況に、誰も理解が追いつかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今起きたこの一瞬の出来事がじわじわと現実味を帯び絶望感が増していくとともに、ああやっぱり奴が怪しかったかんだという怒りが込み上げてくる。

 コンプリートが発した「お前やったな」に込められた感情は、どちらかといえば奴によるまさかの横槍に動揺している気持ちが入っている。

 

 

 

「……しかも、ぬるっと入ってきたし……」

『気にするところそこ……?』

 

 

 

 どんな状況であれコンプリートの焦点がズレているのはもはや天性なのだろう。もしくは、衝撃的なものを見たから逃避したいとどこかで感じているだけなのかも知れないが。

 

 槍で貫かれたダークネスブラックは、膝をついて激痛に身を悶えている。すぐに槍を抜かないあたり、抜いたら抜いたでもっとひどくなるとわかっているのだろう。

 幸いなことに闇の使者の体はやはり人の形に似せただけの人形のようで、刺されたところから血液らしきものは流れておらず、その場が血生臭くて酷い殺人現場になるというような感じではない。だとしてもこの状況が異常なのだ。

 

 

 

「……は、ぁ……!?」

「うそ……!?」

『さ、刺されて……え……!?』

「ブラック……!?ブラック!!」

 

 

 

 同じように一部始終を見ていたブラックとホワイト、プロトキュアたちやダークネスドリームも混乱して、痛みに苦しんでいるダークネスブラックを心配し彼女の元に駆けつけようとする。

 しかし、苦しむ彼女はネオフュージョンによって浮遊し、彼女達との距離を無理やり離されてしまう。これでは手を伸ばしても届かない。

 

 

 

『実に愚かだな……、貴様如きが今更手のひらを返して許しを乞うつもりか……?』

「……っ、ぅ……」

「ッ、ネオフュージョンッ!!!」

『その拳をどうするつもりだ?貴様らの肉体を作り出したのはこの我だ……貴様らなんざ一瞬で掌握できるのだぞ……?』

「〜〜〜〜ッ!!」

 

 

 

 地響きのような音声と共に呆れ返るような声色で語りかけるネオフュージョンに対し、ダークネスブルームが殴りかからん勢いで激しく怒りをぶつける。しかし奴に脅しとも取れる文言であしらわれてしまい、どうにもならない感情以外が空振る結果となる。

 

 一方のラブリーは悲鳴をあげたのちに、宙に浮いているダークネスブラックと、彼女を刺した犯人であるネオフュージョンを交互に見て混乱する頭を落ち着かせようとしているが、効果はない。

 

 

 

「……どういうことなのこれは」

『貴様がステフォンの持ち主とやらか……奴とよく似ている……』

「奴と……ジュンさんを知ってるの……?」

「ジュン……?」

「その名前、どこかで……」

 

 

 

 なるべく冷静さを保とうとするコンプリートの質問に答えることはなく、ネオフュージョンはコンプリートの姿とキャリーの中に入っているステフォンを紅い双眸に映し、僅かに目らしき部分を細める。

 『奴』という存在を提示され、前に夢の中で見たステフォンの本当の持ち主の姿が思い浮かんだ。……あの世界でもネオフュージョンが世界を支配するために動いていたから知っていてもおかしくない話ではあるのだが。

 

 コンプリートが出したジュンの名前に、闇の使者のブルームとドリームがわずかに首を傾げる。どこかで聞いたことのあるような気がする、と言ったような反応だ。プロトキュアでも名前を聞くまで思い出せなかったのだから、彼女達の記憶の中でも『ジュン・ソヴァール=ブレス/キュアクルセイダー』の存在が消えているようだ。

 

 

 

『ああ、知っているとも。……奴は力に飲まれ、我や本来の世界を大きく傷つけたプリキュアだったな……』

『じゅ、ジュンが、世界を……』

「……あたしは、あの優しい人が意味もなく力に飲まれて暴れるような人ではないと考えてる。……何かしらが、あったんだって」

『コンプリート……』

 

 

 

 ネオフュージョンの言葉に、今のところ嘘偽りは感じられない。もちろん闇の使者やプロトキュア達はそれを知っているし、コンプリートも納得はしている。

 実際に過去の話を聞いた時も、キュアクルセイダーが力を解放したことで暴走し、その影響であの世界が崩壊してしまったと言っていた。

 

 ただし、どうしてクルセイダーが力を解放していたのかはまだ判明していなければ、あの優しい少女があそこまで壊れてしまうかという疑問も残っている。もうひとついえば、どうして世界を壊した少女が『ステフォンに想い、壊れた世界に私たちが集まれば、世界に変化が訪れる』という言葉を残したのかも気になるところだった。

 

 

 

 

 

 そして今、ようやく心を開いたダークネスブラックが手を取ろうとした途端に、傍観を決めていたネオフュージョンが彼女へ痛手を負わせたのだから、コンプリートの中では“とある予感”が確信へと変わりつつあった。

 

 

 

 そもそもの話、元からあの世界を奴が侵攻していたとはいえ、漫画やアニメでよく見るような、ピンチの時に都合よく目の前に現れるだろうか?……世界を支配するような奴が、世界を守る立場の人間のピンチに進んで手を伸ばすだろうか?そういう場合は大抵裏があるものではないだろうか?

