PrecureStageON!   作:主氏レム

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基本的に2話で一つの世界でのお話が完結する形で構成しています。
今回はスマイル編の後半戦です。闇の使者とは一体誰でしょうね?


第3話:激突!コンプリートと…闇の使者?

 

 

 

 

 

 暖かな陽光が、木々を照らす。どこかの森の中のような空間だが、そこには所狭しと書架が並び、メルヘンな物語がたくさん並べられている。

 

 ここはふしぎ図書館。キュアハッピーこと、星空みゆきたちが暮らす人間の世界と、妖精の国メルヘンランドを結ぶ通路のような空間。

 その場所にある。大きな切り株のような、秘密基地の小さな家が建っている。

 

 建物の中では、6人の少女達が集まっている。

 

 

 

「……つまり、巡さんたちは先ほどのアカンベェに似た怪物を追って、別の世界からやってきたんですね」

「大体そんな感じかな。だよね、ラブリー」

『うん!な、なおちゃん、ちょっと、撫ですぎ』

「ああああごめんごめん!可愛くてつい……」

 

 

 

 青いプリキュアこと『青木れいか』が、巡やプロトラブリーが話した事情をとてもわかりやすくまとめた。プロトラブリーは、画面上でずっと撫でられている。

 

 ステフォンからの知らせを受けて『スマイルプリキュア!』の世界に飛び込んだ繋巡とプロトラブリーは、まずは異変を探すためにプリキュアを探していたのだが、明らかにネオフュージョンの欠片らしい怪物が現れ、キュアハッピー達スマイルプリキュアの面々と協力し合うことになった。

 お互いに自己紹介をした後に情報交換し、今に至ると言うわけだ。

 

 巡の考え通り、先ほど出現したアカンベェは初めてみるタイプだったようで、あまり詳しいことは聞けなかった。しかしこうして協力を仰げるのは大きな一歩だろう。

 

 

 

「ラブリーも大変だね。ネオフュージョンに狙われちゃうなんて…」

「そのネオフュージョンっちゅうやつの狙いもわからんのやろ?ホンマ厄介な奴やな!」

 

 

 

 オレンジのプリキュアこと『日野あかね』や黄色のプリキュアこと『黄瀬やよい』は、事情を聞いて狙われているプロトラブリーの心情に同情する。

 

 

 

『私自身も、記憶がないところがあるからあっているかはどうか分からないけど……きっと、あいつはステフォンの力を狙っているんだと思うの』

「ステフォンの力?それって、巡ちゃんをプリキュアに変身させた力を?」

 

 

 

 緑のプリキュアこと『緑川なお』がそう問いかけると、プロトラブリーは小さく頷く。

 

 

 

『ステフォンを使って色々な世界に行ったり、使っている人に力を与えたり色々……そのどれかに狙いがあるのか、それとも……』

「ステフォン自体の力全てを狙ってるとか、か……」

 

 

 

 巡は考える。これは、思っていた数倍以上大変なことになりそうだ。

 現段階ではネオフュージョン自体に出会ってはいないので、一体ステフォンの何が奴を駆立てているのかの、判断材料が少なすぎるのだ。

 もう一つある。ステフォンの力を狙っている理由はまあまあ察しはつくが、なぜプロトラブリーまで狙われなければならないのかもよく分かっていないのだ。単純にプロトラブリーがステフォンの中にいられると厄介だからと言うのもあるが……。まあ、推察だけで話を進めても良くはない。

 

 

 

 そして薄々ではあるが、巡はあることに気づいてしまった。

 

 

 

「あたしこれ、みゆきちゃん達までもがっつり巻き込まれてる感じがするんだよね」

「……へ?」

 

 

 

 ふと溢れた巡の呟きに、みゆきの少し気の抜けた声が応えた。

 

 

 

 

 

第3話:激突!コンプリートと…闇の使者?

 

 

 

 

 

「今なら、ラブリーがなんで巻き込まれることを恐れていたのかがわかる気がする。確かにこれはまずい」

「え、ど、どう言うこと?」

「要はステフォンあるところに、ネオフュージョンの何かしらが現れる。だから必然的に、こっちの世界のプリキュアもネオフュージョンの何かしらと関わるか狙われることになっちゃうのかなって」

『……ごめんね』

「いや、君が落ち込む必要はないよ」

 

 

 

 巡がわかりやすく説明したために、5人は納得せざるを得なかった。

 

 ステフォンが狙われる=そこにネオフュージョンの欠片が現れる=プリキュアも動く。それを言いたかったのだろう。さすがの巡も頭を抱えるしかない。

 どうやら巡たちは、かなり重たくて大きな渦の中に閉じ込められてしまったようだ。

 

 

 

「そ、そんなに気にしなくていいのに!」

「せやで!ウチらもバッドエンド王国の奴らに邪魔されることなんてしょっちゅうあることやしな!」

「あ、ありがとう……君たち優しいね……」

 

 

 

 しかしみゆきたちは、責めるどころか思い思いに言葉をかけて肩を落とす巡たちを励まそうとする。彼女達にとっては、本当に些細なことらしい。

 

 

 

「……ここまで声をかけてもらうと逆に何か申し訳ないから、巻き込んじゃう代わりと言ってはアレなだけど、君たちのことを手伝えるようなことがしたい」

「そこまで気にしなくても…!」

「そうだよ!困った時はお互い様ってよく言うじゃないか」

「いや、違うの……せめて、何かしてないとその、あまりにも……うーん……」

 

 

 

 ────みゆきちゃんにとどまらず、プリキュアってあまりにも優しすぎないか?優しい世界かな?もう少し強く言ってくれちゃってもいいんだよ!?

