「さあ、これで終わりにしよう。もう、何も壊さなくていいんだよ」
『コンプリー、ト……』
光の中に閉じ込められたネオダークネスは、いつの間にか飛んできていたコンプリートに抱きしめられていた。このまま彼女に慈愛深く救済してくれるのかぼんやりと思っていた。
しかし、コンプリートが向けたのは、これもまたいつの間にか握っていたラブリーショットガンの銃口だった。
人に害を為す悪意には容赦なく攻撃を向ける姿に、ネオダークネスはこの世界を滅ぼしてしまった
今のコンプリートにネオダークネスを許す気配は、一切ない。
「ブラック達のようなことが二度とと起こらないよう、ここであたしが終わらせる」
『や、ヤダ……まだ、まだ消エタクナ────』
澄み渡る銃声と共に放たれたハート型の光の弾丸が、崩壊しかけているネオダークネスの身体を穿った。
『ヤダ!!ヤダァァァ!!私マダ消えラレナイ!!消エタクナイノニ!!私はァァァァァァaaaaaa……ッッッ!!』
誰かさんの未練がましい断末魔と共に、ネオダークネスの身体は虹色の想いの輝きに包まれて消滅していく。
チリ一つ残さずに消滅した瞬間、辺りはさらに強い光に満ち溢れ、何も見えなくなる。意識が、遠くの方に飛んでいく。
「────!巡ー!巡ってばーっ!」
「……うん……?」
どれくらいの時間が経ったのだろう。
ラブリーの声で、飛ばされていた巡の意識が浮上し、瞼が半分開かれる。
自身の変身が解除されている。あの大きな存在を倒すのに相当な力を使ったのだろう。
まず巡の目の中に入ってくるのは光。それも太陽の光。少しだけ視界に映る空の色は、あの暗くて厚い雲ではなく、澄み切った青い空と白い雲。またどこか別の世界に飛ばされたのかと思っていたが、そういうわけでもないようだ。大地に咲く小さな花々の柔らかい香りが鼻の奥をくすぐっている。
この水晶の世界が、青い空を取り戻したのだろう。
「……巡っ!よかった〜!!ここに落ちてきたと思ったら倒れて、全然起きてくれないから、力尽きちゃったんじゃないかって思っちゃったんだよ〜!!」
「……いや、流石に死なないと思うけど……」
ずっと巡が眠ったままなのが心配だったのか、ラブリーが瞳に涙を溜めながら色々と喋り倒してくる。
そのラブリーの姿に、巡は違和感を持った。
プロトラブリーのように小さくなければ、ダークネスラブリーのように黒くはない。ましてや、その二人が合体した姿でもない。
それこそ、アニメで見たような、今までの世界で出会ってきたような『キュアラブリー』そのものの姿となっている。
上体を起こして見回せば、あの世界の特徴だった水晶の柱が、どこにも無くなっている。そこから導き出される答えは、もうあれしか思いつかない。
「……ラブリー、君いつの間にか元に戻ったんだね」
「え!?あ、ほ、本当だ!ちっちゃくないし黒くない!」
「あれ、気づいてなかったの?」
どうやらラブリーは、水晶の中の肉体の中に戻り、本来の姿を取り戻したらしい。本人も巡に指摘されるまで気づいていなかったため、ネオダークネスを倒して光が満ち溢れた時に色々と何かが起こったようだ。
近くに落ちていたステフォンの画面には、誰もいない。ラブリー同様、他のプロトキュア達も元の姿を取り戻したのだろう。
世界が、元の姿を取り戻している。思いとプリキュア達がこの場所に集まったことで、ステフォンの力が崩壊した世界に働きかけたのだ。
「……何はともあれ、ネオフュージョンってかネオダークネスの脅威を止めることができた……ってことでいいんだよね?」
「うん!……もう、あいつの気配はしないよ!」
「ラブリー!」
「……!プリンセス!みんな!えっ────」
奥の方から、プリンセスの声が響いてきた。振り向いた瞬間、ラブリーはプリンセスによって思いっきり抱きつかれた。その衝撃でラブリーが煙と軽快な音と共に視界から消え、プリンセスが柔らかい芝生と花々の上に転んだ。
「プリンセス達も肉体を取り戻してる……」
「そうなのよ!ステフォンの力ってすごいわね〜」
「こらプリンセス!ようやく触れるようになったからってはしゃがない!……って、さっきまでいたラブリーは……」
「ああ〜!?戻ってな〜い!?」
プリンセスを追いかけてきたハニーとフォーチュンから、他のプリキュア達も肉体を取り戻し、半透明ではなくなって何かに触れるようになったと嬉しい報告を伝える。