 奴も奴で世界を壊して真っ暗闇にするという本能で動いている面もあるので、戦力が増えれば増えるだけいいとは思っていそうだが、それでも奴がわざわざ壊れた世界のプリキュアを選んだ理由がわからない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ネオフュージョン、何か知ってるんじゃない?」

「……!」

『え……』

「はぁ……?」

『……何故、そう思う?』

 

 

 

 コンプリートの、突飛とも言われかねない静かな問いかけに、闇の使者とプロトキュア達が困惑する。彼女達には記憶が一部消えている分、覚えているものだけで見たら、クルセイダーが壊したという事実だけが強く根付いている。

 体の自由を奪われ、貫かれた腹部の激痛を堪えながらも、ダークネスブラックが朦朧としていた意識でコンプリートの方を向く。

 

 もちろん、壊したのは彼女だ。その事実は変わらない。変わらないのだけど、疑問が残る部分が多いのだ。

 

 

 

 

 

「何故って……説明がつかないところがあるの。一番大きいのは、どうしてキュアクルセイダーが、暴走する危険もあるのに力を解放していたのか。……それこそ、あなたみたいなヤバい存在と、直前まで戦っていて油断してたとしか────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこまで言ったその時だった。

 

 コンプリートがなんらかの『真実』に辿り着きそうな発言に反応したのか、キャリーの中のステフォンの画面から、見たことのない強い光が溢れ出した。

 

 

 

『……』

「……!?」

「こ、今度は何なの!?」

『ステフォンが光って……なんで!?』

『一体どうして……』

「……ステフォンの持ち主がジュンだったから……、ステフォンは、全部(・・)を知っているの……?」

「……!」

 

 

 

 キャリーから焦ってステフォンを取り出すと、その光がさらに強くなって目が眩みそうになる。何かしらの事象が立て続けに起きているせいで、ブラック達は大混乱を極めている。

 混乱の中でもラブリーはなんとか落ち着きを取り戻し、なんとなくではあるものの、何故突然ステフォンがコンプリートに応えるように光を放ったのかを予測する。

 

 光を放つステフォンの画面を見つめ、コンプリートは意を決して問いかける。

 

 

 

「ステフォン……一体君は、何を見てきたの……?あたし達に、全て教えて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉と共に、真っ白な光がネオフュージョンの棲みつく空間を満たした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!?」

「は……えっ!?」

「どどど、どこここなんなの!?」

『わ、私たちは何を見せられて……!』

 

 

 

 

 

 光が収まり、目を開けるとそこはさっきまでいたネオフュージョンの空間ではなくなっていた。

 

 コンプリート達が立っていたのは、パステルカラーの花々が咲き乱れる花畑。しかし今は黒い雲に覆われた空の下で、嵐の前の静けさにも似た穏やかではない空気が漂っている。吹き付ける生暖かい風が、奥の方の湖面をざわざわと揺らす。

 

 その景色を、コンプリートは見覚えがある。覚えている。この場所は、彼女が一番好きだと言っていた場所だ。

 

 

 

 

 

「ブレス公国……」

『……!そこってジュンの……!』

「え……」

『ま、待って!誰か来る……!』

 

 

 

 

 

 ステフォンの中のフローラがコンプリートの小さな呟きを聞いて言葉を続けようとするが、ハッピーが何かに気づいて会話を遮る。誰かが、向こうのほうから飛んできたようだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ゼツボーグッ!!』

『ヨクバールッ!!』

「待て、怪物共!」

 

 

 

 花畑を踏み荒らすかのように現れたのは、2体の怪物たち。おそらく、ネオフュージョンから生成された欠片である彼らは、世界を破壊し支配するためにブレス公国に出現したのだろう。

 そんな欠片たちの前に、一人の少女騎士が勇ましく立ち塞がる。その手には剣ではなく、スマホの形をしたピンク色のアイテム────ステフォンが握られている。

 

 

 

「プリキュア・ステージON!」

 

 

 

 光に包まれた少女は、その姿を白く美しい騎士のような姿をしたプリキュアの姿へと変化する。

 

 

 

 

 

「現となりし、救いの光!キュアクルセイダー!」

 

 

 

 そのプリキュアの名は、キュアクルセイダー────ステフォンの本来の持ち主兼生みの親であり、あの世界を崩壊させた張本人であるジュン・ソヴァール=ブレス。

 

 クルセイダーが放つ強い光の力に反応し、2体の欠片が腕を伸ばして彼女を殴り飛ばそうとする。しかし、クルセイダーは背中に光の翼を生やして空高く舞い上がる。彼女の手には光で形成された拳銃が握られており、光の弾丸を放って欠片達を怯ませる。

 

 

 

「はぁっ」

『ゼツッ!?』

『ヨクッ!?』

 

 

 

 拳銃が鍵のような長い杖へと変化して振り上げれば、欠片達の足元に魔法陣が展開され、吹き出す真っ白な光で彼らを拘束する。さらにとどめとして、ハンドベルのような楽器の形に変化した光の武器を握り締め、綺麗な音色から放たれる衝撃波を欠片達に浴びせて消滅させた。

 花畑に踏み込んだ不届者を退治して、クルセイダーが地上へと舞い降りてくる。

 

 

 