 プリキュアを詳しく知らない巡にとっては、自身の中の良心にチクチク突き刺さっているほどに、その優しさが沁みてしまう。多分、プリキュアの強さは何かベクトルが違うんだろうなと、考察する。

 

 

 

「巡さん。何かをすることであなたの気が済むと言うのなら……お願いしたいことがあるんです」

「……れいかちゃん?」

 

 

 

 巡の手をそっと重ねて、れいかが少し真剣な眼差しでこちらを見た。何をお願いされるのだろうと、巡も背筋を伸ばし、小さく息を飲み込んだ。

 

 

 

 果たして、巡に頼まれたお願いとは如何に……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「巡ー!この文法ってこれで合ってるんか?!」

「大丈夫だよ。過去形って、不規則動詞とかもあるから覚えるの大変だからね。やよいちゃんは大丈夫?なんとなくだけど、連立方程式の文章問題に手こづってそうな感じだったけど……」

「あのー、実は……」

「足利義満は金閣の人で、義政は銀閣?だったよねれいか」

「ええ。この範囲はしっかり覚えたみたいね」

『わ、わぁ、中学の範囲だ……うぅ、過去のいやーな思い出が……』

「何その感想……もしかしてラブリーも勉強苦手勢だったりする?」

『あ、あははは……』

「というかみゆきちゃん、頭パンクしそうだけど大丈夫そ?」

「だ、大丈夫……これも赤点を取らないためだから……」

 

 

 

 れいかから巡へのお願い。それは、『分かる範囲でテスト勉強を一緒に見てほしい』というものだった。

 話を聞くに、れいか以外の4人が何かしらの苦手な教科で赤点を取りやすいようで。今回こそは赤点を回避したいために本日、みゆきから勉強会をしようという提案を出されて図書館で勉強していたらしい。

 

 

 

「よかった、今勉強してる範囲で」

「もしかすると、巡ちゃんもテストが近いの?」

「中間テストだけどね」

 

 

 

 なおにそう聞かれて、そういえば自分も中間テストもあることを思い返す。

 巡の場合、普段からしっかりと勉強をしている方なので赤点を取るということはまずない。また、クラスメイトからも授業で分からないところがあると聞かれることもしばしばあるので、誰かに何かを教えることにも慣れている方だ。

 そういえば帯刀廻も理科系の科目が苦手で、中1の時も定期的に赤点をとって苦労していたことを思い出す。

 

 

 

「赤点取っちゃうと、部活入ってる人は補習で部活動の時間が削れちゃうから嫌だよね。それに、あたしのいる時期だと運動会もあるから、そっちの練習の時間も……ね」

「どこの世界でも補習は嫌ってのは共通認識みたいやな」

『た、確かに……』

「うわあ嫌な共通認識……でも、あたしは勉強、そんなに苦じゃないかな」

 

 

 

 そんなポジティブなことを告げる巡に、勉強苦手な一同はどうしてと言うようなきょとんとした顔をする。

 

 

 

「え、だって、自分の知らないことを知っていくのって楽しいじゃん。知識をつけると、これまで見ていた世界が広がって、少し違うふうに見えるというか……」

 

 

 

 

 

 これは幼い頃、両親に教えてもらったことだ。

 

 『知らないことを知っていけば、今まで見ていたものが違うふうに見えてちょっと面白くなる』

 

 まだ勉強に慣れなかった低学年の頃、諭された時に言われたことだ。この言葉のおかげで、今の自分は勉強を苦ではないと思えている節がある。

 

 言葉にすると難しいななんて言いながら、巡は貸してもらった白紙のノートを書き進める。

 

 

 

「……なんだか巡ちゃん、先生みたいだね」

「え?」

「でも、そう考えてみると、苦手な勉強も少しだけ楽しいって思えるかも!」

『うんうん!気持ちもちょっと楽かもしれない!』

 

 

 

 すぐにいつもの笑顔を取り戻したみゆきにキラキラとした目で返され、おまけにプロトラブリーにまでニッコリ顔で、今度は巡がきょとんとする番だった。

 あたしはただ、自分の親の受け売りをしただけなんだけどとは言わなかったが、少しだけ秘密基地内の空気が軽くなった気がする。

 

 

 

「よーし!もう少し頑張るぞー!」

『おー!』

 

 

 

 いつの間にか、れいかや巡よりもやる気満々に、課題をやり進めている。負けられないなと思いながら、巡も帰ったらテスト勉強を頑張ろうと決意するのだった。

 

 

 

 

 

「め、巡ちゃ〜ん!気合い入れたのはいいけど、これどうやって解けばいいと思う!?」

「ちょっと待ってねみゆきちゃん」

 

 

 

 ……分かってはいたが、やる気だけでも解決しないことはたくさんあるのだ。例えば、本人が苦手としている教科の、どうしてもやり方が分からない問題だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アカンベェェェ!!』

「暴れるのはまだ待ってね。あの子達が来てないんだから」

 

 

 

 七色ヶ丘市のとある河川敷。ちょうど巡がこの世界に来たときに降り立った場所の近く。

 ネオフュージョンの欠片らしき怪物と、それの上に腰を下ろす黒い少女が、誰かを待っている。

 

 

 

「うーん、でもそろそろ来る頃かな〜どうかな〜?こっちから呼んでみちゃおっかな〜」

『アッ、アッ、アカッ!?』

 

 

 

 少女はどこか楽しげな声で、されどどこか待ちくたびれた様子で、足をぶらぶらさせている。その足が怪物の顔に当たっていたそうだが、怪物は反抗することはできない。

 

 だって少女は、プリキュア同等かそれ以上の力を持っているのだ。少しでも反抗して怪我をさせれば、怪物の方が消されてしまう。

 

 

 

「ねえねえ、どう思う?やっぱり、ラブリーに気づいてもらった方がいいよね?」

 

 

 