これで全てが大団円!……というわけにもいかないようで、プリンセスの大声でラブリーがどうなったのかが判明する。
「うぅ〜急に抱きしめてきたらびっくりしちゃうってば……」
「あれま。プロトキュアの姿にもなるように……」
「ら、ラブリー!?」
プリンセスが喜びのあまりに飛びかかったせいなのか、ラブリーがその衝撃で見慣れた二頭身のプロトキュアの姿になってしまい伸びてしまった。
……どうやらステフォンは、完全に元に戻したというわけでもないらしい。
これは果たしてステフォン側の問題か、闇の使者として別の存在が動いていたペナルティなのか、はたまた元の持ち主の些細な悪戯心なのか……。しかしラブリーもラブリーで元に戻れるようなので、特に問題はないらしい。すぐ元の頭身に戻ったとしても、ラブリーは若干目を回してはいるが。
「ラブリーごめ〜ん!!」
「あははは大丈夫大丈夫〜……!」
「もう何やってるのよ……」
「ふふっ、めぐみちゃんも嬉しそうねぇ」
「……ぷっ」
彼女達の平和なやりとりに微笑ましく思い、巡が思わず吹き出してしまう。そんな彼女の様子に釣られて、ラブリー達も笑顔になる。
青い空に、白い鳥達が羽ばたいている。
────ジュン、見てるかな?ジュンが取り戻したかった世界は、美しい輝きと笑顔に溢れてるんだよ。
風に舞う花びらの奥で、誰かが笑った気がした。
────あれから2週間か経った。
元・水晶の世界の中心地点である、水晶の柱が存在していた花畑に、一人の少女が微風を受けながら座っている。
「あ、誰かいたと思ったら君かあ……」
「……悪い?」
「別にそこまでは言ってないよ」
少女の姿を見つけて、この世界に遊びにきた巡が駆け寄り、隣に座る。少女は若干不服そうな様子で巡を見ているが、巡はさして気にすることなく首を傾げる。
「君も含めてだけど、みんな元気?」
「元気だよ。闇の使者としても動いていたみんなも、問題ないし。……プロトキュアってやつの記憶も混ざったみたいで時々混乱はしてるっぽいけども……。無論私もなんだけどさ」
「ああ〜、まあプロトキュアは想いが具現化したとはいえ別々の存在になってたからねえ」
巡の問いかけに少女は────元々ダークネスブラックだった美墨なぎさが、心配するなと言った様子で答える。
ネオフュージョン及びネオダークネスの消滅により、奴によって作られた闇の使者の体も消失し、ステフォンの力で彼女達の魂は元ある場所へと戻っていった。
ステフォンの力は、あの時に見たキュアクルセイダーの最期の通り、崩壊したこの世界を元ある形に戻したのだ。荒れ果てた大地は緑を、人々は活気を、色を失った空は晴れ渡る色を取り戻した。肉体を失っていたプリキュア達も、その力で新しく創られる形で元に戻り、問題なく変身もできるようだった。
……例外として、元々闇の使者としてネオフュージョン側についていた11人のプリキュアと、長い間ステフォンの中にいたラブリーは、ふとした衝撃でプロトキュアの姿になってしまうという、面白い
「というかプロトキュアに戻っちゃうってなかなか大変じゃない?」
「頑張れば耐えられるけど元には戻れるし……こればかりはどうすればいいかわからないし、今のところ変な支障は出てないからいいかなって」
「君さては若干諦めてるな?」
「仕方ないでしょ。メップルとかそこら辺に詳しそうな妖精達に聞いてもわからないんだし」
「き、君らがいいならあたしもあんまり突っ込まないけど……」
若干不服そうなのは気になるが、本人達が大丈夫と言っているなら大丈夫なのだろう。
「……まだ、気にしてる?」
「そりゃあね」
ふと、なぎさがさっきから笑顔を見せていないことに気づき、巡があのことを気にしてるのかと感じ取った。
彼女は、他の闇の使者を守るためにネオフュージョンの言いなりにされていたとはいえ、いくつかの世界を崩壊させて、さらにその世界のプリキュア達を何人も手にかけている。
このことを詳しく知っているのは張本人と巡以外に、元闇の使者でもあるこの世界の日向咲と夢原のぞみくらいである。他の闇の使者達も察していたりするのだが、ひとまずその事実は知っている人たちだけの秘密ということにしている。
責任感の強いと言うか、なんでも抱え込みやすい性格をしたなぎさだからこそ、今こうしてのうのうと生きることに躊躇しているのだろう。