「……、ここに踏み込んだのはさっきの欠片達だけのようだな……。向こうに現れた大量の欠片を、他のプリキュア達に任せてしまっていると言うのに……」

 

 

 

 彼女曰く、ちょうど他のプリキュア達が多く集まっているときに、今まで以上の奴の欠片達がブレス公国内に出現したらしい。

 欠片が密集していた地点から逸れて暴れようとする個体をいくつか発見したのでそれらを退治していたのだが、粗方片付いたので、彼女達がいる場所へと戻ろうと踵を返した。

 

 

 

「────ッ!!」

 

 

 

 その時、異様な殺気を背後で感じ取り、思わずクルセイダーが警戒して振り向いた。

 

 そこにいたのは、人の形をした真っ黒な欠片が────大元のネオフュージョンが、紅い双眸を光らせていつの間にか出現していた。

 

 

 

「……貴様が、ネオフュージョン……!」

『どのプリキュア達よりも強い力……その力、興味深い……』

「!!」

 

 

 

 突然、ネオフュージョンがその手を伸ばしてクルセイダーを捕まえようとする。しかし彼女はそれを拒否し、杖から槍の形とした光の武器でその腕を貫いて防御する。

 圧倒的な光の力に焼かれて奴の片腕が焼け落ちるが、またすぐに再生して何事もなかったかのように攻撃を続ける。クルセイダーはようやく元凶と相見えこれはチャンスだと踏み込み、ここで奴を撃破しようと奴の拳を避け続ける。

 

 

 

「貴様が、この場所に欠片達を放っていたのだな?何が目的だ」

『全てを闇に……』

「闇にだと?人々を困らせる理由がそれだけとは下らない……!」

 

 

 

 クルセイダーの放った鋭い突きが、ネオフュージョンの体勢を崩した。作った隙を見逃さず、クルセイダーは両手に桃色の光が集める。

 

 

 

「暗闇に飲まれたその力、撃ち抜くぞ!プリキュア・ブレッシングキッスッ!!」

 

 

 

 両手から放たれた暖かな桃色の光のレーザー光線が、ネオフュージョンの体を穿つ。圧倒的な光の力に、ネオフュージョンの体が徐々に崩壊していく。このまま浴びせ続ければ、いずれ奴は消滅する。そうクルセイダーは踏んでいた。

 

 

 

「はぁぁぁぁっ!!」

『……これが、貴様の力か……!素晴らしい……!』

「……!!」

 

 

 

 圧倒的にクルセイダーが優勢のはずなのに、ネオフュージョンはずっと嗤ったまま。

 

 それもそのはず。ネオフュージョンは身体を液状に変化させ、クルセイダーの方へと飛んでいく。突然の形状変化に驚いてしまい、クルセイダーは避ける術なく奴の接近を許してしまう。

 しかし、奴の狙いはクルセイダー自身でもステフォンでもなく、クルセイダーの影だった。液状化したネオフュージョンは、彼女の影の中へと入り込む。

 

 

 

「……っ!?なんだ、これは……!!……ぅあっ!?」

 

 

 

 彼女視点からでは奴が突然消えたように見えているため、自分の影の中に潜んでいるとは思っていない。しかし、全身が突如として動かすことができなくなってしまい、今自分の中で何か良からぬことが起きていると言うことはすぐにわかった。

 彼女の影の中から這い出るようにネオフュージョンが顔を出し、クルセイダーの方にまとわりつく。

 

 

 

「ぐ、何を、した……!」

『貴様の力は素晴らしい……その力で、全てを壊せ……!』

「な……っ、そんなことなんぞ……!!」

 

 

 

 ネオフュージョンの手からは漆黒の闇の力が放たれ、クルセイダーを支配しようと彼女の体に注ぎ込まれる。外部から異常な何かが入り込んで自身をおかしくさせようとしている何かに対し、クルセイダーの顔が苦痛に歪む。

 いくら高潔な魂と心を持つクルセイダーでも圧倒的な闇の力に抗えるわけもなく、与えられてしまった闇の力に魅せられそうになってしまう。

 

 

 

「ぐ……貴様の下らない野望に、この力を渡してたまるか……!!」

 

 

 

 それでも必死に彼女は操られまいと自我を手放さず。その手を前髪の髪飾りであるガラスのリングに手をかける。

 

 そのリングは、ステフォンに秘められた光の力を最大限に開放するためのリミッターのようなもの。圧倒的な闇の力で壊されるぐらいなら、圧倒的な光の力で打ち消し合えばいいと考えたのだろう。

 

 彼女がリングを外した瞬間、大爆発を起こしたように真っ白な光の力がクルセイダーの方から溢れ出す。

 

 

 

「う……っ!!」

『まだ隠し持っていたか……くそ、このままでは我も……』

 

 

 

 唐突に増大した光の力でネオフュージョンが我逆に飲まれそうになってしまい、そそくさと影の中に逃げ込んだ。ネオフュージョンの支配が弱まり、あとは自身に根付いた闇の力を無くして影に潜んだ奴を倒せば全てが終わると思っていた。

 

 

 

「……っ、まずい、私、が……」

 

 

 

 しかし、突如として溢れ出した光の力に今度はクルセイダーも耐えられず、意識を飛ばしてしまう。

 