 彼女の狙いはステフォンと、その中に宿るプロトラブリー。ネオフュージョンの手先のようだが、彼女が忠を尽くすのは奴ではない。奴と目的が大体同じだから、自分“達”は手を組んでいるだけでしかない。

 

 

 

「よーし、あたしが持ち主さんからステフォンを“取り戻して”みせるからね!」

 

 

 

 空が、再び黒い雲で覆われていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『────っ!!』

「ラブリー?」

 

 

 

 急遽開かれた勉強会の気分転換として、ふしぎ図書館から出てきた。瞬間、プロトラブリーの表情が険しくなるので思わず巡が顔を覗かせる。

 

 

 

「うわっ、さっきまで晴れとったのに……」

「一雨来そうですね……」

『違う!これ、ネオフュージョンの気配がする……!』

「え」

 

 

 

 彼女の言葉に、和やかな空気に緊張の糸が張り詰める。巡の予想通り、時間を置いて奴はまた現れたらしい。

 

 

 

「まさか、さっきのアカンベェが?!」

『うん!さっきと同じ気配!でも……誰か、別のもいる……』

「増えたってこと?」

「みんな!とにかく急ごう!」

 

 

 

 勉強後の気分転換は、プリキュアになって体でも動かしておけという、天からのお告げことにしておこう。6人は、ネオフュージョンの気配があった場所へと急ぐ。

 

 気配を辿って訪れたのは、巡が最初に降り立ったあの河川敷。そこに、先ほど戦って逃げられた、アカンベェの姿をしたネオフュージョンの欠片が待ち構えていた。

 

 

 

「あ!さっきのアカンベェだ!」

『やっぱり!』

「また狙ってきたのかな?明日また出直せばいいのに、結構しつこいね」

「巡お前、呑気って言われたことないか!?」

「去年幼馴染に、“超絶能天気”って言われたことならあるけど」

「うーんもっと酷い!」

 

 

 

 特に焦ること声を荒げることもなく、巡がいつも通りに話すもので、思わずあかねが突っ込む。

 まあ問題はそこではなく、まるでこちらが来るのを待っていたかのように現れていた怪物の方なのだが。

 

 

 

「あはは!待ってたよ、ステフォンの持ち主さん♪」

「……あれっ!?」

「今、アカンベェの上からみゆきちゃんの声が」

「でもみゆきちゃん、あたしの後ろにいるよ。何が起こってるの」

「あ、貴方は一体……!?」

 

 

 

 アカンベェの上に乗っかっていた少女が、ふわりと6人の前に着地する。

 その姿に、6人は驚きの声を上げる。

 

 

 

 

 

「あ、あ……!?」

「あれ〜?もしかしてあかねちゃん達もいるんだ〜!やっほーあかねちゃーん!」

 

 

 

 そのコスチュームやアクセサリーは黒一色で、リボンの飾りやピアスが紅いクリスタルであること以外を除けば、ほぼ彼女と瓜二つ。

 鮮やかで光が入らない紅の瞳は、呆気に取られる6人をしっかりと映している。

 

 

 

 

 

「な、なんであたしがいるの〜っ!?」

 

 

 

 現れた少女は、黒いキュアハッピーだった。

 

 

 

「……驚いちゃった?」

「な、なんでハッピーが増えてんねん!」

『……まさか、別の世界のハッピー?』

「べ、別の世界の!?悪い奴になってるけど!?」

「いや見た目だけかも……」

 

 

 

 プロトラブリーも初見のようだが、別の世界のハッピーだと言うことを見抜いたようだ。彼女の声が聞こえたのか、黒いハッピーは巡の方を向いた。

 

 

 

「ねえねえ、君がステフォンの持ち主さんだよね!」

「え、そ、そうだけど」

「よかった〜!あたしね、ある人に頼まれて、ステフォンとラブリーを探してたの!」

「!」

『わ、私を……?』

「うん、そうだよ!ずっと探してたんだよね」

 

 

 

 どうやら目的はネオフュージョン同様、ステフォンとプロトラブリーのようだ。黒いハッピーは巡の方に近づいてくる。巡は何か妙に嫌な気配を感じて、一歩下がる。

 

 

 

「悪いことは言わないからさ、それ、あたしに渡してくれないかな?」

「……!」

「こんな強い力を、何も関係ない君が持ってても危ないでしょ?悪用されちゃっても困るし」

「へ、へぇ、結構ちゃんとしたこと言うんだ……ラブリー、黒いハッピーと知り合い?」

『わ、わからない……黒いハッピーは知らないかな……』

「そう……残念だけど、君とは知り合いじゃあないみたい」

「え、えぇ〜!?酷いよラブリー!あたしのこと忘れちゃったの〜!?」

 

 

 

 向こうはラブリーの知り合いのようだが、当のラブリーはなんのこっちゃと困惑する始末。むしろ馴れ馴れしく話しかけられて、ちょっと嫌がっているようにも見える。彼女の消えた記憶の何処かにいるという可能性はあるが、今のところ、黒いハッピーの方の方は怪しくてステフォンを簡単に渡せそうもない。

 確かにステフォンは巡にプリキュアの力を与えてくれるが、結局は使い方を間違えなければいい話だ。

 

 

 

「もし……もし渡さなかったら、どうするの?」

「ご、ごほん…渡さなかったら〜、あたしとアカンベェで、気合いで取り返しちゃうよ〜?」

「気合い、ねえ……」

 

 

 

 要は戦闘になることも厭わないと、言いたいのだろう。

 

 

 

「な、何が何だかわからないけど……ラブリーが嫌がってるのに無理やり取ろうとするのは、あんまり良くないと思う!」

「みゆきちゃん」

「……」

 

 

 

 巡の後ろにいたみゆきが、一歩前に出てそう宣言する。黒いハッピーは少し驚いた顔をするが、どこか苦い表情を浮かべる。

 