「……正直今でも、あんなにみんなを傷つけておいて、いつも通りに過ごしていていいんだろうかって、考えちゃうの。私はきっと、こんなふうにするべきじゃないって……」
「随分と難しいこと言うね……まあ、それが君への罰なんじゃない?」
「私への……?」
「傷つけた人たちの想いも背負って生きろってこと」
「巡……うん。そうするつもり」
「……!」
巡がさっと出した納得できそうな言葉にようやく躊躇させている何かを外すことができたのか、なぎさが少しだけ笑顔を見せた。その様子に、巡が思わずキョトンとした表情を見せる。
「……何よ」
「いや……初めて名前で呼んでくれたなって」
「は、はぁ?前にも呼んでなかったっけ?」
「初めてな気がするけど……」
何気に初めて、目の前の少女が巡を『キュアコンプリート』ではなく巡という元々の名前で呼んだような気がして、謎の嬉しさが込み上げてくる。
「……あんたの方はどうなの?」
「あたしは今3学期が始まったところだよ。進級も近いね」
「まだ1月なんだ……そういえばあんたまだ冬服なのは」
「そう言うこと。元日に廻君っていう友達と初詣に行ってきたし。今年も受験前にいっぱい遊べたらいいなあって」
「……へぇ〜?」
「?」
「いやなんでも」
巡の近況といえば、年明けでちょうど3学期が始まったところだろうか。
年末年始は海外で仕事中の両親が帰ってきたり、元日に帯刀廻と初詣に行ったり、七星希奈子や日南千夏と初売りの福袋を狙いに行ったり……とにかく盛りだくさんの休日だったらしい。
3学期の行事といえば、スキー授業や期末テストに3月の卒業式くらいしか思いつかないが……そういえば巡達もそろそろ3年生で受験という言葉がチラついてくる時期になってくる。
「受験、か……どこか目指すの?」
「うーん、まだ色々迷ってる途中……学力テストの結果次第かな?」
「学力テスト……う、頭が……」
「そういえば君、闇の使者時代はシリアスな人間だったから勉強苦手だってこと忘れてた……」
「……あの、この前の数学でわからないところがあって」
「あたしなぎさよりも学年1個下なんだけど」
「い、今呼び捨てで……?!」
「ほのかちゃんがいるんだからほのかちゃんに聞けばいいじゃんか」
「だ、だって〜……」
「ここにいたのね、なぎさ」
後ろから声をかけられて振り向くと、雪城ほのかがいつの間にかそこに立っていた。
なぎさがずっと探していた人物であり、今はしっかりと元の姿へと戻ることができた少女は、若干困ったような笑顔でなぎさの左隣の方へと歩み寄る。
「ほ、ほのか!?いつからここに!?」
「さっきよ。なぎさがまたあの国に行ってるって聞いて……」
「う……」
「私のことをずっと探してたのに、あなたがどこかにいなくなっちゃったら寂しいでしょうに」
「ほのか……」
ほのかはほのかで、ネオフュージョンに囚われつつもなぎさ達の居場所を探していたのだろう。ぐっとなぎさの手を握りしめたほのかも、彼女とはまた違った寂しさを抱えていたのだろう。ほのかの言葉になぎさがしんみりとした気持ちを抱く。
もしも、ネオフュージョンが初めに接触した相手が彼女だったとしても、ダークネスブラック並みかそれ以上に面倒なことになっていたかもしれない。
「……だからねなぎさ、補習受けることになったからって、現実逃避でこっちにくるのはどうかと思うのよ」
「ぐ」
「え?」
「私たち、一応1週間も欠席していたってことになってて……それでちょうどテスト期間だったプリキュアの何人かが、それぞれ色々あって」
「あー……誰もここに来てないのって、単純に学業でいなくなったってことだったのね」
「やだ〜!!私たちも私たちで大変だったのに〜!!ありえな〜い!!」
「さっきまでの感動を返せ」
「待ってほのか!引っ張らないで!?」
「ま、またお邪魔するわね巡さん」
おそらくこれから補習で学校に行かなければならないのに逃げたなぎさを追いかけて来たのだろう。ほのかはイヤイヤいうなぎさを引っ張りながら、元の世界へ戻るためにこの場を後にした。
再びこの場に静寂が戻り、巡は一人になる。
「……その調子なら、なぎさちゃんも大丈夫そうかな?」
『巡〜!』
「……お」
ポケットの中に入れていたステフォンの中から、聴き馴染みのある声が聞こえて画面を確認する。画面の中にはプロとラブリーが話しかけている。プロトキュアにも元の姿にもなるようになった彼女達は、ステフォンの出入りも自由にできるようにもなったらしい。