 更に、奴に注がれた分の闇の力が彼女の体に悪さをしたのか、気絶したはずのクルセイダーの目が紅く冷たく光りだし、無慈悲な光と邪悪な闇という相反する二つの力に振り回されて、とある場所へと飛んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え……あそこにいるのは、クルセイダー!?」

「なんでここに……?しかも様子がおかしいし……」

「クルセイダー!大丈夫!?」

「……!!!待ちなさい!」

 

 

 

 

 

 友人たちらしき声が聞こえた次の瞬間、悲鳴へと変わる。

 

 そこで景色が暗転し、場面は荒れ果てた大地へと切り替わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っ、私は……」

 

 

 

 次にクルセイダーが目を覚ましたのは、荒れ果てた大地だった。

 

 本来草花が生い茂っていたであろう大地は何かで焼き尽くされて砂地だけとなり、空はずっと暗くて厚い雲が覆い隠しているだけ。

 

 そして彼女の足元で、キュアラブリーが倒れている。彼女の手の中には、クルセイダーのガラスの髪飾りが握られている。

 ラブリーだけではない。数人のプリキュア達が、何かの圧倒的な力にやられて倒れている。

 

 

 

「ラブ、リー……?」

「ぅ……」

「何が……何が起きて……」

 

 

 

 ラブリーは満身創痍の状態ではあるものの、気を失っているだけのようだ。

 二つの力に飲まれて意識を飛ばした後の記憶が、一切思い出せない。ただ、自分が何か取り返しのつかないようなことをしてしまったという感覚だけはこの手に残っている。

 

 自身の中の違和感は感じられない。影の中に潜んでいたネオフュージョンは、いつの間にか逃げられてしまっているらしい。そのお陰か、ステフォンから溢れる光の力にもある程度自我を保っていられる程度には耐えられている。

 

 

 

「……ああ、そうか……この惨状は、私が……」

 

 

 

 何も覚えていないが、この手には、確かに誰かを殴ったような、誰かを傷つけたような嫌な感覚がこびりついている。自分は、自分を止めよとしてくれたプリキュアオールスターズを、この手で傷つけてしまったのだ。

 

 いや、傷つけたどころの話ではない。明らかに人の数が足りていない。目に見えるだけで12人くらいしか倒れていなければ、ラブリー以外からは生きているのかどうかも怪しい。

 

 

 

「……まさか……」

 

 

 

 ────ステフォンが秘める光の力が、彼女達の肉体を消しとばし、魂を離れ離れにしたと言うのか……?

 

 どう考えてもありえないはずの発想ではあるが、クルセイダーが一度恐れの感情を抱いてしまった力だ。現に他の仲間達の姿は見当たらない。本当に、そんなことが起きてしまったのだ。

 自らがやってしまったことに対して深い悲しみを抱いてしまうも、そんな中でもクルセイダーはとあることを思いつく。

 

 

 

「……ステフォンの力で壊してしまったのなら……その力で……!」

 

 

 

 クルセイダーは早速、ステフォンを天に掲げる。するとステフォンからは淡く優しい桃色の光が溢れ出し、厚い雲が覆う天へと伸びていく。

 その光の柱はまるで、どこかに散らばってしまったであろう仲間達が、迷わずこちらへ辿り着けるようにと指し示す目印のようで。

 

 

 

「……ぅがっ……!?」

 

 

 

 

 

 しかし光は長く続かず、クルセイダーはステフォンに弾き飛ばされ地面に倒れてしまう。闇の力に一瞬でも魅せられてしまったからか、それとも今の彼女では力が足りなかったのか、原因はわからない。心なしか、体力も大きく持っていかれている。

 それでもクルセイダーは諦めず、可能性が少しでもあるならとステフォンを掲げ、光を放つ。

 

 

 

「……じゅ、ん……」

 

 

 

 何回か弾かれ続けていた時だろう。気を失っていたラブリーがぐったりながらも目を覚まし、上体を起こした。

 

 

 

「────ぁあっ!?」

「……クルセイダー……!?」

 

 

 

 一体何回続けたのだろう。体力の消費と弾かれた際のダメージで、クルセイダーはボロボロになりながらも仲間達を助けるためにステフォンの力を信じて掲げていた。

 しかしまたしても弾かれてしまい、大きく彼女は吹き飛ばされてしまう。

 

 目を覚ました瞬間、クルセイダーが正気を取り戻しているのに明らかに衰弱しているようにしか見えなかったため、ラブリーが痛む体を押さえながらもすぐに起き上がり、彼女を止めようとする。

 

 

 

「待って……!」

「……!ラブリー、目を覚ましたのか……?」

「何を、して……」

「他の皆が私のせいでバラバラになってしまった……だから、私が見つけない、と……」

 

 

 

 そう言いながらも、足取りはおぼつかず意識も若干朦朧としかけている彼女自身も、頭の奥で限界が近いと言うことはわかっていた。体力的な限界という意味ではなく、文字通り彼女の精神や肉体的にも、これ以上続けたら命に関わるだろうということである。

 

 

 

「はあ……はあ……、私は、もう助からない……。いや、助けを乞う筋合いなど、ない……」

「ジュン!そんな……!」

 

 

 