 

 

「そもそもアカンベェと一緒にいる時点で、黒い方のハッピーの怪しさが満開やぞ!」

「もしかして、答えに関係なく無理やり取ろうとしてたのかも……」

「巡ちゃん、大丈夫だよ」

「あなたがその力を良からぬことに使うような人とは、とても思えないのです」

『みんな……』

 

 

 

 他の4人も、巡たちを庇うように前に立つ。

 

 彼女達は知っている。初めてあのアカンベェと対峙した時に助けてくれた彼女を、短い期間だが楽しく話しながら勉強を見てくれた彼女を、学ぶことの楽しさを知っている彼女を知っている。

 

 たったこれだけの理由かつ、一緒に過ごした時間はあまりにも短い。しかし、それだけでも彼女の人の良さは十分に伝わっている。

 

 

 

「……やっぱり君たち優しいね」

 

 

 

 おそらくだが、あの黒いハッピーはネオフュージョンの手下か何かなのかもしれない。ステフォンを狙っているのはおそらく奴の思惑か。

 守られてばかりでいられるかとでもいいたげに、巡も一歩前に出る。

 

 

 

「忠告ありがとう。たとえ君がラブリーの知り合い(仮)でも怪しすぎて、ステフォンもラブリーも簡単には渡せないかな」

「知り合い(仮)じゃないんだってば〜!も〜、自分はともかくあかねちゃんたちとは戦いづらいのに〜。……う〜、腹を括れあたし、こうなることは分かってたんだから」

 

 

 

 黒いハッピーはうーうー唸りながら一人何かをぶつぶつ呟いてしゃがみ込むが、気合を入れ直してすぐに立ち上がる。

 

 

 

「あたしは“闇の使者”ダークネスハッピー!ステフォンとラブリーのためなら、頑張って戦っちゃうもんね!」

『アカンベェェェェ!!!』

「あ、怪物さんはあかねちゃんたちの相手をしててね!」

 

 

 

 そう名乗りあげた黒いキュアハッピー────ダークネスハッピーは、アカンベェと共に動き出す。

 

 

 

「巡ちゃん!みんな!」

「ラブリー、行くよ!」

 

 

 

 みゆきたち5人はスマイルパクトを、巡はステフォンを構える。

 

 

 

 

 

『プリキュア・スマイルチャージッ!』

「コンプリート・ステージONッ!」

 

 

 

 光に包まれた彼女達の姿が、プリキュアの姿へと変わっていく。

 

 

 

 

 

「キラキラ輝く未来の光!キュアハッピー!」

「太陽サンサン熱血パワー!キュアサニー!」

「ピカピカぴかりんじゃんけんポン♪キュアピース!」

「勇気リンリン直球勝負!キュアマーチ!」

「しんしんと降りつもる清き心!キュアビューティ!」

 

『5つの光が導く未来!輝け!スマイルプリキュア!』

 

 

 

「現となりし、12の魂!キュアコンプリート!」

 

 

 

 

 

「……あたしも何か決め台詞、考えとこうかな」

『そんな呑気な!!』

 

 

 巡もとい、コンプリートはカッコよく名乗りを上げた後、少し考える素振りで呟く。そんなことを呑気にしている場合ではない。

 

 

 

『アカンベェ!!』

「来るよ!……うわっ?!」

 

 

 

 プリキュア達を襲い掛かろうとする怪物よりも先に、ダークネスハッピーはその背に黒い翼のような形のエネルギーを纏って、コンプリート達の方に突撃してきたのだ。

 

 

 

「えぇぇぇいっ!」

 

 

 

 6人が飛び避けた瞬間、黒いあの子はさっきまでいた地面に脚が突き刺さる。土煙が治れば、その場所は小さく抉れて土の色が見えていた。

 

 

 

「うわあ、あんな威力のキックが入ったら、間違いなく痛いだろうね」

「コンプリート狙われてるけど!」

「避けないでよ〜!」

「避けるでしょこれは、おっと」

 

 

 

 ダークネスハッピーは、そのままコンプリートを狙って追いかけっこになり、時折拳やら蹴りやらを攻撃として繰り出していく。コンプリートはそれら全てを避けているようだが、時折スレスレになって掠りそうになっているあたり、まだまだプリキュアとしての大きな力を使いこなしている……と言うわけではないらしい。

 

 

 

「コンプリート!今助けに……うわわっ!?」

『アカンベェェェ!!!』

「アカンベェが邪魔をして、全然近づかせてくれない!」

 

 

 

 ハッピー達スマイルプリキュアの面々も、コンプリートを助けるために参戦しようとするが、アカンベェの姿をしたネオフュージョンの欠片が間に割り込み、その先へ行かせてくれない。

 

 

 

「このままじゃコンプリートが!」

「あたしは大丈夫だから!先に怪物をぉぉおっとっと」

『前を見て前!』

「あたしが言うのもあれだけど、ちゃんとこっちにも集中してよね!」

 

 

 

 今のところは綺麗にかわしているようだが、時折拳が当たりそうになってよろけていたりと、若干危なっかしい。まるで大きな力を制御しきれずに振り回されているようにも見える。

 とうとう足元の石ころに気付けずに踏んづけ、コンプリートは尻餅をついてしまう。

 

 

 

「うーん、もう少し慣れが必要かな」

「チャーンス!」

 

『CureWeapon!Lovely!』

 

 

 

 ダークネスハッピーの突撃を喰らいそうになるが、危機を感じたプロトラブリーがキュアウェポンとしてステフォンの外に現れ、エネルギー弾を数発放って彼女の軌道を反らす。

 

 

 

「あ、ありがとうラブリー。助かったよ」

『ううん、お互い様だよ!立てる?』

 