そしてステフォンもまた、以前と変わりなく使用可能のようだ。世界を元に戻した際にかなり力を使っていたような気がするが、普通に画面がついた時は巡も困惑していた。そして、ようやく『WorldTrip』がこの世界へつながるワープホールを出せるようになり、今もこうしてこの世界のプリキュア達と話せるのだ。
「……ラブリーは大丈夫?1週間くらい休んでてテストとかと被ってなかった?」
『テスト?もう終わってたけど……』
「終わってた」
『いくつか赤点ギリギリなのはあったけど補修はなかったから安心してね!』
「安心とは」
なかなかツッコミどころの多い発言があったが、ラブリーこと愛乃めぐみは一応問題なく補習せずに済んでいるらしい(ギリギリという言葉が若干引っかかるが)。
「君は元気?」
『元気だよ!ひめもゆうゆうもいおなちゃんも元気!』
「そっか。それならよかった」
ふと画面を操作していると、『WorldTrip』のアイコンが、私をタップしろと言わんばかりに光っている。
一体何事だろうと押してみると、いつも通りの画面と一緒にもう一つ、タブのようなものが増えていた。
「……あれ?画面増えてね?」
『ほ、本当だね!なんだろうこれ……?』
流石のラブリーも知らない機能のようで、一緒にタブを開いて確認してみる。
開くと中ではいくつかの紋章を模したようなアイコンが並んでおり、そのうちの12個のアイコンが金色の枠で輝いている。ちょうど『キラキラ☆プリキュアアラモード』の紋章の隣のアイコンから金枠がついていないようで、そのアイコンが赤く点滅している。
『このアイコンってなんだろう……?私たちの知らないプリキュアかな?』
「なんとなーくだけど、別の世界のプリキュアに何かあったのかな」
『ネオフュージョンも闇の使者もいないはずなのに……』
「どっちにしろ赤く光ってるってことは、その世界のプリキュア達だけじゃ解決できない何かが起きたってことだよね?それなら、助けに行こうよ」
『うん!……って、巡は大丈夫なの?』
「言ったでしょ?困ってる人は見逃せないって。……それに、ラブリー達と一緒だから怖くないし、みんなといるの楽しいなって」
『巡……!』
にっこりと笑う巡に、ラブリーは表情を明るくさせる。画面の外と画面の中で、互いの手と指を合わせてハイタッチをする。
元々は、彼女と彼女の友達を助けるためにプリキュアになった繋巡。そこから世界を元に戻すという大きな目標に繋がったのだが、それらを果たしたのならわざわざプリキュアを続けなくてもいい選択も取れたはず。
大変なこともあったが、世界を巡るたびに起こる出会いに胸を高ならせたのも事実。こうして彼女達と話すのも、一緒に何かをするのも楽しかったのも事実。
あの日々が、巡にとっていつの間にかかけがえのない大切な思い出となっていたのだ。
「これはあたしのわがまま。また一緒に、世界を巡ってみない?今度はみんなも誘ってさ」
『……!!うん!!』
早速巡は足元にワープホールを開き、ステフォンを握って飛び込む。
星の様な煌めきが、虹の様なゆらめきが、この世界との距離をどんどん遠ざけていく。出口は、すぐ近くに現れそうだ。
飛び出した先は、どこかの町のはるか上空。地上では、みたことのない怪物が暴れている。多分どこかのプリキュアシリーズの怪物なのだろう。
「ねえまたあたし空から落とされんの?」
『巡〜!相変わらずブレないよね!?』
「とりあえず、変身しようか」
普通の少女・繋巡と、壊れた世界のプリキュア達のお話は、これにて終幕。ネオフュージョンはもういない。あの世界は、心優しい騎士王の願い通りに、元の姿を取り戻した。
しかし、プリキュアの物語は、巡が巡る世界の物語は、これからもどこかで続いていく。
今彼女が巡っている世界で何が起こるかは、また別のお話……。
暴れ狂う怪物が、地上で戦う名を知らぬプリキュア達が、空から急降下してくる巡の姿に気づいて見上げる。巡は画面の中のラブリーと頷きステフォンを構えると、いつものようにあの合言葉を言い放つのだった。
「コンプリート・ステージON!」
おしまい
本編はこれにてお開き
ここまで読んでくれてありがとうございます
不定期に番外編とかを投稿していくと思いますので、これからも末長くよろしくお願いいたします。