 息を切らしながらも、クルセイダーは再びステフォンを掲げ、その力で散らばってしまった仲間達を集めようとする。明らかにステフォンの力に耐えきれずに壊れそうな彼女を、ラブリーが止めようとしても言うことを聞いてくれない。

 

 

 

「せめてもの償いだ……私は、この命を賭しても……君たちが再びこの場所へ集えるように……」

「ダメだよ!そんなことしたらジュンが……!ジュンがやるなら私も……!!」

 

 

 

 と、ラブリーが彼女を手伝おうとするが、彼女は困ったように笑ったままラブリーの方へとステフォンの画面を向けた。その光はラブリを包み込み、彼女の中にある何かを吸い取ろうとしている。

 

 

 

 

 

 

「めぐみ……せめて、君の心だけでも────」

「ジュン!待って────」

 

 

 

 彼女を止めようとしたラブリーの瞳から光が消える。そして彼女は生気を失い、クルセイダーの手に触れることができずに倒れ込んでしまう。

 

 ステフォンの画面の中には、眠っている二頭身のキュアラブリーが増えている。

 

 

 

「……すまない、めぐみ。どうやら君の魂ごと、ステフォンの中に取り込んでしまったようだ……」

『ジュン……みんな……』

「私はもう、この体が耐えきれず死んでしまうかもしれない……だから、せめて君だけでも、生き延びるんだ……」

 

 

 

 ステフォンの中で小さく寝言を漏らす彼女の姿に申し訳ないと思いつつ、クルセイダーは今の方法では全く効果がないと悟る。自身の体力も続かないならと、彼女は苦渋の決断を打ち出すことになる。

 

 

 

「ステフォン……私から生まれたお前を、私以外の誰かに託すぞ」

 

 

 

 そう彼女が祈るように呟くと、ステフォンは先ほどとは違う優しい虹色の光を放つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「頼む、みんな……聞いてくれ……!ステフォンに想いを、壊れた世界に私たちが集まれば、世界を変えることができるかもしれないんだ……!だから……、もしこの光に気づいたら、この世界に集まるんだ……!」

 

 

 

 その言葉は、世界の外に散らばってしまった彼女達へ向けて放たれる。聞こえていないかもしれないが、誰か一人でも気づいてくれればという一種の賭けに近かった。

 

 光を放つステフォンはさらに、倒れているラブリー達12人のプリキュア達を浮かせ、光の中へと閉じ込める。光は柱のように伸び、光が収まるとそれは桃色の水晶となり、彼女達の体をその中で守るかのように聳え立つ。

 クルセイダーはステフォンを操作し、足元にワープホールを出現させると、ステフォンをその中へと投げ込もうとする。

 

 

 

「ラブリー、今はステフォンと共に逃げるんだ。……君を助けてくれる優しい人は、必ずどこかの世界にいる。……私は、その人にこの世界を託そうと思う。……身勝手な私を、どうか許さないでいてくれ」

 

 

 

 そう言って、ラブリーが閉じ込められたステフォンはワープホールの中へと落とされた。閉じゆく穴を見送りながら、クルセイダーの変身は解け、ジュンは力尽きて地面に倒れ伏す。

 

 

 

「どうやら……私はここまでのようだな……」

 

 

 

 世界を壊したり直したりするほどの力をジュンの体は耐え切ることはできず、ジュンの体は淡く輝き出し、光の粒を放ちながら崩壊していく。

 弱々しい呼吸を繰り返しながら、彼女は目を瞑る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当なら、私がやるべきなのに……私は、もう限界のようだ……本当に、すまない……」

 

 

 

 

 

 誰かに向けて溢れた謝罪の言葉は宙に浮き、優しい騎士様は一筋の涙を流しながら、光となって天へと昇っていった。

 

 

 

 

 

 地上に残ったのは、プリキュア達が眠る12本の水晶の柱と、荒れ果てた大地だけ。

 

 ここに再び集うという、いつ叶うかもわからない約束が結ばれた『水晶の世界』は、静かに他のプリキュア達の帰りを待ち続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っ」

「……マジか……」

 

 

 

 

 

 明転した景色が元に戻り、堪えるようなラブリーの嗚咽が聞こえるネオフュージョンの空間。

 

 

 

 

 

 ステフォンの光が収まり、今まで見ていたはずの誰かの回想の上映会は静かに幕を閉じる。エンドロールすら流れない、カーテンコールも行われない、これほどまでに虚しいものはないだろうと思えるような、優しき騎士の悲劇の独り舞台。

 

 あの『水晶の世界』が崩壊するまでを、崩壊させた犯人であるキュアクルセイダーが暴走した真相を、ラブリーがステフォンの中に入っていた理由を、そしてその後に起きたこと全て(・・)を、該当者は思い出し、何も知らなかったコンプリート達は知ってしまった。

 

 

 

 

 

「思い、出した……!そうだ、私ジュンにステフォンの中に入れられたんだ……託されてたんだ……」

「ラブリー……!」

 

 

 

 

 ラブリーは無くした記憶を思い出した反動か、それとも大切なことを今までずっと忘れていたことへのショックか、小さな懺悔を繰り返しながらも、嗚咽を押さえ込もうとしている。

 

 同じく全てを知っていたはずの闇の使者の二人やプロトキュア達は、衝撃のあまり言葉を失っている。覚えている部分があったり教えられている分、取り乱すようなことはなかったものの、どう足掻いてもショックは免れない。