 

 

 キュアウェポンの姿から元の二頭身の小さな姿に戻ったプロトラブリーに手を差し伸べられる。君って一応ステフォンの出入りは自由なんだねとどこかで思いながら、その手を優しく取り、すっと立ち上がる。

 

 

 

『このままじゃ、反撃もできないね…ハッピー達のところにも行きたいのに…』

「……それなら、先に怪物の方を片付けちゃおうか」

 

 

 

 そう言って、コンプリートはプロトラブリーを連れて怪物と戦うプリキュア達の方に戻っていく。背中を見せる彼女を追って、ダークネスハッピーも黒い光を纏って追いかける。

 

 

 

「みんな!」

「コンプリート!戻ってきたんだね!」

 

 

 

 一方、怪物と戦っていたハッピー達は、ダークネスハッピーに追いかけられて遠くの方まで走って行ったコンプリートの姿が見えてきた。相変わらず、まだ彼女にしつこく追われているようだ。

 

 

 

「みんな!怪物をなんでもいいからこっちの“射線”に入れて!」

「お、おう!なんでもええんやな!?」

「うん!ドカンと一発強いの!」

「それなら!」

 

 

 

 どうやらコンプリートには何か策が思いついたようだ。それに気付いたのか、サニーとマーチが技を構える。

 

 

 

「プリキュア・サニーファイヤーッ!!」

「プリキュア・マーチシュートッ!!」

 

 

 

 炎と風のボールが、うねりを上げながら怪物の巨体を押し出すように衝突する。怪物はその衝撃で、コンプリートの前に吹っ飛ばされる。

 しかし怪物もそれくらいでは怯まないようで、目の前に現れたコンプリートに向かって、その大きな拳を叩き込もうとする。

 

 

 

「させない!プリキュア・ピースサンダーッ!!」

「プリキュア・ビューティブリザードッ!!」

 

 

 

 ピースの轟く雷撃が、ビューティの凍える吹雪が、怪物の動きを鈍らせる。しばらくは電撃による痺れと氷による凍結で、思うように体を動かせないだろう。

 

 

 

「あ、ねえ!君も前向いてないと危ないよ!」

「……え?え、え、えぇぇぇぇ!?」

『アカンベェェッ!?』

 

 

 

 コンプリートの緩い忠告も虚しく、黒い光を纏ったまま突進しようとしたダークネスハッピーは、目の前で怯んで動けない怪物に勢いよく頭突きをかましてしまった。相当な一撃だっただろう。怪物は涙目で相当痛がっている。

 

 

 

「今ならいけるよ、ハッピー!」

「うん!こっちも気合い入れるぞ〜!プリキュア・ハッピーシャワーッ!!」

 

 

 

 ハッピーの両手から放たれた桃色の光のシャワーが、今度こそ怪物の巨体を飲み込んだ。動きを止められ会心の一撃をもらった怪物はなす術なく、元の形を保てず黒い液状となって消滅していった。

 

 

 

「やった〜!」

「まずは怪物。あとは……ええっと……大丈夫?」

「相当よくぶつけたような音がしたけど……」

 

 

 

 怪物の脅威はなくなり、残るはダークネスハッピーだけとなる。当の本人は思いっきり怪物にぶつかって地面に頭を抱えて倒れているが。こちらも相当痛かったのだろう。今まで追いかけられていたコンプリートも流石に心配になって駆け寄ろうとするが、彼女はすぐに立ち上がった。

 

 

 

「いった〜い!!うぅ、ひどい……」

「あー、ごめんね?悪気はなかったの、あの怪物をなんとかするためで」

「こ、こうなったら……!気合いだ気合いだ気合いだぁっ!!」

 

 

 

 コンプリートの軽い謝罪を遮って、ダークネスハッピーは目の前の自分がよくやっているようなやり方で、自信を鼓舞する。すると、その体からは真っ黒な光が溢れ出してくる。……光というよりも、闇の方が近いのだろう。先ほどよりも緊張感が増したような気がする。

 そして、その状態でコンプリートの方に突撃し、攻撃を繰り出す。

 

 

 

「……っ!やっぱり怪物を壁にしたの怒ってらっしゃる?」

『それよりも気をつけて!さっきよりも強くなってる!』

「はぁぁぁっ!!」

「う」

 

 

 

 ダークネスハッピーのはなった蹴りを避けきれず、両腕を盾に受け止めるが、その力を分散しきれず地面に吹き飛ばされてしまう。

 吹き飛ばされてもすぐに体勢を整え、展開したショットガンを片手に光のエネルギー弾を放つ。しかし、それらは避けられるか弾き飛ばされてしまう。火力不足らしい。

 

 

 

「さ、流石にまずいかも」

「コンプリート、早くステフォンを渡さないと……!」

「それだけは絶対に嫌だよ……っうわ!」

 

 

 

 頑なにステフォンを渡そうとしないコンプリートに苛立ち、先ほどよりも威力の増した蹴りがコンプリートを襲う。直撃は免れたものの、再び地面に伏してしまう。

 

 

 

(うぅ……さっきまでとは全然威力が違う……!ラブリーの力でも弾かれちゃうなんて……。せめて、さっきの怪物みたいに、氷とかそういうので動きを一時的に止めることができれば……!)