 無論、一番知りたかったコンプリートは頭を抱えているし、連れ去られた関係上一緒に一部始終を除いたブラックとホワイトでさえ、あまりの状況に対して言葉をかけることに躊躇している。

 

 

 

「……っ!!」

 

 

 

 一番ショックを受けているのは、間違いなくダークネスブラックだろう。彼女が一番、世界を壊してしまったキュアクルセイダーに対しての恨み辛みが強い方なのだ。こんな記憶を見せられて、どうも思わないような彼女ではない。

 

 

 

 

 

 言いたいことはたくさんある。たくさんあるがまず言いたいのは、これしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「や、やっぱりコイツが原因じゃないッ!!」

『我は力を欲しただけだ……力を抑えきれぬ奴も悪い』

「物は言いようだよ。余計なことしてるし」

 

 

 

 ブラックの怒りをぶつけた鋭い指摘やコンプリートの冷静なドン引きように対しても、全ての元凶(ネオフュージョン)はのらりくらり。

 

 

 

 

 

 結果として、あの世界を壊したのはクルセイダーことブレス公国の国家元首である、ジュン・ソヴァール=ブレスだ。その事実は変わらない。

 

 しかし、彼女の暴走を引き起こしたのがネオフュージョンだった。

 

 奴は、他のプリキュアよりも格段に強い光の力を持つ彼女を取り込もうと、闇の力を注入して洗脳しようとした。ジュンは力を解放して抵抗したものの二つの相反する力に振り回され、その力を行使しプリキュア達を傷つけていった。しかし、ラブリーに呼びかけられたことで洗脳が解け、気づいた時には圧倒的な力で彼女達を肉体ごと消し飛ばしてし、周囲の景色を破壊し尽くしてしまった。

 再び支配しようとするネオフュージョンに対してジュンは、自身とステフォンが持つ力を最大限使って奴に大痛手を喰らわせ世界から追い払った。

 

 そして彼女は最後の力を振り絞って、ラブリーや奇跡的に肉体が残ったブラック達を水晶の中に閉じ込めて護り、ラブリーの魂をステフォンの中に取り込み、とある願いを込めて世界の狭間へと解き放った。

 

 全ては、命が尽きようとしている自分の代わりに、散らばってしまった友人達と壊してしまった世界を元通りにしてくれる誰かに託すために。

 

 

 

 ジュンの想いは『声』となって、バラバラのプリキュア達に届いた。

 

 ジュンが託した元に戻したいという想い(ステフォン)は、繋巡という少女の手元に渡った。

 

 ジュンの願いを手にした巡は、『プリキュア』として舞台に上がり、ステフォンに宿る光の力と自身の想いの強さだけで、世界を元に戻そうとした。

 

 

 

 

 

『本当なら、私がやるべきなのに……私は、もう限界のようだ……本当に、すまない……』

 

 

 

 

 

 操られかけたとはいえ、力に飲まれて暴れてしまった自分を悔やみ、一筋の悲しみの涙を流しながら、彼女は消滅してしまった。

 

 どこまでも愚直で、どこまでも優しい騎士王は、命が消えゆくその瞬間まで、世界の外へとバラバラにしてしまったプリキュア達のことを、大切な『友達』達を想っていた。

 

 そんな彼女の優しさを、彼女を暴走させた原因であるネオフュージョンは『愚かな行為』と切り捨てる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジュンさんは愚かじゃない。最後の最後まで、みんなのことを助けようとした優しい人だよ。そんな優しい人を、愚かだなんて言わないで」

「私、たちを……」

『……』

 

 

 

 コンプリートの言葉に、ダークネスブラックが弱々しく反応する。彼女の優しさを知っていたはずの自分が、今まで彼女が悪いと思って戦い続けてきたのだ。その分の思い何かがのしかかってしまったのだろう。

 何を言われても絶望も萎縮することもなく返してくるコンプリートに対して呆れたのか、ネオフュージョンはコンプリートを視界から外す。

 

 

 

『つまらん奴だ……まあいい。貴様はどうでもいいのだ。キュアクルセイダーであれなら、今の貴様の力を取り込めば我が先に消失しそうだ』

「え……あたしはいいんだ……」

『狙われたかったの……?』

「いや嫌だよ」

『しかし……キュアブラックよ、貴様を焚き付ける方法なぞいくらでも知っているのだからな』

 

 

 

 と、奴はその手の中から何かを出そうとする。

 

 

 

 

 

 ネオフュージョンの手の中から出現したのは、真っ白に淡く輝く小さな光の玉。闇と悪意の塊である奴の中に閉じ込められていたというのに穢れることを知らない輝きは、薄暗い奴の空間を照らそうとしている。

 

 まるで、こちらに対して何かを訴えかけているようにも見えた。

 

 

 

「……!そ、それ、は……!」

「え?」

『待って、そんな……!?』

 

 

 

 プロトキュアと闇の使者はその輝きに何かしらの気配を感じ取ったのか、この上ないほどの動揺を見せる。コンプリートやブラックとホワイトにとっては何が起きているんだと困惑してしまうが、彼女達にとって余程まずいことが起きていることだけは分かる。

 

 

 

『どうした?あり得ないものでもみたような面を下げて……』

「なん、で、なんで……!!」

 

 

 

 ネオフュージョンに槍で貫かれ、先ほどから宙ぶらりんに拘束されているダークネスブラックが、奴の手の上でふよふよと浮いている光の玉を見て、この場にいる誰よりも驚いた顔を晒している。今までコンプリートが見ていた彼女よりも、本来の『美墨なぎさ』として出さなくなっていた素が思いっきり出ている。

 

 

 

「……っ、道理で、あの世界のみんなが探しても見つからない訳だよ……!」

「……え、まじで……?」

 

 

 

 飛び出したくなる体を気合いで押さえながら振り絞るように呟くラブリーの言葉に、コンプリートはなぜ彼女達があそこまで動揺していたのかがすぐにわかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんで……何であんたが、ほのかの魂を持ってるのよ……!!」

「……はぁ?!」

「あ、あれが、あなたの世界の私……?!」

 

 

 

 ダークネスブラックの怒りを堪えた言葉に、ネオフュージョンは嘲笑うかのように目らしき部分を歪ませる。

 

 

 

 

 

 奴が持っている光の玉の正体は、なかなか集まる気配がなかった水晶の世界の────基、崩壊してしまった世界のキュアホワイトの魂だった。ネオフュージョンは、彼女の魂をいつの間にか隠し持っていたらしい。

 

 

 

『返してほしいだろう……?』

「……っ!!」

『それならば……』

 

 

 

 身体を貫いていた黒い光の槍が無理やり引き抜かれ激痛が走る中、ダークネスブラックは乱雑に地上に落とされる。貫かれた部分には穴が空いており、奥の景色を嫌でも覗くことができる。

 痛みを堪えながらも立ちあがろうとする中、コンプリート達の方に向けてネオフュージョンが真っ黒な闇の衝撃波を放ち彼女達を壁の方へと叩きつける。

 

 

 

「うぐ」

「きゃあ!?」

「ぁ……!!」

 

 

 

 叩きつけらてもすぐに動こうとするが、立て続けに放たれた大量の黒い光の槍が、彼女達を壁に貼り付け拘束させる。

 

 

 

「ちょ……っ!?」

「動けない……!」

『だ、大丈夫!?』

「怪我はしてないけど、磔っぽくされてなんかやだ」

『余裕そうじゃない!?』

「失礼なこれでも焦ってるよ」

「ぬ、抜けない〜!!」

『ま、待ってて今引き抜くから!』

 

 

 

 ステフォンの中からプロトキュア達が現れ、コンプリートや他の5人を拘束する槍を引き抜こうとするが、深く突き刺さっていたりそもそもプロトキュア達が小さいこともあって、なかなか抜けてくれない。

 助けに行こうと手を伸ばしかけたダークネスブラックだが、自分の中にあった罪の意識とコンプリートへの蟠りが仇となって、踏み出そうとする足が震えてしまう。さらにそこへ、奴の誘惑が囁かれる。

 

 

 

『倒せ……目の前のプリキュア共を倒すのだ、ダークネスブラックよ……!』

「……っ!!」

 

 

 

 そうすれば、貴様が望むものを引き渡そう。なんとも典型的な勧誘文句だろう。こんなものに騙されるかと冷静であればすぐに理解できる。

 しかしダークネスブラックは大怪我をしている上、相方の魂共々生殺与奪の権を奴によって握られている。これを断ってしまうと、奴の手元に渡っているキュアホワイトの魂がどうなるかが分からない。

 

 良くて再び奴の体内に閉じ込められるか、悪くて奴の力として取り込まれ消失するかのどちらかが、ホワイトの魂にかかっている。

 さらに今は、同じ闇の使者であるブルームとドリームも、コンプリートたちと同様に拘束されている。別の世界で戦っている仲間は無事であっても、この2人がどうなってしまうのかもわからない。

 

 どっちにしても今のブラックにとって、精神的に不利な状況となってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『────!?』

「……は?」

 

 

 

 

 

 その一瞬。何が起きたかわからなかった。

 

 

 

 

 

 いつの間にか飛び上がったダークネスブラックに、ネオフュージョンの胴体が凹む程度に強く殴り飛ばされていた。

 

 音もなく飛び上がっていたのだから、プリキュアたちも一体何が起きていたのか把握することができなかった。

 

 

 

『ほう……期待以上の力だ……!』

「ブラック!!」

『どうしよう、あの人今めちゃめちゃ抑え込んでる……!』

 

 

 

 当のブラックは勝手に溢れ続ける闇の力に飲まれないように、必死になってネオフュージョンを睨みつけている。今の攻撃は、一瞬だけ奴の力に飲まれて目の前にいたネオフュージョンを標的にしたのだろう。

 

 ああこれは、これは完全に、ジュンが奴に取り込まれかけて暴走した時とほとんど同じ構図ではないか。

 

 

 

「まずいわ。あのまま放置させたら、あのブラックが……!」

『今のあの人を引き止めて!ジュンの時みたいに壊れちゃうよ!!』

「ブラック!待ってっ!」

「これ以上戦ったらあなたが壊れちゃうっ!!」

 

 

 

 ステフォンの中のドリームの悲鳴のように放たれた言葉を聞くや否や、拘束から自力で抜け出したコンプリートとダークネスブルームが、飛び出そうとするダークネスブラックを呼び戻そうと走り出す。