 

 

 

 何か、何か打つ手はないのか。ここまで来て折れてステフォンを渡すなんてことは、絶対にできない。

 

 

 

「大丈夫、ラブリー。君のことはちゃんと守るから……」

『コンプリート……!』

 

 

 

 その時だ。

 

 

 

「……っ!」

「パクトが……!」

 

 

 

 コンプリートとダークネスハッピーの戦いの間に入ってコンプリートを助けに行きたいが、その隙すら与えてくれないプリキュア達。

 ハッピー以外の4人の『スマイルパクト』から、コンプリートに共鳴して淡い光を放ったのだ。光はそれぞれの色の玉となって、コンプリートの持つステフォンの方へと吸い込まれていく。

 

 

 

「……!何?」

『サニー達の力が……ステフォンの中に……?もしかして!』

 

 

 

 

 

『PowerCharge!Sunny!』

 

 

 

 コンプリートが手に持つラブリーショットガンに、オレンジ色の光が灯る。試しにその引き金を引けば、銃口からはエネルギー弾……ではなく、炎を纏った光のボールが勢いよく放たれる。流石に炎のボールまでは弾けないようで、ダークネスハッピーは驚いて避ける。

 

 

 

「え、銃口からサニーファイヤー放たれたけど……もしかして、さっきの光は、彼女達の力?」

『やっぱり!コンプリート!これなら止められるかも!』

「……何が起きたかはともかく、それで行こう!」

 

 

 

 何かの糸口を掴んだのか、コンプリートはすぐに立ち上がり、強化された跳躍力で飛び上がる。一回のジャンプでダークネスハッピーの頭上を超え、彼女の背後に回る。

 

 

 

『PowerCharge!Peace!』

 

「サニーが炎なら、ピースは……」

 

 

 

 纏う光がオレンジから黄色に変わり、今度は電撃が四方八方に飛び出してくる。痺れるとどうなるかわかっているようで、距離を詰めようとする彼女の足止めになっているようだ。

 

 

 

『PowerCharge!March!』

 

「お次は……!」

 

 

 

 光は緑へと変化する。放たれたのは風を纏った光のボールで、電撃を全て避けたダークネスハッピーの体スレスレを通り抜け、彼女をよろけさせる。

 

 

 

「そしてこれで……!」

 

『PowerCharge!Beauty』

 

 

 

青い光を纏った銃口からは、光の吹雪がキラキラと放たれ、彼女の足元ごと地面を凍らせた、

 

 

 

「しまっ……!!」

「す、すごい!」

「さて……ハッピーじゃないけど、あたしも気合いを入れて決めさせてもらうよ!」

 

 

 

 ラブリーショットガンを戻したコンプリートの両手に、桃色の光のエネルギーが集まる。

 

 

 

「足だけ止めても意味ないよ!あたしだって放てるもん」

「おっとマジか……それなら受けてたつよ!」

 

 

 

 ダークネスハッピーの両手にも、黒い闇のエネルギーが集まりだす。お互いに技を決めて決着をつけるつもりだ。

 

 

 

「プリキュア・ポップンロケットシャワーッ!!」

「ダークネス・ハッピーシャワーッ!!」

 

 

 

 無数のハートの激流と、黒い光の無慈悲な光が同時に放たれ、光を散らしながらぶつかり合う。

 ダークネスハッピーは脚を氷で固められて固定砲台のように安定している分、なんの押さえもないコンプリートはその威力に後ろに押されそうになる。

 

 

 

「うぅ……やっぱりすごい……!!」

「あたしだって、あなたに負けられない理由があるの……っ!!」

「それ、でも……あたしは……!」

 

 

 

 押し通されそうなコンプリートの背中を、ハッピー達が支える。

 彼女には、「ステフォンとラブリーが欲しい」という理由があって、こちらと戦わざるを得ないのだろう。向こうがどんなに負けたくない理由があろうと、自分にも譲りたくない理由があるのだ。

 

 

 

「あたしは……ステフォンも、ラブリーも、渡せないんだ……っ!」

 

 

 

 コンプリートが一歩踏みだす。瞬間、劣勢になっていたコンプリートが押し返す。

 無数のハートの激流は、ダークネス・ハッピーシャワーすら包み込んで、ダークネスハッピーを飲み込んでしまった。

 

 

 

「うわぁっ!!」

 

 

 

 怪物とは違い、彼女は完全に浄化されて消滅はしなかった。しかし、先ほどまで体から溢れ出ていた闇の力は弱まり、少し疲れた様子でダークネスハッピーは解放される。

 そんな彼女の胸の紅いクリスタルから、桃色の光が飛び出して、コンプリートの手の中にゆっくりと飛んでいく。

 

 

 

「の、残った……?もしかして、完全には消えない感じの方?」

「う、うぅ……はっぷっぷー……」

 

 

 

 ぺたんと座り込んでしまっていたダークネスハッピーは、少しよろけながらも立ち上がる。

 

 

 

「きょ……今日のところは見逃してあげるからね!と、とにかく早くみんなにも言わないと……!」

「え、ええ……?あ、ああ、ちょっと待って!」

 

 

 

 少しコミカルであまり憎めないタイプの敵役よろしくな捨て台詞を吐いて、ダークネスハッピーはどこかへ逃げ帰ってしまった。

 

 

 

「……な、なんやったんやあいつ」

「なんというか…」

「割とハッピーっぽかったような……」

「どことなくハッピーに似ているような気がするのは気のせいでしょうか?」

「え、あたしってあんな感じなの?!」

「「「「……」」」」

「な、何か言ってよみんな〜!」

 

 

 

「……これ、ダークネスの方のハッピーから飛び出してきたのだけど……」

『ハッピーの力を感じるような……?』

 

 

 

 コンプリートの手の中には、あの小さな光の玉。

 ふわふわと浮かんでいるそれは、ステフォンの画面の中に吸い込まれていった。

 

 

 

「……え?」

 

 

 

 

 

 その瞬間、ステフォンからは白い光が溢れ出し、コンプリートの視界を白く塗りつぶしてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え?」

 

 

 

 ステフォンから溢れた白い光が収まると、コンプリートはあの河川敷とはまた違った世界に飛ばされていた。

 手元にあったはずのステフォンが、いつの間にか消えている。

 

 体は、動かせない。しかし、顔だけはなんとか動かせるようで、うまいこと周りの景色を見回してみる。

 

 全てが灰色で構成された、砂と岩石と地層だらけの荒野。空すらも黒く厚い雲に覆われて、その本来の色を見失ってしまっている。

 

 

 

「ここは……あれ?なんかどこかで」

 

 

 

 そういえば、こんな世界を夢の中で見たような……。ほんの少しだけ、今朝の夢の光景がぼんやりと目に浮かんでくる。

 彼女の背後には、大きな水晶の柱。12本あるうちの1本の近くに、コンプリートは立っていたらしい。その水晶の柱の中には、一人の少女が閉じ込められ眠っていた。

 

 

 

「……ハッピーだ」

 

 

 

 そう。キュアハッピーが、その中で眠っていたのだ。

 

 さっきまで対峙していたダークネスの方のハッピーでも、一緒にいたハッピーではないのは流石に分かる。きっと、この世界におけるキュアハッピーなのだろう。

 よく分かるのだが、何故ここで閉じ込められて眠っているのだろうか?

 

 コンプリートがその柱を見上げていると、水晶の柱は突如淡く優しい桃色の光を放ち、光は厚い雲が覆う天へと伸びていく。

 

 空からひらひらと、真っ白でふわふわな羽が降ってくる。どこからか、小鳥の囀りが聞こえてくる。

 

 

 

「ほら!あの光だよ!」

「あの子の言うとおり、ステフォンが誰かの手に渡ったんだ!」

「とにかく急ぎましょう!」

「おーい!誰かおるかー?」

「……え?」

 

 

 

 聞き覚えのある声が聞こえて振り向けば、水晶の中のハッピーを除いた、4人のプリキュア達がこちらに近づいてくる。その4人はどう見てもさっきまで一緒にいた彼女達で、困惑と驚きでコンプリートは呆気に取られる。

 

 

 

「さ、サニー?それに、みんな?え……?え?」

「あー……多分だけど、君が知ってる世界の方じゃないよ。アタシたちは」

「いや、それは分かるんだけど……あの…」

 

 

 

 マーチの言っていることはわかっている。あの水晶の中のハッピーの時点で、違う世界のプリキュアなんだろうなと言うのは薄々察している。コンプリートが困惑している箇所はそこではない。

 

 

 

「あたしの目が間違ってなかったらなんだけど……半透明、だよね、君たち……幽霊か何か?」

「こ、これには色々訳があってな!」

「訳?何があったの」

 

 

 

 コンプリートの前に現れた4人の体は、透けているのだ。まるで幽霊のように。

 まあ、幽霊が出るアニメや漫画はたくさんあるのでそれで慣れているのだが……。それはそれとして、どうしてこうなったと言う感想しか出てこないのだが。

 

 ぼんやりと、少しずつ、視界が白く染まっていく。周りの景色が淡く揺らいでいく。意識が、元の場所に引き戻されようとしている。

 

 

 

「あ、れ……目の前が……」

「……今はゆっくりできる時間はなさそうですね」

「なあ!大事なことだけ言うから覚えとくんやぞ!」

「だ、大事なこと?待って、何も見えなく……」

 

 

 

 

 

 ────あんたが持ってるステフォンに、ラブリーの友達を集めるんや!

 

 

 

 サニーの声を最後に、コンプリートの視界は完全に明転してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ト!コンプリート!」

『し、しっかりしてコンプリート!』

「……!!」

 

 

 

 ハッピーやプロトラブリーの呼びかけが聞こえて、ようやくコンプリートの意識が元の七色ヶ丘のさっきの場所に戻ってきた。

 見回してもあの灰色の世界も、水晶の柱も、サニー達らしき幽霊的な存在も、どこにもいない。あれは夢だったのだろうか。随分と、現実味を帯びた夢だった気がする。

 

 

 

「……あれ?」

「あんた、急にガクッて首が下向いて、気を失ってたみたいやで」

「気を、失ってた……そ、そうだ。ステフォン」

『こ、コンプリート!見て!』

「……あ」

 

 

 

 プロトラブリーに促され、光が吸い込まれた後のステフォンの画面を覗く。

 

 画面上にいたのはラブリーともう一人。彼女と同じように猫耳と二頭身の精霊のキュアハッピー────プロトハッピーが増えていたのだ。

 彼女の方はまだ眠っているのか、瞼を閉じている。今はそっとしておいたほうがいいだろう。

 

 

 

「……もしかして、これにて一件落着?」

「まあ、逃げられちゃったけど……それでも、ネオフュージョンの魔の手?は追い払えたってことでいいんだよね」

『うん。しばらくはあいつもこの世界にちょっかいは出さないと思う!』

 

 

 

 プロトラブリーの言葉に、コンプリートはほっと一息ついた。なんとかなったのはきっと、みゆきたちスマイルプリキュアのみんなのおかげだ。

 

 

 

「改めて、みんなのおかげで助けられちゃった。ありがとう」

「ううん。助かったのはあたし達の方もだよ!」

 

 

 

 ネオフュージョンの脅威が去った今、この世界に長居する理由は無くなった。

 別れ際、巡はみゆきと握手を交わす。この世界に来ることはほとんどないだろうけど、きっと、またいつか会えると信じて。

 

 

 

「君らもテスト頑張るんだよ〜」

「うぅ、忘れてたけど頑張る!」

 

 

 

 そうして、巡たちはワープホールを超えて、この世界から立ち去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<巡の世界 心野宮・私立光星中学校>

 

 

 

 

 

「ふぅ……時間が変わらないのは本当に便利だね」

[なんとか生徒会活動には間に合いそうだね!]