 

 

 

 彼女の翼に後1㎝で触れそうなところだった。

 

 二人の足元に、いや、彼女たちだけでなくブラックとホワイト、ダークネスドリームやラブリー全員を囲うようにワープホールが出現したのだ。

 

 6人は、ダークネスブラックの冷たく振る舞おうとする視線に見守られながら、ワープホールの奥につながる別の世界へと落とされてしまう。

 

 

 

 

『きゃああぁぁぁ!?』

「ねええこの状況で嘘でしょあのブラック……!」

「ブラック……なぎささんッ!!!」

「……」

 

 

 

 落ちゆく中でもラブリーは、必死に手を伸ばしてブラックを止めようとする。そんな彼女の様子をどこか他人事のように眺めながら、閉じゆくワープホールの奥で別の世界へと強制送還させた6人を見送る。

 

 無論、自分がやっていることはよくわかっている。わかっているからこそ、コンプリートたちだけを別の場所へ逃すと言う選択を取ることができたのだ。

 

 ワープホールが閉じて、二人きりの空間となる。6人が落ちていく様を見届けた後、ダークネスブラックは奴の方へと向き直り、紅く光る瞳で冷たく睨みつける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『実に愚かだ……“雪城ほのかがいない世界はいらない”とだけ言っているだけはある……』

「いつから聞いてたのかわからないけど……あんたの言う通りよ。……だから、あんたからほのかを取り返す」

『貴様には無理だ。全てが遅すぎた。……何も掴むことのできなかった貴様が、何かを壊し続けた貴様が、我に叶うとでも言うのか?まさに笑止千万だな……』

「……っ」

『それに、今の貴様から溢れている力は我が与えたものだけではない。貴様自身から生まれた闇の力でもあるのだ……貴様はもう、後戻りもできない……』

「何とでも言えばいい。……私はジュンを壊して何もかもめちゃくちゃにあんたのことを、絶ッッッ対に許さない……ッ!!」

 

 

 

 与えられた闇の力の影響でネオフュージョンへの憎悪が増幅したまま、ブラックはネオフュージョンに飛びかかり、漆黒の雷撃を纏った拳を何回も叩き込む。ネオフュージョンは特に抵抗も反撃もすることなく、まるで見定めるかのようにブラックの攻撃を受け続けている。

 

 反撃されないならそれでラッキーだと思ったのだろう。ダークネスブラックの重い一撃が決まり、ネオフュージョンは地面の方に叩きつけられた。小さなクレーターが生成されてしまう程度の威力で吹き飛ばしている。

 

 

 

「……ほのか……!」

 

 

 

 そして彼女は、ネオフュージョンの手元から離れたキュアホワイトの魂の方へと飛んでいき、両手で優しく包み込んだ。

 

 遠回りをし続けた彼女は、ようやく相方との再会を果たしたのだ。

 

 

 

「ほのか……!ああ、よかった……!」

 

 

 

 誰にも邪魔をされない感動的な場面だと言うのに、涙はとうの昔に枯れ切ってしまい、どんな顔すればいいのかわからない。それでも力一杯に抱きしめる。それしか方法がわからなくなってしまったのだ。

 

 ────だからこそ、今の彼女はの心は完全に安心し切って、奴の暗躍に気づけなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『────言っただろう?実に愚かだと』

「……あ」

 

 

 

 地面に叩きつけらてた際に液状化していたネオフュージョンが、ダークネスブラックとホワイトの魂の両者を囲い込むかのように吹き上がる。

 

 ホワイトに油断した隙を狙って、ブラックを取り込み力を手に入れようとしているのだ。

 

 

 

『貴様自身から生まれた力は、貴様が思っている以上に強いもののようだ……取り込めば、我は再び……なんだ……何が、どうなっている……?』

 

 

 

 ネオフュージョンがブラックを取り込み、その力を行使しようとするも、なぜかその力を制御することができない。油断した彼女には抵抗できるはずがないのに、どうしてかその力が勝手に外に溢れ出していく。

 

 

 

『……さては、奴の力が我を上回ったと言うのか……?いや、違う……これが奴の“想い”の力と言うものか……。はっ……それなら好都合だ……いいだろう、我の力の全てを貴様に注ぎ込んでやる……!!』

 

 

 

 そう言い残し、ダークネスブラックを取り込んだ漆黒の液体のような体が、人間の、それも少女の姿へと変わっていく。

 人の姿となっていけばいくほど、周囲に漂う不穏な空気が張り詰めていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 背中には3対の真っ黒な翼。漆黒のコスチューム。人間味を感じられないほどに色白の肌には、圧倒的な闇の力に身体が耐えられていないのか、ヒビのような傷がいくつも現れている。

 

 胸の紅いクリスタルは黒みを帯び、奴の力を解放した者の証である赤い光のリングが歪にゆらめいている。

 

 髪の毛は黒く染まり、心なしか取り込んだ闇の使者よりも一回り大きな姿をしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……、……」

 

 

 

 完全に光を失った紅い瞳が、ニヤリと笑った。

 

 

 

 

 

続く……

 




次回更新日:8月25日(日)
最終話が近いぞ
本編が終わっても番外編とかを不定期に出せたらいいね
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