「……ハッピーの方は?」

[眠ってるよ、ぐっすり。幸せそう]

「うーん、ちょっと心配はしたけどその調子だと本当に寝てるだけみたいだね」

 

 

 

 元の世界に戻ってきた巡は、ひとまず生徒会室の方へ向かう。ステフォンの中のプロトハッピーはまだ目覚めない。おそらく疲れてるだけなのだろう。

 

 そもそも一体なんの原理でプロトなプリキュアがこうして生まれてしまったのかが謎だが、闇の使者から出てきたのだから、何かしらの核的なものなのだろうか。

 そうだとしたら、あのダークネスハッピーなる少女も動けなくなっていそうだが……?それに関しては、彼女が起きてから聞いたほうがいいのだろう。

 

 

 

「あれ?帯刀君」

「……お、おぅ、繋か」

「今から部活?」

「まあな。お前も生徒会か?」

「そうなの」

 

 

 

 廊下を歩いている途中、これから部活に行くのだろう帯刀廻と遭遇する。ふと、今朝彼は自分にチラシを見せて何か言おうとしていたのではないかと思い出す。

 

 

 

「そういえば帯刀君、今朝何かあたしに……」

「あ、ああ、あれか……」

 

 

 

 彼は早る気持ちを巡に見せないように、平常心で今朝見せたスイーツカフェのチラシを取り出しみせる。

 

 

 

「こ、今度の週末、予定が空いてるなら、その……」

「今週?特に用事はないけど」

「な、なら、その……俺も気になっててよ……一人で入るの、ちょっときついから、一緒に来てくれねえか……?」

「え、あたしでいいのそれ。確かに帯刀君が割と甘党ってことは知ってるけど……」

「あ、ああ……」

 

 

 

 ほんのり赤く染まる頬を隠しながら、廻は巡にそう告げる。16時半前の西陽が、廊下の窓から差し込んで二人を照らす。相変わらず巡は、その意図がなんなのかは気づいていない。

 

 

 

「わかった。今週末ね」

「……!いいのか」

「あたしもちょっと行ってみたいなって思ってたし」

「あ、ああ……じゃあ、後で個チャでいつ行きてえか教えろよ」

「はーい」

 

 

 

 そうぶっきらぼうに行って、巡と別れた。

 そういえばと、巡はもう一つ思い出したことがあって廻を呼び止めた。

 

 

 

「今度の中間、理科で赤点取った理由がスイーツカフェとかにしないでね」

「う、うるせえ」

 

 

 

 余計なこと思い出させんなとでもいいたげに、廻はそそくさと階段の方へ向かっていった。その様子がなんだか面白くて、彼の背中に巡は笑みをこぼしつつ生徒会室の方へと歩みを進めた。

 

 

 

 

 

『え……えぇ〜……!これって、すっごくラブじゃん!!』

 

 

 

 鞄の中から一部始終を耳にしていたプロトラブリーは、ステフォンの音声が誰にも聞こえていない状態なのをいいことに、そのキュンキュンな青春の1ページ?のような光景に胸を躍らせていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえりハッピー!……って、どうしたの!?」

「あー、ちょっと色々あってね……」

「とりあえずお菓子食べなよ」

 

 

 

 どこかの世界の、赤い月が照らす漆黒の城のとある一室。

 コンプリートの決め技を決められて、若干お疲れな様子でダークネスハッピーが戻ってくる。

 

 

 

「コンプリートってあんなに強かったっけ……?あたしが久しぶりに見たからかなあ……?」

「ちなみにステフォンは……」

「持ってこれる訳ないよ〜!またドジしちゃったし、もうはっぷっぷーだよ」

「まあまあ。ドンマイだよ、ハッピー」

 

 

 

 むうと口を尖らせるダークネスハッピーに、黒いコスチュームの少女達が彼女を励まそうとする。

 

 

 

「笑顔じゃないと、ハッピーが逃げちゃうんじゃなかったっけ?」

「今はそれどころじゃないもーん」

「相当痛い目にあったんですね……」

「みんなも気をつけてね!」

「すごい、説得力が違う」

「あ、でもねでもね!ラブリーは元気そうだったよ!あたし達のことは覚えてないっぽいけど!」

「お、覚えてないの!?」

「やっぱり“あの時”のショックかな〜?」

「えー、なら次誰行く?じゃんけんで決めちゃう?」

 

 

 

 同年代なのだろう。少女達の会話は盛り上がる。

 やはり『ステフォン』と『キュアコンプリート』の話題のようだが、情報がさらに増えて会話がかなり続いている。

 

 

 

「……ところで、『ブラック』はまだ帰ってきてないの?」

「残念ながらその通り」

「ネオフュージョンのお使いかなあ。今回は随分と長いね」

「なんなら『ブルーム』と『ドリーム』も今外出中なんだよね」

「奴、本人たちがしたくないことでもさせてるんだろうなぁ……」

「もしくはブラックを呼び戻してるか」

 

 

 

 そして相変わらず、ネオフュージョンへの感情も反感が強い。

 

 

 

「人のこと言えないけど……二人とも方向音痴なところあるから、迷ってなければいいんだけど」

「いやあ……ブラック含めて、“今の”彼女達なら大丈夫じゃないですかね……」

「よーし!3人が帰ってくる前に、スイーツを作って待ってよう!」

「さんせーい」

「あ、待って〜あたしも〜!」

 

 

 

 一人の少女の呼びかけによって、彼女達の会話は一旦途切れる。

 

 

 

 

 

 彼女達は、闇の使者。

 

 ある目的で『ステフォン』と『プロトラブリー』を“取り戻す”ためにネオフュージョンと一時的に手を組んだ、どこかの世界にいる彼女達の姿をした、黒いプリキュア達である。

 

 

 

続く…

 




次回更新:4月20日(土)

だいたいこんな感じの流れで進んでいきます。来週をお楽しみに。
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